もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・   作:ゾキラファス

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 花火大会の前の話。そして現状確認と言いう名の戦況分析。


早坂愛による現状確認

 

 

 

 四宮家別邸 かぐやの部屋

 

「去年と違い、今年は極めて充実している夏休みを過ごしていますね。かぐや様」

 

「そうね。去年はせいぜい藤原さんと一緒に買い物に出かけたくらいだったし」

 

「今年は、生徒会面メンバーと一緒に遊園地に遊びに行く、軽井沢へ一泊二日の旅行。世間一般的に言っても随分と充実している夏休み、もっと言えばリア充といえる夏休みですね」

 

「リ、リア…?まぁ、そうね。それに明後日には皆で花火大会に行くし、去年とは比べ程にならない程楽しい夏休みではあるでしょうね」

 

「そうですね。で、一体何時になったら白銀会長に告白するんですか?」

 

「……」

 

 夏休みもあと少しに迫ったある日。かぐやと早坂は世間話をしていた。先程まで楽しい話だったが、早坂の一言で一気に冷めるかぐや。

 

「これだけイベントがあって未だに告白どころかほぼ進展が無いってどういう事ですか?普通ならとっくに告白して今頃恋人としてデートを楽しんできたかもしれないんですよ?仮に告白をしていなくても、2人きりでどこかの喫茶店にお茶をするくらいはあってもいいでしょ」

 

「早坂、貴方は間違えているわ」

 

「はい?どういう意味ですか?」

 

「そういう台詞は私じゃなくて会長に言いなさい。私から告白するなんて世界がひっくり返ってもありえないもの。そもそも私は会長の事を人として好きなだけであって、別に恋愛感情なんて抱いていないのよ?まぁ、会長は私に恋愛感情のひとつくらい抱いているでしょうけど?兎に角、私に対してそういう台詞を言うのは間違えているわ。少し反省しなさい?」

 

 直ぐに早坂に言い訳をするかぐや。一体彼女は何時になったら素直に自分の気持ちを認めるのだろうか。そしてそんなかぐやの言い訳を聞いた早坂は―――

 

「はぁ~~~~」

 

 かなり大きなため息をついた。

 

「ちょっと早坂!そのわざとらしいため息は一体何よ!!」

 

「そりゃ未だにそんな反応をされたらため息のひとつくらいしますよ。本当にいい加減にしませんかぐや様。もううんざりなんですけど」

 

「うんざりってどういう事よ!!」

 

 早坂は心の底からそう思っている。早坂から見れば、白銀とかぐやは両想いであり、どっちかが素直になれば直ぐにでも恋人になるだろうと確信している。

 しかし、白銀もかぐやも未だに素直にならず、ただ時間だけが過ぎていく。ため息のひとつやふたつ、つきたくなるのも仕方が無い。

 

「このままじゃ本当に立花さんに白銀会長取られますよ?」

 

「そ、そんな事ありえないわよ…」

 

「声震えてますよ?」

 

 早坂のいつもの脅し文句『立花さんに白銀会長を取られる』が炸裂。それを聞いたかぐやは、いつもの様に少しだけ恐怖する。その言葉を聞くと、どうしても考えてしまうのだ。

 

 京佳と白銀が付き合ってしまう未来を。

 

「だ、大丈夫よ早坂。そもそも会長は私以外の女性に異性として興味を持っていないもの。立花さんと付き合う事なんてありえません」

 

「その自信はどこからくるんですか」

 

 かぐやの謎の自身に呆れる早坂。いつも大体こんな流れである。

 

(このままだと本当に手遅れになりかねませんね)

 

 早坂は危機感を募らせる。

 かぐやはいつもこういった事を言うため、今日に至るまで白銀との仲がほぼ進展していないのだ。対して京佳はかなり積極的に白銀にアプローチを仕掛けている。早坂が知る限り、今の所白銀は京佳に友人以上の感情を向けていないが、このままかぐやが『相手から仕掛けてくるのを待つ』というスタイルを取り続けているとそれもわからない。気が付けば、白銀が京佳に心変わりをしてしまう可能性も十分にあるのだ。

 

 そこで早坂は、ある事を思いついた。

 

「かぐや様、少しよろしいでしょうか?」

 

「え?どうしたの早坂?」

 

「念の為、現状を整理してみませんか?」

 

「どういう事?」

 

「情報を整理しておくと、いざという時色々と便利です。白銀会長から告白させる為にもここで現状を整理してみるのは必要かと」

 

「……そうね。今日は特に予定も無いし、やってみましょうか」

 

「では、少し失礼します。5分で戻ってきますのでお待ちください」

 

 そう言うと、早坂はかぐやの部屋から出て行った。

 

 早坂が考え付いた事。それは『現状を整理させかぐやを焦らそう』というものである。

 

 このままでは、今まで通りかぐやは何も変わらず日々を過ごすかもしれない。そこでかぐやの現状がいかに危ないかを認識させ、かぐやを積極的に動かそうという考えだ。流石のかぐやも、現状を理解できれば動くだろう。早坂はそう思い、準備を始めた。

 

 

 

 

 

「それでは、これより現状確認を行います」

 

「早坂、そのホワイトボードはどこから持ってきたの?」

 

「使用人休憩室に設置したのを持ってきました」

 

 5分後、早坂はホワイトボードをかぐやの部屋に持ってきて、現所確認を行うのだった。

 

「最初に聞かせて貰いますが、かぐや様は現状どういった状況だと思いますか?」

 

「そうね。会長が私に告白してくるまでもう秒読みといったところかしら。このままだったら明後日の花火大会には会長が私に告白をしてくるでしょうね」

 

「はい落第点」

 

「何でよ!?」

 

「ほんとにどこから来るんですかその自信は」

 

 かぐやにさっそくダメ出しをする早坂。これはしっかりとわからせてあげなければならない。そうしなければ、本当に手遅れになるかもしれないのだから。

 

「私から見た現状ですけどね、正直7対3くらいの割合になっていると思いますよ」

 

「えっと、何が?」

 

「かぐや様と立花さんが白銀会長と付き合えるかどうかの割合です」

 

「はいぃ!?」

 

 早坂の突然の言葉に焦るかぐや。

 

「では、ざっと書いていきますから見ていてください」

 

 そう言うと、早坂は水性ペンを手にして、ホワイトボードに色々書きだした。ホワイトボードの左側にかぐやの名前、右側に京佳の名前。そしてその間に線を引いた。

 

「まず、かぐや様が立花さんより優勢であろう部分を簡単に書きます」

 

 続いて早坂は、かぐやの名前の下に文字を書く。

 

 ・成績が学年2位

 ・旅行先を斡旋した時、白銀会長が感謝してくれた

 ・白銀会長が自ら副会長に選んでくれた

 ・白銀会長が一緒に相合傘をしてくれた

 ・細かい変化に気づいてくれた(ネイルとか)

 

「まぁ、ざっとこんな感じですね」

 

「待ちなさい早坂。他にも沢山あるわよ」

 

「それで次は立花さんですが」

 

 相手すると話が進みそうに無いので早坂はかぐやを無視した。そして、今度は京佳の名前の下に水性ペンを走らせる。

 

 ・お弁当を褒めてくれた

 ・膝枕をした。しかも白銀会長は熟睡していた

 ・白銀家の人とかなり仲が進展している

 ・スタイルが凄く良い(特に胸)

 ・白銀会長におんぶしてもらった

 

「立花さんはこんな感じですね」

 

「早坂、4番目を消しなさい。何故か凄く腹が立つわ」

 

「我慢して下さい。とりあえず、現状だとかぐや様と立花さんの戦況は概ねこんな感じになっています」

 

(戦況?)

 

 ホワイトボードに色々と書き終えた早坂はかぐやに振り向く。

 

「さてかぐや様。これを見て何か思う事はありませんか?」

 

「どうって……」

 

 かぐやは見比べる。そして気づいた。

 

「ここに書かれている事だけなら殆ど差は無いわね」

 

「正解です。これはあくまでも簡単に書いていますが、ここに書かれている事だけを比べるとかぐや様と立花さんとの間に差はほぼありません」

 

 早坂もかぐやに相槌を打ちながら説明する。身体的特徴だけはどうしようもないが、かぐやと京佳が白銀との間に起こったイベントは対して差が無いのだ。

 

「次にですが、これにある事を書き足します」

 

「ある事?」

 

 そう言うと、早坂は再びホワイトボードに向かい文字を書き足す。かぐやの欄の方には、

 

 ・相手から何かをしてくるのを待つタイプ

 ・素直にならずに意地を張る人

 ・毎回遠回りな事をする

 

 と書かれていた。

 

「ちょっと待ちなさい早坂。何よそれは」

 

「何に対してとは言いませんが、私から見たかぐや様の日ごろの行いです。何に対してとは言いませんが」

 

 悪びれもせず早坂はかぐやに言う。実際、微塵も悪いとは思っていないのだが。

 

「そして立花さんはこうですね」

 

 今度は京佳の欄に書き始める。内容な以下の通りだ。

 

 ・自分から積極的に行動するタイプ

 ・自分に正直で素直な人

 ・毎回正面から仕掛ける

 

 かぐやとはまさに対極とも言える事ばかり書かれている。

 

「はいかぐや様。これを見て何か思う事はありませんか?」

 

「…………特に無いわ」

 

「こっちを見て言いましょうよ」

 

 かぐやは早坂とホワイトボードから目を反らす。よく見ると、僅かではあるが額には汗が出ている。

 

「いいですかかぐや様。例え白銀会長との間に様々な出来事が起こっていても、それを自分から起こしたか、相手から起こしたかで意味はかなり変わるんですよ?」

 

 早坂はかぐやに言い聞かせるように言う。

 かぐやはいうなればカウンタータイプだ。相手の攻撃を受ける、もしくは相手の攻撃を誘発させて、それを受けて相手にダメージを与えるといった感じ。

 対して京佳は強襲タイプだ。目標に徹底的に攻撃を行い、相手にダメージを与え続け、相手を降伏させるという感じ。そういう意味で、かぐやと京佳は真逆の存在と言えるだろう。

 

「このままずっと、相手が何かしてくるまで待っているという姿勢を取り続けるつもりですか?そんな事をしている間にも、立花さんは少しずつ白銀会長との距離を縮めているんですよ」

 

「だ、大丈夫よ。そんな簡単に会長と立花さんが距離を縮めるなんてある訳…」

 

「手作りのお弁当を食べて『将来良い奥さんになる』と言われた。膝枕をしてあげて白銀会長は熟睡した。白銀会長の妹さんからは『お姉さん』と認識されつつある。一緒に買い物に出かけた。偶発的な出来事だと、旅行中にキスするくらいの近距離で抱き合った。白銀会長におんぶをしてもらった。そして何より、自分から白銀会長を自分に振り向かせようとする強い意志がある。これでも立花さんが白銀会長との距離を縮めないと言えますか?」

 

「……」

 

 早坂が京佳が如何に強力な存在であるかを再認識させる。かぐやは今なお決して認めないが、早坂から見れば京佳はかぐやにとって非常に強力な恋敵なのだ。身体的特徴は勿論、自分から積極的に動き、隙あらば白銀を振り向かせようとする。かぐやが素直になれず出来ない事を平然とやってのける。

 このままでは本当に、京佳は白銀を振り向かせる事に成功してしまうかもしれない。

 

「この際、それが悪いとは言いません。ですがいつまでもその待ちの姿勢で行くと、今なお積極的に動いている立花さんに追い越されて、気づけば白銀会長を取られてしまうかもしれませんよ?」

 

「大丈夫、大丈夫よ。会長は、そんな簡単に他の女性になびく人じゃないし、まだ私の方が色々と優勢だし、いくら立花さんが追いかけてきても、そう簡単に追いつかれるなんて無い、筈だし」

 

「それは本心ですか?」

 

「……」

 

 かぐやは動かない。いや、動けない。早坂に言われた事、それはかぐやも分かっているからだ。このままでは、本当に京佳に白銀を取られてしまうかもしれない。そんな事はわかっているのだ。

 

「だって、分からないのよ…」

 

 しかしかぐやはどうしても素直になれない。

 

「これがいわゆる、真実の愛なのかもしれないけど、だったらどうやったらこれが成就するっていうの?自分から告白をすれば成就するといえるの?自分からアプローチをし続ければ必ず相手が振り向いてくれるの?自分の気持ちを正直に伝えれば、相手は絶対にこちらの気持ちに応えてくれるの?そんなの、わからないじゃない」

 

 告白をして成功する。そんなのは告白をするまでわからない。仮に告白をしても、相手がそれを受け入れてくれるかなんて、そんなことはわかるはずがない。

 

「だったら、相手が告白をしてくるのを待っている方が、ずっと安全じゃない」

 

「臆病ですね」

 

「これは堅実っていうのよ」

 

「ものはいいようですね」

 

「そんな事ないわよ。そもそも私は会長の事を好きではあるけど、それはあくまでも人としてよ。断じて、恋愛的な意味で好きでは無いもの。まぁ会長から告白をしてくるのであれば付き合ってあげてもいいけど」

 

「この期に及んでまだ言いますか」

 

 かぐやだってわかっている。このままではいけない事は。でも、怖いのだ。仮にこのまま告白をして、もし振られでもしたらと思うと。それゆえ、どうしてもこういった姿勢になってしまう。

 

(少しは焦っているみたいですが、現状ではこれ以上何を言っても無駄ですね。仕方ありません)

 

 これ以上は何を言っても効果が無いと判断し、早坂もこの話題を切り上げる事にした。そしてある提案をした。

 

「ではかぐや様、ひとつ約束をしてください」

 

「約束?」

 

「明後日の花火大会、兎に角素直になって楽しんできてください」

 

「素直になって楽しむ?」

 

「はい。明後日の花火大会はいわば夏休み最後のチャンスと言えます。統計ですが、花火大会というのは学生が告白をして恋人になる可能性がかなり高いんですよ」

 

「そうなの!?」

 

 一体どこの統計なのか謎だが、あながち間違いではない。花火大会や夏祭りというのは、学生にとって非常に開放的な気分になりやすい。浴衣姿の女子、様々な露店、そして大きな花火。

 これらが組み合わさった状態では、いつもと違うテンションになり、気分が浮かれやすい。そんな状態だから、告白の成功率も上がるのだ。

 

「素直になって楽しんでいれば、そのまま自然な流れで白銀会長も告白とまでは行かずとも、浴衣姿で楽しんでいるかぐや様を見て心が非常に大きく揺れると思います」

 

「そ、そうなの?」

 

「はい。だから相手の告白を待つとか、相手から告白させるとかを一旦全て忘れて、素直になって皆さんと花火大会を楽しむと約束してください」

 

「……」

 

 早坂の案の聞いて考えるかぐや。

 元々明後日の花火大会はこの夏休みで一番楽しみにしていたイベントだ。かぐやは1度も、友達と花火大会と行くという事が無かった。花火は何時も、1人で別邸の自分の部屋からしか見ていない。遊園地や旅行など、様々な事があったが、花火大会は特別だ。藤原も旅行をキャンセルしてまで来てくれる。そんな事もあり、本当に楽しみにしているのだ。

 

 そしてこれは早坂の願いでもある。

 何時も1人で花火を見ているかぐやを見てきた早坂。だからこそ、明後日の花火大会は主人であるかぐやには純粋に楽しんで貰いたい。それこそ、告白だとかプライドだとかの話は全て忘れて。

 

「わかったわ。そこまでいうのなら、明後日の花火大会は童心に帰るつもりで楽しむとします」

 

「約束ですよ」

 

「ええ、約束するわ。それに、元々花火大会は個人的に1番楽しみにしていたし、問題ないわ」

 

「はい。では着ていく浴衣を決めましょうか。いくつか用意していますので」

 

「ええ、そうしましょう」

 

 早坂と約束をするかぐや。そして2人は部屋を出て、明後日着ていく浴衣を決めるのだった。

 

 尚、思ったより浴衣を決めるのが難航してしまい、結局花火大会当日の朝までかかってしまった。

 

 

 

 

 




 次回は花火大会ではなく、一旦特別編というか番外編を書きます。理由は来週の日にち。


 次回も頑張ります。感想、評価、意見等、お待ちしております。

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