もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
最近あった事。メリュ〇ーヌガチャ大爆死。かすりもしなかったよ。
「すぅっ―――はぁ―――」
秀知院の3階の女子トイレの中に設置されている鏡の前。京佳は何度も何度も深呼吸をしていた。髪をいじったり、服装を正したりと落ち着きがない。というのも彼女は今日、白銀にある事をする。
それは今までで1番勇気がいる行動だ。故に落ち着かず、こうして何度も何度も深呼吸をしている。
「よし!」
そして京佳は意を決した顔をして、女子トイレから出ていくのだった。
10月最後の金曜日。生徒会はかつての忙しさが戻りつつあった。今年残された大きな学校行事は文化祭、通称『奉心祭』くらいしかないのだが、それ以外にも沢山の仕事がある。流石に毎日お茶飲んでゆっくり寛ぐ時間は無い。
「よし。これでこの資料は完成だな」
「お疲れ様です会長」
生徒会室では白銀とかぐやが2人で資料作成を行っていた。他のメンバーはどうしているかというと、藤原は部活、伊井野は風紀院の仕事、石上は家で生徒会の仕事をする為既に帰宅している。
そして京佳は、学園長に提出する資料を渡すためこの場にいない。
「あとはこれだけか。これなら俺だけで終われせられるから、四宮は先に上がっててもいいぞ?」
「いえ。私も最後までお供します。2人でやった方が早く帰れますし」
「そうか。ならこの書類をファイルに入れておいてくれ」
「わかりました」
かぐやはこう言っているが、本心からの言葉では無い。本心では白銀と2人きりでいるこの時間が幸せなのだ。故に、その時間を少しでも堪能していたいだけである。
(最近は色々と邪魔者しかいませんでしたし、こうして会長と2人きりの時間はほぼありませんでしたものね。直ぐに1番の邪魔者が帰ってくるでしょうが、それまではこの時間を独り占めさせて貰いましょう)
無論、かぐやが言う1番の邪魔者とは京佳の事である。かぐやにとって京佳は大切な友人であると同時に、目の上のたんこぶなのだ。かぐやが行おうとした作戦の邪魔をしてくるし、自分では真似できない事をしてくる。そんな邪魔者がいないこの時間はかぐやにとって貴重なのだ。
「白銀。さっきの資料を渡してきたぞ」
「ああ。ありがとう立花」
だが幸せな時間はあっという間に終わる。書類を届けてきた京佳が生徒会室に帰ってきたのだ。
(5分くらいしかなかった…)
結局、かぐやが白銀と2人きりでいれた時間は5分足らず。カップうどんにお湯を入れた時の待ち時間しかなかった。因みにカップうどんの中で1番長い待ち時間は8分らしい。
(いいえまだです。ここで立花さんを先に帰らせればまだ時間を手に入れる事が可能の筈)
5分という短さでは満足など出来ない。よって何とかして京佳を帰らせて、少しでも多く白銀と一緒に居ようとかぐやは考えた。
「立花さん?あとは私と会長だけで終わらせられますので先に上がっていてもいいですよ?ね?会長?」
「そうだな。これだけなら直ぐに終わるし」
かぐやが京佳にそう提案する。しかも白銀も賛同してくれた。これは幸先が良い。
「いや、私も最後までやるよ。その方が皆早く帰れるだろうし」
だが無論京佳もここで先に帰るなんて選択肢は無い。少しでも多くの時間白銀と一緒にいたいのは彼女も同じだ。なので、かぐやと同じように一緒に仕事をする事を提案する。
(く!ここで無理やりにでも立花さんを帰らせようとしたら、そんなの私が会長ともっと一緒にいたくて堪らない女みないじゃない!)
先ほどまでその通りだったというのに、かぐやは己の気持ちを否定する。いい加減、素直になれば早坂も気が楽になるだろうに。
「白銀。何か他に仕事はあるか?」
「そうだな。じゃあ四宮と一緒に書類をファイルに入れといてくれるか?」
「了解だ」
結局かぐやは、京佳を先に帰らせる有効な手立てが思いつかず、その後3人で黙々と仕事をこなすのだった。
「それでは会長、立花さん。また来週」
「ああ。じゃあな四宮」
「お疲れ、四宮」
仕事を終えた3人は帰路へと着く。かぐやは自家用車で。白銀は自転車で。京佳はバスで。
「そんじゃ俺達も帰るか」
「ああ」
かぐやの車が走り去って行き、京佳と白銀は一緒に帰宅する。といってもバス停までのほんの100メートルたらずなのだが。しかしその道中、京佳が白銀に話しかけてきた。
「白銀、少しいいかな?」
「何だ?」
「実はな、例のスーパーが今日また特売日なんだが、一緒にどうだ?」
「ほう。因みに今日は何が安いんだ?」
「洗剤とトイレットペーパーらしい」
「マジか。それなら行こう。丁度買おうと思っていたし」
かぐやがいなくなったのを確認した京佳が白銀に買い物の同伴を提案。向かう先は1学期にも2人で行ったスーパーだ。そして2人はスーパーへと向かうのだった。
「一体どこに?」
そんな2人の後を物陰から見ている金髪女子には気が付かずに。
「いやー助かった。本当に安かったし」
下校後、スーパーに到着した白銀と京佳。本日も特売日なだけあって人が多い。そして白銀の手にはトイレットペーパーがあった。1袋230円という安さで購入したものだ。ついでにいつも白銀が使っている洗濯用洗剤も150円で買えた。破格の安さである。
「今日も誘ってくれてありがとう立花」
「いいよ。私も買いたかったし」
2人して買い物袋を手に提げて並んで歩くその姿は、まるで恋人か夫婦。かぐやがこの光景をみたら発狂するかもしれない。
「じゃ、俺はこっちだから。また月曜日」
白銀は買い物袋やトイレットペーパーを自分の自転車のカゴの中に入れて、京佳に別れのあいさつをする。そして自転車を自宅のある方向へこぎ出そうとした。
だが、
「ちょっと待ってくれ白銀」
「え?」
京佳に呼び止められ、白銀は足を止めた。
「何だ立花?」
「え、えっと…その…」
「立花?」
「……」
「おーい?どうしたんだ?」
だが急に京佳が黙る。そして視線も下を向いている。そして耳も少し赤い。何時もなら何でも素直に言う筈なのに、今は中々口を開かない。それを見た白銀は疑問に思う。しかし何か言いづらい事なのだろうと思い、京佳が自分で言うまで待つ事にした。
(言うんだ…!勇気を出して言うんだ私!怖気づくな!)
そして京佳は顔が熱くなっていた。そして鼓動も早い。その理由はある事を決心した事にある。そのせいで中々口を開く事が出来ない。
「すぅっ―――はぁ―――」
白銀の前で1度大きく深呼吸。
(やらない後悔より、やった後悔)
そして真っすぐに白銀を見た京佳は、ゆっくりと口を開く。
「白銀」
「ああ」
「前に言っていた事を、覚えているか?」
「前に言っていた事?」
一体どれの事なのか見当もつかない白銀。そんな白銀に、京佳は再び話しかける。
「夏休みのプールでの事だ」
「え?……あ!あれか!」
京佳に言われ、白銀は思い出す。
それは夏休みに、京佳と一緒にプールに行った時の事だ。白銀はその時、事故で京佳の水着をひん剥いてしまっている。京佳自身はあまり気にしていないと言っていたが、白銀は非常に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。そこで、何か形のある謝罪をしたいと京佳に言った。
その時に京佳は言ったのだ。
『また、今度でいい。今日みたいに私とデートしてくれないか?』
という事を。
その時白銀はそれを了承。しかしあれから2ヵ月が経過していた為、今の今まで忘れていた。
「あの時の約束を、明後日の日曜日に果たしてほしいんだ」
京佳は白銀の目を真っすぐに見て言う。
「明後日の日曜日。私と2人っきりで水族館に行ってほしい」
自分と一緒に、遊びに行ってほしいと。
「……」
それを聞いた白銀は固まる。なんという素直で率直な言葉。いつも遠回りのやり方でかぐやにアプローチをしている白銀には中々言えない事だ。
(言った…!言った…!遂に言ったぞ…!)
勇気を振り絞って自分の言いたい事を言えた京佳は少しだけ安堵する。夏休みに誘った時は電話越しだったのでここまで緊張はしなかった。だが京佳は言えた。直接白銀に言う事ができた。あとは白銀からの返事を待つだけだ。
「それで、どうかな?」
「……ちょっと待ってくれ。1度予定を確認するから」
白銀は鞄からスケジュール帳を取り出して自分の予定を確認をする。すると日曜日はバイトが入っていない。他にこれといった予定も特に無い。これなら京佳と一緒にデートに行く事は可能だ。
だがここで白銀にある思いが出てくる。
(やべぇ…なんかすげぇ恥ずかしい…)
羞恥心だ。
以前京佳にデートに誘われた時は、電話越し言われた為そこまで恥ずかしさは無かった。しかし直接正面から言われると流石に恥ずかしい。心なしか心臓がうるさくなっている気もする。だがそれだけでは無い。
最近の白銀は、京佳に対して自分でもよくわからない妙な感情を抱いている。
京佳が白銀の知らない男性と食事をしているのを見てモヤモヤしたりイライラしたり、少し前に教師の子供を預かった時、石上から『夫婦みたい』と言われドキドキしたりと、そういった妙な感情だ。
そんな時に京佳からのデートの誘いである。確かに元は自分が謝罪の意味を込めて了承した事ではあるが、それはそれとしてこれを受けるのが恥ずかしい。
(いや!立花の事を嫌っている訳じゃないんだ!決して嫌なんじゃないんだ!俺だって約束をしたんだからその約束は守りたい!ただ、なんかこの誘いを受けるのが…なんでか恥ずかしいんだ!)
そういった事もあり、この京佳の誘いを素直に受ける事が出来ない。しかしこの京佳のデートの誘いは、元々自分に原因がある。ましてやその約束を破るなんて、白銀には出来ない。
(ど、どうしたんだ?何で白銀はスケジュール手帳を見たまま固まっているんだ?何か予定がある?いや、明後日の日曜日にバイトが無いのは圭に確認済み。他に予定も無かった筈。それなのに何も言わないというのは、やはり迷惑だから?いくら謝罪という形であんな事を約束したとはいえ、こんな誘い方は迷惑だから?)
そして京佳はスケジュール手帳を見たまま何も言わない白銀を見て焦っていた。いくら約束をしたとは言え、こんな誘い方では迷惑だったかもしれないと。
しかし京佳も、あの時の約束を果たして欲しいからこんな事を言いだした訳では無い。
京佳はこのまま今まで通り過ごした場合、かぐやに勝てないと思っている。
今まで色々と白銀にアプローチをしてきた京佳。おかげでほんの少しずつではあるが、白銀は京佳を意識しだしている。
だがそれでも尚、四宮かぐやは圧倒的だ。
なんせ白銀とかぐやは両想い。2人が京佳ほど素直だったら、とっくに恋人同士になっているだろう。京佳はそんな2人の間に入ろうとしているのだ。今までのように普通のアプローチをしていては勝てない。もっと大きく大胆なアプローチが必要だ。
その為の水族館デートである。京佳は水族館デートで様々なアプローチを考えている。起死回生の一手とまでは言えないが、少なくとも今までのようなやり方とは違う。だがそれも、白銀がこの誘いを受けてくれなければ意味が無い。
(やはり恩着せがましかった?それとも卑しい女と思われてる?)
未だ白銀は沈黙をしている。そんな白銀を見て京佳はどんどん焦り出す。表情にこそ出さないが、京佳は心の中ではもう泣きそうだ。
(ダメなのか?私は…白銀の特別にはなれないのか?)
やはり自分は、かぐやを超える事など出来ないのでは。そんな不安が京佳を襲う。
だがそんな時、
「うむ。日曜日なら予定もないし構わないぞ」
「え?」
沈黙していた白銀がデートを了承してくれた。
「……いいのか?」
「そもそも約束していたじゃないか。それを破るなんて出来ない。というかしないよ」
「ふふ、そうか。なら明後日の日曜日、〇〇駅に集合でいいかな?」
「構わんぞ。時間は、午前10時くらいでいいか?」
「うん、いいよ」
そしてとんとん拍子に予定が建てられていく。
「それじゃ俺はそろそろ行くよ。夕飯の支度もあるし」
「わかった。あとでまた連絡を入れるよ」
「了解だ。じゃあな立花」
そう言うと、白銀は自転車を漕いで行ってしまった。残された京佳はバス停に向かって歩き出す。
(ふふ、ふふふ。ふふふふふ)
バス停に向かう道中、京佳は顔がにやけるのを必死で抑えていた。
(やった!やった!!やったぁ!!!デートだ!白銀とデートだ!!)
先ほどまで泣く寸前だったのに、今では180度変わって内心テンション爆上げ中の京佳。思わずスキップすらしてしまいそうだ。何なら空だって飛べそうである。
(帰ったら兎に角着ていく服を選ぼう。あとは水族館でのイベントを予習して、そして万が一の時に備えて下着も…)
京佳は浮かれまくっていた。それこそ白銀から何か嬉しい事を言われた時のかぐや程に。そして明後日の水族館デートに向けて、色々と準備をするのだった。
一方白銀。
彼は自転車を漕いで自宅へ帰る途中、ある事を考えていた。それは勿論、先ほどの京佳とのデートの事である。実は白銀、約束を果たす思いとは別に、ある思いがあった。
それは明後日のデートで、自分が京佳に対してどう思っているかを確認したいという思いだ。
(心が痛むが…)
京佳は約束を果たしてほしい、または純粋に楽しみたいからデートに誘ってくれたのだろう。対して自分は気持ちをはっきりさせる為だ。勿論、自分でした約束を破らないというのもあるが、本命はそっちである。
そして京佳の純粋な思いを汚している気がする為、白銀は心を痛めていた。
(だが、これではっきりさせよう。俺が立花に対してどう思っているか。そして立花は俺の事をどう思っているかを!)
白銀はそう決意し、明後日のデートに挑むのだった。
「まずい…」
そして白銀達が先ほどまでいたスーパーでは、先ほどまでの一部始終を見ていた1人の金髪女子が立ったまま本気で焦っていた。
今回は導入扱いなので少し中途半端かも。また、変に長くならない様に気を付けます多分。
今年もあと少し。とりあえず寒くなってきたので風邪ひかない様気を付けよう。
次回はデート前のちょっとした準備編。そして今回の水族館デートは全部で5話くらいの予定。正直、もっと詰め込めば短くなると思うけど、作者の技量と計画性が足りていないのと、私が書きたい事をゆったり書きたいという感じなので。
展開が遅いかもしれませんが、何卒ご了承下さい。