管理している鉱山からの邪悪な魔力の流出が原因で聖女の任を解かれた少女”ファイ”。
彼女は、その瞬間から彼女の持てるすべての力をもってして引きこもりを始めた。
そんな彼女をどうにかしようとする役人の”トーマス”は、どうにかしようと説得を続けるのであった。

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管理している鉱山からの邪悪な魔力の流出が原因で聖女の任を解かれた少女”ファイ”。
彼女は、その瞬間から彼女の持てるすべての力をもってして引きこもりを始めた。
そんな彼女をどうにかしようとする役人の”トーマス”は、どうにかしようと説得を続けるのであった。


領主に解任させられたので全力で引きこもりを始めた聖女と役人の話

 この世界に生まれた人々は生まれながらにしての適職(ジョブ)を持つ。

 それは戦士であったり、魔法使いであったり、あるいは商人であったりと様々だ。

 

 だが、そんな中にはユニークジョブと呼ばれるものがある。特定の条件下にて生まれる、この世界の奇跡であり、魔王を討ち果たすべく生まれる勇者などがそれにあたる。そのため英雄譚は勇者や賢者、聖女が活躍するもので占められていた。それは当然のことである。そういったユニークジョブの持つ力はほかのジョブとは桁が違ったのだから。

 

 故に、この世界では生まれ持ったジョブだけが、その先の人生すべてを決めてしまうといっても過言ではなかった。

 

 ……ほんの100年前までは。

 

 天才発明家”ニコラ”は、農家のジョブを持つ平民だった。しかし、彼には類まれなる発想力があった。ジョブの力によらない、人の知恵だ。

 

 それをもとに多くの技術を開発し、ついにはジョブシステムの根幹を暴き、ジョブチェンジの魔法を生み出した。それにより人々はみな己の望んだジョブにつくことができるようになった。世界を救う役割、勇者のユニークジョブでさえもだ。

 

 それによりもたらされた一つの結論。『神は世界を作ったが、神は世界を導いても救ってもいない』というものから、多くの神に仕える者たちはみなジョブを変えた。

 

 そうして、100年。世界に魔導機械の光と蒸気の煙が広がるようになった頃に一人の聖女のジョブを持つ者が生まれた。

 

 特別だが特別でないその少女の名前は、”ファイ”。これは、少女の伝説的な引きこもりと、彼女をどうにかしようとする少年”トーマス”の一幕を描いたものである。

 

 ────────────

 

 ここはモルティニア。魔石や良質なミスリルの採掘により栄えたこの国きっての鉱山都市である。

 そして、その都市では現在、話題に上がっていることがある。それは、鉱山を守るの聖女の解任というものだ。

 

 それもそのはずだ。感知能力に長けたジョブの者ならばわかるだろう。この町の空気に含まれる魔力に邪悪なものが混ざっていることに。これは、本来聖女が通常業務の範囲内で鉱山を浄化していれば発生しないものであった。

 

 そして現在の聖女はまだ年若いこと。そのことから聖女を解任し、より年配の者に仕事を預けるべきだという声は大きくなっている。また、その声にはこのこの地を管理する領主も同意していた。

 それは領主の一人息子であり、その通達を任されたトーマスも同じだった。

 

 そのような経緯もあり、聖女ファイの解任自体はすぐに解決した。

 

 だが、問題はそこからだった。

 あろうことか、ファイは新たに用意された別の仕事場へ赴くことなく一人家に引きこもり始めたのである。鉱山を管理していた家である彼女の実家に。

 

 そこには聖女のための祭儀場でもあるから、次の聖女のために当然立ち退きの勧告をしなくてはならない。

 

 そこで、白羽の矢が立ったのは、ファイと最も親しい同僚であるトーマスだった。

 

 そうしてトーマスは今日もファイの家に赴くのだった。

 

 今日も、毎度毎度の喧嘩が始まる。立ち退かせようとする役人と、引きこもろうとする聖女の戦いだ。

 

 

 

「いーやーだー! 私絶対ここから立ち退かないからね! ここは私のコレクションがたっくさんある聖地なの! 、聖域なの! サンクチュアリなの!」

「何を言ってるか馬鹿! 領主直々の命令だぞ! おまえは聖女の任を解かれたんだ! 後任も決まっているしお前の次の勤務地も決まっている! それと聖域とサンクチュアリは同じ意味だ!」

「命令になんて従いませーん! この鉱山は私の土地なんですー!」

 

 このようにふざけ半分で子供の理屈を振り回しているのが聖女ファイ。長い金糸のような髪を持ち、10人が10人は振り返るような清楚な美貌を持ち、それを行動と言動で台無しにしているのが彼女の常だ。

 茶髪に平均身長でそれなりの顔立ちしかしていないが、誠実な行動で信用を得ているトーマスとは正反対に思える人種である。

 

「この土地の権利を保障しているのは領主である父上で、国だ!お前の所有物ではない!」

「えー? そんなこと習ったかなー?」

「習ったわ! それがわからないのはお前が約束された不労所得にかまけて学校サボってたからだろうが! 毎日毎日ノートを運んだ俺の身にもなれ!」

「あ、それは本当にありがとね。トーマス君。私君のその面倒見の良さとっても好きだよ」

「じょ、女子がみだりに男にす、好きだなどという言葉を使うな!」

 

 そんな程度の言葉に赤面するトーマス。彼は18で領主の仕事の代行を任せられるほど有能であったが、こと恋愛事においては奥手すぎるきらいのある男である。なにせ、このトーマスが現引きこもり聖女ファイに惚れたのは4歳の時。幼いころに出会ってから、今に至るまで一途にずっと心に決めた女性として愛しているのだ。

 

 しかし、いまだに恋仲には至っていない。14年間ずっとそばにいて、数えることが馬鹿らしくなるほど多くあった告白の機会を逃し続けているのだ。

 

 そんな片恋の間柄、それが私人としてのトーマスとファイの関係だ。

 

「てか、ここ私の実家なんだから居座っててもいいじゃん。ほら、空気清浄はしておくからさ」

「お前は一応役人なんだから領主の命令には従ってくれ頼むから」

「やだー」

「子供か!」

 

 そして公人としての二人の関係は、同じ領主の元に仕える同僚であった。聖女も現在では役人の一員なのである。

 

 

 

 100年前に可能になったとはいえユニークジョブへのジョブチェンジは高度な技術が必要である。そんな中代々鉱山を管理してきた家にて生まれた”聖女”は渡りに船だったのだ。ほかに後継ぎも生まれなかったことから彼女は生まれつきこの鉱山を守るという未来が約束されていたし、そのことを彼女は喜んで受け入れていた。

 

 この鉱山から邪悪な魔力が流れ出し始めるまでは、だが。

 

「なぁ、わかるだろファイ。この鉱山はもう金にならない。お前の不労所得で生きていきたいというのは成り立たないぞ」

「蓄えがあるから当分大丈夫だよ」

「念のため聞くが、いつまでだ?」

「……計算してないから、手伝って?」

「そこまで計算ガバガバなのによく蓄えがあるといえるなお前は!」

「だって面倒なんだもん! しょうがないじゃん!」

 

 その後トーマスは半ば入り慣れた様子でファイの家の倉庫に赴き、蓄えの量を計算するのだった。

 

 それから30分ほどでトーマスは戻ってくる。

 

 そのことを、()()()()に確認したファイは微笑みと共に出迎える。

 

「おかえりー、相変わらず早かったね! ちゃんと見てきたの?」

「……ああ、見てきたよ。4年ってところじゃないか? お前の奇跡のおかげで食い物も水も腐ったりはしないだろうしな」

「やったー、ありがとトーマス君。()()()()()()()()()()()()()()()!」

「……大丈夫なものかッ!」

 

 その楽観的な言葉に、トーマスは今までの怒りとは違う、心配からの声が響く。

 

「確かに、4年も時間があれば何かしらの対策もできるだろうさ! 紙の上の数字だけで見たらお前の選択が一番正しい! だがな! その先に待っているのはお前の死だけだろうが! そんな犠牲を強いるやり方を認めてなるものか! 認めさせてなるものか!」

「仕事を完遂できなかった聖女には、お似合いだーって思わないの?」

「坑内調査には俺も参加した! お前の、寝食すら最低限に抑えた努力の事はこの街の皆がわかっている! 世界最高の聖女であるお前のその力でどうしようもなかったんだ! なら、別の手段を考えるのが筋だろうが!」

「そうして犠牲を別の聖女の人に押し付けろって?」

「……そうだ!」

「嫌よそんなの。心情的にも力量的にも無理。研修で見たけど、他の聖女の力じゃ3日で国全体に広がるわよコレ。なんで鉱山の底からこんなドス黒い魔力が流れているのか知らないけどさ」

 

 その言葉に押し黙るトーマス。

 

 ファイという少女は、昔から楽観論は振りかざしても楽観視だけは決してしなかった。

 これまではのらりくらり躱していたどれくらいの期間他の聖女で食い止められるかという事に回答をしたという事は彼女は計算を終えたのだろう。実際にどれくらいの時間を稼げるのかを。

 

「じゃあ、トーマス君。伝えてくれない? 私なら一週間はこの鉱山で抑えられる。けどそれ以降はこの街から外に漏れないようにするのが精いっぱいだって」

「承知しかねる! お前ひとりでいる意味はどこにもない! だったら俺が神官にジョブチェンジしてお前をサポートする! それなら!」

「……それよりもトーマス君にはやってほしいことがあるの。こればっかりはトーマス君にしか頼みたくないからさ」

 

 そんな、諦めしか思えない言葉の先に、涙を隠した願いを見て、トーマスはまた押し黙る。

 それは、聖女として強がっていた少女の精いっぱいの我がままだった。

 

 それしかないからやるしかなかった。だからファイはこうしている。

 けれど、私人としてのファイは、その先に可能性ともいえない妄想を見た。

 

「私を、助けて」

 

 自身がトーマスに助けられるといういつも通りの、日常の続きを。

 

 そんな言葉を発したファイは、泣き崩れそうになるのを堪えるただの18の少女だった。

 

 それに対してトーマスが返す言葉は一つしかなかった。

 

「……約束する、俺がお前の勇者になる」

 

 その言葉に「ずっと前からそうだったじゃん」とファイは笑った。

 

 

 

 

 

 この鉱山都市モルティニアから人民の避難が完了したのはそれから3日後の事だった。

 

 そして、この時最後に街から出て行った者は、この街に残る少女の前でジョブチェンジを行ったという。

 

 もはや特別ではないユニークジョブ、勇者へと。

 

 

 ────────────

 

 それから4年後、仲間たちとの幾度もの調査の末に発見した鉱山地下にある魔界へのゲートを閉じ、この世界を守り続けていた聖女に告白をした一人の男が居た。

 

 しかしその男はそれから先の人生で、引きこもり生活の味を占めた聖女のことで頭を悩ませることになるのだが、それはまた別の話。

 

 

 なぜならこれは、聖女が引きこもることで世界を救った物語の一幕なのだから


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