もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・   作:ゾキラファス

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 祝日なのに特にやる事が無いので書いてみたらなんか書けた。自分でもびっくりしてます。


四宮かぐやと花火大会(2)

 

 

 

 

 タクシー運転手、鈴木。別名『高円寺のJ鈴木』。都内ラーメン四天王の1人であり、ラーメンファイターとして活躍している。そんな彼は現在、自分の商売道具であるタクシーを運転しながらタバコを吸う場所を探していた。

 つい先ほど乗客を目的地まで運んでいたのだが、その乗客がやたらと酔っぱらっていて、乗車中ずーっと鈴木にからみ続けてきた。やれ給料はいいのか。やれ結婚しているのか。やれ最近の政治はとか。仕事柄上、こういう乗客は珍しくない。でもストレスは溜まる。そこで仕事の合間に、どこかで一服しようと考えたのだ。

 昔であれば、都内のどこでもタバコは吸えたのだが、最近は喫煙所で吸わないと色々とうるさい。車内で吸おうとも思ったが、この後もまだまだ仕事はある。流石に、タバコ臭い車内で乗客を送り届けてたくはない。だからこそ、鈴木は喫煙所を探していた。

 

(相変わらずおっきな家だなぁ、ここ)

 

 タクシーを走らせていると、自分の給料では例え100年間無休で働いても、決して住むことが出来ないであろう大きな屋敷である、四宮家別邸が鈴木の前に現れた。

 

(そういえば、ここの人を乗せた事はないな。まぁ、こういう所は専属の運転手がいるんだろうけど)

 

 仕事中に何度か前を通った事はあるが、未だに四宮家の人間を乗せた事など1度も無い。最も、自分には縁もゆかりも無い場所だ。今後も関わる事など無いだろうとし、そのまま別邸前を走り去ろうとした。

 

 しかしその時―――

 

 シュタッ!!

 

「!?」

 

 鈴木の目の前に、浴衣姿の少女が空から降ってきた。そんな少女に驚いた鈴木はとっさにタクシーのブレーキを踏む。

 

(いや何!?まさか忍者!?まだ現代にいたの!?)

 

 混乱し、思わずそんな事を思う鈴木。そんな混乱している鈴木を見つけた浴衣姿の少女は、タクシーに近づいてきた。

 

「乗せてください!そして浜松町の方までお願いします!」

 

 そして鈴木に目的地を言う。どうやら客の様だ。

 

「あ、うん。わかったよ。どうぞお嬢ちゃん」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 客とわかった鈴木は、直ぐに後ろのドアを開け、浴衣姿の少女を乗せた。そして浜松町までタクシーを走らせるのだった。

 

 お分かりだろうが、この空から降ってきてタクシーに乗っている浴衣姿の少女は決して忍者等では無い。先ほど別邸の自室から脱出してきた四宮かぐやである。

 

 

 

 

 

 数分前 かぐやの部屋

 

「作戦は考えました。では時間も無いので説明しながらさっさと脱出しましょう」

 

「ちょっと待ちなさい高橋」

 

「何でしょうか?かぐや様」

 

「その手にしている物は何?」

 

「クロスボウです」

 

 かぐやの質問に端的に答える執事の高橋。その手には確かに黒いクロスボウが握られている。

 

「どこにあったのよそんなもの…」

 

「地下室にありました。動作は確認済みです」

 

 高橋はそう言うと、ロープの着いた矢をクロスボウに装填した。

 

「ではまず、私がこのクロスボウであちらの木に矢を放ちます。矢には頑丈ロープがついてますので、かぐや様はそれを、この滑車のついたロープを使って屋敷の外に出てください。外に出たらタクシーを拾って花火大会の会場である浜松町まで行って下さい」

 

「待ちなさい高橋」

 

「何でしょうか?」

 

「それが作戦なの?」

 

「はい。これが作戦です」

 

「えぇ…」

 

 かぐやはやや呆気にとられる。高橋が考えた作戦があまりにも単純で雑だったからである。

 

「仕方ありませんよ。既に屋敷のあらゆるところに本家からの使用人がいます。唯一バレそうに無いのがこの部屋の窓だけなんですから」

 

「それはそうなんだけど…」

 

 高橋が言う事は最もだ。下手にスパイのように隠れて屋敷内を進もうにも、様々なところに本家からの使用人がいる。その道のプロならまだしも、かぐやにはそういった経験も技術もない為、直ぐに見つかってしまうだろう。ならば残る脱出経路はかぐやの自室の窓だけだ。だが庭にも本家からの使用人が巡回しているため、ロープを下におろして庭から外に出るのも難しい。

 そこで庭の上空を使うのだ。人間は普通、空を警戒しない。しかも今は夜。闇夜に乗じることが可能だ。よってこの作戦でなのである。

 

「でも高橋。仮にこのまま外に出ても、いずれは私が部屋にいない事が本家の人達にバレるんじゃないの?」

 

「そこは既に考えてあります」

 

 かぐやが心配していると、部屋の扉が開いた。そして早坂と志賀が何かを持って部屋に入ってくる。

 

「「お待たせしました、かぐや様」」

 

「2人共、どこに行ってたの?」

 

「これを取りにいってました」

 

 志賀の手には浴衣があった。それもかぐやが着ている浴衣と同じデザインのものが。

 

「まさか…」

 

「そのまさかです。じゃあ直ぐに着替えますので」

 

「では、私は一時部屋から退出しましょう」

 

 2人が何を考えているかかぐやは理解した。高橋が部屋から退出すると同時に、早坂は志賀の手を借りながら浴衣に着替える。その途中、メイクをし、カラーコンタクトをいれて、頭に黒いカツラを被りながら。

 

 因みに早坂の下着は水色だった。

 

 そして僅か2分後―――

 

「これでかぐや様の影武者の用意は完了です。これならばとりあえずは本家の人を騙せます」

 

「お2人は背丈も似ていましたから、変装も時間が掛からなくてよかったです」

 

 そこにはかぐやの変装をした早坂がいた。声こそ違うが、ぱっと見早坂とはわからず、どうみてもかぐやにしか見えない。最も、目元や爪のネイルを見れば、直ぐにかぐやではないとわかってしまうのだが。

 早坂が着替え終わったのを志賀に確認した高橋が部屋に入ってくる。

 

「ふむ、少なくとも後姿だけならばまず騙せますね」

 

「早坂がこの部屋に変装していれば、かぐや様が部屋で花火を見ていると本家の者たちを騙せます。その他の細かい所は私と高橋さんがなんとかします。なのでかぐや様は今すぐ花火大会の会場に向かって下さい」

 

「でも皆、本当にいいの?もしバレたら、皆ただじゃすまないわよ?」

 

「覚悟の上です。それにバレるようなヘマは犯しません」

 

「そう、わかったわ」

 

 高橋、志賀、そして早坂の覚悟を受け取ったかぐやは滑車のついたロープを手にする。

 

「ではかぐや様、屋敷の外に出たら直ぐにタクシーを拾って下さい。財布に入っている金額ならば十分に足ります」

 

 高橋はそう言いながら、クロスボウを手にして、庭先の木に狙いを定める。そしてロープの付いた矢を発射した。矢はそのまま木に刺さり、窓から木まで間にロープで出来た即席の脱出経路が完成した。

 かぐやは持っていた滑車のついたロープをひっかけて、窓から身を乗り出す。

 

「皆、本当にありがとう。もしこの事がバレても、必ず私が皆をなんとかします」

 

「「「はい。いってらっしゃいませ、かぐや様」」」

 

 1度だけ3人の方に振り返ったかぐやはそう言うと、窓から飛び出した。そんなかぐやを、3人は頭を下げて見送る。

 

 こうして道路に降り立ったかぐやは、直ぐにタクシーを拾ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 花火大会会場

 

「あ、かぐやさんからメール来ました。今タクシーでこっちに向かっているみたいですよ」

 

「そうですか。でも遅刻っすか?四宮先輩にしては珍しいですね」

 

「確かにな。何かあったのだろうか?」

 

「なんか家でゴタゴタがあったみたいです。でも、これ間に合いますかね…?かぐやさん、今タクシーに乗ったみたいですけど」

 

 藤原がかぐやからのメールを確認する。どうもかぐやはたった今タクシーに乗って、皆がいる花火会場に向かっているようだ。そして花火大会まで、あまり時間は無い。

 

「白銀、確かこの辺は道路規制がしてあったよな?」

 

「ああ。こういう時は必ずそうするな。しかも四宮はタクシーだろ?ほぼ間違いなく渋滞にひっかかるぞ」

 

「それは、不味いかもしれないな」

 

「そうだな。不味いな」

 

 京佳と白銀が心配する。このままではかぐやだけが花火を見れなくなるかもしれないからだ。夏休み前に、生徒会メンバーのみで見にいこうと約束をした花火大会。ならば、この花火大会の花火は生徒会メンバー全員で見なければ意味が無い。しかしかぐやは未だに到着せず、このままでは5人では無く4人で見る事になってしまう。

 

 そんなのは嫌だ。

 

 この場にいる4人全員が同じ気持ちだった。

 

「なぁ皆。提案があるんだが…」

 

 そして白銀は3人にある提案をする。

 

 

 

 

 

 

 白銀達が懸念した通り、かぐやは渋滞に捕まっていた。先程からタクシーは殆ど動かない。

 

(もうあまり時間がない…このままじゃ皆と花火が見れない…)

 

 携帯で時間を確認するかぐや。花火大会まであと20分もない。このままでは本当に間に合わなくなる。

 

(折角早坂達があそこまでしてくれたのに、どうしてこんな…)

 

 思わず拳を握るかぐや。これでは、自分の為にあそこまでしてくれた高橋、志賀、早坂に申し訳が立たない。

 

「えっと、お嬢ちゃん。花火大会に行きたいんだよね?正直、この渋滞じゃ間に合うかどうかかなり微妙だけど…」

 

 かぐやが花火大会に急いで行きたいのを、何となく理解していたタクシー運転手の鈴木も懸念する。普段であれば直ぐに到着するのだが、交通規制でこの渋滞だ。このままタクシーに乗っていたら、間に合うかどうか本当に微妙である。むしろ、間に合わない可能性の方が高い。それを聞いたかぐやは決断する。

 

「……すみません。ここからは歩きます。ここで降ろしてもらってもいいですか?」

 

「かまわないよ。その方が早いだろうし。でも、転ばないように気を付けてね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 運転手にそう言い、それまでの乗車運賃を払ったかぐやは花火大会の会場まで走り出した。

 

(大通りは人が多い。人の少ない裏道を使えば開始時間にはまだ間に合う筈…!)

 

 人通りの少ない裏道を通り、かぐやは花火大会会場を目指す。大通りと違い人込みは無い。これなら間に合うかもしれない。

 

(神様、もうこの夏に愛とか恋とかはいりません。そんなものは望みません。だからどうか、今夜私に花火を見せて下さい。お願いします)

 

 無意識に神頼みをするかぐや。普段の彼女ならば決してしないだろう。だがかぐやはどうしても見たいのだ。部屋で1人で見る花火では無く、花火大会会場で花火を。生徒会の皆と一緒に。

 

(私はどうしても見たいんです。どうしても皆で花火を。だから、どうか…!どうか…!!)

 

 無我夢中で走るかぐや。普段あまり履きなれていない下駄のせいでいつものように早くは走れない。足の指の間が痛い。それではかぐやは走る。全ては生徒会メンバーである、石上、藤原、京佳、そして白銀と花火を見る為に。

 

 そして―――

 

「見えた!あれが会場入り口の筈!」

 

 遂にかぐやは花火大会会場入り口をその目で捉えた。空にはまだ花火は打ちあがっておらず、周りの人々も帰路に着いている様子は無く、今か今かと待ち望んでいる様に空を見ている。つまり花火大会の開始前に間に合ったという事だ。

 

「そうだ!皆に電話かメールで連絡をしないと」

 

 ようやく会場に到着しようとしているかぐやは、直ぐに皆に連絡をするべく携帯を開く。

 

 しかし―――

 

「あ、あれ?何で動かないの?」

 

 先程まで動いていたかぐやの携帯はうんともすんともいわない。画面は真っ暗なままで、どのボタンを押しても反応が無い。

 

 「まさか、電池切れ!?こんな時に!?」

 

 そのまさかである。かぐやはうっかり、携帯の充電を不十分なままにしてしまっていた。その結果、このように電池切れを起こしてしまったのだ。

 

(どうしましょう…!確か待ち合わせ場所って会場の入り口としか言ってないし…!)

 

 当初予定していた待ち合わせ場所は会場の入り口という事になっている。しかし入口といってもかなり広い。それにこの人込みだ。携帯で皆に連絡を取れない今の状況で、簡単に皆を見つけられるとは思えない。

 

(落ち着きなさい私!こんな時こそ冷静ならないと何もできないじゃない!)

 

 人というのは焦ったらダメだのだ。焦ったら普段出来る事も出来なくなってしまう。何とか冷静を取り戻そうとするかぐや。だが花火大会開始まで時間が無い。その事実がかぐやをどうしても焦らせる。

 

(とりあえず、探すのを金髪の人か身長が凄く高い人に絞って探してみるしか…)

 

「ねぇねぇ、君って1人?もしそうなら俺達と一緒に花火見ない?」

 

「お前マジでナンパすんのか。すげーな」

 

「黙ってろお前」

 

 特徴ある2人に標的を絞って探そうとしたそんな時、横からかぐやに話しかける者が現れる。

 

(この凄く忙しい時に。というか既視感が凄いですね)

 

 かぐやに話しかけてきたのは金髪で右耳にピアスをしている男と、茶髪で眼鏡をかけている男の2人。片方は金髪ではあるが、白銀とは似ても似つかない男である。そして、そんな2人に話かけられたかぐやは夏休み初日の遊園地の出来事を思い出していた。

 

(無視しましょう。今はそれどころじゃありませんし)

 

 かぐやは2人の男を無視することにした。

 

「ねぇちょっと?無視はひどくない?」

 

 だが男はそんなかぐやの事などお構いなしに喋りかけてくる。そしてなんと、金髪の男がかぐやの手首を急に掴んだのだ。

 

 そんな男の腕をかぐやは、

 

グイ

 

「いでででででで!?」

 

 逆に相手の手首を掴み、腕ごと思いっきり捻ったのだ。護身術を習っているかぐやだからこそできた事である。腕を捻られた金髪の男はたまらず力任せにかぐやから腕を離す。

 

「何すんだてめぇ!!」

 

「こちらのセリフです。いきなり初対面の女性の腕を掴むなんて何を考えているんですか?」

 

「うん。今のはお前が悪い」

 

「いやお前どっちの味方!?」

 

 男は逆上するが、かぐやから見れば自業自得である。普通、名前すら知らない相手の手首をいきなり掴むなんてありえない。故にこれは正当防衛である。

 

「言っておきますが、私は既に待ち人がいます。よってそのお誘いはお受けしません。お引き取り下さい。では、私は忙しいのでこれで」

 

 さっさとこの場を去ろうとするかぐや。しかし金髪の男は納得がいかないようだ。

 

「おい待てよ!人の腕を捻っておいて言う事はそれだけか?」

 

「いや自業自得じゃね?」

 

「お前はちょっと黙ってろ!」

 

 どうやら茶髪の男の方には常識がちゃんとあるようだ。

 

「いい加減にしてください。私は人を探しているんです。貴方のような常識の無い人に割く時間なんて1秒も存在しないんです。今すぐ私の前から消えなさい」

 

「んだとてめぇ!?」

 

 怒りを露にする金髪の男。同じ金髪でも白銀とは似ても似つかない。そして金髪の男はかぐやに掴みかかろうとした。それを見たかぐやも、もう1度反撃体勢を取る。今度は腕を捻るだけじゃなくて、相手を投げ飛ばしてやろかと思っていた。

 

 しかし、

 

バッ!

 

「「「え?」」」

 

 横から別の誰かがかぐやの前に現れ、

 

「それ以上この子に近づくな」

 

 かぐやを自分の背中に庇うように、男達にそう言い放った。

 

 同時に、後ろの空には花火が打ちあがり始めた。

 

 

 

 

 




 次回は通常通り日曜日の予定。

夏休み中にオリ主である京佳さんメインの水着回を書きたいと思っているんですが、書いてもいいですか?

  • 好きに書いていい
  • 別にいらない
  • どちらでもいい

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