旅の途中
朝早く、私は、近くにあった木に寄りかかります。そこから、雲ひとつ無い空を見上げていると、まるで私のようです。
日課とは言いませんが、魔法使いといえど、体を鍛える必要があります。そんな訳で、素振りや突きなどをしていたのですが、それも終わり、一休みをしています。
こうして日陰に入るのも、冷たくて気持ちいいですが、やはり汗は拭いたいものです。それに、万に一つでも、師匠が自分で起きると、忙しくなる可能性があるので、用は早めに済ませるべきです。
この宿には、備え付けの浴場があって良かったです。この時間では入浴は出来ませんが、自由に使う許可も得たので、水を使って体を拭くくらいは出来ます。
浴場で桶に水を組みます。水に写る私の姿、それは、師匠と比べると、とてもとても見劣りします。目付きの悪そうなツリ目は、機嫌悪そうとか言われます。師匠への憧れで、髪を伸ばしてはいますが、私の青い髪では、印象が全く違います。それに、師匠のある部分が、とてつもなく羨ましいです。
そんなことを考えながら、濡らしたタオルで体を拭きます。やはりお風呂はいいものです。入浴は出来なくても、体を拭くだけで、さっぱりします。
さて、着替えも済みましたし、師匠を起こすとしましょうか。
私は、気合を入れて2階へと向かいます。
宿の人には、危ないからと言われ、2階の高めの部屋になりましたが、宿側の作戦でしょうか?
ですが、もう泊まってしまった以上、何を言ってもしかたありません。
そう考えていると、泊まっている部屋へと着きました。
親しき仲にも礼儀ありです。なので、扉をノックします。
「師匠、起きてますか?」
少し待ちますが、一切反応がありません。やはり、この程度では起きません。流石は、師匠です。
開けますよ。
そう言いましたが、聞こえているわけはありません。寝てますから。
気合を入れましたが、やはりダメでした。
師匠は何故、このような格好で寝るのでしょうか?
長袖のシャツ1枚です。しかも、ボタンは、何個か外れています。それでなくても、長い銀髪にタレ目、それに、左目の目元にある泣き黒子。人の目を引く要素がつまりにつまっています。
そして、シャツを押し上げる巨乳。
まさしく人を惹きつけ、目を奪います。
それに比べて私は……
「師匠、いい加減に起きてください」
この違いという怒りを抑えず、睡眠の邪魔をすることで、憂さ晴らしをします。
「師匠、朝ごはんを食べそこねますよ」
ダメです。起きません。何故、師匠はここまで寝ていられるのかわかりません。私は、早い時間に目が覚めるというのに。
「師匠、そろそろ起きないと、依頼を受ける時間がなくなりますよ。そうなったら、旅費にひびきます。このベッドが使えなくなりますよ」
「う~~ん。後少し~」
どうやら峠は越したようです。後一息です。
「この街の美味しいジャムを食べないのですか? 起きないのなら、私一人で食べてしまいますよ」
「それはだめ~」
そう言いながら、師匠が体を起こしました。
そのタレ目のせいで、起きたのか寝ているのかわかりませんが、きっと起きました。起床です。
私は、起きた師匠に濡れタオルを渡します。
師匠はそれを受け取り、顔を拭きます。ここまでくれば、しっかりと目が醒めるでしょう。
「おはよう、カノン。いい朝だよね」
「おそようございます、師匠。確かに朝ですが、早くはありません」
私は、師匠を起こした達成感に浸っています。ですが、気を抜くとすぐに寝るので、厳しくせっします。
「カノンは厳しいね。じゃあ、準備しますか」
そういうと師匠は、ベッドから出て準備をします。私も準備をしますが、するほどのことはありません。杖を手に取るだけです。魔法協会へ行って、依頼を受けたら、また戻ってくるのですから。
「師匠、朝ごはんを食べたら、魔法協会へ行きますよ」
「りょ~かい」
こうして、私達の一日が始まります。
朝食に舌鼓を打った後、魔法協会へ来ました。
ここでは、様々な依頼の斡旋を行っています。魔法使いには、登録魔法使い・下級魔法使い・中級魔法使い・上級魔法使いという階級が存在します。試験に受かれば上の階級に行けるのですが、諸事情により機能していません。
そして、私達は――
「登録魔法使い、カノン=フェアリです。こちらは――」
「登録魔法使い、フィーネ=A=グリードですよ。後はこの子に任せるので、終わったら教えてね」
師匠は、そういいながら、登録証を見せると、すぐに待合室の椅子へ行き、杖を抱え込みながら寝ようとしています。確かに、あの場所は日が当たって気持ちよさそうですが、いつもながら、手伝ってくれてもいいと思います。
受付のおばさんも苦笑いしています。
「はいはい、いつもの登録魔法使い二人ね。しっかし、最近は昇格試験を受けない人が増えたねぇ。まぁ、わたしゃが言うのもあれだけど、階級制度なんて、貴族が見栄を張るためにしか、働いてないからねぇ」
「奥で、偉いと思われる人が、睨んでますよ」
流石に、魔法協会の職員が言うのはまずいでしょう。受付のおばさんも少し肩をすくめて反省したふりをしています。まぁ、しかたありません。頑張っても一般人では下級魔法使いが関の山ですし、崩壊している制度ですから、昇格する利点も、ほぼないです。
「それで、メンバーは二人ですが、今日はどんな依頼がありますか?」
「そうさねぇ。ここ数日、簡単な依頼しか受けてないから、自己申告の実力を聞かないと、どうにもまらないさねぇ」
実力を示す階級が役に立たないのですから、どんな依頼を受けるかは、自己責任ですからね。
「私は、そこそこですが、師匠は、とても強いです。魔獣討伐とかだと、楽なのですが」
「魔獣ねぇ、狼の群れが魔獣になったのなら、討伐依頼が出てるねぇ。数は不明だけど、沢山いるって話だよ。後、群れの主もいるとかで」
「そうですか。では、それでお願いします」
「いいのかい? この依頼、結構前から出てるんだけど、何人もの魔法使いや剣士が討伐にいって、達成出来てないんだよ」
「大丈夫です。魔素に毒された狼なんて、敵にはなりません」
そう。魔法を使うために必要な魔力の材料である魔素に毒された獣に、遅れは取りません。
手続きを済ませ、私達は準備をするために宿へ戻ります。
師匠を起こすのは大変でした。
私達は、準備を済ませ、狼型の魔獣討伐へ向かいます。
「カノン、目的地まで、任せていい?」
「はい、私だけでも大丈夫です。所詮は魔素に毒された狼です」
「主がちょっと気になるのよね。元々の魔獣かもしれないわね」
魔獣には、2種類います。かつて魔族が対人間用に放った生物兵器である魔獣と、空気中の魔素に毒され変化した魔獣。この2つには、実力差があります。生物兵器としての魔獣の方が強いです。ですが、外見などでは区別がつきません。舐めてかかると痛い目を見ます。
「わかっています。ですが、見れば分かりますし、本来の魔獣でも、敵ではありません」
「まぁ、危険なことはしないでね」
はい。わかっています。
そのまま森を歩きます。狼の群れの巣は、山を少し登った辺りにあるそうです。ですが、街道を外れれば、すぐに魔獣が現れます。その時は、景気づけに一発決めましょうか。
「師匠、狼型の魔獣です。どうやら、毒されたほうのようです」
「そうね。前衛やる?」
「いえ、大丈夫です。師匠を狙ったときだけ、対処してください」
群れから離れているようで、一体だけです。
私は、狼型の魔獣に注意をはらいながら、空気中の魔素と体内にある
ただの純粋な魔力を作り上げても意味がありません。そこで、詠唱です。言霊に載せることで、方向性を与えます。さらに、杖に仕込まれた核石を媒体とすることで、目的を明確にします。
この依頼は結構前から出ていると言われましたが、魔獣が力を付けるほどの時間は立っていません。でしたら、そこまで強力な魔法を使う必要はありません。
詠唱し、魔力を練り上げる。後は、締めに魔法の名前を唱えるだけです。
「『
第二属性である火の魔法です。威力は高くありませんが、詠唱が短いので重宝しています。この属性と、第三属性の風は、私にとって、得意な属性です。この属性に関しては、そう簡単には負けません。
普通の狼と同じくらいの大きさの火球が現れます。そのまま狼型の魔獣へと直進し、衝突します。結果は、わざわざ見るまでもありません。跡形もなく焼き尽くしましたし、地面には少し穴が開いています。
「師匠、先へ進みましょう」
「そうね。相変わらず、第二属性の威力は大したものね。でも、第一属性の地や第四属性の水もちゃんと練習してね」
うぐ……
師匠は痛いところを突きます。ですが、苦手なわけではありません。火や水ほど得意ではないだけです。そう。得意ではないのです。苦手ではありません。
「人並み以上には、使えています。ですから、急ぐ必要はありません」
「ふふ、そうね。カノンは、努力したものね」
そういうと、師匠は前を歩きます。私を拾う前から旅をしているのですから、前を歩かれても心配はありません。ですが、師匠に心から頼られてみたいものです。
歩いていると、何度か狼型の魔獣と遭遇しましたが、苦戦はしませんでした。私の『焔』で十分です。
「止まって」
師匠の指示です。ですから、足を止めます。理由も、すぐにわかりました。
「群れがいるので、巣でしょう。それに――」
「ワーウルフね。本物の魔獣が、狼型の魔獣の群れを支配したのね。いい、カノン。私がワーウルフと戦うから、カノンの方に行ったのだけ、対処して」
「わかりました。大丈夫だとわかっていますが、無理はしないでください」
「私の心配するなんて、大きく出たわね」
心配はします、無駄でしょうが。
「それでは、ここから援護の用意をします」
「お願いね」
師匠はそういうと、巣の方へ飛び出します。さらに、移動しながら詠唱をし、魔法の準備をしています。私にも出来なくはありませんが、師匠ほどの速度と威力は出せません。
「『焔』」
師匠の声が響き渡ります。本当に早いです。さらに、私の『焔』と比べると、倍以上です。着弾地点に火柱が立つほどです。そのまま周囲を巻き込んでいます。群れの中心に撃ち込んだだけで、半分近くを倒しました。俊敏な狼型は、『焔』を見てから、動き出しましたが、その大半が間に合いませんでした。
ですが、流石はワーウルフと褒めて起きましょう。しっかりと『焔』を避けています。二足歩行が可能ということで、脚力が強いのでしょう。
回避した後で、私を見つけたのか、こちらへ向かっています。ですが、私とてただ見ていただけではありません。
しっかりと、魔法の準備をしていました。ですから、ワーウルフへと、魔法を放ちます。
「『
時間もたっぷりありましたから、しっかりと詠唱を唱えました。『焔』よりも協力な『轟炎』です。大きさは倍くらいあります。師匠の『焔』よりは若干小さいです。ですが、ほとんど同じくらいです。ええ、ほとんど同じです。
私の『轟炎』がワーウルフへと放たれました。
ワーウルフは、咄嗟に両手を交差させ、防御します。ですが、大した意味もなく、ワーウルフを飲み込みました。そのまま、巣の入り口付近の山肌へとぶつかります。ワーウルフは黒焦げになり、形が崩れていきます。それを確認すると、私は師匠を探しました。
師匠は、私がワーウルフへと攻撃した間に、群れの殲滅をしていました。あの短時間でほぼ片付いています。流石は師匠です。
「師匠、証拠を持っていくので、残りをお願いしていいですか?」
「んー、いいよ」
師匠はそのまま魔獣と化した狼を倒していきます。といっても、残りは片手で数えられるほどです。
私は、その間にワーウルフへと近づきます。両手で防御したお陰で、黒焦げではありますが、頭部が残っています。正直、運が良かったです。焼き尽くした場合、証明が難しく、確認のために、魔法協会の鑑定人を連れてこなければいけません。それは二度手間ですし、護衛もするので面倒です。
黒焦げの頭部を袋に詰め込み、口をしっかりと締めます。
「終わった?」
後ろから師匠に声をかけられました。こちらの台詞のような気もしますが、師匠の方が先に終わったのですから、師匠の台詞です。
「終わりました。では、帰りましょうか」
「帰りは、私が戦うね。カノンは、荷物もってるし」
私は、触媒としての核石を必要とします。必要としない魔法使いなんて、片手で足りるほどです。ですから、手が塞がる以上、魔法は使いづらいです。なので、素直に師匠に任せましょう。
「お願いします」
師匠に任せ、街へと戻ります。それは、とても簡単な道中でした。
私達は、まず魔法協会へと向かいました。ワーウルフの頭部とはいえ、死体には変わりません。臭いですし、重いので、早く手放したいというのが理由です。
「すみません。登録魔法使い、カノン=フェアリです。依頼の報告に来ました」
「あら、ほんとに出来たの? すごいわねぇ」
受付のおばさんと話をします。もちろん師匠は椅子へ直行して寝ています。出来れば、手伝えとは言いません、起きていてください。
「狼型の魔獣の主と思われるワーウルフの頭部です。確認してください」
おばさんの顔が引きつりました。死体ですから当然です。
そのまま、「ちょっと待ってて」そういうと、奥へ鑑定人を呼びに行きました。
私は、カウンターで待たされていますが、周囲からチラチラ見られています。なにせ、今まで何人もの人が挑み、達成できなかったのですから、達成した私の年齢からすればしかたありません。
私と師匠が一緒に入ってきたのを見ていた人は、師匠にも目を向けています。そして、上から下へ目を向けようとしているはずが、上から胸で止まっています。ええ、他所から見ても、丸わかりです。
パーティーを組んでいる人達は、ヒソヒソ相談をしていますが、流石に内容は聞こえません。
見世物のまま待っていると、奥から鑑定人が出てきました。
「ああ、君が倒したのか?」
「私と、あちらでだらけている師匠とで倒しました」
師匠が寝ているとは信じたくありません。寝ていたら、起こすのが大変ですから。
鑑定人は、私達を一瞥した後、ワーウルフの頭部を確認します。
「黒焦げだね。形も少し崩れて入るが、確かにワーウルフだ。確認するが、巣はどの辺だった?」
「この辺りです。ルートは、ここを通りました」
私は、鑑定人が広げた地図を見て、指を指します。さらに、サービスでルートも教えます。この道を行けば、私が魔法で作った穴が見つかるはずです。後で検証に人を派遣したとしても、嘘だとは思われないでしょう。
「ふむふむ。どうやら、依頼は完遂のようだね。いやー、助かったよ。あの魔獣には、手を焼いていてね、それじゃあ、これが報酬だ」
「ありがとうございます」
そういうと、報酬を受け取り、中身の確認をします。以前に、子供だと思って舐められたのか、金額を誤魔化されたことがあります。もちろん、その場で確認していたので、文句を言ってやりました。ですから、これは正しい行動です。
「確かに、それでは失礼します」
師匠の元へ向かうと、寝ていました。
お願いします、起きていてください。師匠を起こすのは、大変なんです。
周囲から笑われながら、何とか師匠を起こし、魔法協会を後にします。少し妙な視線を感じましたが、きっと気のせいです。
いい時間だったので、夕食を済ませてから宿へ戻りました。師匠は部屋へ直行しましたが、私はカウンターへ赴きます。
「すみません」
「お客様、いかがいたしましたか?」
この宿、設備もいいし、接客もいいです。それでいて、懐へはのしかからない金額。素晴らしいです。さらに、この街の食事も美味しく、師匠が気に入っていたので、もう一泊したいと言い出しました。
「もう一日いるかもしれないので、追加の料金を支払いたいのですが」
「それは、ありがとうございます。内容は同じでよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
そういい、料金とチップを支払います。報酬の方は、中々の金額だったので、昨日までよりも、少し多めのチップを払いました。それでもかなり残っています。
「ありがとうございます。それではお寛ぎください」
「はい、もちろんです」
そういってこの場を後にしました。この後はお風呂です。そして、明日へ向けて、寝るだけです。
翌日、昨日までと同じ苦労をしました。師匠の寝起きはなんとかして欲しいです。師匠は、おっとりしているのを通り越しています。ですが、外では別人のようにしっかりしています。まったくもって謎です。何故このような人になったのか、教えてくれません。
魔法については、沢山のことを教わりました。ですが、師匠のことについては、まったく教えてくれません。私とは違い、自分の過去を知っているはずなのに、教えてくれません。
ですから、師匠の寝たがりを治すための検討がつかないのです。
「師匠、この街には、いつまでいますか?」
「んー、ここのジャムは美味しいからねー。とりあえず、明日まではいられるんだよねー」
「はい、追加で料金を支払ましたから」
「目的地も決めてないし、どうしようかー」
この街は、この国の中心である王都とその四方にある4大都市、その中で南の都市であるサウスゲートの近くにあります。東にある帝国とは、長きに渡る戦争中なので、今まで国境付近には、長居しないようにしていました。
帝国から王国に入り、急いで国境付近を抜け、ここまで来たのですが、師匠が他の街で食べたここのジャムにはまり、足を運んだのです。
「東側以外の国とは、基本的に同盟関係ですから、そうそう戦いに巻き込まれることは無いと思いますよ」
「そうだよねー。それに、登録魔法使いなんて、徴兵しないからねー」
下級魔法使い以上になれば、徴兵の対象ですが、新人も多い登録魔法使いは、基本的に徴兵の対象外です。とはいっても、下級魔法使い以上でも、お金を積めば、免除されます。流石は貴族が作ったルールです。抜け道をしっかりと用意しています。
というわけで、私達のような根無し草は、基本的に登録魔法使いなのです。
「強力な戦力を配備していない分、いい報酬の依頼がありますから、しっかり稼ぐのもありですよ」
ほぼ冷戦といってもいい状態ですが、戦力を配備しないわけにはいきません。ですから、西側の魔法協会にある依頼は、報酬がいいのです。
「何か美味しい名物があるところがいいねー」
「師匠、さっきから気になっていたのですが、そのジャム、本当に気に入ったのですね。機嫌が良すぎます」
「もう、ジャムだけでいいよー」
さっきから、ずっと語尾が伸びています。これは、機嫌が良い証拠です。今なら、なんでも言うことを聞いてくれそうです。
「師匠」
「んー、何ー?」
「寝たがりを直してください」
「無理」
真顔で即答されてしまいました。
師匠はタレ目とにこやかな顔が特徴的ですが、感情を消して真顔をされると、背筋が凍るほどの冷たさを感じます。今回は一瞬でしたが、本気で怒るとかなり怖いです。なにせ、無感情で延々と攻め立てるのですから。
「わかりました。それでは、別のお願いにします」
「んー、内容によっては、聞いてあげるー」
「では、古代魔法を教えて下さい」
魔法には、地火風水光闇の六属性と古代魔法があります。古代魔法は、複合魔法とも呼ばれるものがあり、とにかく扱いの難しい六属性単体以外の魔法を詰め込んだ分類です。かなり便利な魔法や、強力な魔法があるので、使いこなせるようになれば、魔法使いとして、成長を遂げることが出来ます。
「んー、苦手属性なくしたらねー」
「苦手ではありません、得意ではないだけです」
結局、いつものようにあしらわれてしまいました。
「カノン、属性に対して、得意とかどうとか言ってるうちは、だめだよー」
「わかりました。では、地と水の魔法について、指導してください」
「教えるべきことは、もうないんだけどねー。後は、カノン自身の問題だよー。光属性は、そこそこ使えるから、問題ないし、闇属性は、人間には使えないから、論外だから、得意じゃないだけの属性を頑張ってねー」
第五属性の光は、生まれ持っての素質がものを言う属性です。中でも、治癒魔法については、素質がないと、全く使えません。第六属性の闇は、師匠の言った通りです。
「では、次の街につくまでに何とかできたら、古代魔法を教えて下さい」
「何とか出来た時点で、教えるつもりだよ」
師匠はもうジャムを空にしていました。
「師匠、食事は満足ですか?」
「そうだね。魔法協会に行こうか」
私達は、支払いを済ませ、魔法協会へ向かいます。
途中で視線を感じましたが、今日は一際妙な視線が多いです。昨日のワーウルフのせいでしょう。
魔法協会へ入るなり、椅子へ向かおうとした師匠のローブを掴み、離しません。
そもそも、師匠はローブから髪を出していて、フードをかぶれないのですから、マントでいい気がします。それなのに、なぜローブに拘るのでしょうか。まぁ、師匠の真似をしてローブを着けている私に言えることではありませんが。
「おや、お二人さん。ちょうどいいところに来さね」
「どうしました?」
受付のおばさんに、師匠のローブを掴んで引きずったまま近づきます。
師匠も始めは抵抗していましたが、諦めたのか、大人しくついてきます。
「いやね、商人の一人が、ワーウルフを倒したあんた達に、護衛を頼みたいって言うんだ。どうだい?」
「詳しいことを聞かせてください」
横目で師匠を見ながら、詳細を聞こうと思います。指名である以上、受けるかどうかは別にして、詳細を聞くのが礼儀です。無下にはしません。
「そうかい、そりゃあよかった。奥にいるから、詳しいことを聞いとくれ」
そう言われて、奥へ通されます。
小部屋の中には、ソファーがあり、簡易的な応接室になっていました。
奥には商人らしき人が座っており、護衛と思われる剣士の方もいます。さらに、仲裁役のようで、ここの魔法協会の偉いと思われる人もいました。
「はじめまして、私は、登録魔法使い、カノン=フェアリです」
「どーも、登録魔法使いの、フィーネ=A=グリードです。このたびはどうも」
師匠……
若干機嫌が悪くなっています。表情には出ていないので、まだましですが、寝れなかったせいでしょう。ですが、護衛の依頼なら、話を聞いてもらう必要があります。
「おやおや、お美しい女性たちだ。私は、サウスゲート商会の一人、テクノ=ソースと申します。こちらのは、護衛の剣士です。実は、ワーウルフの噂がありまして、ウェストゲートへ行けず、困っておりました。どうでしょう、明日、私達の商団を護衛していただけませんか?」
ソースの名前を持つということは、サウスゲート商会の中でも、ちゃんとした地位を持っている証です。あの商会は、親族経営が元になっていますから、認めた相手には、ソースの名前を名乗らせています。
私は、師匠を見ました。その目は、任せると言っています。でしたら、私が判断しましょう。
契約内容が書かれた書類に目を通します。金額は、護衛にしては、少し高い程度ですが、積み荷によってはありえる金額です。まぁ、妥当なところでしょう。
「失礼ですが、ワーウルフは倒しました。そして、護衛団がいるのでしたら、私達は必要ないのでは?」
「いやー、まったくその通りなのですが、何処にも野盗は付きものです。それに、ここからウェストゲートは、しばらく誰も通っていません。ですから、何があるかわからない。それが、護衛を増やす理由です」
なるほど、それは理にかなっています。ワーウルフが倒された今、野盗が戻ってくる可能性もあります。そういった輩は、独自の情報網を持っているものです。ですが、隣の剣士は、不機嫌ですね。まぁ、自分達だけじゃ不安だと言っているのですから、不満も出るものです。
「理由はわかりました。ちなみに、引き受けた場合、護衛同士の立ち位置はどうなりますか?」
こういった細かいことは、前もって確認する必要があります。完全に下にされ、面倒を全て押し付けられても困ります。
「こちらの剣士は副団長なのですが、貴女方は、私の直属ということで、団長と同格です。もっとも、団長の方が、多少は上ですが、それは、今までのことと、隊を率いているからです。その点は、ご理解ください」
要するに、基本的には自由だが、場合によっては指示に従え、そういうことです。
しかし、護衛部隊を率いているということは、恐らく、魔法使いもいるでしょう、その人達に睨まれないかが、不安です。
無作法ながら、私は腕を組んで考えます。正直なところ、次の目的地が決まってない以上、受けるということに対して、問題はないです。ですが、問題がないのと、引き受けるのは、別の問題です。
「一つお聞きしますが、ウェストゲートへ向かわれるのですよね」
「ええ、そうです。ウェストゲート商会への荷物がありますから」
「そうですか。ちなみに、ウェストゲートの名物は、おわかりですか?」
私の発言に、一番最初に反応したのは、他ならぬ師匠でした。まぁ、予想通りです。名物を聞いて、その反応で決めましょう。
「名物ですか。あそこは、他の4大都市同様、主要な都市ですから、何でもありますから、その流通力を活かした加工品が多いですね。付近の特産物を組み合わせたものが多いですし、職人の技術力も高いですから」
技術力が高い。その一言を聞いた瞬間、師匠の反応が鈍りました。ええ、それは目に見えてです。恐らく、食べ物ではないと感じ取ったのでしょう。ですが、それは、相手の商人にも伝わったようです。
「ああ、忘れていました。ウェストゲートの近くには、蜂蜜を名物にしている村がありまして、他にも、小麦粉を名物にしている村もあります。その結果、とても美味しいホットケーキを出す店が多いそうです。それはもう、頬が落ちるほどです」
「引き受けましょう」
師匠が、即決しました。
いえ、条件などをしっかり聞いたので、即決ではありませんが、気持ちとしては、即決です。
「師匠が受けると決めたので、受けさせていただきますので、予定などをお聞かせください」
師匠が受けると言ったのです。私には、反対する理由がありません。それに、食べ物の特産品がある時点で、こうなるとわかっていて聞いたのですから、これでいいのです。
ただ、引き受けるといったときの、護衛の剣士の顔から、妙な気配を感じ取りました。それだけが気がかりです。
詳しい話を聞き終えると、もう夕方になっていました。
いろいろと確認しなければいけない以上、それはしかたのないことです。
「お嬢さん方、時間も遅いですから、部下に送らせましょうか?」
「魔獣を倒したと噂になっている魔法使いを襲う人も、そうそういないと思いますよ」
大した心がけですが、丁重にお断りしました。
これから夕食ですから。大した運動をしていませんが、仕方ありません。頭を使ったので、お腹がすきました。
これは、師匠も同意見です。
「そうですか、それではおき――」
「テクノさん、どういうことだ!」
お気をつけて、そういうとしていたんだと思います。ですが、突然の乱入者によって、最後まで言えなかったようです。
「何故君がここにいる?」
ソースさんは、剣士に向かっていいました。魔法協会とはいえ、依頼は誰でも受けられますから、ここに剣士がいること自体は、不思議ではありません。ですから、この剣士とソースさんは、知り合いだということでしょう。
剣士を見ていると、私の視界の中では、師匠も剣士を見ていました。
その剣士が、ソースさんへと向かっていきます。胸元を多少はだけて、カッコつけているのだと思いますが、どちらかといえば、だらしない印象を受けます。
「俺を護衛として雇ってくれるんじゃなかったのか!」
「私は、君に対して実力を示すよう言った。けれど、君は示せなかった。それだけのことだ」
どうやら、ソースさんが私達を割りこませたようです。ですが、私達に非はありません。なので、帰りましょう。
「師匠?」
「ああ、カノン、先に行ってて。受付の人に、ウェストゲートの名物聞いてから行くから」
妙な雰囲気を感じましたが、師匠が先にいけというのですから、先に行きます。夕食の場所は、決まっていますから。
私は、巻き込まれることなく、この場を脱出しました。師匠も無事だったようで、何よりです。
明日からの護衛も、無事終わることを祈ります。
こんにちは
性懲りもなく新しい話を書き始めてみました。
超王道の異世界ファンタジーを目指しています。ですが、よくある、ではなく、王道と言われるように、気をつけたいと思います。
今回この話を読んでいただき、ありがとうございます。
これから、少し長くなるとは思いますが、お付き合いいただけると、幸いです。