もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・   作:ゾキラファス

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 何とかギリギリ間に合った。
 皆さん、ハッピーバレンタイン。


立花京佳とバレンタイン

 

 

 

 

 

 純喫茶 りぼん

 

 この日京佳は、学校帰りに親友の恵美と一緒にりぼんで夕飯をとっていた。メニューは、店長の朝子特製のカレーライス。そして2人でカウンター席でそのカレーを食べながら、迫りくるバレンタインについて話し合っていた。

 

「で恵美、どんなチョコレートを渡せばいいかな?」

 

 実は京佳は現在、すっごく悩んでいる。もう直ぐ訪れる恋人達の祭典、バレンタイン。白銀と恋人になって、初めて訪れる記念すべきバレンタイン。折角なら、手の込んだ物を渡したいと思うのは仕方がないだろう。

 しかし、これが中々決まらない。ずっと考えているのに、全然決まらない。なのでこうして、恵美に相談をしているのである。

 

「因みに、どんなの考えてるの?」

 

「その、チョコにLOVEって書いているやつとか、手紙を仕込んだ物とか、とても大きなチョコレートケーキとか、いっそ白銀の顔の形したやつとか、もしくはチョコを渡す時に胸元を指でクイってして白銀に谷間を見せたりとか」

 

「はい京佳ストップー。今普通に気持ち悪い事考えてるからー。取り合えずコーヒー飲んで落ち着いて?」

 

「あ、うん」

 

 恵美、直ぐに京佳の暴走を止める。このままでは、京佳が白銀に引かれるかもしれない。折角親友が恋人を作って幸せになっているのだ。その親友のバレンタインを、台無しにしたくない。

 

「落ち着いた?」

 

「うん…少しは…」

 

「てか京佳って、いつもはそんな感じじゃないじゃん。今日どうしたの?」

 

 何時もは冷静な京佳がアホになっている。一体、どうしたのいうのか。

 

「だって、折角の恋人がいる状態でのバレンタインなんだ…だから白銀には喜んで欲しくて…どうせならちゃんと記憶に残る物にしたくて…」

 

「私の親友が可愛すぎる件について」

 

 京佳は頬を赤らめながら、恵美にそう答える。その顔に、恵美は胸キュンする。スマホで写真を撮ろうかと思ったが、それはギリギリで思いとどまった。

 

 同時に、京佳が悩む原因がわかった。要は、恋人である白銀に兎に角喜んで欲しいだけなのだ。折角のバレンタイン。彼女として、彼氏に喜んで欲しいと思うのは当然。

 だがその結果、一体どうすれば喜んで貰えるか考えすぎてしまい、答えがわからなくなっている状態が今の京佳。もうずっと考えているのに、考えれば考えるだけドツボにハマり、どうすればいいかわからない。

 

「そうだ!全身にチョコレートを塗りたくって「てい」あた」

 

 遂には、相当に頭の可笑しい事さえ言い出す始末である。まるで去年のかぐやだ。

 

「京佳?マジで1回落ち着いて?ていうか全身にチョコレート塗るなんて、ダメに決まってるでしょ。食べ物粗末にしているし。チョコレート製造会社の人達に申し訳ないじゃん。あと絶対に肌かぶれるし」

 

「うぐ…すまない…」

 

 確かに日本人として、食べ物を粗末にする訳にはいかない。この案は却下しよう。

 

「はぁ…どうしよう…もうあまり時間無いのに…」

 

 しかし、いよいよどうするべきか。このままでは、バレンタイン当日にただチョコを渡して終わりという味気ない事になりかねない。

 

「こういう時は、先ず糖分を取って頭をリラックスさせるべきだよ。すみません朝子さん!手作りプリンを2つください!」

 

「はい、直ぐに用意するわね」

 

 机に突っ伏す京佳を見て、恵美は直ぐに朝子に注文をする。実際、考えが纏まらない時は、甘い物を摂取すると良い。だが取りすぎると眠くなるので、注意が必要だ。

 

「てかさ、普通にそれなりの高い市販品のチョコとかじゃダメなの?普通に喜ぶと思うけど」

 

 京佳の考えは、どれもこれも奇抜すぎる。恵美の言う通り、普通に買ってきたチョコを渡すだけでも十分な筈だ。

 

「いや、去年は手作りだったのに、今年は買ってきたチョコっていうのも何だかアレだし…それに市販品じゃ、そこまで記憶に残りそうな気がしなくて…」

 

「あー…うーん…」

 

 京佳の言っている事もわかる。市販のチョコは、よほどの高級チョコでもない限りあまり記憶に残らない。それなら、手作りの方が良い気もする。しかし、ただ手作りチョコを渡しても味気ない。

 

「やっぱり、渡す時にいっそキスしたりとか…」

 

「だから落ち着いてって。そもそもいきなりだと相手も驚いて困惑するでしょ。チョコどころじゃないよ」

 

「でも、修学旅行では顔を赤くして喜んでたし…」

 

「もう似た事してるし」

 

 渡す際に、何かしたい。でないと白銀も、喜んでくれるかわからない。

 

「京佳ちゃん。こういうのはね―――」

 

 そうやって2人して頭を悩ませていると、プリンを持ってきた朝子が話しかけてきた。

 

 

 

 

 

 バレンタイン当日

 

(よし、チョコは忘れずにちゃんとある。大丈夫だ)

 

 京佳は通学中のバスの中で、鞄に仕舞っているハート型の箱に入ったチョコを確認していた。今更言うまでも無いが、これは京佳の手作りだ。そして渡す相手は、勿論白銀である。あとついでに数人に渡すが、そちらは四角い箱に入っている。

 

(大丈夫。朝子さんに言われた通りにすればいいだけだ)

 

 あの日、店長の朝子からの助言を聞いて、京佳はその日の帰りに材料を購入。その後、週末の土日を使ってチョコレートを作成。そして今、こうして持ってきている。

 

(白銀、喜んでくれるよね?)

 

 白銀なら、問題無く受け取ってくれるだろう。そう思いながら、京佳はバスを降りる。

 

「あ、あの!!」

 

「ん?」

 

 しかしバスを降りた瞬間、後ろから不意に声をかけられた。京佳が振り返ると、そこには1人の女子中学生らしき子が1人。その後ろには、友人と思しき子らも見える。

 

「と、突然すみません!あの、こ、これ!受け取ってください!!」

 

 そしてその女子中学生は、京佳に綺麗に梱包された小さな箱を渡す。

 

「あ、ああ…ありがとう?」

 

「っはい!」

 

 突然の事で、京佳はそれをつい受けっとってしまう。京佳が受け取ったのをしかと確認した女子中学生は、後ろにいた友人らと合流。そのまま笑顔で去って行った。

 

(この流れは…)

 

 今の流れに、京佳は覚えがある。緊張し、恥じらった女生徒。その手には、綺麗に梱包された小包。どう考えても、バレンタインのチョコレートの受け渡しである。

 というか、まただ。中学生の頃から、毎年続く自分のバレンタインイベント。別に受け取る事に嫌悪感は無いが、やはり少し複雑である。

 

「……行くか」

 

 京佳は、覚悟を決める。多分、学校でもこんな感じの事が今日は起こる。だって去年もこんな感じだったからだ。

 

(どっかでまた、段ボール貰うかも…)

 

 まだいくら受け取る事になるかわからないが、あまりに数が多かったらまた用務員室から段ボールを貰うとしよう。

 

 

 

 

 

「立花さん!どうぞ受け取ってください!」

 

「立花さん、これどうぞ」

 

「あの、立花先輩…どうか、受け取って下さい!」

 

 京佳の予感は、見事的中。先ず、学校に着いたら靴箱の中に大量のチョコレートがあった。更に教室に行くまでの間に、1年2年3年の生徒からもチョコレートを渡された。

 

「おはよう立花さん。はいこれ、バレンタインチョコだよ」

 

「あ、立花さん…これ、どうぞです…」

 

「立花さん!バレンタインおめでとー!!はいこれ!!」

 

 そしてそれは、教室でも同じである。教室内のクラスメイトの多くが、京佳にチョコレートを渡してきた。

 

(想像以上に、いっぱい貰ってしまった…)

 

 結果、京佳は素手の数多くのチョコレートを貰ってしまったのだ。その数、なんと60個以上。去年のおよそ倍。これまでの人生最大の数である。

 

「モテモテだなお前」

 

 そんな京佳に、龍珠が話しかける。

 

「何で、こんな事になってるんだ…?」

 

 これまでも同性からチョコレートを貰ってきたが、ここまでじゃ無かった。一体何が原因なのだろうか。

 

「そりゃお前、去年の文化祭の演劇だろ」

 

「あー…」

 

 龍珠の言葉で、京佳は原因を特定できた。文化祭で、京佳は王子様役を演じている。そして、その姿に心奪われた女生徒が大量に発生してしまったのだ。その結果が、これである。

 因みに龍珠も演劇効果のせいなのか、靴箱に4つほどチョコが入っていた。

 

「お返し、どうしよう?」

 

「別にいいだろ。向こうもお返しされるなんて思ってないだろうし」

 

「いや、そういう訳にはいかんだろ…」

 

 今年のホワイトデーも、大変そうだ。今から予定を考えておかなければ。

 

「そうだ龍珠。はいこれ」

 

「お、さんきゅ」

 

 取り合えず未来の事は未来の自分に託すと事にした。そして京佳は、鞄からチョコレートの入った箱を取り出し、龍珠に渡す。所謂、友チョコだ。

 

「んじゃこれ」

 

「ん。ありがと」

 

 京佳のチョコレートを受け取ったお返しに、龍珠はブラックサンという全国何処のスーパーにでも売っている市販のチョコ菓子を京佳に渡す。お値段、1個30円。

 

「で、この大量のチョコどうすんだ?」

 

「まぁ家に持って帰って、チョコレートフォンデュにでもするよ。それか全部纏めて砕いてとかして、ケーキでも作るさ」

 

 折角貰ったチョコレート。捨てるのは申し訳ない。なので京佳は、責任持ってしっかりと全部食べて処理する気でいる。

 だが流石に、この数のチョコを全部一気に食べるのはきつい。ここはチョコを溶かして、それに果物等をつけて食べるとしよう。じゃないと消費しきれない。

 

(体重計が怖いなぁ…)

 

 でもそれだけ、カロリーも摂取する事になる。京佳も女の子。体重を気にするのは当たり前だ。太って白銀に愛想つかされたくないし。暫くはどこかで、カロリーを消費する事も考えなければ。

 取り合えず、ジョギングあたりを考えてみよう。あれ体重を減らすと言う意味では、あんまり効果無いらしいけど、やらないよりマシの筈だ。

 

(さて、私も放課後に配るとするか)

 

 受け取った大量のチョコレートを1度ロッカーに全部しまって、京佳は放課後にチョコを渡す事を考える。

 

 

 

 放課後

 

「やぁ石上」

 

「あ、どうもっす。立花先輩」

 

 教室にチョコレートを置いたままにして生徒会室に向う途中、京佳は両手にチョコレートを沢山持っている石上と遭遇した。

 

「はいこれ。チョコだよ。どうぞ」

 

「マジっすか。ありがとうございます」

 

 そして京佳は、そのまま石上にチョコを渡す。

 

「にしても、随分沢山貰ってるな」

 

「そうっすね。いやー、まいっちゃうっすねー。これはもしかして、僕にもモテ期きたんじゃないっすかー?」

 

 京佳に言われ、石上は少しにやける。今まで母親以外にチョコレートを貰った事の無い石上。

 しかし、今年は違う。クラスメイトの小野寺と大仏。更にここに来る途中で藤原からも受け取っているし、何より憧れのつばめ先輩からも貰ったのだ。おかげで石上は、モテ期が来たのだと本気で考えだしていた。

 

 これは余談だが、そのつばめ先輩はこの日最終的に80個以上のチョコレートを様々な人から受け取っていた。流石秀知院のマドンナ。数が違う。

 

「あはは、マジで来たかもですねこれ。えへへへ…ふひ」

 

 そして石上は、めっちゃにやついた顔をする。正直、気持ち悪い。ここで少し落ち着かせる為にも、釘を刺しておこう。

 

「あまりそうやってにやつきながらヘラヘラしていると、つばめ先輩に嫌われるかもだぞ?」

 

「そうですね。もっとシャキっとします」

 

「切り替え早いな」

 

 京佳の言葉を聞いて、石上はスンッとなりシャキっとした。だって、それは嫌だからだ。つばめ先輩から嫌われるなんて、絶対に嫌である。本当なら白銀にこれだけチョコレートを貰った事を自慢しようと思っていたが、石上はその思いを秒で捨てた。つばめ先輩に、嫌われたくないから。シャキっとした石上は、そのまま京佳と2人並んで生徒会室に向う。

 

「失礼します」

 

「入るぞー」

 

 そして生徒会室に入ると、

 

「うむ…変な物は入っていない、よな…?」

 

「1度開封しないとはっきりとは…」

 

 そこには机の前で、30個以上はある大量のチョコレートを検品している白銀と伊井野がいた。言うまでも無いが、これ全部白銀宛のチョコレートだ。市販の高級チョコから手作りまで、様々である。

 

「さ、流石会長…すっげー沢山貰ってますね…」

 

「たまたまだ。去年は生徒会メンバー以外からは貰ってないしな」

 

(やっぱ勝てねぇ…)

 

 自慢しないでよかったと、石上は本気で思う。所詮自分なんて、井の中の蛙だったのだ。こんなので自慢しようだなんて、無知にも程がある。

 

「へぇ…モテモテだな白銀」

 

「ち、違うって!これはそんなんじゃないって!どうせ殆ど義理とかだしな!!」

 

 そんな大量のチョコレートを貰っている白銀に、少しだけ嫉妬する京佳。別に白銀自身ヘラヘラしていないが、彼女として少し思うところはある。

 

「そうだ。伊井野、これは私からだ」

 

「え!?あ、ありがとうございます!!」

 

 その気持ちを押さえつつ、京佳は伊井野にチョコを渡す。まさか自分がチョコを貰えるとは思っていなかった伊井野は、驚きながらも嬉しそうにそのチョコを受け取った。

 

「……」

 

 だが伊井野は、どこか落ち着かない様子。なんというか、凄く緊張しているように見える。

 

「…立花。ちょっといいか?」

 

「ん、わかった」

 

 白銀に言われて、京佳は生徒会室を出る。そして2人は、生徒会室を後にした。残っているのは、石上と伊井野の2人だけ。

 

「白銀、何かあるのか?」

 

「あー、ちょっとな。今はあの2人だけにしてやってくれ」

 

「ふむ…」

 

 京佳は事情を知らないのだが、実は最近、伊井野は石上に好意を向けているのだ。因みに京佳は、最近の2人の様子を見て「おや?」と思いつつも、確証を得られないのでこの真実までたどり着けていない。なお藤原は、全く気が付いていない。彼女はいい加減、ラヴ探偵の名前を返上した方がいいと思う。

 そして今日伊井野は、腕を折った時にお世話になったというお礼を込めて、石上にチョコレートを渡す気でいる。でも誰かに見られていたら渡せそうにないので、白銀はこうして1度生徒会室を出たのである。

 

「白銀」

 

「何だ?」

 

 それはそれとして、良い機会だ。この隙に、白銀にチョコレートを渡すとしよう。

 

「その、だな…」

 

 京佳は鞄に手を入れてチョコを探す。

 

「……ん?」

 

「どうした?」

 

「いや…あれ?」

 

 しかし、無い。鞄の中を覗いて見るが、チョコが無い。どこにも、ハート形の箱に入ったチョコが見当たらない。

 

「……すまない。渡したい物があったんだが、教室に忘れたみたいだ…」

 

 京佳は思い出す。朝、貰ったチョコレートをロッカーに入れていた事を。恐らくその時、白銀に渡すチョコも一緒の混ざってしまったのだろう。少なくとも、朝教室に来た時は絶対にあったし、あるとしたらロッカーしかない。

 

「直ぐに取ってくる!だから待っててくれ!」

 

「お、おう。別に逃げないから走らなくてもいいぞ?」

 

 そう言うと京佳は、大急ぎで教室に戻る。

 

「はい、翼くん」

 

「ありがとう、渚」

 

「うう…ぐすっ…」

 

 道中、また1人で床に倒れて泣いている子を見たが、今は関わりたくないので無視する事にした。彼女には白銀にチョコを渡したあとで、チョコをあげて元気つけるとしよう。

 

「よし、あった!!箱もへこんでいない!!」

 

 そして教室にたどりついた京佳は、ロッカーの中から白銀に渡す予定のチョコを見つける。

これでようやく、白銀にチョコを渡せる。

 

「やっほー京佳」

 

「早坂?」

 

 再び白銀の元に戻ろうとした時、廊下から早坂が現れた。そしてその手には、綺麗な小箱がひとつ。

 

「それは?」

 

「今日は、バレンタインでしょ?」

 

 それは勿論、チョコレートだ。それも、京佳に送る分の。

 

「正直、すっごく悩んだ。今更、こんな事してもいいのかって」

 

 早坂は、ずっと京佳を裏切って来た。あのクリスマスの件だって、かぐやを止めずに京佳を追い詰める真似をした。

 

「でも、今私がここにいられるのは、間違いなく京佳のおかげ。京佳がいなかったら、多分今頃どこかで監禁されてたと思うし。これは、そのお礼だよ」

 

 しかし、修学旅行で京佳は自分を助けてくれた。それに京佳は言ってくれた。自分は、友達だと。だからこれは、所謂友チョコだ。

 

「京佳。こんな私だけど、これからも友達でいてくれる?」

 

 そう言うと早坂は、京佳にチョコを差し出す。

 

「勿論。これからもよろしく」

 

「はは、なんかこれ、告白みたいですっごい恥ずい…」

 

 早坂は顔を真っ赤にする。実際、かなり恥ずかしい。そして京佳は、もう今更早坂に対してどうこう思う事は無い。あの件は、もう終わったのだ。既にちゃんとケジメもつけているので、これ以上何も言わない。これからは、また以前のように普通に過ごしたいと思っている。これは、その1歩目になるだろう。

 

「それじゃ次は、入ってきたら?」

 

「ん?」

 

 チョコを京佳に渡した早坂は、廊下で待機しているある人物を呼ぶ。

 

「ど、どうも立花さん…」

 

「四宮か」

 

 それは、かぐやであった。そして早坂同様、その手にはチョコの入った箱がある。

 

「あの、どうぞです。今までのお詫びも込めてって訳じゃありませんが、かなり美味しい物を選びましたので」

 

「うん、ありがと」

 

 両手で持ったチョコを、かぐやは頭を下げながら京佳に渡す。そして京佳も、それをちゃんと受け取る。かぐやも早坂同様、既にケジメをつけているからだ。今更何か言うなんて、ねちっこくてダサイ真似はしない。

 

「それと、あの…」

 

 しかし、かぐやはまだ何かある様子。

 

「えっと、会長にチョコを渡してもいいでしょうか?」

 

 そしてかぐやは、不安そうな顔をして京佳にそう尋ねた。

 

「今まで本当にご迷惑をお掛けしてますし、そのお礼として義理を通す為にも渡したいんです。も、勿論立花さんがダメだというのなら渡しません!!」

 

 あんな事をしておいて、チョコを渡すなんてどうかしていると自分でも思うかぐや。でも、やはりお礼としてしっかりと渡しておきたい。これが我儘なのはわかっているが、それでも渡しておきたいのだ。

 

「構わないよ」

 

「ほ、本当に?」

 

「うん」

 

「っありがとうございます」

 

 そんなかぐやの願いを、京佳は聞き入れる。ただお世話になったお礼として、チョコを渡すだけだ。なんの問題も無い。

 

「あ、でも渡すどさくさに紛れて抱きつくとかはやめてくれよ?」

 

「流石にもうそんな真似しませんから!!」

 

「大丈夫だよ京佳。もし万が一かぐやがそんな真似したら、私が殴ってでも止めるから」

 

「愛さん!?」

 

 京佳に許可を貰ったので、かぐやは白銀にチョコを渡す事にした。当然だが、告白染みた事は絶対にしない。これはあくまで、日ごろの感謝の気持ちを渡すだけである。それ以上の気持ちは、もうかぐやには無いのだから。

 

 その後京佳は、かぐやと早坂にもチョコを渡して、更に偶然その場を通った藤原にもチョコを渡して、教室を出るのだった。

 

 

 

 

 

「皆、バレンタインを堪能してるな」

 

 白銀は、廊下の窓から外を見る。チョコを渡す女子生徒、それを受け取る男子生徒。そんな人らが、至る所で見られる。心なしか、学園全体が甘い空気で満たされている気がした。

 

(伊井野は、無事石上に渡せたんだろうか?)

 

 そして、生徒会室にいる伊井野の事を少し心配。かつての自分みたいにヘタれず、ちゃんと渡せていればいいなと思う。

 

「あの、会長」

 

「む?」

 

 そう思っていると、聞きなれた声が聞こえる。白銀が声のした方を向くと、そこには緊張した面持ちのかぐやが、綺麗に梱包された箱を持って立っていた。

 

「本当は、あげるべきじゃないって思ってました。あれだけの事をした私が、こんな事するなんて、厚顔無恥で、おこがましいにも程があるって…でもその、日ごろのお礼って事で…」

 

 とても緊張した様子で、かぐやは白銀に話す。いくら京佳に良いと言われても、白銀もそうとは限らない。なんせ、した事がした事だ。チョコの受け取りを拒否されても、仕方が無い。

 

「あのでも…もしいらないって思うのなら」

 

「いや、ありがたく受け取ろう」

 

 だが白銀は、かぐやからのチョコを受け取る。

 

「四宮、もうあまり自分を責めるな。あの件は、もう終わったんだ。四宮はちゃんとケジメを付けた。これ以上、自分を必要以上に追い詰めて罰する真似はしないでくれ」

 

 そして白銀は、かぐやに諭すようにそう言った。このままでは、かぐやはずっと自分を責め続けるかもしれない。それはダメだ。これ以上責める真似はさせない。だってかぐやは、もうちゃんと罪を償っているのだから。

 

「本当に、優しいんですね会長は」

 

 少しだけ、肩が軽くなるかぐや。そして、本当にもっと早く素直になっていればとちょっと後悔。こんなに良い人、もう会えないかもしれない。プライドなんてさっさと捨てて、自分から告白していれば、今頃恋人になれて幸せな日々を送れたであろう。

 でも、そうはならなかった。そうはならなかったのだ。だから、この話はここでお終い。あまり考えすぎると、また変な事をしてしまいそうだし。

 

「それでは、私はこれで。あ、直ぐに本命が来るので、どうかそのままお待ちを」

 

 そう言うとかぐやは、その場を立ち去る。そして入れ替わるように、京佳が白銀の元へ戻って来た。

 

「その、白銀」

 

「あ、ああ」

 

 お互い、何故か急に緊張し出す。やはり恋人同士となると、こんな風に緊張してしまうようだ。

 

「最初は、どうすれば良いのかなって悩んでたんだ。口にはしないけど、かなり変な事も考えていた」

 

「変な事?」

 

「まぁ、色々とね」

 

 実際、あの時の自分はおかしかった。緊張のし過ぎとも言えるだろう。

 

「とまぁ色々考えたんだが、変な事せずに素直に行く事にしたよ」

 

 同時に京佳は、この間朝子店長に言われた事を思い出す。

 

―――

 

『京佳ちゃん。こういうのはね、下手な事せずに素直に渡すだけでいいのよ?』

 

『素直に、ですか?』

 

『そう。だって自分の恋人から貰った初めてのチョコになるんでしょ?それだけで、男の子は絶対に嬉しいもの。だから、自分の素直な思いをそのまま口にして、チョコを渡しなさい。奇抜な事なんて、しなくていいわ』

 

『…わかりました。どうも私、混乱してたみたいです』

 

『ふふ、どういたしまして。頑張ってね』

 

―――

 

 敢えて印象に残りそうな、変な事はしない。ただ素直に、自分の気持ちをそのままぶつける。

 

 

 

「ハッピーバレンタイン白銀。どうか、私の気持ちを受け取って欲しい」

 

 

 

 鞄からハート型の箱に入ったチョコレートを、白銀に差し出す京佳。

 

「ありがとう立花。是非、それを受け取らせてもらう」

 

 そして白銀は、そのチョコを受け取る。2人共、顔が赤いがとても笑顔だ。誰が見ても、幸せだと思う雰囲気である。

 

 こうして、京佳のバレンタインは成功したのであった。願うなら、また来年もこうしてチョコを渡したい。その頃白銀はアメリカにいるが、どうにかして渡したい。

 そんな願いを胸に秘めながら、京佳のバレンタインは過ぎていく。

 

 

 

 「あ。それとこれは圭とおじさんの分だ。渡しておいてくれ」

 

 「マジか。わざわざありがとうな。ちゃんと渡すよ。2人共絶対に喜ぶと思うし」

 

 当然だが、白銀帰宅後に圭と白銀父は大層喜ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

「おい小島」

 

「え?」

 

「ふん!」ビュン

 

「うお!?」バシッ

 

「やる」

 

(マジかよ…めっちゃ嬉しい…)

 

 

 

 




 小島が龍珠から貰ったのは、1個30円のブラックサンチョコです。でも彼は、人生で1番嬉しく思っていました。そしてそれを大事に大事に、じっくりねっとり食べました。

 そして京佳さんは、この日段ボールを抱えて帰りました。

 次回は、多分白銀家引っ越しのお話。その後に藤原と石上の誕生日とか書いて行く予定。

 それでは皆様、ハッピーバレンタイン。またね。

皆はチョコを貰えた?

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