もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
私立秀知院学園 生徒会庶務 立花京佳
彼女は歴史ある秀知院学園の中でも珍しい、高等部から入学した外部入学生、つまり混院の生徒である。秀知院学園は生徒の99%が初等部から入学しており、エスカレーター式に高等部まで進学している。そんな中、全体の僅か1%しかいない混院の生徒というのは非常に浮く存在であった。
実際、例に漏れず、京佳も自分のクラスでは浮いていた。最も、それは混院の生徒と言うだけではなく、その左目にしている黒い眼帯が主な理由なのだが…
当初、純院の生徒である京佳のクラスメイト達は、その姿を見て唖然としていた。その恵まれた背丈もそうだが、何より目立つ黒い眼帯。皆、『何か物騒な事をして傷ついたに違いない』と思ったのだ。結果として、誰一人話しかけらずおり、入学初日から京佳はクラスでは腫物扱いをされていた。
しかし京佳自身、自分の見た目のせいでクラスの雰囲気が悪くなるのがわかっていたため、昼休みにはすぐに教室を出て、誰にも見つかりそうにない場所で昼食を取っていた。
いわゆるボッチ飯である。
そんな京佳のもとに、
『ひょっとして、お前も俺と同じか?』
話けてくる男子生徒がいた。
「懐かしい夢を見た気がする……」
目覚ましのアラームで京佳は目を覚ました。先ほどまで何かしらの夢を見ていたのだろうが、もはや思い出せない。しかし切り替えの早い京佳は、目覚ましを止め、顔を洗うため自室から出た。
そして扉を開けた先には、
「くひゅー…くひゅー…」
「……」
しわだらけになったスーツを着た女性が、両腕をだらーんとした体勢でリビングのソファーで仰向けに寝ていた。京佳はゆっくりと女性へと歩み寄り、右手の親指と人差し指で鼻を摘まんだ。
「………………………ぶっはぁ!?」
当然だが、数秒間息を止められていた女性は勢いよく跳び起きた。
「え!?何!?息できなかったっぽかったけど!?幽霊!?幽霊の仕業!?」
「おはよう、母さん」
「あ、京ちゃんおっはよー」
だらしない体勢でソファー寝ていた女性は、
「お願いだからソファーで寝る癖やめてくれ。風邪ひいちゃうだろう」
「だって残業で疲れてたんだもん。そんな疲れた体で目の前にソファーがあったら寝ちゃうでしょ?」
「そんなことない」
「えー」
そして家ではかなりだらしない。今日もこうして娘の京佳に注意されている。
「朝食はどうする?」
「もちろん貰うわよ。でもその前にシャワー浴びてくるわね~」
そういって佳世は服を脱ぎ捨てながらシャワーを浴びに風呂場へと向かっていった。
(せめて脱衣所で脱いでくれ…)
リビングには佳世が脱ぎ捨てたスーツと下着が散乱しているため、京佳はまずそれらを片付け始めた。そしてその後、2人分の朝食の準備をするのだった。
母親と一緒に朝食を食べ、洗い物を済ませた京佳は、寝巻であるジャージから、最早着慣れた制服に着替え始めた。そして机の上に置いてあった眼帯を装着し、鏡の前で身だしなみを整えていた。すると、違和感に気づいた。
「ん?これは…」
何というか、胸がきついのだ。
「ひょっとして、また育ったのか…?嘘だろ?少し前にブラ変えたばかりだぞ?」
京佳はかなり豊満なバストを持っている。ゆるふわ巨乳と言われている同生徒会メンバーの書記より少し大きいくらいだ。その為、一部の男子生徒からは邪な眼差しを、女生徒からは羨望と嫉妬に似た眼差しを向けられる。
なお、最も嫉妬の眼差しを向けているのは、同じ生徒会のメンバーの副会長だ。
「全く、ここまで大きくなると邪魔なだけだというのに…」
持つ者しか言えないセリフを吐く京佳であった。
同じ頃、走行中の車の中で、
「……」
「どうしました?かぐや様?」
「いえ、どこかで私が欲しいものを簡単に手に入れた人がいた気がしたのよ…」
「はい?」
持たざる者がそんな台詞を吐いていた。
「じゃあ母さん、行ってきます」
「いってらっしゃーい」
学校へ行く準備を終えた京佳は、鞄を手にし、玄関へと向かった。そして靴を履き、ドアノブに手を掛け、
「行ってきます、父さん」
玄関の靴箱の上に置いている父親の写真に挨拶をして、京佳は家を出た。
秀知院学園の生徒は殆どが自家用車での通学なのだが、京佳はバス通学である。最初、母親が『私が送ろうか?』と言っていたが、これまで色々苦労をかけた母親にこれ以上苦労を掛けたくない。それゆえのバス通学であった。
余談だが、京佳はバス代は自分で出すと決めており、それを稼ぐために白銀程では無いがアルバイトをしている。
(さて、何時ものようにこの時間に少しでも勉強しておくか…)
京佳は何時ものように空いている席に座り、鞄から参考書を出して暗記を始めた。秀知院学園の授業レベルは非常に高い。勉強を疎かにするとあっという間に授業についていけなくなる。故に京佳は、こうして時間を見つけては勉強をしている。
因みに、現生徒会長である白銀は、睡眠時間を極限まで削って勉強をしている。そのせいで、日ごろから睡眠不足で非常に目つきが悪いのだが、その話は別の機会に。
(ん?)
京佳が暫く集中して勉強していると、不意に視線を感じた。
(あそこの他校生、もしかして私の事を見ているのか?)
京佳の目線の先には他校の生徒であろう女学生がいた。何やらこちらをチラチラと見ながらヒソヒソと話しているようだ。
(まぁ、大方この眼帯のせいだろうな。目立つし)
京佳は左目に大きな眼帯を付けている。この眼帯のせいで人相が悪く見えることが多々あり、今まさに耳打ちをしている他校性のような反応も一度や二度では無い。それゆえ、京佳は処世術として、そういった者達への反応を一切しないようにしている。そして他校性を視界から外し、再び勉強に集中した。
バスはおよそ30分走り、秀知院学園に到着。京佳はそのまままっすぐ教室に向かおうとしたら、後ろから声をかけられた。
「あ、京佳じゃん!おっはよー!」
「おはよう、早坂」
「いやー、今日もあついよねー」
「全くだ、今から夏が思いやられる」
京佳にあいさつをしてきた生徒の名前は、早坂愛。2週間程前に、落ちてた生徒手帳を拾い、届けたのがきっかけで話すようになったギャルっぽい生徒だ。
しかし、その正体は四宮かぐや専属の従者。学校ではギャルのような生徒を演じる事により、その正体を隠している。因みに、京佳が早坂の生徒手帳を拾ったのは偶然ではなく、早坂の主人であるかぐやに京佳の『情報収集』を命じられ、早坂が態と京佳に拾わせるように仕向けた結果である。
早坂はこの2週間、友人関係を築くことから始めた。そして今では、こうしてあいさつし、他愛のない会話をする程度までには親密になっている。
故に噂の事を聞くのも不自然ではない。早坂はそう思い、主人から聞いた噂の事について聞くことにした。
「そういや京佳、ちょっとした噂を聞いたんだけどさ」
「噂?」
「なんでもさー、京佳と白銀会長が付き合っているって噂なんだよねー」
「……誰から聞いたんだそれ?」
「それはヒミツだし」
早坂が言った噂は、少しでも白銀に自分を意識させるためについた嘘である。実際には、そのような噂は存在しない。その噂を聞いたのは、あの時生徒会室に居た白銀とかぐやの2人だけ。故に早坂がそのことを知っているのはありえないの筈なのだ。
しかし、
(ひょっとして四宮から聞いたのか?)
かぐやと早坂は同じクラスであるため、その疑問は頭から消えた。
「結論を言えば、それは全くのでたらめだ。私は白銀と恋人ではないよ」
「なーんだ、違うのか」
「でも…」
「んー?」
「私はいつの日か、本当に、白銀と恋仲になりたいと思っているよ…」
そう言って京佳は、僅かに微笑んだ。
その笑顔は、まさに恋をする乙女。同性からしても見惚れるくらいの美しい笑顔だった。
(かぐや様、うかうかしていると、本当に白銀会長取られますよ、これ…)
早坂は危機感を募らせた。
このまま自身の主人たるかぐやが『相手から告白されるのを待つ』といったスタンスを取り続けていたら、その間に京佳に白銀を取られかねない。屋敷に帰ったら、必ず主人であるかぐやに警鐘を鳴らそうと決めた。
それだけ、立花京佳という女生徒の思いが強いと感じたからである。
おまけ
バスの中での他校性の会話
「ねぇ、あの人めっちゃかっこよくない?」
「うっわ本当だ。何あれ、あれで本当に私と同じ女?自信無くしそうなんだけど」
「もしかして、モデルさんかな?背高いし、足長いし、胸も大きいし…」
「かもね。でもあの制服秀知院じゃない?あそこって金持ちの学校でしょ?モデルなんていんの?」
「どうだろう?いても不思議は無いと思うけど…」
「ていうか、何?あの胸?何食べたらあんな風になるの?」
「……揉んだりしたら、ご利益とかで私もおっきくなるかな?」
文章書くのって、本当に難しい…
でも頑張る