もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
今回、マキちゃんが泣いてます。
「恋愛相談だと?」
「そうなんすよ。やっぱこういう相談って会長しかできないっていうーか?俺にとって会長は恋愛の師匠ですし?今回も何か良いアドバイスくれるかなーって」
生徒会室の入り口で、白銀は突然来訪した者の対応をしていた。やってきたのは田沼翼。1学期に白銀に恋愛相談をし、その結果、見事意中の女生徒と見事付き合う事ができた男子生徒である。因みに白銀と同じクラスのクラスメイトだ。
「まぁ、それは別にいいんだが、お前本当に変わったな?」
「そうっすかねー?」
「夏休み中に1回会っているから初見程の驚きはもうないけどさ、それでもやっぱりまだ驚くぞ。夏休み前と見た目全然違うからな」
1学期の翼は、黒髪のストレートで制服もきちんと着ているいかにも真面目そうな生徒だった。しかし、今の彼は髪を茶色に染め、片方の耳にピアスをしており、制服も着崩している。
白銀は、夏休みの最後の週に京佳と2人でプールに行った際に翼と会っているので現在は初見程驚きはしないが、それでも翼の変わりようには未だにびっくりしてしまう。
「まぁ、その辺も含めて相談に乗ってほしいなーって」
「そりぁ、かまわないが…」
「あ、相談事なら僕席を外しますけど?」
「あ-、気にしないで。相談っていってもさ、別に重いやつとかじゃないし。むしろ君も聞いてくれると助かるっていうか」
「はぁ。別にいいですけど」
石上が気を利かせて席を外そうとしたが、翼は石上にも相談を聞いて欲しいらしく、その必要は無いと言う。そう言われた石上は生徒会室の長椅子に座ったまま、机の上の資料を片付ける。
そして石上の隣に白銀が座り、2人の前の長椅子に翼が座った。
「それで、相談っていうのは?」
「あーはい、彼女、いや渚の事なんですけど…」
同時刻 中庭
「急に呼び出してごめんね…」
「別にいいよ。それでどうしたんだ?眞妃」
中庭のベンチに眞妃と京佳が座っていた。
数分前に、突然京佳のスマホに眞妃から『今すぐ会いたい』という相手が異性だったら勘違いしそうなメッセージが届いた。それを見た京佳は、こうして直ぐに眞妃が居る中庭までやってきたのである。
「私さ、夏休みの後半って、家の用事が忙しくて殆ど家から出れていなかったのよね」
眞妃がゆっくりと話し出す。しかし、その声に元気はまるで無い。
「家の用事。それは、四条としてのか?」
「そう。知っているかもだけど、うちってかなり大きな家だからね。会食だとか、他の家へのあいさつだとかでもう本当に忙しかったのよ。正直疲れたわ」
眞妃の家は四宮家の分家であり、国内でも有数の名家である。それゆえ、双子の弟と一緒に家のあいさつ回りなどに駆り出されることが多々あり、夏休みの後半は殆ど遊ぶ事など出来ずにいた。
「まぁそれはいいのよ。別に今に始まった事じゃないし。それに、私はある思いで頑張れたしね」
「ある思い?」
「2学期になったら彼に会えるってやつ」
「ああ、成程」
彼というのは、翼の事である。夏休みの前半に、京佳は眞妃から色々と話を聞いており、眞妃のもろもろの事情も知っている。
確かに、意中の人と夏休みに会える事がなければ、2学期に学校で会えるのが楽しみになるだろう。そしてそれを糧にすれば、頑張れる事だって出来る。人は目標を持っていれば、大抵の面倒事は何とかなり、頑張れるのだ。
「……でもね」
眞妃の声のトーンが更に下がる。京佳はここからが眞妃が会いたいといった原因だろうと思い、少し身構えた。
「今朝彼に会ったらね、彼の見た目がすっごい変わっていたのよ…」
「……」
「何なのよあれぇ…あんなに軽そうな感じじゃなかったじゃん…いや、あれはあれでかっこいいからいいんだけどね?」
眞妃は、翼の見た目が劇的に変わっていた事を話し出す。京佳は夏休み最後の週に翼と会っているのだが、元々の見た目を知らない為、特に驚いてはいなかった。
因みに翼と会った事は眞妃に言っていない。別に言う程の事でも無いと思ったからである。
「でさ、あれってさ…」
「ああ」
「もしかして、そういう意味で変わっちゃっているのかな…?」
「そういう意味?」
「えっとね、あの、所謂大人の階段を駆け上がったんじゃないかなーって意味で…」
「ああー…」
京佳は眞妃が言わんとしている事を理解した。
大人の階段を上る。
それはつまり、恋のABCのCまで行ったという意味だ。確かに、人は1度そういった経験をすると雰囲気がガラリと変わる。更に身だしなみにも今まで以上に気を使い、それまでダサかった服装や髪型も全く違うものになるものだ。翼の見た目が劇的に変わっているのを見た眞妃がそう思うのも仕方が無い。
「もしそうだったらさ、もうさ、私どうすればいいのよ…」
「ま、待て眞妃。まだそうだと決まった訳じゃないだろう?たまたまイメチェンした可能性も…」
「夏休み明けにいきなり見た目が変わっている人はそういうものだって雑誌に書いてあったもん!ていうか変わりすぎなのよあれ!最初本当に誰かと思ったわよ!それまで黒い髪だったのがいきなり茶髪になって、そして耳にピアスよ!?1学期にはちゃんと綺麗に来ていた制服も前の方を開けて着崩しているし!こんなのもうそうじゃないと説明つかないじゃない!!」
目に涙を浮かべながら力説する眞妃。周りに人がいたら変な視線を送られていたかもしれない。
「ううぅ、何でよぉぉぉ…何で私ばっかりこんな思いをしないといけないのよぉぉぉ…」
「とりあえず落ち着くんだ。ほら、これで涙を拭いてくれ」
「ううぅぅぅ、ありがとぉぉぉ…」
「よしよし」
そんな眞妃に京佳はハンカチを手渡し、眞妃はそれで目元を拭く。そして京佳は背中をさすって何とか落ち着かせようとする。
数分後、泣いて少しスッキリしたのか、眞妃は『もう大丈夫』といい、京佳は生徒会室に向かった。
(私も失恋したら、あんな風になるのだろうか?)
生徒会室に向かう途中、京佳はそんな事を思っていた。京佳は白銀に絶賛片思い中である。しかし、これが報われるかどうかはわからない。もしかすると、数か月後には自分も眞妃のように情緒不安定になっているかもしれない。
(母さんは『失恋は女を美しくさせる』とか言っていたけど、私は失恋したくないんだがなぁ…ん?)
母親に言われた事を思い出しながら生徒会室に向かっていると、何やら変な光景が目に入った。
「何やっているんだ?皆」
「あ!京佳さん!こんにちわです!」
「おお!立花!来たか!!」
自分以外の生徒会メンバーが、生徒会室の扉の前で集まって、何やら生徒会室の中を伺っていた。
「中で何かあるのか?」
「いえですね!もしかすると、あの2人が神っているかもしれないんです!!だからこうして確かめてみようかと!」
「は?」
京佳の質問に、藤原は妙な言葉で返答する。聞いた事の無い単語だった為、京佳は疑問符を浮かべた。
「ようするにですね立花先輩。今生徒会室にいる2人の先輩が、Cまでいっているんじゃないかって事です。それを確認するために、態々2人を生徒会室に2人っきりにして様子を伺ってみようとしているんですよ」
「成程。意味は分かったが、あの2人て一体誰だ?」
藤原の言葉を石上がわかりやすく解説する。そして京佳も、生徒会室の中を覗いてみた。
「あれは確か」
「俺と同じクラスの柏木と田沼だ」
「ああ、この前プールで会った2人か」
(プール?)
京佳の目線の先には、生徒会室の長椅子で隣同士に座っている渚と翼がいた。なお、かぐやは京佳の言った台詞が気にはなったが、それより今は目の前の事が重要だと思い、この場ではスルーして後で聞く事にした。
「ああ!今ちゅーしましたよ!ちゅーです!これは神認定で良いのでは!?」
「まだだ!ちゅーくらい3回目のデートでするだろ!!」
(会長、3回目のデートでちゅーするんだ…)
(白銀、3回目のデートでちゅーするのか…)
白銀の発言に、かぐやと京佳は頬を赤く染める。
「あー!首筋にちゅーしましたよ!首筋です!これはもう神っている証拠じゃないんですか!?」
「むしろこれはもう現在進行形で神っている事になるのでは!?」
「いやまだだ!首筋にちゅーくらい4回目のデートでするだろう!」
(4回目のデートで!?)
(え?4回目?早くないかそれ?)
かぐやは白銀が4回目のデートで首筋にキスをする事に驚き、京佳は白銀が4回目のデートで首筋にキスする事に少し疑問を感じた。
「じゃあ何回目のデートでヤるんですか!?」
「5回目だよ!!」
ばたーん
「どうした四宮!?」
「かぐやさん!?大丈夫ですか!?」
白銀の5回目発言を聞いたかぐやは、頭がオーバーヒートして倒れた。倒れたかぐやを心配した京佳と藤原がかぐやに近づく。
「なーんちゃって」
そんな時、生徒会室の扉が開き、中から渚が顔を出す。
「ごめんなさい。ちょっとからかっちゃいました。そんな大勢で騒いでいたら嫌でも気づきますし」
「いやその!色々と心配でな!」
「勿論わかってますよ」
渚は微笑みながら言葉を続ける。
「彼の見た目が変わっているのは私のせいなんです。素直な人だから、私が『強気でワイルドな人が好き』って言ったら合わせてくれたんですよ。だから、皆さんが思っているような事はありませよ?安心してください」
「な、成程。そうだよな」
白銀は安心した。しかし、
「ええ、勿論」
(いやこれわかんねー!?)
渚の顔を見てその安心した心は消える。渚の顔は、色気があった。小さな仕草すらも、そこはかとなくエロスを感じる。
(こ、これは…)
そして京佳も、そんな渚を見て息を飲む。なんというか、オーラが違う。同じ女から見ても、今の渚はひとつ上の段階に進んでいる様に見える。正直、勝てる気がしない。
(これは本当に、そうなのかもしれんな…)
眞妃が言っていた事を思い出しながら、京佳は倒れたかぐやを介抱する。
(…あ)
そんな時、京佳は目線の先にある人物を見つけてしまう。
それは、階段近くの角で隠れてこちらを見つめながら、ポロポロと涙を流して泣いている眞妃だった。
(どうしよう、あれ…)
放課後 純喫茶りぼん
「ううぅぅぅ、おかわりぃぃぃ…」
「も、もうやめた方がよくないか眞妃?既に3枚食べているだろ?」
「いいもん…今日は甘いのを沢山食べたい気分なんだもん…っていうか食べないとやってられないのよぉぉぉ!!」
夏休みに京佳と一緒に行った喫茶店で、眞妃はホットケーキを食べていた。というかヤケ食いしていた。既に3枚のホットケーキが眞妃の胃の中に納まっており、これから4枚目に突入しようとしている。因みに京佳はアイスコーヒーのみだ。
「何なのよあれは!今まであんな渚見た事無かったんだけど!?女の私から見ても色気凄かったもん!小さい頃から渚の事知っているけど私あんな渚知らない!っていうか知りたくなかったわよぉぉぉ!!」
「うんわかった。もうわかったから思う存分食べろ」
京佳はもう眞妃がホットケーキを食べるのを止めるのを諦め、黙って話を聞く事にした。涙を流しながらホットケーキを食べる姿に、何か鬼気迫るものがあったからである。その後、眞妃はホットケーキを5枚食べた。
翌日、眞妃は体重が3キロ増えていたが、直ぐにダイエットをして2週間で元に戻してみせた。
おまけ 恋愛相談中の翼と白銀と石上の会話
「でも、会長も今年の夏休みはエンジョイしてましたよね?」
「まぁな。今年の夏休みは確かに遊んだぞ。生徒会の皆と遊園地に行ったり旅行に行ったり花火見に行ったり」
「それだけじゃないじゃないっすかー。会長も俺と渚みたいに女の子とプールデートしてたじゃないっすかー」
「あ!いやそれは!」
「え?そうなんですか?僕知りませんけど」
「あれ?そうなの?先週の事なんだけどさ…」
「田沼!その話はまた今度な!?今はお前の恋愛相談だろ!?」
「あ、それもそうっすねー」
(会長流石だな。まさか女子とプールデートなんてしていたなんて。恋愛の師匠って呼ばれているだけあるって事か。でも誰としたんだろ?四宮先輩?立花先輩?それとも藤原…いや藤原先輩は無いな、うん)
「……」
「どうしました?藤原さん?」
「いえ、何故か突然イラってしまして」
「?」
そろそろ会長の誕生日の話だけど、京佳さんの会長へのプレゼント何にしよう。
次回も頑張ります。