ベップウの街にある宿で夜を過ごし、早朝には、クレモナへ戻ることになりました。
行きと同様に、デノンさんのバイクという魔法機で荷車を引いてもらう形です。
昨日杖を落としてしまい、今になって違和感を覚えています。それだけ、馴染んでいたのでしょう。そのため、今日は、クレモナに戻り次第、オメガさんのところへ報告へ向かう前に、フォルテと共に杖を新調しに行くことになっています。
旅に必要なものを揃えるための買い物でしたら、よく行きます。けれど、杖は、私の私物です。確かに、必要なものではありまあすが、私物をフォルテと買いに行くというのは、何やら新鮮な感じがします。
「カノン、どうしたんだ?」
「あ、いえ、何でもないです」
いつの間にかフォルテの顔を見ていました。
そのことに気付かれ、恥ずかしい思いをしています。
誤魔化すように前を見ていると、後ろ姿なので確証はありませんが、デノンさんが笑っているような気がします。
気を紛らわせるために風景を眺めていると、最近の私は、何か変になってきているという考えが頭をよぎりました。
師匠と旅をしていた頃は、毎日が充実していましたが、誰かによって心を乱されることはありませんでした。ですが、ここ最近は、動揺したり、恥ずかしくなったり、困ることが多すぎます。
そんなことを考えていると、視界の端に、大きな都市が見えます。
「お二人共、クレモナに着きますよ」
ベップウの街と比べると、要塞という感じがします。やはり、4将の一人であるオメガさんの領地だけのことはあります。
「それにしても、クレモナは大っきいな」
「ええ、魔学都市ですから、魔法科学によって造られたものが、多々あるんですよ。今のお二人になら、ある程度の案内は出来ますよ」
「あー、前は、部外者だけど、今は協力者ってことか」
「そういうことです。それでは、私はバイクを止めに行くので、お二人は正門でいいですか?」
「ああ、杖を買ったらすぐに行くよ」
「それでは、この印を研究棟の警備員に見せてくれれば、オメガ長官のところに案内してくれますから。後、杖が買えるお店の地図です」
「カノン、どうした?」
「あ、すみません、ありがとうございます」
考え事をしていたせいで、ほとんど聞き流していました。ですが、フォルテが聞いていたはずなので、大丈夫でしょう。
デノンさんと別れ、二人で杖を新調しに来ました。
この都市では、魔法科学が栄えているので、魔法使い用の杖が手に入る場所は、一箇所しかないようです。
「どの杖にするか迷っても、どの店にするか迷わない分、楽かもな」
あの杖は、師匠が用意してくれたものでした。
「ええ、そうですね」
「流石に仕込み杖なんてないよな」
仕込み杖という特殊な杖を使うことになった理由は、魔法使いも体を鍛える必要があるから、ちょうどいいというものでした。
「ええ、そうですね」
「ここなら、仕込み銃なんてありそうだよな?」
ずっと使っていたので、あの杖以外を使うところが想像できません。
「ええ、そうですね」
「カノン、抱きしめていいか?」
不用意にゴーレムに近づいたせいで、杖を手放してしまうとは、自分に対しての苛立ちが隠せません。
「ええ、そ……何言ってるんですか!」
驚きました。フォルテが突然何を言い出すのかと思いきや、そんなことを言い出すとは思ってもいませんでした。
「いや、何か上の空だったからさ」
「何で上の空だからって、急に、だ……だだだ、だき……何で、そんなこと言うんですか」
私は今、絶対に顔が赤くなっています。それもこれも、フォルテのせいです。
ですから、目付きが悪いと言われるツリ目で思いっきり睨むことにしました。
「その、えっと、杖屋の前を通り過ぎようとしてるから……」
誤魔化されているような気もしますが、フォルテの発言は、本当のことでした。
進行方向とは逆の方に、デノンさんが教えてくれた杖屋さんがあるので、少し通り過ぎていました。
咳払いをして、気を取り直しました。
「気付かせてもらって何ですが、もう少し方法を考えて下さい」
「ああ、すまない」
私が悪いのに怒ってしまいました。さらに、謝らせてしまいました。
すぐにでも謝らないと、謝りづらくなってしまいます。
「いえ、私が悪いので、ごめんなさい」
「あー、これじゃキリが無くなるから、早く杖を選ぼうぜ」
「ええ、そうですね」
私達は、気を取り直して、杖を選ぶことにしました。
ですが、どんな杖を選べばいいのかわからず、お店に並べられたものをただ眺めることしか出来ません。
「いらっしゃい、何かあったら呼んでくれよ」
かなりお年を召した方ですが、特に接客をするつもりがないようですが、根掘り葉掘り聞かれても困るので、ちょうど良いです。
「それで、どんなのにするんだ?」
「同じのは無理でしょうから、ある程度強度があるものがいいです」
剣などの武器による攻撃を防ぐためには、強度がないと話になりません。後は、重さとの兼ね合いですね。
「大きくても扱いづらいよな。なら、これはどうだ?」
フォルテが手にしたのは、前の杖と同じくらいの大きさの杖です。材質的にも問題はありません。ですが、翼の様な大きい飾りが付いています。
私は、怪しい物を見る目でフォルテを見ています。
「こんな派手で邪魔なものが付いた杖を使えと?」
「やっぱりカノンの好みじゃないか」
「わかってるなら聞かないで下さい」
そう言いながら、店内を見回すと、端の方で目が止まりました。
そこには、無数の安物と思われる杖が、樽の中に入っていました。
「何か、普通だな」
「ええ、ですが、無駄がないので、私好みです」
そう言いながら、一本の杖を手に取ります。大きさは問題ありません。後の問題は、強度です。
材質は木なので、恐らくは斬られてしまうでしょう。
「ほとんど木の杖だな。鉄だと思いだろうし、店の人に相談したほうが良くないか?」
確かに、私の場合は、一人で相手を捌きながら詠唱するのが、本来の戦い方です。それにあった杖を探すのですから、在庫を把握しているお店の方に聞くべきですね。
「そうですね。ちょっと聞いてきます」
売り場の奥の方にいる店員さんに声をかけることにしました。
「あの、ちょっとお聞きしたいんですが」
「嬢ちゃんどうした。彼氏はほっといていいのか?」
この人は、突然何を言うのでしょうか。この年齢の人は、人をからかうのが好きな人が多いので、取り合わないことにしましょう。
「べ、別に、彼氏じゃ、ありません。杖のことで、聞きたいんです」
「そうかいそうかいつまらんなー。それで、何だい?」
「杖について聞きたいんですが、剣でも斬れないような剣はありませんか?」
私の質問を聞いて、お店の方が訝しんでいます。
「珍しい杖をお探しじゃな。普通の魔法使いは、仲間に守られて、安全な場所から攻撃するのに、まるで、一人で戦おうとしておるようじゃ」
「……そういうふうに教わりましたから」
すぐに答えられませんでした。師匠といた時は、複数の魔獣相手に一人で戦ったこともありました。けれど、今は普通の魔法使いとして戦うことに慣れて今っています。それは、信頼できる仲間がいるからです。
このままでは、私は、師匠から教わったことを忘れてしまいそうで、恐怖心が込み上げてきました。
その時、後ろから頭に手を乗せられました。
「カノンは、強いんだ。だから、俺は安心して前へ出れるんだよ」
フォルテは、何故こうして恥ずかしいことを惜しげも無く言えるのでしょうか。そのせいで、私の心が揺れ動きます。
「なるほど、若いな。それなら、いいのがあるぞ」
お店の方が、そう言って持ってきたものがあります。
ですが、それは、杖というには、あまりにも短いものでした。
「これは?」
「杖だ。ただし、伸びる」
「伸びる?」
私達は、驚きのあまりに声が揃っていました。
私達の反応に満足したのか、お店の方が、その杖らしきものを振ると、その勢いで、たちまち杖の内側から先端部分が飛び出し、それにつられ、伸びていくことで、普通の長さになりました。
「さっき嬢ちゃんが見てた杖と同じくらいの長さで、強度もある。持ち運びも便利だ」
これは凄いです。恐らくは鉄ですが、中が空洞らしいので、重さも問題にはなりません。そもそも、鉄を斬るような相手では、仕込み杖でも意味がありません。ある程度打ち合える強度があれば、それで問題はありません。
「持ってみていいですか?」
「ああ、思う存分たしかめんしゃい」
お店の方から受け取ると、思った以上に軽く、驚きました。扱いやすい大きさで、核石も杖の中には、通常の大きさの核石が入っているので、魔法の行使にも問題はないはずです。ですが、一つ気になることがありました。
通常、一つの杖に、核石は一つです。ですが、この杖には、魔法を発動させるための核石の他に、二つの小さい核石が入っています。
「ほう、気付いたか。嬢ちゃんは、ちゃんと魔法の修行をしているんだな」
「試してもいいですか?」
お店の方は、静かに頷きました。そして、小さい核石の内、上側に付いている方を、示しました。
私の予想通りのものであれば、詠唱を使わず、純粋に練り上げた魔力を流しこむだけでいいはずです。
そして、魔力を流し込んだ瞬間、杖の先端が引込み、段々と杖が短くなり、元の大きさに戻りました。
この状態で杖を振りますが、先端が出てくることはありませんでした。
フォルテは不思議がっています。短くするのに、核石の力を使うのであれば、もう一つの核石の効果も、自ずとわかります。
もう一方の核石に純粋な魔力を流し込むと、先端が飛び出してきました。先ほど、お店の方は、振る動作にあわせて、魔力を流し込んだに過ぎないようです。
私は、この杖が気に入りました。
「この杖は、おいくらですか?」
「そうだな、お嬢ちゃんはかわいいから、おまけしてやる」
お世辞を言われたからと言って、高くても買うわけではありません。
そう言って提示された金額は、一般的な杖の相場からすれば、かなり高いです。ですが、飾りのある自己顕示欲の塊のような杖と比べれば、若干安いくらいです。
「この値段なら、文句無いです」
「これにするのか?」
「ええ、勿論です」
フォルテは、自身のお金を出そうとしていますが、この旅の資金は、私が管理しているので、この杖を買えるほどの額は持っていないはずです。
そして、私は、個人のお金から杖の代金を払い、購入しました。
「坊主、次からはもっと早くするんだぞ」
フォルテは困っているようです。
そもそも、買うのに付き合ってもらうことにはなっていましたが、買ってもらうわけではないので、お金を出そうとしても、断ります。
私は、杖をしまい、お店の外へ出ようとしますが、フォルテが固まったままです。
「どうしました?」
「あ、いや、すぐ行く」
こうして、私達はオメガさんの元へ向かいます。
デノンさんからもらった印を研究棟の警備員に見せると、オメガさんの元へ案内してくれています。途中で別の人に支持をだしていたので、デノンさんも呼んでいるようです。
この前の部屋と比べると、ちょっとした休憩室といった風の部屋に通されました。
簡単な椅子と机があるくらいで、他には何もありません。周囲からは、鉄同士を打ち付けるような音がしています。
「いあー、すまんすまん、回収してもらった資料の精査をしていてな。つい、時間を忘れてしまった」
つなぎを着て、多少油にまみれているようです。確実に精査という段階では内容な気がしました。
「皆さんすみません、遅れました」
ちょうどデノンさんもやって来ました。遠目で見ても、髪が少し濡れているようなので、油を落としたのでしょう。
「それじゃあ、打ち合わせを始めるか」
簡単な机に、デノンさんが持って来た資料を並べています。
「お二人には、古代遺跡の資料回収を手伝っていただいたので、結果的に、魔族から帝国を防衛するための設備の製造の手伝いをしたことになります。それは、帝国のために働いたことになります。魔族からの防衛は、帝国にとってかなり優先順位の高いことですか――」
「あー、簡単な話、女帝シンセが感謝するから、会いに来いって状況が作れるんだ」
デノンさんの形式張った長い話に飽きたのか、オメガさんが簡単にまとめました。
デノンさんは、少し困った顔をしていますが、口を挟まないので、間違いではないようです。
「後は、その場で俺が説得できればいいんだな」
「まぁ、そういうことだ。ワシに出来ることは、会うための場所を整えることまでだ。そこから先はお前達次第だ。女帝シンセを説得するための根拠を提示しろ」
女帝シンセ=ドラムスを説得するための根拠、つまり、王国との戦争を続けるよりも、同盟国となった方が、利益になるということを説明すればいいのですが、相手は国政に頂点である女帝、対して、こちらは騎士学校の生徒であるフォルテ、英雄の弟とはいえ、政治に関する知識の差は圧倒的なものがあります。けれども、フォルテなら、そこを何とか出来るはずです。私は、そう信じています。
「後は、日程だが、それは、女帝シンセの都合次第になる。なんせ一国の長だからな、それなりに多忙だ。三人が戻ってきてすぐに報告したが、いつになるかわからん。女帝シンセに会える日まで、二人はどうするんだ?」
「どうも何も、連絡が取れる場所にいる必要があるんだよな。それなら、そっちに指定してもらったほうがいいと思うぞ」
確かにそうです。帝国では、都市間の連絡をどのようにおこなっているかわかりませんが、私達が王国に戻っていれば、連絡をつけるのは難しいです。可能性としては、帝国の北側で、魔族の撃退に手を貸すというのが、濃厚でしょうか。
「まぁ、そうだな。だが、日程はすぐに決まると思うぞ。日程が決まれば、その日に帝都まで着てもらえれば、問題ないからな」
「そうか。とりあえず、日程が決まるまでは、クレモナにいるよ。居場所がわからなくて迷惑をかけるのは避けたいし」
「そうか、今日明日には、連絡が来るはずだから、待っててくれ」
こうして、この場は解散になりました。
今回の件は、思った以上に優先順位が高いようです。でなければ、今日明日で連絡がくるとは思えません。
女帝シンセ=ドラムスとの謁見の日まで余裕があるのでしたら、ノボリベーツの街へ言ってみたいですが、やはり、帝国の北側に行くことになるのでしょう。その方が、恩を売れます。
この日、私とフォルテは、クレモナの街を見て歩くことにしました。杖は新調したので買う必要はありませんが、仮にも、帝国随一の、魔法科学の都市です。興味を引くものが沢山あるはずです。
「町並みは、案外普通だな」
「ええ、ところどころで魔法機を見かけますが、日常生活に関わりそうなものばかりですね」
とりあえず街に出ましたが、魔法科学は、学問の一つですし、それを取り仕切っているのが、帝国軍ですから、興味を引きそうなものは、表に出ていないようです。
「普通に観光するか」
フォルテは、そう言うと私の手を握り、主導権を握ろうとしています。
お互いこの都市については、何も知らないのですが、フォルテが案内をしようとしているので、任せることにします。そのため、私は、フォルテの手を、そっと握り返しました。
「楽しませてくださいね」
私達は、笑顔を向け合いながら、クレモナをめぐりました。
やはり、どの街にでも、食べ物の露天販売はあるようで、美味しいものに舌鼓を打ちました。
その途中で、ソフトクリームを食べながら、一つのことを思い出しました。
「そういえば、王都の大聖堂では、ひどい目にあいました」
「あ……、覚えてたのか」
「勿論です。冷たい容器に入った物ならともかく、こんなべたつく物を付けるとは、考えてほしいものです」
フォルテを、下から見上げています。今まで来にしていませんでしたが、頭一つ分くらいの身長差があったようです。
「それじゃあ、その仕返しをしてもいいぞ」
「馬鹿ですか? そんな無駄なことをして、どうするんですか。今は、この時間を楽しんでいればいいんです」
「なぁ、カノン。俺といて、楽しいか?」
唐突でした。
けれど、深く考えるまでもありません。
答えは決まっていますから。
「いろいろありました。悲しいことも、辛いことも、死ぬかと思ったこともありました。でも、これだけは言えます。私は、楽しいと思っています」
何がと問われれば、答えられないと思います。けれど、決してこの旅を辞めたいと思ったことはありません。それが、一番の理由です。
「そっか。俺、疲れたとか、休みたいとか言うこともあったから、嫌々着いて来てるんだったら、どうしようかと思ってたよ」
「確かに、山越えや、街道を歩いているときは、休憩したがってましたけど、古代遺跡とかで、集中しているときは、一切弱音を吐かなかったじゃないですか」
「そりゃ、騎士学校じゃ模擬戦の訓練で弱音を吐いたらとんでもない目に会うんだから、そういう場所なら大丈夫だよ」
「騎士学校の生徒なら、山越えでも弱音は吐かないでください」
「残念ながら、基本は馬での移動だから、約束は出来ないな」
「まったく、そんなんじゃ、軍に入ってから大変ですよ。仮にも、グレイス家の人間なんですから」
「それじゃあ、まずはカノンの前で、弱音を吐かないようにするよ」
「そうですか。残り短いとは思いますが、約束ですよ」
「ああ、約束だ」
こうして、私達は簡単な約束をしました。
フォルテとの旅は、女帝シンセ=ドラムスと会えた時点で、一応の目的は達成になります。
最後には、王都まで戻る必要がありますが、その短い旅は、楽しい旅になるでしょう。
後少しですが、気を引き締めて行きます。ですが、この日は、連絡が帰ってこなかったようで、私達は、前と同じ宿に泊まることになりました。
次の日、私は、前と同様に、軽い運動をしています。ですが、杖を伸ばして見ても、やはり、剣として使える仕込み杖とは、勝手が違います。
これは、後々を考えると、護身用でも何でもいいので、簡単な短剣を用意するべきでしょうか。そう考えていると、誰かの足音が聞こえてきました。
「カノン、おはよう」
「フォルテですか。おはようございます」
フォルテが近くに来ると、軽く体をほぐしています。どうやら目的は私と同じようです。
「あー、流石にそれじゃあ、手合わせ出来ないな。カノンも剣を準備するか?」
「王都に戻るまでは、フォルテが前衛をしてくれるので、問題ありませんよ。ちょっとした短剣くらいはあると、心強いですが」
私が答えると、フォルテは、少し嬉しそうにしています。
ただ当たり前のことを言っただけなのですが、どうしたのでしょうか。
さらに、何か気持ち悪い反応を始めました。とりあえずは、そっとしておくことにします。
そろそろいい頃合いなので、私は、運動を切り上げることにしました。
これから部屋に戻ってお風呂です。
「なぁ、カノン」
部屋へ戻ろうとする私に対して、後ろから声をかけられました。
「左腕は大丈夫なのか? もしかして、無理してるんじゃないか?」
一瞬何のことかわかりませんでした。けれど、左腕へと視線を向けると、すぐに理解しました。
考えてみれば、ベップウの古代遺跡で魔法を使いましたが、その時は、命素の流れに不具合を感じることはありませんでした。
最後に不具合を感じたのは、北の村で、魔族と戦った時です。あの時を境に、何かしらの変化が生じたのかもしれませんが、私には、それを理解するための情報がありません。ですが、可能性としては、一つだけあります。
「刻印が、馴染んだのかもしれませんね」
私は、それだけ言うと、部屋へ戻りました。
私は部屋へ戻り、備え付けてある浴槽にお湯を溜めました。
湯船に入っていると、自然と左腕の刻印が目に入ります。
刻印からもたらされた知識はあっても、刻印に関する知識があるわけではありません。この刻印を受け継ぐときに師匠が言っていた、二竜王、一体は、天竜王アマツのことだとおもいます。それに加え、もう一体の竜王がいるということでしょうか。
さらに、もしも刻印が私に馴染んだのであれば、新たに妖精隠しが始まる可能性すらあります。詳しいことが何一つわからない以上、慎重にといきたいですが、そうも言っていられないので、調べられる機会があれば、調べることにします。
お風呂から上がり、着替えて部屋から出て、朝食を食べるために、フォルテに声をかけようと思いましたが、フォルテが何処にいるかわかりません。
扉の前で、軽く声をかけましたが、返事がありません。恐らくは、まだ戻ってきていないのでしょう。
私は、運動するための場所へと行く途中で、フォルテに会いました。
「戻るのですか?」
「ああ、体も温まったし、まだ何も食べてないからな」
「でしたら、一緒に行きますか? 前にデノンさんと行った軍の食堂の使用許可は貰ってあります」
「置いて行かれた時か……」
フォルテが少ししょげています。このままでは、埒が明かないので、フォルテの手を取り、強引にでも行くことにしました。
「行きますよ。今日は二人で食べるのですから、落ち込まないで下さい」
「そうだよな」
急に嬉しそうにしています。
こうして、食堂へ向かい、他愛ない話をしながら、朝食を食べていると、デノンさんがやって来ました。
「お二人共、ここにいたんですね。帝都から連絡が来たので、後で昨日の場所に来てください」
それだけ言うと、デノンさんは去って行きました。
「それでは、急ぎますか」
「そうだな。でも、終わりが見えてくると、寂しいな」
「別に、王国に戻っても、会いに行ってあげますから、寂しがらないでください」
「そう……か」
寂しそうな理由がわかりません。きっと、フォルテなりに何かあるのでしょう。
私達は、昨日簡単に話を聞いた部屋へとやってきました。
中では、既にデノンさんが何かの準備をしています。
「お待たせしました」
「思ったよりも早かったですね。今回は、私がお話しするので、適当にかけてください」
私達が椅子に座ると、デノンさんが話し始めました。
「えっと、帝都からの連絡で、関係者だけを集めた簡単な式典を開催することが来ましました。日程は、その、明日です」
私達は、驚きのあまりに唖然としました。
正しく、昨日の今日です。
「驚かれるのも無理はありません。元々明日は、4将の会議が予定されていました。どうやら、そこにお二人を加えて話し合う場を設けるそうです」
「つまり、4将と女帝シンセ=ドラムスを相手にして、交渉すればいいんだな」
「そういうことです。明日は、私もオメガ長官の補佐で出席しますが、お二人の手伝いは出来そうにありません」
デノンさんは、帝国側の人間ですから、そこはしかたありません。
「大丈夫だ。俺達二人で、なんとかするよ」
フォルテには自信があるようです。私には、フォルテを信じることしか出来ませんが、なんとかすると言っているのですから、大丈夫です。
「移動ですが、私とオメガ長官は、お昼すぎに出発して、帝都で明日を迎えます。お二人にも同行してもらうことになりますが、大丈夫ですか?」
私達は、静かに頷きました。
デノンさんは、それを確認すると、私達が同行するための手配をしているようです。
そして、お昼すぎ、私達は、デノンさんに支持された場所へ来ると、そこには、デノンさんのバイクに似た何かがありました。
荷車と一体になっているようで、車輪の数が4つになっています。
「では、お二人共乗ってください」
デノンさんに促され、後ろ側の椅子に座ることになりました。
オメガさんが操作するようで、デノンさんは、私達に簡単な説明をしてくれました。
この乗り物は、この試作品一台しかないそうです。もし、この乗り物が、荷車をつないで沢山の人を乗せて運ぶことが出来たら、王国と帝国による大規模な戦闘が再発しかねません。
それも、帝国側は、同じ時間でも、投入出来る人員の数において、王国を上回る可能性があります。
それにしても、何故、王国と帝国では、こんなにも技術の差があるのでしょうか。
「これも、魔法科学で作ったのか?」
「ええ、この子は、いい子なんですよ!」
いきなり、デノンさんが興奮しだしました。この手の乗り物は、デノンさんが愛情を注いで創っているのでしょう。
「いいですか、詳しい数字は言えませんが、運搬能力は、凄いものがあるんですよ。さらに、悪路でも、故障すること無く走りきれるので、未開の地でも、まったく問題ないんです。あー、もう、早く完成させて、名前をつけてあげたいです」
物凄い勢いで話し始めました。
興奮のし過ぎで、ぼんやりとした話になっています。オメガさんが口を挟まないところを見ると、機密は守っているようです。
段々と理解の及ばない話になってきました。もはや、何を言っているかわかりません。
しばらく走っていると、巨大な建造物が見えてきました。
「ほら、見えてきたぞ。あれが、帝都ポリフォニーだ」
私達は、声を失いました。
巨大な城壁に、多数の砲門があり、正しく城塞というべき出で立ちをしています。
大砲でしたら、王国にもありますが、あまり数はありません。けれども、帝国には、数多くの大砲を持っているようです。
「それでは、到着したら、私が案内するので、着いて来てくださいね」
とうとう女帝シンセ=ドラムスと会うことが出来ます。ここで失敗したら、今までの苦労が水の泡です。私達は、手をつなぎ、お互いの決心を確認しました。
この日、帝都の城にある客室へと通されました。
今、私達は客人ですが、明日はどうなるかわかりません。私が発言をする機会は無いと思うので、フォルテに全てを託します。
こんばんは
RPGだと、武装の変更はよくありますが、小説だと攻撃力という数値が決まっているわけではないので、伝説級の武器以外への変更は、滅多に無い気がします。
ですが、可変機構って響きが好きです。伸び縮みだけなので、伸縮機構ですが、どことなくかっこいい響きがあります。
それでは、今回もお付き合いいただきありがとうございます。
これからも、お付き合いいただけると、幸いです。