もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
追記・6月26日 一部台詞、誤字を編集。そして24日に日刊ランキング28位にのりました
その日、白銀、かぐや、京佳の3人は生徒会室で昼食を取ろうとしていた。
「会長も立花さんも、今日は手弁当ですか?」
「ああ、田舎のじいさまが野菜とかを大量に送ってきてな」
「私は冷蔵庫に消費期限が迫っている食材があったから、その処分をかねてね」
そう言いながら自身の手弁当の蓋をあける2人。
そんな2人の手弁当を見た時、かぐやに衝撃が走った。
(あ、あれは!タコさんウィンナー!?実在していたっていうの!?)
タコさんウィンナー。
一般家庭ではお弁当の定番中の定番なおかずだ。作り方も簡単で、子供には非常に人気があり、何時か彼氏に作った手弁当に入れたいおかずともいわれている。
しかし、そんな定番のおかずをかぐやは一度も食べたことがない。かぐやの弁当は、専属の料理人が旬の食材をバランスよく調理し、見た目も非常に美しく仕上げてる。そのおかずも料亭に出てくるようなものばかり。一般的なおかずなど入ることなどありえない。ゆえに、かぐやはタコさんウィンナーなどという庶民的なおかずなど聞いたことしかないのである。
かぐやは白銀と京佳の手弁当の中にあるタコさんウィンナーに釘付けになっていた。できることなら食べてみたい。しかし―――
(だ、ダメよ!!もの凄く食べたいけど、私から『ちょうだい』なんて言えない!そんなの私のプライドが許さない…!!)
異常に高いプライドがそれを邪魔する。
かぐやがそうやっていると京佳が白銀にとある提案を口にした。
「白銀、この唐揚げとその卵焼きを交換しないか?」
「ん?いいぞ。唐揚げは俺の大好物だからな」
(な!?)
おかず交換
互いが弁当を持ってきている場合のみ発生するイベント。小学生の遠足での昼食では最早定番であり、ある意味で子供たちが『等価交換』を学習する機会でもある。大きくなると、同性同士ではやることもあるが、異性同士では先ずやることが無くなってしまう。それを、立花京佳は平然とやってのけたのだ。
「ん?この唐揚げ美味いな!?なんかさっぱりした味付けだが、なんだこれ?」
「ああ、母さんの知恵でな。我が家では唐揚げにワサビを入れるんだ」
「なるほど、そんなレシピが…」
「しかし、白銀の卵焼きも美味しいぞ。料理が上手なんだな」
「こう見えても、結構自信があるからな」
目の前で起こる光景をただじっと見ているかぐや。
おかずを交換し、お互いが作った料理の感想を言い合い、褒めたたえる。
まるで恋人同士の様な会話。プライドが高いかぐやが体験したい事を、目の前にいる生徒会庶務はやっている。
一方京佳は、作戦が成功したと思っていた。
(男を落とすなら胃袋を掴め、か…昔から言われていたことだったが、どうやら私の料理でも効果はありそうだな…)
京佳は自身の手弁当を白銀に食べさせ、自分を少しでも意識させようとしていたのである。古来より言われている事ではあるが、胃袋を掴まれた男は割と簡単に落ちるものだ。プロポーズの言葉でも『毎日俺に味噌汁作ってくれ』というのがあるくらいである。京佳は自身の料理が白銀の口に合う事を確認し、心の中でガッツポーズをした。
このまま上手くいけば、いずれは手弁当そのものを作り、それを白銀に渡し、食べてもらう事も可能になるかもしれないと思ったからだ。
一方でそんな京佳の心情を知らないかぐやは嫉妬していた。
(この女狐めぇ…よくもまぁそんな古典的な手段で会長の手弁当を食べようと考えつきますね…)
自分だっておかずを交換したい。白銀に美味いと言われたい。タコさんウィンナーを食べたい。そんな思いがかぐやの中で渦巻いていた。
最も、自分も少し素直になれば同じような事を体験できるのだが、そこは自身のプライドが許さない。傍から見れば割とめんどくさい性格である。
かぐやがそうやって京佳に嫉妬しているその時、白銀がとんでもない事を言った。
「しかし、こんなにうまい料理を作れるなんて、立花は将来良い奥さんになるな!」
「ふふ、そうか。そう言って貰えると、女としては嬉しいものだな」
普通であれば、言う方も言われる方も非常に恥ずかしいであろう事を口にする白銀。しかしそれはただ素直にそう思い、口にしたに過ぎず、特に深い意味など無いのだ。そしてそれを何時ものように冷静に受け止め、返答する京佳。が、その内面は―――
(白銀!そういう不意打ちはやめてくれ…!私だって羞恥心くらいあるんだぞ!?)
普通に恥ずかしがっていた。
いつも冷静でクールな京佳。たいていの事は冷静に受け止め対処している彼女だが、意中の男から『将来良い奥さんになるな』と言われて何時ものようにいられるはずもない。表面上こそ、いつもと変わらないが、中身はかなり焦っていた。
そしてそれも見て聞いていたかぐやは今にも人を殺めそうな眼差しをしていた。
(立花さん、やはりあなたは私にとって不俱戴天の敵ですね……せいぜい夜道に気をつけなさい……)
近いうち、四宮の力で京佳をどうにかしてくれようかと本気で考え始めてもいた。
そして同時にある決意を胸にした。
翌日の昼休み、かぐやは生徒会室に向かって歩いていた。
大きな重箱を両手でもって。
昨日、かぐやは自宅に帰った後、すぐに料理人達へ指令を出した。その結果が白銀の好物もふんだんに使ってあるこの特製弁当だ。
何故その様な指令を出したのか?答えはタコさんウィンナーを交換してもらい、食べるためである。この四宮家の令嬢は、今もタコさんウィンナーを食べたくて仕方ないのだ。
さらにそれだけでは無い。今朝、早坂には京佳を昼休みに生徒会室に行かせないように指令を出した。現状、色々と最大の障害である彼女がいると万が一があるかもしれない。故に万全を期すために邪魔者を寄り付かせないようにしたのだ。因みにかぐやも制御しきれない生徒会書記は既にクラスの友人達と昼食を取っているのを確認済みである。
もう一度いうが、かぐやの目的はタコさんウィンナーである。わざわざここまで手のこんだ事をしなくても、素直に交換を申し出れば白銀も普通に交換してくれる。高すぎるプライドというのは本当にめんどくさいものである。かぐやが生徒会室に着く直前、早坂からメールがきた。
『陽動成功』
ただそれだけしか書かれていない短いメール。しかしそれだけで十分だった。
(ふふ、邪魔者も来ないし、これなら万全の状態でおかず交換に望めますね)
これで京佳は生徒会室にくることは無い。あとはこの特製弁当を使い、白銀からおかず交換を申し込ませればいいだけだ。そして意気揚々と生徒会室の扉を開けた。
「失礼します、会ちょ…」
瞬間、かぐやは足を躓かせた。
いつものかぐやであれば、このような失態は犯さない。だが、入念な作戦がほぼ成功し、あとは白銀に弁当を見せ、おかず交換を申しださせれば勝ちという状況がかぐやに少しばかしの油断を生んだ。慢心である。この瞬間ほどかぐやは『勝って兜の緒をしめよ』という諺を痛感したことは無い。
そして、かぐやが足を躓かせた時、かぐやの手から弁当がすっぽ抜けていった。そのまま宙に飛び出した弁当を、かぐやはスローモーションがかかったように見ていた。そして弁当は重力に則り、生徒会室の床に散乱した。
「四宮!?」
それを見ていた白銀がすぐに駆け寄る。かぐやは顔面から床に倒れた。もしかしたら怪我をしているかもしれないと思ったからだ。
「大丈夫か四宮!?結構勢いよく倒れたが!?」
「え、ええ、大丈夫ですよ会長…直前で受け身取りましたし…」
そしてかぐやが立ち上がろうとした時、目の前に散乱している弁当を見て固まった。絢爛豪華という言葉をそのまま体現した特製弁当は、もはや見る影もないただの残飯へと変わり果てていた。
それはおかず交換作戦が失敗した事を意味している。
(私のタコさんウィンナー…)
最早絶望しかない。
あと少し、あと少しで食べれたであろうタコさんウィンナー。しかし作戦の主軸だった特製手弁当を失ってしまった今、それを食べることはもう叶わない。
かぐやが落ち込んでいるその時、白銀が弁当箱を持って話しかけてきた。
「四宮、俺の弁当を食え」
「…え?」
「昼抜きというのはだめだ。ちゃんと食べなければ午後の授業もたないだろう」
「で、ですが会長は…?」
「俺はこれがある!」
そう言った白銀が見せたのは魔法瓶。白銀は蓋を取り、その蓋の中に中身を注ぎ始めた。
すると魔法瓶の中からは味噌汁が出てきた。
「しじみ入りだ!これなら午後もなんとかなるさ!」
白銀はそういうと、注いだ味噌汁を一気に飲み干した。それを数回繰り返すと、魔法瓶の中身はあっと今に空になった。
「では、俺はこれから部活連の会合があるから行ってくる!」
「あ、会長!」
「食べ終わった弁当箱は机の上に置いておいてくれー!」
白銀はそう言うと、勢いよく生徒会室から出て行った。室内に残されたのはかぐやと、白銀が作った手弁当のみ。
かぐやは立ち上がり、椅子に座り、弁当を開けた。中には煮物、ミニハンバーグ、きんぴらごぼう、だし巻き卵、ふりかけご飯、そしてタコさんウィンナーが入っていた。かぐやはゆっくりと、箸でタコさんウィンナーを摘まみ、口に運んだ。
(あ、タコさんウィンナー美味しい…)
生まれて初めて食べたタコさんウィンナー。こんなにも美味しいものなのかと、思わず涙を流しそうになるかぐや。
その後、弁当の中身を残さず全て食べきったかぐやはとても幸せな気分になったのだった。
因みに全て食べ終わった後、思わずそのまま白銀の箸を使っていたことを思い出し1人生徒会室で派手に悶えた。
前半がオリ主で後半がかぐや回みたいになってしまった。
お話を作るのって、本当に難しい…
書記「あの、私の出番は…?」
作者「次回こそは…」