もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
そろそろ連載して1年経つ。正直、ここまで続けられるとは思っていませんでした。
白銀と別れたあと、京佳は電車に乗り自宅へと帰り、その後すぐにお風呂に入った。そしてお風呂から出て、自室に入った京佳は―――
(ああああああああああああああああああああ!?)
ベットの上で派手に悶えていた。
一応、マンションの隣の部屋の人に迷惑にならないよう枕に顔を埋めていたりするが、可能であればベランダに出て大声を出して叫びたい気分である。
(わ、わ、わたしは!な、何ていう事をぉぉぉぉ!?)
普段ならまず見る事の無い京佳の姿。彼女がこんな風になっているの原因は、ほんの1時間程前の自身の行動にある。
京佳は1時間程前、白銀にキスをした。
それは白銀の誕生日に、自分の印象を強く残そうと考えた結果の行動だ。白銀はかぐやからも誕生日プレゼントを貰っており、このままではかぐやの印象を上回れないと思った京佳は、それの印象を上書きする為にとっさに白銀にキスをした。なお流石に口にする勇気は無かったので頬にである。
が、今更になって自分の行動が恥ずかしくなったのだ。
(何が『私の初めてだよ』だ!?バカじゃないのか!?本当にバカじゃないのか!?うわあああああ!?)
京佳は枕に顔を埋めた状態で悶える。だってキスである。握手とかハグとかではなくキスである。しかも何とも言えない台詞つき。
以上の事より、京佳は少し前の白銀同様、自身の行動を黒歴史とし悶えているのだ。
(絶対に引かれた…絶対に白銀に引かれた…いきなりキスする女なんて引かれるに決まってる…明日どんな顔して白銀に会えばいいんだ…)
そして悶えると同時に、後悔もし始める。
冷静になって自分のした事を顧みると、自分は帰り際に誕生日プレゼントと言い、いきなりキスをしてきた女だ。どう考えてドン引きする行動である。
(どうしよう…もし今日の事が皆に知れたら…)
―――
『そういや立花は、昨日俺にいきなりキスしてきたよな?』
『え?そうなんですか京佳さん?えっと、それは…』
『うっわ。いきなりキスするとか気持ち悪いんですけど…立花先輩ってそんな卑しい人だったんですね』
『違うんだ!?あれは何というか違うんだ!?』
『立花さん。貴方って随分と常識の無い事をするんですね?』
『四宮の言う通りだな。立花がそんな奴とは思わなかった。あんな事をする奴は生徒会役員に相応しく無い。今日限りでお前はクビだ!』
『そ、そんな!?待ってくれ白銀!白銀ーーー!?』
―――
(絶対にそうなる…ていうかもう学校に行けないじゃないか…)
普段の京佳ならこんな事は考えない。しかし、自分のした事があまりにも後先考えていない行動だった為、メンタルにかなりのダメージが入ってしまっている。
故に、まるでかぐやのような被害妄想をするまでになってしまったのだ。
(今からでも電話して白銀にあれは無かったことにしてもらうか?いや無理だ。そもそも電話で無かった事にする事なんて出来ない。でも何とかしないと、明日どんな顔して白銀に会えばいいんだ?ああぁぁ、なんで私はいきなり、き、キスなんて…せめてこれがハグならいくらでも言い訳が…)
「さっきから何やってんの京ちゃん?」
「あ、母さん…」
京佳が自室のベットの上でウンウン悶えていると、部屋の扉が開き、京佳の母親である佳世が声をかけてきた。
「はい、ココア」
「ありがとう…」
娘の様子がおかしいと思った佳世は、直ぐにリビングに京佳を連れ出し、ソファに座らせて、自分もその隣に座った。
「それで、どうしたの?さっきからなんかウンウン唸ってたけど」
「えっと…その…」
佳世は娘が何かで悩んでいるのを感じ取り相談に乗ろうと思ったのだが、京佳は中々口を開かない。だがそれも仕方ないだろう。なんせ悩んでいる内容が内容なのだ。しかも相手は実の母親。一体どう言えばいいか、京佳はわからなかった。
「う~ん。じゃあ私から質問してもいい?」
「質問?」
「そう。京ちゃんは私からの質問に答えていくの。そうすれば、言いづらい事でも濁しながら答えられるかもしれないでしょ?」
「…わかった」
確かのこれでは埒が明かない。よって京佳は、佳世の提案を受け入れて、質問に答える事にした。
「じゃ行くわよ?悩み事がある?」
「うん」
「それは学校の事?」
「えっと、一応は…」
「人間関係?」
「うん」
「つまり白銀くんの事ね?」
「ぶふ!?」
だが佳世は、途中で質問を濁さず直球で聞いてきた。これでは意味がない。そして佳世の質問を聞いた京佳は思わずむせた。
「と、と、と、突然何を言い出すんだ母さん!?」
「やーっぱりね。そんな事だろうと思ったわよ」
「あ!さては最初から私の悩みに当たり付けてたな!?」
「そりゃね。夏休みの行動といい、部屋にあった時計店の紙袋といい、あれだけ証拠があれば大体想像つくわよ」
「うう…」
佳世は最初から京佳の悩みに当たりを付けていた。それだけ京佳は色々と証拠や行動を残しているのだから仕方ないが。
「それで、その白銀くんと喧嘩でもしたの?」
「いや、それは…」
ここで悩みを打ち明けるかどうか京佳は悩んだ。しかし、このままでは何も進まず明日になってしまう。そうなったら、結局どんな顔して白銀に会えばいいかわからないままだ。
そして数分間自問自答した京佳は、佳世に相談する事にした。
「実は、ついさっきの話になるんだけど…」
「うんうん」
「白銀の家から帰る途中、白銀に誕生日プレゼントを渡したんだ」
「うんうん」
「でその後直ぐに白銀にキスしたんだ…」
「……へー」
京佳の言葉を聞いた佳世は目を細める。そして京佳は、そんな母親の反応を見て察した。間違いなく、自分はやらかしたと。
(ああぁぁ、やっぱりこんな反応になるよなぁ…もうこれ完全に終わった…)
京佳は自分の恋が終わったと思った。付き合ってもいないのに、いきなりキスをする女なんてはしたないにもほどがある。普通の感性をしていれば、そんな女なんてごめん被るだろう。
(ほんと、感情に任せて動いちゃいけないな…はは…)
意気消沈している京佳に、佳世が話しかける。
「で?」
「え?」
「で?」
「え?」
「だから、その後は?」
「その後?いや、普通に帰ったけど…」
「……京ちゃん、一体何を悩んでいるの?」
だが何か変だ。
京佳が思ってたのは、『はしたない』とか『軽率な行動』とか母親に色々言われる事だったのだが、佳世は一切そんな事は言わない。むしろ『それがどうしたの?』と言いたげだ。
「何をって、いきなりキスしたんだぞ?そんなの、相手にに引かれるじゃないか。あれ絶対に嫌がられてるだろうし…」
「いや、そんな事ないでしょ」
「え?」
きょとんとする京佳に対して、佳世は言葉を続ける。
「もし本当に嫌がっていたら、その場で絶対に何か言ってくる筈よ。でも白銀くんは何も言わなかったんでしょ?だったら最低限、嫌がってなんかいないわよ」
「そ、そうなの?」
「そうよ。全く、何の悩みかと思えばそんな事なのね。私の娘だったらもう少し自信持ちなさい。そもそも男っていうのはかなり単純なの。ちょっと優しくしたら好きになるような子だっているんだから。大抵の場合、女の子にキスされて嫌がる子なんていないわよ。むしろ役得って思ってるんじゃない?」
「そうなのかな?」
「京ちゃん難しく考えすぎよ。もっと単純に考えなさい。ていうかやった事を後悔するくらいならやっちゃダメ。むしろやった事を最大に生かせばいいじゃない」
そういうと、佳世は手に持っていた缶ビールを飲み干す。佳世の言葉を聞いた京佳の顔が少しだけ明るくなる。そして佳世同様、手にしたココアを飲み干す。
「ところで一応聞くけど、京ちゃんって自分から告白するタイプ?」
「……それ言わないとダメ?」
「いや、別に言いたくないならいいわよ。でももし相手から告白させようとか思っているならやめときなさい」
「えっと、何で?」
「私が学生の頃にそんな子がいたのよ。その子って同じクラスの男の子が好きだったんだけど、なんか変なプライドがあってね。『自分から告白するのは負けた気がする』とか言ってたのよ。だから相手から告白させようとしてたのよね。まぁそれならまだいいけど、アプローチが毎回毎回遠回しだったのよ。その結果、その男の子はその子の気持ちに気づかず、あげくその男の子は別の女の子と付き合う様になっちゃったのよ。そしてそれがトラウマになって、その子未だに独身よ。まぁ今は仕事が生きがいのバリバリのキャリアウーマンとして生きているからそれほど後悔も無いかもだけど。住んでる場所六本木の高層マンションだし」
どこかで聞いたような話だが、とりあえず京佳には関係がない。そもそも京佳は自分から告白するつもりでいるし。
「でもあの子が言っていた『好きになったら負け』って言うのが今でもよく理解できないわね。好きになったら勝ちなのに」
「え?」
「だってそうでしょ?誰かを好きになるって、それだけで幸せな事じゃない?実際、私はパパを好きになって本当に毎日楽しかったわよ?そして恋人になってからはもう最高の日々だったわね。結婚した日は今までの人生で2番目に嬉しい日になったし」
「2番目なんだ。じゃあ1番は?」
「勿論、京ちゃんとお兄ちゃんが生まれた日よ」
それを聞いた京佳は恥ずかしくなった。実の母親からそんな事を言われたら誰でもそうなるだろうが。
「ま、そんな訳でもしそんな考えを持っているなら捨てちゃいなさい」
「う、うん。わかった」
「ところで京ちゃん。白銀くんって京ちゃんの初恋?」
「いや、初恋では無いけど…」
「それはよかったわ。初恋だったらまず実る事は無いだろうから応援するだけ無駄だったし」
「何てこと言うんだ」
偏見の塊みたいな事をいう佳世。どこかの名家の令嬢達が聞いたらキレているかもしれない。
因みに京佳の初恋は、小学生当時同じクラスの男の子だったのだが、中学校で京佳が左目を失ったのを見て『ゾンビみたい』と最初に言った奴である。そしてそれを聞いた京佳は失恋を経験した。
なおその男子は京佳の友達に思いっきり殴られている。
「でも、ありがとう。おかげで少しだけ心が軽くなったよ」
「どういたしまして~」
京佳は先ほどとは違い、心が軽くなったいた。
(そうだ。後悔しても遅いんだ。だったらこれを最大に生かしながら今後は動けばいい。いやむしろ、最大のチャンスと捉えてもいいかもしれない)
そして、感情に任せて白銀にキスした事を生かそうと決める。冷静に考えれば、これは白銀が自分に振り向く最大の好機ではないかとさえ思えてくる。
(男の子は単純…いっそもう白銀を押し倒すか?す、少しくらいなら揉ませてもいいし…)
何をとは言わないが、京佳はかぐやであれば先ず考えないだろう事さえ考え始める。
(兎に角、先ずは明日の学校だな)
こうして京佳は、決意を新たにするのだった。
「ところで母さん」
「何?」
「相談に乗って貰ったのは本当にありがたいんだが、その恰好はどうにかならなかったのか?ていうか何でYシャツだけなんだ」
「別にいいじゃない。娘なんだから」
「いや娘だから困るんだよ。せめて下に何か履いてくれ…」
「失礼ね。パンツは履いてるわよ」
「そういう事じゃなくてだな…」
娘の恋愛相談に乗る母親のお話でした。
次回も頑張ろう。