「本当は何かお見舞いの品でも持って来たかったんだけどね~」
葛城ミサトさんは残念そうに言った。
「食べ物は持ち込み禁止って言うし…だからさ、こっそり持って行こうとしたの。そしたらリツコにバレちゃって大目玉食らったわ!」
そう言ってアハハハと可笑しそうに笑った。
リツコって言うのは僕の主治医である赤木先生のことで、なんでも葛城さんは先生の同僚なんだそうだ。
でも明るくて面白い人だなぁ…病室に入ってくるなり僕の顔を凝視して黙り込むもんだから初めは何事かと思ったけど。
「それはそうと、シンジくんってレイちゃんのお兄さんなのよね?」
「はい、そうですよ…?」
「ふ~ん……あ!でも確かに目の形とかは似てるかも!」
こういうことを言う人って珍しい。大抵の人はレイの髪や瞳の色ばかりに気を取られてしまうから。
人のことをよく見てるんだな…。
「葛城さんは、レイのこと知ってるんですね」
「ええ、まあね。…少し、私達NERVの実験に協力してもらってるの」
へ~、実験かぁ。
「レイ、ちゃんと挨拶してます?不愛想にしてません?」
「え~っと、それはね…」
「やっぱりですか…」
レイは僕以外の人間には酷く不愛想だ。このことは随分前からうるさく言ってはいるんだけど…
「すいません…こんなにお世話になってるのに」
「そんな、いいのよ!私達だってあの子には感謝してるもの」
「誤解しないでやってください…ちょっと不器用なだけで優しい子ですから!」
「ふふ、そんなに必死にならなくてもわかるわ。あなたみたいな人がお兄さんなんですもの」
葛城さんはきっといい人なんだろうな。レイのそばにこういう人がいてくれると安心できる…
「そう言ってもらえると助かります。あの子が誤解されちゃうことって本当に多いですから…」
厳しく言わなきゃいけないんだろうな…それは社会から自分の身を守る術でもあるのだから。
「…そういえば、葛城さんは何で僕なんかの見舞いに?」
葛城さんはあら、というような顔をした。
「言ってなかったかしら?あなたのお父さんって私の職場の上司なの」
「え!父さんが?」
「そ!だからあなたって職場じゃ結構有名なのよ」
ええ!?僕が…!?
「ここ最近は忙しくって無理だけど、皆あなたのとこに来たがってたわ」
「私だって皆を代表してここに来てるようなものよ!決っしてサボりじゃないわ!」
「でも父さんが上司だからってだけで…?」
すると、葛城さんはパイプ椅子からぐいっと身を乗り出してきた。
「わかってないわね!!なんたってあの、司令…碇ゲンドウの息子なのよ!?」
「だったらどうなんです?」
「だったらどうって、あなた…!!だってあの碇…!」
「知りませんよ!!父は一体どんな人間なんです!?」
そうね…、と葛城さんが話し始める。
「背が高くて、不愛想で…顔じゅう毛むくじゃらで…えっとねぇ…」
「……」
「そうそう!あの人、なぜかサングラスを絶対外さないの…そんなに素顔が貧相なのかしら…」
部下の人にこの言われようって…もはやただの悪口じゃないか…。
「でね!皆、あの人の息子が入院してるってのは知ってても、リツコ以外誰もあなたの顔は見たことがなかったの」
「だから、レイちゃんはお母さん似なんだろうけど、あなたはどうかってのが職場でかなり盛り上がってたのよ」
部屋に入ってきて僕のことをジロジロ見てたのはその所為か…。
「でもつまんないの、シンジくん結構かわいい顔してるんだもん」
「逆にどんな顔だと思ったんです…?」
「そりゃあ、もう!…ヒゲもスネ毛もボーボーの…!!」
あはは…なんだか父さんが可哀想になってきたや…。
ザー……
『葛城一尉…』
「あっはははは!……へ!?」
『総司令執務室まで来い、今すぐにだ…!』
”かつらぎいちい”ってのは葛城さんのことかな?館内放送にしては随分感情がこもってたけど…。
「きゅ、急用ができたわ!シンジくん、またね!」
そう言って、葛城さんは酷く慌てた様子で部屋を後にした。
「なんだか顔が青ざめてたけど、どうしたんだろう…」
それにしても、あの声どこかで聞いたような…。