もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
「風が気持ちいですね~」
「ですね。普通に涼しいですし」
「でも何で森の中って涼しいのかな?今日も猛暑日なのに」
「それはですね萌葉さん。簡単にいうと、枝や葉っぱが日光を遮断しているおかげなんですよ」
「それだけじゃないぞ四宮。樹木は根から水分を吸って、それを葉っぱから蒸発させるんだ」
「確かそれを蒸散って言ったな」
「正解だ立花。因みに1学期の小テストで出た問題でもある」
(皆詳しい…)
コテージの裏山にある整備された山道。そこには白銀達が、藤原の強行採決により可決、実施された散歩をしていた。当初こそなんとかテニスをやり直そうと考えたかぐやだったが、ここで1人だけ反対すると白銀にわがままな娘という印象を持たれるかもしれないと思い、こうして散歩に参加していた。
「でもやっぱ、森の中だからセミがうるさいっすね」
「でも石上くん?こういうのも、旅行しないと中々聞けないものですよ?」
東京でも勿論セミは生息しているのだが、今皆がいるのは、都会から離れた真昼の森の中。普段、街中で聞く時より、近く、多く、そして四方からセミの鳴き声が聞こえている。これだけ多くのセミが鳴いていれば、石上がうるさく感じるのも仕方ない。
しかし、これも旅行で山に来なければ体験できない出来事。かぐやは諭すように、石上にそう言った。
「セミといえば、俺は鳴き声だけなら、今も聞こえているミンミンゼミが好きだな」
「えー?何でですか会長?この鳴き声聞くと暑い感じがするじゃないですかー」
「いや。むしろそれがいいんだ。まさに夏って感じがするからな」
「あー、風流的な意味ですか」
白銀がミンミンゼミの鳴き声が好きだとい言うが、藤原はそれを否定する。実際、セミの鳴き声を聞くと暑く感じる人はかなりいるが、これは思い込みの1種である。
セミは基本的に夏の暑い時期しか鳴かない。それゆえ、『セミの鳴き声が聞こえる=暑い』と感じるのだ。パブロフの犬に近いかもしれない。
因みに白銀はセミの鳴き声が好きなだけで、セミそのものは大の苦手である。虫だから。
「鳴き声なら私はひぐらしが好きだな。何となく涼しくなるし」
「私も立花さんと一緒でひぐらしは好きですね」
そして京佳とかぐやは同じセミの鳴き声が好きだった。
それから暫く、セミの鳴き声をBGMにしながら散歩をする7人。すると、京佳がある事に気づいた。
「しかし、本当に虫が1匹も寄ってこないな」
「ですね~京佳さん。これもさっきかぐやさんがくれた虫よけスプレーのおかげですよ~」
「約束しましたからね。最高級の虫よけスプレーを用意すると」
散歩をする直前、7人はかぐやに呼び出された執事の高橋から貰った虫よけスプレーを身体に噴射していた。そのおかげで、普通ならばハエや蚊が1匹くらい寄ってきてもいいのに、散歩を始めてからただの1度も虫が寄ってこないのだ。おかげで白銀も安心して散歩ができている。
因みに皆が使用した虫よけスプレー。お値段1本5万円である。
(さて、そろそろ目的地ですね…)
皆が楽しく散歩をしている中、かぐやは1人だけある作戦準備を始めようとしていた。かぐやはこの散歩である作戦を考えている。それは、怪我した自分を白銀におぶってもらい、身体を密着させ白銀に自分を今まで以上に意識させる作戦、『少女漫画の王道作戦』(命名早坂)である。
内容はこうだ。
先ず、かぐや自身が早坂の設置した罠に引っかかる。そして、そこで早坂が懐に忍ばせておいた血糊をかぐやの脚に使用し、足を怪我した様に見せる。そうすると、人の良い白銀はほぼ確実にかぐやに肩を貸すか、背中におぶってくれるだろう。そうなれば、必然的に身体が密着し、男である白銀はほぼ間違いなくかぐやを意識する。
あとは簡単。ドギマギする白銀に言葉巧みに言い寄れば、向こうから告白をしてくるであろう。
以上が、早坂と共に考えた作戦の概要である。
(ふふふ、完璧。我ながら自分の知能が怖いわ)
かぐやはこの作戦にかなりの自信を持っている。当初、身体を密着させるのに抵抗のあったかぐやだが、いつもの様に早坂に『立花さんに白銀会長取られてもいいんですか?』という脅しに屈し、今回の作戦を実行するに至った。
因みにその早坂だが、彼女は現在ギリースーツ姿で1人森の中で、かぐや達がくる30分前から待機している。
そうこう考えているうちに、早坂が隠れて待機している場所にやってきたかぐや達。
(では、やりますか)
かぐやは作戦を実行した。先ず、他の皆に気づかれない様に手で隠れている早坂に合図をする。そしてそれを見た早坂が、隠してあった枝をなるべく自然にかぐやのワンピースにひっかける。
「あ、あれ?枝が…」
かぐやは少し態とらしく言う。皆に気づいてもらうためだ。
「どうしましたかぐやさん?」
「いえ、ちょっと服が枝にひっかかってしまって」
「え?大丈夫ですか?」
早坂が発動した罠の枝にかぐやの藍色のワンピースがひっかかる。それを見た藤原は心配そうにしていた。
「問題ありません。少し強くひっぱればこれくらい…」
当初の予定では、ここでかぐやは態と枝を強くひっぱり、その反動で足に怪我(血糊)をするという流れだった。そして、本当は無傷なのに動けないふりをして、そんな自分を白銀に運ばせるというものだ。
しかし、ここで予想外の事が起きる。
「あ、だったら私が取ってあげるねかぐやちゃん!あんまり強くひっぱると怪我しちゃうかもだし!」
後ろにいた萌葉がかぐやに近づき、枝を取り始めたのだ
「え!?い、いえ萌葉さん大丈夫ですよ!?態々手伝ってくれなくても…!?」
「遠慮しないで!困ったときはお互い様だよ~!」
そしてあっという間に、かぐやにひっかかっていた枝を取ったのだ。
「はい取れたよ!」
「…………ありがとうございます」
「いいって!いいって!」
笑顔でそう言う萌葉。対してかぐやの顔は暗い。結構入念に考えた作戦がおじゃんになったからだ。萌葉が善意100パーセントでやっているので文句を言う事もできない。
(別にいいですよ…何も考えている作戦はこれだけじゃありませんし…)
しかし直ぐに頭を切り替えるかぐや。今回の作戦はダメになったが、まだまだ時間はある。急いては事を仕損じるという諺もあるように、焦ってはダメなのだ。そして何とか立ち直り、再び皆と歩き出した。
「どうやら四宮は大丈夫みたいだな」
「ああ、服が破れるような事がなくてよかったよ」
白銀と京佳は、かぐやより少し前の所を並んで歩きながら話をしていた。
「しかし、やはり自然というのはいいものだな白銀」
「全くだ。都会じゃ中々こういう所はないからな」
「そういえば、森林浴はストレスや疲労に効果的と言う話を聞いた事があるぞ」
「ふむ。だったらこの旅行で俺の日ごろの疲れを癒せるかもしれん」
周りは緑がいっぱいの森。聞こえるのは風の音と、木々が揺れる音、そしてセミの鳴き声。確かに、森林浴をするにはうってつけだ。普段ならば、京佳もこの散歩で心をリラックス出来た事だろう。しかし、京佳は未だにモヤモヤしている状態が続いてた。
(こうして白銀と会話は弾むが、私はまだ友達止まりなのか…)
その原因は白銀だ。
京佳は白銀に想いを寄せている。しかし、当の白銀は京佳の事を友達という認識しか持っていない。この数か月、かぐやに負けまいと色々と積極的に動いてきたが、それでもなお友達止まりなのだ。先ほど、テニスをしようとしていた時の白銀の台詞がその証拠だろう。
(このままでは、私は本当に友達で終わってしまう…何か打開策はないだろうか…?)
白銀と友達で終わってしまうのは嫌だ。そう思い何とかしなければと思う京佳。
そんな時である。右の森から1匹の蜂が飛び出してきて、もの凄い勢いで白銀の目に前を横切ったのだ。
「うおぉぉぉ!?」
いきなり目の前に虫が現れて驚く白銀。そして思わず、左側にいた京佳のほうへ思いっきりよけてしまったのだ。
「ぬあ!?」
そのまま左側にいた京佳にぶつかった白銀。
どすん!
そして白銀と京佳は2人1緒に地面に倒れたのだ。
「京佳さん!?」
「会長!?」
圭と石上が声を荒げ2人を心配する。が、目の前の光景をみた瞬間、動きを止めた。
何故なら今、白銀と京佳の2人は、まるで抱き合う様に、かなりの至近距離でお互い顔を向き合った状態で倒れていたのだ。
白銀が倒れる瞬間に、変に受け身を取ったせいと、京佳が倒れる白銀を怪我しないようにとっさに受け止めたせいである。
そしてそれは、他からみれば、白銀が京佳を押し倒し、キスしているように見えた。
(なぁぁぁぁぁぁ!?)
それを見たかぐやは思わず絶叫しそうになる。しかし寸前の所で、何とか声を出さずにできた。
「おわあぁぁぁぁぁ!?」
そして京佳と共に倒れた白銀は直ぐに起き上がり、京佳から距離を取った。
顔を真っ赤にさせて。
「か、会長…色々大丈夫でしたか…?」
「あ、ああ!大丈夫だ!!怪我も何も無かった!何も無かったぞ!!」
「い、いえ。そこまでは聞いていませんけど…え?ほんとに何も…?」
「ももも、勿論だ石上!!何も無かった!何なら神に誓うぞ!?」
必至で弁明をする白銀。だがこの慌てようでは、実際には何あったのに、それを必死で隠そうとしている様にしか見えない。
一方京佳は、圭に手を貸されて、背中の土をはたきながらゆっくりと起き上がっていた。
「京佳さん、大丈夫でしたか?」
「……うん、大丈夫だ」
白銀と同じように、顔を真っ赤にして。そして左手を口にあてて。
「あの、京佳さん。兄に何かされませんでしたか?」
「何もなかったよ圭…ああ、何も…無かったよ…」
その姿は、まるで不意打ちキスをくらった乙女。少女漫画やラブコメで偶にみる姿そのままだった。
「京佳さん、後で私とお話しましょう?」
「私もちょっと京佳先輩に聞きたい事できちゃたー!」
眼をランランに輝かせて、ジリジリと近づいてくる藤原姉妹。
「お、落ち着け2人共…!ほんとに何も無かった…!無かったんだ…!」
白銀と同じように弁明する京佳。しかし、その顔は未だに真っ赤である為、説得力が皆無である。
(え!?いやどっち!?キスしたの!?してないの!?どっち!?)
かぐやは軽いパニックになっていた。目の前で自分の想い人が違う女とキスをしていたかと思うと冷静でいられる筈もない。それゆえ頭の中がグルグルになっているのだ。何とか真実を聞きだしたい。しかし上手く口が動かない。
「おっと!もうすぐ散歩道を1周するじゃないか!水分補給もしないといけないから皆少し急ぐか!!」
「そ、そうだな白銀!私も今もの凄く水が飲みたい気分だし急いで戻るか!!」
「ああ!では行こう!!」
そんなかぐやの事など知らない白銀は、さっさとコテージに向かい速足で歩きだしていった。京佳を伴う様な形で。
「あー!待ってくださいお2人とも!!このラブ探偵に色々聞かせて下さーーい!」
「私も聞きたい事あるから待ってーー!!」
白銀と京佳を追う様に、藤原姉妹も速足で行ってしまった。
「あの、僕たちも行きません?」
「あ、はい…えっと、四宮先輩、行きましょう?」
「……ええ。行きましょう」
そしてその後を、ゆっくりとした足取りで石上、圭、かぐやは追った。
なお結局、2人がキスをしたのかどうかはわからなかった。白銀も京佳も否定しているので恐らくしてはいないのだろうが。だが2人共、否定する時に必ず顔が紅くなっていたので怪しい所である。
因みにだが、コテージに戻って一番水分補給をしたのは早坂だったりする。
シュレディンガーのキス。
これで今年の投稿は終了です。来年も頑張って投稿します。それでは皆さん、良いお年を!