もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
ただ書いてたら、何だか原作より皆マイルド気味になってしまいました。まぁ、本ルートの四宮家はこんな感じって事でどうかご容赦を。
それと今回、本作オリジナルの設定や捏造が多数あります。あと一応オリキャラも。
どうか、ご注意下さいませ。
四宮家 本家
「……すまん親父。もう1度言ってくれ」
京都市内にある四宮家本家の大広間、そこには現在、四宮家当主 四宮雁庵と
その子供達、そして四宮家の側近が大勢集められていた。突然の当主の呼び出しだったのこうして全員集まっているのは、雁庵が当主命令を発令したからである。
もしこれに逆らうと、それだけで何をされるかわからない。故にこうして皆集まったのだが、その顔は一様に驚きに染まっている。
「四条家とは早急に和解する。そして和解後、俺は当主を引退して隠居する。その時は黄光、お前が新しい当主だ」
その原因は、突然雁庵が長年敵対してきた四条家と和解すると言い出した事だ。
ここで少し解説をしよう。
かぐやの同級生である眞妃の実家である四条家。実はここは元々、四宮家から追放されて集まった者が作った家である。
かつて四宮家では、利己的な戦略、人道に反する方針を取り、多くの人達を地獄へと落としてきた時代があった。
しかしそれに一部の穏健派が反発し、その結果内部抗争が勃発。死者まで出る程にその抗争は過激になり、最終的に穏健派は敗北し、四宮家を追放されたのだ。
その追放された穏健派が結託し、対四宮家として作り出したのが四条。そして両家は今も、お互いを憎み合いながら水面下で小競り合いをしている。このままでは、間違いなく大きな争いが起こるだろう。当然、四宮家も対四条の戦略をずっと取っている。そう簡単に四条にやられる訳にはいかないからだ。
しかし雁庵はその戦略を捨てて、長年敵対し、憎しみ合っている四条と和解をすると言い出している。こんな事言われて、驚かない四宮の者はいない。
「雲鷹や他の側近は、今後は黄光をサポートしながら支えてやってくれ。どうしようも無い時があった場合だけ、俺が手を貸そう」
「待て待て待て。俺が次の当主になる事にそこまで文句は無いが、いきなりそんな事言われても納得できねーよ。そもそも四条と和解なんて無理に決まってるだろ。何より四条の方が和解案を蹴り飛ばすだろうが」
その雁庵の案を、長男である黄光が否定しだす。未だに水面下でバチバチにやりあっているのだ。それに四条側には、内部抗争時代に死人も出ている。
そのせいで、四条の四宮に対する憎悪はかなり高い。今更こちらが和解をしようと言っても、簡単に納得なんてする訳が無いのである。
「そこは問題無い。そもそも四条家の現当主は四宮との全面戦争に意を唱えていた。話し合いで解決できるならそうしたいともな」
しかし雁庵、そんな事は織り込み済み。と言うのも、四宮を憎んでいるのは黄光より年上の年寄り達だ。
まだ若い現四条家当主は、親から四宮に対する憎しみを教わりはしているが、年寄り達程では無い。先ず彼と秘密裏に話し合いをし、その後彼に四条家内部を説得してもらえれば、四宮と四条が和解する事も夢ではないのだ。当然その時は、四宮家は全力で手助けをするつもりである。
「何で、今更なんだ…」
雁庵の和解案に、黄光が渋い顔をする。これまで、四条の妨害を何とかしたり、逆に四条に攻撃をしてきた雁庵が、いきなりの和解案。突然反対方向に舵を切ったのだ。困惑しない方が無理である。
「いい加減、この緊張状態を解きたいんだよ。そもそも四条と本格的な全面戦争になった時、どれだけ被害が出るか予測できん。最悪、日本経済が完全に停滞するぞ。そうなった時の経済的損失は、想像を絶する。そうならない為にも、今の内に四条と和解するんだ」
その懸念は、黄光にも確かにある。四宮家は日本の大動脈ともいえるくらい経済に影響を与えている。
そして四条家は、国外の経済にかなりの影響力を持っている。この2つの家が本気でぶつかったら、数万人のクビが飛ぶ程度では済まない。下手すると本当に、日本経済が崩壊するかもしれないのだ。
もしそうなれば、復讐だのなんだの言っている場合じゃない。そうなる前に、和解をする。それが雁庵の考えだ。
「かぐやの為か?」
「それもある」
しかし黄光、それだけでない事は理解できている。少し前から雁庵は、やたらとかぐやの事を気にするようになっていた。やれもっと一緒にいればよかっただの、ちゃんと話せばよかっただのと言って、常にかぐやの事ばかりを口にする。
今まで散々見向きもしなかったのに、いきなりかぐやの父親面。黄光も、雁庵のその様子に少し驚いていた。
「今更、あいつの父親面か?」
「そう言われも仕方ない事は、自覚している」
そもそもかぐやは、四宮家での立場があまり強くない。いくら才能があり頭がよくても、所詮は妾の子供と見下されてきた。せいぜい、秀知院卒業後にどこかの家に政略結婚をさせて嫁がせる程度の道具という価値。
実際四条との戦争に備えて、黄光はかぐやをどう使うか思案していた。それに雁庵も特に反対していなかったのに、この提案だ。こんなの、察せない方が可笑しい。
「だが、今だからこそ俺はちゃんとしたいんだ」
そう言う雁庵の顔は、依然と少し違う。具体的に言うと、憑き物が落ちたような顔をしていた。
別に雁庵がかぐやの父親である事は変わらないし、父親としてちゃんとしたいなら好きにすればいい。でも、ひとつ言いたい事が黄光にはあった。
「……俺が最初にしようとした結婚は、潰したくせにな」
黄光には若い頃、本気で好きになった人がいた。彼女と一緒になれるのなら、四宮家を捨ててもいと言っていた程、彼女を愛していた。
しかし、その想いは報われなかった。雁庵が2人の仲を切り裂いて、別の女性との婚姻を進めたからである。
「その件は本当にすまないと、今でも思っている。言い訳にしかならないが、あの時はどうしてもお前とあの家の娘との結婚が必要だったのだ」
雁庵も、あれは本気で悪いと思い、今では猛省している。愛し合っていた2人の切り離し、別の人間と勝手に婚約をさせたのだ。これに何も感じない程、雁庵の人間性は終わっていない。
「今更だが、本当にすまなかった、黄光」
「…別にいい。もう40年近く前の事だしな…つーか、それならそうとちゃんと言葉にして言えよ。あんな一方的に何も言わずに別れさせられたら、あんたに殺意のひとつやふたつ沸くぞ?」
「本当に、すまない…」
雁庵が頭を下げた事に少し驚いたが、あの父親が自分に頭を下げている光景を見れて満足したので、それ以上黄光は何も言わなかった。
というか、この家の家族はどいつもこいつもコミュニケーション不足が過ぎる。もっとちゃんと話し合っていれば、こんなにこじれたりもしなかっただろう。
「つーか、マジでどうして急になんだ?」
今度は、雲鷹が雁庵に話しかける。確かに四条との戦争は避けれるなら避けたいし、かぐやをおもんばかっての行動というのもわかる。でも、なんで今更急にそんな事をしてきたのかがわからない。何かきっかけがある筈だ。
「夢にな、名夜竹が出たんだ」
「あ?あの女が?」
「そしてボコボコにされた」
「は?」
そう答える雁庵の顔は、少し恐怖に染まっていた。
「実はな…」
―――――
『雁庵さん?私、ちゃんとあなたに言いましたよね?かぐやを頼むって』
『……はい』
『なのに、なんですかこれは?どうして生まれてからずっと、かぐやをほたっているのですか?
殆ど話す事も無く、一緒に食事もしない。抱っこしたのだって、最初の1度だけ。何ですかこれは?』
『いや、その…』
ゴッ
『お゛』
『おい答えろクソジジィ。一体どんな理由があって、私とお前の大事な娘を遠ざけてほたるんだ?今すぐ答えろ。もう1発、いや5発行くぞクソジジィ』
『すんません!マジですんません!!本当にごめんなさい!!あ!ちょ!やめて!!拳を振り上げないで!!』
※この後かぐやの歳にちなんで、17発殴られました。
―――――
「怖かった…キレてる名夜竹見たの初めてだけど、本当に怖かった…あんなに怖かったのは、昔戦時中に神戸で空襲にあった時以来だ…」
「えぇ…」
そう答える雁庵は、震えていた。本気で愛した女からボコボコにされるなんて、普通に怖い。そして夢の中で、雁庵は名夜竹とこれからは絶対にかぐやを大切にすると約束し、今に至る。
「とまぁ、そんな訳だ。納得したか雲鷹」
「まぁ…一応…」
オカルト過ぎてちょっと納得できない部分もあるが、嘘では無いらしいので信じる事にした。
「だが親父。和解するって言ってもどうするんだ?普通に話し合いで解決できるほど、四宮と四条の溝は浅くないぞ」
その時、黄光が声をあげる。雁庵は四条と和解すると言うが、それが簡単に進む訳無い。今まで散々敵対してきたのだ。普通に話し合いで解決なんて、絶対に無い。
「黄光兄、そこは丁度良い案がある。四条のガキと、かぐやを婚約させろ。それだけでこの件は一気に解決するぞ」
それに雲鷹が提案する。四条家には、かぐやと同い年の男子がいる。名前を、四条帝。秀知院学園に通う、四条眞妃の双子の弟である。スポーツ万能で、頭脳明晰。おまけに顔も良い。かぐやと見た目でも中身でも釣り合いが取れている。
もし彼とかぐやを今後の友好の証として婚約させれば、それだけ両家の関係も深くなる。それ以上、争いが起こる事も無いだろう。
「その段取りを、俺に任せてくれれば」
「ダメだ」
だがその提案は、雁庵が速攻で棄却する。
「それだけは何があろうと許さん。既に21世紀も数十年が過ぎているんだぞ?今更政略結婚なんて、時代錯誤が過ぎる」
「俺の時はしたくせに…」
「だからあれはマジでごめんって」
黄光の文句に、雁庵は直ぐ謝る。そして、かぐやに質問をした。
「そもそもだかぐや。お前は好きでも無い男と結婚したいか?」
「そんな訳ないじゃないですか。帝さんが良い人なのは知っていますが、彼と結婚したいとは全くこれっぽっちも思っておりません。そもそも数回しか顔を合わせていない人ですし」
帝はフラれた。
「それでいい。昔ならまだしも、今時好きでも無いのに結婚などすれば、碌な事にならんしな」
かぐやの答えを聞いて、雁庵は満足そうにする。そして集まった一同を見て、雁庵は宣言した。
「お前達に言っておく。もし俺の許可無くかぐやを誰かと結婚させようとしたら、俺がこの手で殺す。例え俺が死んでも、あの世から蘇ってでも必ず殺す。覚悟しておけ」
「ちっ。そーかよ」
こう言われてしまえば、流石に何も出来ない。今後はかぐやの事を、勝手に決める事も出来ない。この瞬間、かぐやは雁字搦めの四宮家から脱却できたと言えるだろう。
「じゃあ、実際どうするんだ?今やってる事業を折半とかくらいじゃ、四条は納得しねーだろ。そもそもいくら四条の現当主が争いを好んでいないとしても、他の年寄り連中はそうじゃねぇ。何か納得するだけの材料が無いと、話し合いにも応じてくれないぞ」
しかし結局、どうすれば四条と和解が出来るというのか。その質問に、雁庵は答える。
「大掃除をする」
「は?」
「四宮家は、かつての四宮家とは違うと四条にわからせる。その為に、今まで四宮家で好き勝手してきた奴らを纏めて一掃する。それで四宮家は生まれ変わったと四条に思わせる。ま、言ってしまえば人柱だな」
要するに、四宮に溜まっている恨みの元である膿を全て出すのだ。四宮家は、今まで散々後ろめたい事をやってきた。そういった事をしてきた連中を纏めて掃除し、そいつらに四条の恨みをかぶせ、四条家との和解に臨む。
今までずっと好き勝手してきた連中だ。ここでそういった報いを受けても、罰は当たらない。むしろ四宮家に対する、最後の孝行になるだろう。
「そして向こうの要求は、可能な限り全て飲む。仮に四宮家が所有している財産を半分よこせと言われたら、渡そう。今所有している会社の経営権が欲しいと言えば、くれてやろう。兎に角、四条の要求をとことん飲む。そうすれば、向こうも和解に乗ってくるだろう」
勿論、どうしても譲れない事までは譲らない。例えば、かぐやの事とかだ。でもそれ以外の要求は、とことん飲む。その結果貧乏暮らしになっても、一切文句は言わない。
そしてその一連の流れを、雁庵はこう名付けた。
「名付けて、四宮家キレイキレイ大作戦だ」
雁庵の言った作戦名を聞いて全員ずっこけそうになるが、ここでそんな真似するのはキャラが違うと思ったので、全員必死に耐えた。
「なぁ、黄光兄。親父ってひょっとしてアホなのか?」
「違う。親父は昔からネーミングセンスだけはマジで酷かったんだよ…なんせかぐやの名前も、最初は愛理って書いてらぶりーって名前にしようとしていたしな」
「嘘でしょ…私それ初耳なんですけど…」
「お前の母親が全力で止めたんだよ…」
「お母さま本当にありがとう…!!」
黄光からの話を聞いて、かぐやは天国にいる母親に心から感謝する。
「んで?その人柱は誰にするんだ?ただの役員連中じゃ、向こうも納得しないだろ?」
雁庵の言う通り、仮に人柱を出しても、並みの幹部じゃ四条も納得なんてしない。所詮、トカゲの尻尾切りとしか思われないだろう。人柱にするのなら、相応の人物でないと効果は薄い。
「既に何人か見繕っている。どいつもこいつも、四宮家で重要なポストについている者ばかりだ。そして…」
雁庵はそう言うと、とある人物の方を向いて話しかける。
「青龍」
「っ!!」
それは、今日集まってからずっと黙り、一言も喋っていない四宮家次男の四宮青龍だった。
「これまで長い間、お前の不始末を散々庇ってきた。自分好みを女を自分勝手に孕ませた時も、成人もしていない女に手を出した時も、四宮家より格の落ちる家の娘を無理やり自分の物にして散々に嬲って飽きたら捨てた時も。それらの悪行、全てを金と権力で何とかしてきた」
四宮青龍は、兄黄光の機嫌を取る腰巾着で、相当な色情魔である。四宮家の経営に全く役に立っていないのに、その権力と金だけは好きに使う。今まで泣かせてきた女な数知れず、その度本家は金でその被害者達を黙らせてきた。
「だが、それもここまでだ。今まで全く四宮家の役に立てていないのだ。今回の件で、お前には人柱になってもらう。四宮家次男の首であれば、四条も納得するだろう。大役だ。最後くらい、この家の為になれ。言っておくが拒否権は無いぞ?」
四宮本家次男。
肩書だけ見れば、相当な物である。実像はただのおかざりで何も出来ないクズなのだが、この首を差し出せば四条もこちらの話に乗ってくるだろう。
「安心しろ。弁護士はちゃんとつけてやる。だから腹をくくれ」
「ま、待てよ!何で俺だけなんだ!!そもそも悪業云々で人柱ってなら親父だって当てはまるだろ!!もう老い先短い上に、四条と決別したのも親父に原因があるじゃねーか!!俺じゃなくて親父こそ責任取るべきだろ!!」
当然、青龍は納得なんてしない。このままだと、自分はもう直ぐ刑務所行きだ。そんな事絶対に嫌だ。まだまだやりたい事が沢山あるのだ。このまま刑務所に行って人生を終わらせるなんて断固断る。
それに、彼の言う事にも一理ある。そもそも四条が出来たきっかけは、自分達が生まれる前の話。その当事者と言えば、雁庵の筈。なのに自分だけ罪の清算兼人柱なんて不公平だ。
「おい青龍。それは違うぞ」
「はぁ?何がだよ?」
しかし、その慌てる青龍に黄光は雁庵に代わって答える。
「そもそも四条の連中の決別した原因たる人物は、親父じゃなくてじい様だ」
「は?」
じい様。その事を聞いて、青龍は頭に疑問符を浮かべる。
四宮雁九朗。
現当主、四宮雁庵の父親であり、黄光やかぐや達にとって祖父に当たる人物。非常に経営の才能があり、彼がやった商売は全てが上手く行って莫大な利益を生み出してきた。とても頭が切れ、今とは比べ物にならないくらい魔境であった他の家との争いにも勝って、この時代まで四宮家を残した知恵者。
だが反面、非常に冷酷な上に、かなり偏った男尊女卑な思考の持ち主で、女は子供を産む存在か、家を繁栄させる道具くらいにしか思っていない男。
そして、人の皮を被った欲望の化け物だ。
彼は文字通り、戦前から四宮家の利益になる為なら何でもやった。誘拐、脅迫、拷問、そして殺人。彼の手腕により、おびただしい数の人が地獄へと落とされた。
だがその結果、四宮家は高度経済成長期により大きく勢力を広げる事が出来たのだ。同時にこの頃、四宮家で内部分裂が勃発。雁九朗は反対勢力を徹底的に弾圧し、最終的には死人が出るまでになった。
「つまりだ。四条が本当に恨んでいるのは四宮家そのものじゃなくて、じい様なんだよ。もうとっくにくたばったけどな」
黄光の言う通りで、本来四条が恨むべき人物は既にこの世にいない。黄光が幼い頃に、死んだからだ。
因みに彼の死に際は、癌に侵され数か月ずっと苦しみ続けるというものであった。もしその様子を四条家の老人達が見れば、間違いなく歓喜していただろう。
更に彼は死の間際に、息子であった雁庵を呼び出してこう告げた。
『いいか雁庵…お前は俺が死んでも、ずっと俺の四宮家の為に生き続けろ…それ以外決して認めん…!お前はこれからもずっと、俺の為に、四宮の為に働いて、生き続けろ…!そうすれば、四宮はもっと繁栄する…!そしていずれ、日本だけじゃなくもっと支配を広げ、頂点に立ち続けるのだ…!!そして四宮家を、未来永劫不滅のものとするのだ…!!』
それが、雁庵の父最期の言葉だった。そして雁庵は、その遺言を守り四宮家を大きくしていった。これまでずっと、少しでも逆らえば容赦の無い暴力が来ていた為、雁庵はずっと父に逆らわずに生きてきたせいである。
大好きだった姉が、四宮家の利益の為と言われどこぞに家に無理やり嫁がされた時も。自分が若い頃に愛した女性と結婚しようとし、2人で四宮家を逃げようとした時も、雁九朗は徹底した暴力で雁庵から逆らう意志を奪っていったのだ。
その結果、父親の恐怖に支配され逆らう事の無くなった雁庵は、その言葉通りに四宮家を成長させるべくこれまで生きてきた。
しかし、自分以外の人を人とも思わない父と同じやり方はせず、可能な限り人死には避ける方法を取った。それでも、四宮に潰された人達はかなりいるが。
「でも、だからって俺だけなんて…!」
「その足りてない頭でよく考えろ。今親父が捕まったりしたら、それこそ四宮は終わりだ。なんせなんの準備も出来て無いんだからな。親父にはこれから、最後まで四宮を生かして、四宮グループ数十万の人間を守りながら、四条と和解するっていう仕事がある。でもお前は、何もない。今までずっと好き勝手してきたんだ。最期くらい、この家の為に働け」
ここで雁庵が止まる事は許されない。某海賊漫画で言えば、白〇が死んだような事態になる。そうなれば、他の者達が黙っていない。だから雁庵には、最後まで仕事をしてもらう。
「お前とは、もっとちゃんと話せば良かった…」
雁庵は、青龍について後悔する。元々他より能力が劣ってはいたが、それならば他の部分を伸ばしたり、彼の長所を見つけていればよかった。
しかし、四宮家にとってそんな事は必要ないとして、ずっとそういった事はしなかった。その結果青龍は腐り、自分勝手に生きるようになってしまったのだ。もっと普通の家のような親子として接していれば、こうはならなかったかもしれない。
「ま、待ってくれ親父…頼む、待ってくれ…」
「腹をくくれ。だが安心しろ。お前だけを地獄には行かせんからな」
青龍もだが、雁庵は自分も地獄行なのは間違いないと思っていた。だから死後、青龍だけを地獄には行かせない。その時は、ちゃんと自分も息子と一緒に地獄に落ちる覚悟だ。
「黄光兄…助けてくれ…」
「知るか。いつまでも俺に頼らずに、てめぇで何とかしろクズ」
「そん、な…」
既に黄光も、青龍を見限っている。味方なんて1人もいない。それを理解した青龍は、その場に項垂れて動かなくなる。
「そうそう黄光。お前ももう、四宮家の鉄の掟なんて無視していいぞ。何なら当主を降りたら、自分の好きな事をして生きてもいい」
「今更、そんな事できるとは思えねぇんだけどな…」
「何かを探したり始める事に、遅いも早いも無い。事実、俺も好きになった女と一緒になったのはほんの18年前だ。お前はまだまだ若い。これから自分のやりたい事を見つけて、やってみればいい」
これまでずっと四宮家後継者として育ててきて、本人の好きな事を何もさせてこなかった。
だがこれからは、もう四宮家の事だけ考えずとも生きていけるだろう。そして空いた時間で、何か好きな事をすればいい。
「…ま、それなら四宮家が安定したら、後はなんか趣味でも見つけて好きに生きるさ。その時は雲鷹、お前が当主やっとけ」
「あ?俺かよ?かぐやは?」
「私は当主なんて全く興味ありませんので」
最近かぐやは、インド旅行で沢山写真を撮った事がきっかけで、写真を撮る楽しさを覚えた。将来はいっそ、写真家なんてのもいいかもなんて思っていたりする。なので四宮家当主の座なんて、これっぽちも興味が無いのだ。
「それに、嫌に決まってるじゃないですか。だって当主なんて絶対に大変ですもん。そんな見えた地雷に飛びつく程、私は馬鹿じゃありません。過労で早死にしたくありませんし。私はせいぜい、偶に四宮家の為に動ける程度のポジションでいいんですよ。まぁ、やれと言われたら全力でやりますが」
だって絶対に、これまで以上に多忙になる。多分寝る時間も、相当に削られる。今までの四宮家ならあまり問題も無いかもだが、四条と和解するのなら別の問題が沢山出るだろう。それら全てに、対処しないといけなくなるのだ。そんな仕事、誰が好き込んでするというのか。
無論、そういった事が出来るよう兄妹全員教育は受けてきたのだが、それでも十数万人の従業員の生活を背負うというのは、並大抵の重圧ではない。実際になってしまうと、不眠症になるかもしれないくらい不安でいっぱいになるだろう。
だからかぐやは、出来れば当主なんてやりたくないのだ。でも四宮家に生まれ落ちた者として、今後も四宮家の為に動きはする。だが絶対に当主なんてなりたくない。
「……なぁ、黄光兄。やっぱりこのままずっと兄貴が当主やってくれないか?」
「嫌だよ。そもそも俺は、自分が当主の器じゃないって自覚があるしな。だからお前がやっとけ」
黄光は確かに優秀だが、雁庵に比べるとどうしても劣る。これまでは雁庵のおかげで四宮家は持ってきたが、自分が今のまま当主になれば絶対に足元を掬われて、どっかで四宮家は瓦解する。
正直、その時に責任なんて取りたくない。対して雲鷹は、後妻の子ではあるがかなり優秀だし、何より若い。だから自分はあくまで繋ぎの当主となり、騒動が終われば全部雲鷹に押し付けよう。
(うわー…あんだけなりてぇって思っていたのに、今はすっげーなりたくねぇ…)
ほんの少し前までずっと四宮家当主になりたかったが、今となっては普通に面倒に感じて嫌になってきた。こうなったら何とかして兄黄光に当主を押し付けて、自分はそこそこのポストについて悠々自適に過ごしてやる。
「さて、これからかなり忙しくなるが、その前にあとひとつやらないといけない事がある」
雁庵はそう言うと、かぐやの方を向く。
「かぐや。例の件だが」
「わかっています。場所は何処にしましょうか?」
「都内の、テイコクホテルがいいだろう。あそこなら話し合いの場として問題は無いしな」
「では、日時は向こうの都合の良い日を設定しておきます。後日、私の方で連絡をしておきます」
「頼んだ」
「?何の話だ親父?」」
一体何の話をしているのかわからない。なんで黄光は、雁庵に尋ねる。
「かぐやと一緒に、とある家族に謝罪をするんだよ」
「……かぐや、お前何したんだ?」
「そこで項垂れている人と似たような事を」
「嘘だろ!?お前が!?」
「本当ですよ。そして今となっては、どうしてあんな事をしたのか自分で自分にドン引きしています。はぁ、一体何してたんでしょうね、私は…」
あのかぐやが、青龍と同じような事をした。その衝撃は、今日1番かもしれない。
「その時の謝罪を、相手のご家族にお父様と一緒にするんです。例えどれだけの罵詈雑言を浴びせられようとも、しっかりと謝罪をしてきます」
「そ、そうか…まぁ、頑張れよ?」
「ええ。ちゃんと生きて帰ってきますから」
「お前は戦争にでも行くのか?」
黄光は一応、かぐやに激励の言葉を贈る。
(こいつ、こんなんだったか?)
そして黄光は、かぐやが昔と明らかに変わっている事に気が付く。数年前に会った時は、まるで世の中全てが敵と思っているような冷たい目をしていたのに、今はかなり優しい目つきになっている。早坂からも特に重要な報告は受けていないし、一体何が彼女を変えたのだろう。
(1度、親父に聞いてみるか。酒でも飲みながら)
既に早坂は、こちらの手を離れているので何も聞けない。でも気になるので、こうなれば事情を知っているであろう雁庵に聞いてみよう。以前の雁庵なら、息子と一緒に酒を飲む事すら無かっただろうが、今の雁庵ならそれも出来るかもしれない。
思えば、親子2人で酒を飲んだ事なんて1度も無かった。飲む機会があるとすれば、大体何かの食事会や会合の時。それも会話内容は仕事の事ばかり。良い機会だ。四条と和解が済んだら、2人で一緒に酒を飲むとしよう。
そう思うと、これまでずっと感じていた責任という名の肩の荷が、少しだけ下りた気がする。
(……なんか、楽しみだな)
そんな些細な夢を思いながら、黄光も今後について色々と思考を巡らせる。これまでの四宮家とは違う、新しい四宮家の未来について。
こうして、話し合いと雁庵の宣言の結果、この日それまでの古い四宮家の歴史は幕を閉じた。これからは、時代に合った新しい四宮家として生きて行く事になるだろう。間違いなく大変な事ばかりだが、多分きっと何とかなる。
四宮雁九朗(しのみや がんくろう)
四宮家の前当主であり、かぐやにとって祖父に当たる人物。四宮家を未来永劫繁栄させるという野望に取り付かれ、そのためだったらなんだってやってきた怪物。
何人か奥さんがいたが、子供が生めない、少しでも自分に逆らうと容赦なく捨てる事をしてきたドブカス。更に子供は自分の道具で、自分の為にさえ生きていればいいと思っているどうしようもないクズ。最期は、数か月もの間病にむしばまれ苦しみ続けて死んでいった。
そして雁庵さんは、そんな父の影に怯えながら生きてきたけど、それを晴らしてくれたのが名夜竹さんって設定です。
元ネタは、グ〇ザイアの果実の由美子の祖父。そして、もう2度と出番は無い。
何か変なところや、矛盾しているところがあったら言ってください。修正いたします。
次回はいよいよ、親同伴の謝罪回。書きたくねぇ… あとそれに関して少しアンケートを設置していますので、よろしければお答えください。
それでは、また次回。
京佳さんに対する謝罪のかたち、どれがいい?
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莫大な慰謝料
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大学費用全額負担
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顔の火傷跡の治療
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立花家がそういうの拒否する為無し