たっだいまー。
と、久しく耳にしていなかった忌々しい声を耳にして、手にしていた漫画が床に滑り落ちた。
胃の中におっきい漬物石が落ちてきたような圧迫感を感じてしまう。
どうしたって頭の上がらない、上位者。
おおよそ自分しか知らないはずのあのクソ姉貴の本性を、暴露してしまいたい衝動と、そうしたらきっと自分の人生が終わらせられるという恐怖とが、釣り合うことのない天秤の皿に乗っている。
母さん久しぶりー。元気してた?
と、この平凡な天音家の突然変異種は、その異常性をかけらも見せない様子で、ニコニコと笑顔を絶やさずにいるのだろう。
自分にしか見せられない、その笑顔の裏の吊り上がった口角。
どうしよう…………………………..
「永遠、あなたまた久遠に何かしたでしょ?」
「うぇっ!?!?!?!?」
「何したか知らないけど、久遠が凹んでる時は大体、永遠が何かしてた時でしょ?」
訂正、母は強い。
ぴゅーぴゅーと吹けてない口笛が聞こえてくる。吹いてごまかしているんだろうけど、きっと母さんは呆れ顔で、そして言ったって大して変わりやしないことも知ってるのだ。
「で、久遠は?」
「部屋にいるんじゃない?」
「ありがとー☆」
「先に荷物片付けなさーい」
「はーい」
そんなやりとりが扉越しに聞こえたところで、自分の脳が再起動する。
Q:ここは?
A:二階の自室
Q:逃げ道は?
A:無s「魔王からは逃げられないんだよ、愚弟」
「やめろよ姉貴…..」
少しばかり前に、ゲームの中で散々見ていた顔。
あまりに整っていて、美しさの具現と評するクラスの女子もいたけど、営業用の仮面が剥がれてしまえば、際立った美しさも恐怖を纏うのだというのが持論で、今となっては、その顔も見慣れてしまってありがたみを感じない。
というか恐怖の象徴なんだけど….
「で、なんでまた?」
「減点20」
「はいはい愚弟の持ち点はゼロですよーだ」
「キミはまさか愛しい姉の誕生日にプレゼントを用意してないとでも?」
「あっ」
「それはサプライズのためのごまかしと理解していいんだね?ね!?」
「こら永遠、久遠をいじめないの」
「ひゃっ」
魔王が聖剣の光によって討ち滅ぼされた(アイスバーが首筋に当たって飛び上がった)
「はい。久遠も」
「えー、ミルク味よりもチョコのがいいんだけどないの?」
「帰ってくるって聞いてたなら用意してたけど」
「ムゥ…あ、父さんは?」
「まぁほどほどの時間に帰ってくるでしょ」
「買ってきてもらおー!」
自由か。
(不続