もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・   作:ゾキラファス

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 BOX周回ターノシー


四宮かぐやと月見

 

 

 

「お前ら!今日は月見するぞぉぉぉ!!」

 

 その日の放課後、白銀は生徒会室で大きな声でテンションを爆上げしながら言った。

 

「会長テンション高いですね…てかかぐやさん、前もこんな事ありませんでしたっけ?」

 

「前回は七夕の時ですね。あの時の会長も今みたいにテンション高かったですね」

 

「そういえば今日は中秋の名月か」

 

「あ、マジっすね。興味無かったから全然気にもしませんでした」

 

 テンションが高い白銀とは逆に冷静な生徒会メンバーたち。七夕の時にこんな白銀を見ているので冷静なのだ。初見だったらこうはいかない。

 

「こんな日に夜空を見上げないなんて多大な損失だ!既に月見の準 備は終わっている!屋上の使用許可も取ってきた!さぁ皆!今日は帰るのが遅くなると今のうちに家に連絡をしておくんだ!」

 

「でも会長、急すぎませんか?」

 

「いや、今日の星空指数マジでめっちゃいいんだって!十五夜でこの指数出たらもう行くしかないんだよ!それこそ行ける所まで!」

 

「いやどこにですか」

 

 藤原がウサ耳バンドを装備しながら白銀に尋ねる。白銀は幼い頃から天体が好きである。そんな彼が1年で最も月が綺麗に見えるこの日にテンションが上がるのは仕方が無い。

 

「いいじゃないですか。やりましょうよ。僕は賛成です」

 

「え?」

 

「だって、この生徒会ももうすぐ解散。皆でこういう事ができるのも、これで最後かもしれないんですから…」

 

『……』

 

 石上がしんみりとした事を言う。彼の言う通り、この生徒会も今月には解散する。皆で仕事以外でこんな事が出来るのもあと少し。かぐや、藤原、京佳の心はひとつになった。そんな事を聞いてしまったら、参加しないなんて選択肢は存在しない。

 

 

 屋上

 

「うわー!本当に綺麗に見えますね~」

 

「確かにな。七夕の時以上じゃないのか?」

 

「月のある東南側が東京湾だからビルの灯も少ない。ロケーションは最高だな」

 

 5人は屋上へと来ていた。空はすっかりと暗くなっており、白銀の言った通り星空が良く見える。月見をするには最高の夜だろう。そして白銀と石上はレジャーシートを敷いて月見の準備を始める。

 

(月なんて見て何が楽しいのかしら?あんなのただの衛星じゃない。私には全く理解できませんね)

 

 そんな中、かぐやは1人だけ冷めていた。実は彼女、月があまり好きでは無いのだ。

 

(ですが夜の屋上。この雰囲気事態は利用できますね)

 

 しかしそれはそれとして、かぐやは今回の月見を利用する事を考える。

 

「おっもち!おっもち!」

 

「藤原先輩、食べる事ばっかですね。太りますよ?」

 

「白銀、ススキはここでいいか?」

 

「ああ、そこでいいぞ。これで月見の準備は完了だな」

 

「そういえば、どうして月見にはススキなんだ?」

 

「それはススキが稲穂に似ているからなんだ。稲穂には神様が寄ってくるらしいからな。だから縁起が良いと言う事で昔から月見にはススキを飾るらしい」

 

「成程。白銀は本当に博識だな」

 

「ははは!まぁな!」

 

(だけど外野が、特に立花さんが邪魔ですね。先ずは3人の排除から始めますか)

 

 その為にも、白銀の周りにいる藤原、石上、京佳が邪魔だ。かぐやは3人を排除するために早速行動を開始する。

 

「藤原さん。お餅を煮るんですか?」

 

「はい!私は花より団子なんで!」

 

「でしたらここでは風があります。あちらの方なら風が当たらないのでしっかりと料理出来ると思いますよ?」

 

「あ!それもそうですね~!わかりました!お雑煮出来たら持っていきますね!」

 

「ええ、ありがとうございます。楽しみにしていますね」

 

 藤原の排除に成功。

 

(次は石上くんね。どうしましょう?少しお話をしましょうかね?)

 

 石上をどうやって排除しようかと考えるかぐや。しかしそれは杞憂に終わる。

 

「う、少し風が冷えますね。四宮先輩、僕もちょっと火に当たってきますから向こうにいます」

 

「そう?わかったわ。あ。できれば藤原さんを手伝ってあげて?」

 

「はい。了解です」

 

 石上は自ら排除された。そして藤原と一緒に雑煮を作り出す。

 

(さて、残るは立花さんですね。一体どうすれ…ば…)

 

 残る最大の邪魔者である京佳を排除しようとしたかぐやが白銀の方に視線を向けると、

 

「しかし本当によく見えるな。こんなに見えるのは稀じゃないのか?」

 

「ああ、本当に稀だ。今後数年は無いかもしれない」

 

 そこには既に、レジャーシートに隣同士で座っている白銀と京佳がいた。

 

(しまったぁぁぁ!?2人に構いすぎましたぁぁぁ!?)

 

 かぐやは自分がスタートダッシュに遅れた事を自覚。そして京佳の排除を諦め、直ぐに白銀の右隣に座る。因みに京佳は白銀の左隣に座っている為、丁度かぐやと京佳で白銀を挟む形になっている。

 

「ん?四宮だけか?藤原と石上はどうした?」

 

「え、えっと、向こうでお餅を煮ていますよ?」

 

「そうか」

 

 白銀はそう言うと再び夜空へと視線を動かす。

 

(こうなったら仕方ありません。このまま仕掛けますか)

 

 京佳が既に白銀の隣に座っている現状では、京佳を排除する事は不可能に近い。よって、このままの状態でかぐやは白銀に仕掛ける事を決意する。

 

(よし。四宮より先に白銀の隣に座って話を聞く事ができた。僅かだが、四宮をリードできかもしれない。それに月を見ながらの会話。結構ロマンチックな雰囲気だし、ここで色々仕掛けてれば白銀も私を意識するかも…)

 

 一方で京佳もかぐやと似た事を考えていた。

 

「しかし、少し風が強いですね」

 

 先ずはかぐやからの一手。

 これは自分が寒がっているのをアピールして人の好い白銀から上着を羽織ってもらうというものだ。そうすれば白銀がドキマギする様子を見る事ができる。かぐやにとっては月を見るよりよっぽど有意義だ。

 そんな流れを作ろうとかぐやが次の台詞を口にしようとしたが、ここでかぐやにとって予想外の出来事が起こる。

 

「だったら四宮、これを使うと良い」

 

 なんと白銀が、かぐやが台詞を口にするより前に自分が着ていた上着を羽織らせたのだ。

 

(はれぇぇぇぇ―――!?)

 

(な!?)

 

 その出来事にかぐやは素っ頓狂な声を上げそうになり、京佳は絶句しそうになる。

 

(ど、ど、ど、どうして!?私はまだ特になにも言っていないのにもう上着がある!?どういう事!?)

 

(く!なんて羨ましい!!折角白銀の隣にいち早く座れていたというのに!)

 

 かぐやが内心ドギマギして、京佳は内心羨ましがる。お互い、当初の予定とはだいぶ違う展開である。

 

「そうだ2人共、温かいお茶を用意したんだ。飲むか?」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「あ、ああ。すまない」

 

 白銀が紙コップにお茶を入れて2人に渡す。

 

(このままでは四宮だけに羨ましいイベントが起き続けるかもしれない…ここで仕掛けるか)

 

 ここで今度は京佳が仕掛ける。

 

「しかし白銀、月が綺麗だな」

 

 月が綺麗ですね。

 これはある種定番と言える愛の告白だ。この言葉には『貴方を愛しています』という意味が込められている。そして、もしその告白を了承する場合の返しは『死んでもいい』だ。

 勿論、京佳は本気で告白をしている訳ではない。あくまで予行演習、ないし少し白銀をからかってみようという意味でこの台詞を口にした。しかしそれを聞いた白銀は、

 

「ああ、死んでもいいな」

 

「「!?」」

 

 告白を了承する返しをした。

 

(ど、ど、どういう事だ!?これってつまり!私の想いが白銀に届いたって事か!?)

 

(な、な、な!?何で!?どうして!?つまり会長と立花さんはこ、こ、恋人に!?)

 

 それを聞いた京佳とかぐやは軽いパニックになる。京佳からして見れば告白をしてそれが成功したという事になり、かぐやからして見れば目の前で白銀と京佳が付き合う事になっている。

 そんな風にプチパニックを起こしていた2人だったが、

 

「こんなに綺麗な月が見れるなんて本当に幸せだよ。もう本当に死んでもいいさ。これ程の満月なんてもう2度と見れないかもしれないしな」

 

「「……」」

 

 白銀の台詞を聞いて冷静になった。

 

(うん。だと思った。そんな事だろうと思ったさ…)

 

(よかった…本当によかった…)

 

 そして2人共、白銀から渡されたお茶を飲む。

 

(でもおかしいわね。今日の会長は明らかに変。いつもならこんな風にいきなり上着をかける事なんてある筈なのに一体なにが…ん?)

 

(今日の白銀は変だな。何時もならあんな返しなんてする訳ないのに。もしかしてどこか体が悪かったり…ん?)

 

「はぁ、本当に綺麗だなぁ…」

 

 かぐやと京佳が白銀の様子を伺っていると、ある事に気づいた。白銀が目をキラキラさせながら月を見ている事に。

 

((まさか))

 

 ほぼ同時に京佳も気づいた。

 

 今白銀は月見に夢中で、自分たちの事などこれっぽちも眼中に無いという事に。

 

 もう1度言うが白銀は天体が大好きである。そんな彼は今、月見を心の底から楽しんでいる。童心に戻った彼に邪念は一切無く、いつもの妙なプライドや羞恥心を星に心を委ねているのだ。

 

(この私よりあんな地球の衛星の方がいいと言うんですか!?)

 

(私は月に負けたのか…いや、流石にそれはちょっと…)

 

 ある意味仕方が無い事ではあるのだが、それで納得が出来るはずもない。

 

(冗談じゃない!絶対に私に意識を向けさせてあげます!)

 

 かぐやは月に対抗心を燃やす。文字にすると意味不明である。

 

(趣味に生きる男は、女が自分の趣味に興味を持つことを喜ぶと言います。ならば如何にも興味を持った風に会長に話かけ後は適当に相槌を打つ!そうすれば自然と体も密着し確実に会長はドギマギする!)

 

 そしてそんな作戦を考え付き、早速実行に移す。

 

「会長、どれが秋の四辺形ですか?」

 

「ん?もしかして興味があるのか?」

 

「ええ、とっても」

 

 教えてもらう流れを作ったかぐや。しかしここで邪魔が入る。

 

「白銀、私にも是非教えてくれ」

 

「おう、別に構わないぞ」

 

 勿論京佳だ。彼女も月に嫉妬した訳では無いがかぐやと同じ事を考えていた。何より、ここでかぐやだけ抜け駆けなどさせるものかという強い意思のもと2人の会話に入ってきたのだ。

 

(く!やはり最初に始末しておくべきでした!これじゃ会長は私だけに教えてくれない!)

 

 どんどん物騒な事を考え始めるかぐや。何時の日か京佳を本気でこの世から抹殺しそうだ。

 

「よし、じゃあ2人共こっちにこい」

 

「「え?」」

 

 そう言うと白銀はかぐやと京佳を自分の両手で寄せて近づかせた。

 

「いいか。親指の先と人差し指の先を繋いだ直線上にある明るい星がアルフェラッツだ」

 

(はれぇぇぇ―――!?)

 

(ち、近い…!白銀まつげ長いな…)

 

 かぐやは悶絶しそうになり、京佳は1周回って冷静になり白銀のまつげが長いのを確認した。

 

「秋の四辺形はペガサスの四辺形とも言うんだが皮肉にも1番明るい星はアンドロメダ座なんだよ。その周辺にあと3つ明るい星があってそれが…」

 

「あ、ごめんなさい会長!月明かりのせいでよく見えません!」

 

 かぐやは1度白銀から顔を離す。このままでは心臓が持ちそうに無いと思ったからだ。

 

「そうか。だったこっちはどうだ?」

 

 しかしそれは意味を為さない。白銀は直ぐに再び2人を抱き寄せながらゆっくりと寝転ぶ。

 

「寝転んで正面に見えるのが夏の大三角のデネブ、アルタイル、ベガだ。夏のっていうのに秋の方が見つけやすいのは面白いよな」

 

(は…はれぇぇぇ――――――!?)

 

(し、白銀の手が…!私の頭に…!?)

 

 2人が頭を怪我しない様に白銀はかぐやと京佳の頭を手で支えながら寝転んだ。結果として、今かぐやと京佳は白銀に頭を撫でて貰っているような状態になっている。まさに両手に花だ。

 

(なんなの!?なんなのこの人!?これもう色々とアウトじゃない!?でもあんなキラキラした目で語られたら何も言えない!?)

 

(落ち着け私!プールのアレに比べたらこれくらい何てことない!冷静になるんだ!冷静に!!)

 

 かぐやは白銀の突然の行動に恥ずかしくなり、京佳は以前のプールでの事に比べたらマシだと思い冷静さを保とうとした。因みに白銀はそんな2人の事など気にせず星に関する事をずーっと喋っている。

 

「もうわかりました!もうわかりましたから!」

 

「白銀、もう大丈夫だ。十分にわかったから」

 

「ん?そうか」

 

 耐え切れなくなったかぐやが勢いよく起き上がる。その後に京佳もゆっくりと起き上がった。

 

「そういや、月と言えばかぐや姫だよな。四宮は同じ名前だし、何か思い入れがあったりするんじゃないか?」

 

「……ええ、勿論」

 

 白銀は寝転んだまま、月に関する有名なお話『かぐや姫』の事を口にする。そしてそれを聞いたかぐやは口を開く。

 

「夜空を見上げれば、愛する人を残して月に連れ戻された女性の話を、思わずにはいられません。だからこそ、私は月が嫌いです…」

 

「四宮…」

 

 かぐやの声には覇気が無い。

 

「かぐや姫は月に連れ戻される直前、愛した男に不死の薬を残す。しかし愛する人のいない世界で生き永らえるつもりは無いと言い。男は不死の薬を燃やしたという結末で物語は終わる」

 

 白銀はかぐや姫の物語を語った。

 

「でもさ、少し考えてみればあの性悪なんて言われている女が相手を思って渡すと思うか?」

 

 1度息を吐いて白銀は話を進める。

 

「俺は思うよ。あの薬は『いつか私を迎えにきて』ていうかぐや姫なりのメッセージだったんじゃないかってさ。人の寿命じゃ到底足りない位時間が掛かっても『私はいつまでも貴方を待ち続けます』って意味を込めて不死の薬を渡したんだと思う。だが男は言葉の裏を読まずに美談めいた事を言って薬を燃やした。酷い話だ」

 

「……」

 

 

 

「俺だったら絶対にかぐやを手放したりしないのに」

 

 

 

 

 白銀は月に手を伸ばしながらそう言った。

 

「ふぇ…」

 

「……」

 

 それを聞いたかぐやと京佳は時間が止まったかのような感覚に襲われる。

 

 俺だったら絶対にかぐやを手放したりしないのに。

 

 その台詞が何度もかぐやの頭の中でループする。だって聞きようによっては告白である。

 

「俺なら月まで行って必ず奪い返す。例え何十年、何百年経とうともだ」

 

「も…やめ…」

 

「これが俺たちの物語だったら言葉の裏をこれでもかと読んであんな結末になんてしないのに」

 

「だめ…もう無理…」

 

「その為だったら不死なんて恐ろしくなんてない。例え地獄のような苦しみを受けようとも最後には必ずかぐやをこの手に…」

 

「もうやめてって言っているでしょ!!恥ずかしいのぉ!!」

 

「え!?何!?」

 

 かぐやはここで遂に限界を迎えた。そして顔を真っ赤にして目に涙を浮かべながら大きな声で白銀に向かって叫ぶ。

 

「よくそんな台詞を真顔で言えますね!?私を殺す気ですか!?」

 

「どうしたんだ四宮!?俺何かした!?」

 

「白銀…」

 

「な、なんだ立花?」

 

「今のは君が悪い」

 

「どうして!?俺が何をしたっていうんだ!?」

 

「皆さーん!お雑煮出来ましたよー!!」

 

 その後、かぐやは1度屋上から姿を消して数分後に戻ってきた。そして皆でお雑煮を食べて月見をした。しかしその時、かぐやは白銀からかなり距離を取っていた。今の状態でさっきみたいに隣に座る事など不可能と思ったからである。

 因みに京佳はずっと白銀の隣に座っていた。

 

(改名しようかな…)

 

 親から貰った名前を変えるかどうか悩みながら。その後、少しだけヤケ食いした。体重は変わらなかったが胸が少し大きくなったとか。

 

 

 

 

 

「お、俺は昨日の夜、何て事を…」

 

 そして翌日、冷静さを取り戻した白銀は黒歴史が増えたと自覚した。

 

 

 

 




 本日の勝敗、京佳の敗北。

 そりゃ目の前であんなやり取りがあったらね?

 次回も頑張りたい。

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