もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・   作:ゾキラファス

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 人間、ダメなものはいくつになっても本当にダメなものなんです。いやマジで。克服できないものってあるから。作者は今でも、白銀会長と同じでGがダメです。


生徒会メンバーと小旅行(その7)

 

 

 

「皆さん、集まりましたね」

 

 夕食のバーベキューの片付けを皆で協力して終わらせた皆は、暫くの間別荘内のリビングでゆっくりしていた。しかし、突然かぐやと藤原の2人が全員外に出るように言い出し、3人の使用人を含めた10人は裏庭に集まっていた。周りはすっかり日が落ちており、セミの鳴き声も聞こえない。

 

「一体何なんですかね?」

 

「わからん。立花は何か聞いていないのか?」

 

「いや、私も何がなんだが…」

 

 石上、白銀、京佳の3人は、かぐやと藤原が何をしようとしているのか見当もつかない。藤原だけなら、また何かおかしな事をしようとしているとわかるのだが、今回はかぐやも一緒である。全く想像がつかないのも無理はない。皆が集まっているのを確認したかぐやと藤原。すると藤原が笑顔である事を口にする。

 

「それでは、これより夏の定番である『肝試し』を行います!」

 

「……え?」

 

 それは京佳にとって死刑宣告だった。

 

 

 

「夏と言えば祭り!花火!海!水着!そして肝試しです!せっかく皆で旅行に来ているんですからやりましょう~!」

 

「ルールは簡単です。皆さんが昼間に歩いた山の中にある散歩道をペアになって歩いてくるだけです。ここにペア決めのくじ引きも用意しましたので、早速やりましょう」

 

 ニコニコ顔で進行していくかぐやと藤原。楽しそうである。

 

「それと高橋とハーサカの2人には、念の為にライトを持って散歩道の途中で待機して貰います。志賀はここで待機しておいてください」

 

「流石に私有地とは言え、夜の山は危険ですからね~」

 

『畏まりまりました。かぐや様、千花様』

 

 2人にそう言われた使用人は、それぞれライトを持っていつでも動けるようにしていた。

 

「それと、これは昔からこの地で言い伝えられているお話なのですが…」

 

 かぐやは怪談を話し出した。

 その昔、この地には2人の外国人夫婦が住んでいた。2人はとても仲が良く、周りからは理想の夫婦とまで言われていたらしい。

 しかしある日、夫が病気で死んでしまった。だが妻はその現実を受け止めることができずにいた。それからというもの、妻は夫がまだ生きているかのように振舞う日々を続けた。誰もいないところに話しかけたり、1人で散歩をしているのにまるで2人で散歩をしているようしたり、食事も毎回2人分作っていたらしい。

 そしてある日、『夫が山に入って帰ってこないから迎えにいってくる』と言い、1人で山に入っていった。それから、その妻の姿を見たものはいない。

 

 そして未だに、妻はいないはずの夫を山の中で探しているという。

 

 

 

「まぁ、真相はわかりませんけどね。同じような話であれば、日本全国存在するでしょうし」

 

「へー。軽井沢にもそんな話があるんですねー」

 

 かぐやの話を聞き終えた藤原が、相槌を打ちながらそう言った。雰囲気作りのため、肝試しを行う前にこういった怪談をするのはお約束だ。

 

「では、くじ引きをして班分けをしましょうか」

 

「ですね。やりましょう」

 

 かぐやと藤原が肝試しを行うための班分けを行おうとした。そんな2人に京佳が顔面蒼白で話しかける。

 

「2人共…」

 

「何ですか京佳さん?」

 

「私に死ねというのか…?」

 

「そこまで言います!?」

 

「あの、立花さん?流石にそれはオーバーでは…?」

 

「だって肝試しだろう!?よりにもよって私がこの世で1番苦手なものじゃないか!?しかもそんな怪談を聞いた後だぞ!?」

 

 白銀が虫が苦手のように、京佳は幽霊が大の苦手である。ゾンビやエイリアンは物理が効くので大丈夫なのだが、実態の無い幽霊という存在が本当にダメなのだ。それこそ、子供だましのやつでさえ。

 そんな京佳に、怪談を聞かせた後に肝試しをさせるというものは、どう考えても無理な話である。だって怖いのだから。

 

「すまないが、私は参加しない。部屋で待っている」

 

 そう言い、別荘に戻ろうとする京佳。しかし、そんな京佳に石上が話かける。

 

「あの、立花先輩。その方が怖くないですか?」

 

「え?」

 

「いやだって、今建物の中って誰もいませんよ?それってつまり、皆が帰ってくるまで1人で待ってるって事になるますよね?夜、1人で広い建物の中にいる方が怖いと思うんですが…」

 

「…………」

 

 ホラー映画でありがちだが、こういう時は1人でいる方がよく犠牲者になるものである。それも結構悲惨な形で。

 そして京佳もそういうお約束は知っている。別にここでそういう事件がある訳ではないのだが、人間は1度そういう風に思ってしまうと、簡単には考えを変えれないものなのだ。

 

「えーっと、京佳さん?一応言っておきますけど、別に道中何か仕掛けているとかじゃありませんよ?ただペアで歩くだけの簡単なやつですし…」

 

「藤原さんの言う通りです。仕掛けなんて何もしていません。本当にただ歩くだけですよ?」

 

「………………………やる」

 

「いや声ちっちゃいですね」

 

 藤原とかぐやの説得のおかげか、京佳は震えながら肝試しに参加する事を選んだ。尚、その顔は未だ真っ青である。

 

(どれだけ幽霊が苦手なのかしら。あんなの脳が見せているだけの幻覚なのに)

 

 かぐやは学者肌なため、幽霊や心霊現象といったものを全く信じていない。あれらは全て科学的に説明のつくものだと信じている。なので京佳の気持ちが理解できない。

 

(ま、でもあれなら問題ありません…私の作戦の邪魔はできないでしょう)

 

 そして静かにほくそ笑むのだった。

 

 もう知っている人もいるだろうが、この肝試しもかぐやの作戦である。概要を簡単にいうなら、『幽霊を怖がっている時に白銀に抱き着いて陥落させる』だ。男を惑わす様なボディタッチ。普段見せない不安そうな顔。こららが合わされば、間違いなく白銀を落とすことができるとかぐやは考えている。

 これはその為の肝試しなのだ。藤原をいち早く味方につけ、早坂を使い、皆が勝手に動かないよう根回しをしてここまでやってきた。あとは実際に肝試しをして、作戦を実行するだけである。

 

「それでは皆さん、先ずはこの箱からくじを引いてください」

 

 かぐやは、自分が両手に持っているティッシュ箱を皆の前に差し出すようにした。どうやら、これがペア決めのくじ引きのようである。

 

「何か手作り感満載ですね」

 

「いいじゃないか、なんかかわいいし」

 

(か、かわいい!?会長にかわいいって言われた!?)

 

 言ったのはティッシュ箱である。断じてかぐやの事を言ったわけではない。

 

(おお、落ち着きなさい私…!ここでしくじる訳にはいかないのよ!?)

 

 そう自分に言い聞かせて落ち着きを取り戻すかぐや。

 

「番号は1番から3番まで書いています。因みに人数的にひとつだけ3人になってしまいますが、そこはご了承くださいね」

 

 落ち着きを取り戻したかぐやは皆に説明をした。

 

「じゃあ、先ずは石上くん、どうぞ」

 

「あ、はい。じゃあ…」

 

 こうしてくじ引きが始まった。

 

 

 

 

 

 

「えへへ~。石上くん、遊園地に引き続いてハーレムですね~」

 

「石上先輩モテモテだねー」

 

「これがハーレムに見えますか?てかモテモテって…」

 

 1番は石上と藤原姉妹の3人に決まった。そして藤原姉妹は、その結果で石上をからかっていた。因みに石上は完全に真顔である。

 

「では、次は立花さん。どうぞ」

 

「…………」

 

 かぐやは京佳にくじの入ったティッシュ箱を差し出す。そして京佳はそれを無言で引こうとする。残っているくじは4枚。このままでは、白銀と京佳がペアになる可能性も十分にあるだろう。

 

(ま、立花さんが会長とペアになる事はありえませんけどね)

 

 が、勿論そんな事かぐやは織り込み済みだ。

 実はこのティッシュ箱、細工がしてある。箱の中には1番から3番のくじがちゃんと入っているのだが、3番と書かれているくじだけ、ティッシュ箱の四隅に固定しているのだ。

 このまま普通に引けば、誰も3番を引く事はない。そしてかぐやと白銀以外がくじを引き、その後にかぐや自身の番になったら、固定しているくじを取り、3番を引く。

 そして最後に白銀にくじを引かせれば、おのずとかぐやと白銀はペアになれるという細工だ。簡単にいうと、逆境無頼的なアレで使われた細工である。万が一にも、京佳と白銀がペアにならない様にした細工。かぐやが自ら、くじの入ったティッシュ箱を持っているのもその一環だ。

 

(これならば誰も細工をしたなんてわかりません。我ながら完璧な作戦ですね)

 

 勝利を確信するかぐや。

 

 だが、策というものはそう簡単に運ばないものである。大体の場合、何かしらのハプニングでダメになるものだ。

 

 ガタガタガタガタ

 

「ん?」

 

 ふと、自分が持っているティッシュ箱から振動を感じるかぐや。そしてその原因は直ぐに分かった。

 

「…………」

 

 目に前にいる京佳が、もの凄く震えながらくじを引いていたのだ。

 

「た、立花さん?大丈夫ですか…?」

 

「…………」

 

 かぐやは声をかけるが、京佳は気づいていないのか、何も言い返さない。そして更に震えだす。

 

「えっと、京佳さん?やっぱりやめた方がいいんじゃ…?」

 

「…………」

 

 心配そうに圭が京佳に話かける。しかし、やはり京佳は反応しない。何故、京佳はこんなに震えているのか。理由は単純で肝試しが怖いからである。

 部屋で1人で待つことをやめて、肝試しに参加することを選んだ京佳だが、それで恐怖が薄れたわけではない。例え誰かとペアになっても、それこそ白銀とペアになれたとしても怖いものは怖い。それゆえ震えているのだ。

 

(こ、これじゃあ細工が…!)

 

 かぐやは悪い予感がした。これだけ震えていれば、細工していた紙が落ちてしまうかもしれないと。そしてそれは的中する。

 

「……3番だ」

 

 細工を施していた3番と書かれていたくじを京佳が引いたのだ。これはつまり、かぐやの細工がダメになった事を意味する。

 

(いえまだです!まだ会長が2番を引いてくれれば…!)

 

 だがかぐやは諦めない。残っているくじは3枚。つまり3分の1の確率で白銀が2番をひいてくれたら少なくとも白銀が京佳とペアになることはない。その後に自分が2番を引けばいい。完全に運任せだが最早これしかない。

 

「では会長、どうぞ」

 

「ああ」

 

 そして白銀がくじを引いた結果―――

 

 

 

 

 

「あー、立花。大丈夫か?」

 

「…………大丈夫だ」

 

「いや全然大丈夫に見えないんだが!?」

 

 白銀は3番と書かれたくじを引き、京佳とペアになった。

 

「えっと、よろしくお願いします四宮先輩」

 

「えぇ…よろしくお願いしますね白銀さん」

 

 そしてかぐやは、白銀の妹である圭とペアになった。

 

(ま、まぁこれはこれで構いません…予定を変更して、これを期に会長の妹さんと距離を縮めましょう)

 

 かぐやは当初の予定を変更し、圭と仲良くなる作戦へと舵を切った。

 

「では、肝試しを始めましょう!!」

 

 そして藤原が元気よくそう宣言し、肝試しが始まったのだ。

 

 

 

 

 

 おまけ

 

「ところで立花。何でそんなに幽霊がダメなんだ?」

 

「……小さい頃に、兄と一緒にテレビで放送していたホラー映画を観たんだ。その映画が本当に怖くて、それ以来トラウマで…」

 

「そんなに怖かったのか?」

 

「暫くの間は、母親と一緒の布団じゃないと眠る事ができなかった…」

 

「そこまでか…それはどんな映画だったんだ?」

 

「そのビデオを見たら死ぬってやつだ……」

 

「あぁ、あれか。昔俺も圭ちゃんと一緒に観たが怖かったなーあれは。そういやあの映画を観た後、暫くの間圭ちゃんが俺の布団で…」

 

「おにぃ!今すぐその口閉じろし!」

 

「あ!うん!ごめん圭ちゃん!ほんとごめん!」

 

 

 




 と言う訳で肝試し開始。因みに、京佳さんのトラウマの元になったやつは有名なあれです。多分作者は今でも観る事できません。だって怖いもん。


 次回、京佳さん絶叫。

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