もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・   作:ゾキラファス

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 まさかの9000字超えです。今までで1番長い。

 いやね、最近休日、暇なんだ…


生徒会と活動終了

 

 

 生徒会室

 

「1年何てあっという間ですね~」

 

「だな。気づけばこの生徒会も、もう解散だ」

 

「僕何て実質半年ですから、余計にそう感じますよ」

 

「俺は逆に2年はいた気がするな。不思議なもんだ」

 

「でも本当に、この1年は一瞬でしたね…」

 

 生徒会メンバーである白銀、かぐや、藤原、京佳、石上は懐かしみながら会話をし、生徒会室を整理していた。

 

 本日、第67期秀知院学園高等部生徒会は、任期満了に伴い全活動を終了する。

 

 この後暫くの間は生徒会が存在しないが、その間の仕事などは特に存在しない為問題無い。そして現在、生徒会メンバーの5人は最後の仕事である生徒会室の整理整頓を行っていた。『立つ鳥跡を濁さず』という諺がある様に、次にくる新しい生徒会メンバーが心地よく使える為にである。

 

「あ!これは!」

 

「どうした藤原?」

 

 生徒会室を整理整頓していると、藤原が懐かしいものを見つけた。

 

「見てください!フランス校との交流会の時に使った看板です!懐かしいですね~」

 

「ああ、あれか。あれが1番忙しかったな。なんせたった3日で準備をしたんだし」

 

「ですね。もう2度とごめんですよ」

 

「まぁ最終的には成功したからよかったが、流石にあれは時間が無さすぎだったな」

 

「あの後全員で学園長に抗議しましたしね」

 

 1学期の事を懐かしむ5人。僅か3日で交流会を成功させないといけなかったのだから、文字通り多忙を極めた。全員が寝不足になりかけたくらいである。それほど大変だった交流会だが、今では良い思い出だ。

 因みに交流会成功の後、白銀達は学園長に今度からはもう少し時間に余裕を持って知らせてくれと抗議している。最もあの学園長だ。それが叶う事はない可能性が高い。

 

「ま、これはまた使うかもしれませんから置いときますか」

 

 かぐやはそう言うと、看板を再び収納スペースに戻す。

 

(そういえば、あの時の買い出しで白銀が『私には寒色系の浴衣が似合う』って言ったんだよな。あの発言のおかげでバイト増やして浴衣を買ったなぁ…)

 

 京佳は買い出しの時の会話を思い出していた。あの時の白銀の発言を聞いて、引っ越しの短期バイトを始めた京佳。そして花火大会の時にそれを着て、白銀に見せる事に成功。京佳にとっては一歩前進したであろう出来事だ。

 

「あ、ゲームも持っていかないといけませんね」

 

「本当に藤原さんはすぐにゲームをしたがるから」

 

「色んなゲームやったな。神経衰弱、TRPG、双六…」

 

「どれも楽しかったですよね~。特にこの前の双六!」

 

「「いや、あれが1番楽しくなかったです」」

 

「えー!?」

 

 かぐやと石上の声がハモる。2人にとってあの双六は苦い思い出扱いなのだ。

 

「藤原、全部ちゃんと持って帰るんだぞ?」

 

「わかってますって会長。あ!でもひとつくらい置いていったら次の生徒会の人が遊んでくれて、そしてそれが代々受け継がれて生徒会の伝統行事になるかも!?」

 

「いやならんだろ」

 

 突然の藤原の提案を秒で否定する白銀。

 

「む?これは…」

 

「どうしました立花さん?ってそれは…」

 

 今度は京佳が何かを見つける。それはフランス校との交流会で着たコスプレ衣装だった。

 

「これまだ返していなかったのか。確か衣装部から借りたものじゃなかったか?」

 

「メイド服に執事服。着物に軍服。あの時皆で着た衣装が全部ありますね」

 

「そういえば、皆でコスプレをした後、何故か撮影会になったな」

 

「ああ、そういえばそうでしたね。私は事情があって1枚も映ってませんが」

 

 詳細は省くが、交流会でコスプレをした生徒会メンバーを見たフランス校の生徒はテンションをかなり上げていた。その結果、その後の自由時間が撮影会になってしまったのだ。

 因みに、1番女生徒からツーショット撮影を求められたのは執事服を着た京佳である。

 

「ふっふっふ!私の言った通りでしたね!フランスはコスプレが好きだって!」

 

「え?藤原先輩そんな事言ってたんですか?」

 

「ああ。確かに言ってたな。だが感謝する。おかげで凄く盛り上がった」

 

「えへへ~。もっと褒めて下さい~」

 

「調子のんな」

 

「この後返しに行くか。というか今までずっと借りたままになるが、苦情こなかったのか?」

 

「それなんですが京佳さん、前に衣装部の子に聞いてみたら『練習用に作ったものだからいっそもって帰っても良い』って言ってました」

 

「……藤原、何でそれを今まで言わなかった?」

 

「今思い出したからです!てへ」

 

 藤原反応に4人が少しだけイラッとしたが、それを表情に出さない様にぐっと堪えた。その後、処分するのももったいなかったので各自好きな衣装を持って帰る事にした。京佳は何かに使えるかもと思い、メイド服を持って帰った。

 

「おー、これは」

 

 今度は藤原がハリセンを手にする。

 

「あー!それ覚えてますよ!藤原先輩や立花先輩の巨乳が邪魔って話をした時に僕を引っぱたたやつ!」

 

「ふん!」

 

「ぐは!?そうそう、こんな感じ…」

 

 手にしたハリセンで石上を引っぱたく藤原。しかも今回は頭じゃなくて顔面。これは痛い。

 

「藤原、あとで私にもそれ貸してくれ」

 

「藤原さん、私もいいですか?」

 

「やめてやれ2人共。あれ以上は石上が死ぬ」

 

 当時の事を思い出した京佳とかぐやもハリセンを使おうとしたが、流石に石上が可哀そうと思った白銀止められる。結果石上の寿命が延びた。

 

「だが石上は強くなったな。昔の石上は何かあれば直ぐに死のうとか言っていたが、今では藤原に正面切って喧嘩できる唯一の存在だ。本当に、成長したよ」

 

「これ成長してますか?」

 

「私はしてると思うぞ?出会った当初の石上ならあんな事言わないだろうし」

 

「まぁそうですね」

 

 3人がしみじみとしている間も藤原にシメられる石上。いい加減誰か助けてあげて。

 

「ん!?何だこれ!?」

 

 段ボールの中で、何かを発見する京佳。その顔はかなり驚いている。

 

「あ!懐かしい!キューバリファカチンモですね!」

 

「何それ!?気持ちわる!?」

 

 石上に制裁を終えた藤原が京佳が覗いていた段ボールから、球体に目がひとつと人間の脚が2本生えて旗が4本刺さっている

何とも不気味なものを手にして段ボールから出す。それを見た白銀は普通に気味悪がった。

 

「あれ?会長達はこれが何か知らないんですか?」

 

「知らん!っていうか本当に何それ!?」

 

「これはバレンタインの時にかぐやさんが」

 

 ガシッ

 

「お願い藤原さん。それはまだ私の中では消化しきれてないの…」

 

「え?はい…」

 

(なんか知らんがこれ以上聞くのはやめておこう)

 

 かぐやが何かに使おうとしたのはわかったが、それが何かは聞くのをやめた白銀。誰だって聞かれたくない事のひとつやふたつあるものだ。

 

「しかし、この生徒会は仕事以外でも本当に楽しかったな。夏休みには遊園地に旅行。そして花火大会にも行ったし」

 

「ですね。この生徒会に所属していなければ、そんな思い出も作れなかったでしょうし」

 

「全くだ。色々と忙しくはあったが、それ以上に楽しかったよ」

 

「はい!私もすっごく楽しかったです!」

 

「僕も、楽しかったです」

 

 整理中に出てきた品を見ながら思いにふける5人。確かに、この生徒会では様々な事があった。交流会、コスプレ、10連ガチャ、お見舞い、パンチラ、膝枕、泥酔からの喧嘩、心理テスト、遊園地、旅行、花火大会、プールデート、誕生日。皆で楽しんだ出来事から個人的な出来事まで、本当に色んな事があった。

 恐らくこの経験した事は、一生忘れる事は無いだろう。それだけ5人にとっては、忘れられない出来事ばかりなのだから。

 

 

 

「よし。こんなものか」

 

 整理整頓と掃除を終わらした5人は、生徒会室の扉の前に立ち室内を見渡す。どことなく、部屋が寂しく見える。

 

「どこか探していない場所はないか?」

 

「あ、それならひとつだけあります」

 

 白銀に言葉に反応した石上が、生徒会室の左側にあるクローゼットの方に歩き出す。そしてクローゼットに手を掛けると、ゆっくりとクローゼットを横にずらす。

 すると、クローゼットの後ろに後ろに突然階段が現れた。

 

「ここまだ見てなかったですね」

 

「「そんなのあったの!?」」

 

 突然現れた秘密の部屋にびびる白銀と藤原。

 

「あれ?会長と藤原先輩は知らなかったんですか?」

 

「知らん!全く気付かなかったぞ!!」

 

「何でも昔学生運動が盛んだった時代に作って、活動拠点にしていたらしいですよ」

 

「しかも冷暖房に冷蔵庫に電話線もある。その気になれば人が住めるくらいには快適な場所だぞ」

 

「かぐやさんも京佳さんも知ってたら教えて下さいよ!?私も全然知りませんでしたよ!?」

 

「まさか最後の最後にこんな秘密を知る事になるとは」

 

 その後、ほんの数分だが少しだけ隠し部屋の中を探検した。

 

 

 

「じゃ、今度こそ忘れものはないな?」

 

「会長、ファミレスで打ち上げとかやりませんか?」

 

「お、いいなそれ」

 

 生徒会室にカギをかけ、今度こそ帰ろうとする5人。そんな時である。

 

「ううぅ…」

 

「ん?」

 

「うう…ひぐ…」

 

 藤原が突然涙を流したのは。

 

「もー藤原さん、泣かないでくださいよ…そんなのずるいじゃない…」

 

「だって…だってぇ…」

 

 慰めるかぐやの目にも涙がある。これはそれだけ、この生徒会が良かったものだという何よりの証拠だろう。

 

「皆お疲れ様。そして本当に、ありがとうございました」

 

 白銀が生徒会メンバーに頭を下げる。それに続いてかぐや、藤原、京佳、石上も白銀に頭を下げる。

 

 こうして、第67期秀知院学園高等部生徒会はその活動を終了した。

 

 

 

 

 

 その日の夜 都内のファミレス

 

「それじゃ、1年間お疲れ様でした」

 

『かんぱーい!』

 

 学校を出た5人は、打ち上げをするためファミレスに来ていた。

 

「あー、やっとこの学ランを脱ぐことが出来る。流石に夏の間は暑くてきつかった」

 

「でも直ぐに衣替えですよね」

 

「それな!」

 

 白銀は学ランを脱いで一息つく。学校内は空調が効いているのでそれほど苦ではないが、登下校は別だ。炎天下の中自転車を漕ぐとなれば、この通気性の低い学ランは流石に堪える。

 

「しかしやっと肩の荷が降りた気がする。そもそも重いんだよこの触諸」

 

「まぁ金で出来ていますからね」

 

「これ本当に金で出来てるのか。私はてっきり見た目だけだと思ってたよ」

 

「何でも戦時中、戦没者の触諸から特殊な工程で金箔を集め1つの触諸を作る。そういった取り決めが当時の秀知院を卒業した将校たちの間であったらしいです。それがこの触諸だとか」

 

「へぇ、マジっすか。ゲームでもそういうのありましたね。あれはダイヤモンドでしたけど」

 

「でも納得だな。それは重い訳だよ」

 

「ですね~」

 

 白銀が普段装着している触諸に、思っていた以上の歴史がある事を聞いたメンバーは驚く。そして納得もした。それだけの歴史が詰まっているなら、それは重い筈だと。

 

「もう2度とやらん。生徒会長なんて1年もやれば十分だ。後は優秀な誰かが後を継いでくれるだろう」

 

 色々な重みから解放された白銀はそう言いながらアイスコーヒーを飲む。この1年、誰よりも仕事をしたのは白銀だ。すごく肩が軽くなったのは間違いないだろう。

 

「俺としてはこの中から次の生徒会長やってくれれば安心出来るんだがな。誰かやらないか?」

 

「いや、私たちは会長の仕事っぷりを見てますからちょっと…」

 

「ま、立候補締め切りまではまだ時間がある。生徒会長はかなり大変だがそれに見合ったメリットもあるしな。少し考えてみてくれ」

 

 学力本意の秀知院では勉強以外の活動は基本的に嫌煙されがちだ。その為、委員会役員や生徒会役員には秀知院大学への進学点、資格所得の補助金、自習室利用の優先権など様々な特典が与えられる。

 特に生徒会長のみに与えられる『秀知院理事会推薦状』は世界中の大学や研究機関へのプレミアムチケットであり、この推薦状を獲れれば更に上のステップへ夢を抱く事が可能なのだ。

 

「どうだ石上?立候補してみないか?」

 

「ははは、僕が票を取れる訳無いじゃないですか。なんせ女子は僕と目が合っただけで泣き出すんですよ?そんな僕が立候補でもしたら阿鼻叫喚の地獄絵図になりますよ。最悪石とか投げられるかもしれません」

 

「ごめん…」

 

 白銀は石上に謝った。

 

「だったら私が立候補しようかな~?やってみたい事ありますし」

 

「「「ははははは!!」」」

 

「ちょっとー?殴りますよー?」

 

 藤原の発言に白銀、かぐや、石上は笑いだす。

 

「藤原、やってみたい事って何だ?」

 

 唯一笑わなかった京佳が藤原に質問をした。

 

「はい!もし生徒会長になったら『悪口禁止』っていう校則を作りたいんです!あと『噂に踊らされるの禁止』も!」

 

「藤原さん、そんな小学生みたいな校則を?」

 

「です!だって未だに色んな嫌な噂話とか耳にしちゃいますし」

 

「ふむ、そう言うなら本当に立候補するか藤原?ただし校則を作るだけじゃ生徒会長は務まらないぞ?」

 

「そうですね。会議に書類作り、委員会への顔出しに全部活動の予算審査。やる事は多いですから前みたいに遊ぶ事なんてできないでしょうね」

 

「……やっぱりやめます」

 

「いや折れるの早いっすね」

 

 立候補しようてもいいかもと言い出した藤原は、白銀が激務に追われているのを思い出してやめる事にした。なお白銀は、仮に藤原が立候補しても絶対に落ちると確信していたりする。

 

「それで会長」

 

「おい四宮、俺はもう会長じゃないぞ」

 

「あ、そうでした。すみません」

 

 思わずいつも通り『会長』と呼ぶかぐや。だが直ぐに白銀に訂正され、そして考え出す。

 

(あれ?じゃあ何て呼べば言いんでしょう?)

 

 呼び方。

 それは相手との距離感を測る物差し。例えば、白銀との距離感が遠ければ『白銀さん』。距離感が近ければ『御行くん』と言ったように、『自分とあなたはこれ位の距離ですよ』と明確にする事が出来る。

 そして生徒会が解散し役職呼びが出来なくなった以上、改めて相手との距離感を定義しなくてはならない。

 

(どうしましょう。白銀くん?白銀さん?それとも……御行くん?)

 

 白銀への呼び方を考えるかぐや。しかし中々決まらない。

 

(いえ、少なくとも下の名前呼びはありえませんね。私はそんなに軽い女じゃありません。ここはやはり前みたいに白銀さんで…)

 

「あ、御行くんはおかわりいります?」

 

「!?」

 

 ようやく決めたと思ったら、藤原が白銀を下の名前で呼びだした。

 

「御行くんはコーヒーでしたね?アイスでいいですか?」

 

「ああ、頼む」

 

「はーい。御行くんはアイスですね」

 

(軽薄!!いや待って!?今時はそうなの!?そんな簡単に下の名前で呼んでいいの!?駄目でしょう!?そんな軽い行動は!?)

 

 かぐやは少し、いやかなり古い考えを持っている。故に藤原が白銀を下の名前で呼ぶのをあまりにも軽薄な行動としか見ていない。

 

「あ、僕もみゅー先輩と同じので」

 

(みゅー先輩!?あ!みゆきのみゆでみゅー!?可愛い!!)

 

 そして石上はあだ名で白銀を呼ぶ。

 

(しかし成程、あだ名。これなら尻軽で軽薄な呼び方にはなりませんね)

 

 そんな石上を見たかぐやは白銀をあだ名で呼ぼうと決める。これならば適切な距離を保てると判断したからだ。そして直ぐにかぐやは行動に移す。

 

「私も藤原さんと一緒に飲み物を取りに行ってきますね。み…………会長」

 

「だからもう違うって」

 

 ダメだった。

 

「どうせなら私も呼び方を変えようか?」

 

 かぐやは白銀への呼び方を模索する中、京佳も白銀への呼び方を変えると言い出す。

 

「いや立花。お前はずっと俺の事を名字で呼んでるから別に今まで通りでいいだろ」

 

「いいじゃないか。生徒会も解散したんだ。心機一転という奴だよ」

 

「ふむ、そう言うなら別に構わないが」

 

(立花さんまで!?一体なんて呼ぶのかしら?)

 

 かぐやは京佳が白銀への呼び方をどうするのか聞き逃さない様にする。そして京佳は少しだけ考えた後、口を開いた。

 

「じゃあそうだな、

 

 

 

 

 

御行」

 

(下の名前で呼び捨て!?)

 

 かぐやは大きな衝撃を受ける。かぐやに中では異性の相手を下の名前で呼ぶことすら軽薄な行動となっているのに、呼び捨てである。そんなの、距離感がとても近く無ければ出来ない所業だ。

 

(そ、そ、そんなのまるで、夫婦じゃない!?)

 

 かなりぶっとんだ認識だが、かぐやの中ではそうなる。

 

「……すまん立花、なんかこそばゆいからやっぱ今まで通りで頼む」

 

「何だ?照れてるのか?」

 

「いや、照れてなんていないからな?」

 

「そうか。ふふ、白銀は可愛いな」

 

「いやマジで違うからな?」

 

 嘘である。

 今白銀は下の名前を呼び捨てにされて、かなり照れている。君付けならまだ問題無いが、呼び捨てにされるとダメだ。身内以外に呼ばれるのはなんか恥ずかしいから。

 

(やっぱりこの女は始末しましょう。後で早坂に連絡をして、2度と朝日を拝ませない様にしなくては)

 

 そんな京佳を殺意の籠った目で見るかぐや。誰も気が付いていないのは幸いかもしれない。

 

「京佳さん!私も呼び捨てにしてもらっていいですか?」

 

「別にいいぞ。千花」

 

「はう!?」

 

 京佳に下の名前を呼び捨てにされた藤原は思わず胸を押さえる。

 

「これヤバイです。何でか知りませんが凄くヤバイです。もし京佳さんが男の子だったら私落ちてたかもしれません」

 

「藤原先輩チョロすぎませんか?」

 

 その後色々あったが、打ち上げ自体は大いに盛り上がった。

 

 

 

 

 打ち上げを終え、ファミレスから出た5人は帰路に着く。その顔は晴れやかだ。しかしそんな中、かぐやは少しだけ浮かない顔をしている。

 

(わかっています。これがただのわがままなのは)

 

 彼女は先ほど藤原に言われた事を思い出す。

 

『いっそまた御行くんが会長をやってくれればいいのに』

 

 それはかぐやも思った事だ。元生徒会メンバーは白銀と藤原以外クラスが違う。今後は接点が選択授業くらいしかない。それではかぐやが白銀に会う回数が極端に減ってしまう。それは寂しい。

 

(そうだわ。私が生徒会長になって、会長を副会長にしてしまえばいいのよ)

 

 そしてかぐやにある閃きが生まれる。それは自分が生徒会長になり、白銀を副会長にしてしまえばよいというものだ。

 

(会計はそのまま石上くん、そして書記に柏木さんを採用。庶務は1年生から適当にひっぱれば問題ありませんね)

 

 ナチュラルに藤原と京佳を省いたこの布陣であれば、仕事も円滑に進むだろうし白銀関係で邪魔をされる事も無い。かぐやはそんな事を思い浮かべる。

 

(なんてね。実際、会長は副会長になっても頑張りすぎてしまうでしょう。それに会長はこの1年間、本当に忙しかった。これからは少しくらいゆっくりとした時間を過ごしてもいい筈)

 

 だが直ぐにその考えを消す。これはただのわがまま。白銀にも白銀の事情があるのだ。自分の気持ちだけを優先してそんな事をさせてはいけない。

 

 だがここには自分の素直な気持ちを優先する女がいた。

 

「なぁ白銀」

 

「どうした立花?」

 

「もしも私が生徒会長選挙に立候補して当選したら、白銀が副会長になってくれるか?」

 

「!?」

 

 京佳だ。そして彼女は、先程かぐやが考えていた事を口にする。

 

「そうだな。生徒会長には役員を決める権限があるし、もし本当に立花が当選したら構わないぞ」

 

「!?」

 

 しかも白銀は構わないと言う。

 

(嘘でしょ!?マズイ…!これはマズイわ!?)

 

 焦るかぐや。もし本当に京佳が生徒会長になれば、副会長に白銀、書記に藤原、会計に石上。そしてかぐやは庶務か広報になるかもしれない。そんなの四宮としてのプライドが許さない。やるなら会長か副会長のどれかだけだ。

 

(いえ、立花さんの事です。私を露骨に役員に任命しない可能性も…やはり私も立候補を…)

 

 今度は自分が生徒会に入れない可能性を浮かべる。白銀なら大丈夫だろうが、京佳はどうするかわからない。

 

「ええ!?京佳さん立候補するんですか!?」

 

「いや、もしもって話だよ。それに私が立候補しても票は稼げないさ。未だに1年生に怖がれているしな」

 

「あー、確かに立花先輩って僕以外の1年生から怖がれている節ありますね」

 

「石上くん?あまり本人の前でそんな事言っちゃいけませんよ?」

 

「あ、すみません…」

 

「気にしてないからいいよ」

 

 だが京佳は本当に立候補するつもりは無いようだ。今のはあくまでも例え話。そもそも京佳自身、自分に生徒会長が務まるとは思っていない。秀知院学園の生徒会長ともなれば、生徒の顔の様な存在となる。

 もし、こんな物騒な見た目の自分が生徒会長になれば、秀知院の品格を落とすかもしれない。自分の見た目にコンプレックスがある京佳だからこそ、そんな事を考えてしまうのだ。だから京佳は本気で立候補などしない。

 だがそれはそれとして、もしもを考える事はある。故に先ほど、白銀に聞いてみたのだ。

 

(よかった。嫌がってはいない)

 

 白銀の反応を見れた京佳は少しうれしそうにした。

 

(なんて紛らわしい…やはり今夜始末しましょう)

 

 そしてかぐやは今夜、京佳を始末する事にした。

 

 

 

 

 

「じゃ、私達は電車なのでー」

 

「おやすみです、先輩方」

 

「おやすみ、藤原、石上」

 

 藤原と石上とは駅で別れ、元生徒会メンバーは白銀とかぐやと京佳の3人となった。本来なら途中でそれぞれ分かれて帰るつもりだったのだが、白銀が『夜道に女子だけじゃ危ない』と言い、2人を家に送り届ける事となったのである。

 それを聞いたかぐやと京佳は純粋に嬉しがった。そして3人で会話をしながら明日いていると、あっという間に四宮家別邸までやってきた。

 

「じゃあ四宮、おやすみ」

 

「おやすみ四宮」

 

「ええ、おやすみなさい。白銀さん、立花さん」

 

「よし、じゃあ行くか立花」

 

「ああ、エスコートを頼むよ」

 

 かぐやを送り届けた白銀は、今度は京佳を送り届けようと2人で歩き出す。

 

「……」

 

 楽しそうに話す2人を黙って見ているかぐやに、ある不安がよぎる。

 

 もしもこのまま、白銀と会う機会が減って京佳に先を越されたら。

 

 今後、かぐやと白銀は学校内で会う事はあるし、選択授業で会う事もあるだろうが、今までの様に会う事は無い。明らかに会う回数は減る。そしてもし、自分の知らないうちに京佳が白銀との距離をどんどん縮めていき、気づいた時には既に恋人になっていたら。

 

「…!」

 

「え?」

 

 気づけば、かぐやは白銀の服の袖を掴んでいた。

 

「わがまま、言ってもいいですか?一生に1度のわがままを…」

 

 かぐやは白銀の袖を掴み、顔を伏せたまま喋り出す。

 

「私は、会長は、会長がいいです」

 

 かぐやは精一杯の勇気を振り絞って遂にそう言った。

 

「つまり四宮は、俺にもう1年生徒会長をやって欲しいと?」

 

「……はい」

 

 小さい声で肯定するかぐや。

 

「白銀、私からもいいか?」

 

「何だ?」

 

「四宮だけじゃなく、藤原に石上、そして私も生徒会長は白銀が良いって思ってるよ」

 

「そう、か」

 

 京佳もかぐやと同じ様に答える。すると白銀は鞄から何かを出した。

 

「2人共、これ何だと思う?」

 

「それは…」

 

「書類?」

 

 かぐやと京佳が白銀が手にした書類を見る。その書類には『生徒会選挙申込書』と書かれていた。

 

「こ、これは…」

 

「ははは!そうかそうか!四宮も立花もそう思っていたのか!だったら期待に応えないとな!」

 

「ま、まさか私に言わせる為にこの事を黙っていたんじゃ…?」

 

「さぁ?どうだろうな?」

 

「意地悪だな白銀。言ってくれてもよかったじゃないか」

 

「ちょっとしたサプライズさ」

 

(計りましたね!?)

 

 こうして白銀は再び生徒会長になる為、生徒会選挙に立候補するのだった。

 

 

 

 

 

 因みにこの日の夜、かぐやは早坂に京佳の排除命令を下したが『アホな事言ってないで早く寝てください』と言われ無理矢理ベットで寝かされた。

 

 そしてかぐやはふて寝した。

 

 

 




 京佳さんが生徒会選挙に立候補する展開を考えていたりしたけど、書ききれる自信無かったので保留に。

 今更だけど交流会の話や巨乳の話、カットせずに書けばよかった。当時は本当にお話が思いつかなかったんです…

 次回も頑張りたいかなーって。

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