もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
本当にありがとうございます。
「私たちの写真ですか?」
「ハイ。秀知院のパンフレットを作るノデ、是非ミナサンにモデルにナッテ欲しいんデス」
「モデルさんですか!楽しそうなのでやります!」
11月の初め。突然生徒会室に学園長が来たと思ったら、カメラを持ってそんな事を言ってきた。何でも、秀知院の新しいパンフレットを作りたいので、それに使用する写真のモデルを引きうけて欲しいらしい。
「でも今日ですか?私、美容院行ってないんですけど大丈夫ですかね?せめて明日とかにしません?そうすれば今よりずっと綺麗な写真が撮れると思うのですが」
「落ち着け藤原。これは別にモデル雑誌に載る訳じゃないんだぞ。それに藤原は今でも普通に可愛いじゃないか。気にする必要は無いよ」
「え、えへへへ。そうですか-?じゃあこのままでいいです~」
できれば美容院に行ってから写真撮影をしたい藤原だったが、京佳に言われ顔がにやける。実際、藤原は見た目だけなら非常にかわいらしい。そして男女分け隔てなく接する明るい性格が合わさり男子に結構人気がある。
最も、生徒会での奇行を知ったら幻滅する男子も多いだろうが。生徒会の暴走特急は伊達じゃない。
「あの、申し訳ないのですが、私は家の方針で不特定多数が目にするメディアに顔を出す事をしてはならない決まりがありますので…」
「オゥ~、顔出しNGってやつデシタカ」
学園長が残念そうにする。かぐやの家は国内で最も有名な家だ。そんな名家の人間であれば、こういった事にシビアになるのも当然だろう。
「ですが皆さんは気にせずどうぞ。それに私、元々写真に写るのが得意では無いので」
かぐやは気にせず皆で撮影をしてと言う。でも正直に言えば少し寂しかったりする。
「私もやめておく」
「え?」
そんなかぐやに京佳が同調した。
「どうしてですか立花さん?私の事なら気にしなくて良いのですが」
「いやそういう訳じゃない。この写真が載ったパンフレットって大勢の人が見るんだろう?」
「そうらしいですね」
「そんなパンフレットにこんな眼帯した奴が写ったらイメージが悪くなるだろう?だから私はやめておくよ」
「あー…」
京佳が撮影に参加しない理由は、自分の顔のせいである。事実京佳は、今でもあまり面識の無い1年生に怖がれている。そんな自分が大勢の人が見るパンフレットに載っていたら、国内有数の名門校の看板に傷がつくかもしれない。よって京佳は撮影を断ったのだ。
「立花サン。そんな事気にしなくてイインデスヨ?少なくとも私は気にシマセン。もしそんな事ヲ言う人がイタラしっかりと私カラ『お話』シマスシ」
「いえ。万が一という事もありますので」
「そうデスカ。ワカリマシタ…」
かぐやと同じ様に残念そうにする学園長。しかしいつまでも落ち込んでいては撮影が進まない為、気持ちを切り変えて撮影を始めるのだった。
「私が作りたいパンフ。それはズバリ『青春』デス!なのデ皆さんには、是非この学校で青春シタイと思える姿をして欲しいんデス!」
「青春って言われても…」
写真のテーマは青春。大勢の人の心をつかむには十分な題材だろう。だがどうやって青春っぽい事をすればいいか白銀は解らない。こういうのは、言われても出来るものではないからだ。
「こうですか!?」
「わんぱくですね」
藤原は不思議な踊りを踊った。石上はつっこんだ。
「こうか!?」
「初めての七五三」
白銀はなんかガチガチだった。再び石上がつっこんだ。
「デハ、次は伊井野サン」
学園長がカメラを伊井野に向ける。しかし伊井野は手にしているクリップボードで顔を隠す。
「どうしましタ?伊井野サン?それでは顔が写りませセンヨ?」
「だって、恥ずかしいし…」
どうやら伊井野は写真に写るのが恥ずかしいらしい。
「それハいけまセン。伊井野さんはとても可愛いノニ」
「え?可愛い?」
「そうデス!お人形サンみたいにチャーミング!とてもプリティデス!だからコソそのキュートさを見せてくだサイ!」
「こ、こうでしょうか?」
「オオ!ベリーキュート!!いいデスヨー!ジャパニーズカワイイ!!」
しかし学園長におだてられ普通に写真に撮られた。何時の間にかポーズも決めている。
「私は伊井野が心配になったよ…」
「そうっすね。おい伊井野、お前マジで街中で変なスカウトに声かけられてもついていくなよ?」
そんな伊井野を京佳と石上は心配した。下手すると本当に変な写真とか映像とか撮られかねない。
「石上クン。伊井野さんの隣に立って貰えマスカ?」
「え?あ、はい」
学園長に言われ、伊井野の隣に立つ石上。だがその瞬間、2人の間に邪険な空気が流れる。
「オー。これはイケマセン。青春とは程遠いデス…。四宮サン、石上クンの身だしなみを整えてくれまセンカ?」
「わかりました」
「伊井野サンは髪をオロシテクダサイ」
学園長に言われ、かぐやは石上の身だしなみを整え、伊井野は普段している髪紐を取った。
「オオオオ!!これデス!こういうノデスヨ!!」
するとそこには見違えた石上と伊井野。石上は如何にもな優等生になり、伊井野は少し大人っぽくなった。
「へぇ。髪型だけで結構印象変わるもんだな」
「そうだな。パッと見石上には見えないよ」
「ミコちゃんは可愛さが綺麗さになってる感じですね~」
見違えた2人を見て白銀、京佳、藤原も同じ様な感想を言う。
「何時も陰ナガラ助け合ってイルのに両方ソレに気づいてイナイ感じがトテモいいデス」
「何言ってるんですか?」
「意味がわかりません」
学園長の感想に疑問符を浮かべる2人。恐らくこの言葉に同意できるのは、風紀委員の伊井野の親友だけだろう。
「デハ。次は白銀クンと藤原サンで」
2人の撮影が終わり、今度は白銀と藤原の撮影となった。しかし、
「ウーム。これはイケマセン。モット自然にお願いシマス」
「って言われましても…」
緊張しているのか、はたまた自然な演技が下手なのか、2人共ギクシャクした変な動きをする。白銀も頑張っているが、イマイチ自然に振舞えない。
「そうだ。設定をつけまショウ。エーット、2人は恋人という設定でドウデショウ?」
(はぁ―――!?)
学園長は設定を与えて、白銀と藤原に自然体に居させようとした。だがその設定がまさかの恋人。当然だが、それを聞いたかぐやは絶叫。勿論、声には出していないが。
「いや、それはちょっと…」
「アクマで設定!ソウ思ってポーズを取るだけデスカラ!」
「はぁ…わかりましたよ…」
白銀は抵抗を感じたが、学園長の勢いに押されてしまい渋々承諾した。
「……」
尚その際、かぐやと京佳を少しだけチラ見した。
「廊下で並ンデ語らう2人!そしてふとシタ瞬間触れ合う手!その瞬間少しダケ恥ずかしがる!」
どんどん撮影に注文を付ける学園長。白銀と藤原は恥ずかしがりながらもそれに応えた。結果、中々に良い写真が撮れていった。
だが、それを面白くないと思う人物が1人。
(この男。前々からふざけた男だとは思っていたけど、これほど愚弄とは思いませんでした…。来年もこの学校に居られるとは思わない事ね)
勿論かぐやだ。いくら演技とはいえ、白銀が他の女と恋人という事になっているのに我慢が出来ないのだ。そして来年、学園長を絶対にその地位から落とす事を決めた。
(落ち着け私。あれはあくまで演技、演技だ。それに白銀との写真だったらこの前の水族館で撮ったじゃないか。ここは落ち着くんだ)
一方京佳は、かぐやほど荒れてはいなかった。それもこれも、少し前に白銀と2人きりでデートをしたおかげだろう。もしそのデートが無ければ、かぐやと同じように荒れていたかもしれない。
しかしそんな京佳も、学園長の発言で心が荒れだす。
「デスガ、残念でシタ。本当は四宮サンが白銀クンの恋人役に相応しいと思ってたノデスガ」
「「え?」」
「お2人のツーショットが撮りたくて依頼をしたのデスヨ。2人は常にお互いを高め合ってイル理想の関係。私はソレガ撮りたかっタ。コノ悔しサガワカリマスか!?」
「!?」
(うんうん!わかる!わかるわ!!でも流石ね!私よりずっと長く生きているだけはあってとっても慧眼だわ!)
かぐやは学園長に同意。そしてそも慧眼さに感服した。相変わらず掌がドリルのようである。
(お似合い…白銀と四宮がお似合い…やっぱりそうなのだろうか?確かに2人はいつも成績が並んでいるし、藤原が偶に行うゲームでも良い勝負をしている。つまり、2人は私なんかと違って相性が良い…)
学園長の台詞を聞いた京佳は落ち込んでいた。実際、白銀とかぐやはお互いを高め合っている様に見える事が沢山ある。その結果なのか、学園内では『2人は付き合っているのでは?』といった噂が流れた事もある。というか現在進行形で流れている。
(いや!だからといって諦められるか!他人の意見に流されるな私!最後の最後まで足掻いて足掻いて足掻きまくってやる!)
だが、こんな事で京佳は折れない。他人の意見が重要なのは確かだが、それはそれ。所詮は他人の意見だ。他人の意見ばかりを聞いて、自分の恋を諦める事など出来ない。結果、京佳は静かに闘志を燃やす。
「それデハ、最後は屋上に行きまショウカ」
「屋上ですか?」
「ハイ。そこデ集合写真を撮ってこの撮影を終わりにシマス」
学園長に言われ、6人は屋上へと移動するのだった。
屋上
(集合写真ですか。そういえば私、そういった写真を撮った事1度もありませんね。羨ましいなぁ…)
かぐやと京佳以外のメンバーが集合写真を撮っている間、かぐやはそれを羨ましがる。四宮家の方針とは言え、同級生と1度も集合写真を撮った事が無いかぐや。
いくら名家の令嬢の彼女とて、年相応の女の子。友達との集合写真くらい欲しがるものだ。
「四宮サン。立花サン。こっちヘ」
「「え?」」
「最後ハ皆で記念撮影をシマショウ」
「え。ですが」
「これは、貴方達の仲間が望んでいる事デスヨ」
かぐやと京佳が同じ方向に視線を動かすと、白銀達が見ていた。2人はその顔だけで、どういう意味なのかを理解した。
「そ、そういう事なら」
「わかりました」
「デハ、携帯を貸しクダサイ」
「四宮からでいいよ」
「ありがとうございます。立花さん」
学園長に自分の携帯を渡そうとしたその時だった。
突然大きな風が吹いて、かぐやの携帯が飛ばされてしまった。
「あ…」
携帯はそのまま地面に自由落下。そして何かが壊れる音がする。
「すみません。ちょっと携帯を拾ってきますね」
そう言うとかぐやは、下へと降りて行った。
翌日
「皆さん!コーヒー淹れましたよ!」
「今日のはクアテマラだ。良い香りだぞ」
「おう。さんきゅ。よし皆、少し休憩するか」
生徒会では何時ものメンバーが仕事に勤しんでいた。だが何事も休憩は必要。藤原と京佳が淹れたコーヒーを見て、白銀は皆に休憩を促す。
「はい、これはかぐやさんの分…あーーー!!」
「うわ!ビックリした!どうしたんですか藤原先輩!?」
「かぐやさんが、スマホ持ってますーーー!?」
「ええ!?」
藤原の言葉に驚く石上。視線をかぐやに向けると、確かにかぐやの手にはスマホがあった。
「まぁ、前の携帯は、昨日壊れてしまったので…」
やはりと言うべきか、かぐやの携帯は昨日壊れていたようだ。
「かぐやさん!連絡先交換しましょう!」
「いいですよ。あ、それとらいん?とかいうのをインストールしたんですけど…」
「おお!じゃあそっちのIDも交換しましょう!」
藤原はテンションを上げながら、かぐやとらいんIDを交換する。
「四宮先輩。僕もいいですか?」
「あ、あの!私も!」
「四宮、私もいいかな?」
「勿論です」
それに続いて石上と伊井野もIDを交換した。
(さて。どうやって四宮とらいんIDを交換するべきか…)
一方白銀は1人、かぐやとどうやってIDを交換するか悩んでいた。しかし、それは直ぐに解決する。
「会長。ID交換してもいいですか?」
「あ…IDな。勿論交換して…え?」
かぐやが流れるようにID交換をしてきたからだ。
(ええええ!?何で!?まさかこれも何かの策…か?)
それを見た白銀は驚愕。いつものかぐやなら絶対にこんな事しないからだ。故に、白銀はかぐやに違和感を感じた。
「なぁ皆。なんか今日の四宮おかしくないか?」
「え?今更ですか?」
「え?」
「白銀。私達全員、四宮が生徒会室に来た時から気づいていたぞ」
「ええ、嘘ぉ…」
だが、かぐやに違和感に気が付いていなかったのは白銀だけだった。他のメンバーは全員、既に気が付いていた。
「四宮先輩、落ち込んでいますよね?」
「だよな…身内の不幸とか?」
「お腹が痛いとかですかね?」
「ゲームでやっとボス倒したのにセーブ忘れていたとか?」
「それはあんただけでしょ」
皆が口々にかぐやが落ち込んでいる原因を思う浮かべる。だがどれもしっくりこない。
「もしかして、昨日携帯を壊したからじゃないか?」
「昨日の?」
「あの携帯は四宮が小さい頃から使っていたんだろう?つまり思い出の品の筈だ。それだけ長い間使っていたら愛着だっけ沸くと思う。それが壊れたんだから、ああやって落ち込んでいるんじゃないのか?」
「ああ、私それわかります。私も小さい頃から使っているタオルケットがあるんですけど、もしそれが無くなったら絶対に落ち込みますし」
そんな中、京佳だけが確信に最も近い事を言った。どうやら伊井野は思い当たる節があるようだ。だがこれもあくまで推測。
「かぐやさんって家の都合上、あんまり人に話せない苦労もあると思うんですよ。なので邪推するのはあんまりよくないかと…」
「確かにな。もし本当に困っていたら、自分から話し出すだろうし、ここはいつも通りに接してみるか」
「そうだな。その時は皆で悩みを解決してやろう」
「ですね」
「わかりました」
しかし無理にかぐやから聞き出すのはよくないという結論に至り、生徒会メンバーはいつも通りにすることにした。人によっては『冷たい』と思われるこの対応だが、それでいいのだ。
「そうだ。生徒会のグループを作ったから入っててくれ」
「はーい」
「了解です」
「わかった」
「あ。今まで無かっただけなんですね。てっきり私だけハブられていたのかと…」
「んなことしねぇよ…」
白銀がらいんで生徒会専用のグループを作り、皆を招待する。それに合わせて、全員そのグループに参加。
「そうだ!ついでに共有アルバム作りましょう!皆自由に写真をアップしてくださいね~」
そして同時に、共有の写真アルバムも作る。
「会長ってグループ作るのはかぐやさんがスマホを持ってからって決めてたんですよ?仲間外れは良くないって思ってて」
「でも良い機会ですよね。四宮先輩の携帯ってデータ移行できなかったでしょうし。空っぽの携帯って寂しいですもんね」
その瞬間、共有アルバムに大量の写真が送られる。体育祭の時の写真。フランスの姉妹校との交流会との写真。旅行に行っていた時の写真。
それを見たかぐやは、胸が暖かくなるのを感じた。
かぐやが大事にしたかったのは、誰かと分かち合った『いつも通り』。その証明として写真。かぐやが落ち込んでいたのは、それを失ったからである。
しかしそれが誰かと分かち合いたい思い出ならば、相手も大切にしているものなのだ。
「前の携帯が壊れた時、全部無くなってしまったと思ってましたが、かえって前より一杯になってしまいました」
かぐやはスマホを持ちながら、笑った。それは本当に嬉しそうに、笑った。
「そういえば、昨日は結局四宮先輩と立花先輩だけ写真撮ってませんでしたね」
「あ!なら今撮りましょう!」
「そうだな。先ずは四宮からだ」
「ええ!?私からですか!?」
「ちょっと貸して下さい。僕がカメラセットしますよ。あ、これ最新のやつですね。笑顔検出機能付きの」
「何ですかそれ?」
「簡単に言うと笑顔になった瞬間撮影されるんですよ」
「ほう、凄いな。だけどちょうどいい。是非試そう」
「はいはい!会長もミコちゃんも集まって!」
「わかった」
「はい!」
藤原に言われ、かぐやの方へ集まる白銀と伊井野。
「はい、これでOKっすよ」
「じゃあ皆笑顔笑顔~!」
「ふふ、あーもー!しょうがないですねー!」
少しだけ大きな声を出したかぐやだが、その声色は嬉しそうだ。
そしてシャッター音がなり、生徒会メンバー6人の集合写真が撮られた。
勿論、かぐやは最高の笑顔でだ。
その日の夜にその写真を見た早坂は『白銀会長の隣立花さんだけどいいのかな?』と思ったが、かぐやが本当に嬉しそうな笑顔なのと、機嫌がすこぶる良さそうだったので何も言わない事にした。
そしてその後、かぐやに言われ写真をカラープリントして写真たてに入れてあげた。
それから暫くの間、かぐやは寝る前に必ずその写真を見て寝るのだった。
原作においてトップクラスに好きなお話。最後の集合写真とかもう最高だよね。
因みに本作では、集合写真の右上、藤原の後ろ、白銀の右隣に京佳さんがいる事になっています。
次回も頑張りたい。
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