もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
予定では今回で終わる筈だったのに、終わらなかったよ。
白銀と京佳の2人は水族館を楽しんでいた。『深海の魚たち』という魚のはく製が並んでいた部屋で様々な深海魚のはく製を見たり、『海の幸』という鯖やアジなどが入っているどう反応すればいいのかよくわからない水槽を見たり、『アマゾンの魚』というアロワナやピラニアなどが入っている水槽を見たりと、兎に角普通に楽しんでデートをしていた。
(水族館なんて小さい頃に家族と来て以来だったが、すげー楽しいな)
白銀は普段多忙で中々遊びに行くことができない。それにお金もそんなにある訳ではないので、こういった場所に来る事は殆ど無い。
その為、今日の白銀は童心に帰った気分で水族館を楽しんでいた。普段色々なストレスを抱えている白銀にとっては、丁度良いリフレッシュになっているだろう。
(いや、仮に1人で水族館に来ても楽しいとは感じなかっただろう。誰かと一緒に来ているから楽しいんだろうな)
ふとそんな事を思う白銀。例えば、1人で遊園地に行っても楽しかったと言えるのは少数だろう。同じように、1人で水族館に来ていても、楽しいと思えるのも少数だ。
こういう場所は、誰かと一緒に行くから楽しいと感じるものなのだ。例えば友人。例えば家族。
(立花と一緒だから、より楽しいとか?)
そして例えば、大切な人、もしくは好きな人。
(いやいや待て!まだそうだと決まった訳じゃないだろう!落ち着け俺!)
今回のデートで京佳に対する気持ちをはっきりさせるつもりの白銀だったが、まだその答えを出すのは時期尚早だと思い、その考えを振り払う。
「白銀。そろそろアシカのショーがあるから見に行かないか?」
「アシカのショー?」
「アシカが色んなパフォーマンスをするんだ。結構楽しいと思うぞ。どうかな?」
「いいぞ。いくか」
京佳の提案を受け、2人は水族館のメインイベントであるアシカショーを見る為屋外ステージへと向かう。
(しかしアシカショーか。ひょっとして立花は楽しみにしていたのか?結構子供っぽいな)
屋外ステージへ向かう途中、白銀は京佳の意外なところを見てそんな事を思う。言い出したのが藤原だったら誰でも納得できるが、京佳やかぐやが言うと普段とのギャップで意外と思うのは当然かもしれない。
(意外と子供っぽいと言えば、立花は結構子供っぽい下着を…)
白銀はふと、1学期の出来事を思い出す。
「ん”」
そして誰にも気づかれない様に、自分の右脚太ももを恒って煩悩を消し去った。
「あっちが屋外ステージだ。行こう白銀」
「ああ」
右脚の痛みに耐えながら、白銀はアシカのショーが行われる屋外ステージへと歩いていくのだった。
因みにかぐやは、そんな2人の光景を呪詛を口ずさみながらずーっと見ていた。早坂のおかげでなんとかなっていたが、そろそろ精神的に危ないかもしれない。
そしてかぐや達も、アシカのショーが行われる屋外ステージへと向かうのだった。
「皆さーーん!こんにちわーー!本日はソラール水族館へ来ていただいて本当にありがとうございます!」
屋外ステージ。時間は丁度正午。そこでは水族館のメインイベントである、アシカのショーが行われようとしていた。ステージの上では20代と思われる女性スタッフが、マイクを片手に司会進行をしていた。
「それでは早速呼んでみましょう!ソラール水族館のアシカの兄弟。ロスリくんとローリアくんです!」
「グワ」 「グワ」
女性スタッフがそういうと、奥の方からアシカが2頭やってきた。
「白銀、アシカだ。可愛いな」
「そうだな。目とかいいな」
ステージに上がったアシカを見て、少しテンションを上げる京佳と白銀。白銀は虫は大っ嫌いだが、人並に動物が好きである。可愛い動物を見て可愛いと言えるくらいには。
実際、アシカは全国各地の水族館で人気の動物だ。白銀と京佳がアシカを見てそう言うのは普通の事だろう。
(可愛い?あれのどこが?)
白銀と京佳が座っているところから少し離れた場所に座っているかぐやは、地獄耳で2人の会話を聞いた時にそんな事を思った。犬や兎なら可愛いと言うのもわかるが、アシカである。
確かに目がクリっとしているから可愛いと言えなくもないが、所詮海洋哺乳類の鰭脚類だ。かぐやはあれが可愛いと言う感情がわからない。でも今はそんな事どうでもいい。
(それにしても、随分楽しそうにしていますね。何て羨ましい…)
今のかぐやの目には、楽しそうに会話している白銀と京佳しか映っていない。水族館へ来てからというもの、白銀は楽しそうに京佳と水族館を観てまわっている。
そしてその隣にいるのは、自分ではなく別の女。正直、堪らなく羨ましい。変わってくれるなら是非変わりたいくらいだ。
(ってこれじゃ私が会長と2人きりで水族館で遊びたいって思っているみたいじゃない!!違います!ただ会長が私とどうしても一緒に行きたいと言うなら行ってやらなくもないって思っているだけですから!)
口にこそ出さなかったが、かぐやはすぐに京佳と変わりたいという思いを否定する。早坂が今思った事を知ったら、間違いなくため息をついていただろう。というかいい加減殴られそうである。
「では次の得意技を見てみましょう!はい!2人羽織!!」
「「グワァ」」
『おお~~』
そんなかぐやの事など気にする事も無く、アシカショーは進んでいった。
「それでは次はアシカの首を使った輪投げをしてみましょう。お客様の中でやってみたいと言う人~」
司会進行をしている女性スタッフがそう言うと、ショーを観ていた大勢の観客が手を上げる。
「それでは、そこのお2人!どうぞステージに!」
女性スタッフはある男女2人組を指名し、ステージへ上がる様促す。
「ほら白銀、行こう?」
「何か恥ずかしいな…」
(は!?)
そしてステージへと上がっていく2人組を見た瞬間、かぐやは思わず2度見した。
何故ならステージへへと上がっているのは、白銀と京佳の2人だったからだ。
2人はそのままステージへと上がり、女性スタッフが質問をする。
「はい来てくれてありがとうございます。お2人はカップルですか?」
「はい、そうです」
「え、ええ。まぁ…」
「あら~。初々しいですね~」
それを聞いた瞬間、かぐやは地獄へ落とされた様な気分になった。
(か、カップル…?あの2人が?それってつまり、恋人?一体何時の間に?あれ?じゃあこれって、もう私が入る隙は…無い?つまり、私の恋は…終わった?)
目の前が真っ暗になりかけ、ふらつくかぐや。そしてあわや倒れそうになった瞬間、男装している早坂に抱き留められる。
「落ち着いてくださいかぐや様。あれは恐らく水族館入口でカップルと言って入館した手前、ここでもカップルと言っているだけです。本当に恋人になっている訳ではありません」
早坂はかぐやに説明をする。
「そ、そうよね…そういう事よね。私ったらてっきり…」
早坂の説明を聞いたかぐやは体勢を整え、再び倒れない様に椅子にしっかりと座りなおす。
「それにしても、実際に付き合ってもいないのにカップルだなんて。本当に卑しい女ね彼女は」
そして秒で京佳を静かに睨む。
「そんなこと言うんだったら、来週にでも白銀会長をどこかに誘えばいいじゃないですか。そうすれば出かけた先のスタッフが同じような質問をしてくると思いますけど?」
「そんな事私からできる訳ないじゃない」
「はいはいそうですか」
最早投げやりな返答をする早坂。実際かぐやが白銀を誘えば、ほぼ間違いなく白銀はその誘いを受けるというのに、かぐやはそれをしない。高すぎるプライドというものは本当に面倒くさい。
「それでは、彼女さんにはこの輪っかをお兄ちゃんアシカのロスリくんに。そして彼氏さんには弟アシカのローリアくんに投げてもらいましょう!」
「わかりました。ふふ、楽しみだな白銀」
「あ、ああ。そうだな」
ステージ上ではアシカに向けて輪投げをする準備をしている。そしてステージに上がっている白銀は、少し顔が赤い。先ほど司会の女性スタッフにカップルですかと聞かれたせいである。そのせいで、変に京佳を意識しているのだ。
「ねぇ早坂。今直ぐにステージ下にあるプールの中にサメを出してくれない?できればメガロドン」
「できませんよ。ていうかそれ絶滅してるサメじゃないですか」
「じゃあホオジロザメ」
「だからできませんって」
一方かぐやは、白銀と一緒にいる京佳に嫉妬して何とか邪魔をしたかった。しかし、いくら早坂が凄腕のメイドだからといっても流石に不可能である。
「それじゃあ、輪投げチャレンジスタートです!」
女性司会者がそう言うと、京佳が輪っかをアシカに向けえ投げる。するとアシカは器用に首を動かし、輪っかをくぐる様に首にかけた。
「成功です!続いてどうぞ!」
2回目は白銀が投げ、これも成功。
「大成功です!皆さん兄弟アシカのロスリくんとローリアくんと、協力してくれた2人に大きな拍手をお願いします!」
会場からは大きな拍手が起こった。
「ふふ。アシカに輪投げなんて初めてだったけど、楽しかったな」
「そうだな。中々無い経験が出来て面白かったよ」
「今度はイルカの背中に乗ってみたいよ。沖縄にはそういう水族館もあるらしいし」
「マジか。それは確かに楽しそうだな。機会があれば是非行きたい」
白銀と京佳は笑顔でステージを降りていく。
(会長、本当に楽しそう…)
そんな2人を、かぐやは拳を握りしめ黙って見続けた。
その後もショーは続き、最後は兄弟アシカがステージ下のプールに入り、どこからともなく出てくるというまるでワープのような芸を披露して幕を閉じたのだった。
アシカのショーが終わり、会場からは人々が立ち去っていく。会場出口付近が人込みでごったかえしているので、出口の人込みがはけるまでの間、椅子に座っている人もそれなりにいるが。
「それでかぐや様、どうしますか?」
「どうって?」
「今ならまだ間に合います。混乱に乗じて白銀会長と合流できますよ」
早坂はかぐやに当初考えていた作戦を提案する。
「そうね。会長なら、自分と一緒にまわらないかって言うかもだしね」
「まぁそれはあるかと」
白銀の性格からしてその可能性はあると早坂も思っていた。故に今なら2人きりという状況を破壊できると踏んだのだ。
「それじゃ、行きましょう」
かぐやは椅子から立ち上がり、白銀を探す。すると会場出口から少し離れた場所で白銀を発見。そしてその隣には、当然京佳もいた。
「白銀。この後は水中街道という場所を観にいかないか?」
「水中街道?何だそれは?」
「所謂水中トンネルだよ。まるで水中を歩いているような気になれるんだって。しかも結構長いらしい」
「それは面白そうだな。よし、なら次はそこに行こう」
「それでその後はどうする?今度は白銀が行きたいところでいいぞ?」
「俺の行きたいところか。だったらこのペンギンがいるところがいいな。写真撮りたいしな」
「ペンギンか。それはいいな。私も見てみたいし」
「その後はそうだな、お土産屋に行きたいな。圭ちゃんは何も買ってこなくて良いって言ってたけど一応見ておきたい。まぁお土産を買うかどうかは財布と相談だが。こういうとこって結構お土産高いし」
「わかった。ペンギンを見たらそこにも行こう。何だったら今日のお礼としてお土産代は私が出そうか?」
「いやそんな事は出来ないって」
白銀は京佳と楽しく雑談していた。白銀が手にしているパンフレットを見ながら次は何処に行くのか。写真を撮りたいとか。おまけに肩が触れる程距離も近い。
そして白銀も京佳も、とても楽しそうにしていた。
(あんなに楽しそうにしている会長の邪魔をしてもいいのかしら…?)
かぐやは思わず足を止めてしまう。2人に近づけない。いや、今の2人の間に割って入るなんてとても出来ない。そんな思いが、かぐやの中に湧いて出た。
(立花さんは自分から会長をデートに誘ったというのに、私は一体何をしているの…?)
自分の行いを振り返るかぐや。
白銀が京佳とデートするのが悔しくて、邪魔をしようと決意。態々早坂に男装させ、偶然を装って京佳に接近。そして一緒に水族館を観てまわらないかと提案。そうすれば、白銀と京佳が2人きりになる事はないと思ったからだ。
しかし京佳は自分が白銀と2人きりで水族館を観たいといいかぐやの提案を拒否。そこで諦めれば良いのに、かぐやは諦めきれず、こっそり後をつけ続け2人を監視。
そして今、また2人っきりを邪魔しようと動こうとしている。
(なんて、みっともない…)
ふと自分の行いを振り返ったかぐやは、恥ずかしく、そして情けなくなった。早坂の言う通り、自分から白銀をデートに誘えばこんな事をしなくて良い。
もし自分から白銀をデートに誘っていれば、今白銀の隣で楽しそうに笑っているのは自分だったかもしれない。
(それにもし私が立花さんの立場にいて、デートを邪魔してくる人がいたら・・・)
怒る。絶対に邪魔してきた人に怒る。何なら殺意だってぶつける。もしかすると手が出るかもしれない。そんな事、考えなくてもわかる。
(ほんと、何してんのかしら…私…)
かぐやはここに来て、ようやく自分がしている事がとんでもなく失礼な事だと自覚した。
「かぐや様?」
隣にいる男装した早坂がかぐやに声をかける。
「……帰るわ」
「は?」
かぐやはそう言うと水族館の出口方面へ歩き出す。
「え!?ちょ!?かぐや様!?どうしたんですか!?いいんですか!?白銀会長と立花さんをあのままにしておいて!!」
「……」
「ちょっとかぐや様!?」
早坂が静止するが、かぐやは無言で出口へと向かう。
そして、そのまま徒歩で四宮家別邸へと帰るのだった。
何かの拍子でふと我に返る時、あるよね?
今回で終わらせるつもりだったけど次回に伸びちゃった。相変わらず計画性が無いな自分。もう少し執筆時間を取れば何とかなったかもしれない。
そしてアシカの名前に心当たりがある人は、来月発売予定のゲームが楽しみな人だと思う。
次回、水族館デート編完結(予定)。果たして白銀の気持ちは?