新時代の全てを照らせウルトラマン   作:ローグ5

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ウルトラマンオーブ菫色のメモリア 後篇

 穏やかな春の日差しの中、スミレは自室の椅子に座って、写真を見ていた。

 十数年前に撮られたその写真は園崎家の全員が写った写真。今頃は園崎家の全員がこの館にそろっていた。

 まだスミレが幸せであった時代の頃の話だ。

 

「私はどうすればよいのでしょう……」

 

 スミレは思い出す、園崎家の最後の一人がいなくなった時の事を。

 

 

 ────ありがとうねスミレ。あなたが私を見守っててくれたおかげでこれまで幸せだったわ。

 

 ────そんな! 幸せにしていただいたのは私の方です! 園崎家の皆様がいてくれたから私は! 私は! 

 

 ────ふふ、それはお互い様かもしれないわね。……最後だからよく聞いてスミレ。園崎の人間はあなたを愛し、あなたは園崎の人間を愛してきた。

 その絆は見えないけど確かにあるわ。だから私が死んでも……決して絆が失われてしまったわけじゃない。

 だから、諦めないでね。

 

 ────おくさま……

 

 

 それが彼女の、スミレが生まれたときから見守ってきた園崎家の一人の遺言だった。

 恩人の遺言の内容は確かにスミレの支えとなっている。

 だがしかし。スミレはもう一人だけであり、そしてその寿命は地球人のそれと比して長大に過ぎた。

 

「ひっ……」

 

 スミレは想像する。この屋敷の中自分が長い時間を一人で過ごす事を。自分を愛する人のいない無意味な生を。

 それは絶望的な想像であった。空虚な生。

 未来のない灰色だったスミレの人生は園崎家の人々と出会う事によってようやく彩を得た。

 だがその彩が今はもう失われてしまった。

 一度生える事が出来た、かけがえのない大切な物を奪われる残酷な仕打ちにスミレは耐えられない。

 

「うっううう……一人は……一人は嫌……」

 

 静かな自室で一人スミレは嗚咽する。孤独が猛毒のようにスミレの心を蝕む。もはやスミレには立ち直る気力がなかった。静かな館をすすり泣きが満たす。

 

 しばらく泣いていたスミレはガイが来る時間になっていることに気づき、居住まいをただす。

 恩人であるガイに自身のみじめな姿を見せるわけにはいかなかった。

 そうして自身の身支度と屋敷の調度を整えたスミレはガイを出迎える。

 

「こんにちはガイさん」

「ああ。こんにちは」

 

 呼び鈴が鳴りスミレはドアを開ける。そこにいたのはガイと、そして大人びているがまだ小学生ぐらいの少女がいた。

 

「あ、あの初めまして! 私は大石朝日と言います!」

「ええ、はじめまし……て?」

 

 朝日と名乗ったその少女の顔を見てスミレは硬直する。

 その少女の顔立ちはスミレの良く知る人物、十数年前に園崎家を出ていった菊乃の幼少期に似ており────

 

「あなたは、菊乃……様に、似て?」

「やっぱり! お母さんを知っているんですね!」

 

 スミレはその反応を受け目を見開く。朝日の言葉が差す意味はつまり────

 

「どうやら間違いないらしいな。スミレさんこれを見てくれ」

 

 朝日の物らしい荷物を抱えていたガイは書類を差し出す。

 スミレが急いで読んだその書類の内容を要約するなら、十数年前に園崎家を出奔した菊乃は数年前に夫と共に交通事故で死亡している。

 しかしその一人娘がいた事が園崎家の顧問弁護士の調査で明らかになったという物だった。

 

「ならあなたは園崎家の、私の……私の家族のっ」

 

 朝日が誰であるかという結論にたどり着いたスミレは感極まったように声を詰まらせる。

 その言葉を聞いた朝日もまた同様の反応を示した。

 

「お母さんやお父さんが死んで私はもう、もう一人ぼっちだと思っていました……。でも、でも私にはまだ家族がいたんだぁ……!」

 

 朝日は泣きながらスミレに抱き着き、泣きじゃくる。スミレもまた朝日を抱きしめすすり泣く。

 その涙は先程の絶望の涙とは全く異なっている。

 もういないと思っていた家族に会えた安堵と喜びの涙だった。二人は失った後に家族を、愛を得た。

 

 二人を邪魔しないように少し離れたガイはその光景を見て穏やかに笑う。

 この世界を回すのが愛ならばこの奇跡は必然的な事だったのだろう。

 いつだって誰もが誰かに愛されているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜に吹いた気まぐれな風が花びらをふわりと運び、どこか舞う様に飛ばし行く。

 春らしい穏やかな夜が訪れていた。

 

 灯のついた屋敷の中、スミレと朝日はリビングで話し合っていた。

 スミレは菊乃が屋敷を出てからどのような人生を送ったのか、また朝日自身について知りたかった。

 朝日も自身が血を引く園崎家の人々がどの様な人間だったのか、またスミレがどういう人間だったのか知りたかった。

 その為やや遅い時間になっても二人とも話を続けていた。

 

「そうですか……菊乃様のお菓子作りの腕はそこまで上達されていたのですか」

「お母さんは師匠がよかったっていつも言っていましたけどねー」

「これでも百年以上やっていましたからそれなりには得意なのです。

 朝日さんも今度一緒にケーキを焼きましょう」

 

 朝日は母からスミレが宇宙人である事を聞いている。

 だが朝日はそれ些細な事として特に気にしていない。

 自身の生まれるずっと前から祖母や母と暮らしてきた、亡くなった母から何時も話を聞かされていたスミレを信じているからだ。

 嘘偽りのない信頼、今日あったばかりの朝日とスミレの間にはそうした絆が生まれ始めていた。

 

 そうして二人は大切な過去と希望に満ちた未来、その両方についての話を続ける。

 だがある時突然、スミレが血相を変えて窓に駆け寄る。

 

「ど、どうしたんですかスミレさん!?」

 

 驚く朝日もスミレの行動の理由をすぐに理解する。

 窓の外、スミレが感じ取ったのは街の郊外に落ちるのは青と黒のどこか毒々しい流星。

 それが差す意味はつまり────宇宙からの悪意の来襲である。

 

 平穏な街の郊外に禍禍しい巨大な怪獣が降り立つ。

 土煙を上げて降り立った怪獣の姿は赤ん坊にすら明確にわかる、それほどの凶悪さだ。

 

 凶悪という言葉を獣の姿に押し込めたかの如き怪獣は、第一印象にたがわぬ凶悪な面相に、同様の顔を両腕に生やした異形の三つ頸。

 さらに堅牢極まりないどす黒い甲殻は鎧のように筋肉質な体を覆っている。

 身体の各所に生えた不吉な赤色の棘が一層それらの不穏な印象を強めていた。

 

 この怪獣は凶悪極まりない姿に違わず幾多の文明や星を滅ぼしてきたその名を凶獣ルガノーガーという。

 

 人々の住む家といった建造物、そして花畑などから自身の滅ぼすべき文明の存在を認め、ルガノーガーは獰悪な雄たけびを上げる。

 そして口に青黒い光線をチャージした。その目的はここら一帯の完全壊滅。そしてその破滅をルガノーガーは地球全域に向けて広げていくだろう。

 そしてそれはスミレや朝日の暮らす館、そして外の花畑をも滅ぼしていく事になるはずだ。

 

 ──────────だが我々は忘れてはならない。宇宙には理由なき悪意のみでなく、人と人との絆が生み出した光も存在することを。

 

 既にルガノ―ガーの姿を視止め、どこからともなく現れたガイは花畑の道を疾駆する。

 その瞳に宿るのは不退転の意思。ガイは多くを語らない。

 されどスミレや朝日の、人々の未来を壊させてなるものかと、その瞳がガイの意思を雄弁に語っていた。

 

 その右手の持つのは赤と銀の環。

 神秘の環、オーブリングにルガノーガーにある程度近づいたところで環にカードを差し込んでいく。

 

「ウルトラマンさん!」

 

《ウルトラマン》

 

 どこからか勇ましい声が鳴り響く。

 

「ティガさん!」

 

《ウルトラマンティガ》

 

 二つ力が一つになりガイを中心に集まっていく。

 それは古より受け継がれ二つの光の力の結晶。

 ガイが受け継いだ幾多の宇宙を守った光の巨人の力。

 

「光の力、お借りします!」

 

《フュージョンアップ! ウルトラマンオーブ、スペシウウムゼペリオン!》

 

「闇を照らして、悪を撃つ! 」

 

 そして光が天へ伸び、巨人の身体を形成する。銀をベースに赤や紫といった多色が入り混じったその姿はウルトラマンオーブスペシウムゼペリオン。

 闇を払う光の戦士が今宵も現れた。

 

『いきなりだが行くぜ! スペリオン光線!』

 

 地に降り立つと同時にオーブは必殺光線を放ち、ルガノーガーの禍禍しい光線を継撃する。

 二つの光がぶつかり合い、対消滅を起こして消え去った。

 それを見たルガノーガーは電撃や体表のとげ、各種の光線を放つが、豊富な技を持つオーブによって無効化される。

 光線の残滓が消え去る中両者は距離を詰め、格闘戦に移行。

 

『紅に燃えるぜ! 』

 

 オーブは赤い体色と二つの大角が特徴的な格闘形態バーンマイトに変身し、ルガノーガーと組み合う。

 両腕からの噛みつきを肘でいなし、オーブは焔の拳でルガノーガーの甲殻を殴る。だが

 

『ぐ……! 堅い!』

 

 ルガノーガーの甲殻は予想以上に堅い。

 腹部の甲殻に拳を打ち込み続けるも効果はなく、むしろ重厚なボディを活かしたルガノ―ガーの突進に跳ね飛ばされる。

『ぐああっ!』

 

「オーブ……!」

 

 スミレの見守る中吹きとばされたオーブは花畑の前に倒れるどうにか起き上がるものの、そこにルガノーガーがフルパワーの電撃を打ち込みその姿が爆炎に包まれる。

 

「あ……あああ……ガイさん」

 

 その姿を見て旭を抱き寄せるスミレは絶望する

 。自分は、アサヒはまた大切な物を理不尽に失ってしまうのか────と。

 

 その時だった。スミレの耳にハーモニカの音が聞こえた。

 どこか哀愁を帯びたその音色はスミレの胸を打つ。

 そして対照的にルガノーガーが何処か苦しむような唸り声をあげる。

 

 それは受け継がれてきた聖なる歌。

 人間の歴史が持つ受け継ぐ力を結晶化させたかのような優しく、それでいて勇壮な歌だ。

 

「スミレさん! あれ!」

 

 朝日が指さすのは爆炎の晴れた後も立ち続ける巨人の姿。ただしその姿は先程と様変わりしている。

 

「……私何年か前見たんです。お母さんと離れてしばらくした後怪獣に殺されそうになって」

 

 朝日は訥々と語る。

 一度は夢と思ったけどかつて自分は確かに見た。

 怪獣から自分を守る為に立ちふさがった光の巨人を。

 

 あの時の巨人と目の前で戦う巨人の姿が今、確かに重なった。

 体色は銀を基調に赤と黒、そしてその手には聖剣オーブカリバー。

 愛と正義を貫き、何度斃れたって蘇り、命を燃やして全て救い出すトゥルーファイター。

 

「あの日見た……光の巨人!」

 

『俺の名はオーブ! ウルトラマンオーブ!! 』銀河の光が我を呼ぶ!』

 

 それはウルトラマンオーブの真の姿、ウルトラマンオーブオーブオリジン! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーモニカの曲の残滓が消えていく中、園崎家の館と花畑を背にしたオーブは厳かに歩み寄る。

 それに対しルガノーガーは電撃や破壊光線を斉射し、オーブを迎え撃つが全てが聖剣によってはじかれる。

 動揺で一瞬動きを止めたルガノーガーは今度は背中から無数のとげを生やし、オーブに向けて発射する。

 

『カリバーシールド!』

 

 だが微塵の揺らぎも見せずオーブは聖剣を掲げバリアを張り、無数の棘の連撃を防御する。

 大量の棘があらぬ方へ飛ばされていく中一本の棘が防御をすり抜け花畑へ飛ぶが、真っ二つになり、花畑を壊すことはなかった。

 

(あいつまた‥‥‥でも、助かった!)

 

 花畑に見えた銅色と黒の影──────ガイにとっては見覚えがあるにもほどがある影を一瞬目に焼き付けたガイは呆れる。また自分の後をつけてきたのかと。

 だがそれでも花畑を守るのに手を貸してくれたのはありがたい。

 

『はあああっ!』

 

 そしてオーブカリバーの間合いに至ったオーブは手にした聖剣でルガノーガーの体を切りつける。

 鎧の様なその甲殻も聖剣を防御するに至らず大した抵抗もなく切り裂かれていく。

 そのまま二度、三度とオーブはルガノーガーを切りつけ確実にダメージを与えていく。

 ルガノーガーは両腕の顎で噛みつきオーブの攻撃を押しとどめようとする。

 しかし、その狙いはオーブに読まれており、聖剣の側面による打撃で左側が、横一文字の斬撃で右側の顎が破壊される。

 

 痛みに咆哮するルガノーガーは接近戦ではかなわぬとたまらず圧縮空気を噴射して急速後退し、オーブから距離をとる。

 そして体の各部からのエネルギーを集中させ、一つの強大な光線を放とうと試みる。

 禍禍しい光が集中する中、オーブもまた聖剣にエネルギーをチャージし、それを真っ向から迎え撃つ。

 

「ギュアアアアアアアアアアッ!!!」

『オーブスプリーム……カリバーァァァァッ!!!』

 

 禍禍しい凶獣の一撃と聖剣の一撃が同時に放たれ、空中で激突する。だが互角のように見えたその勝敗は最初から

 決まっていたのかもしれない。

 片や破壊しか望まぬ凶獣、片や人々の絆を光の力に変えて戦う光の巨人、この宇宙を回しているものが愛ならばその勝敗は必然。

 ルガノーガーの光線をオーブスプリームカリバーが飛沫による被害すら出さずに飲み込んでいく。

 

 そしてルガノーガーに到達しその身を粉々に粉砕せしめた。

 春の風が吹き、花弁の舞う中光の巨人は聖剣を手に立つ。

 その雄姿はそれを見た人々の心にいつまでも焼き付いていた──────―。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーブとルガノーガーの戦いの翌日、スミレと朝日は花畑の手入れをしていた。オーブの奮戦により花畑が破壊される事はなかったが、それでも何か異常がないか点検が必要だった。

 それに朝日に花の世話を教える為という目的もあり、二人は春の日ざしの中仲良く花の世話をする。

 

 並んで花の世話をする二人はこの上なく幸せそうに見える。

 二人とも一度は家族を全て失った身だが、今はそばに家族がいる。

 朝日はスミレという家族がいる限り、スミレは園崎家が世代を超えて続いていく限り、その幸せはこれからも続いていくのだろう。

 

 その光景を見届けたガイは一人館を出ていく。風来坊は長く一か所には留まらない者。

 

「ヒヒッなるほどぉ……確かに美しい花だ。二、三本貰おう」

「ジャグラー。やっぱりついてきたのか」

 

 門に寄りかかりニタニタと笑っているのは少しばかり気味の悪い男だ。

 この男はジャグラス・ジャグラー、クレナイ・ガイの終生のライバルというべき男だった。

 その手には今朝こっそりと摘んだらしき一輪の菫の花がある。

 

「今回のことは勘違いするなよ。俺はこの花が欲しかっただけさ。お前を助けたわけじゃない」

「分かっているさ。お前が素直な奴じゃないってことは」

「は? 何言ってんだおお前?」

 

 腐れ縁としての長い付き合いだからかガイはジャグラーがこう言うだろうことを分かっていた。相変わらず素直じゃない奴だ。

 そう呆れるガイの前でジャグラーは不気味な笑いを残し何処かへ去っていく。

 

「まったくあいつは……」

 

 ガイもまたジャグラーとは別の方向に去っていく。ハーモニカの様な楽器を吹き綺麗な音色を奏でながら。その音はどこかスミレや朝日を祝福するような優しい音色だった。

 

 優しい音色が響き、美しい花畑で朝日とスミレが空を見上げる。

 一枚の絵画のように美しく、繋がり重なる未来を思わせる光景がそこにはあった。

 




本エピソードはこれにて終わりです。

読んでいただきありがとうございました。

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