Re:Dragon Storm Tale   作:しゃけ式

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4話 VSクチナシ②

 マリエシティの外れにある海沿いのバトルフィールド。昼過ぎのこの時間はほとんど人がおらず、波の音がよく聞こえてきた。

 

 

 潮の香りが鼻腔をくすぐる。だがそんなことは一瞬で気にならなくなるくらい、クチナシさんの威圧感はとんでもなかった。

 

 

「さて、ガラルのあんちゃん。ルールはどうする? フルバトルでも1on1でも、シングルでもダブルでも何でも受けて立つぜ。これはあんちゃんの武者修行だ」

 

 

「ありがてぇ。ならとりあえず二対二で良いか? あとバトルは勿論シングルだ」

 

 

 トーナメントではシングルバトルが基本。そこを強化しないことにはダンテを破ることなど夢のまた夢だ。

 

 

「ん。……あー、審判忘れてたな。戦闘不能は各々の判断ってことで」

 

 

「了解。じゃあ始めようか!」

 

 

 自然と口角が吊り上がる。バトルが始まる前だというのに、全身の血がふつふつと燃え滾る錯覚を覚えた。

 

 

「オレさまからポケモンを出すぜ! 行ってこい、ギガイアス!」

 

 

 子気味良い音を立てて出てきたギガイアスはズンと地面を踏みつける。同時に砂嵐が吹き荒れ出した。

 

 

「砂は見え辛くなって嫌いなんだよな。……さ、行ってこい。ペルシアン」

 

 

 対してクチナシさんの出したポケモンはアローラの姿のペルシアン。確かあくタイプだったな。個体によって直接攻撃に強いヤツや細かい攻撃が得意なヤツと戦闘スタイルが大きく変わるポケモン。

 

 

「うし、じゃああんちゃん」

 

 

「おう! 始めるぜ!」

 

 

 お互い砂嵐の向こうに見える相手の目を確認して小さく頷き合うと、同時に指示が飛んだ。

 

 

「ギガイアス、ストーンエッジ!」

 

 

「猫騙しだ」

 

 

 ギガイアスが力強く地面を踏みつけると、天へ突き上げる鋭い岩が連続してペルシアンへ迫る。しかしそのいずれもペルシアンは躱し、ゼロ距離でギガイアスの視界を潰す。

 

 

 受けはせずに躱した。恐らくあのペルシアンは細々(こまごま)した攻撃を重ねるテクニシャンの個体なんだろう。

 

 

「続いて辻斬り」

 

 

「受け止めろ!」

 

 

 発達した鋭利な爪でギガイアスを斬り付ける。しかしギガイアスは一瞬怯むも殆ど意に介しておらず、そのままペルシアンを前足で押さえ付けた。

 

 

「ボディプレス!」

 

 

 ズシンとペルシアンを押し潰す。これはクリーンヒットした。少なからずダメージを与えられただろう。

 

 

 だが次の瞬間、バリッと言う音が耳朶を打ち、ギガイアスが電撃に貫かれた。

 

 

「ハハ、ダメージが入ったと思ったかい? 読みは良かったんだがな」

 

 

「……テクニシャンと思わせたのはブラフか」

 

 

「初めに猫騙しをさせれば強くて知識のあるヤツほど引っかかってくれるんだわ。人間ってのは理由を付けてやったらその通りに動いてくれるからわかりやすい」

 

 

 たまらず巨大な身体を横転させるギガイアス。その隙にペルシアンは数度辻斬りを当て、距離をとった。

 

 

 ……最初はクチナシさんに軍配が上がったか。オレさまだってガラルじゃナンバーツーって認識されてるんだがな。

 

 

「はっはっは! クチナシさん、やっぱアンタ最高だぜ!!!」

 

 

「期待に添えられたんなら何よりだ」

 

 

「さあこっからはオレさま達で反撃していこうぜギガイアス!!! ステルスロック!」

 

 

 身体を起こしたギガイアスは辺りに岩の罠を仕掛ける。ギガイアスを起点としてどこにそれが配置されているかはオレさま達なら全て把握済み。後は()()()追い詰めてフィニッシュだ。

 

 

「こりゃ下手に動かねぇ方が良いな。10万ボルト」

 

 

「ギガイアス! 避けろ!!!」

 

 

「避けろか。動きの遅ぇそいつにゃ悪手じゃねえのかい」

 

 

 凶悪な威力を持った雷撃がギガイアスへと襲い掛かる。

 

 

 しかし、そこには既にギガイアスは居ない。

 

 

「仕留めろ!!!」

 

 

「前後左右に気を配れ。ああいうのは横の攻撃しか……、っ! すまん上だ!!」

 

 

 ここに来て初めて焦った様子のクチナシさんだがもう遅い。空中からのボディプレスに、ペルシアンは今度こそ為す術なく押し潰された。

 

 

 そしてダメ押しのストーンエッジ。ギガイアスが横へ避けると同時にペルシアンは真下からの岩に突き上げられて宙を舞う。

 

 

 身体で着地した時には、既にもう意識は無かった。

 

 

「……こりゃ戦闘不能だな。戻りな、ペルシアン」

 

 

「っしゃ!」

 

 

 クチナシさんはモンスターボールにペルシアンを戻す。腰に下げた別のボールを手に取ると、一本取られたと言いたげに笑い声を零した。

 

 

「ギガイアスに見合わないあの速度に跳躍力。ボディパージかい」

 

 

「見破るのが早ぇな! 10万ボルトを使った時点で下手に動かない方が良い状況の時は留まるってのは見えたからよ、そういう場合の勝ちパターンを取らせてもらったってわけだ」

 

 

「油断したつもりは無かったが、どうやら初めが上手くいったせいで気ぃ抜けてたのかもしれねぇな。……ギガイアスの技はストーンエッジにボディプレス、ステルスロックにボディパージ。何だか舞台を整えるためみたいな技構成をしてやがる。本来はダブルバトル専門か?」

 

 

「この一瞬でそこまで見破ったヤツはクチナシさんが初めてだぜ」

 

 

 ぼーっとしてるように見えて細部まで見えているクチナシさんの観察眼には目を剥く。やっぱ凄ぇ人なんだな。

 

 

 余談だが、クチナシさんがギガイアスの技を四つで予想したことには理由がある。本来ポケモンバトルに五つ以上技を使ってはいけないというルールは存在しないが、どうしても人間に知能が劣る以上五つ以上覚えさせると大体どれかは疎かになる。エスパータイプのようなポケモンはまた例外だが、ポケモンバトルが生まれて数百年間、先鋭化された四つの技というのは最も効率が良いとトレーナーの中で常識になっていた。

 

 

 現にギガイアスはその四つだけだ。まああんまり多くてもトレーナーがその時々に見合った技を指示出来ないしな。それでタイムロスに繋がれば本末転倒も良いところ。

 

 

「次のポケモン行くぜ。瞬殺するが恨むなよ」

 

 

「出来ることならな!」

 

 

「行ってこい、ドンカラス」

 

 

 続いて出てきたのは漆黒の翼を身にまとった大きなドンカラス。額からくちばしの左側にかけて入った古傷は歴戦を思わせる。

 

 

「不意打ち」

 

 

「相手は飛ぶヤツだ! 受け止めろ!!!」

 

 

 ギガイアスは襲い来る衝撃に構えて前足を踏み込む。しかしドンカラスは超近距離をスレスレで避けていく。

 

 

「は?」

 

 

「左後ろ足」

 

 

 ガン! と硬い何かがぶつかる音が響く。前方へ重心を置いていたギガイアスは堪らず体勢を崩した。

 

 

「顎。次に腹。そこから背中へ」

 

 

 目にも止まらぬ速さで三連撃がギガイアスへ直撃する。不意打ちはあくタイプの技、恐らく残り僅かの体力だ。せめて最後に一撃は……。

 

 

「……お、おいギガイアス!」

 

 

「よくやった」

 

 

 が、その機会が訪れる間もなくギガイアスは崩れ落ちる。目を回していた、明らかに戦闘不能。

 

 

「……不意打ちじゃなかった?」

 

 

「いーや、初めのだけは不意打ちだ」

 

 

「解説どうも」

 

 

 オレさまはギガイアスをボールへ戻す。今の状況に説明がつくものを必死に考える。

 

 

 恐らく今のは不意打ちに見せかけた鋼の翼。思い返せば直撃音はそんな感じだった。

 

 

 しかし恐るべきは、砂嵐により視界不良であることのを思わせない程の攻撃精度と、不意打ちにさえ見えるドンカラスの練度。

 

 

「クチナシさん! アンタこの地方で何番目に強いんだ!」

 

 

「考えたこともねぇが……、そうだな。ガラルのあんちゃん、島巡りってのは聞いたことあるか?」

 

 

「ああ! 若者が各島の試練を突破してその島の長が大試練と称してバトルする風習だろ!」

 

 

「おれぁその島の長、しまキングだ。多分アローラ地方じゃ……、ハラの旦那と並んで一番強ぇんじゃねえの?」

 

 

「なるほどなぁ! そんな人とバトルが出来て光栄だ!」

 

 

「そのおれと渡り合ってんのはガラルのあんちゃんなんだけどな」

 

 

 ようやく懐石料理屋での運が良いって言われた発言の真意を理解出来た。

 

 

 ……この地方のチャンピオンクラスといきなりバトル出来るなんざ、運が良い以外の何者でもねぇ!

 

 

「改めて自己紹介をするぜ! オレさまはキバナ! ガラル地方のナックルジム、ドラゴンストームのトップジムリーダーだ!」

 

 

「はは、そりゃ強ぇのも納得だ」

 

 

「さあ行くぜフライゴン! 派手にぶちかましてやろうぜ!」

 

 

 選んだのはフライゴン。四角の翼を大きく広げ、雄叫びを上げる。

 

 

「クチナシさん、退屈させないでくれよ!!!」

 

 

 オレさまはフライゴンに呼応するように、デカい声でクチナシさんへ吼える。

 

 

 犬歯を剥き出しにした獰猛な笑顔とは裏腹に、手には確かに汗が滲んでいた。

 

 

 

 

 

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