もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
誤字報告、お気に入り登録、感想いつも本当にありがとうございます。
チャペルの中にいる人たちは、扉が開くのを今か今かと待っていた。彼ら、または彼女らの手にはカメラやスマホが握られている。扉が開いた瞬間、写真を撮るつもりなのは明白だ。
そして遂にその瞬間がきた。
チャペルの扉が開かれると、そこには純白のウエディングドレスを着た花嫁が現れる。それを見た人たちは、すぐさまカメラでその姿を写真に収めだす。
そして花嫁は、ゆっくりとした足取りでヴァージンロードを歩いていく。ヴァージンロードの先には、1人の神父と白いフロックコートを着た花婿がいる。
花嫁はあっという間に花婿の傍にたどり着く。
「それでは、これより式を始めます」
神父が式の開始を宣言する。
「新郎御行さんは、京佳さんの事を、病める時も豊かな時も、貧しき時も、あなたを愛し、あなたをなぐさめ命のある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
「新婦京佳さん、御行さんの事を、病める時も豊かな時も、貧しき時も、あなたを愛し、あなたをなぐさめ命のある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
新郎の名前は白銀御行。そして新婦の名前は白銀京佳。そう、この結婚式はこの2人の結婚式なのだ。チャペルにいるかつての学友達はその光景を見守る。
「それでは、この結婚に異議のある者は今ここで異議を申し立てて下さい」
神父がチャペル内を見渡しながらそう言う。異議を申し立てる者など1人もいない。誰もが2人の幸せを願っているからだ。
「では、誓いのキスを」
そして遂に誓いのキス。白銀が京佳の頭のベールを取り、顔を近づける。唇と唇が触れ合おうとしたその瞬間、
「異義有りぃぃぃぃぃぃぃ!!」
異議を申し立てる者が現れた。
「あ、あれ?私の部屋?」
そこはチャペルでは無くかぐやの自室。そう、先ほどまでの出来事はかぐやが見ていた夢だったのだ。
「また、こんな夢…」
最近のかぐやは夢見が非常に悪かった。たいていが悪夢のようなもの。しかもその内容が、どれも今見たような白銀と京佳が幸せそうにしている夢ばかり。
「かぐや様、どうしました?」
かぐやの声を聴いた早坂が、部屋の前までやって来てかぐやに声をかける。
「いえ、何でもないわ。でも水を持ってきて頂戴」
「かしこまりました」
夢のせいなのか、かぐやはかなり汗をかいていた。喉も乾いている。今は兎に角水が欲しい。早坂にそう命令を下し、かぐやは部屋に置いてあったタオルで汗を拭く。時計を見ると深夜12時。まだかぐやが床についてから2時間程しか経っていない。
「失礼しますかぐや様、水を持ってきました」
「ありがとう…」
直ぐに早坂がピッチャーに入った水を持ってきた。早坂はピッチャーの水をコップに入れかぐやに手渡す。コップを受け取ったかぐやは一気に水を飲み干した。
「それで、どうしたんですか?」
早坂がかぐやに質問をする。先ほどかぐやはかなりの大声を出していた。どうしてそんな大声を出していたか気になる。それゆえの質問だ。
「夢を見たのよ…それも悪夢を」
「悪夢ですか。どのような?」
「会長と立花さんの結婚式を見ている夢」
「うっわ、それは悪夢ですね」
想像よりエグイ夢だった。早坂も少しひきつる。
「もういや…最近こんな夢ばっかり…」
「1度病院にでも行きますか?」
ここ最近のかぐやは睡眠不足ぎみだった。勿論原因は夢にある。その夢のせいで、夜中に目が覚めたりすることが多々ある。流石に学校で寝てしまう事はないが、それでも日中眠いと感じることばかり。
このままではいずれ、授業中に寝てしまうことがあるかもしれない。そんな体たらく、かぐやのプライドが許さない。早急になんとかしたいと思っていた。
「夢見が悪いのは、ストレスが原因よね?」
「そう言いますね」
「ならストレスの大元を消す事が出来れば私は悪夢を見る事がなくなる筈よね?」
「何をするつもりですか?」
「立花さんをこの世から…」
「だからやめなさいってそういうの」
夢とは記憶の整理と言われている。自分が経験し、記憶した出来事を、寝ている時に脳が整理をするもの。それが夢だ。
そして日常生活で嫌な事ばかりを経験すれば、それが悪夢として出てくる事がある。故にかぐやは、ストレスの原因と思える京佳の排除を考える。だが直ぐに早坂に止められた。
「そもそもですよかぐや様、貴方が素直になって白銀会長をデートにでも誘えばそんな悪夢は見ないと思いますけど?」
「そんなこと出来る訳ないじゃない」
「もう理由は聞きませんからね?」
「というか何故なのよ!!どうして会長は立花さんと2人っきりでプールに遊びに行っているのよ!?」
「そりゃ誘ったからでしょ」
「だからどうして自分から誘えるのよ!?」
「自分の気持ちに素直だからじゃないですか?」
かぐやが悪夢を見るようになった原因、それはつい最近早坂が言っていた事が原因だ。
『夏休み中に、白銀会長と立花さんは2人っきりでプールデートをした』
それを聞いた直後のかぐやは思わず灰になりかけた。他にも何人かいるのではなく、2人きり。しかもプールデート。かぐやでは決して出来ないであろう出来事を京佳はやってみせた。
因みにかぐやと早坂は知らないが、京佳はプールでポロリを経験済みだ。そしてその話を聞いてから、かぐやは非常に夢見が悪い。こうして夜中に目が覚めてしまうくらいには。
「それでどうしますか?かぐや様」
「……睡眠薬頂戴。即効性のあって深く眠れるやつを」
「わかりました」
なのでこうして普段飲まない睡眠薬を飲むようになっていた。その後、早坂から睡眠薬を受け取り再び床についた。
「かぐやさん、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ藤原さん」
翌日、生徒会室では役員全員で仕事をしていた。しかしそんな中、かぐやの様子がおかしいと感じた藤原が声をかける。別にかぐやの顔色が悪いとかではない。ただ少しだけふらついているのだ。
「何かありました四宮先輩?ふらついているように見えますけど」
「いえ、最近夢見が悪くてよく夜中に目が覚めてしまうんです。そのせいで少し眠いだけです」
石上も心配そうに聞く。かぐやは石上の質問に答え、夢見が悪いと白状した。
「一体どんな夢を見たんだ?」
「……そうですね、私の大切な物を泥棒に奪われる夢ですね」
「成程、それは確かに嫌な夢だな」
(その泥棒というのはあなたの事ですけどね!)
続いて京佳もかぐやに質問をしそれに答えるかぐや。最も、かぐやにとって悪夢の原因は京佳である。お前にだけはそんな質問されたくないと言う気持ちでいっぱいだ。すると突然、藤原が何かを思いつく。
「そうだ!だったらあれ試しません?」
「あれ?何ですか藤原先輩?」
「聞いた事あるんです。枕の下に自分の好きな本や絵を置くと、それに関係する夢が見れるって」
「あー、確かに聞いた事ありますね。でもあれって根拠ゼロの都市伝説みたいなものですよね?意味ありますか?」
藤原が思いついたのは誰しも聞いた事があるものだ。自分の好きなもの、もしく夢で見たいものを枕の下に置いて寝ると、それに関係する夢が見れるというもの。最も、科学的根拠は全くないオカルトだ。
「石上、あんたなに藤原先輩の素敵な提案を否定してんのよ。そんなんだからあんたはダメなのよ」
「は?素敵?どこが?」
「わからないの?これは良い夢が見れればその日のコンディションが最高になって仕事や勉強が捗るっていう藤原先輩の素晴らしい提案よ。そもそもあんたは試した事あるの?試した事も無いのに否定してんじゃないわよ。それにしても流石です藤原先輩!」
「え!?あ!はい!それほどでも…」
「おい伊井野、その人絶対にそこまで考えていないぞ。多分今思いついただけだぞ」
石上正解。藤原は今思いついた事を口にしただけだ。そこに伊井野が言う様な意味は全くない。
「そうだ!どうせなら生徒会メンバー全員でやりましょう!」
「そうですね!そして全員が良い夢を見れれば生徒会の仕事の効率も上がって万々歳です!流石藤原先輩!」
「えへへ、それほどでも~」
「まぁ、実際に見れるかどうかは置いといて、ほんとにやるのか藤原?」
「やりましょうよー!会長だって良い夢みたいでしょー!?」
「わかったわかった。特に手間がいる訳でもないからやるって」
「わーい!」
白銀も藤原の提案に賛成した。ただ枕の下に本を置けばいいだけだ。手間も暇もお金もかからない。
「折角だから明日夢の内容を発表するっていうのはどうですか?」
「いや藤原、流石に夢の内容を語るのは恥ずかしいんだが」
「む、それもそうですね。なら良い夢が見れたかどうかだけ言いましょう」
「まぁそれなら」
(まぁ、最近本当に夢見が悪かったですし、科学的根拠は無いですが試すだけ試してみましょうか)
話はどんどん進んでいく。こうして生徒会メンバー6人は、今夜枕の下に自分の好きな本を置く事となった。
夜 かぐやの部屋
「成程、まぁいいんじゃないですか?やらないよりマシですし」
かぐやは部屋で昼間あった出来事を早坂に話していた。時間は夜8時。かぐやが寝る時間までまだもう少し猶予がある。
「それで、どんな本を置くんですか?」
「それなら決めているわ。これよ」
「これは…」
「早坂も読んだことあるでしょ?」
「まぁ、有名な絵本ですし」
かぐやの手には『獣の王子様』という絵本があった。内容を簡単に説明するとこうだ。
『ある国に満月の夜だけ獣になってしまう病を患った王子がいた。獣になった王子は誰であろうと襲ってしまう。そのせいで王子様は人々を苦しめていると思うと胸が痛かった。ある日、魔法使いが現れ『この病は真実の愛があれば治せる』といい、王子は旅に出る。様々な国を旅したが、真実の愛は見つからない。
そしてある日、うっかり怪我をしてしまい森で1人苦しんでいると、とある村娘が手当をし王子は回復。次第に2人は惹かれ合う様になる。
しかし半月後の満月。王子は獣になってしまい、村娘を襲ってしまう。だが王子は、自分にここまで優しくしてくれた娘を傷つけたくない一心で理性を働かせ、村娘を襲わずにすんだ。その時これこそが真実の愛だと思い、王子は村娘と結婚。その後、獣の病が発症する事もなく、2人は幸せに過ごしました。』
という内容の本である。この世界では比較的ポピュラーな本だ。誰しも読んだことくらいはある。
「確かにこれならハッピーエンドですし、いいと思いますよ?」
「そうよね。それと早坂、言っておくけどこれはそういう意味で選んだ訳じゃないからね?ただこの絵本が好きだからってだけだけだからね?決して私が会長と結婚をしたい訳じゃないからね?会長の方はそう思っているでしょうけど」
「はいはい」
もううんざりしてきた早坂はそんな返答をする。なおかぐやがこの絵本を選んだ理由は、作中で王子の方が愛の告白をするからだ。
もし自分が村娘、王子が白銀として夢をみた場合、白銀から告白されるという事になる。それはかぐやにとって願っても無い展開だ。予行演習にもなる。
「それじゃ、寝るまでこの絵本を徹底的に読んで記憶するわよ。そして登場人物の王子を会長…になるかはわからないけど、とりあえず色々トレースしましょう。不測の事態があるかもしれませんし」
「もう誤魔化すつもり無いですよね?」
その後、かぐやは絵本の内容を何度も何度も読みこんだ。更に夢の中で何が起こってもいい様に、様々な事を頭に叩き込む。そしてリラックスできるお香を焚き、クラシック音楽を流しながらかぐやは眠りについた。
(ここは…)
気がつけば、かぐやは森の中にいた。自分の服装を確認すると、寝巻ではなくどこか古びたワンピースのような服装。そして手には水の入った木出来たバケツ。
(成程、ここは夢の中ね)
自分は今夢の中にいると瞬時に理解するかぐや。そしてここが、寝る前に読んでいた絵本の中だとすると、この近くに王子がいる筈。するとその時を待っていたように、近くの茂みで物音がした。
(私が絵本の村娘だというのは確定ですし、今した音の方に王子がいる筈。ふふ、待っていて下さいね会長)
村娘かぐやは音がした方へ歩いていく。
「あの、大丈夫ですか」
そこには1人の人間がいた。足は怪我をしており、足元には小さい血だまりが出来ている。服装はどこか高貴な者を思わせるようなもので胸元は膨らんでおり、腰には剣が帯刀されている。そして顔に眼帯があった。
(ん?)
かぐやは足を止める。だって絵本の中の王子様は眼帯どころか眼鏡もしていない。なのに目の前の者は眼帯をしている。それに胸もおかしい。明らかにかなり豊満なふくらみがある。かぐやは王子と思わしき者の顔をよく見た。
「……誰だ」
(いや立花さんじゃない!?)
そこには白銀ではなく、王子の恰好をした京佳がいた。
(どうしてよ!?会長を王子として登場させるために徹底的にその事を頭に叩き込んだのよ!?なのに何で立花さんなの!?)
かぐやは心底驚いた。若干自己洗脳まがいな事までしてこの夢をみる事にしたのに、王子は京佳だからだ。これではこの夢を見る意味が無い。
(よし、無視しましょう。会長じゃないなら助ける価値はないわ)
かぐやは怪我をしている京佳を見捨てる事にした。元々白銀を王子としてこの夢を見るつもりだったのに、出てきたのはストレスの原因である京佳。これでは何も意味はない。
そしてその場から立ち去ろうとしたのだが、
「大丈夫ですか?直ぐに手当てを」
身体が勝手に動き、王子である京佳を助けようとした。
(あれ!?何で!?どうして身体が勝手に!?)
必死で抵抗しようとするかぐやだが、その間にもかぐやは京佳に手当をする。本当は手当などしたくないが、物語の流れには逆らえないのだ。そしてあっという間にかぐやは京佳を手当して場面は村へと移る。
「君は優しいな。だが私は人を傷つけてしまう。直ぐにこの村から出ていくよ」
(ええ、是非そうして下さい)
「そんな事できません。せめて怪我が完治するまでここにいて下さい」
(だからどうしてこんな台詞が出てくるのよ!!)
それからも、かぐやと京佳は様々な会話をして関係を深めていく。そして遂に、王子が獣になり村娘を襲うシーンへと変わる。
「ダメだ!私は君を傷つけたくない!今すぐ私をその斧でトドメをさしてくれ!」
(そうですか!ならおっしゃる通り今すぐにトドメをさしてあげましょう!日ごろの恨みもありますし!)
「そんな!できません!私はあなたに生きていて欲しいのに!」
(違います!そんな事微塵も思っていません!!)
それから王子は人へと戻り、村娘に愛の告白をする。
「もう君しかいない。どうか私の傍に一生いてくれ」
(断ります!会長からならともかくどうしてあなたからの愛の告白をされないといけないのよ!)
「はい。よろしくお願いしたします」
(何でよ――――!?)
そして場面は結婚式へ。王子が遂に真実の愛を見つけ、花嫁を迎え入れた。その事が嬉しい国民は、国を挙げて2人を祝福する。
「どんな時も、君の傍にいる。もう一生君を離さない」
王子である京佳はそう言うと、村娘から花嫁になったかぐやへと顔を近づける。
(待って待って!?流石に夢でもキスはダメでしょ!?私達女同士よ!?)
そんなかぐやの想いとは裏腹に、かぐやも目を閉じてキスを待つ。
(待って!?本当に待ってーーーー!?)
そして遂に王子京佳の唇がかぐやの唇に触れようとした。
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
かぐやは勢いよくベットから起き上がる。その額には大量の汗が出ている。そして窓の外は明るい。どうやら朝の様だ。
「な、なんて夢を…!」
ある意味今までで1番最悪な夢をみたかぐやだった。
生徒会室
「皆さん!どうでしたかー?私はとても良い夢見れましたよー」
「私も凄く良い夢が見れました!ありがとうございます藤原先輩!」
「俺も楽しい夢が見れたな」
「ぼ、僕は、怖い夢でした…」
「私も良い夢が見れたよ」
生徒会室では昨日の藤原の提案を受けたメンバーがそれぞれ感想を言い合っていた。石上以外は満足しているようだ。
「かぐやさんはどうでしたかー?」
「悪夢でした」
「またですか!?」
かぐやがまた悪夢を見たという事を知った藤原は驚く。
「大丈夫か四宮?」
京佳もかぐやを心配して近づく。
「え、ええ!大丈夫ですよ!?そこまで悪夢という訳でもありませんでしたし!」
そういうとかぐやは京佳から少し距離を取る。
(あーもう!あの夢のせいで立花さんの事を変に意識しちゃうじゃない!どうしてくれるのよ藤原さん!?)
昨夜の夢がフラッシュバックし、京佳の事を変に意識しだすかぐや。
その後、京佳の事を意識しなくなるまで数日を要したのだった。
皆が見た夢
白銀 宇宙図鑑を置いたら宇宙を自由に遊泳してた夢。
藤原 世界の料理図鑑を置いたら世界中の美味しい料理をたらふく食べてた夢。
京佳 旅行雑誌を置いてら白銀と一緒に温泉旅行に行ってた夢。
石上 ハーレム系ラノベを置いたらヒロイン全員がかぐやになってた夢。
ミコ 推しのアイドルの写真集を置いたら推しのアイドルが自分の為だけに特別ライヴをしてくれた夢。
そろそろ体育祭に行く予定。次回も頑張りたいなーって。