もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
じゃないと取り返しのつかない事になるかもですから。
「皆さん、選択授業は何に決めましたか~?」
「あー、そういえば希望シートが配られていたな」
「情報、音楽、美術、書道。どれも受験には関係の無い科目ではあるな」
「ですが、だからこそ大事だったりするんですよね」
選択授業
秀知院学園では1年時と2年時の前期と後期に分けて、計4つの授業を選択する。授業そのものはクラス混合で行われ、かぐやと早坂のA組、白銀と藤原のB組、そして京佳のC組が合同で授業をする事ができる数少ない機会だ。
選択科目は、書道、情報、美術、音楽の4つ。
生徒たちは、この中からどれかひとつを選んで授業をする。そんな選択授業のプリントが配られ、2年生の4人は生徒会室でどれにするかを考えていた。
「私はまたかぐやさんと一緒がいいです~。普段クラスが違うから、選択は一緒に授業を受ける事が出来て嬉しいんですもん」
藤原がかぐやに体を密着させながら言う。
「おい藤原。そんな理由で選んでどうする。そういうのは自分で選んで自分に必要なものを選ぶんだ」
「会長の言う通りです。友達がいるからとか、誰かと一緒に受けたいからとか、そんな不純な動機で選んではいけませんよ」
「え~、そんな~」
白銀とかぐやに言われ、藤原は再び希望シートに目を落とす。
(で、四宮は一体どの授業を選ぶんだ?)
そして白銀は、不純な動機で選択授業を選ぼうとしていた。
(本音を言うなら授業は自分で選びたい所ではあるが、これに関しては四宮と一緒というのが絶対条件だ)
白銀とかぐやはクラスが違う。しかし、この選択授業であれば一緒に授業を受ける事が可能だ。だがそれには、同じ授業を選択するという絶対条件が必要不可欠。
(本人に聞くのが1番早いが、もしそんな事をすれば…)
『あらあら、会長はそんなに私と一緒に授業を受けたいんですか? お可愛いこと』
(ってなるよな…)
かぐやにそう言われることは避けたい白銀。そうなる前に、白銀は行動に移す。
(ならばここで俺がやる事は一つ。先手必勝!俺が先に書けば何も問題はない!!)
この勝負、先手を取った方が圧倒的に有利である。先に希望シートに書いてしまえば、後から書いた方は真似たという疑惑を描けようが無い。そう決めた白銀は、机の上に置いてあるペンを取り、希望シートに記入しようとした。
しかし、
「あれ?」
机の上に置いていたペンを取ろうとしたが、ペンが見当たらない。見渡してみると、かぐやがペンを持ちそして―――
「はい。私は書けましたよ」
持っていた希望シートにペンを走らせて、選択授業を書き終えたのだった。
(しまった!やられた!!)
白銀、ほんの少し出遅れたせいでかぐやに先手を取られる。これでは、自分が真似たという疑惑を掛けられかねない。
「かぐやさんは今回何を選んだんですかー?」
「内緒です」
「ええーー!?」
「先ほど会長も言っていたじゃないですか自分に必要なものを選べと。もしここで私が藤原さんに教えたら、藤原さんは絶対に私と同じ授業を選ぶでしょう?」
「いいじゃないですかー!私はかぐやさんと一緒がいいんですよー!!」
「そうですか。なら、どうしてもというのであれば、教えてもいいですよ?」
「ほんとですか!?どーしてもです!絶対にどーしてもです!!」
「わかりました。じゃあ、会長が書いた後に教えてあげます」
「会長!早く!!早く書いてください!!!」
「落ち着け藤原。というかペンを白銀のおでこに何度も突つくな。危ないじゃないか」
藤原は白銀のおでこにペンを突きながら催促する。そんな藤原を京佳が落ち着かせる。
(うぜぇ…)
白銀は藤原をうざがった。恐らく石上だったら口に出していただろう。
(仕方ない。もう聞かずに当てるしかないか)
かぐやに直接聞く事だけは出来ないので、白銀はかぐやの思考を読みながら当てる事にした。
「確か藤原と四宮は、前回音楽を選択していたよな?」
「はい!1年生の時はかぐやさんと2人で書道を選択していたので!」
全部で4期ある選択授業は、毎回違うものを選べる一方、同じ授業は2回まで受ける事が可能である。1年生の時に書道を選んだかぐやは、既に書道を選ぶことが出来ない。
つまり、残る選択肢は3つ。音楽、情報、そして美術だ。
(四宮はかなり極めたがるタイプだ。だとすれば、今回も音楽を選ぶ可能性は高い!)
「よし、なら俺は音楽にしよ…」
ガシッ
「え?」
「ダ メ で す」
白銀が音楽に記入しようとした時、藤原がなんか凄い顔でそれを止めに入る。
「会長?ダメですよ?校歌ひとつ歌えるようになるのにアレだったんですよ?もし音楽なんて選択したら、私どうなっちゃうんですか?下手したら私ストレスで死にますよ?仮に死ななくても胃潰瘍になるかもじゃないですか?
本当に音楽だけは選ばないでください。いいですね?」
「いや、あの…」
「返 事 は ?」
「はい…」
「どうしたんだ2人共?」
藤原のあまりの説得に、白銀は頷くしか無かった。そんな2人のやり取りを見ていた京佳は疑問符を浮かべる。
(四宮は既に書道を2回選んでいる。そして音楽は藤原に止められた。だとすれば残すは情報か美術のどっちかか)
残された選択肢は2つ。確率で言えば2分の1。しかし、ここで賭けに出る事は避けたい。何とかして、かぐやから情報を聞き出したい白銀は話題を振ってみる。
「情報は悪くないよな。海外じゃ書類作成はPCでやるのが普通だし、社会に出て一番役に立つだろう」
「そうですね」
「…美術もいい。例え自分がその道に進まないとしても、デザイナーと仕事をする機会があるかもしれない。少しでも教養があると無いとでは大きく違う」
「そうですね」
「……音楽も」
「そうですね」
(いや全部反応同じじゃねーか!?最後に至っては5文字しか口にしてねーぞ!?)
だがかぐやは、全て同じ返答をする。これでは何を選らんだかなどわからない。
(どうする…いっそ賭け出るか?でもそれは…)
白銀はどうすればいいか悩む。
(ふふ、会長随分と悩んでいるようですね)
そんな悩んでいる白銀をよそに、かぐやはひっそりとほくそ笑む。実はかぐや、先ほど自分の希望シートに記入などしていない。記入したふりをしていたのだ。どうしてそのような事をしていたかというと、自分と白銀の為である。
かぐやも白銀と同じように、選択授業を一緒に受けたいと思っていた。しかし、ここで策略を巡らせ自分の選択を優先すれば、白銀の選択希望を狭めてしまう。それはかぐやの望むところではない。
故に、先に書いたという印象だけを白銀に与えて、白銀が書いた後に自分が記入するという『後追い』をかぐやは実行していた。これならば、白銀は自分のやりたい選択授業を選べるし、かぐやは白銀と同じ選択授業を選べる。
(会長がこちらの意図に気づいてくれるまで、私はただ待っていればいいだけですし、今日は楽勝ですね)
今日のかぐやはただ、白銀が希望シートに記入するのを待つだけでいい。これ以上、下手に策略を巡らせる必要などない。それゆえ、今日は余裕だとかぐやは高を括る。
「そういえば、会長は前はどの選択授業を選んだんでしたっけ?」
かぐやが余裕でいる中、藤原が白銀に質問をした。
「俺か?前回は書道を選んでいたぞ。1年の頃は情報と美術だったな」
「へー、ほぼ全部選んでるんですねー。京佳さんは?」
「白銀と一緒だよ」
「はい?」
(え?)
そして突然聞き捨てならない事が聞こえた。
「えっと、つまり私とかぐやさんみたいに、京佳さんは会長と一緒に選択授業を受けていたんですか?」
「ああ。1年生の頃からずっとな」
(はぁぁぁぁ!?)
衝撃の事実である。京佳は既に1年生の頃から、白銀と一緒に選択授業を受けていたというのだ。
「言っておくが藤原、白銀に相談したとかじゃなくて本当に偶然だからな?」
「いやそんな偶然あります!?絶対にどこかで一緒に受けようって言ったでしょ!?」
「いや本当に偶然だよ。私も白銀も、たまたま選んだ授業が一緒だったんだ」
これは本当の事である。
1年生の当時からクラスが違う白銀と京佳だったが、どういう訳か選択授業は常に一緒となっていた。1年生の最初に選んだ情報の時は、まだ他に知り合いがいなかった為お互い隣の席で授業を受け、美術を一緒に選んだ時は、校内で一緒に動いて同じ場所で風景画を写生した。前回の書道の時も似たような感じである。
その話を聞いた藤原が、突然目を輝かせながら口を開く。
「そんなのまるで、運命みたいじゃないですか!?」
「「「え?」」」
「だってそうでしょ!?お互い、相手が何を選んでいるのか知らないのに、同じ授業を一緒に受けれて、しかも3回連続ですよ!?そんな偶然、もう運命の赤い糸で結ばれているみたいじゃないですか!?」
運命の赤い糸で結ばれているみたいじゃないですか
結ばれているみたいじゃないですか
じゃないですか
か
眼を輝かせている藤原が言った台詞が、かぐやの頭の中で響く。
運命の赤い糸
自分と想い人のお互いの小指が、赤い糸でつながっているという、女子なら誰でも1度は憧れるやつ。その糸があれば、どんな困難があろうとも、必ず2人は結ばれるというものだ。因みにその起源は中国と言われている。
(お、お、お、落ち着きなさい私…!偶然です!そんなのはただの偶然です!そもそも運命の赤い糸なんて科学的根拠何て全く無い妄想!真に受けてはいけません!!)
先ほどまでの余裕は何処かへ消え去り、かぐやは表にこそ出していないが動揺する。
だっていくら何でも出来すぎだ。
お互い、相手が何を選らんだのか全く知らないのに、偶然同じ授業を選択していた。それが3回。いくら偶然だとしても、思ってしまう。
もしかしたら、本当に白銀と京佳は運命の赤い糸で結ばれているのではないかと。
(あり得ません!そんな事はありえません!!偶然!絶対にただの偶然です!!)
あくまで偶然だと自分に言い聞かせるかぐや。だが、どうしても考えてしまう。確かに、可能性で言えばそういう事もあり得るかもしれない。だが、その可能性は決して高くはない。だとすれば、本当に2人には赤い糸で結ばれているのではないか?その考えが消えない。
(まさか、2人には本当に…?)
1度考えてしまうと、簡単にはその考えが頭から切り離せない。先程まであった心の余裕はどんどん無くなり、かぐやは胸が苦しくなり始める。
「そうだ!だったらここで先ず京佳さんが記入してみて下さいよ!そしてその後に会長が記入してもしまた同じだったらこれはもう本当に運命ですよ!早速やりましょう!」
「ちょ、ちょっと待て藤原」
「さぁさぁ!早く早く!ハリー!ハリー!!」
突然、興奮した様子の藤原は京佳に詰め寄りながらそんな事を提案する。そんな藤原に言い寄られた京佳は少したじろぐ。
だが、そんな時だった。
「落ち着け藤原。というか、お前楽しんでいるだろ?」
「へ?」
「立花がずっと俺と一緒に選択授業を受けていたと聞いた辺りから明らかに目の色が違う。そういった話題が好きなのはわかるが、少しは自重しろ」
(はい?)
白銀が藤原を止めた。
藤原は恋バナ大好き女子である。。そんな彼女に、3回も一緒になって同じ授業を受けていると言った京佳と白銀の話は極上の話だった。故に目を輝かせながら、根ほり葉ほり聞こうとしていたのである。
しかし、白銀は藤原の目がそういう時のもの特有である事に気づき、自分にも被害が広がる前に藤原を止める事にしたのだ。
「ぶぅー、いいじゃないですかー。これくらいはー」
「ダメだ。立花も困っているじゃないか。それ以上は許さないぞ」
「ちぇー」
藤原は不貞腐れながら引き下がる。
「それと言わせてもらうが、一緒の選択授業を連続で受けているだけで赤い糸うんぬんは安いだろう。もし本当に赤い糸があるなら、クラスが一緒で家も近いとかも付け加えないと赤い糸とは言えないぞ」
「そうですかー?私的には選択授業だけでも十分に運命感じちゃいますけど?」
白銀と藤原は赤い糸について語る。
(白銀と赤い糸で結ばれている…そんな事は考えてすらいなかったが、これは本当にそうかもしれないな…えへへ…)
藤原に言われて、初めてそういう認識をする京佳。その心は、嬉しさでいっぱいだった。少しだけキャラ崩壊しているが。
(藤原さん、本当に1度その口縫い付けますよ?ミシンで)
一方でかぐやは藤原に殺意を向ける。最も、藤原はそれに全く気付いていないが。
「ってそうだ!結局会長は何を選ぶんですかー?」
「あー、そうだな…」
ここで、藤原が思い出したかのように選択授業の話をする。そして白銀は少しだけ考えて、
「よし、今回は美術にしよう」
希望シートに美術と記入した。どうやら、かぐやの意図が分かった様である。
「おおー、会長は美術ですかー。じゃあ、かぐやさん。何を選択したのか…」
「藤原。話の途中ですまないが、生徒会だよりを職員室に運ぶという仕事が残っているぞ?手伝ってやるから続きは終わってからにしてくれ」
「あ、そうでした…かぐやさん、この仕事が終わったら教えてくださいねー」
「え、ええ。いいですよ」
「立花も頼む。これだけの量を2人だと少し厳しいんだ」
「構わないよ。じゃ、いこうか」
かぐやに何を選択したか聞こうとした藤原だったが、書記の仕事が残っているのを白銀に指摘され、1度生徒会室から出る事になった。そして、白銀と京佳と一緒に、生徒会室を後にする。
誰もいなくなった生徒会室。ここでかぐやはゆっくりと再びペンを持ち、希望シートに記入をする。これで白銀と一緒の選択授業を受ける事が可能となった。
「何故でしょう…嬉しいはずなのに、心から喜べません…」
だが、その心は中々晴れなかった。
因みにその後、京佳もしっかりと美術を選択していた。今回は偶然では無かったが。
感想、評価、お気にいり登録、誤字報告。いつもありがとうございます。本当に励みになっています。相も変わらずノリの勢いの作品ですが、次回もよろしくお願いします。