幕末最強の人斬りの最期。
そして、カルデアでの日常。

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史実では切ない終わり方だった沖田さんが、カルデアでは幸せだったら良いなっていうイメージです。
剣豪やってた頃に書いた物なので、ネタが古いですが、よろしくお願いします。


沖田さんの最期

沖田異聞

 

 最後の日。

 

 あの日。少女は恋をした。

 終ぞ、叶う事は無かったのだけれど、あれは確かに恋だった。

 

「・・・と、・・・さと?」

 自分を呼ぶ声がして、少女は眼をさました。縁側に独り、うたた寝をしていたらしい。

「もう、またこんなとこで居眠りなんかして。身体に障ったらどうするんですか」

 干していた布団を取り込んだ、姉のミツが部屋に入ってきた。

「ああ。今日は暖かくて気持ちが良いから、つい」

 少女はにへら、と頼りない笑顔を浮かべる。

「それと、それ! その刀! いつになったら、刀を抱いて寝る癖を治すの?」

「いや、だって。いつ召集がかかるかわからないじゃないか」

 更に頼りなく笑う少女。

 彼女は、まるで愛しい人を抱くように刀を抱いていた。片時も、離す事はない。

 ミツは呆れて肩を落とすが、すぐに床の準備を始めた。

「良順先生が言ってましたよ。今は兎に角休む事が肝要だと。一にも二にも、休養ですよ? 刀なんて、必要ありません!」

 ミツの言葉に、少女は空を見上げる。

「そんな訳にはいきませんよ。今も、みんなは戦っているんだ。私だけ寝てるなんて、笑われてしまいますよ。せめてこうして、鈍らせないようにしないと」

「あーはいはい。いいからさっさと寝なさい」

 その話題、を避けたかったミツは無理矢理に会話を切ろうとする、が。

「近藤さん達は、今どこで戦っているんですか?」

 聞かれてしまった。

「知りませんよ、そんな事。私たちの様な庶民に、お上の事は伝わって来ませんからね」

 そう。本来ならこの国の未来を決める戦いといえども、庶民が随時知るのは難しい時代だ。だが、ミツは医師の良順から聞いて知っていた。

 その男は、約二か月に、切腹している事を。絶望的な戦いは北へと登っている事を。

「そうですか・・・。ああ、早くみんなと合流したいなぁ」

 ミツの嘘を見抜いたのかどうか。

 少女は誰にともなく呟く。

と、

「ししょー! 剣おしえてくれー!」

 庭から元気のいい声がして、小さな子供が少女の元に走り寄ってきた。

「こら、芳次郎! さと叔母ちゃんは病気なのよ! 無理を言うんじゃない!」

 ミツは息子を咎めるが、少女が手を翳して止める。

「いいよ、ミツ姉ちゃん。丁度剣を振りたかったし。それと叔母ちゃんって呼ばれるのはちょっとシンドイ。そんなに年取ってないし」

 苦笑しながら、少女は立ち上がる。

 その体躯は見るも無残な有様だった。

 嘗て美少年剣士と謳われた美しさは微塵もなく、その身体は痩せこけ、女性らしい丸みは無くなっていた。それは地獄の餓鬼を彷彿とさせるに相応しい。

「よし、芳次郎。今日は何を教えようか」

 少女の落ち窪んだ目が、爛々と輝く。あの、京での日々がその瞬間だけ蘇るのだ。

「あれ! あれやって! 葉っぱに、どんどんどん、ってするやつ!」

 その、よくわからない指示に、少女は快く頷く。

「委細承知」

 言ってから、庭に植えられた巨木へと歩む。

 都合のいい事に、落ち葉がハラハラと舞っていた。

「よく見てて下さいね」

 男物の流しの裾を大きく開き、腰を落とす。鞘から刀を抜き、腰だめに構えた。

 すう、と大きく息を吸い、止める。

枝から落ちた葉が、はらりと三枚過ぎった。

 次の瞬間。

 ふっ、と吐き出された気合いと共に大きく踏み出す。刹那、少女の姿が翳り水平に光条が走る。

 その数、三本。

 光は違いなく葉に走り粉砕した。

 無明三段突き。

 たった一度の踏み込みで三度の突きを可能にする、唯一無二の神業。

 動乱の京で、数えきれぬほどの維新志士を亡き者にした秘剣だった。

「すげー! やっぱししょーすげー!」

 大喜びの芳次郎だったが、ミツに頭を小突かれた。

「もう、さと叔母ちゃんに何させてんの! こっち来なさい!」

 素振り程度だと思っていたら、とんでもない奥義が飛び出した事に、度肝を抜かれたミツだったが、小さな芳次郎を小脇に抱えあげた。

「じゃあ、今日は帰るけど、安生するんですよ?」

 語気は強かったが、顔は心配そうに、ミツは帰っていった。

 

「ああ」

 身体から力が抜ける。

 自分でわかってしまった。無敵の三段突きは、「今のが最後」だと。

 頬骨が浮かんだ痩けた頰を、涙が伝う。嗄れた嗚咽が喉から漏れる。

「ああ、ああ、あいたいよぅ、あいたいよぅ」

 見るものが居なくなったところで、泣き出した。

 少女にとって、それは全てだった。

 たった数人の田舎剣術道場が、曲がりなりにも幕府に仕え、動乱の京で剣を振るった。

 もちろん、楽な事ばかりでは無い。規律を守る為、親しい人まで手にかけた。

 若者だけでやるには無理があったのだろう。その、剣の腕だけを利用されたのだろう。

 それでも。

 青春を謳歌した。たくさん笑ったし、たくさん泣いた。

 掛替えの無い仲間がいて、動乱の時代を走り抜けた。

 余りにも密度の濃い、充実した日々を過ごした。

「土方さん、「総司」はここにいます、連れて行って下さい、連れて行って!」

 ここにはいない、あの人に懇願する。

 幕府に仕える為、江戸へ旅立つ際、あの人は少女に名前をくれた。

(オマエは今まで通り男で通せ。それと、聡(さと)、じゃあ舐めらるかも知れねえ。・・・そうだな、総司と名乗れ。俺達試衛館の全てを知る「男」になれ)

 そう言ってくれたのに。どうして連れて行ってくれなかったのか。

 怖いのは死ではない。

 怖いのは、仲間と共に「戦って死ねない」事。自分だけが生き残る事だ。

 このままでは、生き残ることすら出来ない。

 暗闇が身体に染み込む。四肢が、自らの支配から離れていく。

 もう、喀血を手で押さえることも出来ない。血だらけになった口は拭われることもない。

(ああ、土方さん。みんなと一緒に、もう一度だけでも戦いたかった)

 もう一度だけ。そう願いながら。

 その日、幕末最優の天才剣士は、誰にも知られる事もなく、たった独りで、この世を去った。

 

 遥か北の、何処とも知れぬ戦場。

 嘗て浅葱色だった、ドス黒い羽織を着た長身の男は、怒号と喧騒の中で、その声を聞いた。

 見るもの全てを血祭に上げる、悪鬼にも似た男は、空を見上げ優しく微笑む。

「そうか。・・・逝ったか、沖田」

 表情を戻し、遥か前方を埋め尽くす敵軍を見据える。

「ちょっとだけ待ってろ。オマエが殺すはずだった奴らの首を手土産にしてやるからな。なに、近藤さんも山南さんもいるんだ、寂しくはねえだろう?」

 悪鬼は剣と短銃を手に、駆ける。

 死地へ。

 

✳︎✳︎✳︎

 

「なーなーおきたー。オマエ、カテゴリ的には剣豪だったよなー?」

「そうですけど? 何か?」

 至極不機嫌そうな沖田を、ノッブが煽ってる。

「今度の特異点でハブられてるぞ? えっと、剣豪の方ですよね? 早く行った方が良いぞ?」

「うるさいですね、別にいいでしょ! ノッブだって暇そうにしてるじゃないですか」

「ワシはいいんですー。夏は出ずっぱりじゃったし! 」

「私だって別に良いですよ! 普段の修練には参加してますし!」

「ぶふー! 負け惜しみ! ねえ、剣豪特異点でハブられたのってどんな気持ち? NDK?」

「はあー? 別にいいんですー。今回は江戸時代だからいいんですー!」

「ぶー! 時代が江戸ってだけて江戸縛りじゃないしー! あの義仲の妾とか、ミラクルイリュージョン忍者とかでとるし! はい論破!」

「うっさい! だいたいいつまで水着着てるんですか! 夏はとうの昔に終わってますよ! 見苦しい!」

「なんじゃとー! この第六天魔王的なワシを怒らせてタダですむと思うとらんじゃろな!」

「上等ですよ!なんならいつでもやってやりますからね!」

 あーもう、めんどくさいなぁ、この二人は。

 そんな事を考えていると、土方さんがやってきた。沢庵片手に見物を始めてしまう。

「またやってんのか。飽きねえな」

「いつもの、ですよ。沖田さんって生前からあんな元気だったんですか?」

 確か、病弱とか言われてなかったっけ。

「ああ・・・あんなには喧しくはなかったな。嬉しいんじゃねえか?」

 いつもはとんでもなく恐ろしい土方さんが、優しく微笑んでいる。

「そんなもんですかー。あーもう、まだやってる。ノッブー、沖田さーん、種火行きますよー?」

 呼びかけると、第六天魔王と幕末最強の人斬りは声を揃えて仲良く返事する。なんだ、この面白サムライども。

 

「おう、マスター」

 沖田さん達を連れて、種火集めにいこうとすると、土方さんに呼び止められた。

「なんです?」

「ああ。そういえば、言ってなかったなと思ってな。・・・感謝する」

「ええ?」

「「俺達」に、戦う場をくれたアンタに、最大限感謝する。アンタの最期の瞬間まで、俺達新撰組は戦い続ける。沖田も、同じ気持ちだ」

「はあ。いや、二人にはお世話になりっぱなしだから、こちらこそですよ。これからも、よろしくお願いします」

 正直、何のことだからわからないけど、偽らざる気持ちで返す。

 すると、土方さんは「おう」と短く返して去っていった。

「土方さんと何話してたんです?」

 沖田さんが聞いてくる。

「いや、自分達に戦う場をくれて、ありがとうって。申し訳ないことによくわからんけど」

 首を傾げると、沖田さんが笑う。

「ええ。その言葉どおりです。私も、感謝してますよ」

 言いながら、本当に嬉しそうに笑っている。

 それは、突き抜けた青空のように、清々しい笑顔だった。

 

 キラキラした日々は確かに、ここにある。それに焦がれる事に名前があるなら。

 少女は今、恋をしている。 

 

おわり。


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