もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
昼休み
「いやー,こうして外で皆と一緒にご飯を食べるなんて新鮮ですねー」
「いう程新鮮ですか?いやまぁあんまり無い機会ではありますけど」
「あの、本当に私も一緒でよかったんでしょうか?」
「構わないよ。だって伊井野の友達だろう?」
「あ、ありがとうございます」
昼休み、生徒会メンバーと風紀委員の大仏は運動場の一角で昼休憩を取っていた。それぞれの手元には弁当がある。
「うっわー。かぐやさんのお弁当凄いですねー。車エビに牡蠣、それとそのお肉は牛のステーキですか?流石四宮家お抱えの料理人さんが作ったお弁当」
「違いますよ藤原さん。今日のは自分で作りました」
「ええ!?このお弁当かぐやさんの手作りなんですか!?」
「はい。四宮家の人間たるもの、これくらいできなければいけませんから」
他のメンバーの弁当は比較的普通だが、かぐやの弁当は豪勢の一言だ。お店で出せばひとつ1万円くらいはするだろう。それにしても量が多い。
「ただちょっと作る量を間違えてしまって、とてもじゃないけど1人じゃ食べきれないんですよ。良ければ皆さん食べませんか?」
「え!?いいんですか!?わーい!」
「ありがとうございます。え、エビ…お肉…」
かぐやは弁当を皆で分けて食べようと提案する。それを聞いた藤原は喜こび、伊井野は涎をたらしそうになった。
(中身は会長の好きな物で纏めています。1学期と似た作戦ですが、これならば会長も私の弁当に釘付けになってくるハズ!)
かぐやはこの昼休みに白銀を少しでも自分の事を意識させるためにある作戦を考えていた。それがこの弁当で、作戦名『男を落とすには胃袋を掴め』である。なお作戦名の命名は早坂だ。
(この私が作った弁当です。会長も直ぐに犬の様に食らいつくでしょう。さぁ会長、早く私の手作り弁当を食べなさい!)
あえて皆でという一言を付け加える事で食べやすい様にもした。直ぐに白銀もかぐやの弁当を食べるだろうと思っていた。しかし―――
「じゃあいただきまーーーす!」
「いただきます」
最初に手を付けたのは藤原と伊井野。しかもメインのオカズである肉やエビをである。そしてそれらを直ぐに口に運ぶ。
「んふーー!!美味しいですーー!!流石かぐやさん!」
「本当に美味しい。このお肉も凄くよく焼けてる」
「あ、ありがとうございますね」
2人の感想を聞いたかぐやだが、少しだけ顔が引きつっていた。
(ちょっと2人共!?それはメインのオカズよ!?普通こういう時は少し遠慮して周りのサブのオカズから手を付けるでしょ!?何でメインからいくのよ!?)
焦るかぐや。本人は1度も口にしなかったが、これは白銀の為に作った弁当だ。このままでは目の前の食い意地の張った意地汚い野良犬共に全てを食べられてしまう。
(これは、取っていいのか?いや、四宮も『皆で食べよう』って言ってたから食べていいんだろうけど、やはり少し躊躇するなぁ…)
そして白銀は悩んでいた。できれば欲望のままに好物である牡蠣を食べたい。しかし、常識のある白銀は真っ先にメインのオカズを取れずにいた。実際、京佳と石上と大仏はかまぼこや卵焼きを手に取っている。
(やはり最初は卵焼き辺りから食べよう…)
悩んだ末、白銀は卵焼きを手に取り食べた。
「ん!?美味いなこれ!?」
白銀は思わず声を出す。それだけかぐやが作った卵焼きは絶品だったのだ。柔らかく、ほんのり甘い。まさに理想の卵焼き。
「確かに。こんな卵焼きは初めて食べたな」
「そうですね。私もそれなりに料理はしますが、こんなの絶対に作れません」
白銀に続き、京佳と大仏も美味しいと感想を言う。
「あら、良かったです。皆さんのお口にあったようで」
かぐやは右手を顔の左頬に当てながら言う。これは少し前に早坂と共に作ったかぐやのルーティンだ。こうする事で、かぐやは白銀に恥ずかしい事を言われても表面上は落ち着く事が出来る。
(会長が美味しいって言ってくれた!会長が美味しいって言ってくれた!)
内面はパニック手前だが。
「では他にも…」
どうぞと言おうとしかぐやが弁当を見てみると、そこにはメインのオカズだった肉やエビ、そして牡蠣が無かった。
「ふいーー。美味しかったです。ねーミコちゃん」
「はい。あんなに美味しいお肉初めて食べました」
弁当箱から顔を上げると、そこにはやり切った感を出している野良犬が2匹。
「は?え?藤原先輩もう全部食べたんですか?」
「え?だってかぐやさんが食べていいって言うから」
「だとしても普通少し遠慮しません?てかメインのオカズ全滅じゃないっすか。残ってるのサラダや佃煮といったサブばっかじゃないですか。どんだけ食い意地張ってるんですか?」
「ミコちゃん…」
「だ、だって…本当にこのお肉美味しくて…つい…」
(保健所に連れて行こうかしら…)
(か、牡蠣が…)
(この佃煮も美味しいな)
結局白銀がかぐやの手弁当で食べれたのは卵焼きだけだった。
借りもの競争
『さぁ!次は借り物競争です!今の所白組リード!この競技で赤組はどれだけ巻き返せるでしょうか!』
昼休みも終わり午後の競技が始まる。今から行われるのは借り物競争だ。これに出場するのは、午前に行われた仮装障害物レースに出たかぐやと京佳だ。最も、今回は順番が違うため直接対決とはいかないが。
「そういえば会長。漫画とかだとお題のカードに『好きな人』とか書いている展開ってありますよね」
「あるな。実際にやったら問題だが」
「ですよねー」
白銀と石上がそんな話をする。もし実際、そんな事が書かれたカードがあれば絶対に問題になる。故に体育祭運営もそういった事は一切書いていない。
「あ、四宮先輩がこっちに来ますよ」
「え?」
話していると、かぐやが2人の元にやってきた。
「石上くん、一緒に来て」
「え!?僕ですか!?」
そして石上の手を取り、ゴールへと向かう。
(一体どんなお題なんだろう?まさか好きな人って事はないだろうけど…)
ゴールに向かう途中、石上はかぐやが持っているカードの事を考える。
「あの、四宮先輩。お題は何だったんですか?」
「これよ」
ゴールした後、かぐやに石上が訪ねるとかぐやはカードを見せる。
『後輩』
「あ、成程」
石上は納得した。そしてやはり現実は漫画の様な展開など無いと再認識したのだった。
(何で四宮は石上を?まさか、四宮は…)
残された白銀は嫌な事を考える。それはかぐやが石上の事を好きなのではという事だ。そんな時、
「白銀、私と一緒に来てくれ」
「え?俺?別にいいが」
京佳が白銀の元にやってきた。そして白銀の手を握ってゴールへと向かう。しかしその途中、
(あ、女子に手を引かれるってなんか恥ずかしい…てか立花の手って柔らかいな…ってそうじゃない!一体立花のお題って何だ?まさか好きな人とか?)
白銀は恥ずかしがってた。大勢の前で異性に手を握られ走るというのは、思いのほかくるものがある。そして恥ずかしがりながら2人はゴールをした。
「なぁ立花。カードにはなんて書かれていたんだ?」
「これだよ」
『生徒会長』
「いやこれもう名指しじゃねーか」
この学校に他に生徒会長はいない。完全に白銀名指しのお題だった。
(手を握ったですって?あの女一体何をしているの?私でさえ会長の手を握った事なんて無いのよ?それをこの機会に握るなんて…なんて卑しいのかしら…)
(なんか四宮先輩から目に見えない何かが出てる気が…!)
そしてその光景を見たかぐやは京佳にもの凄く嫉妬した。
2人3脚
「まさかあんたと組むなんてね」
「まぁこんな事もあるだろう」
眞妃は京佳と共に2人3脚に挑もうとしていた。本来なら別の生徒が眞妃と走る予定だったのだが、組む予定だった女子が体調を崩してしまい、代理として京佳が選ばれたのだ。
「ま!やるからには勝つわよ。私、負けるのって嫌いなのよ」
「ああ。勿論だ」
既にとある事では親友に大敗北をしている眞妃だがそれはそれ。この競技では絶対に勝ちたいという強い想いがある。
『それでは位置に着いて…………スタート!!』
スターターピストルが響き、生徒たちが一斉にスタートをする。
「「いちに!いちに!」」
眞妃と京佳のコンビは息が合いかなりのハイペースだ。後続が追いすがるが中々追いつけない。
(よし!これならもう勝ちは貰ったわね!これに勝ったところで何かある訳じゃないけどさ!)
眞妃は勝利を確信。そしてゴールまであとわずかというそんな時だった。
「さっきの翼くん凄くかっこよかったよ」
「はは。ありがとう渚。そういう渚もさっきの競技、かわいかったよ」
「もうーやだー。こんなところでー」
応援席でイチャイチャしている柏木渚と田沼翼が見えたのは。
『おーーとどうした!?四条さんが突然地面に手と足を着いたぞ!?』
「どうした眞妃!?」
「ううううううう!!!うわうわうわうううう!!!」
「ほんとどうした!?お腹でも痛いのか!?」
『一体どうしてのでしょう!?足首を挫いたのでしょうか!?』
その後、京佳が眞妃をおんぶしながらゴールする事となった。勿論最下位である。
なお、真紀が京佳におんぶされているのを見て一定の女子がかなり羨ましがった。
保護者の方々
「そうですか。奥さんが」
「ええ。そして未だに出て行った妻には未練があります。情けない男でしょう?」
「そんな事ありません。私もまだ亡くなった夫の事が忘れられないので未だ指輪を外せませんし」
保護者席では、白銀父と京佳の母親である佳世が話していた。この2人、他の保護者が夫婦そろって子供の体育祭を見に来ているのを見て『いいなぁ…』と同じタイミングで呟いたのだ。それから何故か意気投合。いつの間にかお互いの身の上話をするまでになっていた。
「全く、昼間から酒なんて飲むもんじゃないですな。つい色んな事を話してしまった。いやほんと申し訳ない」
「いいえ。私も色々話せてスッキリできましたし。中々こういう話は出来ないもので」
そう言うとお互い、手にしたビールを飲む。最早この2人だけ居酒屋にいる気分である。
「おい父さん。昼間から飲まないでくれよ」
それを見た白銀が、父親にアルコールを控えるように促す。
「おお、御行」
「あら白銀くん」
「「「え?」」」
3人の声がハモる。
「立花のお母さん?」
「え?京佳ちゃんのお母さんだったんですか?どうも初めまして。この御行の父です」
「あら、白銀くんのお父さんだったんですね。初めまして。京佳の母です」
「いや仲良さげ話してたのに誰か知らなかったのかよ!?」
こうしてようやく2人は名前を知った。
「あちゃー。完全に迷ったなーこれ。京佳は目立つからわかりやすいけど母さんどこにいるんだろ?」
「きゃ」
「あた」
「あら~。すみません~」
「あ、いえいえ。こちらこそ」
(あら~。身長高いわねぇ~)
(うわ。すげー美人。てか露出多いな…)
そして同時刻、校内のどこかで高身長自衛官と露出の激しい女子大学生が出会っていた。
『もしかして私達』
『入れ替わってるーーー!?』
校庭では応援団が予定通り応援合戦を始めた。男子は女子の制服を、女子は男子の制服を着て応援している。
「きゃあああ!!つばめ先輩ーーー!!」
「団長かわいいいーーー!!」
「風野くんーーー!!」
(皆めっちゃ楽しんでいる。心配してた僕が馬鹿見たいだな)
応援団に入った石上は当初、この応援が受けるとは思っていなかった。しかし結果は大成功。自分への声援こそないが、誰もかれもがこの応援合戦を楽しんでいる。
「お疲れ石上。よかったぞ」
「はい!可愛かったですよ石上くん!」
「面白かったぞ」
「ええ、見ていて楽しかったです」
「ありがとうございます」
応援合戦が終わった後、生徒会のメンバーは石上に労いの言葉を投げる。それを聞いた石上は、応援団に入ってよかったと思っていた。因みに伊井野は次の競技がある為ここにはいない。
(ほんとよかった…これからはもう少しだけ上を向いていこ…)
最初こそ何で応援団に入ったか自分でも疑問に感じていたが、今ではその選択は間違えていなかったと思える。そしてこれからは、もう少しだけ明るく行こうと石上は考えた。
「随分楽しそうじゃん。石上くん?」
「え…?」
だがトラウマというものは、こんな時にこそやってくるものなのだ。
次回、体育祭編完結予定。
がんばるぞい。