もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
あとあかね噺、超面白い。
「石上くん」
「はい?何ですか四宮先輩?」
3年生の卒業式が迫ったある日、学校の廊下で、かぐやは石上を呼び止める。
「とても大事なお話があるの。今日はもう生徒会のお仕事も終わってるし、この後少し付き合ってもらっていいかしら?」
そして突然、石上に誘いをかけてきた。あえて言うならば、放課後デートのお誘いである。しかし、その顔は真剣そのもの。一切のおふざけを感じさせない。恐らく、本当に大事な話があるのだろう。
「わかりました。行きます」
石上もそれを感じ取ったのか、かぐやのお誘いを受ける。同時に、一体どんな話があるのかと疑問に思うが、絶対に告白では無いだろうと断言。そもそもかぐやが、自分に告白なんて真似する訳が無いし、仮に億にひとつの可能性でそんな事があっても、石上は子安つばめが好きなので断るつもりだ。
「それじゃ、行きましょうか」
「はい」
そして2人は、並んで歩いて学校から出ていく。
「ねぇ、あれって…」
「嘘…何で四宮先輩と石上が?」
その2人の様子を、偶然見ていた1年生は驚愕。なんせあの石上とかぐやがである。月とスッポンくらいの格の違いがあるのに、まさかの一緒にお出かけ。一体どんな汚い方法でかぐやを誑し込んだのかと考えてしまう。一刻も早く、かぐやを助けたほうがいいかもしれない。
これまでだったら、そうなっただろう。
「でもさ、もしもあの噂が本当だったら、別にそんな事しないんじゃ…?」
「それは、そうかも…」
だが今、この学校ではとある噂が流れている。
それは石上に関係する噂であり、内容は『荻野の浮気を咎めた石上が、荻野に悪い噂を流された』というものだ。
この噂は一気に学校に蔓延し、特に1年生に対しては噂が広がる速度が凄まじかった。これまでは、石上が大友に対してストーカー行為をしてきたというものだったのに、実はそれが荻野の逆恨みに等しい嘘だった。
その話を一様に皆が信じて、石上に対して冷たい態度や酷いことを言ったりしてきたのである。でも実は、それが全部荻野の嘘。おかげで今、彼ら彼女らには罪悪感が出てきているのだ。
「それにさ、最近の石上って成績も上がってるし、何より生徒会でずっとちゃんと仕事してきてるし…」
「だよね…生徒会に入ってからは問題何も起こして無いし、それにあの四宮先輩や子安先輩が普通に接してるし…」
更にここに来て、これまでの石上の行動が生きた。生徒会でしっかりと仕事をし、つばめに相応しい男になるために必死になって勉強もして来た。その行動と今蔓延している噂が合わさり、もう殆どの1年生は石上を悪く見たりすることが無くなったのである。
「…やめよっか。思い込みで行動したら、私たち最低な事した事になるし…」
「そうだね…やめよ…」
結果として、偶然見ていた1年生は何もしない事を選択。そしてその場を立ち去り、いつも通りに過ごすのであった。
「あの、四宮先輩…ここは?」
「以前、藤原さんと食べにきたカフェよ」
そしてかぐやと共に学校を出た石上だったのだが、眼の前のお洒落なカフェを見て足がすくんでいた。なんかキラキラしているし、客層もどこかお洒落で綺麗な人達ばかり。自分のような陰キャには、縁もゆかりも無い店。正直、入るのに相当な勇気がいる。
「……お洒落で落ち着かない…」
普段は外食なんて、せいぜいファミレスか牛丼屋かラーメン屋くらいしか行かない石上にとって、こんな陽キャの、それもトップ層が行くであろうカフェは耐性が無くて落ち着かない。今の彼を他の人が見れば、キョドっているようにしか見えないだろう。
「慣れなさい。もしつばめ先輩と正式にお付き合う事になったら、こういう場所に行った時にそんな風に落ち着きが無かったら愛想つかされるわよ?」
「全力で慣れます」
「よろしい」
でもかぐやの一言で、石上は瞬時にシャキっとした。だって、それは嫌だからだ。つばめ先輩に、そんなダサイ自分を見せたくない。だから今この場で、耐性を作る。こうして石上は、かぐやと共にお洒落なカフェへと足を踏み入れるのであった。
「おまたせしました。パンケーキセットです」
「ありがとうございます」
「ど、どうもです」
かぐやと石上が座っている席に、店員がパンケーキセットを持ってくる。フワフワした3段パンケーキの上には、苺とクリームが乗っており、見ただけで食欲をそそられる。一緒に運ばれてきた紅茶とも、相性は最高だろう。
「先ずは、食べましょうか」
「うっす。いただきます」
かぐやと共に、パンケーキにフォークを指して口に運ぶ。
「うっま!?」
「でしょ。ここのパンケーキ、本当に美味しいのよ」
その味は、石上の想像を絶して美味しかった。本当にフワフワで、甘くて美味しい。こんなに美味しいものがあるだなんて、今まで知らなかった。
その後も、2人は黙々とパンケーキを食べる。ていうか、喋ろうにもフォークが先に動いて喋れない。先ずは全部食べてから、かぐやの話とやらを聞くことにしよう。
「ふぅ…マジで美味かったです。ごちそうさまでした」
「ふふ、そんなに喜ぶなんて、連れてきたかいがあったわ」
食後の紅茶をおかわりしながら、2人は一服する。
「それで四宮先輩、話って何ですか?」
そして石上は、かぐやに質問をする。既にパンケーキは食べ終わったので、そろそろ聞いても良い頃合いだと思ったからだ。
「石上くん。あなた、今度の卒業式で子安つばめに告白をするの?」
「……いきなりっすね」
「もう直ぐだもの。聞きたくもなるわよ」
そんな石上の質問に、かぐやはそう答える。
「一応、式が終わったらしようと思っています。学校裏のとある場所に呼び出して、そこで先輩に自分の気持ちを今度こそ最後まで伝えます」
勿論、石上は逃げずに告白をする気でいる。ようやく、どん底だった自分が憧れの先輩に近づけたのだ。この機を逃すなんて、絶対にしない。正直怖い部分もあるが、それでも石上は自分の思いをちゃんと伝えるきでいる。告白せずにお別れが、1番辛いから。
「そう。私と違って素直でいいことね」
そんな石上の覚悟を、かぐやは本気で尊敬する。自分だったら、よっぽど追い詰められないとそんな事できないからだ。
「必ず自分の思いを伝えなさい。じゃないと、私みたいになるからね」
「……ん?」
石上は、そのかぐやの言葉に違和感を覚える。だって今の言い方だと、まるでかぐやは振られたみたいな感じだからだ。
(あれ…?)
ここで石上は、最近の事を思い出す。やたらと距離の近い白銀と京佳。その様子を見ても、嫉妬しないかぐや。おまけにかぐやは突然髪を短くしてるし、
そして今聞いたかぐやの台詞。この一連の事を頭の中で結びつけた石上は、とある結論に至った。
「あの、もしかして、そのー…ひょっとして四宮先輩って…会長に、そのー…」
「ええ、私、会長に振られたわ」
「……マジっすか」
「マジよ」
そして、その結論は的中。なんとかぐやは、既に白銀に振られていたのだ。
この事実に、石上は驚愕。石上の中では、白銀とかぐやは本当にお似合いの2人だったからだ。もし2人が付き合っていたら、心のそこから応援していただろう。
だがそのかぐやが、まさか白銀に振られているとは思ってもいなかった。間違いなく、今年1番の驚きだ。
「因みに、聞いていいのかどうかわからないんですけど、原因は?」
「まぁ、原因は、私がさっさと素直にならなかった事ね。今となっては、もう後悔しかないわ」
もしもだ。かぐやが去年の夏に入る前に白銀に告白していれば、京佳は絶対に負けていただろう。
だがかぐやは、そうはしなかった。自分から告白するのは負けた気がするし、自分のプライドがそれを許さなかったからである。そんなもの、早く捨てて素直になればよかった。後悔先に立たずとは、まさにこの事だろう。
(多分、立花先輩に先越されたんだろうな…)
そして石上は、正解にたどり着いた。最近の白銀と京佳の距離感を見ていれば、この答えにたどり着くのも当然だろう。
「おまけに私、その後もみっともない真似をしたのよね。本当に、自分が情けなくて恥ずかしい」
「……何したんすか?」
「それはちょっと言えないわね。でも、本当にみっともない事よ」
「わ、わかりました」
一体何があったか凄く気になるが、かぐやが死んだ目をしているので、石上はそれ以上聞くのをやめる。怖いから。
「石上くん、あなたは間違いなく変わったわ。去年の今頃は、まるで死んだような状態だったのに、今は別人と言ってもいいくらいだもの」
かぐやの言う通り、もし1年前の石上と今の石上が出会ったら、誰も同一人物とは思わないだろう。今の石上は勉強も出来るようになったし、顔つきも違う。行動力もあるし、何より自信に溢れている。彼は本当に、この1年で成長をした。これが、恋の力なのかもしれない。
「これは私からの助言。もし子安つばめに告白をして、その時に断られても、そのまま勢いで告白を続けなさい」
「えっと、それって逆に引かれたりしませんか?」
「無いわね。私の見立てだと、彼女押しに結構弱いみたいだし」
「あ、それはなんかわかります」
2人の言う通り、つばめは超押しに弱い。もしも石上がブルドーザーのように必死で告白をすれば、この恋は成就するかもしれない。
「だからこそ、卒業式の日は、自分の全てを出し切りなさい。自分の想い、気持ち、熱を全部彼女のぶつけるの。この日死んでもいいくらいに、全部出し切りなさいね」
かぐやはそう言って、石上に助言を続ける。
石上は、かなり辛い目にあった。同級生ほぼ全てが敵になり、家族からも冷たくされる。そんな彼が、本気の恋をした。そしてその恋を成就させるべく、必死になって努力をしたのだ。
そんな頑張り屋の後輩に、自分と同じようになってほしくない。だからかぐやは、石上に助言をする。自分を反面教師にして、彼の恋が授受するように。
「あなたは、私みたいになったらダメよ?失恋って、想像以上に辛いから。だから、最後の最後まで素直になってあがきなさい。自分が幸せになるためにもね」
「はい!!ありがとうございます!!」
そして石上は、そのかぐやの助言を素直に聞く。同時に、絶対に今度の卒業式で、全部を出し切って告白をしようと決める。多分失恋したら、数ヶ月は立ち直れないだろうし、こんなに自分を応援してくれるかぐやに申し訳が無い。
だから、あがく。最後の最後まであがく。勝負が完全につくその瞬間まで、あがいてみせる。
「それじゃ、ゲン担ぎをしましょうか」
「え?デザートでゲン担ぎですか?」
「そうよ。あ、すみません。このモンブランを2つください。あと、紅茶のおかわりを」
「はい、直ぐにお持ちいたします」
そう言うとかぐやは、店員にモンブランを注文する。実は栗は勝ち栗と呼ばれており、勝負に勝つという意味があるのだ。
そしてモンブランは、栗で作られたデザート。現状、これ以上のゲン担ぎは無いだろう。
その後2人は、そのモンブランも美味しくいただいた。
こうして石上は、卒業式後の告白に向けて決意を固める。絶対に、この恋を成就させる為に。
「立花、少しいいか?」
「何だ?」
時間は、少しだけ遡る。生徒会の仕事を終えて帰ろうとしていた時、白銀が京佳を飛び止める。
「実はな、今日今から少し伊井野と2人で出かけるんだが、その、許可をもらいたくて…」
「はい?」
そして彼女である京佳に対して、そんなお願いをしてきた。
「えっと、どうして伊井野と2人で?」
流石に浮気では無いだろうが、自分の彼氏が他の女子と一緒にどこかに出かけるというのは普通に超気になる。
「伊井野から、少し相談受けていてな。学校じゃできないから、ちょっとだけ2人きりになれる場所に行こうって事にしたんだ」
そして白銀は、素直に京佳に話す。ここ最近、白銀は伊井野から色々と相談を受けていた。そして、それはいよいよ佳境に入っている。ここまで来たら、もう最後まで面倒を見る。
だが言った通り、学校でする話じゃないので、どこか別の場所に移動することにしたのだ。その為の、今日2人きりである。
「あ!勿論これは浮気なんかじゃないぞ!?本当に伊井野に相談を受けているだけだ!!断じて邪な気持ちは無い!!」
しかし、彼女に許可なく他の女の子と一緒に過ごすわけにはいかない。当然、白銀のその気は全く無いのだが、それでも京佳に誤解されたら大変だ。だからちゃんと、言葉でこれは浮気じゃないと言うことにした。
「いいよ。行ってきても」
「ほ、本当に?」
「白銀がそんな人じゃ無いことくらい知ってるし、私もそれだけで嫉妬したり束縛するような女じゃないしね」
無論京佳も、その事は理解できている。そもそも浮気する人が、こんな風に直接言いに来るわけが無い。それに、白銀は誠実な人だ。そんな事、絶対にしないだろうという信頼があるので、京佳は白銀が伊井野と2人きりでいることを許可する。
「感謝する」
「うん、あ、でも」
「うん?」
「もしも万が一、何かの間違いでそんな事したら、私泣いちゃうからな?」
「大丈夫だ!絶対に立花を泣かせるような事はしない!!」
でも念のため、少しだけ釘は指しておく。そんな事絶対に無いだろうが、それでも一応念のためにそう言っておく。
都内 某ハンバーガーチェーン店
「あーっと、伊井野?」
「何ですか?」
「……いや、やっぱりなんでも無い」
伊井野と2人きりになった白銀が選んだ場所は、有名なハンバーガー店を選んでいた。ここの2階に隅っこの席なら、周りの雑音で相当に耳を凝らしておかないとこちらの会話は聞こえないだろうし、お財布にも優しい場所だからだ。だが白銀は、眼の前に光景に少し唖然としている。
なんせ今伊井野のトレーの上には、ハンバーガー3つ、ポテトLサイズ2つ、チキンナゲット20個、ホットチョコパイが3つ、ドリンクのLサイズ2つというとんでもないボリュームの食べ物があるのだ。正直、見ているだけでお腹がいっぱいになりそうである。
(こいつ、こんなに食べるのになんでそんなに痩せ型なんだ…)
見た通り、伊井野はかなり細い体つきをしている。これだけの量を食べ切れるというのに、一向にぽっちゃりになる様子が無い。一体どんな体をしているか、本気で疑問だ。因みに白銀は、普通のハンバーガーセットである。
「あ、先ず食べていいですか?」
「あ、うん」
そしてかぐやと石上と同じように、伊井野と白銀は先ず注文したセットを食べることにした。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
(マジで食べきった…すげーなこいつ…)
10分後、伊井野は注文した品を綺麗にちゃんと食べきっていた。もし彼女が食べ放題のお店に行ったら、どんなことになるのか見てみたい気がする。
「それで伊井野、お前はどうする気だ?」
「……どうって、何がですか?」
「石上の事だ。あいつ、先ず間違いなく子安先輩に告白するぞ」
「……」
お互い食べきったので、早速相談を始める白銀。現在伊井野は、石上に惹かれている。きっけかなんて、わからない。気がついたら、石上を好きになっていた。だがその石上は、子安つばめに恋をしている。所謂、三角関係だ。
はっきり言って、伊井野から見れば戦況はかなり悪い。なんせ相手は、学園のマドンナと言われている子安つばめ。おまけに彼女自信も、石上に対して結構な好印象を持っている。このままならば、来週には2人は恋人になっているかもしれない。
対して自分は、規律にうるさい堅物の風紀員で、石上とはつばめ程仲は良くない。かと言って、昔みたいに目を合わせれば喧嘩するまでは仲が悪くも無い。実際石上は、バレンタインで伊井野からチョコを貰った時、嬉しそうにしていた。
でも、仮に告白をしても受け入れてもらえるとは思えない。だったら、何も言わずにいたほうが楽かもしれない。そうすれば、今の関係が壊れる事は無いから。
「あまり大声では言えないが、何も伝えずに終わるのは、かなりクルものがあるぞ。というか、絶対に後悔する」
しかしそれでも、想いを伝えずに終わるのはとてもキツイ。だから素直に、自分の気持ちを言うべきではあるのだ。その方が、色々と楽になるから。
「できません…だって、これはいけないことですし…」
でも、そう簡単にはいかない。伊井野は、とても規律に厳しい子。それは他人に対してだけで無く、自分に対してもだ。そんな伊井野にとって、この横恋慕は悪いことになる。だからそんな真似、どうしてもできないのだ。
「こんな事なら、いっそ石上を嫌いなままの方が良かったなぁ…」
でも、辛い。いくらそうだと思っていても、この気持ちはとても辛い。石上がつばめと仲良さそうにしているのを見ると、鼻の奥がツーンとなる。胸が締め付けかれて、苦しくなる。こんな事なら、恋なんてしなければよかったと後悔しだす。
「伊井野。よく聞け」
そんな伊井野に、白銀は話しかける。
「俺はな、1人凄い子を知っている。その子は、圧倒的に不利な状況だったのに、最後まで諦めずに前進して、最後には自分の夢を叶えた子だ」
言うまでも無く、それは京佳の事だ。彼女は白銀を振り向かせる為に、文字通りとてもつない努力をしてきた。その結果、ついに最大の恋敵であったかぐやかに勝利し、白銀との恋を成就させることに成功。こんな凄い事ができたのは、京佳が最後まで諦めずに進んだからだろう。
「その子のようになれとは言わない。お前はお前だからな。でも、やる前から諦めるのはダメだ。せめて最後まで、諦めずに食いついてみろ」
伊井野に、同じ事をしろとは言えない。だが、折角の恋だ。どうせなら、諦めずに最後まであがいてほしい。
「それに人間、ルールを守ってばかりじゃ何もできない。偶には、我儘で悪い子になってもいいんじゃないか?」
「我儘で悪い子、ですか?」
「そうだ」
伊井野は本当に優秀で良い子だ。だがそれ故に、堅物でもある。でもそのままだと、本当に欲しいものは一生手に入らないかもしれない。なので今回くらいは、その良い子を捨てて、我儘になってもいいと白銀は思ったのだ。そうすれば、自分の欲しいものも手に入れられるだろうから。
(いいの、かな?)
少しその決断に、悩む伊井野。だって、これはいけないことの筈。そんな事、自分がしても良いのだろうか。
(でも、どうせなら…)
けれど、少しだけ我儘な悪い子になっても良いのかもしれない。ガス抜きというわけでは無いが、偶にはいいのかもしれない。
「我儘になれ、伊井野。後悔しないようにな」
「っはい!」
その言葉を聞いて、伊井野は吹っ切れたような顔をする。だって、やっぱり嫌だからだ。このまま、石上がつばめと一緒になるのを、ただ見ているだけというのは。無論、勝ち目なんてほとんど無い。
でも、あがいてみせよう。最後の最後まで、あがいみよう。振られることになっても、前を向いて倒れよう。多分それが、1番後悔しないだろうから。
「でも、少し見直しました。会長って、色々とアレな人かと思ってたので」
「アレってお前…」
決意を固めた伊井野は、白銀に対して割と酷いことを言う。だが、それも仕方がない。だって白銀は、結構アレな事をしている姿を、伊井野に見られているのだから。
「今だから言いますけど、私白銀会長の事、結構タイプでしたよ」
「え?マジで?」
「ええ。まぁ、あくまでタイプってだけですけど。恋愛につながる事な先ずありませんから」
「そりゃどーも」
それはそれで傷つく。あと伊井野が、めっちゃニヤニヤしているのがちょっとムカツク。
「ご心配無く。会長と立花先輩が付き合っているの、既に知っていますから。なので略奪愛みたいな真似はしませんよ」
「…気がついていたのか?」
「あれだけ距離が近ければ、そりゃ気が付きますよ」
そして伊井野、実は既に2人の関係を知っていた。だから、相手から奪い取るなんて真似はしない。それだけは、絶対にしない。それこそ、悪いことだから。
「じゃあ、とりあえずゲン担ぎと共に英気を養いに行きますか」
「は?」
そう言うと伊井野は、席を立ち上がってトレーを片付け始める。白銀もそれに続いて、2人で店を出る。
「行きましょう、会長」
「えーっと、どこに?」
「さっき言った通り、ゲン担ぎと英気を養いにです。ついてきてください」
「お、おう」
白銀は、伊井野に言われるがままに後のついていく。そして2人がたどり着いたのは、
「美味しー。やっぱりカツ丼っていいですよねー」
「そ、そうだな…」
「こう、庶民の味代表みたいな感じなのに、ちょっと高級感がある感じがいいですよねー。味もいいですし」
「そう、だな…」
都内にある、有名なカツ丼チェーン店だった。ここで伊井野は、ソースカツ丼を2つ食べていた。先ほど言った通り、ゲン担ぎと英気を養う為である。割とこういうゲン担ぎを気にする伊井野にとって、これは必要な事。
だから、しっかりと食べる。そして英気を養い、卒業式に備える。そうすれば、多少はマシなことになるかもしれないから。
(もう、腹いっぱいなんだけどなぁ…)
伊井野が笑顔でカツ丼を食べる一方で、白銀は顔色が悪い。なんせ先程、ハンバーガーセットを食べたばかり。そこに更にカツ丼というのは、少しキツイ。でももうお金を払って食べているので、残すことはしない。勿体ないから。
「あ、すみません。このヒレカツ定食ください」
「はい、少々お待ちください」
「会長はどうします?同じ物でいいですか?」
「マジで勘弁してください」
だが流石に、これ以上は絶対に無理なので、追加注文は丁重にお断りする事にした。
その後、伊井野と分かれて帰宅した白銀だったのだが、そこでとあるミスをしていた事に気がつく。
「あ、おかえりおにぃ。夕飯できてるから、手洗ったら食べてねー」
家に、今日は夕飯いらないという連絡をする事を忘れていたのだ。結果、今白銀の家のリビングの机の上には、家族3人分の夕飯が並んでいる。
「とんかつ…」
「うん。今日はちょっと豪勢にとんかつだよ」
おまけにメニューが、さっき食べたばかりのとんかつだ。これでもう、3回目の夕飯になる。流石に、もう食えない。でもこのまま食べずに残す事はしたくない。
「……圭ちゃん。俺それ夜食に食べるよ。俺、今から緊急で資料作りしないといけないから」
「そう?じゃあラップしとくから、レンジでチンして食べてね」
「ああ」
なので白銀は、嘘をついて深夜に食べる事にした。だってもう、今は絶対に食べれないから。その後、本来する必要の無い資料作りをして、本当に深夜2時に食べるのであった。
でもやっぱりキツかったので、翌朝白銀は胃もたれを起こした。
そして、いよいよ運命の卒業式が迫ってくる。
割とあっさりな感じで書きました。変なところや、矛盾しているところがあれば言ってください。修正いたします。
次回は、いよいよ卒業式。また間開くかもだけど、なんとか書いて見せます。
それでは、また次回。
石上とつばめ先輩は
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くっつく
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くっつかない