クリスマス。
人によってはこの単語を聞くだけで浮かれ始め、実際に当日が近づこうものなら仕事やが勉強が一切手につかなくなってしまうという、魔性のイベント。
当日はみんなで集まってパーティーをしてみたり、家族で美味しいものを食べに行ってみたり、楽しみ方は人それぞれだが、多くの人にとってのクリスマスの楽しみ方、その醍醐味の一つと言えば……
プレゼントだ。
一応私も彼氏持ちの身。当日慧が仕事あるからって何もしないのはなんだか味気ないかな…なんて思いつつ、一応はプレゼントのサーチをしてみたのだが……
……いやわっかんねぇよ。
授業の合間に携帯でどんなものが彼氏受けがいいか調べてみたのだが、どれもこれも当てにならない。
ネット上の記事が信用できない?いや、そんなことはないだろう。むしろ問題は
調べて出てきたのはマフラーや腕時計、手袋といったファッション品が主だったわけだが……慧はもう持ってるんだよね。めっちゃいいブランドのヤツ。
考えてみればそれはそうだ。慧とて顔を出して商売する職業の端くれ。しかも格ゲーにおいてはチームを背負って立つ顔のような存在だ。当然面目の立つような装いは持ってるし、揃えるだけの稼ぎがある。そこに私の小遣いで買えるような安物を送り付けたって使うわけがない。
そもそも私の小遣いも限られている。そんな高級品なんて送れるわけないだろ。
……だからこそ。
だからこそ、
……そうだよ!これだってプレゼントの鉄板!!!
「手作りの……お菓子っ……!!」
「あれ?楽羽ちゃん、なんかやる気入ってる?」
「家庭科の授業で作れるようなお菓子なんて限られてるでしょうに」
「ていうか珍しい。この手の授業で燃える楽羽」
ただの家庭科の授業。学生にとっては半分お遊び認識の調理実習。
だけど、うちのクラスでは作った料理はその場で食べるか持って帰るかが選べるんだ。実際、今日はプレゼント用のお菓子を作ろうとしている子も珍しくない。
「そういえば楽羽の彼氏、年上の大人の人なんだっけ?」
「へ?うん。そだけど」
「いいよね~年上彼氏。羨ましいわ」
「いや、そんないいもんでもないよ?」
ちなみに、ウチのクラスの女子で彼氏持ちは半分ほど。学外で彼氏作ってる娘は意外と少ない。そう考えると私はそこそこなレアケース。こういう話が振られることも少なくはない。
「楽羽ちゃんはいつもそういうけど、独り身からしたら羨ましいことこの上ないからね?」
「本当にそう思ってるんだけどなぁ」
「その割には今日のお菓子作りにも本気だよね」
「それはまぁ……ね?」
だって今日で済ませればあと悩まなくて楽じゃん。なんて言うとこの彼氏至上主義者たちが怒りだしそうなので黙っておく。あと、せっかくならいいもの渡したいっていうのも嘘じゃないしね。
そんな雑談をしながらお菓子作りの準備を進めていると、ふいに同じ班の子たちの私を見る目が……
「ん?どうしたの?」
「ら……楽羽ちゃん?それなに?」
「ん?チョコに入れる奴だけど……」
よし、なんかわからんけど一気に作ってしまえ!!
「あー!!ストップストップ!!ウィスキーボンボンってチョコに触接ウィスキー入れてるわけじゃないから!!!そのウィスキー仕舞って!!!」
「……へ?」
授業後に職員室に呼び出されました。
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さんざんではあったけれど、何とか形にはなった手作りのお菓子。さて、これを何とかして慧に渡さなきゃいけないわけだが……
「うぅ……やっぱり手作り、重い?」
当日になって急にこみ上げてくる不安。
お菓子という発想になった時点で既製品を買う選択肢はあったはずなのに、全くお思い至らなかった自分の視野の狭さが悲しくなる。そりゃあ乙女心としては手づくりの方が作ってて楽しいし受け取ってもらえたらうれしいよ?でももらう側のことを考えたら間違いなく美味しいのは既製品だし……。
とはいってももうデパートのお菓子売り場は完売御礼の札を掲げていていまから買いに行ったら間違いなく待ち合わせに遅れてしまう。もう腹をくくるしかないのだが……
「ぅ~~~!!!!」
手元には小さな袋を大きなラッピングで誤魔化したお菓子袋。派手な見た目とは裏腹に思いのほか地味に落ち着いた中身のことを考えるとどうしても後悔が……
やっぱり今からでも新しいのを買いなおして……!!
「お待たせ、楽羽。寒かったでしょ」
お前はいつもそうタイミングの悪い時に!!!……まぁ待ち合わせ時間通りなんだけれども。
「慧も寒い中仕事お疲れ」
「うん。ありがと」
駅前広場では今にも雪の降り始めそうなほどの寒さがあたり一帯を包んでいる。本当に降ってくれれば雰囲気も良くなるのだが、そんな偶然が起こらないから現実ってやつは。
「とりあえず、俺んちいこうか。寒いし」
「そだね」
つい、最初に渡してしまおうと思っていたお菓子の小包をサッと体の後ろに隠してしまった。
まぁ、こんなのいつでも渡せるでしょ。
そう思いながら機会を伺う。
伺いながら歩いて……
歩いて……
……
結局、渡せないまま慧の家に着いてしまった。
「あ~あったかぁ~。ひょっとして慧、家の中暖房かけっぱなしだった?暖かすぎない?」
「いや、さっき遠隔でつけておいた。流石につけっぱなしは電気代が嵩む」
「ほぇー。何そのハイテク」
結局、菓子包みは道中で鞄にしまった。
ーーやっぱりおいしくないだろうから。
ーー見た目もきれいに作れたとは言い難い気がしてきた。
ーーもしかしたら道中で崩れちゃったかもしれない。
…………作った直後はあんなに自信満々だったのになぁ。
今となってはこの小包を渡さずに家に持って帰るための大義名分を探し始めていた。
「じゃあ、リビングの方で待ってて。ご飯の準備しちゃうわ。上着は適当にかけておいて」
「りょうかーい」
キッチンに引っ込んでいった慧に促されたまま私はリビングの椅子に腰を下ろす。
「……慧、今日の料理は全部手作りなんだっけ?」
「うん。そだよ」
慧は私よりが料理できる。彼女としてはやはり複雑だ。
「けー。りょーりおしえてー」
「別にいいけど……急にどうしたの?」
「なんか壮絶に悔しいから」
「それ、俺に教わることは悔しくないの?」
「負けっぱの方が悔しい」
「そか。じゃあ今度しっかり教えるわ」
ちらと目をやると、慧は鍋でスペアリブを煮込んでいた。そのそばにはコーラの空きペットボトルが一本。スペアリブをコーラで煮込むと美味しくなるってあれ本当だったんだ。
キッチンからはほのかに甘い香りが漂ってきて、だんだんお腹がすいてくる。慧が料理できることは知っているけど、あまり手料理を食べることもないから実際慧の料理の味は想像できない。
だからこそ、すごい楽しみになっている自分がいる。
もし自分が料理出来たら、慧にこんな気分を味わわせることができるのだろうか。
「……やっぱいいや。自分で練習する」
「そう?」
「うん」
「ちなみにどういう心変わり?」
「上達前のまずい料理を慧に食べさせたくない」
この部屋を見てもわかる通り慧の生活はかなりの高水準。舌もそこそこ肥えてるはず。だから、やっぱり……
「……どんな料理でも楽羽が作ったなら食べたいんだけどな、僕は」
そう言ってくれるのは彼女冥利に尽きるが、やはり食べさせる側としては複雑なわけで。
「上手くなったら、ね」
「そもそも料理なんて相当トンチンカンな材料を使わない限りそう不味くはならないから安心しなよ。大丈夫だって」
「それ料理できる人のセリフ……」
「じゃあ、試しに食べさせてよ」
「いやいや、今作れってか」
「ううん。持ってるでしょ」
「……へ?」
何言ってるんだコイツ……
ぱっと慧の顔を覗いてみれば至って普通の表情でからかっているわけではなさそう。
そして、慧の視線がふっと逸れる。
それを追って……そして、気づいた。
「……ッ!?!?」
その視線の先には私のカバン。鞄の中には……
仕舞ったはずのお菓子の袋のその頭が、かすかに顔を出していた。
「あれ、楽羽が作ってくれたんでしょ?」
「そ、そうだけど……」
「ねぇ、楽羽」
「ちょ、ちょっと待って!!」
ん?と首をかしげる慧に抗議の視線を送る。だってそうだ。百歩譲ってラッピングであれがクリスマスプレゼントだって分かったとしても、あれの中身が食べ物だなんて一言も言ってないし、中身について慧が知ってるはずが……
「……なんであれが食べ物って分かったの?しかも私が作ったことまで」
「だって楽羽が渡し渋るのは基本自分で作ったものだし。何か買ったものなら逆に自信満々で渡すでしょ?」
「まぁ、確かに」
「あとは、楽羽が作ってくれたらうれしぃなぁって物を、何となく」
「なんとなく!?」
一番知りたかったところを何となくでぼかされてしまった。ていうか今、作ってくれたらうれしって……
「ねぇ、楽羽、それ、俺食べてもいい?」
不思議な気分だった。
さっきまであんなにも渡したくなかったのに。慧が背中を少し押してくれただけで、今は慧にどうしても食べて欲しいって思えてしまっている。
さっきまで同様、不安は全然ある。この女子力の塊みたいな男に女子力ミジンコの私の手作りのお菓子を上げようというのだ。だけど、それでも、悪いようにはならない。しないでくれる。そんな根拠のない自信が沸々と湧いてくる。
手は、自然と袋に伸びた。
「はい、慧。……メリークリスマス」
「ありがとうっ!!」
受け取るなり目を輝かせる慧。
そんなに喜ばなくてもいいのに……期待しないで……
そんな私の思いは届かなかったのか、慧は嬉々としてラッピングを開けていく。中からは中途半端に大きい不格好なチョコクッキーが一つ出てきた。
「いただきます」
「……召し上がれ」
……カリッ。
一瞬の無音の中にクッキーを齧る音が響いた。
噛みしめるように味わう慧。ほんの一瞬、その一瞬がすごく長く感じる。冷や汗がつぅーっと額を流れた。
そして、再び慧の口が開かれる。
「美味しい……!!」
「ッ!?!?」
どうしても聞きたかった言葉が耳に届いて、一瞬で頭が沸き上がる。
「ほんと!?」
「ほんとだよ!」
「ほんとにほんと!?!?」
「ほんとだってば!」
思わず慧に詰め寄るようにしてその『美味しい』を噛みしめる。頭の中で反芻するたびに不安で冷えてた頭が溶け出していって、張り詰めていた全身が解れていった。
「…んむぐっ!?」
安心に浸っていたその時、急に何かで口が塞がれた。それは、口元でカリッと音を立てて口の中に転がり込んできて、私は思わずそれを噛み潰した。
「ね?甘くて美味しい」
よく見れば、さっき一口齧っただけのはずのケイの手の中のクッキーがさらに小さくなっていて、きっとその小さくなった部分は今私の口の中に……
私が啞然としてるさなかに慧は残りを口の中に放り込んだ。
…………
ってそれ間接キス……!!!
「でしょ?」
そう聞いて私を覗き込んできた慧の口元に視線が寄せられる。
尋ねられても、間接キスに気を取られて味なんてもうわからなかった。
「……甘い」
「でしょ?」
味はよくわからなかった。
でも、その口の中が、頭の中全部が、ひたすらに甘く痺れた。
あの七夕の日に笹に願って「ウィスキー」の啓示を得てから絶対に書きたい……!!とおもっていたネタが書けて大満足です。久々に慧羽書きましたけど、やっぱり楽しかったですね。
感想お待ちしています!!!