もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
追記、赤ちゃんの名前を変えました。
「どうですかミコちゃん、このコーヒーは」
「凄く美味しいです!こんなの初めて飲みました!お代わり貰ってもいいですか?」
「勿論です!でもよかったですよー。何でかこのコーヒー皆に不評でして」
(四宮先輩…あのコーヒーって…)
(石上くん、知らない方が幸せな事もあるのよ?)
生徒会室ではかぐや、藤原、石上、伊井野の4人がお茶をしていた。藤原と伊井野はコーヒーを飲み、かぐやと石上は紅茶を飲んでいる。
因みに伊井野が飲んでいるコーヒーは『コピ・ルアク』というとても貴重なコーヒーだ。その正体はジャコウネコの糞からとれる未消化のコーヒー豆である。それを知っているから、かぐやと石上は紅茶を飲んでいる。なお、販売する際はしっかりと洗浄されているので別に不潔な豆では無い。2人が飲まないのは単純に気の持ちようである。
「にしても、暇っすね」
「まぁこの時期はね」
現在生徒会は、暇を持て余していた。生徒会選挙に体育祭というイベントも終了し、次に忙しくなるのは文化祭。それまでは特に大きな行事が無い。
勿論色々と仕事はあるのだが、それでも普段に比べると仕事は減る。よって生徒会メンバーは、こうしてお茶をしながらゆったりとしているのだ。
「そうだ!貰い物のチョコレートもあるんですけど食べますか?」
「チョコ!?食べます!」
藤原に差し出されたチョコレートをモリモリ食べる伊井野。
(伊井野さんって結構食べるのね)
かぐやは伊井野が見た目によらずよく食べる事を発見。一体この小さい体のどこにそこまで食べ物が入るのだろう。不思議である。
「お疲れー皆ー」
「あ、会長。お疲れ様で…」
そんな発見をしている時、白銀が生徒会室にやってきた。かぐやは直ぐに白銀に挨拶をしたが、それが最後まで続く事は無かった。その原因は、白銀の隣にいる京佳にある。
「「「え?」」」
藤原、石上、伊井野が同じ反応をした。3人共、視線は京佳に向いている。そしてこんな反応をしたのは京佳が抱きかかえているものにあった。
京佳の腕の中には赤ん坊がいた。それも生まれて数か月といった感じの。
(え?何あれ?え?何あれ?)
かぐやは紅茶の入ったカップを持ったまま、何故京佳の腕の中に赤ん坊がいるかを考える。だがある人物の発言で考えている事全てが吹っ飛んだ。
「その子会長と京佳さんの子供ですか!?」
ガチャン!!
藤原がそう発言した瞬間、かぐやは手にしていたカップを落とす。そのせいでカップは床に落下し、中に入っていた紅茶をぶちまける。幸い、カップそのものは割れていない。
(こども?かいちょうとたちばなさんのこども…?なにそれ?どういうこと?)
あまりのショックに若干幼児退行するかぐや。因みに周りの反応といえば、伊井野は固まり、石上は目を見開き、藤原は顔を赤くして驚愕している。そしてそんな藤原の発言に対して白銀は、
「んな訳ねーだろぉぉぉ!」
声を荒げて否定したのだった。
「ふえぇぇ…」
「あー、よしよし。白銀、あまり大きな声を出さないでくれ。この子がビックリしちゃうだろ」
「あ、すまん…」
否定した白銀だが、京佳とのやり取りは完全に夫婦そのものである。これを見た生徒会メンバーは『真実だけど恥ずかしくてつい否定した』と認識。
「どういう事ですか会長!?いつですか!?一体いつの間にこさえさせたんですか!?あと名前は!?」
「が、学生の身でありながら何てことを!!というかどうするんですか!?子供を育てるのって凄く大変なんですよ!?お金だって日本だと平均2000万円かかるって言われてるのに!!」
「マジっすか。おめでとうございます会長。あ、出産祝いは何がいいですか?」
(い、息が…!)
藤原は白銀と京佳に詰め寄りながら質問をし、伊井野は子育てが如何に大変かを言い、石上は素直に祝福し、かぐやは過呼吸になった。
「ほんと待てお前ら!1回ちゃんと説明させろ!」
「ふえぇぇ…」
「皆、静かにしてくれ。ほんとに泣いちゃうぞこの子」
「で、結局この赤ちゃんは何ですか?会長、京佳さん?」
「そうですね。きちんとした説明を求めます」
「まぁ流石にそういう意味じゃないでしょうけど、結局誰の子なんですか?」
「うー」
「うわぁ…手ちっちゃい…かわいいい」
数分後、何とか冷静さを取り戻した一同は京佳が抱きかかえてきた赤ん坊の正体を聞き出す。藤原は興味深々といった感じで、かぐやはどこか殺意の籠った眼差しをして。
因みに現在も赤ん坊は京佳が抱きかかえている。そして伊井野はそんな赤ん坊に近づき手を触っていた。
「ついさっきの話なんだが」
白銀は説明を始める。
事の発端は数分前。白銀と京佳はいくつかの資料を貰うため職員室へと行っていた。そして資料を受け取り、2人で生徒会室に向かおうとした時、後ろから声をかけられた。
「あ、白銀くん!ちょっといいかな!?」
「はい?」
「ん?」
白銀と京佳が振り向くと、そこには眼鏡を掛けた優男といった感じの男性教師、3年生担当の有馬先生が赤ん坊を抱きかかえた状態で立っていた。
「どうしました有馬先生?」
「実はお願いがあって、2時間くらいでいいからこの子を預かってくれない?」
「え?」
有馬教師は抱きかかえている赤ん坊を預かって欲しいと言ってきた。
「あの、どうしてですか?そういうのは託児所とかに預ければいいのでは?」
当然、白銀は困惑。生徒会は託児所では無いのだ。
「うん、そう思うよね。僕もそう思ってるよ。でも今日は本当にどうしようも無くって…」
有馬先生曰く、普段は彼の奥さんが子供の面倒を見ているらしいのだが、急遽どうしても外せない仕事が出来てしまい、つい先ほど学校までやってきて、子供を預かって欲しいと言ってきた。
しかし自分もまだ学校での仕事がある。しかも今日はこの後、学園長と一緒に学校の外へと顔を出さないといけない。流石に子供を連れて行く事は出来ない。
そこで用事が終わるまでのおよそ2時間の間、自分の子供を生徒会に預けてはどうかと学園長に言われ、こうして白銀に頼んでいるとの事なのだ。
(あの人またこんな事を…)
思わずため息をつきたくなる白銀。学園長の無茶振りには本当に悩まされる。
「他の先生たちも忙しくて、他に頼める人もいないんだ。今から託児所を見つけて預かる時間も無くて…どうか、お願い。この通り」
有馬先生は頭を下げながら白銀に子供を頼もうとする。
「顔を上げてください有馬先生。そういう事ならわかりました。生徒会が責任を持ってその子を預かりますから」
白銀は優しい。こうして困っている人がいたら、思わず手を貸してしまう程に。
「ありがとう!本当にありがとう!それじゃあお願いするね。あ、替えのおむつやミルクは全部この中に入っているから」
有馬先生はそう言うと、持っていた鞄を白銀に渡す。そして子供を白銀に渡そうとする。白銀も赤ん坊を受け取ろうした。
だがここで問題発生。
(赤ちゃんってどう抱けばいいんだ?)
白銀は赤ん坊を抱いた事が無かったのだ。
(もし変な抱き方して怪我でもさせたら大変だ…どうすればいい?)
一向に赤ん坊を受け取らない白銀。
「白銀、どうした?」
「白銀くん?」
そんな白銀を見た京佳と有馬先生が話かけてくる。
「すみません。赤ちゃんってどうやってだっこすればいいんですか?実は俺そういう経験無くて…」
「ああ、成程。そういう事なら私が代わりにだっこするよ。赤ちゃんならだっこした経験あるし」
「す、すまない立花…」
結局白銀はオムツやミルクが入った鞄だけを受け取り、赤ん坊は京佳がだっこする事となった。白銀は少しだけ、自分の無力さを痛感する。
そして有馬先生はそのまま学園長と共に用事をすますため学校の外へ。白銀と京佳は生徒会室へと向かった。
「という事なんだ」
「成程、有馬先生のお子さんでしたか」
かぐや達は納得した。先程は藤原の発言でパニックになりかけていたが、こうやって冷静になり話を聞く事により事の顛末を理解できた。
「これ藤原先輩のせいですね」
「な!?私のせいですか!?」
「いやそうでしょ。急に子供がどうとか言い出したから僕たち皆あんな感じになったんじゃないですか。というか開口一番『2人の子供ですか?』って何すか?普通そんな事言いませんよね?」
「ふぐ!」
「そうですね。藤原さんの早とちりで私達皆軽く混乱しちゃいましたし。少しは反省しなさい」
「うぐ!み、ミコちゃ~~ん!」
「あの、ごめんなさい藤原先輩。流石に今回のは…」
「そんなぁぁぁ!!!」
石上とかぐやが同時に藤原を責める。伊井野に慰めて貰おうとした藤原だったが、その伊井野からも言われる。藤原は思わず床に膝をついた。
「ふぇ…えぐ…」
そんな時、京佳がだっこしている赤ん坊がグズりだした。
「おっとよしよし。どうしたんだ?」
京佳は椅子から立ち上がり、赤ん坊をあやす。
「何か、立花先輩ってああいうの似合ってますね」
「わかりますよ石上くん。なんていうか京佳さんってお母さんって感じしますよね」
赤ん坊をあやす京佳を見た石上と秒で復活して藤原がそんな事を言う。
「そうだな。立花は間違いなく良い母親にも、良い嫁さんになるだろう」
そして白銀も京佳にそう発言をする。もし今の白銀の発言をかぐやが言われた場合、『これは実質プロポーズ!?』となり熱を出して倒れていた事だろう。
「ふふ、そうか。それはどうも。でも白銀だって良い父親、良い夫になると思うぞ?」
「え?俺がか?」
「あーわかります。会長って凄く良い父親になる感じしますよね。なんていうかそういう雰囲気が出てるっていうか」
「確かに。会長だったら良い夫にもなりそうですよね。奥さん色々苦労する事あるかもしれませんが…」
「おいこら。苦労って何だ」
(そうかなぁ…?)
石上と藤原は京佳に同意したが、伊井野は納得できずにいた。彼女の中では未だに白銀に様々な不信がある。よって良い父親になるとは思えないでいた。
そんな中、今の発言を良く思わない者がいた。
(ああ、そういう事ですか…つまり会長に自分は良い母親になれる事をアピールしているんですね?会長はお母様がいませんからそういう手段を取り、そしてこれを機に会長を篭絡させる腹積もりなんですね?ほんとなんて卑しい女なんでしょう…)
勿論かぐやだ。
白銀家には母親がいない。それは父親の借金が原因で出て行ったからだ。そんな母親のいなくなった環境で育った白銀は母性に飢えている可能性がある。
そして京佳は、それを利用していると思っているのだとかぐやは思い込んでいるのだ。勿論、言いがかりなのだが。
(こうなったら私もあの赤ん坊をだっこして母性をアピールしなければ!幸い、自分も赤ちゃんをだっこしたいと言うのは自然な事!特に不信に思われる事はないでしょう!)
このままではマズイと思ったかぐやは自分も赤ん坊を抱っこするべく動き出す。
「びぇぇぇぇぇ!」
しかし、かぐやが赤ん坊を抱っこしたいと言うより先に、突然赤ん坊が泣きだした。
「おっと、これは…オムツだな。白銀、鞄の中からバスタオルとオムツを取ってくれないか?」
「わかった」
京佳に言われ、預かっている鞄の中からオムツを取り出す白銀。そしてそれを受け取った京佳が生徒会室の床にバスタオルをしき、テキパキとオムツを変えはじめる。
「え、女の子だったんですか?」
「ちょっと石上、今すぐ目を閉じなさい。この変態」
「おい待て。いくら何でも生まれて1年もたっていない女の子の裸見て興奮はしねーぞ」
「どうだか」
「お前マジで僕を何だと思ってる訳?」
オムツを変えている最中、石上と伊井野の間でそんな会話があったりした。
「え、早…京佳さん、何でそんなに早くできるんですか?」
「前に母さんから『若いうちにオムツを変える練習しときなさい』と言われてね。言い方は悪いが、近所の赤ちゃんで練習したんだよ」
「ほえー」
京佳の母親は昔、息子のオムツを変えるのに苦労した経験があった。なので娘にはそんな苦労をさせたくないと思い、同じマンションに住む親子に頼み、練習をさせていたのだ。おかげで京佳はこうしてオムツを変える事ができている。
「白銀、これはゴミ袋の中に入れておいてくれ」
「了解だ」
京佳から使用済みオムツを受け取り、白銀はそれをゴミ袋へ入れる。
「よーしよし。スッキリしただろ」
「きゃっきゃっ」
「おお、笑顔になった」
オムツを変え、京佳が再び赤ん坊をあやし始める。スッキリしたのか、赤ん坊はご満悦だ。それを見た白銀も感心する。
(ふん。私だってオムツくらい変えれますよ。それこそ立花さんより早くね!)
そしてかぐやは京佳に謎の対抗心を燃やす。しかしそんな時だった。
「何ていうか、会長と立花先輩ってああして並ぶと本当に夫婦みたいですね」
石上がさらっととんでもない発言をしたのは。
(は?)
それを聞いたかぐやは呪詛を放ちそうな気分になる。
「確かにそう見えなくもないですね~」
「まぁ、そうですね」
藤原と伊井野も同じような事を言う。
「おいやめろ皆」
「あれ~?もしかして会長照れてます?へ~~」
「違うそんなんじゃない。てかそんな顔をするな藤原。あとそういうのは立花に失礼だろ」
「いや、私は別に構わないが」
「……」
少し顔が赤い白銀。そんな白銀をみてニヤつつく藤原。満更でもない京佳。目から光を失うかぐや。
だがそれだけでは無かった。
「ぱー。まー」
赤ん坊がそんな単語を口にした。それも白銀と京佳の2人を見ながら。
「今のって…」
「多分、パパとママじゃないですかね?」
藤原と石上は赤ん坊の発言を分析。その結果、今のは『パパ』と『ママ』だと判断。
「あ、そう言えば聞いた事あります。小さい子は皆が父親と母親に見えるって」
「成程。赤ん坊には私達がそう見えるのか。それにしても、パパとママか」
「う、うむ…まぁ赤ん坊の言う事だ。特に気にする事も無いだろう」
藤原の発言に京佳は嬉しそうにし、白銀は少し恥ずかしそうになる。
「きゃっきゃっ」
そんな周りの事などお構いなしに、赤ん坊は笑いながらかぐやの方を見る。
そしてかぐやはというと、
(なんて子でしょう…まるで悪魔じゃない。そうやって私の邪魔をして内心笑いながら楽しんでいるのでしょう?こんな子が将来日本を駄目にするに違いないわ…)
赤ん坊に殺意を向けそうになっていた。本当に大人げない。勿論だが、赤ん坊にそんな気はない。ただ偶然、かぐやの方を見ながら笑っただけである。
「立花さん。私もその子をだっこしてもいいですか?」
「ああ」
かぐやは直ぐに行動を起こす。兎に角今の発言を上塗りしなければならない。そこで当初の予定通り、赤ん坊をだっこして白銀に母性を感じさせる作戦を取る。
「私も!私もだっこしたいです!」
「あの、私も…」
「僕はいいです。赤ちゃんだっこするのなんか怖いし」
「お前ら。一応言っとくがこの子は物じゃないからな?」
少し興奮している藤原たちに念の為注意をしておく白銀。もしもがあったら生徒会の責任なのだ。注意するのも当たり前だろう。
「それではさっそく」
「ほら。ゆっくり」
京佳から赤ん坊を受け取り、腕の中でだっこするかぐや。
(さぁ!早く私の事をママと呼びなさい!そうすれば会長も私に母性を感じる筈!さぁ早く!)
そして赤ん坊をめっちゃ自分の為に道具扱いしていた。有馬先生は怒っていい。
「……」
(あれ?)
しかし、赤ん坊は全くそんな事を言わない。というか無反応である。視線もかぐやではなく、何も無い空中を見ている。
(どういう事!?この私がだっこしているのよ!?無反応って何よ!?前に親戚の子をだっこした時は普通に嬉しそうにしてたのに!)
まさかの展開に慌てるかぐや。これでは白銀に母性を感じさせる事が出来ない。
「かぐやさん!次私!」
「え、ええ…」
結局赤ん坊は何も反応せず、かぐやから藤原へと移る。
「まー」
「えへへへ。ママですよ~」
「いや違うでしょ」
藤原にだっこされた赤ん坊は、今度はしっかりと反応。自分をママだという藤原に石上はツッコミをいれる。
(な、何で?どうして?どうして私には反応しないの?)
京佳と藤原には反応をしたのに、自分には反応しない。そして思う。これはつまり、自分は京佳や藤原より母性で劣っているという事なのではないかと。
(嘘でしょ?立花さんはまだしも、私はこの頭空っぽな女より劣っていると言うの!?そ、そんな訳…!)
無いと言えない。事実、赤ん坊は自分には無反応なのだ。
(このままじゃ…!)
『赤ん坊が何も反応しないとはな。つまり四宮には母性のかけらもないと言う事か。悪いがそんな女性と一緒になれる事は絶対に出来ない』
(って会長に言われ失望されちゃう!!)
いくら何でもそれは無いと言いたい。そうやってかぐやが落ち込んでいると、今度は伊井野が赤ん坊をだっこする。
「ちっちゃい…これが命の重み…」
「間違っちゃいないけど大げさだなお前…」
「……」
(ん?)
伊井野が赤ん坊をだっこしているのを見ていたかぐやだったが、ある事に気づく。赤ん坊が自分の時と同じように、無反応なのだ。
(どういう事かしら?確かに伊井野さんには母性なんて無いからああいう反応するのも頷けるけど…)
ナチュラルに伊井野をディスるかぐや。そして伊井野と自分の特徴などを比較。
(……まさか)
そしてある事に気づいた。
それは自分と伊井野の胸が小さい事である。
「あ、眠そうです」
「そうか。ならそこの長椅子に寝かせておこう。私が運ぶよ」
「はい。お願いします立花先輩」
「まー…」
「ふふ、そうだぞ」
「おい立花。お前まで藤原と同じような事を言うな」
実際、今も胸の大きい京佳にだっこされた時は同じような反応をしている。
(何なの?今時の赤ん坊は胸が大きいから女性だと判断するの?あんなのただの脂肪じゃない。というかそれに反応してママ呼びするってどういう教育をしているのかしら?親の顔が見てみたいわ)
胸の大きい女性に反応して、そういう呼び方をした赤ん坊を思わず睨みそうになるかぐや。それと少なくとも父親の顔なら直ぐに見る事は可能だ。そのうち戻ってくるし。
「すー…」
『可愛いい…』
その後、長椅子の上で寝てしまった赤ん坊を全員で眺めながら時間が過ぎて行くのだった。
「本当にありがとう。おかげで助かったよ」
「いえいえ」
赤ん坊を預かって2時間と少し。父親である有馬先生が学校に帰ってきた。そしてそのまま生徒会室へ来て、赤ん坊を迎えにきたのだ。
「それで、この後はどうするんですか?」
「学園長から今日はもう帰っていいって言われてね。このまま帰宅するよ」
(あの人そういう気配りはできるんだよなぁ…)
てっきりまだ学校にいると思っていたが、有馬先生は学園長のおかげでこのまま帰るそうだ。
「それじゃね。本当にありがとう」
「いえ。どうかお気を付けて」
有馬先生はそのまま帰宅していった。
「何か寂しいですね」
「確かにな」
「可愛かったなぁ…」
名残惜しそうにする女子3人。そんな中、かぐやだけは別にそんな事も無く、白銀に話しかける。
「会長。提案があります」
「ん?何だ四宮?」
「以前計画だけされた小等部との交流、改めて計画するべきだと思うんです」
かぐやが口にしたのは、以前計画だけされた企画だ。それが秀知院の小等部と高等部の交流である。しかしスケジュールの都合もあり、結局実現する事はできなかった。
「ああ、そんなのあったな。だがどうして?」
「今日あの子の面倒を見て、子供たちとの交流は大事だと思ったんですよ。それに子供たちの方も、年上の人と交流すれば色々と学べる事がある筈です。どうでしょう?」
「ふむ。そういう事なら1度考えてみようか」
白銀はそう言うと知絵と会長の机に戻っていく。
(なるべく早く実現しなければ!そして今度こそ会長に私の母性を感じさせてみせます!)
当然だが、かぐやがただの善意でそんな事を思いつく筈が無い。全ては今日成しえなかった、白銀に母性を感じさせる為の作戦準備である。
(立花さんの勝ち逃げなんて許しませんから!)
こうしてかぐやは闘志を燃やしながら、新しい作戦を考えるのだった。
「そういや結局あの子の名前って何ですか?」
『あ』
石上の発言で、自分たちが赤ん坊の名前を聞いていなかった事を思い出した。そして翌日、有馬先生に聞いてみたところ『必ず明日が来るように』という思いを込めて『あさひ』という名前だと知ったのだった。
本日は11月22日の『いい夫婦の日』という事でこんなお話を書きました。因みに初期案では『夫婦になった白銀と京佳の日常』という内容でした。
有馬大輔(ありまだいすけ)
秀知院学園高等部3年A組の担任。世界史担当の36歳。見た目は頼りなさそうな眼鏡の優男だが生徒からの信頼は厚い。かなり面倒見がよく、そのおかげか生徒から様々な相談をされたりする。運動神経が凄く悪い。白銀より悪い。昔の同級生から『お前運動神経どこかに落とした?』と言われるほどである。100メートル走の記録は25秒。好きな食べ物はカレー。嫌いな食べ物はナマコ。
因みに奥さんは8歳年下。そして巨乳。故にあさひちゃんは胸が大きい=女の人という認識。
次回も頑張れたらいいなぁ…。