もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
もっと文才が欲しい。あとできればお金も。
四宮家別邸 かぐやの部屋
「……」
部屋ではかぐやが机に向かい、1人で勉強をしていた。秀知院ではもうすぐ、2学期の期末テストがある。いくら天才のかぐやでも、全く勉強せずに高順位を取れる訳じゃない。こうしてテスト前はしっかりと勉強をする。
「……」
しかし今勉強中のかぐやは、あまり勉強に集中できていなかった。理由は、最近買ったスマホである。
遂にスマホを買い、生徒会の皆と気軽に連絡がとりあえず様になったかぐや。勉強する時も何時連絡が来ても良いように、机の上にスマホ置いている。すると当然、気になるのだ。
「……」
いつメッセージが来るかもと思うと気になり、勉強に集中できない。そして来たら来たらで、頭の中が勉強モードから返信モードへと切り替わる。結果として、かぐやは勉強に集中が出来ずにいた。
(石上くんは大丈夫かしら…?)
しかし、今のかぐやが集中できていない理由はそれだけでは無い。実は今、かぐやは石上に勉強を教えている。
事の発端は数日前の出来事だ。
数日前
「死ね死ねビーーーム!!!」
「突然何!?」
「どうした石上!?」
生徒会室では、突然石上が訳の変わらない事を言い出していた。そんな石上にビックリしたかぐやと京佳は、手にしていた資料を思わず床に落とす。
「何ですかそれ…?」
「カップルが別れる呪いの言葉です」
「あ、死ぬ要素は無いんだな。少し安心した」
石上が言い出した『死ね死ねビーム』。本人曰く、カップルが別れる言葉らしいが、要は妬みだ。そんな言葉を、先ほどまで生徒会室にやってきていた柏木、田沼ペアの2人に食らわせていたのである。
「そもそもです!学生は勉強するべきでしょう!なのにあんなにイチャイチャして!不健全ですよ不健全!!」
「石上。ゲームやりながら言っても説得力が無いぞ」
ゲーム機片手に言っても説得力皆無である。
「石上くんは恋人とか作る気は無いのかしら?」
「そうですね。僕は所謂絶食系男子なんで」
「え?何それ?」
「簡単に言うと、恋愛に全く興味を示さない男子の事です。最初から恋人を作る気が無いとか、趣味にしか興味が無いとか、周りに『恋人とか作れば?』と言われてもあっさり流すとか。そんな男子の事をそう言うんですよ」
絶食系男子。
それは恋愛に全くと言っていい程、興味を示さない男子の総称だ。ここ数年で、その数をかなり増やしているという。また、絶食系男子になるきっかけとして、過去に酷いフラれ方をしたというのがある。そのせいで恋愛にトラウマを持ち、次第に興味を失っていく。他にも様々な理由はあるが、ここでは省略しよう。
「へぇ。そんな人達がいるのね。それで、石上くんはその絶食系だと」
「はい。僕はこうしてゲームで遊んだり、生徒会で仕事したりで満足ですよ。恋愛なんてする必要がありません。というか興味がありませんし」
「それにしては、さっき柏木さん達に死ね死ねビームとか言っていたじゃない」
「それはそれです。興味は無くても、目の前でイチャイチャしてたらムカつきますもん」
(わかるわ。それは本当にわかるわ)
かぐやは石上に同意した。もしも、目の前で白銀と京佳がイチャイチャしていたら絶対にムカツクし。2人がそんな会話をしていた時、
「失礼しますーす!文化祭の出店資料を持ってきましたー!」
元気な声で生徒会室の扉を開ける人がやってきた。彼女の名前は子安つばめ。秀知院の3年生で新体操部に所属しており、非常に恵まれた容姿をしている。京佳程の身長こそ無いものの、出ているところは出ていてひっこむべきところは引っ込んでいる。そんな女生徒。その容姿や明るい性格のおかげで、男子からはかなり人気が高い。
そんな彼女を見た石上は、
「つ、つ、つ、つばめ先輩!?」
顔を赤くし、言葉がどもっていた。そんな石上を見たかぐやと京佳は、瞬時に察した。
「どどどどど、どうしてこここに!?」
「だから資料を持ってきたんだってー。はい、かぐやちゃんに京佳ちゃん!」
そう言いながら、かぐやと京佳に資料を渡すつばめ。
「うちらね、新体操と演劇を混ぜた舞台をやりたいんだ。できれば時間を良い時間帯にしてもらいたくて」
「成程。検討はしておきます」
「あ、そうだ。優くんも生徒会だったよね。媚うっとこ!」
そしていきなり石上に後ろから抱き着いて、頭を撫で始める。
「~~~!?」
石上は声にならない声を出して更に顔を赤くした。
「じゃあね3人共!」
資料を渡し、石上に媚を売ったつばめはそそくさと生徒会室を後にする。残ったのは、つばめからの資料を手にしているかぐやと京佳。未だに顔を赤くしている石上の3人。
「へぇ…そういう事ですか」
「ふふふ、成程な」
「何がですか先輩方。何か変な勘違いしてませんか?」
ニヤニヤとした顔で石上を見るかぐや。石上は顔をゲーム機に向けたままゲームを再開する。
「さっきは絶食系男子とか言ってたけど、石上くんは彼女が好きなんでしょう?」
「違いますって。急に来たからびっくりしただけです」
「びっくりしただけならあんな反応しないぞ」
石上は否定するが、そんな嘘なぞ2人にはお見通しだ。というか、直前にあんな反応しておいてこの嘘が通る訳がない。
「そうですか。変な事言ってごめんなさい。なんせ彼女に熱を上げる男子はかなりいると聞いていたので」
「そうなのか?というか先ほどの先輩は誰だ?」
「あら。立花さんは知りませんでしたか。子安つばめ。3年生で新体操部所属。誰にでも分け隔てなく接するので男女共に人気がとても高いんですよ」
因みに京佳は、女子からの人気ががくやの次に高かったりする。
「まぁあれだけ人気がある人ですから、ほぼ確実に恋人くらいいるでしょう。よかったわね石上くん。下手に好きになって告白してフラれなくて」
煽る様に石上に喋る続けるかぐや。そして石上は、
「死ね死ねビーム…死ね死ねビーム…」
自分の右手で銃の形を作ってこめかみに当てながら呪いの言葉を吐き出した。
「何してるのやめなさい石上くん!」
「落ち着け石上!あと普通に怖いからそれ!」
「離してください!死なせて下さい!」
「さっきカップルが別れる呪い言葉って言ってたでしょ!それじゃ死にませんから!」
暴れる石上を必死で抑えるかぐやと京佳。
「全く。好きでもなければそんな反応しないでしょう」
「……」
何とか落ち着いた石上にかぐやはそう言い放つ。流石の石上も認めたのか、口をつむぐ。
「なぁ石上。よければ聞かせてくれないか?話せば少しは楽になるだろうし」
「そうですね。ため込むのはよくないわよ?」
純粋に後輩を心配しているというのもあるが、後輩の恋愛事情を聞いてみたいというのが2人の本音だ。藤原程では無いが、2人もそういった話が好きなのだ。実際、目が少しニヤついているし。
「きっかけは、応援団の時です。最初は、応援団の空気をよくするために僕に話しかけているって思ってたんですけど、つばめ先輩はそんなんじゃないって気が付いたんです。素でそうだっていうか、しっかりと優しい人だったんです。それに気が付いたら、なんかこう…」
「あらあら。可愛いわね」
「いいじゃないか」
石上の話に興味津々な2人。なんともほほえましい話だ。
「でもわかってます。これが無謀な恋って事くらい。なんせ相手は高根の花どころか雲の上の存在。僕みたいな底辺のなんにも取り柄の無い人には手が届かないどころか、話しかける権利すらありません。せいぜい、相手が話しかけてきたらそれだけで嬉しいって思えるくらいです。いいんですよ。最初から諦めていますし」
だが石上は、この恋心を成就させる気が無いらしい。確かに、今の石上とつばめが恋仲になる事などありえない。石上の言う通り、あまりに釣り合わない。
それだけではない。石上はこれまでに人生で、あまり成功してきた事がないのだ。彼の人生は失敗の連続。何かをしてもどうせまた失敗すると思いこんでいる。
そんな石上を見たかぐやと京佳は、
「石上くん。どんな手を使ってでも子安つばめを落としなさい」
「そうだ石上。最初から諦めるな。あらゆる手段を使ってその恋を成就させろ」
石上を奮い立たせるのだった。
「は!?いやいや無理ですって!ペンギンが空を飛ぶくらい無理難題ですって!」
「どんな事にも絶対無理なんてないわ」
「全くだ。可能性は0に近いだけで0じゃない。それにペンギンは大昔は空を飛んでいたらしいぞ」
「そうなんですか!?」
京佳の突然のトリビアにびっくりする石上。
「いいこと石上くん。私からみたら、今の貴方は傷つく事恐れている臆病者よ。今の関係が壊れたらどうしよう。告白して降られたらどうしよう。そういった気持ちはわかるわ。でもね、告白しなきゃどこまでもズルズルいくだけよ?」
「四宮の言う通りだ。告白するのが怖いのはわかる。でもな、好きになった相手が別の誰かと恋仲になったりしたら、あの時行動しておけばよかったって絶対に後悔するぞ。もっと早く行動を起こしておけばよかったとも。少なくとも私はそんなのごめんだな」
かぐやと京佳は心の籠った台詞を口にした。特にかぐやは今年1番心が籠っていた。
「勇気を出しなさい」
「勇気ですか…」
2人に言われ、石上は少しだけ前に進む事にした。
「一応、もし自分が告白したらってどうすればいいかってのは考えています。その中で1番成功率が高いのも」
「成功率が高い告白!?」
「そんなのあるのか!?」
石上の発言興味を惹かれる2人。
「えっと、一応どんなのか聞いておこうかしら。ねぇ立花さん?」
「そ、そうだな。念のため聞いておいた方がいいだろうな」
そしてその成功率が高い告白とやらを聞く事にした。
「えっとですね、ウルトラロマンティック作戦って奴なんですど…」
石上の言うウルトラロマンティック作戦。その内容は、つばめの机の上に毎日花を添える。月曜日はアガパンサス。火曜日に苺。水曜日に芍薬。木曜日はテッポウウリ。そして金曜日にルピナス。
そららを花の頭文字を揃えると『ア・イ・シ・テ・ル』となるというもの。それを聞いたかぐやと京佳は、
「「気色悪い…」」
ドン引きしていた。恐らくこれで嬉しがったりするのは伊井野だけだろう。
「えっと、そんなに?」
「普通に嫌よそんなの。私今鳥肌凄いもの…」
「もし私がそんな事されたら絶対に怖がるぞ…」
「えっと、アウトギリギリセーフを狙ったんですけど…」
「アウトよ」
「アウトだよ」
石上的にはギリギリセーフでも、女子2人からしたら完全にアウトだった。だって普通に気色悪い。思考がストーカーのそれである。
「じゃ、じゃあ!こういうのは!?」
次に石上が提案したのはアルバム作戦。自分のアルバムをつばめにプレゼントし、その中に『これからは一緒にアルバムを作っていこう』というメッセージカードを挟んでおくというもの。
「これなら大丈夫でしょう!?」
「気色が悪いって言っているでしょう!!」
「野球でいうなら頭直撃のデットボールだよ!!」
思わず声を荒げる2人。さっきより気色悪さが増している。というか最早ホラーである。
「まぁわかったわ。石上くんの欠点は持ち前の気持ち悪さね。そもそも、風変りの人が風変りな事をしたら常軌を逸してしまうのよ?」
「落ち着け四宮。気持ちはわかるが少し抑えるんだ」
「気持ちはわかるんですね…」
これでも結構頑張って考えた作戦なのに全否定である。2人の反応に石上は泣きそうになった。
「石上くん。貴方は先ず誰もが振り向く良い男を目指しなさい」
「そうだな。奇抜な事をせず、素直に告白をする方がいい。なら先ずは子安先輩に相応しい男になれ」
とりあえず、変な事をせずに正面から行かせようとする2人。その為にも、先ずは男を磨かせようと思うのだった。
「良い男。相応しい男ですか。まずその定義を教えてください」
「とりあえずそう言う事は言わない人ね」
「じゃあ四宮先輩の言う良い男ってどんな人ですか?」
ひねくれている石上はかぐやにそう質問をする。
「そうね。色々あるでしょうけど、先ずは勉強が出来る人かしら。あとはそう、優しい人ね」
「会長みたいな?」
「ん゛ーーー!!まぁそうねーーー!?別に私は会長の事を指してそう言った訳じゃありませんけどね!?一般論としてそうでしょって話なだけですし!?」
「わかってますって」
(あれで誤魔化せているもりだろうか?)
かぐやは顔を赤くしながら誤魔化す。石上は誤魔化せてたが、京佳にはバレバレだった。
「女性は力に惹かれるものです。財力、腕力、コミュ力。その中には同然知力も入っています。この人なら、自分とその子供を守ってくれる。そう感じた時に、この人と一緒になりたいって思え……別に私がそう思ってる訳じゃありませんけどね!?あくまで一般論ですからね!!」
「わかってますって」
かぐやは理想の男の事を話す。全部白銀の事であるが。この場にそれに気が付いているのは京佳だけだ。
「立花先輩はどうですか?」
次に石上は京佳にかぐやと同じ質問をする。
「私は偏見を持たない人だな。あとは好き嫌いが無い人とか」
「何か条件低くないですか?」
「そうでもないぞ。私はこんな見た目だし。今でも初対面の人には怖がられる。それに身長も高いだろう?殆どの男子は自分より身長の高い女子を嫌がるぞ」
「あー。それはまぁ…」
流石の石上の京佳のその辺の事情は突っ込めなかった。
「あとはそうだな。良い男の条件じゃないが、一緒にいて楽しい人じゃなくて、離れると寂しい人とかがいいな」
「え?一緒にいると楽しい人じゃなくて?」
「ああ。だって好きな人と一緒にいると楽しいのは当たり前だろう?だから離れると寂しいと思える人の方が、よりその人の事が好きだと感じられると思うんだ。まぁ祖母の受け売りだけどね」
「あー、成程。確かに言われてみれば」
(へぇ。そういう考え方もあるのね)
石上とかぐやは、京佳の持論になんか納得した。
「まぁ兎にも角にも、先ずは学力です。そうね、次の期末テスト、順位が張り出される50位圏内を目指しなさい。そうすれば皆があなたを見る目を変えるわ。勿論、子安つばめもね」
「そうだな。それがいいだろう。現状だとそれくらいしかできないし」
「でも僕、勉強があんまりできません。何かコツとかってありますか?」
「なら私が勉強を教えます」
「え?マジですか?」
「ええ。大マジです。不満ですか?」
「い、いえ!そんな訳ありません!」
少し恐怖を感じたが、石上にとってこれはまさに渡りに船。かぐやには前にも勉強を教えて貰っている。これならば、石上も教わりやすいだろう。
「それじゃあ私も「お待ちください立花さん」ん?」
そんなかぐやの行動を見て、京佳も教えようとしたのだが、かぐやから待ったがかかる。
「お気持ちは嬉しいですが、石上くんの勉強は私だけで大丈夫ですよ。そもそも同時に2人から勉強を教わるのは非効率ですし」
「ふむ、確かに。それじゃあ他の事を「いえ、それも私がします」え?」
「実は石上くんには少し借りがありまして。それを個人的にどうしても返したいんですよ。なので、石上くんの事は私に任せて下さい」
他の事で何か協力しようとした京佳だったが、それもかぐやに阻まれる。
「そうか。そういう事なら私は控えておくよ。石上、応援している。頑張ってくれ」
「は、はい!」
ここまでかぐやが言うのだ。それならば自分が踏み込むのも悪いと思った京佳は石上の恋は応援するけど、全て何かしらの手助けはしない事となった。
(借りってなんだっけ?)
一方、石上はかぐやの言う借りが何なのか気になって思い出そうとしたが、結局何も思い出せなかった。
(危ない危ない…)
石上に勉強を教える事となったかぐやは、少し安堵していた。先程、京佳も石上の恋の手助けをしようとしたのを拒んだのは、理由がある。
もしも、このまま自分と京佳の2人で石上の恋を応援し、色々と手助けしたとしよう。そうすれば少なくとも、現段階よりは石上の告白の可能性は上がるのは間違いない。何なら、本当につばめと恋仲になる事さえ可能だろう。
だが、その応援し手助けする中で、京佳が新たなアプローチ方法を覚えてしまうのではないかという不安があるのだ。もし本当にそうなったら、間違いなく京佳はそれを白銀相手に実戦するだろう。
(そうよ。そもそも勉強だって、相手に教えながら勉強するのが1番勉強になるじゃない。だったら、この機会に私も石上くんに教えながら色々学びましょう。何か掴めるかもしれませんし)
京佳に少しだけ悪いと思いつつも、これ以上京佳に先を越されたくないかぐやは、京佳の協力を拒んだのだ。
(さて、とりあえず、先ずは基礎から教えますか)
そしてかぐやは、その日の夜から石上に勉強を教えるのだった。
そんな事があったのが数日前。あれ以来、石上に勉強を教えたたり、石上のゲーム機を没収したり、寝ている時にスピーカーから英語を流させたりと色々した。そういった事もあり、今のかぐやは勉強に集中できないのだ。
無論、集中できない原因の殆どはスマホだが。
(これはいけませんね。少し休憩しますか…)
流石にこのままではいけないと思ったかぐやは、少し休憩を取る事にした。そして早坂にスマホで連絡をし、飲み物を持ってこさせた。
なおこの時、風呂に入っていた早坂は少しキレた。
「ふぅ。やっぱり紅茶が1番ね」
早坂に淹れて貰った紅茶を飲みながら一息つくかぐや。
「ところでかぐや様。白銀会長からメッセージとかきましたか?」
「……別に来てないわ。まぁ会長も勉強で忙しいのでしょう。別に気にしてないわ」
「手震えてますけど?」
早坂からの指摘に少し震えるかぐやだったが、紅茶のおかげでなんとかなった。
「1回くらい自分からメッセージしてみればいいじゃないですか」
「それはそうなんだけど、ほら。間違いなく会長は今勉強中よ?そんな会長にメッセージを送るなんて、空気が読めない女とか思われそうじゃない。あと普通に邪魔したくないし」
「まぁ、それは」
先日、白銀は特に勉強をしていないとか言っていたのが、そんな嘘はとっくにバレてる。白銀は努力の塊だ。そんな白銀であれば、間違いなくテスト勉強をしているだろう。
「ま、テストが終わったら1回くらい自分から何かメッセージは送ってみるわ。
多分」
「そこは多分って言わないでくださいよ」
覚悟を決めているはずのかぐやだが、未だにあとほんの少しができない。だが今まで全く前に進もうとしなかったかぐやからすれば随分成長しているだろう。前までなら『自分から連絡するなんてそれはもう告白じゃない!』とか言っていただろうし。
「さて、休憩も終わり。もう少しやるわ」
「わかりました。それでは」
紅茶を飲み終えたかぐやは再び問題集に向かって、問題を解く。それを見た早坂は、速足で部屋から出ていき、再び風呂に入るのだった。
同時刻 白銀家
ピコン
「ん?」
問題集を解いていた白銀。そんな彼のスマホから通知音が鳴る。白銀がスマホを取り画面を見ると、
『白銀へ。体調に気を付けて勉強頑張ってくれ』
というメッセージが表示されていた。相手は京佳である。それを見た白銀は、
『ありがとう。そっちも頑張れよ』
と返信した。
「よし。もうひと踏ん張り」
そして再び勉強をするのだった。
なお結局、白銀が寝たのは夜中の3時半である。
期末テスト当日
「生徒会の一員なんだから、決して赤点なんて取らないでよ」
「今回は大丈夫だって。ちゃんと勉強しているし」
「嘘ばっかり」
伊井野はどうせ何時もの嘘だと思い、その言葉を無視した。だが、今回の石上はマジである。本気の本気で上位を狙っている。あれほどかぐやに勉強を教えてもらったからではない。愛しの先輩に振りむいて貰いたいからではない。
『石上くんなら出来るわ』
その視線が、逃げようとする彼の心にのしかかったからだ。
(こんな僕なんかに期待してくれている人がいるんだ。だったら、その期待に応えたい!!)
こうして石上は、本気で上位50位以内を目指してテストを受けるのだった。
そして―――
「わかってましたけどね。自己採点した時点で、平均点より低いって事くらい」
「そう…悔しい?」
「いえ別に。こんなもんかなって…」
結果は惨敗。平均点にすらまるで届いていない。前回より20位くらいは順位が上がっているが、目標としていた上位50位以内には全く届いていない。
「あ、すみません。僕ちょっとトイレ行ってきます」
石上はかぐやにそう言うと、男子トイレへと向かった。
そして鏡の前で、悔しそうに拳を握った。
(本気でやった!本気でテストに挑んだ!でもこの結果!四宮先輩があそこまでしてくれて、立花先輩にも応援されたのに…!!)
目から血の涙が出そうなくらい悔しがる石上。
(立花先輩が言ってた通りだ!もっと前からしっかり行動しておけば、少なくとも平均点くらいは取れる基礎くらいはできていた筈!なのに!なのに!!)
「やっぱり悔しんじゃない」
「え?」
そんな石上に話しかける人物がいる。かぐやだ。
「いや四宮先輩!?ここ男子トイレ!!」
「関係ないわ。そんな事より聞きたい事がありますし」
男子トイレに普通に入ってくるかぐやに驚く石上だったが、かぐやの目は真剣だった。そして石上に説いた。
「石上くん。悔しい?」
「……」
「こんな結果で、悔しくないの?」
その問いに石上は、
「悔しいに決まってます!!」
大声でそう答えた。
「わざわざ言わなくてもわかるでしょう!?僕みたいな落ちこぼれでも、ちょっと良い点とれるって期待しましたよ!?でも僕はそういう人間じゃなかった!課題は見えました。なので…次こそは50位以内を目指します…」
後半はもう涙声だ。だがかぐやはその石上の覚悟をしっかりと受け止めた。
「言ったわね。なら次からは一切の手加減をしませんから」
「え?ちょっと待って下さい。あれで手加減していない?」
今までも半ば拷問の様な勉強だったが、かぐや的にはあれでも手加減しているらしい。石上は次のテスト勉強がとたんに怖くなった。
「でも、いいんですか?僕にばっかり勉強を教えていても。四宮先輩だって勉強しないといけないんじゃ」
「この程度で順位が落ちるなんてありませんから。あまり私をバカにしないで」
「マジっすか…凄いなぁ…」
かぐやは天才である。石上にテスト勉強を教えながら、自分の勉強もできるくらいには。そんなかぐやの発言に石上は普通に感心した。
「流石四宮先輩ですね。会長に次いで2位なだけはありますよ」
そして最後の最後でかぐやに言ってはいけない事を言ってしまった。
「あなたの勉強に付き合っていたせいよ!!」
「ええ!?」
「今回はもう少しだったのに!!あなたに使っていた時間を自分の勉強に使えていれば会長に勝てていたのに!!」
「あの、さっきと言っている事が…」
「嘘に決まっているでしょ!!それくらい気が付きなさいよ!!」
「はい!本当ごめんなさい!!本当にごめんなさい!!」
石上の前で地団駄を踏むかぐや。そんなかぐやに石上は必死で頭を下げた。
(一体どうしたんだ四宮は?)
そんな2人を、少し離れたところから京佳が見ているのだった。
そして同時刻、白銀と伊井野の2人は隠れて滅茶苦茶喜んでいた。
テスト結果
白銀 1位→1位
かぐや 2位→2位
藤原 57位→55位
京佳 8位→8位
伊井野 1位→1位
石上 177位→152位
早坂 60位→50位
眞妃 3位→3位
渚 7位→27位
翼 84位→34位
大仏 160位→151位
書いていませんが、早坂と藤原は相変わらず京佳さんに勉強を教わっています。
それにしても、やっぱりちょっと無理矢理京佳さん絡ませすぎたかな? 次回はもう少し自然に物語に絡ませた所存。
あと活動報告にもアンケートやってますので、よろしければそちらにもご意見お願いします。
次回も頑張るゾイ。
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