もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
今回は少し暗いお話。
追記 気になるところあったから少し編集
秀知院では年5回、期末テストが行われる。そのうちの1回が夏休み明けの翌週に行われる。大勢の生徒はまだ夏休み気分が抜けていないせいなのか、この夏休み明けの期末テストだけ平均点がやや下がる傾向がある。一部の生徒に至っては、夏休み中に殆ど勉強をしていないこともあり赤点を取る始末だ。
そしてここに、そんな赤点を取りそうな生徒が1人いた。
「京佳さぁぁぁん!!」
「ど、どうした藤原?」
「また勉強教えてくださいぃぃぃ!!」
生徒会書記、藤原千花である。
今年の彼女は、非常に満喫した夏休みを過ごしていた。生徒会メンバーとの小旅行、家族との海外旅行、遊園地、花火大会、1人ラーメン。その他にも沢山遊んで食べてという感じである。
しかしそれだけ遊んでいたのだ。当然、勉強する時間は減っている。一応彼女も生徒会メンバーという肩書がある為、学校から出された課題は全て終わらせていたのだが、終わらせただけだ。殆ど身についてなどいない。
その結果、こうして1学期と同じようにテストが危うい状況になっている。
「別に構わないが、そんなに危ないのか?この前のテストで順位は上がっただろ?」
「それが問題でした…」
「え?」
「前回のテストで順位が上がったのを見たお父様が『これなら更に上を目指せるな!』的な事を言って…」
「ああ、成程…」
前回のテストで藤原は60位という順位をとっていたのだが、それを見た彼女の父親がより上を目指すように言い出してしまった。おかげで藤原の『前回より多少順位が下がってもお小遣いが減らされることは無い』という思いは綺麗に砕け散った。
最も、例え順位が下がって父親からのお小遣いを減らされても、今度は祖父にお小遣いをねだる予定なのだが。藤原には本当に『強欲』という言葉が似合うかもしれない。
「じゃあ、とりあえず図書室行くか」
「はいぃぃぃ…」
こうして1学期同様、藤原は京佳に勉強を教えて貰う様になった。
図書室
「国語なんて滅びてしまえばいいんです」
「突然何を言っているんだ」
「そもそも『この文章から登場人物の心境を答えなさい』って何ですか?思った事なんて千差万別、人それぞれ違うじゃないですか。そんなのこの文章を書いた作者くらいしかわからないでしょ。というかこんなの絶対に生きていく上で必要ないですって。漢字を覚えている方が有意義ですって」
図書室で藤原は呪詛を放ちそうになっていた。彼女は決して頭が悪い訳ではない。学習意欲自体は高く、性格以外は非常に優等生である。だが国語はどうしてもダメなのだ。漢字の読み書きなら問題ないが、例文からの読み解き問題がどうしても苦手。それゆえ、国語だけはいつも赤点ギリギリである。最も前回は京佳のおかげで大幅に点数を上げる事に成功しているが。
「それは違うぞ藤原。確かに社会に出てこの問題が役にたつかはわからない。しかし知識があるのと無いのとでは大きく違う。つまり勉強していて損は無い」
「うぐ!それはそうかもですが…」
京佳に言われ、机に頭を打ち付けそうになる藤原。正論を言われているが、そう簡単に納得は出来ない。やはり苦手なものは苦手なのだから。
「うう~。お父様があんな事を言わなければ余裕を持ってテストに挑めたっていうのに…」
「娘の事を思っている証拠だろう。あんまりそういう事は言わない方がいいぞ」
「そうかもですけどー」
「ほら、文句ばかり言っていないで次はこの問題を解いてごらん」
「はいぃぃぃ…」
「あと3ページくらいやったら1度休憩しよう」
「わかりました!じゃあちゃっちゃとやりましょう!」
「急にやる気を出したな」
その後、京佳に色々教えて貰いながら藤原はゆっくりではあるが着実に問題を解いていった。
『……』
そんな2人を、少し離れている所から見ている視線があった。
「お、おわりました…」
「お疲れ、藤原」
20分後、図書室の一角には頭から湯気を出しながら机に顔を伏せている藤原と国語の問題集片づけている京佳がいた。
「ううー、知恵熱で頭が痛いです」
「知恵熱で頭痛起こす人を始めて見たよ」
「だってこの問題難しいんですもん。というか京佳さんはいつもこんな問題集使っているんですか?レベル高くありません?」
「確かに少し難しいが、決して解けない訳じゃない」
「うへー。やっぱ凄いですね京佳さん」
京佳は成績優秀者である。前回は9位、そして今まで20位以下になったことが無い。藤原からしてみれば雲の上の存在とまではいかないにしても、中々手の届かない領域である。
「兎に角休憩しましょう!ちゃんと言われたところまで終わらせましたし!いいですよね!?」
「そこまで食い気味にならなくてもいいだろうに」
「じゃあちょっと私、お花を摘んできますね」
「もしかして我慢してたのか?一言言ってくれれば行ってきてよかったんだぞ?」
「いやー、京佳さんが真剣に教えてくれていたからなんか申し訳なくって。それじゃ」
そう言うと、藤原は足早に図書室から出て行った。そして京佳は藤原が戻ってくるまでの間、自分の勉強をする事にした。
「ふぃー、スッキリです」
ハンカチで手を拭きながら女子トイレから出てくる藤原。その顔はスッキリしている。
「戻ったらまた問題集ですか。はぁ、嫌になりますね…」
図書室に戻れば再び問題集とにらめっこだ。考えるだけで憂鬱になる。
(でも折角京佳さんに教えて貰っているんですから、しっかりとしないといけませんね)
しかしそれはそれ。1人でならば多少はさぼるだろうが、今は京佳に教えて貰っている身だ。自分から頼んでおいて面倒くさがるのはいただけない。図書室に戻ったら、またしっかりと勉強に励もうと藤原は決めた。
「あの、藤原先輩。ちょっといいですか?」
「ふえ?」
そんな藤原に話しかけてくる人物が現れる。
「えっと、ごめんなさい。誰ですか?」
「あ、初めまして。私達1年生です」
「こうして藤原先輩とお話するのは初めてです」
話しかけてきたのは1年生の女子2人。どうやら藤原に話したい事があるようだ。
「そうでしたか。それで、どうしました?」
「えっと、私達藤原先輩が心配で」
「はい?」
藤原が首をかしげる。どうやら1年生の女子2人は藤原の身を案じているようだが、藤原には覚えがない。
「えっと、何が心配なんですか?」
「だ、だって!あの立花先輩と一緒にいたじゃないですか!」
「そうですよ!藤原先輩、脅されているんじゃないかと思って!」
「はい?脅されてる?どうしてそう思ったんですか?」
「どうしてって!あの立花先輩ですよ!あんな物騒な眼帯付けている!」
「よく噂で聞きます!昔喧嘩で相手を死なせかけたとか!あの眼帯の下はその時に出来た傷痕があるとか!」
「他にも沢山そういった噂があります!今日だって、自分が勉強出来ないから藤原先輩を脅して無理矢理勉強を教わっているんじゃないかと思って」
「だから私達、藤原先輩が心配で!あの、先生とか呼んできた方がいいでしょうか?」
「……」
藤原、絶句。
一体何事かと思えば、まさかである。少し前に、妹の萌葉やその友達の圭から、中等部では京佳には未だに物騒な噂が絶えないという話を聞いた。京佳と殆ど関わりの無い中等部ならまだわからない事は無い。
しかし、まさか高等部の1年生までそんな噂を聞いて、鵜呑みにしているとは思わなかった。
(そういえば、石上くんの時もこんな感じでしたね)
藤原は、生徒会役員である唯一の1年生の事を思い浮かべる。石上は自身で起こしたある行動が原因で、学校内で聞くに堪えない噂があふれた事があった。
しかし京佳は違う、ただ、見た目が物騒だからとそういう理由で噂が流れている。最も、今の2年生でそんな噂を流したり鵜呑みにしたりしている人はいない。それは京佳が生徒会役員として真面目に業務をこなしたり、話していくうちに京佳の人となりがわかったおかげだろう。
「あの、藤原先輩?」
「ひょっとして、口留めとかされてます?」
無言の藤原に1年の女子が心配そうに話しかける。
「心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫ですよ~。そもそも私が京佳さんに勉強を教わっていますし」
藤原は取り合えず自分が勉強を教わっているところから説明を始めた。
「えっと、もしかして誰かに何か言われたらそう言えって脅されているんですか?」
しかし1年の女子は変な方向に解釈をする。
「それ、ありえるかも。噂じゃ他の学校の人にカツアゲみたいな事をしてるっていうのもあったし」
「あの藤原先輩、やっぱり先生呼んできます。だってあんな怖くて危なそうな人と一緒にいるって事自体が…」
「いいかげんにしましょ?」
「「え?」」
1年生の女子2人は固まる。普段は温厚で人懐っこい感じのゆるふわな藤原の声に、明らかな怒りが入っているからだ。
「お2人が私の事を心配してくれたのは嬉しいと思います。でもですね、そうやって噂だけを鵜呑みにして、特定の誰かを悪く言うのは、ちょっといただけませんね」
「え、えっと…」
「そもそもですが、お2人は京佳さんと1度でも直接話した事はありますか?」
「あ、ありません」
「そうですよ。だって、あの人おっかないし」
「だったら猶更です。いいですか?噂なんて殆どが出まかせなんですよ?昔の話になりますが、地球に接近した彗星が毒ガスをまき散らすなんて噂が日本中に広がりました。でもそんな事はありませんでした。だってただの噂だったんですから。でもその噂を信じた人たちがいて、中には毒ガスで苦しんで死ぬくらいならと思い心中する人もいたって言います。そんな噂を信じてさえいなければ普通に生きていたというのに、噂を本気にしてしまったから取り返しのつかない事をしちゃったんですよ?」
1年生の女子2人は黙って藤原の話を聞いている。
「まぁ今のは少し極端な話でしたが、そうやって直接話した事も無いのに『あの人は悪い人だ』とか『あの人と関わっちゃいけない』って決めつけるのはダメですよ?ちゃんとお話をしてからその人がどういう人かを決めないと。だって噂だけでその人を判断していたら、その人が可哀そうですもん」
藤原は2人の1年生に優しく論する様に言う。
「だから2人共、そんな噂を鵜呑みにしちゃいけませんよ?せめて『そんな噂があるんだー』って軽い感じでいないと」
「で、でも」
「でもじゃありません。言っときますけど、私、ちょっと怒ってますからね?」
藤原はしっかりと1年生の2人を見てこう言った。
「もう2度と、私の大事なお友達の悪口を言わないでくださいね?」
藤原は言い切った。
それを聞いた1年生の2人はもう何も言い返せない。藤原の言葉は一切嘘偽りない物だと理解してしまったからだ。
「貴方たちだって自分のお友達の悪口を聞いたら嫌な気分になったり怒ったりするでしょう?」
「それは、そうですけど」
「あの、本当に友達なんですか?」
「はい!京佳さんは私にとって本当に大事なお友達です!兎に角、今後はそうやって噂を鵜呑みにしちゃダメですよ?いいですね?」
「は、はい、すみません」
「あの、ごめんなさい。変な事を言ってしまって」
「いえいえ!お2人が私を心配してくれたのはわかりましたから!それは本当に嬉しいと思いましたよ。今のはたまたまその気持ちがちょっと暴走しちゃっただけですよね?ですから、今後はそういうのに気をつけてくれればいいですから」
「わ、わかりました」
「あの、じゃあ失礼します」
「はい、それでは~」
1年生の2人は、藤原に頭を下げてからその場から立ち去る。残った藤原は、2人が見えなくなるまでその場から動かなかった。そして2人が完全に見えなくなった後、藤原は図書室へと歩き出す。
(本当にいるんですね。噂だけで人を判断しちゃう人)
しかしその心は普段のように穏やかではない。
(そりゃあ、確かに京佳さんは見た目だけなら傭兵とかマフィアやってそうな人だからよく怖がられますけど、話してみたら凄く良い人だって直ぐわかりますもん。私に勉強教えてくれるし、面倒な雑務を率先してこなすし。それにああ見えて幽霊が怖いっていう可愛い所もありますし)
因みに藤原は知る由もないが、面倒な雑務を率先してやっているのは、白銀と関われる機会や時間が増えるからというかなり打算的な理由だったりする。
(京佳さんはそういう噂を全くと言っていいほど気にしていませんが、何とかなりませんかねこれ?)
藤原は友達想いである。そんな彼女が、自分の友達を悪く言われている現状を何とかしたいと思うのは当然だ。
(次の生徒会選挙で、もしまた会長が出馬して当選したら『悪い噂はダメ』っていう校則でも作れせましょうかね。は!今のいい考えかも!?)
他力本願のように思えるが、白銀は友達思いである。そんな彼ならそういった校則を作り出す事もできるかもしれない。
(ま、今はこれ以上考えてもしかたありませんね!)
そんな事を思いながら再び図書室に戻ってきた藤原。そしてトイレに行く前と同じように京佳がいる机まで戻る。
「ごめんなさい京佳さん。ちょっと遅くなっちゃいました」
「構わないよ。私も自分用の勉強をしていたし」
京佳はそう言うと、自分がしていた問題集を片付ける。そして先ほど藤原がしていた国語の問題集を開く。
「じゃ、またやろうか」
「はい、頑張ります!」
藤原はこうして再び、京佳に勉強を教わるのだった。
「京佳さん」
「ん?何だ?」
「何か困った事があったら、いつでも頼ってくださいね?」
「え?ああ、ありがとう?」
「はい!」
その後、藤原は前回60位だった順位を57位に上げた。藤原の父親は娘の順位が上がったのを見て喜んだ。
因みに京佳は前回からひとつ順位を上げて8位だった。
中等部と1年生は京佳さんとほぼ面識が無い為こんな感じに。まぁ、見た目が身長180㎝の眼帯女子だしこんな噂の1つや2つ出るよねっていう。
因みにこのお話の裏でかぐや様が石上くんに勉強教えています。
今後は月見と人生ゲームの予定。