もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
ちょっと軽いかもだけど、どうかご容赦ください。
にしても、今日雪すげぇ… 普段雪なんてほぼ振らない地域だから、余計に寒く感じる…
修学旅行が終了し、久しぶりに生徒会室に行くと石上と伊井野が昭和のような喧嘩をしていたり、しりとりカードゲームで藤原がお下品な言葉を連発したり、伊井野の様子が可笑しかったり、石上とつばめのデート内容を皆で聞いたり、髪を切った早坂が京佳に告白したけどフラれたというデマが一定数に流布されていてそれを否定したりとしていらりと慌ただしい日々を過ごしていた数日後。
京佳は、母親と共にテイコクホテルに来ていた。
テイコクホテル。
国内にあり、安い部屋でも1泊20万円はするという超高級ホテル。ケーキやオムライスがとても美味しく、国内外から人気の高い歴史あるホテル。そのホテルのロビーに、京佳は母親と共にいた。
「すっご…」
「いやー、外から見た事はあったけど、来るのは初めてだわー…」
京佳は制服でロビー内を見てその絢爛豪華さに驚き、母親である佳世は余所行き用のスーツ姿で初めてきたホテルに驚く。
どうしてこの2人がこんな場所にいるかというと、かぐやに誘われたからだ。
―――――
『立花さん。今週の土曜日、予定などはありますか?』
『今週か?特に無いが』
『クリスマスの件で、私のお父様から大事なお話があります。今週末の土曜日の午前11時に、四宮家から迎えを寄こしますので、立花さんのお母様と共にその車に乗って来て下さい』
『…わかった。母さんには私から言っておくよ』
『いえ、1度こちらからお電話します。先ずはちゃんとどうして呼ばれるのかを説明をしないと、大変失礼ですし』
―――――
数日前、京佳は生徒会室でかぐやとそんな会話をした。そして今日、四宮家から来た黒塗りの高級車に乗り、このホテルまで来たのだ。
「で、京佳。四宮さん達はどこにいるの?」
「ホテルの上層階にある部屋にいるって言ってたよ。直ぐに迎えの人が来るから、ロビーで待っててほしいってさ」
「…わかったわ」
そう言う佳世は、静かに怒っていた。
数日前、四宮家は立花家に電話をして、クリスマスの件について説明をした。最初聞いた時は何かのイタズラかと思ったが、電話をするうちそれが本当にあった事だと理解。
そしてそれを聞いた佳世は、文字通りブチきれた。大切な娘がトラウマを刺激され、あまつさえその恋人を誘拐。こんな事、簡単に許す事なんて出来る訳が無い。京佳曰く、あの時の母には鬼が宿っていたとの事。
そして今日、向こうがちゃんとした謝罪をすると言うので、佳世は仕事を休んで来ているのだ。取り合えず、手が出ないように気を付けようと思いながら。
「あ、京佳さん。こんにちわ」
「圭か、こんにちわ」
そこに、白銀家もやってきた。
「おー、凄いな御行。ずっと昔に会社の取引で1度だけ来た事あるけど、あれからまた様変わりしたしてるみたいだ。流石国内で最も有名なホテル」
「父さん。頼むからそんな風にキョロキョロしないでくれ。田舎者みたいに思われるだろ」
「実際田舎者だしな」
「ねぇ、パ…お父さん。本当に私達制服でいいの?」
「学生は制服が最もフォーマルな姿だから問題無いぞ」
その直ぐ後ろには、白銀と彼の父親もいる。
「あ、白銀さん。こんにちわ」
「どうもです、立花さん」
「御行くんと圭ちゃんも、こんにちわ
「こ、こんにちわ」
「こんにちわです」
佳世は白銀家に挨拶をする。同時に、白銀家の3人も挨拶をし返す。
「立花さんは、今日の事を聞いていますか?」
「ええ。息子のスマホからですが、大体は」
「そうですか…」
「正直、最初聞いた時はあっけにとられましたよ」
当然、事件の渦中にいる白銀の家族も呼ばれた理由は知っている。最初圭は、この話を聞いた時全く信じようとしなかった。憧れの先輩が、そんな卑怯で卑劣な真似をしているだなんて、信じたくなかった。
でも兄も同じ事を言っているし、スマホで京佳に聞いても同じことを言う。そうなればもう、信じるしかなかった。
「白銀様と、立花様ですね」
そこに、四宮家の執事である高橋が現れる。因みに修学旅行時に腰をやってしまているので、今はコルセットを巻いているぞ。
「我が主人が、上でお待ちです。こちらへどうぞ」
「わかりました」
「それじゃ、行きましょうか」
高橋に着いて行き、5人はエレベーターに乗る。
「あの、京佳さん。あの話って、本当なんですか?」
「まぁね。信じれれないかもだけど、本当にあった事だよ」
「そう、ですか…」
圭の声には覇気が無い。それだけ、受けたショックが大きかった証拠である。
「こちらです。どうぞ」
エレベーターは、ホテルの上層階で止まる。そして扉が開くと、シックだが優雅な雰囲気の廊下が見える。その廊下を進んでいき、5人はとある部屋の前まで来た。
高橋が部屋の扉を開け、部屋へと入っていく5人。そのまま部屋内の応接室まで進むと、高齢であろう威厳のある男性と、かぐや、そして早坂親子を見つけた。そして応接室に入ってきた5人を見て、男性が自己紹介をする。
「初めまして、立花さん、白銀さん。私はかぐやの父親の、四宮雁庵と申します」
初めて見るが、どうやら彼がかぐやの父親らしい。随分と高齢に見える。恐らく、白銀父よりずっと年上、下手すると彼の両親より年上かもしれない。
「私は、長年四宮家に仕えている早坂家の者で、早坂奈央と言います。そしてこの子は、今回の関係者である娘の愛です」
「初めまして、早坂愛と言います」
雁庵に続いて、早坂親子もあいさつをする。早坂も、クリスマスのあの件の関係者。何なら白銀を誘拐した張本人。いくらかぐやが指示を出したと言っても、やったのは早坂だ。だから彼女も、関係者としてこの場にいる。
「本当でしたら夫もこの場に来なくてはならないのですが、現在ヨーロッパにおり、どうしても日本に戻ってこれず、申し訳ございません」
「そうですか」
奈央の言葉を聞く佳世の目は、正直冷たい。今の彼女にとって、そんな事はどうでもいいからだ。
その後、応接室のソファに座り、高橋が人数分の紅茶を淹れる。その間、誰も言葉を発しない。白銀と京佳は、神妙な顔をして黙り、圭はずっと落ち着かない様子。白銀父はじっと雁庵やかぐやを見つめ、佳世は冷たい目でかぐや達を見る。そしてかぐやと早坂は、黙って京佳達を見ていた。
「この度は、私の娘がとんでも無い事をしてしまい、本当に申し訳ございませんでした!」
全員分の紅茶を高橋が配り終えると、雁庵がソファから立ち上がって頭を下げて謝罪をしてきた。もし四宮家の関係者一同がこの光景を見たら、間違いなく驚くだろう。
「本当に、ごめんなさい…」
「ごめんなさい」
「私の娘が、大変な事をしてしまい、申し訳ございませんでした」
雁庵に続いて、かぐやと早坂親子も頭を下げながら謝罪をする。
「四宮さんに早坂さん。貴方方は、随分と素晴らしい教育をしているみたいですね」
そんな雁庵達に、佳世は静かに怒りながらそう言った。
「返す言葉もありません…」
明らかに、言葉に棘がある。しかし、何も言い返せない。だってかぐやは、それだけの事をしたからだ。
「あのですね?普通自分の恋が実らなかったからといって、そこまでしますか?深夜帯にしているドラマじゃあるまいし。一体どんな教育をすれば、そんな思考になるのか是非教えてもらいたいですね」
「本当に、申し訳ございません…」
「ごめんなさい…」
雁庵とかぐやはは頭を下げたまま、必死に謝る。無論、謝って済む問題では無いのだが、それでも今はこうして謝るしかない。
「あの、母さん…四宮とは既に和解してるから、あまり…」
「京佳。今は大人が話しているの。ちょっと黙ってなさい」
「…はい」
京佳が助け船を出そうとしたが、秒で却下された。
「私は、娘がとても大事です。自分のお腹を痛めて生んだ、大切な娘ですもの。夫が死んでからは、必死で努力してこの子ともう1人の長男を育ててきました。でもある日、この子は酷い事をされて、左目が一生見えなくなってしまいました。それでも私は、この子の母親です。見捨てるなんて、絶対にしませんでした。だって京佳は、私の大切な娘なんですもの」
佳世は、本気で怒っている。
手塩にかけて育てた娘が、自分の恋を諦めきれないという理由でトラウマを刺激され、またふさぎ込みそうになってしまっていたのだ。まるで、中学の時と同じ。下手すると、そのまま心が壊れていたかもしれないのだ。こんな事されて、怒らない親なんていない。
「だからこそ、そこにいる貴方の娘さんがした事が許せません。一体どんな事を親から教われば、こんな酷い事が出来るのですか?」
「おっしゃる通りです。私自身、教育を間違えてしまったという自負があります…」
こうして言われると、本当にかぐやがした事が酷すぎる。四宮家の教えしっかりと学んで育ったが、道徳が無いなんてものじゃ無い。というか、普通に生きていればこんな事する訳が無い。
しかし、四宮家は普通じゃないのだ。だから道徳なんて、四宮家にはいらないものとして碌に学ばずにいた。でも今にしてみれば、ちゃんと教えておけばと後悔しか無い。
「かぐやさんと愛さん?貴方たちも、もう善悪の区別がつかない子供じゃないわよね?高校生にもなって、自分が何をしたのかわかっているの?」
「はい…本当にすみませんでした…」
「ごめんなさい…」
今度はかぐやと早坂を叱る佳世。その背後に鬼が見えたのは、気のせいだと思いたい。そして当然、2人は何も言い返さない。だって本当の事だからだ。今となっては、心の底から反省している。何で、あんな事をしてしまったのだろう。嫉妬に人は狂うというが、本当のようだ。
「あーもう腹が立つ。本っっ当にこんなに怒ったの久しぶりだわ…!」
つい、声を荒げてしまう佳世。冷静さを取り戻そうと紅茶を一気に飲むが、まるで効果が無い。何とか手だけは出さない用にしているが、このままでは1発かぐやにビンタくらいしてしまいそうな勢いだ。
因みにかぐやと早坂は、今日佳世に殴られる覚悟でここにいる。
気が済むまで殴られても、文句なんて言わない。言ってはいけない。もし佳世が手を振り上げても、自分達は一切抵抗なんてする気は無い。その事は、2人の親も承知済み。何なら自分達も、佳世に殴られる気でいる。
「母さん。頼むから、そこまでにしてくれ」
その時、京佳が佳世を止める。
「京佳、あんた何を言って」
「わかってる。そして母さんが、私の為に怒ってくれている事も理解できている。正直、私も修学旅行前まで四宮と早坂の事、心の底から許せていない部分があったしね」
あんな事をされたのだ。いくら白銀に言われたとはいえ、簡単には許せない。どうしても、心の底で2人を許しきれない自分がいた。
「でも、本当にもう良いんだ」
けれど、それは修学旅行前までの話。
「だって四宮は、もう十分罰を受けている。母さんが怒るのもわかってるけど、これ以上2人を怒るのをどうか辞めて欲しい」
信用を失い、綺麗だった髪を切り、恋が2度と叶わなくなり、京佳からは既に1発殴られている。それだけで親が納得は出来ないだろうが、それでももう十分だ。もう十分2人は罰を受け、反省している。少なくとも、京佳と白銀はそう思っている。
「頼む母さん。どうか、それ以上はやめてくれ」
京佳は佳世に、頭を下げる。親として納得出来ない部分はあるだろう。京佳にはまだわからない部分で、怒っているのもわかる。それでも、もういい。これ以上は、あまりに不憫だ。甘いと言われたらそれまでだが、京佳はもうこれ以上2人に何か言う事は無い。
「……貴方は、それでいいの?」
「うん。もう私は、2人を許しているからね」
「…………はぁ、そんな顔で被害者本人がそう言ったら、これ以上強く言えないじゃないのよ」
当の娘が、優しい顔つきで加害者2人を既に許している。ならばこれ以上怒るのは、違うだろう。正直親として納得できない部分はあるが、ここは娘の言う通りにしよう。
「すーーーはーーー…かぐやさん。そして愛さん」
佳世は1度深呼吸をして、再び2人を見る。
「娘がこう言っているので、これ以上私が何か言う事はしません。これからの人生、しっかりと自分がした事を反省しながら生きて下さい。ただし、もしまた同じような事をしたら、今度こそ絶対に許しませんから」
「「はい!本当に、ごめんなさい!!」」
こうして佳世は、2人を許す事にした。本当ならもう少し言ってやりたいが、そこはぐっと飲むこむ事にした。でも、2度目は絶対に無い。もしそんな事があったら容赦しない。
「それで、今回の事についての賠償なんですが…」
「言っておきますけど、お金ならいりません」
雁庵は今回の件で、しっかりと形ある賠償をしようとしたが、佳世はそれを拒否。何と言うか、ここで賠償金を貰うのは違う気がする。
「では、娘さんの火傷跡の治療はどうでしょう?」
「「!?」」
しかし、雁庵のその提案を聞いて2人は驚く。
なんせ京佳の顔についている火傷跡は、もう絶対に消えないと医者から言われていたのだ。それが治ると聞いて、驚かない訳が無い。
「実は、まだ試験段階なのですが、四宮家が運営する医療施設で、皮膚再生の研究を行っているのです。既にかなり進んでおり、この調子だと確実に数年後には完成すると言われいます」
元々は富裕層向けに運営していた医療施設だが、雁庵はその施設の医療技術を世に広める気でいた。来たる四条との和解も含めて、昔の四宮家とは違う事をアピールする良い手段だからだ。
そしてその中に、皮膚治療がある。これが完成すれば、どんな傷でも治す事が可能となるのだ。
「本来なら莫大な医療費がかかりますが、それを無償で提供いたします。どうでしょうか?」
「「……」」
正直、喉から手が出る程欲しい提案。だって京佳は、この自分の顔が大嫌いだ。この火傷跡のせいで、酷いいじめを受けてきた。それに未だに、鏡でこの顔を見ると嫌な気分になる。いくら白銀から気持ち悪くないと言われても、簡単に割り切れる程この顔の事を好きになれない。それが治るというのなら、是非欲しい。
「京佳、あんたが決めなさい。あんたはどうしたい?」
「その、治せるなら、お願いしたい、かな…」
「そう。でしたら、その辺の話の詳細はまた後日って事でよろしいでしょうか?」
「勿論です。後日より詳しい話をしましょう」
結果京佳は、その提案に乗る事にした。当然、直ぐに火傷跡が治る訳ではないだろうが、それでも乗らない訳にはいかない。
「次に、白銀さん」
京佳への謝罪と謝礼を終えると、雁庵は今度は白銀家の者達へ向き直る。
「この度は、そちらの息子さんに酷い事をしてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
「本当に、すみません…」
そして京佳にしたように、頭を下げて謝罪をする。
「その謝罪を、受け取ります。それに息子は特に気にしていないようですし、何より未遂ですので、こちらからこれ以上何か言う事はありません」
白銀父は、この件について特に言う事は無かった。かぐやがした事は間違いなく簡単に許せない事だろうが、そもそも白銀自身がかぐやを許したがっているので、これ以上佳世のように何か言う事はしない。
「そして賠償なのですが、白銀さんが経営していた工場、その権利をお返しいたします。更にそちらが抱えている借金も、全額チャラとさせていただきます」
「マジか」
そして雁庵は、白銀家に対する賠償として、かつて白銀父が経営していた工場をお返しすると言ったのだ。それを聞いて、白銀父は大層驚く。
実は白銀父が経営していた工場、これをかなり強引な手段で奪ったのは、四宮家傘下の者達なのだ。
とある画期的な部品を作成したが、そこを利益になると四宮家傘下の者達に目をつけられ、気が付けば違法な借金を無理やり背負わされて、工場の権利を奪われていた。
最初この話を聞いたかぐやは、そんな事をしていた四宮家の人間である自分は、元から白銀と結ばれる事は無理だったと自分を責めて青ざめていたが、それは流石に考えすぎだと早坂から言われ、何とか正気を取り戻した。
「早ければ、春頃には工場は再び貴方の元へ戻ってきます。どうでしょう?」
「お願いします。これで子供達に、もう苦労を掛けずにすむ」
白銀父は、この賠償を受け取る。借金のせいで、妻には愛想をつかされ、子供達には長い間苦労を掛けてきた。それが無くなるのだから、受けとらない訳が無い。
「嘘…5億の借金無くなるの?」
「みたい、だな」
突然決まった事に、圭達もあっけに取られる。
こうして白銀家は借金が無くなり、工場が戻ってくる事となり、京佳は顔の火傷の治療を受けれる事になった。
「なんだか、驚く事が色々あったな…」
「だな…」
暫くして、未だ親同士が話し合っている中、白銀と京佳は応接室を出て別の部屋で休憩をしていた。
「にしても、まさかこの火傷跡が完治するだなんて。これは本当に驚きだよ」
ずっと諦めていた顔の火傷跡。それが完治するだなんて、夢にも思わなかった。
「こういうのを、怪我の功名って言うのかな」
「まぁ、意味としては合ってるな」
決して良いとは言えない出来事ではあったが、結果として良い方向へと話が転がっていった。こうなれば、もうその事を喜んでいくしかない。
「この火傷跡が綺麗になったら、周りにどんな反応されるかな?」
「例えどんな反応をされても、俺はどんな立花でも好きになるから安心してくれ」
「っそ、そうか…!」
そう言われると、顔が熱くなる。やはり、好きな人に好きと言われるのは、いつだって嬉しいものだ。嬉しくてついキスしそうになるが、流石に我慢する。
「今日の出来事で、もう後顧の憂い無く過ごせると良いな」
「そうだな。これからは、また以前みたいに皆で過ごして行きたいもんだ」
今までかぐや達とはちょっと微妙な関係が続いていたが、これでその関係も修復できたと思いたい。しっかり謝罪も賠償も受け取ったし、これでまだ許さないというのはもうダメだ。これからは、また以前と同じように生徒会や同級生の皆と学校で過ごしたい。簡単では無いかも知れないが、何とかしよう。
でも、その前にちょっと心配な事がある。
「それにしても、あの2人を2人きりにして大丈夫か?」
京佳はそう言いながら、今現在隣の部屋で話しているであろうかぐやと圭を心配する。
部屋を出て休憩する際、かぐやがどうか圭と2人で話させて欲しいと言い出したのだ。それを2人は了承し、今かぐやは圭と2人きり。
圭は、かぐやに憧れていた。それなのに、かぐやは酷い事をして圭を間違いなく幻滅させてしまっている。その事で、圭に謝りたいと言うのだ。
「そこまで心配しなくても大丈夫さ。圭ちゃんなら、四宮に対して酷い事を言ったりしないって…多分」
「多分かぁ…」
そんな事無いと信じたいが、実際はわからない。ここはもう、祈るしかない。
「「……」」
そしてその部屋では、かぐやと圭が並んでソファに座った状態で、何も話さずにいた。かぐやは今回の件で、自分を慕ってくれた圭を裏切ったようなもの。どれだけ軽蔑されているかわからないが、もう自分は絶対にこの罪から逃げたりしないと決めたのだ。
だからこうして、1度圭とちゃんと話しておこうとしたのだが、どう会話を切り出していいかわからない。既に5分、無言の時間が続いている。いい加減何か話さないと、気まずくて死んでしまいそうだ。
「正直…」
そう思っていると、圭から話しかけてきた。
「正直、かぐやさんがした事を聞いて、ドン引きしました…同時に、最低って思いました…」
「そう、よね…」
当たり前だ。むしろ思わない方がどうかしている。
「かぐやさんって、本当に憧れだったんです。綺麗でかっこよくて、それに私、恩もあって」
「恩?」
「まぁ、覚えてないですよね…」
実は圭、かぐやに恩がある。かぐやからしてみれば些細な事なのだが、圭にとってはかなり重要な事であった。それから圭はかぐやに憧れを持つようになったのである。
「でも、その想いが打ち砕かれた気がしました…」
「……」
だがクリスマスの1件を聞いて、そういった憧れが消えて行く気がした。それを聞いて、かぐやは罪悪感でいっぱいになる。本当にタイムマシンでも使って、過去に戻ってあの日の事を無かった事にしたい。もしくは過去の自分をブン殴りたい。
「でもまぁ、京佳さんも言ってましたけど、かぐやさんはもう十分罰を受けているって思うので、私からこれ以上何か言ったりやったりはしません」
「……いいの?もっと思いのまま、罵詈雑言を言ってもいいのよ?私は、それだけの事をしたのだから」
「この話を聞いた瞬間ならそういう事もしたかもですけど、今は冷静になってますし、何よりこれ以上かぐやさんを罰するみたいな事、したくありません」
恐らくかぐやは、この先ずっとこの罪悪感で苦しみ続ける。何十年経とうと、この気持ちが消える事は無いだろう。
だから言ってしまえば、それこそがかぐやへの罰。だから、これ以上は何もしない。それはあまりに、罰が重すぎる気がするから。
「それに、言い方は凄く悪いんですけど、おかげで借金も無くなって、ぱ…お父さんの工場も戻ってくるから、まぁ結果オーライって事で」
圭の言う通り、決して悪い事ばかりではないのが今回の件だ。おかげで5億の借金が無くなり、工場も戻ってくる。まさに怪我の功名、禍を転じて福と為すである。
「でも、せめて何かさせてくれないかしら?」
だがそれでかぐやは納得できない。なんせ工場や借金の件は、四宮本家による賠償。自分は何もできていない。何かしないと、自分の気がすまないのだ。
「じゃあ、今度どこかでお昼奢ってください。それで全部チャラって事で」
「ええ、勿論。美味しいお店を探しておきます」
圭は、そんな些細なお願いをする。
(私は、こんな優しい子も裏切ったのよね…本当に死にたい…)
そしてかぐやは再び、罪悪感で死にそうになった。本当に自分は、何をしていたのだろう。そして、この先絶対にこの罪を背負い続けると決める。何があっても、投げ出したりしない。
「終わったわね」
「ですね…」
時刻は既に午後16時。かぐやは早坂と共に、テイコクホテルの一室にいた。京佳達は既に帰宅し、雁庵も京都に帰っていった。そしてかぐや達は、折角ホテルを取ったのだから、今日はこのまま泊って行く予定だ。
「本当に、私は何をして…穴があったら入りたい…」
「よしよし」
項垂れるかぐやを、早坂は頭を撫でて慰める。自分だって、同じ気持ちだ。実際早坂は、母親に『従者であるのなら、主人が間違った時は止めるようにしなさい』と説教を受けている。あの時、自分はかぐやの為を思うのなら止めるべきだったのだ。
でも、そうはしなかった。例え主人が間違った道を進んでいたとしても、早坂はかぐやの恋を成就させてあげたかったからだ。
その結果が、あれである。今となっては、本当に何としてでも止めるべきだったと、後悔しかない。
「これからは、お互い反省しながら前を見て生きていきましょ?」
「そうね。これからはそうやって生きて行きましょう」
でも、だからこそもう逃げない。これからは、かぐやの罪を一緒に背負いながら生きて行こう。それが、自分達の今後するべき事だから。
しかし、気を付けないと着ない事がある。
「ですがかぐや様。自分を常に罰してはいけませんよ?それでは、死んでいるのと変わらない。ちゃんと人として生きて下さいね?」
「わかってるわよ」
それは自分を卑下して、何もしようとしない事。何をするにも四六時中罪の意識を持って何もせずにいると、いずれ心が壊れてしまう。自分なんかが楽しい思いをしてはいけないとか、もっと酷い目に合わないといけないとか考えて、最期は自ら命を絶ってしまうかもしれない。
なので罪の意識は持ちつつも、人として生きて行く。ちゃんと楽しい事もしていいし、思い出も作ってもいい。
「そこでちょっと提案があるのですが…」
なので早坂は、かぐやにある提案をする。
「その、修学旅行が中途半端な終わり方しましたし、明日一緒に横浜観光しませんか?」
既に謝罪も賠償も済んだ。これで一応は、方がついたと言っていい。だから気持ちを切り替えて、少しは楽しい事をしてもいい筈だ。折角の修学旅行はあんな終わり方をしてしまっているので、ここで1日横浜観光をしてもいいだろう。
「構わないけど、ひとつだけお願いがあるわ」
「何でしょうか?」
でもその前に、早坂にあるお願いをしなくては。
「折角私の従者で無くなったのだから、これからは砕けた喋り方にして欲しいの。いいかしら?」
それは、敬語を辞めるというもの。既に早坂は、四宮本家よりかぐやの従者の任を解かれている。これにより早坂は、ただの早坂愛になった。
それはつまり、今後はかぐやに対して敬語で接する必要は無い事でもある。これからは、ただのかぐやと愛として、かぐやは早坂と一緒にいたい。
「えっとじゃあ、かぐや。明日私と一緒に、横浜に遊びにいかない?」
「勿論よ、愛さん」
そのかぐやの願いに、早坂は応える。本当はずっと、こうしてかった。従者としてでなく、かぐやの友達として接したかった。その願いが、今叶った。
そして翌日、2人は横浜観光を堪能した。美味しい物を食べたり、綺麗な景色を見たり、それを写真に収めたりして、1日中楽しんだ。
こうしてかぐやと早坂は、とても大切な良い思い出を作る事が出来たのだった。
これにて、かぐや様の謝罪と賠償を終わりとさせていただきます。
圭ちゃんの反応とか、京佳さんの母親の怒りとか、色んな事がちょっと軽いかもしれませんが、どうかこれで勘弁を。
しでかした事がしでかした事とはいえ、あまり追い詰めすぎるとかぐや様今後どうなるかわからないので。
まぁ、全ての原因は作者が軽い気持ちであんな事書いたせいですけどね。
次回は、間に合えばバレンタイン回。その後は引っ越し関係って予定です。そしていずれ、大人の階段を登る話も書くので、どうかお待ちを。
それでは、またね。