もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
追記 少し編集
「……」
白銀は自室でスマホを眺めていた。彼はスマホを使ってある人物に電話をしようとしているのだが、もう既に10分はこの状態である。
先程から何度もとある人物と電話をするべくコールボタンを押そうとはしているが、どうしても踏ん切りがつかず、ボタンが押せない。
「はぁ…」
ため息が出る。これも先ほどから何度もである。
そんな状態の白銀のスマホの画面には『立花京佳』と映し出されていた。
今日の白銀は、学校では昨日のキスの事を聞く事が出来ずにいただけでは無く、京佳の顔を見たせいで昨日の事を鮮明に、そして大げさに思い出してしまっていた。それどころか、どういう訳か京佳の事を変に意識するようにもなった。
その原因は間違いなく、昨日のキスである。それがきっかけで、今白銀は京佳を変に意識してしまい、まともに話す事さえできずにいた。このままではいけない。何とかして、せめて顔を見て話せるようにならないといけない。
そこで白銀は、多少情けないと思いつつも、やはり京佳にキスした理由を聞く事にしたのだ。どうして京佳が自分にキスをしたのかさえわかれば、今の様に変に意識したり悶々とする事もなくなるかもしれない。希望的観測が混じっているが、今はもうこれしか解決策が無い。
そして何とかしようと思ったのだが、顔を見て話す事は現状不可能に近い。ならばと顔が見えない電話という手段に至ったのだ。しかし、中々コールボタンが押せない。いくら電話と言えど、やはり思い出してしまうからだ。
(俺って、こんなに単純な男だったんだな…)
白銀は少しだけ自分に落ち込んだ。いきなり頬にキスをされたとはいえ、ここまで意識するとは思っていなかったからだ。もしキスしたのがかぐやだった場合、数日は睡眠をとる事さえ無理だろう。
(だがこのままだと本当にいかん。やはりここはちゃんと電話して…)
妹と父親は現在、居間で『アーサー王の真実!アーサー王は女性だった!?』という特番を見ているのでこの部屋に入ってくることはない。今のうちに電話をして昨日の事を聞き出したい。そう思い、スマホから京佳の番号を表示する。後はコールを押すだけなのだが、
(くっ!押せん!やっぱり押せん!)
それが未だに出来ない。もう何回もこれが続いている。お笑い番組だったらいい加減プロデューサーからダメだしを食らうだろう。
(そりゃ、聞いたところで答えてくれるかどうかわからないっていうのもあるが、もし俺が考えている通りだった場合、立花はかなり勇気を振り絞ってあんな事をしたかもしれない。そんな事をしたのに『どうしてキスしたんですか?』と俺から聞くというのはなぁ…)
それはとても失礼な事になるのではないか。白銀の中にはこの思いがあった。だが、このままモヤモヤしたまま過ごすのは日常生活に支障が出る。今日の放課後のような。
「あーもう。やはりここは多少アレでも直接聞くしか…!」
そんな事を呟いた瞬間、
トォルルルルル
電話のコール音が聞こえた。
「へ?」
白銀がスマホの画面を見てみると、そこには『立花京佳』と出ている。
(やっべ!いつの間にかボタン押してた!?)
まさかのミスである。白銀はいつの間にか通話ボタンを押していたのだ。
(いやちょっと待って!まだ心の準備が!?)
そう思う白銀だがもう遅い。ここで電話切ってしまうと逆に変な事になりそうでもある。そして、
『はい、もしもし』
遂に電話がつながってしまった。
「や、夜分遅くにすまない。立花か?」
白銀は腹をくくって声を出す。
『あー、君が白銀くん?初めまして~』
「え?」
しかしどうも変だ。白銀は1度スマホ画面を確認する。そこにはちゃんと『立花京佳』と出ている。間違い電話をしている訳ではなさそうだ。
「あの、この電話は立花京佳さんの電話ですか?」
『そうね。間違いなく京ちゃんの電話よ』
「京ちゃん?あーっとすみません、どちら様でしょうか?」
『私は京ちゃんの母親よ』
(ええーーー!?)
電話に出たのは京佳の母親の佳世だった。白銀は思いもよらない相手が電話に出た事により、思わず大声を出しそうになる。
「し、失礼しました!自分は立花京佳さんと同じ生徒会に所属している白銀御行と申します!」
『ええ、知ってるわよ。色々とよくお話聞くし』
「そ、そうなんですか?」
『あれ?気になっちゃう?どんな事を話されているのか。よければお話するけど』
「いえ!大丈夫です!」
『ふふ、冗談よ。京ちゃんに用事ね?ちょっと待っててね』
そう言われると、スマホからは足音や扉を開けるような生活音が聞こえる。
『京ちゃん、白銀くんから電話よ~』
『母さん、勝手に人の携帯に出ないでくれ』
『別にいいじゃない。家族なんだし』
(なんかこの会話、既視感あるなぁ…)
どこかで聞いた事のある会話も耳にした。
『もしもし?』
「あー立花。俺だ。白銀だ」
『白銀?どうしたんだ一体?』
「少し聞きたい事があるんだが、今大丈夫か?」
『ああ。問題ないよ』
(ここまで来たんだ。もう聞くしかない…)
少し意図しない形ではあったが、こうして京佳と電話をする事が出来た白銀。ここまできたのなら、もう聞くだけだ。
「その、な。昨日の事なんだが…」
『昨日?もしかして白銀の誕生日の事か?』
「ああ、そうだ。その事でひとつ聞きたい事があってな」
『なんだ?』
「その、だな?えっと…」
だが白銀、ここで躊躇してしまう。そもそも聞きづらい事なのでそれも仕方が無い。
(ええい!もうままよ!!)
白銀は腹をくくった。
「答えてくれ立花、どうして昨日、あんな事をしたんだ?」
『あんな事?』
「その、キスの事だ…」
『ああ、それか』
遂に白銀は京佳に聞いた。内心色々と戦々恐々としている部分もあったが、もう後には引けない。
『いやな、男子は女子にああいう事をされるのが嬉しいとネット記事で読んだんだ。昨日白銀は誕生日だったし、どうせなら嬉しい気持ちで過ごして欲しいと思ってね。それでやってみたんだよ』
「そ、そうか。そんな理由だったか…」
京佳から返答が来た。その答えは何ともシンプルなものである。
『ひょっとして、迷惑だったかな?』
「ああ!いや!迷惑だなんて全く思っていない!ただ純粋にどうしてか気になっただけだ!ほら!変な勘違いをしたら色々と困るだろうし!」
『そうか。それなら良かったよ』
白銀は安堵する。
もし京佳の昨日のキスが『自分に好意があったから』というものだったら返答に困るからだ。決して京佳の事を嫌っているからではない。むしろ好きな部類に入るだろう。でももし今告白されたら、どう答えればよいかわからない。
(あれ?)
ふと、白銀は今の自分に疑問を感じる。
もし今告白されたら、どう答えればよいかわからない。
自分の好きではない人から告白をされた場合、普通ならそのまま断ればいい。しかし今白銀は、もし京佳に告白されたらどう答えればいいかわからないと思った。しかも京佳の事を好きな部類に入る人物と認識していながら。
(何でだ?)
考える白銀。そして少しだけ考えたのち、答えと思えるものを出した。
(ああ、あれだ。立花は友達だからだ。もし告白されて断ったりしたら気まずくなるしそういう事だろう)
白銀にとって京佳は秀知院に入って初めて出来た友人だ。もしもそんな京佳に告白されて、それを断ったりしたら絶対に気まずくなる。そういう事になるかもしれないから、告白されたらどう答えればいいかわからないと思ったのだろうと白銀は思う事にした。
(でも、何か引っかかるよなぁ…)
喉に小骨が引っかかる違和感を感じてはいたが、それは心の隅に追いやる事にした。
『どうした白銀?』
「あーいや、何でもない」
白銀は聞きたかった事も聞けたし、京佳と電話している今は精神も昼間ほど不安定になっていないのを確認できた。少なくともこれならもう、今日の放課後のように長い妄想をする事はないだろう。そう思いたい。そしてそろそろ電話を切ろうと思っていたそんな時である。
ちゃぽん
(ん?)
何やら電話の向こうから水音が聞こえたのは。
「すまん立花。お前今どこで何しているんだ?」
『今か?入浴の最中だが』
「……は?」
再び既視感のある答えが返ってきた。
「……風呂に、入っているのか?」
『ああ。まぁそろそろ出ようと思っているが』
白銀の質問にそう答える京佳。
(つまり、今電話の向こう側の立花は…全裸?生まれたままの姿?すっぽんぽん?)
白銀御行。
思春期の健全な男子高校生。そして結構なムッツリスケベ。もしも恋人ができたら、絶対にエロイ事をしようと心に誓う男。そんな彼に、今の状況はマズイの一言である。
「ん゛」
『え?どうした白銀?何か変な声が聞こえたんが』
「いや、何でもない。何でもないぞ。ちょっとだけ足を壁にぶつけただけだ」
『大丈夫か?』
「ああ、問題ない」
危うく京佳の全裸を妄想するところだったが、右手で自分の脇腹を思いっきり抓ることでそれを防いだ。流石に電話の最中に邪な妄想をする訳にはいかない。
『もう他に聞きたい事とかは無いのか?』
「そうだな。もう大丈夫だ。おかげで色々とすっきりしたし」
『そうか。それは良かったよ』
何とか事なきを得た白銀。脇腹は痛いが、割と自業自得なのでほっとく。
『ところで白銀。私からもひとつ質問をしたいんだが』
「何だ?」
『そのだな、昨日キスされて、どう思ったんだ?』
「え」
突然の質問に固まる白銀。京佳からそんな踏み込んだ質問がくるとは思わなかったからだ。
「い、いやー。どう思ったかというと…」
『頼む。正直に答えてくれ』
最初こそはぐらかそうとした白銀だったが、京佳の声色が真剣なのを感じとり、しっかりと答えようと決めた。
「そうだな。正直にいえば、嬉しかったぞ。まぁ男なんて単純だし、多分俺以外の男でも同じ風に感じると思うが」
『そうか』
少し恥ずかしさはあったが、白銀はしっかりと京佳の質問に答える。
『ありがとう白銀。答えてくれて。それとすまなかった。こんな事を聞いて』
「いやお互い様だ。俺だって聞きにくい事を聞いたし」
『ふふ、そうだな。お互い様だな。それじゃあそろそろ切るよ』
「ああ。わかった」
そして2人共電話を切ろうとした時である。
『白銀』
「ん?」
『最後の言っておくと、私は相手が誕生日だからといって、誰にでもキスをプレゼントする女ではないからね』
「え?どういう」
『あれは、白銀だったからしたんだよ』
「え?」
『おやすみ白銀』
そういうと、スマホからはツーツーと電話が切れた音がする。
「……えっと、どういう意味だ?まさか、やっぱりそういう?」
白銀は再び考える。京佳のあまりに意味深な台詞。それが頭から離れない。どういう意味かと考えている時、
「「……」」
「あ…」
ふと、襖の隙間からこちらを見ている2人分の視線に気づいた。
「おにぃ…どういう事?」
「何がかな?圭ちゃん?」
「とぼけないで。京佳さんと、キスしたってどういう事なの?」
「知らないなぁ。空耳じゃないのか?」
「はぁ!?そんな訳ないし!!私もパパもちゃんと聞こえていたからね!?ていうか本当どういう事!?京佳さんにキスされたの!?」
「そうかー。御行も遂に大人の階段登っちゃったかー」
「いや知らないぞ?多分空耳だって。そういや今特番やっていたっけ?俺も気になるから見るかな」
「もう特番終わったし!ていうかごまかさないで!ちゃんと説明して!」
「御行、舌入れたか?」
「それセクハラ!引っぱたくよ!?」
「ははは、2人共賑やかだなー。しかし特番終わってたのか。ならニュースでも見るか」
「私の質問に答えて!!」
その後、白銀は妹にしつこく質問されたが全部ごまかした。父親はなんか察した顔をしていた。そして白銀は、ニュースが終わる頃には京佳の質問を頭の片隅に追いやっていた。
立花家 京佳の部屋
「……」
京佳は自室のベットに腰かけている。
「やったぁ…」
そして凄く嬉しそうにしていた。
(やった!やった!もし白銀に『迷惑だった』とか言われたらそれこそ学校に行けなくなっていたかもしれないが、嬉しかったって言ってた!少なくとも、まだ可能性はあるって事だ!もしかすると、こちらを意識しているかもしれない!)
白銀に結構踏み込んだ質問をした京佳だったが、その甲斐はあった。おかげで、白銀の気持ちが聞けたのだ。しかも白銀は嬉しいと言っている。これが嬉しくない訳が無い。
(この2学期が最後のチャンスだ。何としてでもこの2学期に、白銀を振り向かせて見せる!)
こうして京佳はより決意を固めた。
「京ちゃん?いくらまだ夏とはいえその恰好は風邪ひくわよ?早く服着なさい?」
「大丈夫だよ母さん。下着は履いているし」
「この前私が言った事と全く同じ事を言っているってわかってる?」
因みに京佳の下着の色はライトグリーンだった。
次回も頑張る。というかそろそろミコちゃん出したい。