もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
生徒会室
白銀御行は悩んでいた。それはもうすっごく悩んでいた。今までの人生でも悩んだことは沢山あったが、今回のは人生で1番悩んでいると言っても良い。
(マジでどうしよう…)
自分以外誰もいない生徒会室で、生徒会長専用の机で頭を抱える白銀。彼がここまで悩んでいる原因。それは昨日の日曜日にあった京佳とのデートにある。
昨日のデートで白銀は、自分が京佳に好意を向けていると自覚してしまった。
元々、昨日行なったデートは、自分が京佳の事をどう思っているかを確認する為にやったデート。そしてその結果、白銀は昨日のデートで自分が京佳に好意を向けている事を自覚してしまった。
これが初恋だったら大変喜ばしい事であり、ここまで悩む事など無い。しかし残念ながらそうはいかない。そもそもの話、白銀が好意を寄せている女子は、同じ生徒会に所属している四宮かぐやなのだ。故に白銀は、いつの日かかぐやと恋人になりたいと思う様になった。しかしプライドの高い白銀は、自分から告白をせず、相手から告白をさせようと画策。その結果、これまでかぐやと恋仲になる事もなく過ごしてきた。
だがここにきて、自分がもう1人、別の女子を好きになっていると自覚。
つまり今の白銀は、同時に2人の女子を好きになってしまっているのだ。
幼い頃ならばこういった事も多少は許されるだろうが、既に高校生になっている今は許される事など無い。
(はぁ…本当に、本当にマジでどうしよう…)
本日何度目かわからないため息をつく白銀。その顔は、どことなく疲れている様に見える。
(選ばないと、いけないよなぁ…)
この悩みを解決する方法はひとつ。それは、2人の内どちから片方を選ぶ事だ。この単純明快な方法さえ実行すればいい。そうすればこの悩みも解決するだろう。
しかし、
(え、選べねぇ!!マジで選べねぇ!!)
白銀はかぐやか京佳、どっちかなんて選べなかった。何故なら今の白銀は、かぐやと京佳に対する好意がほぼ同じになっているからだ。
(いや違う!四宮の方が少し上ではあるんだ!でも、間違いなく立花も俺に中では凄く大きな存在になっているんだよ!それこそ四宮と同じくらいに!)
厳密に言えば、かぐやの方が好きの度合いは少し高い。しかし、仮にこれを数字に表すとすれば51対49といったところ。つまり、ほぼ同等なのだ。僅差でかぐやが上回っているとはいえ、これでは簡単に選べない。
(それにそれだけじゃない…)
無論それだけでは無い。どちらか片方を選ぶという事は、どちらか片方を選ばないという事になる。つまりかぐやと京佳、どっちかが必ず傷つくと言う事だ。
白銀は心優しい人物である。それ故、基本的に誰かを傷つけるといった事が出来ない。ほんの少しだけ、相手を嫌な気分にさせようというのもダメなくらいだ。現に、少し前にとある女子に告白の様な事をされ相手を振った時、白銀は家に帰ってかなり心を痛めた。
だからこそ悩んでいる。どうにか、どっちも傷つけない方法は無いものかと。
(いっそ2人まとめて…って駄目に決まってるだろ。漫画じゃあるまいし)
一瞬だけかぐやと京佳、2人同時に付き合うという邪な考えが出るが、白銀は直ぐにその考えを消し去る。そんな事が許されるのは漫画やアニメだけだ。世の中には同時に2人以上の女性と付き合う男もいるというが、誠実な白銀はそんな真似を決してしない。
(そういえば、俺はいつの間に立花の事をこんなに好きになってるんだ?)
ふと、白銀は考える。それは京佳の事だ。白銀にとって京佳は、自分と同じ混院の生徒で友人だ。それも秀知院に入学して、初めて出来た友人。1年生の頃には勉強を教えて貰った事もあるし、一緒に特売の買い物に行った事もある。
そんな友人と思っていた京佳が、いつの間にか自分の中でとても大きな存在になっていた。そして気づけば、1人の女性として好きになっていた。
(四宮に惚れた瞬間は思い出せるんだが、立花は全然わからん。一体いつだ?)
かぐやを好きになったきっかけは覚えているが、京佳は全くわからない。本当に、いつの間にか好きになっていたのだから。
(って今はそんな事どうでもいい!俺はどうすればいいんだ?)
だが今はそんな事を考えている場合ではない。目下最大の悩みは、今後自分がどうすればいいかだ。しかし、考えても考えても一向に解決策は出てこない。そんな時、
「こんにちわー」
「こんちゃーっす」
藤原と石上が生徒会室にやってきた。
「あれ?まだ会長だけですか?他の皆さんは?」
「伊井野はわからんが、四宮は部活だ。そして立花の方は掃除当番だから少し遅れると連絡があった」
「伊井野は日直です。だから多分遅くなるかと」
「そうなんですね~」
因みに白銀と同じクラスの藤原が生徒会室にくるのが遅れた理由は、単純にクラスの友人と話していたからである。
「あ!そうだ!昨日お父様に新しいコーヒー豆を貰ったんですよ!皆で飲みませんか?私が淹れますから」
「なんてやつですか?」
「えーっと、運河芸者さんて名前のやつですね~」
「え、それ高級豆じゃないっすか」
「そうなんですか?」
そう言うと、藤原は鞄からコーヒー豆の入った袋を取り出して3人分のコーヒーを淹れる準備を始める。
(相談、してみるか?)
ここで白銀は、誰かに相談するという手段を思いつく。悩みというのは、1人だけでは中々解決しない。だが誰かと相談すれば、それまで悩んでいたのが嘘の様にあっという間に解決する事がある。三人寄れば文殊の知恵という諺もあるし。
(だがなぁ…石上はともかく、藤原に言うのはなぁ…)
しかし懸念もある。それが藤原だ。彼女は言わずと知れた恋バナ大好き女子。そんな彼女に自分の恋バナともいえる相談をすれば、一体どうなるか検討もつかない。下手をすれば、悩みがより一層深刻化する可能性もある。
(いや。それでもこのままじゃ解決の糸口すら見つからん。多少話を濁してでも聞こう)
だが現状、なにひとつ解決の糸口が見つかっていない白銀は、藁にも縋る思いで石上と藤原に相談をする事にした。
「2人共、少しいいか?」
「何ですか?」
「どうしましたー会長ー?」
丁度藤原がコーヒーを淹れ終えた時、白銀は2人に話かける。
「いやな、昨日テレビで見たんだが、ある1人の男が同時に2人の女を好きになったんだよ。だがな、その男にとって、2人の女はどっちも大切な存在なんだ。だからどっちかを選ぶなんて出来ないって言ってたんだ。こういうのって、女2人をどっちも傷付けず、円満に解決できる方法ってあると思うか?」
白銀はよくある手口『昨日テレビでみた』作戦を実行。これなら特に不審がられる事も無く、自分の悩みを相談できる。そしてそれを聞いた藤原は、
「え?何言ってるんですか会長?ある訳ないじゃないですか」
バッサリと正論で切りつけた。
「そもそも何ですかその男。同時に2人の女の人を好きになったって。浮気性が過ぎるでしょ。最低の一言ですよ。それに円満な解決方法?無いですって。人間が水着で太平洋をクロールで横断するくらいには無いですって。普通に考えてどっちかを選ぶべきでしょ」
(ですよねーーー!いやわかってたけどさ!)
藤原の正論がグサっと刺さる白銀。そして藤原に同調する。だって間違った事は何も言っていない。というかどう考えても、解決策なんてそれしかない。
「い、石上はどうだ?」
しかし白銀は諦めない。僅かな望みをかけて石上にも聞いてみた。
「いや無いでしょ。そんな都合の良い方法なんて」
だがダメ。石上も藤原と同じ様にバッサリと切りつけた。
「2人も同時に好きになっていてどっちも傷つけたくないなんて傲慢ですよ。昔僕がやったゲームでもそういう時はありましたが、結局どっちかを選ぶしか選択肢はなかったですし。まぁ偶にどっちも幸せにできたなんて事もありますが、それはゲームだから許される事です。現実にそんな事しようとしている人がいたらそいつはクズですよ」
「……そうだよな」
石上も藤原とほぼ同じ事を言った為、白銀はへこむ。
(やはり無いよな…そんな都合の良い話は…)
2人に相談した白銀だったが、自分が求めた都合の良い解決方法は聞けなかった。でも仕方が無い。だってそんな方法など無いのだから。白銀だって頭ではそんな事わかっていた。
「え…石上くんって、そういうゲームするんですか?」
「何を想像したのかわかりませんが違います。あれは普通のアクションゲームです。ただ最初からヒロインが2人用意されていて、ゲームをやると最終的にどっちかを選ばないといけないってだけです。断じて藤原先輩が思っているようなゲームじゃありませんから」
「へ、へー…そうなんですかー…」
「その疑いの眼差しやめて下さい。なんなら今度持ってきますよ」
石上はそう言うと、藤原から渡されたコーヒーを飲む。続いて白銀も机の上に置かれたコーヒーを飲む。
(あ、これうまい…)
藤原が淹れたコーヒーはとても美味しかった。良い香りと深いコクのある味わい。それだけで、白銀は少しリラックスできた。
(そうだよな…どっちとも付き合って、どっちも幸せにするなんて傲慢だ。そんな事、許される訳がない)
コーヒーを飲んで少し落ち着いたのか、白銀の思考はクリアになっていった。
(ならばこそ、いずれ必ず選ばないといけない。例えその時、四宮と立花のどちらかを悲しませる事になったとしても)
そして再びコーヒーを飲む白銀。覚悟は決まった。現状ではどちらかを選ぶなんて出来ない。しかしいずれ必ず、どっちかを選ぶと白銀は決心する。例えそれが、どんな結末になろうとも。
(それで結局、四宮と立花。どっちを選ぶのかという事だが…)
決心はしたが、結局そこで悩む。なんせ両方好きなのだ。最初に好きになったのはかぐやでも、その後に京佳の事も好きになっている。そしてかぐやと京佳、その両名が好きという気持ちがほぼ同じ。非常に言い方を悪くすると、どっちも捨てがたいという感じである。
(ま、まぁ、今すぐ決断する必要も無い。まだ時間はあるから、しっかりと悩んで決断しよう。絶対に後悔しないように)
結局、白銀は保留という手段をとった。問題の先送りとも言う。だが実際、今すぐに選ばないといけない訳では無い。ならば後悔しない為にも、時間が許す限り悩んで決断するべきだろう。
「会長、コーヒーのおかわりいりますか?」
「ああ、頼む」
「はーい」
何時の間にか飲み干して、空になったコーヒーカップを藤原に渡す白銀。それを受け取った藤原は再びコーヒーメーカーでコーヒーを淹れだす。
「にしても、皆遅いっすね」
「ミコちゃんはそろそろ来そうですけどねー。かぐやさんと京佳さんはまだ遅れると思いますけど」
「四宮先輩は部活だから遅れるってのはわかりますが、立花先輩は掃除ですよね?そこまで遅くなりますか?」
「京佳さんって身長が高いから、棚の上にある物とかをクラスの人に頼まれてよくとったりしているんですよー。今日もそんな感じで遅いのかもしれません」
「あー、確かに立花先輩って頼りがいありますしね」
「ですねー。面倒見も良いですし」
新しくコーヒーを淹れている最中、石上と藤原はそんな会話をしていた。実際、京佳はよくそういったお願いをされる。これは背が高い人の宿命かもしれない。
(そういや、俺は2人がとても魅力的に見えているけど、他の皆にはどう見えているんだ?)
一方、2人の話を聞いていた白銀の頭には、ある思いが浮かぶ。それは、かぐやと京佳がどのように見られているかという事だ。
今の白銀は、相手を好きだというフィルターがかかっている状態である。このフィルターがかかっていると、相手の短所すら魅力的に見え、物事を客観的に見れなくなる。要は、恋は盲目というやつだ。これでは正常な判断が出来ない。つまりそれは、2人の内どちらかを決める際、選択を誤る可能性があるという事だ。
(ここは1度、全く違う視点の第3者の意見を聞くべきだな。2人の事をどう思っているか)
ならば1度、そういったフィルターがかかっていない第三者に質問をして、かぐやと京佳がどういった女性に見えているかと聞こうと思ったのだ。そうすれば、その意見を参考にする事もできる。
(でもこれ、まるで四宮と立花を品定めしているみたいだよな…これ1回きりにしとこ…)
少し罪悪感に襲われたが、あくまで今回だけという事にして、白銀は2人に質問をする事にした。
「なぁ2人共。少し聞きたいんだが、四宮と立花の事をどう思ってる?」
「はい?」
「え?何すか会長。その質問は」
「いや、今藤原が立花の事を面倒見が良いとか言っていただろう?生徒会長として、他の役員が他の役員の事をどう思っている少し気になってな」
かなり強引な質問の仕方だが、白銀は押し通る事にする。人間時には勢いが大事なのだ。
「そうですねー。まずかぐやさんは私にとってもの凄く大事なお友達です!もしもかぐやさんが困っている事があったら絶対にお助けします!そして勉強も運動も何でも出来ちゃう人ですから凄いなーって感じですかね」
今の生徒会メンバーで、1番かぐやと付き合いが長い藤原のかぐやに対する印象がそんな感じらしい。要は、大切なお友達。事実、数年前まで『氷のかぐや姫』と呼ばれていたかぐやに、唯一友達として接していたのが藤原だ。そんな藤原にとってかぐやは、1番の親友と言っても過言じゃないだろう。
「あとはそうですね。やっぱり女の私から見てもすっごく綺麗な人って印象がありますね。あの髪とか」
(わかる!あの髪とか超綺麗だよな!)
白銀は藤原に同調した。
「そして京佳さんは、正直最初は少し怖かったですけど、それから色々と話していく内に印象変わりましたね。身長高くてスタイルいいですし。かぐやさんとは別方向の美人さんですよね。あと、私の試験勉強の手伝いしてくれますから面倒見がいいって思います。それと、お化けが苦手なの事がちょっと可愛いですね」
続いて京佳の印象を言う。実際、初めて会った時の藤原は京佳を怖がっていた。理由は勿論、京佳が左目にしている眼帯である。
しかし、その後話していく内にそういった恐怖は消えさり、今ではちゃんとした友達だ。そしてよく勉強を教えてもらっているので、藤原は京佳に対して面倒見が良いといった印象があるようだ。
(わかる!うちの圭ちゃんも色々面倒見て貰ったりしたし!)
再び藤原に同調する白銀。実際白銀家は去年、京佳に色々と世話になっている。その結果、圭は京佳にかなり懐くようになったのだ。
「僕は、四宮先輩も立花先輩も尊敬できる大切な先輩って感じですね。あとは、2人共美人だなーって感じです」
「へ~。石上くんもそんな事言うんですね~」
「そのニマニマした表情やめて下さい。あくまで一般的に見てって話です」
石上はかぐやと京佳の印象を一緒くたに言った。そして石上から見ても、やはり2人共美人といった印象があるらしい。
(まぁ、体のある部分だけは四宮先輩が圧倒的に負けている感じするけど…)
だがとある部分に関する事だけは言わなかった。思ったが言わなかった。石上も成長した証拠だろう。
(聞いてはみたが、どれも既に俺が思っている事ばかりだな。まぁ、それはつまり俺以外の人からも2人は魅力的に見えているって事だな)
2人の答えを聞いた白銀は満足だった。どっちかを選ぶ様な答えでは無かったが、これはこれで良い事を聞けた。
(時間は決して多くはない。だが必ず、結論は出そう)
こうして白銀は、悩みながらも覚悟を決めた。いずれ必ず、かぐやか京佳、どっちかを決めると。
(あ、そうだ。もう1個気になる事があった)
ふと、白銀はある事を思い出す。それは身長の事である。世の中の恋人の大半は、彼氏の方が背が高くて彼女の方が背が低い。これは男性バイアグラと呼ばれるもののせいで、男性の方が女性より身長が高くなるからである。
しかし稀に、女性の方が身長が高い場合がある。そして世の中の男性の多くは、彼女の方が自分より身長が高い事に抵抗を感じる。白銀自身は、その辺どうでもいいと思っている。仮に自分より少し身長が高い京佳と恋人になっても、周りから何を言われても気にしない自身がある。だって自分がその彼女を思ってさえいればいいのだから。だが、自分以外はどう思っているか気になった。
(これだけちょっと石上に聞いてみるか)
そこで同じ男性である石上に質問してみる事にした。
「なぁ、石上」
「はい?」
「失礼しまー「お前大きい女子ってどう思う?」す…」
が、ここで白銀はミスを犯した。白銀自身は『身長の大きい女子ってどう思う?』と聞いたつもりだったのだが、言葉が足りていなかった。今の聞き方では、殆どの人が別の部分の事を思い浮かべる。端的に言って、胸部の事を。それも運悪く、日直の仕事を終えた伊井野が生徒会室に入ってきた時に。
「え、会長…キモっ…」
「ふ、不潔…」
「えーっと、ノーコメントで…」
藤原は顔が引きつり、伊井野は汚物を見る目で白銀を睨み、石上はそっぽを向いて答えを濁した。
「は?……あ!待て待て違う!そういう意味じゃない!」
ここで白銀は、自分がとんでもないミスを犯したと気づく。そこで慌てて弁明を行ったが、時すでに遅し。結局、白銀は誤解を解く事が叶わなかった。
その後、かぐやと京佳が生徒会室に来る前に白銀は藤原に無理やり帰らされていた。
「あの藤原さん?会長はどうしたんですか?」
「どうも会長は変な質問をするくらいに疲れていた様なので今日は帰らせました」
「そうなのか?大丈夫だろうか?」
「一晩寝たら何とかなると思います。それはそうと2人共、最近会長に何か言われましたか?」
「はい?」
「何だそれ?」
「具体的に言えばセクハラみたいな事言われませんでしたか?」
「「は!?」」
そして白銀が帰った後に生徒会室にやってきたかぐやと京佳は藤原に変な質問をされた。
因みに石上は、その日の夜に白銀にメッセージを送り『大きい人が好きです』と答えた。
少々雑かもしれませんが、とりあえず白銀会長はこれで覚悟決めました。しかし、未だにどっちか決めきれません。彼には今後暫く悩んでもらいます。(ただし私が書ききれるかはわからない)
次回はネタ回の予定。
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