もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
「いやー、本当に良い天気ですねー」
「だねー。蝉も沢山鳴いているし、まさに夏って感じだよー」
「せ、蝉…」
「どうした白銀?」
昼食を終えた一同は庭に出ていた。空は雲一つない快晴で辺りには蝉の鳴き声が響いている。そして白銀は虫がダメなため、蝉と言う単語に反応していた。
「それでは、何をしましょうか?」
「ふむ、そう言われると悩むな…」
「僕個人は冷房の効いた遊戯室で遊びたいんですけどね」
「石上くん、せっかくこんな素敵な場所に遊びにきたんですからその選択肢は無しですよ?」
これから何をするか話会う一同。石上はできれば屋内で遊びたいようだが、藤原はそれを認めない。皆が悩んでいると、かぐやが提案をしてきた。
「では皆さん、食後の軽い運動をしませんか?」
「運動?」
「はい、具体的に言うとテニスです」
「おお!テニスですか!いいですねやりましょう!」
「さんせーい!」
テニス。
その歴史は古く、一説には起源は紀元前3000年前まで遡ると言われている。歴史が進むごとに、貴族の遊戯として楽しまれたり、庶民の娯楽になったりした今や有名なスポーツだ。なお日本では『庭球』と呼ばれることもある。
かぐやの提案を受けた一同は、裏庭にあるテニスコートに移動し始めた。
「私、テニスなんてやった事ないです…大丈夫かなぁ…」
「白銀さん、これは所詮遊びの延長ですからそう畏まらなくてもいいですよ?」
「は、はい…!」
道中、圭が不安そうにしたが、かぐやはすぐに声をかけそれを取り除こうとする。声をかけられた圭は、少しだけ嬉しそうな顔で返事をした。
歩きだして僅か1分程で一同はテニスコートに着いた。流石四宮家のテニスコートというべきか、綺麗に整備されている。小さいが観客席もあり、選手が休むことができるベンチまで完備。道具もきちんとそろっており、選手と審判がいれば、今すぐにでも試合を始める事ができそうだ。
「凄いな…」
「ですね~会長。今から皆でテニス大会やれそうですよ~」
素直な感想をいう白銀と藤原。
「ねぇねぇかぐやちゃん。このままでテニスやるの?」
「必要であれば、使用人に皆さんの分のテニスウェアやテニスシューズを用意させますよ」
あっけらかんというかぐや。普通はそこまで準備などできないのだが、そこは四宮家。日本最大の財閥に揃えられないものは殆どない。
「あー、すまない。私はまだ少し休憩しているよ」
「え?そうですか。わかりました」
皆が、テニスをやろうと準備する中、京佳はもう少し休憩すると言う。
(食後だから動けないのかしら?)
そんな事を思ったかぐやだったが、特に気にすることも無く、直ぐにあらかじめ用意していたラケットとボールを手にしながらテニスの準備を始めた。
(テニス…テニスかぁ…)
そして白銀はラケットを持ちながら悩んでいた。彼はテニスなど1度もやったことがないからだ。
(もしもここで無様を晒してしまえば…)
―――――
『会長…ボールをラケットに当てる事もできないんですか?』
『白銀…君はそこまで運動オンチだったのか…』
『うっわー、幻滅しました白銀会長』
『会長…超ダサイですよ…』
『おにぃ、きっも…てか恥ずかしい…』
『お可愛いこと…』
―――――
一瞬で自分の名誉が地に落ちるのを思い浮かべる白銀。
(いや、まぁ大丈夫だろう。ただラケットにボールを当ててそれを相手のコートに打ち込むだけの作業だしな。それくらいなら俺でもできる)
しかし白銀は直ぐに大丈夫だろうと楽観視する。そう考えていたその時、
ズパァン!!
テニスコートからもの凄い音がした。白銀が音に驚きながら振り返ると、そこにはいつの間にかラケットを持ったかぐやと、反対側のコートにラケットをもって固まっている石上がいた。
「わぁ!四宮先輩凄いです!」
「流石かぐやさん!」
「うんうん!まるでプロみたい!やっぱかぐやちゃんって凄いよねー!」
「確かにな…あんな早いサーブ初めて見たぞ…」
「ふふ、ありがとうございます皆さん」
女子4人はかぐやを賛美していた。それほど、かぐやのサーブは凄まじかったのだ。流石文武両道で天才のかぐや。テニスも完璧である。
(し、死ぬかと思った…)
一方、反対側のコートにいる石上は、顔面蒼白でカタカタと小刻みに震えていた。いきなり剛速球でボールが自分の近くに飛んできたのだから無理もないが。
(いやあんなのできねーぞ!?)
そして白銀は焦った。少なくとも、自分にはあのような強力なサーブなど打てないからだ。
(落ち着け俺!大丈夫だ!やればできる!!)
なんとか自分にそう言い聞かせる白銀。そして皆がかぐやの方を見ているのを確認して、白銀はラケットを構え、ボールを空中に投げた。そして白銀は大きく振りかぶり、
「ふん!!」
スカ
コロコロ…
「……」
普通に空振りをした。誰も見ていなかったのは幸いだろう。
(く!惜しい!もう少しで当たっていたのに…!)
どこがだと言いたいが、それを言う人物はこの場には居ない。
(どうする?四宮に教えてもらうか?いや、しかしそれはちょっと…)
このままでは間違いなく皆の前で恥をかく。白銀はかぐやにテニスを教わるか悩んだ。しかしプライドが邪魔をしてそれを自分から言う事は出来ない。
「どうしたんだ白銀?」
そんな白銀に、京佳が話しかけてきた。
「あー、いや。実はテニスはやったことがなくてな…少し緊張しているんだ」
「そうだったのか。私と同じだな」
「ん?立花もそうなのか?」
どうやら京佳もテニスはした事が無いようだ。
「ああ。しかし、やはり意外と共通点が多いな私達は」
「はは、確かにな。俺もお前も同じ混院だし、バイトもしているしな」
会話が弾む2人。実際2人は言った通り共通点が多い。混院、バイト、同じ生徒会。価値観が近い事もそのひとつだろう。そんな2人の会話が弾むのは当然かもしれない。
「本当、実際に私達は相性が良いのかもな…」
「ん?相性?」
京佳は少し攻めた台詞を言う。相性が良い。それは勿論男女の意味でだ。相性が良い恋人は長続きするし、喧嘩をすることも少ない。そして何より、一緒に居て幸せな気分になるものだ。
「あー、確かにそうかもな」
「ほ、ほんとか?」
「ああ。立花にはいつも生徒会の仕事で助けられているし、安いスーパーを教えて貰った事もあるし、ほんと、友人としての相性は最高だよな俺達は。こういうのを親友と言うのかもな」
「…………うん、そうだな」
が、白銀には男女の意味では伝わっていなかった。京佳は普通に落ち込んだ。
「どうしたんですかお二人とも?」
そんな2人に今度はかぐやが話しかけてくる。
「いや何、白銀がテニスが初めてみたいで緊張しているらしくてな」
「そうなんですか会長?」
「まぁな。テニスなんてやる機会なかったし」
本当は緊張では無く、皆の前で恥をかきたくないだけなのだが。
「でしたら会長、私が教えましょうか?」
「え?いいのか?」
「はい、勿論」
「ふむ。だったら是非お願いできるか?」
「ええ、お任せください。私が手取り足取り教えてさしあげます」
少し含みを持たせた言い方をするかぐや。その真意は、テニスを白銀に教えながら自分を意識させるというものだ。
身も心も開放的になりやすい旅行。そこで何時も身に着けている制服ではなく、少しだけ露出のある私服姿の自分が軽いボディタッチをしながらテニスを教えれば、間違いなく白銀は自分に対してドギマギする。そこを突けば、あっという間に白銀は自分を意識し、この旅行が終わる頃には自分に告白をしてくるであろうという算段だ。
なお、かぐや自身は露出のある私服と思っているが、その露出度は普段の制服とあまりかわらない。せいぜいスカート丈が少し短いくらいだ。
(ふふ、男の子なんて、少し肌が触れ合えば簡単に落ちると早坂も言っていましたし、これは間違いなく成功するでしょうね。まぁ、少しはしたない気はしますが…)
ひっそりとほくそ笑むかぐや。早速作戦を実行するため、テニスコートに移動を始めた。
(く…!私もテニスを習ってさえいれば…!)
そして京佳はそれを恨めしそうに見ていた。もしテニスを習っていれば、間違いなく自分が白銀に教えていた。しかしそんなたらればの話をしても意味が無い。
(一体、どうすればいんだろうか…?)
京佳が考えを巡らせている間に、白銀とかぐやはテニスコートに入っていった。
「あれ?会長、今からかぐやさんとテニスの試合でもするんですかー?」
白銀に質問をする藤原。
「いや、試合じゃなくて四宮にテニスを教わるんだよ。俺、今まで1度もテニスなんてしたことがないからな」
藤原の質問に答える白銀。それを聞いた藤原は、
「……やめましょう」
「え?」
「やっぱりテニスやめましょう!!」
「ふ、藤原?」
「ふ、藤原さん?」
突然、テニスをやめると言い出した。
「そもそも食後に運動するのお腹が痛くなっちゃいます!!そして雲一つないこの晴天で運動なんてしたら熱中症で倒れるかもです!だからやめましょう!!」
「あ、あの藤原さん?別に試合をする訳では無いんですよ?それに熱中症対策として様々な飲料水を用意していますから問題ないかと…」
「兎に角やめましょう!」
かぐやの説得も聞かず、断固としてテニスをやらないと宣言する藤原。
「いきなりどうしたんだ藤原。さっきまで乗り気だったじゃないか」
白銀が藤原に尋ねる。すると藤原は白銀の近くにより白銀にだけ聞こえる声でこう言った。
「会長。私以外に犠牲者を出さないでください」
「犠牲者って何!?」
藤原は白銀が極度の運動オンチであることを知っている。そしてそんな白銀に運動を教える事がどれだけ大変なのかも。それを知っているからこそ、テニスをやめようと言い出した。友人であるかぐやを新たな犠牲者にしたくない為に。
「そうだ!どうせなら散歩をしましょう!それなら本当に軽い運動ですし!」
「ま、まぁ。藤原がどうしても嫌なら無理にテニスする必要もないが…」
そして、テニスではなく散歩を提案し始めた。
「私はいいよー。森の中を散歩なんてめったにないしねー」
「私もいいよ。千花ねぇ」
「ぼ、僕も、テニスより散歩がいいです…なんかテニス怖くて…」
「はい!多数決で散歩に決定!!」
強引に採決を取り、散歩を強行する藤原。
(ありがとう藤原…)
京佳は藤原に感謝した。これでかぐやが白銀にテニスを手取り足取り教える事が無くなったからだ。
(あーもー!!藤原さんはどうしてそんな事を言うのよー!!あと少しだったのにー!!)
そしてかぐやは怒っていた。せっかくの機会を潰されたせいである。最も、このまま白銀にテニスを教えていれば後悔していただろうが。
「そういえば京佳さんは大丈夫なんですか?」
「何がだ藤原?」
「いや、さっきテニスをしないで休憩していたのは体調が悪いからなのかなぁって思って、今は大丈夫なのかなぁって」
「ああ、そういう事か。別に私は体調が悪くて休憩していた訳じゃないよ」
「え?じゃあどうして?」
「私球技が苦手なんだ。片目じゃイマイチ距離感が掴めなくてね…」
「ああ、成程…」
そろそろ今年も終わり。
次回が年内最後の投稿になるかもです。