怖い顔。相手に恐怖心を植え付けて萎縮させ、以降の相手の動きを遅くさせる技。
まさしく今コータスがされた技はそれで、一瞬硬直したせいで炎の渦の完成が遅れた。その隙にウォーグルには回避されてしまう。
「キバナ! 今のキミが考えてることは手に取るようにわかるぜ! 何故五つ目の技をウォーグルが使えたんだってな!」
ククイ博士は得意げにオレさまを挑発してくる。踊らされていたのはオレさまだったってか!?
「武者修行って聞いたからさっきのぼくのビジョンを伝えるよ! まずインファイトを見せた時、キバナの頭の中にはウォーグルのとる技の選択肢は見せた四つのどれかだと浮かぶ! その時点で不意の技が来た時に思考が止まると読んだ!」
何一つ言い返せない。事実オレさまは予想外の自体に判断が一瞬遅れた。
「次にキバナの狙っていること! 現時点で見えている技はソーラービームと炎の渦のみで、恐らく機動力のあるポケモンを相手にする時はソーラービームで一度動きを止めてから炎の渦で固定、そして大技を繰り出す! この流れだと読んだ! だとすると至近距離ではソーラービームの必要が無いから確実に炎の渦を撃つわけだ!」
これもそう。ことごとく見抜かれている。
「最後に至近距離で勢いを失ったウォーグルは炎の渦を抜けられない! 抜けようとしても高速移動を使う必要がある! そうすればウォーグルは制御を失いかねない! だけどな、キバナ!」
ククイ博士はにかっと笑顔を浮かべる。爽やかという言葉が似合う。
「相手より速く動く方法は、自分が速くなる以外に相手を遅くするってのもあるんだぜ! そうすれば自分は制御を保ったまま今以上に速くなれる!」
「……はは、なるほどな。クチナシさんがククイ博士をアローラトップだって言った理由がわかった気がするよ」
悔しいが今の攻防は明らかにオレさまの実力不足による敗北。ポケモン自体には練度の差を感じなかったが、それでも完敗だった理由はオレさまとククイ博士の間に大きな差があったから。
「だが一つだけまだわからねぇ。何でウォーグルは五つ目の技を使えた? まさか博士ともあろう人間が四つより多く技を覚えさせたら動きが悪くなることを知らないわけじゃあるまいし」
「怖い顔とブレイブバード、これは同じ技か?」
「は? いや、違うに決まってんじゃねえか」
「そう、違うんだ。なのに脳に割くリソースは同じっていうのは、おかしな話だと思わないか?」
「……!」
言いたいことを理解する。確かに言われてみればそうだが、はたしてそれを実戦に取れ入れられるものなのか……?
「例えばウォーグルには技を覚えられるリソースが20あるとする。攻撃技であるブレイククローとブレイブバード、そしてインファイトをいずれも6ずつ、そして簡単に行える高速移動と怖い顔を1ずつとしたら、合計18+1で20になる。これでウォーグルのパフォーマンスを落とさずに五つの技を使えるってわけだ!」
ああ、理屈は理解したが、実戦に持ち込めるかと言われると首を捻らざるをえない。だってそんなの、正しいかわからねぇじゃねぇか。
……いや、こういう変なところでリアリストなのがダンデに負ける原因なんじゃないか? もし可能だったらめちゃくちゃ有効な一手だ。
現にガラルのトップジムリーダー、ナンバーツーであるオレさまが良いようにやられた。
「礼を言うぜククイ博士!!! オレさまはまだまだ強くなれる!!!」
「そうこなくっちゃなぁ! じゃあ解説の時間は終わりだ! 決めにかかるぜ!」
今までの流れは把握したとはいえ、現状はオレさまが圧倒的に不利。加速しているウォーグルに減速しているコータス。幸いウォーグルには直接攻撃しかないため遠くからちまちま削られるなんてことは無いが、そもそも速さに対応出来るかどうか。
……なんてな! こっちにはまだ見せてねぇ技が二つもあるんだよ! 勝ち筋はもう見えている!!!
「ウォーグル、ブレイブバードで楽にさせてやるんだ!」
「引きつけろよコータス! 逆転の手はそこから始まる!」
ウォーグルはまるで放たれた矢のような速度でコータス目掛けて突撃する。
まだ、まだだ。残り一秒にも満たないタイミングで──
「今だ!!! ジャイロボール!」
「おお、そう来たか! なるほどな!」
コータスのジャイロボールはウォーグルにクリーンヒットする。
ジャイロボールは相手との速度の差があればあるほど威力の上がる技。まして相手は高速移動を積んだ後で、こちらは怖い顔で動きが遅くなっている状態。
まさにお
「この隙に炎の渦!」
ボウッとウォーグルのまわりを炎の包囲網が囲む。いきなりのダメージに怯んでいる間、これがコータス最後の勝機だ!
「煉獄!!!」
あまりの威力に命中する確率は普通の技と比べて大幅に低い。
しかし、炎の渦で相手の位置を固定している場合は?
これがコータスによる、機動力のある相手を倒す方法だ。
「ウォーグル戦闘不能」
「よっっっし!!!!!」
クチナシさんの宣言を聞いた瞬間、オレさまは全身を使ってガッツポーズをする。ここから逆転出来て良かった……!
「やるなぁキバナ! まさかコータスにやられるとは思っていなかったぜ!」
「はは、言ってろ! さあ次のポケモンだ!」
「言われなくても! 行ってこい、ガオガエン!」
次に出したのは悪役レスラーのような外見をしたポケモン。筋骨隆々としたガオガエンは一目見ただけで強いとわかった。
「コータス! 近付けさせる前にソーラービームだ!」
「そのまま進め!」
コータスは何度もソーラービームをガオガエンへと撃ち込む。しかし当のガオガエンにダメージを負った様子は一切無い。
「DDラリアットだ!!!」
甲羅を掴み、首元を露出させた状態で腕を思い切りコータスの首を打ち付けた。
たったそれだけで、コータスはくずおれた。
「コータス戦闘不能」
オレさまはよくやったと労いの言葉を掛けてボールに戻す。正直コータスの技構成でガオガエンに勝てるとは思えなかったし、言ってしまえばある意味順当と言えるだろう。
「さあ、勝ってきてくれ。ヌメルゴン!」
オレさまが二体目に繰り出したのはヌメルゴン。気合十分な顔つきをしていた。
「二体目はヌメルゴンか! 良いポケモンを育てているんだな!」
「ああ! 自慢の相棒だぜ! ……さて、雨乞い」
コータスによって強くなっていた日差しがみるみるうちに雨へと変わっていく。相手がガオガエンだったことはラッキーだった。
「ガオガエンにとっては不利な状況だな。まあでも逆境を跳ね返してこそ、ぼく達は輝く! そうだよな! ガオガエン!!!」
ククイ博士の呼び掛けにガオガエンはめちゃくちゃな声量の咆哮で応える。お互いの信頼が透けて見えるようだ。
「ヌメルゴン! アクアテール!」
「受け止めろ!」
雨で威力の上がった、それも自身の弱点であるアクアテールを歯を食いしばって受け止めた。さっきのウォーグルの時のような理知的なバトルとは一点、原初の強さを競うようなシンプルな殴り合い。
「ガオガエン! アイアンヘッド!」
「耐えろヌメルゴン!」
ガシっとヌメルゴンの後頭部を掴んで鉄の硬度を誇る頭を相手の頭へ打ち付ける。ヌメルゴンはよろめいた。
「次! げきりん!」
思いっきり右拳を振りかぶり、横っ面を殴り倒す。しかしガオガエンは倒れない。
「リベンジでやり返してやれ!」
今までの痛みを全て返すかのようにぶちかましをヌメルゴンに浴びせる。ヌメルゴンはたたらを踏んだ。
「もう一発!!! げきりん!!!」
今度は反対の拳で殴りつける。まだガオガエンは耐える。
「……よし、ガオガエン。決めるぜ」
そう告げた直後、ククイ博士の腕輪とガオガエンが光を帯びる。
これは昨日クチナシさんと勝負した時にも見た、Z技。
「これがぼくたちの全力!!! 行くぜ相棒!!!」
「来るぞヌメルゴン!!! ここを耐えたらお前の勝ちだ!!!」
「ハイパーダーククラッシャー!!!!!」
ガオガエンはまるでリングのコーナーからジャンプしたのような跳躍力で飛び上がり、その位置エネルギーをまるごと破壊力に変えてヌメルゴンにボディプレスをした。
モロに直撃する。はたしてヌメルゴンは──
「──よく耐えたぞ!!! カウンター!!!!!」
今受けたZ技をそのまま、いやそれ以上の威力でまるまる返す。
ガオガエンの巨大は宙を舞い、次に地面に落下した時、動く素振りは見せなかった。
「……こりゃ戦闘不能だな。よって勝者、ガラルのあんちゃん」
「っしゃあ!!!」
両腕を空に突き上げて喜びを全開にする。途中危ないところはあったが、最後はこうして勝てた。よくやったぞ、コータス、ヌメルゴン!
オレさまとククイは戦ってくれたポケモンをボールに戻すと、どちらからともなく中央へ歩み寄った。
そして、クチナシさんの時と同様握手を交わす。
「ありがとうキバナ! おかげでぼくもまだまだだと思い知ることが出来たよ!」
「そりゃこっちのセリフだ! ククイ博士のおかげでオレさまにはまだ足りないものがあると実感出来た! ありがとな!」
「撮影はお任せロトー!」
「おお、それはスマホロトムか! ガラルも面白いことを考えるよな!」
オレさまはシャッターの瞬間ウインクを決め、今の瞬間を形に残す。
「ククイ博士、これポケスタに上げても大丈夫か?」
「勿論さ! そうか、武者修行で戦った相手をアップしていくんだな。今後のキバナの投稿が楽しみになるよ!」
戦った相手のアップ。ファンサの一環としか考えていなかったが、よく考えてみるとそれはオレさまにとっても有益なことだ。
その写真を見返すだけで、その時感じた熱さを思い出すことが出来る。
「……そうだキバナ! キミに一つあげたいものがある!」
「何だ?」
「これだよこれ! Zリング!」
ククイ博士は自分がしていたそれを外し、オレさまへ差し出す。細かい傷は今までのバトルの勲章のように思えた。
「ありがたいけど、良いのか? これはククイ博士のもんだろ?」
「実は家にまだ何個か予備があるんだ! それにぼくのZリングであの無敵のダンデを倒せたら熱いだろ?」
「……ハハッ! 確かにな!」
「ただZクリスタルがガオガエンZとノーマルZくらいしか渡せそうなものがないんだよな。それでも良ければ渡すんだが……」
「それならオジサンのをやるよ。ドラゴンZ」
クチナシさんが手渡したのは紺色に輝く菱形のクリスタル。中央には渦のようなものが描かれていた。
「ポニ島の大試練も受け持ったりするからよ、いくつか持ってんだ」
「そうか! ありがとうな、クチナシさん!」
Z技か……! こりゃ良い切り札になりそうだ! 二人には感謝してもしきれないな!
「それはそうとガラルのあんちゃん、次はどうするんだい?」
「ん、クチナシさんの言うハラって人も強いらしいから、オレさまとしてはその人でも良いんだが……」
「ぼくはキバナの武者修行がどこを回るつもりなのかはわからないけど、もし全世界を回れるんなら一つ良い場所があるぜ」
唸るオレさまを見てククイ博士はにかっと歯を光らせる。ククイ博士のオススメなら期待出来そうだな。
「最近聞いた話なんだが、イッシュ地方には何十年も変わらなかったチャンピオンが居たそうなんだ」
「それならオレさまも聞いたことあるぜ。確かアデクって人だったよな」
「それがつい最近、王座を陥落したらしい。奇しくもキバナ、キミと同じドラゴン使いだぜ」
「……!」
そうだったんだな……。一年後からときわたりをしているのに知らなかったってことは、余程追い詰められていたってことか。
あのアデクを打ち負かし、あまつさえそれがドラゴン使いとなりゃ、行くしかねぇよな!
「情報感謝するぜ、ククイ博士! じゃあ次に向かうところはイッシュにする!」
「頑張れよキバナ! それとぼくも、キミとのバトルである夢を叶えようと思ったよ!」
「夢?」
一体何だろうかとオウム返しした。ククイ博士の夢。興味がある。
「このアローラ地方にポケモンリーグを作るんだ! 今みたいな熱いバトルを繰り広げられる施設! そこで決まるのはアローラ最強の称号だ!」
「ははっ! 良いじゃねえかククイ博士! もし完成した日にはエキシビションマッチでも良いからオレさまを呼んでくれよ!」
「勿論だぜキバナ!」
最後にもう一度力強い握手を交わす。
願わくば、アローラのポケモンリーグが開設されたその時は。
ガラルの新チャンピオンとして、呼んでもらいたいものだ。