Re:Dragon Storm Tale   作:しゃけ式

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10話までは毎日17時更新、そこからはストックが出来次第更新します。



プロローグ
1話 御伽噺のプロローグ


 今でも脳裏に焼き付いている、あの日の光景。

 

 

 

 ──決まったぁぁぁ! 十年無敗、無敵のダンデを破ったのは、ガラルの超新星、ユウリ選手だぁぁぁ!!!

 

 

 

 これまでついぞ見ることの叶わなかった、ダンデの切り札であるリザードンが倒れた姿。VIPルームから見たその瞬間は確かに歴史を変えた。

 

 

 悔しさよりも先に、涙がこぼれ落ちた。

 

 

 一体オレさまには何が足りなかった? オレさまには何故そうすることが出来なかった? そもそも何故オレさまは今ダンデ(ライバル)の前に立っていない?

 

 

 初めて土をつけられた屈辱を忘れたのは、いつだ?

 

 

 ダンデがユウリの腕を高らかに掲げる。新チャンピオンの誕生にガラルは沸き立った。

 

 

 涙を拭い、あの頃の記憶を辿る。

 

 

 あれは九年前。オレさまは名門ナックルユニバーシティを十歳で歴代最年少卒業を果たした天才少年であり、それを見たローズ委員長に初防衛を果たした一個上のチャンピオンとエキシビジョンマッチを組まれた。

 

 

 道楽で始めたポケモンバトルは流石のオレさま、天才的な頭脳で負け知らずだった。たとえ相手が元ジムトレーナーでも負けるビジョンは一切見えていない。

 

 

 そんなオレさまが、十一歳の新米チャンプに負けるとは露ほども思っていなかった。

 

 

 相手はガラルのヒーロー、良いところまで行ったらギリギリ負けて花を持たせてやろう。あの頃のオレさまは間違いなく調子に乗っていた。

 

 

 

 そしてその日、オレさまは初めて挫折を知った。

 

 

 

「──あ」

 

 

 いつものホテルで目を覚ます。一人で使うにしては広すぎるロイヤルスイートルームはシンと静まり返っていた。

 

 

「……またあの夢か」

 

 

 ガシガシと頭を掻きながら身体を起こす。忘れてはならない屈辱なのに忘れたくなるくらい苦い記憶。

 

 

 そろそろ次のジムチャレンジが始まる。確かオレさまからも推薦状を出せって言われてたっけな。だが安易にそんなものを渡してそいつの人生を狂わせてしまうかもしれないと考えると、やはり気後れしてしまう。

 

 

「……人生を狂わせる、か。はは」

 

 

 言い得て妙だと自嘲する。乾いた笑い声が霧散した。

 

 

 オレさまの人生はどこで狂わされた。ポケモンバトルに出会わずにユニバーシティで教授でもして、研究所の姉ちゃんと議論を交わしながら論文を書いていれば、今みたいに苦しまずに済んだのか。

 

 

 ……ふざけんな。このオレさまが後悔なんてするはずがない。今負けたのなら次勝てば良いじゃねえか。そうしないのは逃げであり怠慢であり、敗北だ。

 

 

 だが、ダンデは負けてしまった。オレさまの目標であった無敵のダンデは、ガラルの超新星によって敗北してしまった。

 

 

「本当、どうすりゃ良いんだよ」

 

 

 叶うなら、アイツがまだ無敗だった頃に戻りたい。ユウリに負ける前にオレさまがアイツに敗北を教えてやりたい。

 

 

 

 ふ、と。オレさまの目の前を薄赤いナニカが横切った。

 

 

 

 ポケモンか? 窓は閉めていたはずだが、一体どこから入ってきたのだろう。自然と目が吸い寄せられる。

 

 

 そこに居たのは、小さな身体でふよふよと浮いている見慣れないポケモンだった。羽らしきものに二本の触角。全体的にピンク色だからかアラベスクタウンの新人ジムリーダーを想起させる。

 

 

「おいおい、どうしたんだよおチビちゃん。オレさまの寝床に侵入なんてファンが知ったら卒倒物だぞ?」

 

 

 そう声を掛けるがそいつはクスクスと笑うだけで出ていこうとしない。しゃーねえ、ちょっとだけ遊んでやるか。

 

 

「にしてもお前見たことないな。ガラルのポケモンじゃねえのか?」

 

 

 ポケモンに関しては下手な博士よりは詳しいつもりだったが、パッと思い当たる名前は無い。もしかするとよっぽど珍しいポケモンだったり──

 

 

 

「──あ」

 

 

 

 浮かんだ名前に、俺は思わず間抜けな声を漏らす。色が違っていたから気付かなかった。

 

 

 通称ときわたりポケモン。森の神様として祀られることもある、時を自由に超えて気まぐれに人の前に姿を現す幻のポケモン。

 

 

「お前、セレビィか」

 

 

「ビィ!」

 

 

 正解とでも言いたげにセレビィはくるくる回り出す。しかもコイツは通常の色とされる黄緑色ではない。幻のポケモンの色違いなんて、この世界で一体何人が出会えたことがあるのだろうか。

 

 

「はは、そうかそうか。オレさまを慰めに来てくれたのか?」

 

 

「……?」

 

 

「何でそこはとぼけるんだよ」

 

 

 オレさまがツッコむとセレビィはイタズラっぽく笑った。何か可愛いなコイツ。

 

 

「にしても、何でオレさまの前に現れたんだ? ただの偶然か?」

 

 

「ビィ」

 

 

「まあ何でも良いか。……さて! ぼちぼち着替えてジムにでも行くか!」

 

 

 遅れたらアイツらにドヤされちまう。アイツらが出来るヤツらだからか甘やかしすぎたのか、かなりズバズバ言ってくるんだよな。その方が心地良いつってそういう空気にしたのは紛れもないオレさまなんだが。

 

 

「ビィ、ビィ!」

 

 

「ん? 何だ、まだ遊んで欲しいのか?」

 

 

「ビィビィ!」

 

 

 ふるふると頭を振って否定するセレビィ。やっぱりオレさまの前に現れたのには何か理由があるってことか? もしそうなら早く済ませて欲しいものだ。

 

 

「ビィ!」

 

 

「……ときわたりポケモン、ね」

 

 

 ふと脳裏に過ぎる。

 

 

 セレビィの力を使えば、オレさまはあの日を迎える前に戻れるんじゃないか? もう一度無敵のダンデを倒せる機会を貰えるんじゃないか?

 

 

「ってねーよ。ンな美味い話があるか」

 

 

「ビィビィ!」

 

 

「はは、戻してくれるってなら戻してくれねーか? あの日からろくに寝れねーんだ」

 

 

 ベッドに入ってもまぶたの裏に映るのはダンデの負ける瞬間。そこから走馬灯のように駆け巡るオレさまの敗北の数々。

 

 

 

 オレさまは無敵のダンデを倒したい。胸に刻んだ誓いは今もくすぶっている。

 

 

 

「ビィ!」

 

 

「ん? ……おわっ!?」

 

 

 突如セレビィが発光し、その光にオレさまも包まれる。やがて目の前が真っ白になり何もかもが見えなくなった。

 

 

 

 

 

 ──次に目を開けた時には、視界に広がる世界が一変していた。

 

 

 

 

 

 ここは……バトルスタジアムか……? いつの間にか服はいつものそれに着替えていて、目の前には崩れ落ちたジュラルドンが目を回している。

 

 

「……は!? 待て待て、どういうことだよ!?」

 

 

「ジュラルドン、戦闘不能! よって勝者、チャンピオンダンデ!」

 

 

「お、おい! この状況は何だ!?」

 

 

 そんなオレさまの困惑は、割れんばかりの歓声によって掻き消される。ようやく周りを見渡せば、そこはいつかのシュートスタジアムであり、対戦相手はやはりダンデだった。

 

 

 リザードンポーズを決めるダンデは無敵の証であるマントを身に纏っていた。

 

 

 それはユウリに負けた時にユウリへ渡したはずだろ。何でお前がまだ持って──

 

 

「キバナ! 最高のバトルをありがとう! やっぱりキバナは最高のライバルだぜ!」

 

 

 ポーズを終え、ダンデはバトルの後でグチャグチャになったフィールドを歩いてきた。このセリフには聞き覚えがある。

 

 

 今から一年ほど前、つまり前回のジムチャレンジが始まる前に行ったエキシビジョンマッチの時に聞いたダンデの激励。

 

 

 ……てことは、次に言う言葉は──

 

 

「今年は俺の弟がジムチャレンジに挑む年なんだぜ! キバナもうかうかしてると足元を掬われるかもな!」

 

 

「……はは、マジかよ」

 

 

「? 無論マジだ! なんせホップは自慢の弟だからな!」

 

 

 そうじゃねえ、そうじゃねえよ。そんなことは正直どうだって良い。

 

 

 

 間違いない、オレさまは本当に過去に戻っている。無敵のダンデがまたオレさまの前に立っている……!

 

 

「なあダンデ」

 

 

「どうした?」

 

 

 思わず笑みが零れる。今のオレさまの笑顔はバトルの時に浮かべているような、獰猛な威嚇のそれなんだろうと自覚する。

 

 

 

 だって、なあ?

 

 

 

「今年。お前は初めて敗北を味わうぜ」

 

 

「どうだろうな。俺は強いぞ」

 

 

「だからこそ倒しがいがあるってもんだ」

 

 

 ダンデに膝をつかせるのはホップでもユウリでも、他の誰でもない。

 

 

 

 

 

「今度こそ、オレさまはお前に勝ってみせる。無敵のダンデに敗北を教えるのはオレさまだ」

 

 

 

 

 

 試合後の自撮りなど忘れ、オレさまは十年無敗であるガラルのヒーローへ宣戦布告をしたのだった。

 

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