もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・   作:ゾキラファス

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 今回は卒業式から時間が少しとんで、春休みの話しとなっております。そして伊井野回です。
 あと全然関係無いけど、例のかぐや様Tシャツ買いました。

 それでは、どうぞ。


伊井野ミコとストレス発散

 

 

 

 

 

 春休み。

 卒業式も終業式も終わり、新学期までのほんのひとときの間、学生が遊べるおよそ2周間の自由な期間。この間に思いっきり遊ぶ者、いつものように勉強する者、僅かな期間だか旅行に行く者など、各々が思い思いに過ごしている短期休暇期間だ。

 この期間に疲れた体とメンタルを回復し、新学期に望む。春休みは、いわば生徒たちの充電期間なのである。

 

 そんな春休みも時期に終わりそうな後半の週、伊井野ミコはというと、

 

「あ、ちょうちょだ。まちなかでもいるんだー。かわいいー」

 

 割とメンタルが死にかけていた。

 

 卒業式の日、伊井野は石上に告白をし、見事フラれた。元々、勝ち目なんてほぼ無い勝負ではあった。なんせ石上が好きなのは、とても魅力的な女性である子安つばめ。自分なんか、色んな部分で負けている。

 おまけにそもそも、伊井野が石上の恋を自覚したのはほんの最近。あまりにスタートが遅かった。周回送れなんてもんじゃない。そりゃ、今更追いかけても間に合わないだろう。

 

 そして何より決定的だったのは、石上の想いの強さだ。

 

 彼のつばめに対する想いは、本当に大きくて、眩しかった。それがわかった時、伊井野は思った。『ああ、勝てない』と。

 

 少しだけ石上の気持ちを受ける事が出来るつばめに嫉妬もしたが、そこまでだ。自分の気持ちはちゃんと言えたし、スッキリはできた。人生初の失恋が結構キツイが、それも時間が解決してくれるだろう。これで良い。後はこれを糧に、前に進んでいけばいいだけだ。

 

 

 

 と、思っていたのが大間違い。

 

 

 

 辛い。超辛い。失恋って想像を絶する辛さというのを、伊井野は石上に告白した翌日に初めて知った。勉強は全然身につかないし、考えも纏まらない。毎日やっている予習復習も、まるで進まない。気分転換に街に繰り出してみたが、街中で幸せそうなカップルを見ると、もうそれだけで辛い。

 

 因みに友達である大仏や小野寺は、どうしても外せない用事があるらしいので、本日伊井野は1人で街に出ている。そうやって1人で出ているのも伊井野は寂しく感じ、メンタルが削られているのだ。こういう時、1人は本当に寂しいし辛いから。

 

 それだけじゃない。石上が告白を成功させた翌日、彼は生徒会室で壮大に惚気たのだ。

 

 ーーーーー

 

『マジで僕今幸せです。好きな人と一緒になれるって、こんなに幸せなんですね。ほら、今朝もつばめ先輩からおはようってメッセージが来てるんですよ。これヤバくないですか?いや~本当、まいっちゃいますね。勿論、即返信しました。にしても、マジで幸せっすよ。そもそもですね』

 

『石上くん!!今直ぐその口閉じないと、私が無理やり黙らせますよ!?』

 

 ーーーーー

 

 その後、藤原が今日のおやつにと持ってきたロールケーキを「そぉい!」と口にぶち込まれるまで、石上はずっと惚気続けた。

 この時伊井野は生徒会室の外にいたのだが、それでもこういった話しを聞くのはキツイし辛い。どうして自分は、そうならなかったのかと感じてしまうからだ。

 

「あー、きょうはくもひとつないかいせいだなー」

 

 その度重なる辛さを受けた結果、伊井野はメンタルが限界を迎え、今のように壊れかけているのであった。

 

「何してるんだろ…私…」

 

 暫く街中のベンチに座り、空を見上げていた伊井野は、ようやく冷静になる。

 

(ちゃんと祝福しないといけないのに…どうしてもそれができそうにない…)

 

 そして、今自分が凄く醜くて酷い事を思っているのを自覚してしまう。自分はもうフラれているのだから、告白が成功した石上をしっかりと祝福しないといけない。でも、それができそうにない。どうしても、嫉妬してしまいそうだからだ。

 

(本当、どーしよ…)

 

 折角気分転換に街に出てきたというのに、これでは何の意味も無い。もう家に帰って、1日中ふて寝でもしようかと伊井野は思い始めた。

 

「ん?」

 

 ふと視線を街中に移すと、人混みの中に見覚えのある2人がいるのを確認。

 

「会長と、立花先輩…」

 

 それは、白銀と京佳だった。2人共私服姿で、楽しそうに街中を歩いている。恐らく、いや間違いなくデート中なのだろう。ここで2人に声をかける程、伊井野は空気が読めない子じゃない。そのまま2人をその場で動かずにじっと見送る。

 

「いいなぁ…」

 

 同時に、とっても羨ましく思った。自分ももう少し早く気持ちに気がついて、積極的に行動していれば、今頃あの2人のようにデートとかしていたのかもしれない。でもどんなにそう思っても、時間を巻き戻す事はできない。この失恋を受け入れて、生きていくしかないのだ。

 

(そう簡単に、できないよ…)

 

 最も、それができたら苦労なんてしない。だから伊井野は今、こうして辛い気分でいるのだ。

 

「伊井野さん?」

 

「え?」

 

 そうやって伊井野が落ち込んでいると、突然声をかけられた。

 

「四宮先輩?それに…」

 

「久しぶり、かしらね?まぁ、あんまり喋った事無いけど」

 

 伊井野が顔を上げると、そこにはかぐやと眞妃がいた。割と珍しい組み合わせである。それはそうと、少し気になる事があった。

 

「あの、先輩方?なんか吐血してるように見えるのですが、何かありましたか?」

 

「気にしないでください…」

 

「ええ、気にしないで…」

 

 そしてどういう訳か、2人とも口から少し血が出ている。あと、目が死んでいるようにも見える。多分、白銀と京佳。そして翼と渚が街中で楽しそうにデートしながら歩いているところを偶然見たりしたのだろう。

 

「そうですか…えっとじゃあ、お2人はどうして街に?」

 

「実は、今日2人でデザートバイキングに行く予定がありまして」

 

「ちょっとお互い、ガス抜きついでにね」

 

「デザートバイキング…」

 

 どうやら、かぐやと眞妃の2人はデザートバイキングに行くらしい。そういえば、最近そういった甘い物を食べた記憶があまり無い。いや、コンビニのシュークリームくらいなら食べたが、ケーキはまだだ。石上と藤原の誕生日は、藤原が殆どのケーキを食べていたし。

 

「そうだ。良ければ、伊井野さんも一緒に来ませんか?」

 

「え?」

 

「そうね。私はいいわよ?」

 

 そんな事を思っていると、かぐやが伊井野を誘ってきた。眞妃も嫌がらず、伊井野が来ることを良しとしている。

 

「……その、迷惑じゃなければ、お願いします」

 

「ええ、勿論」

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

 そのかぐやのお誘いを、伊井野は受ける事にした。こうしてとある共通点のある3人は、その足でデザートバイキングに行くことにしたのである。

 

 

 

 

 

「凄い…」

 

 伊井野の眼の前の机の上には、様々なお菓子が並んでいた。ケーキにシュークリーム、クッキーにゼリー、タルトやドーナッツにプリン。そしてコーヒーや紅茶やジュース等などの、あらゆる美味しそうな物が並んでいる。これら全部、好きに食べていい。乙女にとって、まさに夢みたいな光景である。

 

「こ、これ全部食べていんですか!?」

 

「勿論よ。だって食べ放題なんですもの」

 

「足りなかったらまた注文していいわよ」

 

「で、では!いただきます!!」

 

 目を輝かせながら、伊井野は先ずチョコレートケーキにフォークを刺して、口に運ぶ。

 

「んー!美味しい…!」

 

 直後、口の中に広がる甘い感触。食べているだけで、幸せな気分になる。やはり甘い物は、乙女にとって最高の幸せだ。

 

「ふふ、そうね。ここのケーキは本当に美味しいわ」

 

「私はケーキよりタルトが好きね。紅茶によく合うわ」

 

 その後3人は、思い思いに様々なデザートを食べていく。しかし食べている途中、伊井野はふと気がついた。

 

「ところで、お2人とも、結構食べますね?」

 

 かぐやと眞妃の2人が、思っている以上に食べるのだ。伊井野も沢山食べているのだが、それと同じくらい2人が食べている。正直、かなり珍しい光景だ。

 

「ええ。今日は所謂ヤケ食いをしにきていますからね」

 

「ヤ、ヤケ食い?」

 

「そうよ。今日は兎に角しこたま食べて、ストレスを発散させるの」

 

 その伊井野の質問に、かぐやが答える。しかし、ヤケ食いとはなんだろうか。なんというか、2人らしくない気がする。一体2人に、何があったというのか凄く気になる。

 

(でも、聞いていいのかな?)

 

 けれど、恐らくプライベートな事。おいそれと、聞いて良い訳ないだろう。そもそも伊井野は、そういった話しを聞くことにかなり躊躇いを持っている。

 だから、聞こうと思っても聞かない子なのだ。勿論、凄く気にはなるが。

 

「気になるのでしょう?別にいいわよ?話しても」

 

「そうね。もう隠すような事でも無いし」

 

「へ?」

 

 そんな伊井野の疑問に、かぐやと眞妃は答える事にした。どうせずっと秘密にするような話でもないし、ここは話して伊井野のモヤモヤを払拭させよう。

 

「実は私、会長に告白して振られたわ」

 

「え?」

 

「そして私は、好きな人に告白する前にその人を友人に取られたわ」

 

「え゛」

 

 そして2人の話を聞いた伊井野は、ぎょっとする。だってそれは、今の伊井野と共通点のある話しだったからだ。

 

「そう、だったんですか?」

 

「ええ。おまけに私は、会長にフラれた事実を受け入れたく無くて、その後酷い事をしてしまったわ」

 

「酷いこと?」

 

「そうよ。今思えば、あの時の私はどうかしていたわね。あんな事するだなんて…」

 

 一体に何をしたというのか。気になるが、流石に踏み込めないっぽいので、伊井野は追求する事をやめた。

 

「私もさー、未だにあの2人を心から祝福できそうにないのよねー。今もまだ嫉妬しちゃうしさー」

 

 そして眞妃。彼女も、伊井野と同じようにずっと嫉妬している。もう完全に終わった恋なので、ちゃんと友人を祝福しないといけない筈なのに、それが未だにできない。

 だってまだ、好きなんだもん。今も翼の事が、好きでたまらないから。だから諦めきれなくて、2人がイチャイチャしているのを見ると嫉妬する。そして泣く。

 

「いいじゃないですか嫉妬くらい。私、今年の正月にとある人に出会ったんですが、彼は言ってましたよ。嫉妬するのは当たり前だって。別に悪い事じゃないって」

 

「そんなもんかしら?」

 

「そうですよ。それに、失恋は女をより美しくするとも言ってましたよ。だから、これからまた素晴らしい恋をすればいいんですよ」

 

「…………それができそうにないけどね」

 

「…………わかります」

 

 お互い本気の恋だったが故に、簡単に割り切れない。勿論、いずれは必ず吹っ切れないとダメなのだが、今はまだ無理そうである。

 

「そういえば伊井野さん。あなたも随分落ち込んでいたみたいですが、何かありましたか?」

 

「そういえばそうね。何か悩みがあったら聞くわよ?」

 

 ここでかぐやと眞妃は、伊井野に話しを降る。思えば、伊井野はずっと落ち込んでいる顔をしていた。先輩として、お悩み相談くらいはしてあげよう。

 

 

 

「じ、実は私も、先日フラれまして…」

 

「「え?」」

 

 

 

 だがその答えを聞いた時、かぐやも眞妃もあっけに取られた。まさか、彼女も自分たちの同類だったとは、と。

 

「伊井野さん。詳しく話しを聞かせてください」

 

「そうね。聞かせて。話せば案外、楽になったりするものだし」

 

「は、はい…」

 

 その後、伊井野は卒業式の事は話した。いつの間にか石上が好きになり、成功確率が低かったけど、このまま何も伝えずにいる方が嫌だったから告白したこと。案の定、石上にフラれた事。そして今、人生初の失恋が相当に辛く、かなり落ち込んでいる事。

 

「自分の想いを、しっかり伝えた筈なのに、フラれてちゃんともう踏ん切りつけた筈なのに、それでも凄く辛いです…勉強も集中できないし、頭がぼーっとする時間が増えて、夜も寝付けないし…」

 

 伊井野は、かなり限界だった。かぐやも眞妃も、失恋した直後は酷いもものであった。かぐやに至っては、自分がしでかした事もあって、自殺をしようとしていたくらいである。

 

「伊井野さん。いいかしら?」

 

 そんな経験があったから、かぐやは伊井野に色々とアドバイスをすることができた。

 

「私ね、会長にフラれた時、本当に落ち込んだ。もういっそ、この世からいなくなれば、こんなに苦しい想いをする事も無いんじゃないかって思ったりもしたわ。まぁ、藤原さんのおかげで踏みとどまれたんだけど」

 

「叔母さま、そこまでだったの?」

 

「そうですよ眞妃さん。それだけ、本気だったんですから…」

 

 白銀の変わりなんていない。そう思うくらい、かぐやは白銀に本気だった。そんな恋が終わったのだ。落ち込ませない訳が無い。

 

「これも受け売りなんですけど、本気の恋の失恋は、時間をかけて傷を癒し、前を見て進んでいくしかないんですよ。10年後も、その事で落ち込んでいる事なんてほぼ無いらしいですから」

 

 だがそれも、時間が解決してくれる。無論、そうじゃ無い場合もあるが、大抵は時間経過でなんとかなるのだ。ありがとう、インドのシンさん。この教えは決して忘れない。かぐやは固くそう誓っている。

 

「でも、今とても辛いのはよくわかります。なのでそんなあなたに、今ぴったりの方法を教えます」

 

「ぴったりの方法?」

 

 時間以外で、そんな方法があるというのか。是非聞きたい。伊井野は姿勢を正して、かぐやの言葉を待つ。

 

「今ここで、全部吐き出しなさい」

 

「吐き出す?」

 

「そう。今思っている事、これまで溜め込んだ事全部を、ここで吐き出しなさい」

 

 それは、溜まっていた物を全部出しきる事。ストレスや辛い出来事は、1度全部吐き出せば結構楽になる。実際今日かぐやと眞妃がこのデザートバイキングに来ているのも、ストレス発散が目的だ。

 

「何でもいいわ。過去の自分に対する恨み言や、そもそもストレスの原因になっている人の悪口、今思っている不満不平。そして失恋した事に対する事。それら全部を言葉にして吐き出しなさい」

 

 言葉にするというのは、かなり大事。そうする事で、自分の中にある膿のような不満が

なくなったりする。もしくは、スッキリするのだ。勿論、必ずしもそうとは限らない。でも、何もしないよりは全然マシである。

 

「だから、言いなさい?幸いこの個室は、防音になってるわ。どれだけ騒いでも、お店に迷惑になる事はないわよ」

 

「全部吐き出しなさい。私たちも、全部吐き出すから」

 

「は、はい…!なんとかやってみます!!」

 

 これでこの辛い気分が無くなるかはわからない。しかし、どうせなら試してみよう。

 

 

 

 数年後、伊井野はこの時の集まりをこう称した。

 

 恋の負け犬バイキング、と。

 

 

 

 1時間後。

 

「ええ!わかってますよ!そもそも私がさっさと素直にならなかったせいだって事くらい!でもしょうがないじゃ無いですか!!そんな簡単に素直になれたら苦労しませんもん!!」

 

「そうよね叔母さま!そんな事できたら私だって中学の頃には翼くんと付き合っていたわよ!!」

 

 3人がいる個室では、かぐやと眞妃が色んなデザートを食べながら壮大に愚痴をこぼしていた。2人共、自分のせいで恋が成就しなかった事くらいはわかっているし、この恋がもう終わっているのも理解している。

 でも、やはりそう簡単に割り切れない。2人共、失恋して以来ずっとストレスが溜まっている。だからこそ、先ほど伊井野に言ったように、愚痴を言いながら兎に角しこたまヤケ食いしてやろうと決めて、このデザートバイキングに来たのである。こういう時は、やまほど食べて愚痴を吐き出し、そしてよく寝る事が大事。

そうすれば、ストレスもかなり発散されからだ。

 

 まぁ、また白銀と京佳、翼と渚らがイチャイチャしているのを見たらストレスが溜まるだろうが。

 

「つーかそもそも誰よ!!あの壁ダァァンとかいうの教えたの!!あれのせいで渚と翼くんは付き合う事になったっていうのに!!あれさえなければ!!あれさえなければぁぁぁ…!!」

 

「……本当にそうですよね!!一体誰なんでしょう!!」

 

 白銀。

 

「うううう!私だって、私だって頑張ったんですよ!?私なりに会長にアプローチしたり、偶に積極的になったりして、会長を落とそうとしていたんですよ!?それなのに、それなのにあの女の方がずっと素直だったせいでぇ…!!自業自得とはいえ、辛いんですよこれーー!!」

 

「うううう!わかるわ!何で恋路ってこんなに理不尽なのよぉ…!!少しくらい私たちにもチャンス与えてもいいでしょうにぃぃぃ…!!なんでなのよ恋愛の神様ぁぁぁーーー!!」

 

 恋愛の神様は、ちゃんと2人にもチャンスを与えてはいた。でもそれを生かせていないお前らが悪い、とは流石に口が避けても言えない。

 

「ていうか渚も翼くんもさ!イチャイチャするなら場所選んでよ!!なんで態々私がいる時に隠れてするわけ!?何!?当てつけ!?当てつけなの!?マジで1回ぶっ叩くわよ!?」

 

「そうですね!別にイチャイチャするなとは言いませんが、場所は本当に選んでほしいものです!!それを見てしまっているこっちの事も多少は考えてくださいよ!!まぁ、そんな事言う資格、私には無いんですけどね!!」

 

「えぇ…」

 

 そんな中、伊井野は2人の勢いに怖気ついていた。ていうか怖い。こんなに色々言える2人が怖い。あと迫力が半端じゃない。いくら吐き出せと言われても、こんな風には言えそうにない。

 おかげで最初は自分も言おうとしたいたが、今ではすっかり萎縮して言えなくなってしまっている。

 

「伊井野さんもほら!早く言いたい事言いなさい!!」

 

「え」

 

「どうせここは個室の防音仕様の部屋だからどれだけ騒いでも大丈夫よ!だから吐き出しなさい!!」

 

「え、えーっと…」

 

「「さぁ!!早く!!」」

 

 だがそんな伊井野にかぐやと眞妃の2人にグイグイこられた結果、伊井野も遂に覚悟を決める。本来ならこんな事は絶対にしないだろうが、今日はもうどうでもいい。

 それに、白銀も言っていた。偶には悪い子になってもいいもんだと。

 

「すーっはーっ…」

 

 そして伊井野は、ハジケた。

 

 

 

 数分後

 

「そりゃ確かに私が好きになった時期は遅かったですよ!?でも仕方がないじゃないですか!!それまでは全然そんな気持ちじゃなかったんですから!!そもそも1年前まで石上は本当に素行不良の生徒だったんですよ!?そんな人をどうやって好きになれっていうんですか!?まぁ最終的には好きになったんですけどね!?」

 

「ええ、ええ!わかりますよ伊井野さん!!私も最初は会長の事、別に好きなんかじゃありませんでした!!むしろ嫌いな気持ちの方が強かったですし!!それが気がつけばあんなに好きになるだなんて、そんな事わかりませんよ!!」

 

「その通りよ2人共!!私も最初は翼くんの事、私や渚に近づいてくるナヨナヨした奴って印象しか無かったし!普通に警戒していたわ!!それが気がついたらあんなに好きになって、本気になって!!そうなるんだったら最初から何か手を打っていたわ!!」

 

 3人揃って、あーだこーだと色んな事を口にする。

 

「そもそもですよ!あいつ毎回毎回校則を破って!何度私が注意した事か!少しくらいこっちに対して申し訳ない気持ちを持ってほしいです!!ていうか毎回ちゃんと注意している私に感謝してほしいですよ!!」

 

「本当にそうよ!!会長だって私が仕事を完璧にしたおかげで生徒会が廻っていたのに、もう少し私に感謝してほしいわよ!!」

 

「そうよそうよ!!翼くんと渚だって、私が何度気を聞かせて部室に2人きりにさせてあげたことか!!その度に私が何度人知れず泣いていた事か!!」

 

 別に本気で感謝して、その恩義で自分と付き合って欲しいとは思っていない。これはただ、もう勢いで言いたいこと全部言っているだけだ。どうせ誰も聞いていないし。

 

「あーもう!なんか腹立ってきた!新しいケーキ注文していいですか!?」

 

「いいわよ伊井野さん!ついでにこのカボチャタルトもお願い!!」

 

「私は紅茶のおかわりとこのデラックスパフェ!!」

 

 その後新しいデザートを注文し、ぶっちゃけタイムは延長された。

 

 しかし、流石にずっとこの店にいる訳にもいかず、それから暫くして3人は店を退店。

 

 だが、まだ全然吐き出せていない。これでは、不満や愚痴が溜まったままだ。それはいけない。だって今日は、それらを吐き出す為に出かけている。

 

 なので3人は、その後もストレス発散と失恋の辛さを緩和する為に、様々な場所に向かい、そこで本気で遊んだ。

 

「1番伊井野ミコ!歌いまーす!!」

 

「「いえーい!!」」

 

 カラオケで色んな曲を熱唱したり、

 

「伊井野さん!もうちょっとで取れそうなので両替お願いします!!」

 

「了解しました!」

 

「叔母さま!次私ね!!」

 

 ゲームセンターでクレームをして大量のぬいぐるみを取ったり、

 

「しゃおらぁぁぁ!!ホームランーー!!」

 

「ナイスです眞妃さん!まさか150キロのストレートをああも大きく打つなんて!」

 

「凄いです四条先輩!かっこいいです!!」

 

 バッティングセンターで沢山ボールを打ったりした。

 

 これまでだったら決して行かない場所で沢山遊び、ストレスを発散させていった。おかげで3人共、かなり色んな物を吐き出せた。心もスッキリしているし、楽しい気持ちでいっぱいになる。

 

 そして沢山遊び回って、辺りがすっかり暗くなった頃、

 

「はぁー…極楽です…」

 

「こういう大衆浴場って初めてですが、いいですね…」

 

「そうね叔母さま…思ってた以上に良いわねここ…」

 

 3人は都内の大きな銭湯に来て、お風呂に浸かっていた。

 

 普段は高級スパか、自宅のお風呂しか入らない3人だが、今日は別。どうせならと、普段とは違う場所に来たのだ。おかげで新鮮な気分になって、気が緩む。

 

「四宮先輩、四条先輩。今日は、誘ってくれてありがとうございます」

 

 肩までお風呂に入りながら、伊井野はかぐやと眞妃にお礼を言う。

 

「おかげで今日、かなりスッキリしました。多分これから暫くの間は、また辛い気持ちで過す事になるんでしょうけど、それでもかなりスッキリしました。本当に、ありがとうございます」

 

「いいのよ。私たちもスッキリしたしね」

 

「そうよ。おかげで私たちの中にあった物が一気に吐き出された気分だし。こういうのを、デトックスっていうのかしらね」

 

 今日1日、本当に楽しく過ごせた。あれだけ自分の中にあった辛い気持ちが、一気に無くなった気分だ。無論、またちょっとした事でストレスが増えたり、辛い気持ちになったりはするだろう。

 

「また、こうして遊びたいですね」

 

「ふふ、そうね。また3人で遊びましょうか」

 

「今度はいっそ、旅行とかでもいいかもね」

 

「旅行だったら、インドはどうですか?私、本当に色々と価値観変わりましたよ」

 

「そうなの?私は殆ど変わらなかったんだけど…」

 

「インドかぁ…美味しいカレーとか食べたいですね」

 

 でも、大丈夫だ。伊井野は、1人じゃない。こうして、同じ境遇の頼れる先輩方がいる。またこうやって会えるかはわからないが、辛くなったらまた会おう。そして思いっきり遊んで、辛さを共に吐き出そう。

 

 おいそこ、傷の舐め合いとか言わない。

 

(うん、頑張ってみよう、私。そしてちゃんと、石上を祝福してあげよ)

 

 こうして伊井野は、なんとか前に進めるようになったのであった。

 

 

 

 

 

 因みに、新学期が始まった時の伊井野なのだが、

 

「石上!!あんた何でまた学校にゲーム機持って来てるのよ!!いくら成績が上がって恋人ができたからと言っても、校則を破って良い理由にはならないんだからね!!」

 

「あー、いや。これはほら、またこの間みたいに設定を英語にして遊んでるし、いいだろ?」

 

「言い訳無用!!兎に角これは没収よ!!」

 

「あ!ちょっと待って!!せめてセーブさせてぇ!!」

 

「往生際が悪いわよ!!そんな素行不良じゃ、つばめ先輩も愛想つかすわよ!?」

 

「それもそうだな。今日から学校でゲームはしないよ」

 

「そんなあっさり!?」

 

 割と以前のように、石上と接する事が出来るようになったのであった。春休みに、かぐやと眞妃と一緒に沢山遊んだおかげだろう。あれがなければ、こうはなっていない。

 

「あ、石上」

 

「何?」

 

「おめでとう。つばめ先輩のこと、大事にしなさいよ?」

 

「当然。あと、ありがとう、伊井野」

 

 そしてちゃんと、石上を祝福することもできた。

 

 こうして、伊井野ミコの恋は終わった。でもその結果、彼女は成長することができたのであった。そしてこの経験が、いずれ彼女に新しい恋が来る事を、願わずにはいられない。

 

 どうか彼女に、幸あれ。

 

 

 

 

 




 伊井野、ストレス発散回と成長回でした。強引かもだけど、これで許してください。

 次回は白銀と京佳の春休みデート回。そしていよいよ?

 どこか変な箇所や、矛盾しているような部分があったら言ってください。修正いたします。

 それでは、また次回。
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