もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
追記 3月12日 ちょいと加筆。
(もうすぐ夏休みも終わりかぁ…)
生徒会の皆で花火大会に行って数日、白銀は自宅のリビングでゆっくりしていた。夏休みも残すところあと少し。もう間もなく2学期が始まる。
多くの学生は、今頃終わっていない夏休みの宿題を必死で終わらせているだろうが、白銀には関係が無い。彼はとっくに課題を終わらせているし、それどころかバイト以外の時間は勉強をしている。そういう努力の結果、白銀は学年テスト1位という地位を保っているのだ。
(しかし、今年は本当に充実した夏休みだったな。去年はマジで勉強とバイトしかしていなかったし)
余韻に浸る白銀。彼の言う通り、去年の夏休みは遊んでいる暇は無かった。しかし今年は違う。遊園地に旅行に花火大会。去年とは比べるまでも無く、非常に充実している夏休みだ。
(それもこれも、夏休み前に立花が遊園地に誘ってくれたおかげだな。あの誘いのおかげで一気に流れが出来たし)
思い出すのは1学期最後の日。生徒会室で何とか藤原から旅行の話をさせようと考えていたが、その藤原は全く動かなかった。
しかし、京佳が遊園地に皆を誘ってくれたおかげで、旅行への流れが出来上がり、生徒会のメンバーと妹達とで旅行へ行くことが出来た。最も、かぐやから告白をさせるといった事は全く出来なかったのだが。
「ん?電話?」
冷房の無い部屋でくつろいでいる白銀のスマホが鳴り響く。スマホを手に取り画面を見てみると、同じ混院で生徒会メンバーの京佳の名前があった。
「もしもし?どうした立花?」
「こんにちは、白銀。少し聞きたいんだが、明日は暇かな?」
「明日か?あぁ、特に予定はないぞ。バイトも休みだし」
「そうか。なら白銀。
明日、私とデートしないか?」
「……はい?」
京佳の言ったあまりに突然の言葉に、暫く白銀はそのまま固まった。
翌日
(そろそろ時間か…)
晴天の下、白銀はいつもの制服姿で、肩に小さなバックをかけて、とある施設の前で人を待っていた。暫くすると、白銀の待ち人がやってきた。
「やぁ、おはよう白銀」
「ああ、おはよう立花」
やってきたのは、勿論京佳である。制服姿の白銀と違い、京佳は青いTシャツに、ベージュのワイドパンツ、そして白いスニーカーを履いている。風通しの良さそうな、非常に涼しげなコーディネートだ。
最も、白銀はそれを見て何も言わなかったのだが。圭がいたら、間違いなくため息をついていただろう。
「今日は付き合ってくれてありがとな」
「まぁこっちにも実りのある話だし、断る理由はなかったしな」
「ふふ、そうか。では行こうか」
「ああ、行くか」
「「いざ、クイズ大会に」」
2人はそう言うと、待ち合わせ場所だった施設『ざっぶーん わくわく!』という全天候型屋内ウォーターレジャーランドに入っていった。
話は昨日、京佳が白銀に電話をした時まで遡る。
「クイズ大会?」
「ああ、とあるプールで男女コンビでのみ参加できるクイズ大会が明日あるんだ。優勝者には、賞金20万円が贈られるらしい」
「20万円だと!?とんでもない大金じゃないか!?」
「そこでだ。男女ペアでしか参加できないから、明日私と一緒に参加してくれないか?」
「成程。それでデートか」
白銀家は貧乏である。日々の生活費をバイトで賄っている彼らにとって、20万円というのはとてつもない大金だ。バイトをすれば、その金額を手にすることも可能だが、流石に1日では不可能である。
「よしわかった。参加しよう」
白銀、即決である。デートと言われて少しだけ気恥ずかしい気持ちがありはしたが、20万円という大金の誘惑には勝てなかった。最も、誰だって1日で大金が手に入る可能性があるのなら参加するだろうが。
「ありがとう、白銀。じゃあ、明日の10時に『ざっぶーん わくわく!』の入り口に集合でいいかな?」
「ああ、了解した。では明日」
「わかった。じゃあ明日な」
スマホを切る白銀。そして徐に立ち上がり、
「よし、近くのスーパーで水着買ってくるか」
水着を買いに行くのだった。
施設内
「おおー、結構広いな」
紺色の生地に白いイルカが描かれている水着(1200円)に着替えた白銀は、施設内を見てそんな感想を漏らす。ここ『ざっぶーん わくわく!』は数年前に出来た全天候型屋内ウォーターレジャーランドだ。波の出るプール、流れるプール、大型のウォータースライダー、更には潜水士が使うような水深が10メートル以上あるプールまである。
施設内には数々の屋台、ブティック、そしてマッサージ店まであり、まさに何でもござれのレジャーランドだ。おまけに入場料もお手頃。学生ならなんと1人500円である。
白銀も、ここの存在は知っていたが、行く予定も行く理由もなかったので今まで来た事が無く、初めて見る広くて賑やかな施設を見て感動していた。
(しかし、水着なんて何年ぶりだろう。学校は水泳の授業無いしな)
秀知院学園には水泳の授業が無い。おかげで、カナヅチの白銀は同級生達にそれが露見することなく過ごせているのだが。
(ん?待てよ、水着?)
しかしここで、白銀はある事に気づく。ここはプール施設だ。つまりここで遊ぶ人はほぼ全員水着に着替えてから遊ぶ。ふと周りを見てみると、水着を着ている男性、そして女性が沢山いる。
今まで、クイズ大会の優勝賞金の事しか頭に無かった白銀だが、プールに行くという事は水着を着るという事である。勿論、白銀自身も水着だ。
そしてこれから合流する京佳も、当然水着だろう。
(いや、ちょっとまて…)
ひょっとすると、自分は少し軽率な事をしてしまったのではないか?白銀はそんな風に思う。
京佳は誰が見てもスタイル抜群である。それは今日見た私服や、旅行中に観た私服からでも確認できる。そしてここはプール施設。つまり水着に着替える事が出来る場所だ。制服や私服といった服より、露出が激しい水着。
それらの要素が合わさった立花京佳という自分の友人は、一体どれほどの破壊力を持っているのだろうか。想像するだけで、少し悶々としてしまう。
(いや落ち着け!ただの水着だ!そりゃ普段より露出は激しいだろうが水着だ!平常心を保てば問題ないじゃないか!)
ムッツリな白銀は何とか邪念を払おうとする。これらがかぐやや藤原でも彼は同じような事を考えているだろう。ムッツリだから。
しかし、もしそんな邪な思いがバレてしまったら、絶対に軽蔑される。かぐやなら冷たい視線を送りながら『おエロイこと』とかいう。藤原ならひきつった笑顔で『会長ってやっぱスケベなんですねー』とかいう。そういった事が安易に想像できてしまう。
そしてもしそういった事が学園に広がれば、破滅だ。今まで築き上げてきたもの全てが失われる。次の日からは『エロ会長』なんて呼ばれるかもしれない。
(よし、ここは星座でも数えて落ち着こう。おひつじ、おうし、ふたご…)
破滅を逃れる為にも、自分の好きな天体に関するものを数えて精神を統一する白銀。
そんな時である。
「うっわ…何あの人…すっごい美人…」
「すげぇ。胸でけぇ…」
「足長ーい。てか細ーい」
「あの人モデル?スタイル凄すぎなんだけど」
「やっべぇ、何だあれ。あんな女実在すんのか…」
「天女だ…天女がいる…」
白銀の後方からそんな感想が聞こえたのは。
「お待たせ、白銀」
そして同時に、京佳から声をかけられたのは。
「お、おう立花。きたk…」
自身を落ち着かせ、意を決して後ろを振り返る白銀。
そして京佳を見た瞬間、白銀は全ての動きを止めた。
京佳の水着は黒のビキニだった。シンプルなデザインの三角ビキニとサイドリボンの付いたショーツの組み合わせの。王道でシンプルなデザインの水着だが、そのシンプルさが京佳という素材を最高に輝やかせていた。
水着という露出の高いものを身に纏っている京佳は、一言でいえば兵器だった。黒い三角ビキニで包み込んでいる豊満な胸は、その大きさをより強調させ、嫌でも男たちの目を釘付けにする。普段、目にすることなど無いお腹周りはほっそりとしている。思わず抱きしめたりしたら、折れてしまうのではないかと思える程に。
そして足は細く長いが、臀部や太腿周りには程よい肉がついており、それがまた色気を放っている。世の中のほぼ全ての男子高校生は、この姿を見ただけでころっと簡単に落ちるだろう。
「遅れてすまなかった。更衣室が混んでいてね。それで、ちょっと聞きたいんだが、どうだろうか?この水着は」
少し前に、浴衣と一緒に購入し、こうして着ている水着の感想を求める京佳。その理由は勿論、白銀を誘惑できているかどうかの確認である。
京佳は、白銀に水着を見せて、悩殺するという作戦を諦めていなかったのだ。そして、生徒会の皆と海やプールに行く事が無いのであれば、自分と白銀だけで行けばいいと思い、こうして『クイズ大会』という建前を作り、白銀と一緒に水着デートに来る事を成したのだ。
(ビキニは少し恥ずかしかったが、男はこういうものが好みと聞く。これなら白銀を悩殺する事も可能の筈…!)
勇気を出して購入し、こうして水着を着た京佳。その全ては、白銀を振り向かせたいという想いから来ている。
夏休の間、色々とイベントはあった。しかし、それらのイベントで白銀を振り向かせる事が出来ていたかというと、それは無い。確かに、自分に意識を向けさせることが出来た事例はある。
だが未だに、白銀にとって京佳は友人止まりだ。京佳自身、その事は理解している。だからこそ今日は、水着を着て見せるというイベントを実行し、白銀を振り向かせようとしているのだ。
(さぁ白銀、感想を聞かせてくれ!どうなんだ!?)
白銀の返答を待つ京佳。
「……」
「ん?白銀?」
しかし、白銀は動きを一切止めて、何も言わない。それどころか、瞬きもしていない。まるで石造だ。
「ど、どうしたんだ白銀?」
「……」
「お、おい?本当にどうした?大丈夫か?」
「……」
「白銀!?本当に大丈夫か!?しっかりしろ!!白銀!!」
「はっ!?」
何度も京佳に言われて、ようやく動き出す白銀。
「何があったんだ?今瞬きすらしてなかったぞ?」
「い、いや!ちょっとな!ははは!」
態とらしく笑う白銀。しかしその内心はというと―――
(やっべぇ!?何だあれ!?立花が滅茶苦茶エロく見える!?何でだ!?俺が好きな黒いビキニ着ているからか!?)
もの凄く悶々としていた。はっきりいって、めっちゃヤバかった。京佳の水着姿は、白銀の性癖にぶっ刺さっていたのだ。ツアー〇ボンバ並みの破壊力があった。
(こ、これが、噂に聞く水着の魔力だというのか!?)
その噂の出どころは不明だが、少なくとも白銀の心の壁にひびが入っているのは間違いない。しかしこのままでは色々といけない。白銀は直ぐに会話をしてこの気持ちを落ち着かせようとした。
「そ、そうだな。凄くいいと思うぞ?」
「本当か?」
「ああ、エロかった」
「え?」
「ああああ!?違う違う!?今のは違う!?何ていうかとにかく違う!!今のはな、えーっとそう!ウェロカッターって言ったんだ!ある国言葉でとても似合っているという意味だ!」
「そ、そうか。初めて聞いたよそんな言葉。白銀は博識だな…」
「ははは、まぁな。生徒会長だし…」
だがあまりにも自分の性癖に刺さっていたせいで、思考力と語彙力が低下していた。結果、京佳に対してとんでもない事を口にする。
(大丈夫だよな?何とかごまかせたよな?)
とっさにありもしない言葉を作り、その場を凌ぐ白銀。
(エロイ…エロイ…)
勿論京佳には普通に聞こえていた。
(いや何を考えているんだ私は。そもそもそういう目的でこの水着を選んだぞ。今更恥ずかしがってどうする)
白銀に面と向かって『エロい』と言われた京佳は恥ずかしがっていた。元々それが目的ではあったのだが、実際に言われるとやはり恥ずかしい。
「と、とにかく、参加登録しに行かないか?」
「あ、ああ。そうだな」
このままでは気まずくなりそうだったので、2人はクイズ大会運営まで歩き、参加登録をしにいくのだった。
この水着デートが終わったら2学期行きます。もう暫くお付き合いください。
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