魔法使いと勇者と竜の国   作:enz

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女帝の望み

 私達は、今、帝都ポリフォニーにいます。

 これから、女帝シンセ=ドラムスに会い、王国と帝国との同盟を結ぶための交渉をします。交渉役は、一緒に旅をしてきたフォルテ=グレイスです。私は、護衛役にすぎませんが、一緒に旅をしてきたのですから、フォルテを信じて、最後まで見届けたいと思います。

 私は、準備を済ませ、部屋を出ると、案内役の方がいました。その人に連れられ、控室へ通されました。

「今日はよろしくな」

「私の出番はありませんよ。ただ、フォルテを信じるだけです」

 先に来ていたフォルテが、声をかけてきました。

 実際、私に話を振ってくることはないはずです。ですから、本心を口にしました。

 フォルテは、何故か照れくさそうにしています。これから大事な話をするのですから、しっかりとして欲しいものです。

「カノンが信じてくれるなら、安心できるよ」

 私は、顔が少し赤くなった気がします。

 信じると言うことは出来ても、それに対して返されると、恥ずかしいです。

「ところで、準備は出来ているんですか?」

「ああ、兄貴から預かった手紙もあるし、何とかなるだろ」

「……手紙なんて、預かっていたのですか?」

 私はそんなこと聞いていません。確かに護衛という立場ですが、少しくらい教えてくれてもいいと思います。

「手紙っていうか、王国では、どれだけの人が、同盟に賛成しているかを示す物らしいぞ。同盟を結びたいのが、兄貴だけだと、今回の話が成功しても、王国の意見をまとめられないからな」

 確かに、私達の旅が、国王の了解を得ているとはいえ、王国の権力者の中には、戦争を望んでいる人もいるはずです。その比率がわかれば、帝国を説得しやすくなるのでしょう。

「お二人共、準備はいいですか?」

 扉の向こうからデノンさんの声がしました。

「ああ、大丈夫だ」

「それでは案内するので、着いて来てください」

「さ、カノン、行こうか」

 フォルテは、立ち上がり私に向かって手を伸ばしてきます。私は、その手を取り、握り返しました。

「隣にいますから」

 私は、それだけ言いました。そして、それを証明するために、フォルテと手をつなぎ、女帝の前へ向かいます。

 

 

 

 

 私達は、デノンさんの案内で、巨大な扉の前に来ました。

「先に言っておくことがあるのですが、ひどいくらいの略式なので、手をつないだままでも大丈夫ですよ」

 にこやかに微笑みながら言うデノンさんに驚きながらも、私達は、急に手を離しました。ですが、私の手には、フォルテに温もりを感じます。

 私達の様子を見たデノンさんが、扉が開くと、中の様子が見えました。

 正面に王座があり、左右には、大きな窓がいくつも並んでいます。そして、王座の前には、帝国の色でもある赤い髪の女性が立っています。その髪は、足元まで届く長さで、着ているドレスも、赤を基調としています。そして、その存在から、厳かな雰囲気を醸し出しています。

 左側には、オメガさんが立っています。

 右側には、紅い短い髪のアンプ=リファイアさん。そして、アンプ=リファイアさんが、寄り添うように立つ男の人がいます。

 4将の会議を行う予定ときいているので、あの灰色の髪を後ろへ流している人が、ソードダンサーと呼ばれている、ディープ=ベースでしょう。

 後は、頭領呼ばれている人がいるはずですが、その仕事内容を考えると、顔は出さないのでしょう。

 私達を案内したデノンさんは、進行役も兼ねているようで、私達に、前へ進むよう促しました。

 フォルテが、前へ進みました。私も、追いかけるように足を踏み出しました。そして、中程まで来ると、フォルテが自己紹介を始めます。

「俺は、フォルテ=グレイスだ」

「私は、フィーネ=カノン=グリードです」

 礼儀として、形式に則ったお辞儀をします。けれど、自己紹介は、私達の身分が、どこまで伝わっているかわからないので、最低限しか言いませんでした。そもそも、帝国の手助けをしたことで呼ばれているのですから、今は名前だけのほうがいいでしょう。

「我は、このドラムス帝国の女帝、シンセ=ドラムスだ。此の度におけるお前達の働きには、国を代表して感謝する」

 こう言っては何ですが、何かの台本を呼んでいるような感じがします。

 私がそう感じた直後に、女帝が、さらに口を開きました。

「さて、お前達、口実はここまでだ。はよう用件を言え」

 どうやら、ほとんど伝わっているようです。

「ああ、まずは、この手紙を見て欲しい。俺の兄貴、デュオ=グレイスからだ」

 そういうと、フォルテは手紙をデノンさんに託しました。

 デノンさんは、何かの魔法機で手紙を確認すると、それを女帝の元へ運びます。

 女帝は、手紙を受け取ると、静かに読み始めました。その間、重たい空気が流れています。読み終わるのを待つしかないとはいえ、この空気には、耐え難いものがあります。

 そして、手紙を読み終えると、女帝は、フォルテを見据えました。

「同盟か。だが、同盟を組んだとして、我らに何の利がある? そんなことをせずとも、武力を持って制圧すればいい」

「だけど、魔族がいるから、それが出来ないんだろ。だったら、同盟を組んで、魔族に対しての防衛体制を築くべきだ」

「防衛体制か。だが、それは我らだけで十分だ。お前達のおかげでな」

 女帝は、オメガさんへ合図を送ると、オメガさんが一歩前へ出て、口を開きました。

「圧縮魔素砲は、現在6割方完成しています。心臓部に必要な資料も先日手に入ったので、数日中には、試射が出来るはずです」

「どうだ? お前達が、手伝った結果、我が帝国は、単独で魔族を制圧することが出来るようになる」

「そんな……、防衛用の設備だって言ったじゃないですか!」

 私は、思わず声を荒らげてしまいました。回収した資料は、魔族を力寄らせないための設備のために使うと聞かされています。ですが、制圧するというこは、武器だということです。

「砲撃によって、魔族を殲滅出来ると知れば、魔族は近寄ってこないはずだ。それに、ワシは、防衛用の設備だとは、言っていないぞ」

 私は、息を呑みました。確かに、あの時のオメガさんは、笑いかけてきただけでした。その反応を見て勝手に勘違いしたのは、私です。

「ごめんなさい、私のせいです……」

 私は、俯きながら、声を絞り出しました。

 そんな私に対して、フォルテは肩を抱くようにしてきました。

「大丈夫だ」

 そう短く言うと、フォルテは女帝へ向き直ります。

「それは、凄い武器なんだろうな。それが王国へ向けば、降参するしかないかもしれない。ところで、女帝シンセ=ドラムスに聞きたい。今、楽しいか?」

 私には、フォルテの言葉の意味がわかりません。けれど、それは、この場にいる全員が思っていることのようでした。

「そんなことが、関係あるまい。我らは、竜の加護を持つ国を、武力を持って制圧する。ただそれだけだ。それと、一つ教えてやろう。竜の加護を持つ国は、お前達のドラゴニア王国だけではない。我がドラムス帝国も、竜の加護を持つ国だ」

 今度は、デノンさんに合図を送っています。

「私は、オメガ=ウーファー技術長官補佐、竜の叡智解読専任技師、デノン=スピーカです。竜の叡智の解析や、その結果の利用を主とした任務についています」

 竜の叡智、それは、始めて聞く言葉です。かつてのフィーネの知識にも、そんな言葉はありません。

「お前達が、竜の力を与えられたのに対し、我らは、竜の知識を与えられた。それには、古代文明の知識も含まれる。その結果、我らは、古代遺跡の機能を利用出来るようになった。確かに、時間をかければ誰でも可能だっただろう。だが、今の時代で、それが出来るようになったのは、彼女の資質あってこそだ」

 デノンさんが、こちらに対して笑いかけています。彼女が、それほどまでに重要な位置にいるとは思ってもいませんでした。

 私は、自らの愚かさを呪いました。帝国のためになることをして、好印象を与えようなどと、虫のいいことを考えていたのに、その考えを利用されているとは……。

 私は、無意識の内に、左腕を掴んでいました。

 そして、私が、気を引き締めながら、女帝へ目を向けた瞬間、黒い何かが私の目の前に現れ、手にした刃を私の喉元に突きつけています。一瞬の出来事に、フォルテも動けていません。

「フィーネという存在が、刻印を媒体として、魔法を使えることは、知っているで御座る。害意は感じないで御座るが、万が一もある故、刻印から、手を話してほしいで御座るよ。カノン殿」

 私は、私の目の前に現れた黒ずくめの人を知っています。

「エコーさん……」

 私は、突き付けられている殺気に震え、微かな声でその人の名を呼びました。

「拙者のことを覚えてくださっていたで御座るか」

「エコー、よい。下がれ」

「御意」

 エコーさんが、掻き消えるように姿を消すと、オメガさんの横に現れました。

「お前は、知っているんだったな。我が将の一人、諜報部の頭領を務めているエコーだ」

「すまん、反応できなかった」

 フォルテが謝ってきますが、悪いのは、軽率な行動を取った私です。けれど、エコーさんの殺気に怯えている私は、指一つ動かすことが出来ません。

「エコー、殺気を残しすぎだ。城の者まで縛るつもりか?」

「申し訳ないで御座る。カノン殿の強さを知っている故、強くぶつけ過ぎたで御座る」

 時間が経ったお陰で、少しだけ体の自由が戻りました。

「お頭は、おっかないさね」

 突如、背後から人の気配がしました。

「サイレント……あんたも、軍人だったのか」

「そうさね。諜報部、筆頭補佐、サイレントさね」

 彼女もまた、帝国の軍人でした。

 恐らくは、私達の目的を確認するために、近づいたのでしょう。

「では、揃った所で聞こう。今代のフィーネをどう見る?」

 私は、その質問の糸がわかりませんでした。ですが、エコーさんとサイレントさんは向けられた言葉理解しているのか、口を開きました。

「取り込むのは不可能と判断した先代と比べれば、実力は劣りますが、現状においても、王国の上から数えたほうが早いくらいの実力はあるで御座る。ワイズマンの弟子と比べても、遜色ないで御座る」

「フィーネとなってからも、その成長には目を見張るさね。既存の魔法の実力のみならず、新たな魔法を作り上げるという点に置いても、十分以上の評価さね」

 どうやら、私達の旅は、帝国によって見張られていたようです。

 さらに言えば、私を含めた、フィーネという存在すら、監視下にあったようです。

「フィーネさんのことを、取り込むのは不可能と判断したってことは、帝国は、カノンを狙ってるのか」

 私は、フォルテのお陰で、今の状況を理解出来ました。けれども、竜の知識を持っている帝国が、私を欲しがる理由がわかりません。

「当たり前であろう。人間の守護竜である、天竜王アマツ。そして、魔族の守護竜である冥竜王マガツヒ。その2頭が、代理戦争の切り札として用意した、フィーネ=グリードというシステム。それを欲しがらない理由がどこにある」

 天竜王アマツ、その存在は、私達人間にとって、当たり前の存在です。姿形を見たことはなくとも、数々の伝承は残っています。ですが、魔族の守護竜という冥竜王マガツヒ、それは、魔族の側にいたフィーネの知識にもありません。それほどまでに、秘匿された存在なのでしょうか。

「ふむ、その顔は、わからないといったところか。まあ、しかたあるまい。マガツヒは、魔族にとっても、生みの親でありながらにして、迷惑極まりない存在であるからな。叡智を持たぬお前達が、知らぬのは、道理であろう」

 つまり、竜の叡智というのは、そういった伝わっていない知識すらも、もたらしてくれるということです。それにしても、魔族にとっても迷惑極まりないとは、どういうことでしょうか。けれど、今そのことを詮索する余裕はありません。

「私が、帝国側に立つ理由がわかりません。私の力が欲しいなら、王国と同盟を結ぶしかありませんよ」

 フォルテは、話の方向を変えられ、口を挟めずにいます。そんな中、これが、私にとって、精一杯の抵抗でした。

「ならば、問おう。お前は、お前にとって大事な存在を、手元に置きたくないのか?」

「え……」

 私は、いつの間にか、先程までフォルテと繋いでいた手を、もう片方の手で、覆いました。

 私に取って、大事な存在、それは……。

「今はそこの男が大事か? もっと大事な存在がいたであろう。我が力になれば、今は王都に眠るその者を、お前の目の届く場所に置くことすら出来るのだぞ」

 私は、気付きました。女帝の言っている大事な存在、それは、師匠です。

「お前にとって、何ものにも代えがたい存在であろう? その男の護衛を辞め、我がもとで、新たなる将となれば、お前の望みを叶えよう」

 私は、思考が溶けていく感覚に襲われました。考えても考えても、考えがまとまらず、ただ、女帝の言葉のみが、頭の中に響き渡ります。

「王国で、お前の師を、尊う者が、どれだけいた? デュオ=グレイス、タクト=ワイズマン、この二人だけであろう。他の全ての者は、フィーネ=グリードという名の意味を知れば、拒絶し、怒り狂い、罵倒を浴びせたであろう。そんな者達のいる国を、何故守る」

 今まで、師匠の名前を聞いた人達は、皆同じことを言いました。――災厄の魔女と。

 ですが、そう呼ばれたフィーネは、師匠ではありません。それも、はるか昔のことです。けれども、その名前だけに反応に、罵りました。

 フィーネという名前だけで、悪人だと決めつけられたこともありました。

「そう……ですよね」

 女帝は、私のつぶやきを聞き逃さなかったようです。

「そうであろう。ならば、我が将となり、お前の師を蔑んだものに、その報いを受けさせてやれ」

 この人の力になれば、私は、師匠に恩を返せるのでしょうか。

 私は、女帝を見上げ、ゆっくりと前へ進み始めました。

「私は……」

「それに、王国を支配すれば、次は魔族だ。九近衛(ここのえ)と戦う機会を与えよう」

 九近衛と戦う。それは、つまり――。

「あの……魔族を、殺せるんですね」

 女帝の言葉が染み渡り、一つの答えが浮かび上がりました。

 私は、黒く冷たい感情が浮かび上がっているのを実感しています。

「さあ、我が手を取れ」

 女帝が、私へ手を伸ばしています。

 私は、その手を取るために、一歩一歩近づいていきます。

「カノン、一度引き受けた依頼を放棄するのか」

「私が引き受けたのは、ここまでの護衛です」

「でも、フィーネさんは言ってたろ。平和になった方が、旅はしやすいって」

「帝国が勝てば、平和になります」

「でも、それには時間がかかる」

「同盟を結ぶにしても、王国の意思統一が終わっていない以上、時間はかかります」

「でも、同盟を結ぶ方が、絶対に早い」

「それは、希望的観測です」

「なら、俺は、カノンにそばにいて欲しい」

 私は、大きく胸が鳴るのを感じ取り歩みを止めてしまいました。黒く冷たい感情に飲み込まれていたにも関わらず、温かさを感じました。

「……フォルテ、貴方はそうやって私を動揺させて、どうするつもりですか。そもそも、貴方には許嫁がいますよね。それなのに、私に優しくするのは、何故ですか?」

 振り向きざまにぶつけた疑問に対し、フォルテは黙っています。私の問に答えられないのでしょう。ですが、それが答えです。

 私が、女帝の元へ向かうために踵を返すと、焦った声が聞こえました。ですが、意味をなしていません。

「カノンは、俺といて、楽しいって言ってくれたろ。俺も、カノンといて楽しいんだ。だから、俺と居てくれ」

「確かに……、私は楽しいと思いました。でも、辛いんです。メゾがいるから、メゾに言われたから……」

 私は、胸の内に秘めたものを少し口にしました。ただ、それだけで胸が締め付けられます。

「だからって、メゾを敵に回せるのか。メゾ戦えるのか」

「……私の邪魔をするなら、戦います」

 そう、私の……、帝国の邪魔をするなら、戦います。今したばかりの決意を、確かなものにするために、フォルテを正面から見据えました。

「そういうことだ。何なら、お前も迎えてやってもいいぞ」

「女帝シンセ=ドラムス、まだ気が早いぞ。カノン、抜け駆けするなって、言われた時は、意味のわからないって顔してたろ。でも、今ならわかるんだよな。ならカノンの気持ちを教えてくれ」

 私の気持ち、そんなものが、今関係あるのでしょうか。そう思いながらも、締め付けられる胸から、感情が口からこぼれ落ちます。

「私は……、だって、王国がなければ……、貴族とかがなくなれば、横から奪うようなことにならないじゃないですか」

 始めは、嫌いでした。でも、過去を知らない私にとって、旅の間の時間は、心を揺れ動かすには、十分な時間でした。

「この旅が終わったら、聞いてほしいことがある。大事な話だ。だから、そばにいて欲しい」

 何気ない言葉だと思いました。けれど、フォルテの言葉が、心のなかで響いています。

 何より、私にはこの言葉のせいで期待してしまいました。そう、本来は、考えてはいけないはずのことを。

 やはり、私には、出来ないようです。

「ダメですね。師匠のためよりも、私自身のために動くなんて」

 そう言いながら、女帝へ向き直り、覚悟を決めて、口を開きました。

「ごめんなさい。私は、フォルテのそばにいます」

 私は、ずっと師匠と一緒にいました。そして、その後はフォルテといます。

 今、フォルテ以上に、そばにいたい人がいないようです。

 私が、フォルテの横に立つと、女帝が、口を開きました。

「ハハハハハ、茶番はここまでだな。フィーネが手に入らなくとも、予定に変更はない」

 ひとまず仕切り直せました。フォルテには、迷惑をかけてしまったようなので、後で謝ることにします。

「なぁ、さっきの俺の質問に答えてくれ。今、楽しいか?」

「さっきも言っていたな。お前は、情に訴えかけようとしているのだろ。だとすれば、それは無駄だ。我には、我と共に道を創る者達がいる。そして、その者達と先へ進むのだ。ならば、たとえ辛かろうと、それは楽しいことであろう」

 フォルテの顔を盗み見ると、そこには、晴れやか笑みがありました。

「そっか。悪い、あんたのことを勘違いしてた」

「よい。女帝と呼ばれ、側近は、ここにいる者達だけだ。そのせいあってか、国の中にも、我を独裁者と呼ぶ者はいる。それに、お前達は、我について何も知らぬであろう。であれば、誤解するのも、当たり前のこと」

「そう言ってもらえると、助かるよ。でも、もうお手上げだ。俺には、あんたを説得するための方法がない」

「だが、お前は、個人としては我に勝ったのだ。我は、今代のフィーネを奪えなかったのだからな。そして、国同士であれば、主義が違い、主張が違う。損となることも、得となることも違う」

「でも、現に長い間、戦闘は起きていいないだろ」

 確かに、私が知っている限りでは、王国と帝国の戦闘は起きていません。けれども、その理由は明白です。

「魔族がいるからですよ。王国と帝国が、それぞれに戦力を集中させた場合、魔族に付け入る隙を与えることになります」

「そう、それだけが、唯一、利害が一致することだ。けれど、一度始めた戦いは、止まらぬ。止めるには、どちらかが勝つしか無い。お互い、勝つために多くのものを犠牲にしたのだからな」

「だったら、引き分けでいいじゃないか。決着がつかなくても、止まってたんだから」

「我らが戦いを辞めれば、魔族との戦況が傾く。そうなる前に、どちらかを一気に叩くであろう。そうなれば、もう一方が攻め込まないという理由が何処にある」

 王国と帝国の間で、今、戦闘は起きていません。ですが、かつては戦闘が起きていました。つまり、女帝は、王国を信用していないのです。仮に、信用していたとしても、完全に同盟が結ばれる前に、魔族が大規模な襲撃をかければ、国の一部は奪われるでしょう。それをする国が、一つとは限りません。それを避けるためにも、王国の手を取れないということです。

 しばらく、無言が続きました。フォルテも険しい顔をしています。恐らくは、同じような結論に至ったのでしょう。

「理解したようだな。ならば、ここまでだ。と言いたいが、一つだけ、方法があるぞ」

 私は、理解が追いつきませんでした。王国と同盟を結ばないと言っている相手から、結ぶ方法があると言われれば、誰でも混乱します。現に、フォルテも、訝しんでいますし、他の人達も、驚きを隠せていません。

「何、簡単なことであろう。戦って勝てばいい。それだけだ」

「でも、それは……」

「少し勘違いをしているな。フォルテ=グレイス、お前は、英雄の弟と呼ばれているのだろう。なら、平和を現実の物にした英雄になる気はないのか?」

「どういう意味だ」

 そもそも、デュオさんが英雄と呼ばれているのは、漆黒の竜痕と、それを排出し続けているグレイス家という二つの物の影響と、国同士の戦闘が起きていない間の戦意を保つために与えられたと言われています。

 確かに、平和を実現すれば、英雄と呼ばれることになるでしょうが、この交渉を纏めるのは、もう無理です。

「フフフ、やはり、フィーネの力は諦めきれないのだよ。だから、一つ賭けをしようじゃないか。我が賭けるものは、帝国の未来。そして、お前達が賭けるものは、お前達だ」

「それって……」

 女帝は、私だけでなく、デュオも引きこもうとしているようです。

「今代のフィーネに、英雄の家系、それは、この戦況を揺るがす存在になるだろう」

「だからって、そんなこと出来るか」

「まあ、最後まで聞け。此の場には、我が4将が揃っている。その中でも、戦うことを使命とする、ディープとアンプ、此の二人と戦い、勝った方が、相手を手にする。どうだ、受けてみないか?」

 デュオさんのライバルと言われている、ソードダンサーこと、ディープ=ベース、そして、銃を使う、ガンシンガーこと、アンプ=リファイア、この二人は、帝国の中では敵無しと言われています。そんな二人を相手にするのは、無茶です。

「俺は、英雄という称号には、興味ない。だけど、俺達が勝てば、王国との戦争は終わるんだな」

「ああ、その点については、約束しよう。但し、勝てればな」

 フォルテは、受けるようです。勝つ算段があるのでしょうか。

「カノン、協力してくれないか? 勝てれば、この旅が、無意味じゃなくなるんだ」

「構いませんが、負けたら、どうするんですか?」

 そう、負ければ、私達は帝国の人間になってしまいます。

「カノンとなら、負ける気はしないって言いたいけど、俺はそんな自信家じゃないしな。そうなったら、内側から説得するよ」

 フォルテが自信家かどうかはわかりません。けれど、勝つことだけでなく、負ける可能性も考慮しているのなら、大丈夫でしょう。

「わかりました。お任せします」

 フォルテは、私に対して頷くと、女帝に向き直りました。

「一つ確認したい。相手は、ディープ=ベースとアンプ=リファイアの二人だな。そっちの、エコーって人じゃないよな」

「ああ、ディープとアンプだ。エコーには、審判をしてもらうがな。それでは、場所を変えようか。勝負内容は、決闘とでも言っておこうか。片方が死ぬか、両方が降参するまでだ」

「ああ、わかった。他に何かあるか?」

「いや、それだけだ。何か追加したければ、始まるまでに考えておけ」

 こうして、私達の交渉は、思いもよらぬ方向へと行き始めました。

 

 

 

 

 

 移動中に、作戦会議をしましたが、突然のことで何か思い浮かぶわけでもなく、出来ることをやるだけです。ただ、一つだけは、決まっています。それは、二人共に降参して貰うことです。

「そういえば、どうして相手の確認を念入りにしたんですか?」

 私が聞くと、フォルテは、少し困った顔をしています。

「ディープ=ベースもアンプ=リファイアも強いと思う。でも、理解出来ない強さじゃないだろ。それに比べて、あのエコーって人は、底が見えないんだ。そんな相手とは、戦いたくないって思ったんだ」

 実力を計れる相手と、計り知れない実力を持った相手、戦わなければいけないのであれば、私でも前者を選びます。恐らくは、そういうことなのでしょう。

「そうですか。確かに、エコーさんの実力は、計り知れませんからね」

 こうして、帝都の外れにある荒野に場所を移しました。

 4将が揃って移動しているので、騒ぎになりかけましたが、女帝の姿が見えた途端に、その場が鎮まりました。私達が勝った時、同盟については、心配する必要はなさそうです。

「さて、審判はエコーに任せるが、異論はないな」

 私達は、お互いを見た後に頷きました。審判といっても、内容が内容だけあって、恣意的な判断は出来そうにありません。

「さて、話すのも始めてだが、俺が、ディープ=ベースだ。デュオ=グレイスと戦う前に、言い肩慣らしになりそうだ」

 その立ち姿から、余裕が見て取れます。けれど、油断しているそぶりはなく、隙が一切見当たりませ。その後ろでは、アンプさんが銃の確認をしています。あの武器を見るのは、北の村と、古代遺跡での2回だけなので、今回で3回目です。ですが、弾丸が早くまっすぐ飛ぶ以外の、詳しい特性は、わかりません。注意するにこしたことはありませんが、気にしすぎて動けなくなっては、元も子もありません。

「フォルテ=グレイスだ。実際に兄貴と戦ったことは無いんだろ。だから、実力を試しておくさ」

 お互い不敵に笑い、二人の間に火花が散っているように見えます。

「さて、四人とも、準備はいいで御座るか?」

 エコーさんが、声をかけると、私達は頷き、それぞれの武器を構えます。

 ディープさんは、噂通り剣を持っています。けれど、その剣には、引き金が付いています。私が知っている限りは、通常の剣しか知りません。ですが、何か意味があるはずです。

 アンプさんは、両手に小型の銃を持っています。あの弾丸にも、魔力を破壊する効果があるのであれば、詠唱には気をつける必要があります。

 私がそう考えていると、フォルテが声をかけてきました。

「最初は、俺が何とかするから、『戦いの調(たたかいのしらべ)』を頼む」

「わかりました」

「それでは、始め! で御座る」

 そういった瞬間、エコーさんが消えました。ですが、それに気を取られている暇はありません。

 フォルテが竜痕の力を纏いながら前へ出ると同時に、私は詠唱しながら後ろへ下がりました。

 ディープさんは、その行動を予測していたのか、フォルテへ向かって剣を振り上げています。

 けれど、フォルテは、一気に方向を向きを変え、私へ向かおうとするアンプさんへ向かっています。

 ディープさんもフォルテを追いかけますが、竜痕の力によって強化されたフォルテに追いつけていないようです。

「ディープ、まずは、フォルテからだ」

 アンプさんが、フォルテへ向かって魔力の弾丸を放ちました。

 短い間隔で、魔力の弾丸が発射され続けます。その状態では、始めの数発を斬り落としても、意味がありません。

 そのため、フォルテは、斜め前に回避しながら、アンプさんとの距離を詰めます。

「甘い」

 追いついたディープさんが、後ろから斬りかかって来ました。

 フォルテが、斜めに移動するために、ほんの少し速度を落としたのを見逃さなかったのです。

 フォルテは、体を回転させることで後ろを向き、オリハルコンの長剣で、その一撃を受けました。けれど、決して一箇所にとどまるようなことはしません。そんなことをすれば、すぐに、アンプさんによって撃たれてしまうからです。

 フォルテが、大きく剣を振るい、私の方へ一足飛びに、向かってきます。私の詠唱を聞いて、判断したのでしょう。

 私も、フォルテの方へ向かい、杖を持った手で、私の胸に手を当て、もう片方の手で、フォルテの胸に手を当てました。

「『戦いの調』」

 フォルテは、魔法が発動するや否や、その出力を上げ、白い縁を持った黒い鱗の鎧を纏いました。

 オリハルコンの長剣も、その力を纏っています。

 そして、私は、次なる魔法の詠唱に入ります。

「それが全力か」

 相手の方から声が聞こえました。

 帝国に入ってから、あの姿になったのは、一度だけです。ですが、エコーさんの部下から情報は入ってきているはずですから、私の他のとっておきも、既に知られているはずです。

 その証拠に、時々ですが、アンプさんが私に向かって弾丸を飛ばしてきています。けれど、私は、常に動き回るようにしているので、致命的な一撃を受けることはありませんでした。けれど、少し掠っただけでですが、恐怖心を植え付けるには、十分でした。

 フォルテは、私の唱えている詠唱が何かわかっているので、一撃一撃は押し込んでいますが、全体的には、時間稼ぎに徹しています。

 けれど、相手の方にも、余裕が感じ取れます。

 その証拠に、アンプさんの弾丸が、次第に精度を増してきました。あの弾丸が、詠唱によって練り上げられた魔力を破壊する可能性があるので、大きく回避する必要があります。もし銃を見たことなければ、詠唱が終わる前に、弾丸を受けていたでしょう。

「『風の調(かぜのしらべ)』」

 二人から、驚きを感じました。

 恐らくは、大まかな詠唱と、大体の時間を聞いていたはずです。ですが、私は、何度もこの魔法を唱えることで、徐々にですが、必要になる時間を短くしてきました。それが、この結果です。

 周囲の風を支配し、詠唱を開始します。

 アンプさんが、音のする方へ向け、弾丸を放ちました。それによって、いくつかは練り上げた魔力を破壊されましたが、破壊されるのであれば、それを前提とした対応をするまでです。

「フォルテは、ディープさんに集中してください」

 詠唱の合間に、伝えるべきことを伝えます。

 命素を消費し、風に詠唱させます。けれど、全ての詠唱で魔力を練るのではなく、いくつかは囮として、詠唱だけをさせます。

 アンプさんには、詠唱が、本当に魔力をねっているのかわからないようで、手当たり次第に破壊しています。さらに、その中でも高位の魔法を優先的に破壊しているようです。

 それでいて、私自身にも、銃を向けてくるのですから、恐ろしいものです。

 囮の詠唱をしたり、詠唱させる場所を気をつけたりしたせいで、魔法の弾幕を張ることが出来ませんでしたが、やっと、魔法による弾幕が完成しました。

 その結果、大量の魔法が、ディープさんとアンプさんに降り注ぎます。フォルテにも降り注いでいますが、私の癖のようなものを理解しているようで、器用に避け、利用しています。

 これで、私達の準備は整いました。

 けれど、これで全力を出せるというだけで、勝てるわけではありません。私達としては、二人共に降参して貰う必要があるので、何か手立てを考える必要があります。

「ディープ」

 二人が、たった一言を合図に、お互いを見つめ、頷き合っています。

 恐らく、何かしらの連携をしてくるのでしょう。

 フォルテも同じ結論に至ったのか、先手を取ろうと、大地に穴が空くほどに蹴り、ディープさんに近づきます。けれども、それを合図にするかのように、ディープさんが私へ駆け出し、アンプさんがフォルテへ銃を向けました。

 そう、相手を交換したのです。

「な……待て」

 フォルテが向きを変えようとしますが、飛んでいるに近いので、長剣を地面に刺し、減速した所で、大地を踏み直す必要があります。

 事実、そうしている間に、アンプさんの射撃によって、自由に動けなくなっています。

 私は、ディープさんへ魔法を集中させますが、火や風の魔法では、剣で斬られただけで、霧散してしまいます。

 こうなれば、有効な属性の魔法を探すしかありません。

 私は、周囲の風を使い、弾幕を維持したまま『石檻(せっかん)』と『風檻(ふうかん)』を詠唱させます。さらに私は、第四属性である水の魔法を詠唱します。

 その間にも、ディープさんは少しずつ近づいてきます。剣を使い、魔法を切り捨てながら近づいてくる光景には、恐怖を感じます。

「『水撃(すいげき)』」

 水流を生み出し、ディープさんを押し流そうとしますが、ディープさんが大きく剣を振った衝撃で水が途切れ、その隙に離脱されてしまいました。けれど、体勢を立て直すと同時に、『石檻』と『風檻』の詠唱が終わり、ディープさんを捕らえようとします。

「こんなもの!」

 ディープさんが剣を一振りすると、風が霧散し、魔法の効果が消えてしまいました。けれど、地の魔法は消えず、一部を斬るだけにとどまりました。

 ただ、ディープさんの剣を押さえ込むことが出来ず、離脱を許してしまいます。

 後は、複合魔法による、雷ですが、あれは、アダマンタイトの剣にも聞くことはわかっています。現段階で私が使ったことのある魔法の中で効果がありそうなのは、雷の魔法か、『断切(たちきり)』などの古代魔法の一部でしょう。

 生かすは殺すより難しいといいますが、その通りです。『断切』は危険すぎますし、他の古代魔法は、あまり使ったことがありません。刻印に知識自体は詰め込まれているので、それを頼りに使うしかありません。

「カノン」

 フォルテの声が聞こえました。

 気付けば、フォルテとかなりの距離がありました。いつの間にか誘導されていたようです。

 遠くにいるアンプさんの武器は、遠距離攻撃をするための銃ですから、距離は関係ありません。確かに、分断するつもりでしたが、相手も違いますし、ここまで距離を取るわけにはいきません。

 私は、フォルテの方へ向かいながらも、相手へ牽制を続けます。

 このまま相手を入れ替えるように移動します。ですが、そのためには、その隙を作る必要があります。

 これは、私の仕事です。そのための詠唱もしています。

「『鳴神(なるかみ)』」

 余分に魔力を加え、多重発動させます。

 杖を地面に突き刺した場所から、雷撃が迸り、視界を埋め尽くします。その光が、広がると、ディープさんとアンプさんからも視界を奪ったようです。

 方向を定めず放ったので、攻撃という意味では効果は薄いですが、隙を作ることは出来ました。

「フォルテ、一つ、賭けますか?」

「ああ、信じてるぞ」

 中身も聞かず、信じられてしまいました。ならば、成功させるしかありません。

 そのための知識を、刻印から引き出し、詠唱を開始します。

 フォルテが、ディープさんへ向かいながらも、二人の距離を離そうとはしません。二人を惹きつけようとしています。

 二人が、連携を取ろうとしています。

 弾幕を張ってはいますが、連携を崩せるような攻撃が出来ません。

 二人の動きに違和感を覚えました。ディープさんが、少し距離を取り始めています。

「任せたよ、ディープ」

 その声に反応するかのように、ディープさんの剣の軌道が変わりました。

 持ち手に付いた引き金を引きながら剣を振るうと、剣が分離し、芯の部分の太くしなる紐が振るわれ、鞭のようになっています。

「何だ、あの剣」

 鞭のように振るわれた刃が、周囲で詠唱していた魔法を破壊しました。

 さらに、突如動きを変え、フォルテへと襲いかかります。

 長剣で受け止めようとしていますが、剣同士が触れると、勢い良く弾かれています。

「連結刃だ。この魔法機の剣から逃げられると思うな」

 恐らく、分離に関しては、引き金を使い、剣の軌道を制御するのに、核石を使っているのでしょう。それにしても、魔法を破壊することの出来る剣に対し、魔法で軌道を制御するとは、対した技術です。

「私も、見せてあげようか」

 アンプさんの銃が、変化しました。

 二つの銃の形が変わり、組み合わさることで、一つの長い銃に変わりました。

 今までよりも大きな音と共に、弾丸が撃ち出されました。フォルテが長剣で受け止めましたが、勢いに押され、下がっています。

「何だ、この威力」

「気に入ってくれたかい? その娘にちなんで、とっておきをいくつか見せてあげるよ」

 その瞬間、長さが少し短くなりました。

 その銃を両手で持ち、引き金を引くと、弾丸が連続で撃ち出されました。

 ある程度まとまった範囲に弾丸がばら撒かれます。

 大きく回避すれば、避けられますが、それを繰り返していると、主導権を完全に握られてしまいます。

 見たことのない動きをする剣と、複数の形を持つ銃に翻弄され、動きに制約が出来てしまいます。

 けれど、二人が遊んでいるのは伝わってきました。それは、余裕からでしょうが、お陰で、詠唱が終わりました。

 私は、杖を回し、地面に対して、力強く突き刺しました。

「『氷結華(ひょうけっか)』」

 魔力を余分に練ることで、多重発動させます。本来であれば多重発動は、複数の対象へ向けますが、重ねあわせることで、広範囲に魔法を発動させます。

 アンプさんを中心として、一気に温度が下がり、凍り始めます。

「あ……足が」

 私の魔法に反応して飛び退くように移動しましたが、凍る速度の方が早く、アンプさんの足元が凍り始めました。

「氷か」

 ディープさんの声に驚愕を感じます。ですが、それも一瞬のこと。しなる剣を振るい、氷を破壊します。ですが――。

「再生するのか」

「いえ、凍り続けるんです」

 破壊された場所が、再度凍り、次第に大きくなります。

「クソ、氷が」

 そのままアンプさんの体を氷が覆っていきます。

 そして、首から下だけが、氷に包まれました。

「アンプ、待ってろ。すぐに助ける」

 ディープさんが、華のように開いた氷の成長が止まるのを待って、氷を破壊しようとします。けれど、フォルテが間に入り、邪魔をしています。

「降参してくれ」

「すまない、シンセが見ているんだ。負けるわけにはいかない」

 私達が、二人を殺せないのを理解しているようです。ならば、審判に止めさせるまでです。

 もう一度、『氷結華』の詠唱を始めます。

「同じ手はくわない」

 そう言いながら、剣を戻し、私へ向かってきました。どうやら、私が何をしようとしているのか理解しているようです。

「だから、降参してくれ」

 フォルテが、ディープさんと斬り合っています。お互いに小さな傷が増えていきますが、決定打がありません。

 ディープさんが、魔法を唱える私に近づこうとしても、氷の華に包まれているアンプさんに近づこうとしても、フォルテが立ちはだかります。そのせいか、ディープさんに焦りの色が見えました。

「この距離なら」

 ディープさんが、剣に付いた引き金を引き、剣を大きく振りました。分離し、鞭のようにしなる芯を持った刃が、フォルテへ襲いかかります。

 フォルテは、その刃を下がりながらも、回避していきました。

 そして、フォルテが下がった先には、氷の華がありました。

 私の耳には、「しまった」そう聞こえました。フォルテが、氷に足を取られたのです。

 今この瞬間にも、振り下ろされている刃が、フォルテへ迫っています。

 私は、胸に手を当て、最初に唱えた魔法が維持されているのを確認しました。

 その出力を一気に引き上げ、白い光が私を包みこむと同時に、全力で大地を蹴りました。

 一気にフォルテへと近付きますが、そのままフォルテへ体当りし、剣を避けきるほどの力は無く、失速を始めた段階から、手を伸ばしました。

 フォルテも、私の気配に気付いて手を伸ばしていたため、その手を掴み、華が開いたようになっている氷の段差に足をかけながら、そこを軸とし、一回転しました。

 その直後、私の背後に刃が降ってきましたが、回避には成功しました。

 刃が通った後の場所に引っ張られるような感覚がありましたが、剣が跳ねたり、振り直されると危険なので、すぐにその場を離脱しました。

 『戦いの調』の影響か、普段よりも身軽に感じます。

 フォルテは、私の行動が以外だったのか驚いています。

「動けますか?」

「ああ、何とか動ける」

「では、立て直しますよ。魔法の詠唱が途切れてしまったので、唱え直しますから、気をつけて下さい」

 普段であれば、詠唱を保持したまま動くことも出来るはずですが、咄嗟のことで、練り上げた魔力を放棄してしまいました。

 私達は、完全に仕切りなおした状態です。ですが、ディープさんは、ときどきアンプさんの様子を確認しています。どうやら、氷に包まれているせいで、凍えているようです。

「すまん、俺の負けだ」

 何を思ったのか、ディープさんが降参しました。

 恐らくは、アンプさんの状態を見て、長くは保たないと考えたのでしょう。私達としても、アンプさんを殺したくはないので、降参してくれるのは、ありがたいです。

「それでは、アンプ殿は、現段階を持って、拙者の権限で死亡扱いにするで御座る。よって、フォルテ殿とカノン殿の勝利とするで御座る。女帝シンセ、異論は無いで御座るか?」

「ああ、仕方あるまい。アンプも凍えているから、死ぬ前に出してやってくれ」

 アンプさんの声が聞こえないと思っていたら、気を失いかけているようです。顔を覆っているわけではないので、一応は生きています。

 私は、氷を溶かすために、魔法の詠唱をしますが、精密な制御も面倒なので、近付いて魔法を使おうと思ったのですが、歩こうとした瞬間に、何かに躓いたのか、転んでしまいました。

「その、大丈夫か?」

「ええ、ちょっと無理しすぎたみたいです」

 そう思って立ち上がりますが、何かが変です。後ろが軽いというか……。

 ですが、今は氷を溶かすのが先です。気にせずその場で詠唱を始めました。フォルテも、剣で氷を削っています。けれど、時々こちらを見ては、何かを言いたそうにしています。それにしても、自分でしたこととはいえ、後がこんなに面倒だとは思いませんでした。




こんばんは

そろそろ1章が終わりそうなわけですが、1章があるということは、2章があるということです。
それはさておき、ソードダンサーとガンシンガーですが、、いわゆる歳がばれる系の話だったりします。普通ならガンスリンガーですね、はい。

それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。
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