もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
あと本作が、まさかの推薦をいいただきました。マジで滅茶苦茶嬉しかったです。本当に、ありがとうございます。
そんな訳で、石上と伊井野、そしてつばめ先輩の恋の行方を、どうぞ。
卒業式。
3年生が卒業する、全国どこの学校でもあるイベントだ。既に式も終わり、多くの3年生が涙を流しながら後輩達と話している。
「メガ子!卒業しないでくださいーー!!」
「もう1年高校生やりましょうよ!!」
(すげー滅茶苦茶な事言ってる…)
そんな中、TG部の藤原と槇原こずえは、涙を流しながら今日卒業するギガ子先輩を引き留めようとしていた。そんな2人を、石上は少し呆れた顔で見ている。
(いや、確かに好きな先輩がいなくなるのは嫌だし寂しいでしょうけど、それは流石にダメでしょうに…)
石上とて、2人の気持ちがわからない訳ではない。もしつばめが、何かの因果でもう1年一緒にいてくれるとしたら、すっごく嬉しいし。
けれど、もう1年態と留年させて一緒にいるというのは我儘を通り越している。そんなお願い、いくらなんでもダメだ。
「いやー、流石に3年生を3回目は私もちょっとね…」
(既に留年してたんかい)
が、ギガ子は既に1度留年していたらしい。それなら、今の藤原と槇原のお願いも案外的外れでは無い気がする。
「でもずっと毎日毎日ゲームしてたじゃん!!大会に向けてFPSばっかりしてたから、てっきり今年も留年するもんだと思ってたのに!!)
(おまけに留年理由が他人事の気がしない)
石上も、相当にゲームが好きだ。新作のゲームはトロコンまでやり込むし、既にプレイし終わったゲームも自分で縛りプレイをしたりして遊ぶこともある。おかげで、去年の石上は成績が超悪かった。
今はかぐやのおかげもあって相当に良くなっているが、それでもいつ自分もまたゲームにハマって成績が下がるかわからない。今の槇原の言葉は、しっかりと自分の胸に刻んでおこう。
(っていうかあの先輩、大会に出るほどゲームしてるんだ。今まで話した事なんて無かったけど、そうと知ってたら藤原先輩にお願いして一緒に遊んだりしてみたかったな…)
生徒会のメンバーは、石上以外禄にゲームをやらない。一応藤原はゲームをするが、彼女はテーブルゲーム専門。石上やギガ子のように、最新のゲームはしないのだ。
もし何かの縁でギガ子と友達になれていたら、絶対に楽しい日を送れただろう。
「まさかプロ相手に12キルして優勝するなんて」
「春からプロ入だもんね」
「私もまさか、就職先が自分の好きなゲームチームの電脳大隊になるだなんて思ってなかったよ。それに大きなスポンサーもついちゃったし、ここで卒業しないと校長やってるおじいちゃんにも迷惑かけちゃうしね」
(待って!?プロ入り!?しかも電脳大隊って日本トップのeスポーツのプロチームじゃん!?そこに就職すんの!?仲良くなりたいとかじゃなくて崇拝の対象なんすけど!?あと校長の孫!?情報が多くて混乱してきた!?)
と思っていたが、それ以上の情報が突然出てきて石上の頭は少しパンクしそうになる。というか、そんな凄い人ならマジでもっと早く知りたかった。あとで サインだけでも貰えないか聞いてみよう。
(つか、藤原先輩もあんな風になるんだな…)
1度深呼吸をした石上は、改めて藤原を見る。普段変な事ばかり言って、何を考えているのかよくわからない彼女だが、今は好きな先輩が卒業するのが悲しく涙を流している普通の女の子。そのちょっとしたギャップに、石上はほんの少しだけグっときた。
(さてと、僕も先輩達にお礼の言葉を送るか…)
そして石上は、お世話になった3年生の団長にあいさつをするため、その場から移動をする。
それが終わったら、いよいよ人生の大一番だ。
生徒会室
「うん、良い景色だ。やっぱり、ここから見える学校が1番いいね」
生徒会室では、白銀の前任の生徒会長が1人で窓の外を見ていた。本来ならその役職柄、大勢の生徒から声をかけられるであろう彼だが、今はひっそりとまるで隠れるように生徒会室にいる。
というのも、彼は割と同級生から嫌われているからだ。
色々と理由はあるが、その辺は長くなるので割愛する。でも決して、何か悪事を働いたとかじゃない、言ってしまえばアレは、秀知院をより良くする為の必要な犠牲というもの。俗に言う、コラテラル・ダメージだ。
おかげで今の秀知院は、かなり風通しの良い学校になっている。彼が動かなければ、秀知院は今も純院と混院の格差があったかもしれない。
「やっぱりここにいましたか、会長」
「おや、見つかってしまったか」
会長が思いにふけっていると、白銀がやってきた。その後ろには京佳や龍珠、そして当時の生徒会メンバーもいる。
「会長、卒業、おめでとうございます」
『おめでとうございます』
そして全員で、会長に対して卒業の言葉を送る。
「ふふ、ありがとう皆。でもよくここにいるってわかったね」
「だって会長、ここからの景色が1番好きだって言ってたじゃないですか」
「覚えていたのかい?」
「はい」
もう2年近く前の事、それも1度しか言っていない事を覚えている。やはり、白銀は優秀だと会長は再確認。彼を生徒会に誘って、本当によかった。
「言っておきますが、このまま帰らせるきはありませんから」
「はい、私たちでちょっとした品を用意しています」
白銀と京佳はそう言うと、手に持っているシャンパンを生徒会室に机の上に置く。勿論、これはノンアルだ。
そしてこれは、自分たちがお世話になった会長に対するお礼。彼がいなければ、今の自分はいなかったと皆が思っている。そんなお世話になった尊敬する先輩を、このまま黙って帰す訳にはいかない。
「……おい白銀、コップは?」
「え?…あ」
だがノンアルシャンパンを開けようとした時、コップが無い事に龍珠が気がつく。
「あ!私直ぐに持ってきます!!」
「僕も行ってきます!!」
それに気がついた当時生徒会メンバーだった現2年生の生徒、松浦あやねと千葉宗介は直ぐにコップを取りに戻る。残ったのは、会長と白銀、京佳と龍珠の4人だ。
「うん、丁度良いから、言っていこうかな」
すると会長が、改まって口を開く。
「白銀くん、そして立花さん。交際、おめでとう」
「っはい!ありがとうございます」
「ありがとございます、会長」
会長の突然の言葉に、白銀と京佳は揃って頭を下げる。因みに白銀は、既に京佳から文化祭の日に裏で会長が協力してくれた事を知っている。知った時は驚いた。まさかあの怪盗の正体が、会長だったなんて予想できなかったからだ。
「それにしても、アレは楽しかったね。まるでアルセーヌ・ルパンになった気分だったよ」
「私はマジで疲れたけどな…」
会長は心底楽しい思いをしていたが、龍珠は単純に作業量がすごかったので疲れたという感想しか出ない。
でも、愚痴は言うが決して後悔はしていない。なんだかんで、龍珠も2人が恋仲になった事が嬉しいからである。
「会長。文化祭の時もそうですが、1年生の頃、私たちに色々教えてくれてありがとうございます」
「俺もです。あの時会長に生徒会に誘われなかったら、今の俺はありませんでした。本当に。ありがとうございます」
そして京佳と白銀は、会長に頭を下げて今までのお礼を言う。実際、もしあの日彼が生徒会に誘ってくれなかったら、白銀は今も卑屈な性格のままだったかもしれない。成績上位者になんて、なれなかったかもしれないし、生徒会長になんて、絶対になっていない。
京佳も、禄に友達なんて作らず生活していたかもしれないし、もしかすると白銀と恋仲になっていなかったかもしれない。それ以外にもいろんな事を彼から教わった。あの日々は、間違いなく自分たちにとって貴重な財産となっている。だから2人にとって会長は、最も尊敬できる恩人なのだ。
「私からも、一応言っておく。生徒会に誘ってくれて、さんきゅーな」
そしてそれは、龍珠も同じ。彼に生徒会に誘われたおかげで、京佳という友人ができた。生徒会で、色んな経験を積めた。おかげで今の自分がある。なので、彼女もお礼は言う。そもそもここでお礼を言わないのは、クズでしかないし。
「ふふ、こうして言われると、流石に恥ずかしいね」
会長は帽子を少し深く被り、恥ずかしそうにしている。彼のこんな一面は、かなり貴重だ。そして会長は、1度深呼吸をして、再び3人に向かって口を開く。
「君たちの幸せを、心から願っているよ」
「っ本当に、ありがとうございます、会長!!」
「ありがとう、ございますっ!」
「あんがとよ」
その言葉に、白銀は少しウルっと来た。恩人が卒業してしまう事、その恩人からこんな嬉しい言葉を送られた事。それらが合わさり、少し泣きそうになっているのだ。でも、泣かない。最後は、笑顔で彼を送り出したいから。
「コップ持ってきました!!」
「ついでに少しお菓子も持ってきました!!」
ちょうどその時、松浦と千葉の2人が戻って来た。これで全員揃った。それを確認した白銀は、とある品を鞄から出す。
「会長。これは、俺たち全員からの贈り物です。どうか、受け取ってください」
それは、小さな白い箱だった。
「ありがとう皆。開けても?」
「勿論です」
会長はそれを受け取り、箱を開ける。
「へぇ、腕時計か」
「会長あまりスマホ使いませんし、似合うと思って選んだんですが、どうでしょうか?」
「凄くいいね。気にいったよ。ありがとう、皆」
プレゼントは、腕時計だった。これは、皆でお金を出し合って買った物である。会長も喜んでくれているし、買ったかいがあった。サプライズプレゼント、大成功である。
「よし、それじゃ、皆で一杯やろうか」
『はい!!』
会長に言われ、白銀はノンアルシャンパンを開けて、人数分のコップに注ぐ。
本当なら卒業証書だけ貰ってさっさと帰るつもりだったが、こうなっては仕方がない。ここは、後輩たちの好意に甘えるとしよう。
こうして、生徒会室でささやかなパーティーが行われるのであった。
(伊井野、頑張れよ)
その最中、白銀は心の中で後輩を応援する。なんせ今日伊井野は、少し我儘になるのだから。
石上は、団長に卒業の言葉を送った後、つばめの元に行くため黙って歩いていた。これから、つばめに告白をするためだ。
(落ち着け…大丈夫だ…四宮先輩の言っていた通りに、自分の気持ちを全部言えば大丈夫だ……あ、少し吐きそう)
だが、その精神は緊張で少し吐きそうになっている。これまでつばめに相応しい男になるために、彼は文字通り血の滲むような努力をしてきた。成績は上がったし、運動だって頑張った。1年前と比べると、まるで別人である。だがそれでも、この思いが成就するかなんてわからない。
(でも、最後までやる。諦めずに、最後まであがいてやる!)
しかし彼は、かぐやと約束したのだ。最後の最後まで、あがいてみせると。だから例え吐きそうな精神状態でも、最後までこの告白をやりきってみせる。
「石上!!」
「うん?」
その時、後ろから声をかけられた。石上が振り返ると、そこには息を切らしている伊井野がいた。恐らく、ここまで走ってきたのだろう。しかし、今は彼女に関わっている時間が惜しい。こちらは一世一代の告白をする気なのだから。
「何だよ伊井野。今日は別に校則違反とかしてないぞ?ゲーム機も持ってきて無い「好き…」うん?」
そして石上がさっさとその場を離れようとした時、伊井野が予想だにしないことを言ってきた。
「わ、私、あんたが、好き…」
「…………え?」
それは、告白。誰が聞いても、告白の言葉だった。そしてそれを聞いた石上は、静止した。
「と、突然こんな事言われて、困惑しているのはわかってる!あんたがこれから、つばめ先輩に告白する事も知ってる!でも、このまま言わないままなのは、無理だった…!」
伊井野は少し申し訳なさそうな顔をしながらも、石上から顔を逸らす事はしない。最後まで、自分の気持ちを伝える気である。
「最初は本気で、あんたの事が嫌いだった…ゲーム機は持ってくるし、授業は禄に聞いて無いし、変に正論ばかり言うし…」
ほんの数ヶ月前までは、そのとおりだった。石上と自分は、まさに水と油。分かりあえる事なんて、絶対に無いだろうと。
「でも、なんか気がついたら好きになってた…」
しかし、今は違う。いつの間にか、伊井野の中で石上優という存在が大きくなっていたからだ。そんな彼が、このまま別の誰かの物になるのは、嫌だ。こんな気持ち、ダメだってわかっている。それでも、何も言わずにこのまま黙っているのはもっと嫌だ。
「タイミングが最悪なのは、理解してる。自分勝手な事をしている自覚もある。あんたの決意に、横から出てきて泥を投げている事もわかってる。でも、もう1度言わせて。私は、あんたが好き」
最後に伊井野は、もう1度はっきりと石上に自分の想いを伝える。
今自分が、ズルイ事をしているのは理解できている。なんせ石上はこれから、つばめに告白をするのだ。恐らく彼は、既に覚悟を決めているだろう。
なのに自分は、その石上の覚悟を揺らがせるような真似をしている。普通だったら、何も言わずに石上の告白を邪魔しないのが1番だ。
でもやっぱり、何も伝えずに石上がつばめと付き合うかもしれないと考えると、胸が痛くて苦しい。だから、言う。卑怯だしズルイとわかっているけど、言う。
そんな伊井野の告白を石上は、
「ごめん、伊井野…」
頭を下げて、断るのであった。
「正直、今告白されて嬉しいとは思ってる。でも、僕が好きなのはつばめ先輩なんだ。だから、伊井野の気持ちには、答えることができない」
石上は、人生で初めて告白をされて嬉しいとは思っている。けれど、ここで伊井野になびくほど、彼がつばめを想っている気持ちは軽くない。それに石上にとって伊井野は、同級生でしか無いのだ。
だから彼女の気持ちには、応えられない。その結果伊井野を傷つける事になったとしても、石上はこの告白を受ける訳にはいかない。
「仮に、仮に勝ち目の無い告白でもつばめ先輩に告白するの…?」
「え?」
「あっ!?違う!今の無し!!別にそういう意味で言った訳じゃなくて…!えっとその…!!」
伊井野は、今自分が最低な事を言った事に慌てる。彼女は今、自分の心の中にある闇のような部分をつい出してしまった。つばめ先輩には本当にお世話になってるし、石上が彼女の為にずっと頑張ってきたのも知っている。それでも、つい思ってしまう。
自分ではダメなのかと。
その結果が、今の発言だ。それにもし石上がつばめに振られたら、自分は間違いなく喜ぶ。最低だ。こんなの最低だ。こんな事、思ってはいけない。
「大丈夫。お前が人を悪く言う奴じゃ無いことくらい、知ってるし。今のはちょっと混乱してつい出ただけだろ?」
「う、うん…多分そう…」
石上は、伊井野に優しくそう言う。
「でも、仮に成功率がかぎり無くゼロでも、僕は言うよ。この気持ちに、嘘はつけないから。僕は、つばめ先輩が好きだから」
そして、自分の気持ちをはっきりと口にする。やはり自分は、つばめが好きだ。例え告白の成功率が低くても、今後彼女に会える事が無くなっても、この気持ちに嘘はつけない。自分はどうしようも無いくらい、子安つばめが好きなのだから。
「…そっか。わかった」
伊井野は石上の言葉を聞いて、何故だか安心したような気持ちになった。勿論、悔しいとは思っている。どうして自分じゃないのかと、悔しい気持ちはある。けれどそれより、自分の気持ちを言えてスッキリした部分の方が少しだけ大きいのだ。やはり白銀に言われ、ちゃんと口にしてよかった。もし何も言わなかったら、絶対に後悔していただろう。
「じゃあ、行ってきなさい。ただし、最後まで諦めるんじゃないわよ。最後の最後まで、徹底的にやってきなさい」
「ありがとう。行ってくる」
伊井野はそう言って、石上を送り出す。そして石上が見えなくなると、その場にしゃがみこんで、うつむく。
(もっと早く、この気持ちに気がつけばよかった…)
伊井野はそれまで石上に対してはあまり良くない感情を持っていたが、生徒会に所属してからはれもかなり減った。クリスマスに腕を骨折した時に色々と自分を助けてくれたし、今年に入ってからは校則違反もほぼ無い。何だったら、自分が勉強を教えた事もあった。
しかし、石上が好きだと気がついたのは本当に最近。そしてその気持に気がついた時には、もう遅かった。自分が何をしても、石上はつばめの方しか向いていない。もっと早くこの気持ちに気がついていれば、ワンチャンあったかもしれないが、現実は非情である。
(これが、失恋か…きっついな…本当に、きついよ…)
伊井野はその場で、静かに涙を流す。時間差で、失恋のショックがやってきたからだ。まるで胸にぽっかりと、穴が空いたような気持ち。頭の中がグチャグチャで、何も考えられない状態。そして伊井野に、ある思いが芽生える。
「…告白成功しなかったら、蹴ってやる」
それは、石上に対する怒り。何だかんだで、自分を降ったのだ。ならばせめて、つばめへの告白は成功してほしい。でないと、また自分は未練がましく何かしてしまいそうだ。理不尽かもしれないが、そんなの今更だ。
「頑張りなさいよ、石上…」
そして伊井野は、呟くように石上にエールを送る。
「あ、優くん」
「お待たせしました、つばめ先輩」
その頃、石上は遂につばめの元へとたどり着いた。その顔は、決意を固めた男の顔。正直、少しドキっとするくらいにはかっこいい。
「先ずは、ご卒業、おめでとうございます」
「うん、ありがとう」
石上は、つばめに対して祝福の言葉を送る。だが、これで終わりじゃない。むしろ、ここからが本番だ。
「つばめ先輩。改めて、言わせてください。好きです。僕と、付き合ってください」
そして石上は、率直に想いを伝えた。変な言い回しの無い、素直でまっすぐな想い。それをしっかりと、つばめの顔を見ながら伝えた。
「…ごめんね」
しかし、その言葉がつばめに届く事は無かった。
「優くんの事はね、好きではあるよ?でもね、この気持ちは親愛に近いの。だから、ごめんなさい…」
そう言うつばめの顔は、今にも泣き出しそうになっている。彼女は、石上の事が嫌いなんかじゃない。むしろ好きな部類に入る。
でもそれは、親愛に近い感情。
だから、石上とは付き合えない。そもそもこんな自分では、彼に絶対迷惑をかけてしまう。だから、このままでいい。このまま、先輩と後輩という関係でいたい。それが、つばめの答えだった。
「足掻きなさい」
その様子を、隠れて見ている存在がいる。かぐやだ。因みに少し離れた場所には、大仏もいる。
今、石上は振られた。これで彼の恋は終わり。
その筈だ。
「足掻きなさい」
だが、まだだ。まだ終わっていない。彼は、かぐやと約束をした。最後の最後まで、絶対に諦めるなと。決して、自分のようにはなるなと。
自分の本気の恋を、成就させてみせろと。
「足掻きなさい!石上くん…!!最後の最後まで、足掻きなさい!!」
かぐやは、決して聞こえない声量で石上にエールを送る。
そしてそのエールに応えるように、石上は行動を開始した。
「先輩!!」
「ふえ!?」
石上は、つばめに近づいて彼女の両手を握る。そして、再び告白を続けるのであった。
「僕は絶対に浮気しません!先輩の隣に立っても恥ずかしくないかっこいい男になります!!良い大学に入って、親の会社継いで大きくして、金銭面でも苦労なんてさせません!!欲しいものがあれば何でも買いますし、僕にしてほしい事があれば何でもします!!」
「え、えっと…!?」
「どれだけウザイって思ってくれても構いません!!でも僕は、先輩が大好きです!!世界中の誰よりも、つばめ先輩が大好きです!!本当の本当に、大大大好きです!!もし僕と付き合いたく無いなら、この手を今ここで振り払ってください!!そして卒業する皆のところへ行ってください!!」
「あ…!あの…!えと…!!」
「必ず僕が先輩を世界で、いや、宇宙で1番幸せにします!!」
「っ!?」
それはまさに、M134ミニガンやMG42機関銃やブローニングM2重機関銃のような想いの連射攻撃。かぐやが言っていた事で、石上もなんとなく知っていた事だが、子安つばめは押しにもの凄く弱い。実際彼女は今、石上の超連射告白により、顔を真っ赤にさせている。
「先輩がおばあちゃんになっても、死んで愛し続けます!いや、仮に先輩が死んだら、その日の内に後追いて一緒にあの世まで行きます!!もし先輩が何かの間違いで地獄に行くような事があっても、一緒に地獄の底まで落ちます!!そして地獄で罪を精算して輪廻転生することになったら、転生した世界で先輩を探してまた愛します!!」
(それは流石に言い過ぎよ石上くん!?)
少し言い過ぎな気もするが、石上は兎に角押しまくった。ここが、彼の天王山なのだ。今ここで全てを出しきらないと、勝てる戦いも勝てなくなる。だから、全部出す。自分の中にある想いを、全部伝える。
「…あ、あはは…びっくりだよ…まさかそこまで、私の事を想ってくれてたなんて…正直、ぐらついちゃった…」
つばめは、顔を真っ赤にしながらも、決して石上の手を振り払おうとはしない。そしてそのままつばめは、ゆっくりと話しだす。
「実はね、私少し前に、大友ちゃんに会ってきたの」
「!?」
「そしたら、大喧嘩になっちゃった…」
彼女は少し前、そもそも石上が嫌われる原因になった大友京子に会いに行ってきた。だがそこで大友から聞いた石上と、自分が知っている石上がまるで別人だったのだ。それが、とても嫌だった。
そして気がつけば、大喧嘩になっていた。何だったら、お互いコップの中にある水をかけあったくらいの大喧嘩である。おかげでもう2度と、つばめが大友と会う事は無いだろう。
「私ね、優くんの事は好き。でもどうしても、後輩としてしか見れない自分がいる。けれど優くんを降って傷つけるのは嫌だ。いっそお試しで付き合えば楽になるとも考えたけど、それはただの問題の先送りでしかない…」
確かに、そんなノリで付き合っても双方幸せになんてなれない。むしろ、深いトラウマが出来る可能性が高い。
「だから、本当に酷いけど、このままの関係でいようって思ってた。いっそ告白も無かった事にして、今の先輩後輩のままでいようって。男女の友情を貫こうって。今の関係が、好きだから…」
1度告白をして、友達でいようなんて簡単じゃない。逆に距離が空いて、友達ですらなくなる事の方が多い。それに、つばめは恋愛にトラウマがある。いくら石上が良くても、いずれは何か小さな事がきっかけでまた酷い事になるかもしれない。そんな不安があるのだ。そうなるくらいなら、このままでいい。現状維持が、1番誰も傷つかない筈。
「そう、思ってた筈なんだけどなぁ…」
「え?」
だがつばめは、今の石上の熱烈な超連射告白を受け、その考えに本当に小さな綻びができてしまった。
「軽い女って思わちゃうけど、今の優くんの告白を聞いてたら、凄く嬉しいって思ってる自分がいるの。今の今まで、あんな事自分で言ってたくせにね」
先ほどの石上の告白により、つばめの気持ちが揺らぎ始めた。元々押しに凄く弱い子というのもあるが、石上の全てを出し切った告白。それを聞いて、とても嬉しいと思っている自分がいる事に気がついたのだ。同時に、こんな彼が他の女の子と付き合っている姿を想像すると、なんだか凄くムカツク事にも気がついた。
嫌だ。
石上を他の誰かに取られたくない。この土壇場で、そんな気持ちが出てきたのだ。覚悟を決めてきた筈なのに、裏で色々と石上の為にとある作戦も実行してきたのに、それでも今は石上といたいと思ってしまっている。
「あはは…本当に酷いよね私…今ね、優くんともっと一緒にいたいって思ってる。本当に、こんな簡単に気持ちが変わる自分が嫌だな…」
先ほどと打って変わって、正反対な事を言っている自分が嫌いだ。でも、今は石上ともっと一緒にいたい。本当は石上を降るつもりだったのに、気がつけば気持ちが凄く傾いてしまっている。
つまり、ほんのタッチの差で石上の言葉がつばめの心に届いたのだ。
「先輩」
「何?」
「僕は、そんな先輩も好きです。この星で、いや宇宙で1番あなたが好きです。先輩が傷つくような事は、絶対にしません」
ここで石上は、更に自分の想いをぶつける。なんせまだ、全部を出し切っていない。
「僕と、付き合ってください」
最後の最後、本当に最後まで、彼は全力を出し切る。それが、かぐやや伊井野との約束なのだ。
「本当に?今みたいに、言葉だけで決意が揺らぐような軽い女だよ?私」
「大丈夫です」
「私、本当に面倒くさい女だよ?嫌いになるかもだよ?」
「僕が先輩を嫌いになるなんて、ペンギンが空を自在に飛ぶくらい絶対にありえません」
「他にも、私結構束縛気味な女だよ?優くんが、他の女の子と話しているだけで、嫉妬するような器の小さい女だよ?」
「そんな先輩も、凄く可愛いです。あとそもそも、僕が他の女の子と話す事は無いです」
「おはようとおやすみのあいさつとか、記念日とか忘れると凄く不貞腐れるし、例え優くんが仕事で忙しくてもデートをちゃんとしてくれないと機嫌が悪くなるような、本当に本当に重い女だよ?」
「問題ありません。先輩の為に使う時間に、無駄な物は何もありませんから」
「あはは…そっか…」
(重い…)
想像以上に重い事に、かぐやが若干引いていた。でもかぐや、自覚無いだろうがお前もこんな子だぞ。
「優くん」
「はい」
そしてとうとう、最後の審判が下される。
「これから、よろしくね。先輩後輩としてでは無く、恋人として」
「っはい!よろしくお願いします!!」
つばめの言葉を聞いて、石上は涙を流しながらつばめの両手をぎゅっと力強く握る。
結ばれた。決して結ばれないであろう恋、決して成就しないはずの恋が、今成就した。まさに奇跡だ。いや、これは奇跡じゃない。石上が最後の最後まで諦めずに、前を向いて進み続けた当然の結果だ。
「本当に、おめでとう石上くん…」
その幸せな様子を見ていたかぐやは、泣いていた。後輩の恋が、成就したのだ。こんなに嬉しい事は無い。あとで彼には、何かお祝いの品を送るとしよう。国内旅行券とか良いかもしれない。
「どうか、幸せにね」
そしてかぐやは、最後に2人に祝福の言葉を送る。当然2人には聞こえていないだろうが、そんなの些細な事だ。
だって今2人は、本当に幸せそうなのだから。
この日、石上優は子安つばめと恋人になった。
遂に石上の恋、決着!!でもちょっとあっさり気味ですかねこれ。もしかすると、後で少し追記するかも。
アンケート参考にしましたが、なんかつばめ先輩って男運なさそうなイメージがあって、ここで石上逃したら、良い相手見つけるのに超苦労しそうだなって思ってまして。本作ではこんな結末にしました。そんで伊井野、ごめん。
現在、活動報告に本作の今後について少し書いておリます。よければそちらも読んでください。その他変なところや、矛盾しているところがあったら言ってください。修正いたします。
↓活動報告
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=339781&uid=187617
それでは、また次回。