魔法使いと勇者と竜の国   作:enz

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遺跡の調査

 私達は、この日、古代遺跡へ調査へ向かうデノンさんの護衛をするために、早起きをしました。ですが、出発まで時間があるので、日頃の日課のつもりである軽い運動をすることにしました。

 全ては、ここのお風呂を満喫するため……ではなく、腕を鈍らせないためです。

 仕込み杖を抜いて、軽く素振りをしていると、一息ついた段階で、声がかかりました。

「フィーネさんって剣も使えるんですね」

 デノンさんでした。

 私は、振り向きながら答えます。

「嗜む程度です。本物の剣士とは比べ物になりませんよ」

「そんな謙遜しなくていいですよ。私の立場上、多くの軍人を見ていますが、動きを見る限りは、かなりの腕前ですよ」

 そんなことは無いと思います。フォルテや、デュオさんの騎士団の方達は、私では足元にも及ばないくらいの人達でした。相手が油断するか、意表を着くようなことをしないと、勝ち目はありません。

「長引かせる必要もないので、褒め言葉として受け取っておきます。ところで、もう出発の時間ですか?」

「いえ、一緒に朝食を取ろうと思ったので、お誘いに来ました」

 一汗かいたので、朝食を取るにはいい頃合いです。ただ、一つ問題があります。

「お風呂で汗を流してからでもいいですか?」

 そう、汗をかいたのですから、流したいです。

「はい、お待ちしてます」

 ある程度の時間を決め、待ち合わせをすることになりました。

 そこで、私は、急ぎながらも、ゆっくりとお風呂を堪能し、デノンさんとの朝食へ向かいました。

 

 

 

 

「そういえば、フォルテさんは、どうしたんでしょうか?」

 あ……。

「すみません、忘れてました。まぁ、大丈夫でしょう」

「いいんですか? では、フォルテさんがいては出来ない話でもしましょうか」

 一体どんな話をするつもりなのでしょうか。

「ここは軍の食堂なので、オメガ長官がこってしまって、設備のほとんどに魔法設備を使っているんです」

 厨房の全てが見えるわけではありませんが、見える範囲の設備の中には、核石が埋め込まれているのが見えました。これも、帝国の技術が成せる技なのでしょう。

 さらに、こだわっているのは作るための設備だけではないようです。

「料理の種類も豊富なんですね」

「ええ、ここの待遇を良くすることで、ここへの配属希望者を増やせば、倍率があがりますから、ここへの配属を勝ち取るために、優秀になろうと努力する人が増えるんです」

 なるほど、いい環境で働きたければ、自身を磨けということですか。その考えで言うと、デノンさんは、相当優秀な人なのでしょう。

「デノンさん、言える範囲でいいんですが、どういった立場にいるんですか?」

「……フィーネさん、私達の番ですから、注文しましょう」

 意図的に話を逸らされてしまいました。恐らくは、全てにおいて踏み込んではいけないのでしょう。私は、そう判断し、これ以上の詮索をしないことにしました。

「おすすめがわからないので、デノンさんと同じのにします」

「そうですか。それは、責任重大ですね」

 デノンさんは、メニューを見て何にしようか考えています。先に考えておくべきでしたが、後ろに並んでいる人を先に行かせることで、解決しました。

「それでは、これにしましょうか」

 そういうと、私に内緒で二人分の注文をしています。何か気になりますが、すぐにわかるので、大人しく待ちます。

「はいよ、二人分ね」

 食堂のおばさんが、二人分のお皿を持ってきました。

「オムライスです、ここのは美味しいんですよ」

「見た目からして大いに期待できますね」

 私達は、手頃な席を確保すると、ローブを脱いで、背もたれにかけました。

 二人揃って出来立てのオムライスに手を付けます。

 卵がふわふわになっていて、それはもう、ポッペタが落ちるほどの美味しさです。

「気に入ってもらえたようで、何よりです」

 どうやら私の顔を見て、気に入ったと悟ったようです。

 とても美味しく、幸せな気分になっていると、ふと、何か熱いものが込み上げてきました。

「フィーネさん、どうしたんですか?」

「……いえ、ちょっと、思い出しただけです。気にしないでください」

 そう、思い出してしまったんです。師匠が、よく美味しいものを食べて笑っていたことを。

 デノンさんは、私が泣き止むのを黙って待っていてくれました。

 ただ、泣きながら食事を続けることになってしまいました。けれども、久しぶりに師匠のことをしっかりと思い出すいい機会になりました。

 その点については、デノンさんに感謝です。

「連れてきてくれて、ありがとうございます」

「いえいえ、これから一緒に遺跡に行くんですから、気にしないでください」

 こうして、私達は、古代遺跡へ行く準備にとりかかりました。

 フォルテも、いつの間にか合流しており、すぐにでも出発できます。

 朝食に招かれなかったことでふてくされているようですが、たまには女の子だけで食べたかったと言ったら、黙ってしまいました。

 

 

 

 

 デノンさんのバイクに荷車を引かれ、ベップウへ出発しました。途中では、魔獣が出ることもなく、あっという間に着いてしまいました。

「ちょっと休憩しましょうか」

「ずっと魔力を練って消費し続けるんですから、大変ですよね。代われるものなら代わりたいんですが、機密的に無理ですよね」

「機密的には問題無いんですが、私の趣味として、これは、他人(ひと)には触らせません!」

 唖然としてしまいました。

 それは、フォルテも同様です。

 どうやら魔法科学に並々ならぬ愛情を注いでいるようです。

「ところで、ここからだとどのくらいかかるんだ?」

 私も疑問に思っていましたが、デノンさんは、その問に対して、首をかしげています。

 そして、何かに納得したのか、頷いた後に、どこかを指さしています。

「あそこですよ」

 私達は、その指し示した方向を見上げると、巨大な建造物がありました。それも、山と一体化しており、見える部分は、明らかに今の技術とは、一線を画しています。

「あれが、古代遺跡か」

「凄いですね」

「はい、あれは、ベップウ遺跡と呼ばれています。あの遺跡にあった資料の中で、一番最初に解読出来た言葉が、ベップウだったんです」

 なんともいい加減な名前です。

 古代遺跡にも興味はありますが、私としては、ここにある温泉というお風呂に興味があります。護衛が終わったら、お風呂に入るための交渉をしなければいけません。

「それでは、行きましょうか」

 デノンさんが歩き始めました。私達は、追いかけるように向かいます。

 遺跡の入り口には、軍の方が見張りとして立っています。

 デノンさんが、その人に、何かを見せると、敬礼しながら横にずれました。

 私達は、後に続きましたが、軍の方は、微動だにしません。

「見張りがいるんだったら、魔獣も入らないと思うんですけど……」

「お恥ずかしながら、見張っているのは人が出入り出来る場所だけなんです。魔獣の身体能力なら、他の場所でも遺跡の内部に入れるんですよ」

 そういうことですか。

 盗掘を予防するなら、それで十分ですし、関所の内側は、魔獣が少ないですから、そこに予算は避けないのでしょう。

「なら、俺が前を歩いたほうがいいんじゃないか?」

「ですが、道がわからないと思いますよ。この遺跡は複雑で、地図を見てもわかりにくいですから」

「それなら指示してくれれば大丈夫だろ」

 そう言いながらフォルテが前へ出ます。

 途中にある部屋は、それなりの広さを持っていますが、通路は基本的に狭いので、フォルテの長剣では取り回しに難があります。フォルテは、それを理解しているようで、竜痕の力は引き出しているものの、剣を抜こうとはしていません。

「私の仕込み杖を使いますか?」

「そうすると、魔法が使えないだろ。魔獣なら問題ないから大丈夫だ」

 師匠は、左腕の刻印を核石の代わりに使えるようでしたが、今の私に出来るかわかりません。

 フォルテは、そもそもこの刻印については、ほぼ何も知らないので、純粋に心配しているのでしょう。

「剣を使えない剣士が役に立つのですか?」

「なら、魔法を使えない魔法使いも、どうなんだ? それに、剣は振るうだけじゃない」

 フォルテがそこまで言うなら仕方ありません。私が注意すればいいことです。

「ところで、この遺跡には、ミスリルが使われているのですか?」

 この遺跡の柱に、特徴的な銀色が見えています。

「張や柱などの、重要な部分には、使われているようです。そのせいで、解体して再利用が出来ないんですよ」

「重要な部分なら、回収出来ませんからね」

 ですが、この巨大な遺跡の重要な部分だけとはいえ、かなりの量になるはずです。それだけのミスリルを用意出来るということは、古代には、ミスリルを作り出す方法があったのでしょうか。

 何回目になるかわからない階段を登り、しばらく進んでいると、デノンさんが、ゆっくりと口を開きました。

「このミスリルが使われている遺跡は、どんな遺跡だと思いますか?」

 遺跡と並ぶようにベップウの街があるので、それに関わる遺跡のはずです。

「温泉関係ですか?」

「ふふ、半分は正解ですね。この遺跡には、地下から温泉を汲み上げる機能の他に、もう一つあるんです」

「もう一つですか?」

「ええ、今までの調査で、巨大な貯水槽があることがわかっているんです。それは、水源からの水を溜め込むことを目的としています」

「温泉のお湯を溜めているのではないのですか?」

 水を溜める場所があるのですから、お湯を溜めておけばいいと思いました。

「だって、冷めてしまいますよ。つまり、生活用水として使うことを目的とした貯水槽なんです」

 つまり、ベップウの街は、この遺跡の機能を使うために、作られた街ということですね。

 それにしても、古代遺跡の調査や利用が出来る帝国の技術は、目を見張るものがあります。

「王国だと、古代遺跡って物好きが観光するくらいのものだったけど、帝国だと、未知の技術の塊なんだな」

「帝国は、技術や知識を拠り所にしている国ですから。それでも、全容が明らかになっているわけではないんですけどね」

 そう笑いながらデノンさんは説明してくれました。

 他にどんな古代遺跡があるのか、興味が湧きました。将来旅する予定の場所が多すぎて大変です。

 デノンさんの指示通りに進んでいると、通路の先から何かの遠吠えが聞こえてきました。

「二人共、慎重に進むぞ」

 私達は無言で頷きました。下手に声を出せば、相手に気付かれる可能性があります。けれど、犬や狼の魔獣であれば、臭いで気付かれているはずです。

 つまり、用心してはいますが、無意味でしょう。

 フォルテが慎重に進んでいると、十字路が見えてきました。

「あそこは、まっすぐです。しばらく進むと、大きな扉があるので、そこが目的地です」

 デノンさんの案内は、何度も来ているだけあって、迷うそぶりすらありませんでした。そう考えていると、私は、何かにぶつかってしまいました。

「急に止まって、どう……」

 フォルテが、口の前に指を立てて、静かにするよう促しています。

 耳を澄ませると、唸り声のようなものが聞こえてきます。それは、次第に大きくなり、足音も聞こえるようになりました。

 私達は、魔獣が近くにいることを悟りました。

 私が詠唱を始め、フォルテは、竜痕の力を引き出し、オリハルコンの長剣を抜きました。

 魔獣は、私達の気配を察したのか、近づく勢いが増しました。

 十字路から、狼型の魔獣が顔を覗かせ、一気に飛びかかってきました。

「『風檻(ふうかん)』」

 私は、風の檻を作り、魔獣を拘束します。この狭い空間では、第二属性である火の魔法を使うには、危険すぎます。

 フォルテは、風の檻の中にいる魔獣に剣を突き立てました。確かに、振るうだけではないようです。

「侵入した魔獣の数は、わかってるのか?」

「いえ、最低でも5体ということしかわかっていません」

「5体ですか……」

 恐らくは群れで侵入したということでしょう。ですが、私達の目的は、資料の回収であって、魔獣の討伐ではありません。目的地にいないことを祈るだけです。

「もう少しなんだ、注意して行こう」

 私達は、慎重に進み始めました。そして、しばらく進むと、大きな扉が行く手を阻んでいます。

「ここが、目的の部屋です。今開けるので、ちょっと待っててください」

 そう言うと、デノンさんは、扉の横にある四角い箱のようなものを触っています。微かに音がしていますが、何をしているのかわかりません。

 しばらく待っていると、扉が左右に動き、部屋の中が見えるようになりました。

 部屋の中には、天井が少し壊れているようで、瓦礫が積もっています。そして、壁の一部に、黒い硝子で出来た場所があり、その前に、いくつかの四角い箱があります。

「どうやら、この部屋に魔獣はいないようですね」

「でも、何か臭うぞ」

 確かに、異臭がします。魔獣の臭いというよりも、死体の臭いです。

「天井に穴が空いてますから、魔獣が落下の衝撃で、死んだのでしょうか?」

 たまたま崩落に巻き込まれたのであれば、不運としか言いようがありません。この遺跡に使われているミスリルは、かなり頑丈で、腐ることもないのですが、床板などは、違う素材なので、時間の経過には勝てなかったのでしょう。崩落した瓦礫の中には、銀色の部品が見えているので、重要な場所が、その周囲ごと落ちたのでしょうか。

「ちょっと臭いますが、資料を回収しますね」

 私達も手伝おうと思ったのですが、デノンさんは、黒い硝子の前にある箱へ向かいました。

 私達が首をかしげているのをよそに、何かを押しています。

「ちょっと待っててくださいね。すぐに終わりますから」

 黒い硝子が光、見たことのない文字が浮かび上がっています。デノンさんは、その様子を見ながら、箱をいじっています。

 私とフォルテは、自分たちに出来ることがないと悟り、一応、周囲を警戒することにしました。

 しばらくすると、様々な変化をする黒い硝子が、突如赤く変化しました。

 デノンさんは、その変化に驚いています。つまり、予定外のことだということです。

「どうして……」

 微かにつぶやきが聞こえましたが、それを上回る音量で、耳障りな音が鳴り響いています。そして、赤い光が、部屋を埋め尽くしました。

「デノンさん、どうしたんですか?」

「警報が、作動しています。この遺跡が生きてるとはいえ、今までこんなこと無かったのに……」

 周囲から、警報とは別の、妙な音が聞こえてきました。

 音がする方を見ると、瓦礫の山が、動いています。

「何だあれ」

 フォルテも見ていたようです。

 動いた瓦礫の下に、腐りかけている魔獣の死体が見えました。さらに、天井の瓦礫もありました。

 そして、瓦礫だった何かが立ち上がると同時に、警報が鳴り止みました。その光景を黙って見届けていたデノンさんが、驚きの声を発しました。

「嘘……ゴーレム……」

 どうやら、デノンさんはあの瓦礫の正体を知っているようです。ですが、呆然としており、ゴーレムという物の正体を聞けそうにありません。

 ゴーレムの目と思われる部分が光りました。その赤い光は、敵意を持っているように思えます。

「カノン、強化魔法を頼む」

 そう言いながら、竜痕の力を纏い、オリハルコンの長剣を抜きました。私も指示に従い、魔法の詠唱を始めます。

 デノンさんは、フォルテの声に我を取り戻したのか、ゴーレムの情報を伝えてきました。

「フィーネさん、あのゴーレムは、ミスリルで出来ています。魔法は、ほぼ効きません。それと、腕を覆っている漆黒の金属は、アダマンタイトです」

 フォルテは、私の詠唱が終わるまで、ゴーレムの牽制をするようです。

 それにしても、アダマンタイトですか。

 オリハルコンと同じくらいの魔法耐性を持つ金属で、魔族の国で取れるそうです。魔族の魔法と相性が良く、媒体としても使われている物です。魔法耐性という面では、ミスリルよりも上ですが、ミスリルに効果を及ぼせる魔法自体が、珍しいので、そこまで用心する必要があるのでしょうか。

「デノン、他にわかってることはあるか?」

「……えっと、遺跡に残っていた情報によると、基本的には、その巨体を活かした攻撃をしてきます。後、本当かどうかわかりませんが、魔法を使うという記述がありました」

 魔法を使うには、詠唱をしながら魔力を練りあげる必要があります。いくら古代の高い技術力で作られた物とはいえ、魔法を使えるとは思えません。

 フォルテが、私の詠唱が終わりかけているのに気付き、竜痕の力でゴーレムを押しのけると、私の方へ跳んできました。

 私は、フォルテの胸に手を当て、魔法の名前を唱えます。

「『戦いの調(たたかいのしらべ)』私は、補助しか出来ないので、フォルテが頼りです」

 フォルテは、『戦いの調』による強化を受けると、竜痕の出力を一気に上げ、白い縁を持った黒い鱗の鎧を纏いました。その状態で振るわれる一撃は、ゴーレムと競り合うことが出来ています。

 今『風の調(かぜのしらべ)』を使えば、空気中にある大量の魔素を消費してしまうので、フォルテの強化を妨害してしまいます。そこで、相手の動きを妨害するために、第一属性である地の魔法を詠唱します。

「フィーネさん、私も戦います」

 デノンさんは、銀の筒状の物を取り出しました。それは、アンプ=リファイアさんが持っていた武器に似ています。

「『(くろがね)』」

 いくつもの鉄の弾丸を生み出し、ゴーレムの両腕にぶつけます。ミスリルの体を傷つけることは出来ませんが、力の方向を逸らすことは出来ました。

「カノン、ありがと」

 フォルテは、短く言うと、ゴーレムへと向き直りました。

 大振りの腕をかいくぐり、接近し、斬撃を加えています。けれど、頑丈な体に弾かれ、明確な損傷を与えることが出来ていません。

 デノンさんは、銀の筒状の物に付けられている核石に魔力を流し込んでいます。

「これが、銃です。魔力の弾丸でも、衝撃くらいなら、与えられるはずです」

 銃から弾丸が発射され、ゴーレムに命中しますが、やはり傷を付けられません。これだけ巨大な建造物を支えているミスリルで作られているのですから、それ相応の強度を持っているのは、当たり前です。

「弱点とか、わかりませんか?」

「記述が欠けていたので、そこまで詳細な情報はわかりません」

 ゴーレムが、足を上げ、一気に踏み込みました。床が揺れ、詠唱を止めてしまいました。

 周りを見ると、デノンさんも床に伏せています。

「そもそも、何で動き出したんだ」

「魔獣の侵入が原因のようですが、今動き出した理由まではわかりません」

 どうやら、黒い硝子が赤くなった時に、簡単な理由が出ていたようです。

「これは、推測ですが、魔獣に対して警報機能が働いて、過敏になっているところに、私達が来て、反応したんだと思います」

「とりあえず、倒していいんだよな」

 フォルテは、ゴーレムを倒す気でいるようです。ですが、目に見えた損傷を与えられず、時間だけが過ぎていきます。

 ゴーレムによる力任せの足踏みにより、床に亀裂が走っています。けれど、デノンさんが陣取っている箱の付近は、頑丈に作られているのか、目に見える被害はありません。

 恐らくは、この遺跡にとって重要な設備なので、頑丈に作られているのでしょう。

「『鉄』」

 私は、何度目かわからない魔法を発動させました。

 闇雲に時間が過ぎていき、疲労が蓄積しています。

 ゴーレムの腕が、フォルテを薙ぎ払おうとしています。私は、腕に向けて鋼鉄の弾丸を撃ち込むことで、軌道をずらし、勢いを殺そうとしますが、疲労のあまりに、一発だけずれてしまいました。

 ですが、肘の内側付近に着弾した時、ゴーレムの腕の動きに奇妙な変化が現れました。

 絶妙に動いていたはずの腕が、一瞬止まり、何かを潰す音と共に、動き出しました。

 見えていた状況を整理すると、魔法によって作られた鋼鉄の弾丸が、肘付近のミスリルの間に入り込み、その動きを阻害したようです。

「デノンさん、その銃は、魔力弾以外も使えますよね。硬い弾丸で、ミスリルの隙間を狙えますか?」

 デノンさんは、一瞬迷ったようですが、何かを取り出しました。

「ミスリルの弾丸ならあります。それに、装甲の隙間くらいなら、撃ちぬいてみせます」

 私には、ミスリルよりも硬いものを生み出す魔法は使えません。そこで、デノンさんに撃ち込んでもらい、ゴーレムの動きを封じることが出来れば、倒す手立ても見つかるはずです。

 デノンさんの銃から、乾いた音が響くと、一発の弾丸が、ゴーレムの肘付近に命中し、動きに変化が現れました。

「デノン、装甲の隙間って、ミスリルじゃないのか?」

「動きに柔軟性を持たせるために、金属以外で覆っていることもありますし、装甲自体がない場合もあります」

「なら、斬れるよな」

 フォルテがそう言うと、剣の軌道に変化が生じました。

 今までは、ゴーレムの腕と打ち合うように剣を振るっていたのですが、精密な軌道を描き、装甲の隙間に収束しつつあります。

 けれど、後少しというところで、装甲の隙間を捕えることが出来ません。

「『風檻』」

 風の檻を作り出し、動きを止めますが、ミスリルの影響で、一瞬しか止められません。

 時間が立ち、フォルテに変化が生じました。

 白い縁を持った黒い鱗の鎧の面積が減り、関節などの、動きに対して直接関わってくる部分だけを覆うようになりました。

 長時間の戦闘により、命素が減ってきたのでしょうか。

「『石檻(せっかん)』」

 岩を生み出し、ゴーレムの足に噛み付かせました。さらに、腕に食らいつかせることで、その動きを封じます。

 ゴーレムは、岩による枷を外そうとしていますが、必要となるのは、装甲の強度ではなく、純粋な力そのものです。そのため、すぐには壊せないようです。

 そして、フォルテの剣が、ゴーレムの腕を斬り落としました。装甲の隙間を捕えることに成功したようです。

 片腕を失ったゴーレムは、巨体の姿勢を維持できず、上半身を大きく揺らしています。

 腕の切断面からは火花を散らしています。

「フィーネさん、ミスリルは外装だけのようです。切断面なら、魔法が効くはずです」

 私は、デノンさんの言葉を聞き、攻撃力のある魔法を詠唱します。

 『石檻』によって拘束した腕は、フォルテに斬り落とされ、もう一方は、隙間にミスリルの弾丸を撃ち込まれ、自由な動きを阻害されています。今なら、私が援護する必要はありません。

「俺は、出来るだけ斬り落とす。トドメは頼むぞ」

 フォルテは、ゴーレムに損傷を与えています。斬り落とすことは出来なくても、ゴーレムの関節に悪影響を与えているようです。

 ゴーレムは、フォルテを踏みつぶそうとしていますが、機敏な動きの出来ない体で、フォルテを捕えることが出来ず、ただイタズラに床を振動させるだけでした。

 一見すると、駄々をこねる子供のように見えます。

 そして、ゴーレムの挙動に、新たな変化が訪れました。

 残った腕を横に降った時、魔法陣が現れました。

「まさか、魔法?」

 デノンさんのつぶやきが聞こえました。私も、驚きのあまりに、魔法を失敗しそうになりましたが、何とか繋げる事が出来ました。

 ゴーレムの創り出した魔法陣は、回転し、赤く光ると、炎をまとい始めました。ゴーレムの腕を覆っているアダマンタイトは、詠唱を必要とする人の魔法ではなく、魔族の魔法を使うための物なのでしょう

「させるか」

 フォルテが、魔法陣に対して一太刀浴びせると、魔力が霧散し、魔法が消滅しました。

 北にある村で、模擬戦をした時と、同じような現象です。フォルテの剣は、オリハルコンなので、ミスリルで出来るのですから、同じことが出来ないはずがありません。ですが、発動の早い魔法に対して成功するとは思っても見ませんでした。

 魔法を中断されるとは思っていなかったのか、ゴーレムが呆然としているように見えます。

 私は、フォルテが作ってくれた機会を無駄にするわけにはいきません。

「『鳴神(なるかみ)』」

 私は、魔法を発動させました。

 雷鳴が轟き、ゴーレムの腕の切断面を穿ちました。

 そこから、体の内部を駆け巡り、ゴーレムの体全体へと拡散します。

 雷により体の内側を破壊されたゴーレムは、体を崩し、倒れました。

 私達は、しばらく警戒していましたが、動く気配がなかったので、ようやく安全を確認しました。

「もう、動かないですよね」

「ゴーレムについては、良くわかっていないので、何とも言えませんが……」

 気休めでもいいので、動かないと言って欲しかったです。

「大丈夫だろ、目の光も消えたし」

 確かに、赤く光っていた部分が、黒くなっています。

 私は、ゴーレムに近づき、手を覆っているアダマンタイトを観察します。これを使い、魔法陣を創ったということは、アダマンタイトを使えば、魔族の魔法を使うことが出来るということでしょうか。

 刻印に残されている知識には、フィーネの力が魔族側にあった頃の知識もありますが、あくまでも、当時のフィーネの知識の一部なので、力の使い方など、人間と異なる点が多々あります。これを研究するにしても、かなりの時間を必要とするでしょう。

 破片でも拾えればと思ったのですが、欠けた装甲が無く、諦めるしかないようです。

「カノン、そこ危ないぞ」

「ええ、今戻り――」

 視界が一気に下がり、背後で大きな音がしました。

 光が遠ざかっていきます。

 背後にある何かに体を打ちつけ、大きな音と共に、水が押し寄せてきました。

 いえ、押し寄せたのではなく、私が落ちたのでしょう。

 かなりの距離があったため、結構な深さまで沈んでしまったようです。

 上に見える水面が黒く輝いています。

 水面まで上がるためにもがきますが、ローブが水を吸い体にまとわり付いているせいで、思うように動けません。

 上の方で、何かが揺らいで、います。

 次第に、息苦しさを覚え、意識が……朦朧と、してきました。

 全身、から……力、が、抜け……。

 口に……残っていた、空気が、出て、しまい、ま、した。

 ………………

 …………

 ……

 微かに、空気が……戻り、薄っすらと、意識が、戻りました。

 目の、前に、フォルテが、います。

 手を、引かれて、います。

 水面へと、顔が、出ると、私は、息をむさぼるように、吸っています。

「はぁ、はぁ、ありが、とう、ござい、ます」

「大丈夫か?」

 私は、息を整えながら、フォルテへ寄りかかりました。冷たい水につかっているせいで、体が冷えて震えていますが、フォルテの温もりが心地よく感じます。

「何とか、大丈夫、です」

 フォルテは、そのまま私を支えるように手を回し、呼吸が落ち着くのを待っています。

「フィーネさーん、フォルテさーん、無事ですかー」

 上の方から声が聞こえました。

 唯一の光点である穴から、デノンさんが覗いています。

「何とか大丈夫だ」

「あっちに梯子があるので、登ってきて下さい。私も、そっちに行くのでー」

 デノンさんが指し示す方向に、梯子が備え付けてありました。梯子の先には、扉があり、本来は、そこから出入りするようです。

「行けるか?」

「大丈夫、です」

 息も整ってきています。ですが、ローブがまとわりついて動きにくいだけです。

 頭がちゃんと回るようになり、あることに気が付きました。

「杖が……」

 どうやら、水の中に落としてしまったようです。

「底が見えないな。梯子まで行くから、そこで少し待っててくれ」

 フォルテは、私を抱きかかえたまま梯子まで泳いでいきます。どうやら、潜ろうと考えているようです。

「いえ、深さがわかりませんし、刻印が、核石の代わりになりますから、大丈夫です」

「でも、あれは……」

 フォルテの言いたいことは、何となくわかります。

 あれは、師匠が用意してくれたものですから。ですが、そのためにフォルテを危ない目に会わせるわけにはいきません。

「いいんです。後で、杖の新調に付き合って下さいね」

 私は、精一杯笑いかけました。そうしていないと、この喪失感を悟られてしまいそうだからです。

 フォルテは、納得してはいないようですが、私の意思を組んでくれたのか、黙って梯子へ向かって泳いでいます。

 梯子まで来ると、フォルテは、片手で私を支えたまま登ろうとしています。

「しっかりと捕まっててくれ」

「いくらなんでも、この距離を片手で登れるわけないじゃないですか。自分で登るので、先に行って下さい」

 そう言ってフォルテの腕の中から出ようとしますが、私を抱きかかえる力を強くし、話してくれません。

「呼吸は落ち着いてるけど、寒さで震えてるんだから、大人しくしててくれ」

 長い髪や衣服、ローブが水につかり、かなり重くなっています。そんな私を片手で抱きかかえ、梯子を登れるはずがありません。

「今は、水のせいで重いので、片手では無理です」

「わかったよ。でも、先に行ってくれ。それだけは譲れない」

 フォルテは真剣な表情をしています。

 私が落ちる可能性があることを心配しているのは、わかります。これでは、私がスカートを気にしていることが、馬鹿みたいです。

「わかりました。でも、上は見ないで下さいね」

 そう言いながら、梯子を登り始めます。

 水から完全に出たところで、私の言った意味を理解したようです。

 フォルテを上から見ると、顔を少し赤らめて、上を見ないようにしていますが、気になるのか、たまに視線が上へ行こうとしています。

「ローブが邪魔だった言って下さい」

「いや、大丈夫だ。落ちないようにだけ気をつけてくれ」

 私は、ゆっくりと梯子を登ります。

 体も少しは温まってきた気がしますが、震えは収まっていません。何度か棒を掴み損ねますが、フォルテが手を伸ばして支えてくれています。

 そのかいあって、何とか登り切ることが出来ました。

 扉がある場所は、壁から床が出ているので、そこで腰を落ち着けています。

 この遺跡の扉は、扉の横にある箱を触って開けるようですが、触り方がわからないので、デノンさんが開けてくれるのを待つしかありません。

「カノン、ローブを絞るから、貸してくれ」

 確かに、水を吸っているので、かなり冷たいです。私は、フォルテに背を向けると、ローブを脱いで、後ろ向きに手渡します。

 フォルテが黙って受け取ると、後ろから水の音がしました。丁寧に扱っているか気になりますが、今は後ろを無くわけにはいきません。

「ある程度は、大丈夫だと思うけど、寒いか?」

「いえ、我慢できます」

 私が返事をするや否や、ローブを被せられました。そして、フォルテが横に座り、肩を抱いてきます。

 水の中でも感じましたが、こうしていると温かいです。

「フォルテも、水の中にいたんですよね。わざわざ助けに来てくれて、ありがとうございます」

「気にしなくていいよ」

 いつも私のことを気にしてくれながらも、それに対して恩を着せようとしないところが、心地よいです。

 温もりを感じていると、扉の方から音がしました。

「お二人共、大丈夫ですか?」

 デノンさんが、来てくれました。その手には、フォルテの長剣が握られています。ここに来るまでの道のりを考えると、魔獣と遭遇する可能性もありますから、フォルテが置いていったのでしょうか。

「ああ、そっちも大丈夫だったか?」

「ふふ、私は、銃の性能試験も担当していたので、強いんですよ」

 何だか最初の笑い方に、妙な感じがありましたが、そこに触れると墓穴を掘りそうだったので、触れません。

 ローブの前をしっかりと合わせ、移動を開始します。

「ここが、さっき言っていた貯水槽ですか?」

「ええ、そうです。それで、その……杖の回収ですが、私達では、底まで行けませんし、水を空にするわけにもいかないので、諦めてもらうしか……」

「いえ、いいんです。結構ボロボロでしたから」

 強がりながらも、ちゃんと言えたはずです。

 余計なことを言うと、本音が出てしまいそうだったので、事実だけを手短に口にしました。

 デノンさんは、深く追求せずに道案内をしてくれました。

 資料の回収が終わっていないので、先ほどの部屋へ戻る必要があります。

「それでは、先ほどの続きをするので、待っていてください」

 そう言われ、私達は、周囲の警戒を始めました。

 私は、試したことはありませんが、左腕の刻印を、核石の代わりとして使うために、左腕を掴んでいます。

 しばらく警戒していると、デノンさんが口を開きました。

「めぼしい資料は、回収しましたし、戻りましょうか」

 何をしたのかはわかりませんが、何かを回収したようです。

「なぁ、ベップウで温泉入れないか?」

「フィーネさんが、お風呂好きというのは聞いているので、ちゃんと手配してありますよ。説明の段階であまり食いついてこなかったので不安でしたけど」

 どうやらバレていたようです。

「ただ、ここだと核石が手にはいらないので、クレモナまで我慢してもらえますか?」

「途中は、フォルテが頑張ってくれるので、大丈夫ですよ」

 私とデノンさんは、お互いを見て、小さく笑っています。年の近い人との会話が、珍しく、楽しいとすら感じています。

 私達は、無事に古代遺跡から出ると、デノンさんが用意してくれた宿へと向かいました。

 

 

 

 

 この街にある宿は、東方にある島国を元にしているらしく、独特の雰囲気がありました。

 私とデノンさんで一部屋、フォルテが一人で一部屋を使っています。

「ここは、軍でも使っているので、関係者が使うときは、貸し切りになるんです」

 私は、あらためて軍という組織について、驚かされました。

 唖然として、声が出せずにいると、デノンさんは、思い出したように続けます。

「今回も、貸し切りなので、その刻印については、気にする必要はないと思いますよ」

 私は、自然と左腕を掴んでいました。デノンさんに見られた記憶は無いのに、知られているとは思いませんでした。

「何故それを?」

「秘密ですよ。それと、お風呂が男女別という規則は変えられないので、残念だとは思いますが、諦めて下さい」

「べ、別に残念じゃないですよ」

 反射的に否定しました。肯定する理由もありませんし、残念に思う理由もありません。

「そういうことにしておきます」

 デノンさんは、にこやかに笑っていますが、何かひっかかります。

 私達が泊まる部屋は、畳という敷物がしいてあるのですが、この宿自体が、見たことのない造りをしているので、新鮮です。

 フォルテとは、部屋もお風呂も別ということで、夕食だけは一緒に食べるよう約束させられてしまいました。けれど、時間まではまだあるので、デノンさんと温泉へ行くことになりました。

「ここは、露天風呂って言うんですよ。知り合いがいうには、風情があるって言ってました」

「風情ですか? まぁ、眺めもいいので、気持ちよさそうですね」

 この宿は、少し高い位置にあるので、かなり遠くまで見渡すことが出来ます。街の方向ではないので、街から見えるということもありません。

 湯船につかり、デノンさんの方を見ると、普段は、茶色い髪を一本の三つ編みにしているのですが、今は、解いているようです。

 しばらく見ていると、デノンさんと目が合い、その視線が、私の左腕へと移りました。

「それが、フィーネの刻印ですね」

 いきなり言われるとは思っていなかったので驚きましたが、完全に見えてしまうのでは、しかたありません。

「そうですけど、帝国では、どこまで知っているんですか?」

「そうですねぇ、お伽話になっている範囲とだけ、言っておきましょうか」

 何か含んだ言い方です。デノンさんから振ってきたのですが、何も聞けませんでした。

「ところで、フォルテさんとは、どういう関係なんですか?」

 デノンさんが、湯船の中で、身を乗り出してきました。距離が近く、瞳に映る私の顔がはっきりと見えています。

「えっと……、私は、ただの護衛ですよ」

「それは、建前というか、一緒に旅をするきっかけで、公的な関係ですよね。私が聞きたいのは、私的な、心の中で、どう思っているかですよ」

 私は、心臓が大きく跳ねるのを感じ取りました。それをきっかけに、顔が赤くなっている気がします。

「どうしたんですか~。顔が赤いですよ」

 どうやら、本当に赤くなっているようです。

 デノンさんは、私の反応を見て、楽しんでいるようです。

「し、私的な、関係といっても、友達だったわけでも、ないので、別に、そう、別になんでもありませんよ」

 声が、少し上ずった感じがしますが、一気に言い切りました。

「怪しいですね~」

 目が笑っています。会話の主導権を握られたままでは、不利です。この状況は、何とかする必要があります。

「そういうデノンさんは、オメガさんとはどういう関係なんですか?」

「え……」

 無理矢理ですが、帝国で名前を知っているのは、アンプ=リファイアさんと、オメガ=ウーファーさんくらいしかいません。

 それにしても、かなり歳が離れているはずですが、何故顔を赤くし、言葉に詰まっているのでしょうか。

「そうです、私と、オメガ長官は、上司と部下の関係です。それ以上でもそれ以下でもありません」

「本当ですか~?」

 私は、訝しげな目を向けています。ただ知っている名前を口にしただけだったのですが、思いがけず当たりだったようです。

 こうしてみると、人の恥ずかしがる仕草というのは、見ていて楽しいです。先ほどのデノンさんも、こういう気持ちだったのでしょう。

「とにかく、話を変えましょう。ええ、それがいいです」

「では、穏やかな話にしましょうか」

 デノンさんも頷き、他愛ない話を続けました。

 長時間入っていたこともあり、のぼせ気味になってきたところで、私達は、お風呂から出ることにしました。

「そうそう、良い物を借りてきたんですよ」

 そう言って、デノンさんが見せてくれたのは、大きな布の様な物でした。

 シャツのように見えるのですが、大きめなので、正体が掴めません。

 首を傾げている様子に見かねたのか、正解を教えてくれました。

「これは、浴衣って言うんですよ。東方の島国の伝統的な服なんです。着心地がいいんですから、是非来てみてください」

 そう言われ、無理やり着せられました。

 一枚の布で、体を覆い、別の布を巻くのですが、つい最近、似たようなものを見た記憶があります。

「あ、サイレントさんが、着てたのに似てる」

 私のつぶやきが聞こえたようで、デノンさんから返事が来ました。

「あの武器商人さんですね。あの人のは、着物って言って、ちょっと違うらしいです」

「あの人、顔が広いんですね」

 詳しい話は聞いてもわかりませんし、サイレントさんとの繋がりは、教えてくれなそうなので、追求はしません。軍に出入りしている武器商人とは、かなり物騒な気がします。

 それにしても、この浴衣というのは、通気性がいいのか、スースーします。いつもローブを着ている身からすると、薄着というのは、気恥ずかしいものがあります。

「さて、そろそろ時間ですから、行きますよ」

「え、あ、はい」

 変わった着心地に意識を奪われていると、デノンさんが先に行こうとしています。

 置いて行かれると道がわからなくなってしまうので、急いでいかなければいけません。けれど、この浴衣は早く動きにくいので、大変です。

 荷物を部屋に置いてから食堂へ向かいました。

 デノンさんが、ふすまという横開きの扉を開けると、畳の敷かれた広い部屋がありました。

「お待たせしました」

 どうやら、フォルテはもう来ていたようです。

「遅くなりました」

 デノンさんに続き、部屋へ入ります。この宿自体が、貸し切りということもあり、気恥ずかしさはなくなったと思ったのですが、見せていない人に見られるというのは、恥ずかしいようです。

「別にゆっくりしてたから――」

 フォルテは、いつもの服ですが、言いながら顔をこちらへ向けると、途中で言葉が止まりました。

 デノンさんは、髪を解いているので、その変化に見とれているのでしょうか。何とも不愉快です。私の感じている気恥ずかしさは、何だったのでしょうか。

「その、なんだ……カノン、似合ってるぞ」

「えっと、ありがとうございます」

 フォルテは、少し赤くなっていますが、その様子を見ていた私も、少し赤くなっている気がします。

 お世辞とはいえ、気を使えるとは、見直しました。

「フォルテさん、私には無いんですか?」

「え、ああ、似合ってるぞ」

 私の時と同じ台詞です。ですが、言い方のせいでしょうか、不思議と嫌な気はしませんでした。

「まぁいいでしょう。さぁ、美味しいご飯の時間ですよ」

 私達は、他愛ない話をしながら、夕食を食べました。食後に出てきたかき氷というのは、とても冷たく、美味しかったです。

 久々にのんびりとした時間を過ごすことが出来ました。思い起こせば、メゾともこういった話が出来たはずだったのに、あの時は、そんな余裕ありませんでした。今度あったときは、ゆっくりと話をしようと思います。

 

 

 

 

 後は、クレモナへ戻り、オメガ=ウーファーさんに女帝シンセ=ドラムスへの謁見の手伝いをしてもらうだけです。

 同盟を結ぶための交渉は、フォルテに任せることになるので、私の護衛としての仕事は、そこで終わりです。

 そう思うと、少し寂しさを感じます。今後としては、旅をする予定ですが、その途中で魔族と戦うという道もあります。先のことなので、護衛がきちんと終わってから考えようと思います。

 




こんにちは

やはり、ダンジョンは欠かせません。
そして、ボスといえば、いろいろ候補はいますが、ゴーレムもその一つです。
そう何度も出すつもりはありませんが、遺跡に入ってボスと戦う。王道のルートです。

それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからも、お付き合いいただけると、幸いです。
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