魔法使いと勇者と竜の国   作:enz

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式典の日

 魔法学園にグレイス家からの使いの人が来ました。

 その人に王都で行われる式典に日程を聞かされ、辞退したいと告げても、使いの人は、ただの伝言役だそうで、答えることは出来ないといわれました。ただ、デュオさんに伝えるとは言われたのですが、音沙汰がないまま出発の日が近づいていきます。

「カノン、最近どうしましたの?」

 朝の運動をしていると、メゾが聞いてきました。

「な、何の、こと、ですか?」

「声が上ずっていますわ。何か良からぬことを考えているんではありませんの?」

 鋭いです。ですが、メゾに知られては、デュオさんに告げ口される可能性があるので、知られるわけにはいきません。

「つまり、メゾにとって私は、信用出来ない相手ということですね……」

 目を隠しながら、泣いているふりをしました。けれど、メゾの視線から疑いの色が消えません。

「壊滅的に演技が下手ですわ。まぁ、変なことを企んでいないのであれば、構いませんわ」

 私は笑って誤魔化しました。確実に何か企んでいることは気付かれています。けれど、中身までは気付かれていないようです。

 そして、迎えが来る日まで、後3日になりました。

 魔法学園の生徒や先生の中には、それなりに力を持った貴族出身者がいるので、薄っすらと噂になっています。どうやら、完全に緘口令を敷くのは無理だったようです。

 私は、様々な感情が含まれた視線に耐え、放課後になりました。

 今、旅をするのに必要な物は揃っています。面倒事に巻き込まれたくはないので、しばらく旅に出ます。逃げるのではなく、久しぶりに旅がしたくなっただけです。

 無断で学園から消えるわけにもいかないので、ワイズマンに報告をすると、快諾してくれたので、問題はありません。黙っていてくれるようお願いしたので、きっと黙っていてくれるはずだと、思うことにしました。

 メゾには手紙を残したので、大丈夫です。ちょっと4大都市を回ってくるだけですから。

 そして、学園の門を一歩出ました。

「あら、フェアリ、散歩?」

「あ、はい、まずはイーストゲートに向かおうかと……」

 聞いたことがある声だったので、反射的に答えてしまいました。

 けれど、声のする方を向いた先には、今、会うべきではない人がいました。

「それは散歩というより旅ね? けれど、今イーストゲートに行かれると、式典に間に合わないから、控えてほしいわね」

 そこには、スレンダーな体型で、騎士団の服を着た女性がいました。

 キリッとした顔立ちのせいか、睨まれている気がします。ツリ目な私ですが、何故か怯えてしまっています。

「そ、そうですか。では、クワドルーブルさん、私は先を、急ぎ、ますので……」

 短かった黒髪が少し伸びている気がしますが、現実逃避はよくないですね。

 怯えて凍り付いた体をなんとか前へ向け、足に意識を集中し、一歩踏みだそうとします。けれど、思うように足が動きません。

 次第に、冷や汗をかき、背筋に冷たいものを感じ取りました。

「フェアリ、私は、貴女を逃がすなと言われているの。大人しくしてもらえるかしら?」

 とりあえず、動けるようになるまで、時間を稼ぎましょう。

「とこ、ろで、まだ、3日、あるはず、ですが」

 私は、クワドルーブルさんの方を向きながらも、少しずつ遠ざかろうとしています。

「ええ、3日あるわ。でも、デュオ様が、きっと逃げ出すから、見張っておいてくれって言われてるの」

 どうやらばれていたようです。ばれている上で、泳がされていたようです。

「それで、どうするんですか?」

 わかってしまえば、怯える必要はありません。そもそも、わかっていなくても、怯える必要はないはずです。

「フェアリに来てもらうことは確定しているわ。ただ、グレイス家にこれ以上実績を与えたくない勢力と交渉して、何とかフォルテ様だけで済みそうよ」

 グレイス家に実績を与えたくないと言っても、フォルテが頑張ったことには代わりありません。そこに、私の名前が出ることに意味があるのでしょうか。まぁ、私が出なくてすむなら、気にする必要はないですね。

「それなら、前もって教えてくれればよかったじゃないですか」

「交渉が難航してね、時間がかかったのよ。それに、本来であれば、式典の最中に、他の貴族が貴女を取り込もうと動く可能性もあったのだから、感謝してほしいわね」

 式典で他の貴族にもみくちゃにされる可能性があったわけですか。まったく、そんな政権闘争は、他でやって欲しいです。

「一応、お礼を言っておきます。それでは、私は学園でゆっくりしますので」

 こうして、私の旅の計画はご破産になりました。何というか、一人で要らぬ苦労をした気がします。

「そうそう、夜のパーティーには、参加してもらうわよ」

「何故ですか?」

「昼間の式典は、同盟を祝うための見世物で、夜のパーティーには、帝国の重鎮も来るわ。そこに、貴女がいないのは問題なの」

「面倒臭そうですが、編入させてもらった借りは返す必要がありそうですね」

「大人しく来てくれるなら、ありがたいわ。基本的に、アンダンテ家の令嬢と一緒にいていいから、よろしくね」

 こうして、面倒臭そうなパーティーに参加することになりました。それにしても、フェアリと呼ばれたのは、久しぶりです。私は、ちょっと戸惑いながらも、学園に戻りました。

 

 

 

 

 そして、王都で式典が行われる当日、私は、王都にあるアンダンテ家の屋敷に滞在しています。

 グレイス家の屋敷でない理由は、あそこが現在、人に囲まれているからということと、クワドルーブルさんにメゾと一緒にいるよう言われたからです。

 同盟を結ぶための使者として帝国を訪れたフォルテを一目見ようとする人や、戦争継続派の刺客などが、大勢いるそうです。

 朝食の後、メゾとゆっくりしていると、何度目になるかわからないことを言われました。

「まったく、カノン、貴女逃げる気だったのですわね」

「逃げるなんて人聞きが悪いですね。ちょっと旅の勘を取り戻しに行こうと思ったんですよ」

「そういうことにしておきますわ。ところで、お土産は期待していいのかしら?」

 そういえば、置き手紙にそんなことを書いた気もします。

「旅してないんですから、そんなものありません」

 当たり前じゃないですか。

「それは残念ですわ、まぁわかっていましたけど。それで、今日の式典ですけど、わたくしと一緒に、関係者席に来てもらいますわ」

 それは予想外です。夜のパーティーに参加するよう言われましたが、式典まで出ろとは言われていません。

「ちなみに、その席ってどの辺ですか?」

「その前に、会場のことですわ。カノンは王都に詳しくありませんものね。中心にある王城、その前にある広場で行われますわ。王国からは、国王であるエアー=ドラゴニア様が、帝国からは、女帝シンセ=ドラムスと、4将の誰かが護衛として着いて来るそうですわ」

 ドラゴニア王国の国王エアー=ドラゴニア、実際に見たことはありませんが、かなりの高齢で温和な人物らしいです。けれど、若い頃は自ら剣を持ち、前線で戦うほどに勇猛果敢だったと聞いています。

 噂によると、トランプの王は、国王の肖像画らしいです。

 ただ、一つ気になることがあります。

「随分と不用心ですね。そんな広場に国王や女帝が現れたら、襲ってくれと言っているようなものじゃないですか」

「そのために、側にはデュオ様が控えますし、他にも名だたる騎士が姿を見せるそうですわ。実際、そこで行うのは、国民に向けての式典なので、関係者席といっても、どこかの席で、お茶を飲んでいるくらいですわ」

「つまり、その見世物を見ていればいいんですね」

「まぁ、そういうことですわ」

 関係者席というよりは、観覧者席です。まぁ、そのくらいなら、いいでしょう。

「カノン、隠して……、言い忘れてましたわ。パーティーのためにうちでドレスを用意しましたわ」

 メゾが言うや否や、アンダンテ家の使用人が何着ものドレスを運んできました。どれも、かなり露出がお多いです。

 それに、今、隠していたと言われた気がします。

「そうですか、隠していましたか。なら、絶対に着ません」

「残念ですわ。なら、今から仕立てましょうか? アンダンテ家の力があれば、すぐですわ」

「いや、隠さなければいいというわけでは……」

「カノンに似合うのを選びましたの。試しに来てみれば、どれかしらは気に入りますわ」

 そういいながらドレスを手に取り見せてきます。

 それにしても、私に似合うとは思えません。

「とにかくいやです」

「そう言わずに、着るだけ着てみるのもありですわ」

 そう言いながらドレスを持って迫ってきます。

「メゾ、一つ答えて下さい。私を、着せ替え人形にしたんですか?」

「答えたら、着ますの?」

 質問を質問で返されました。

 ですが、これに答えるわけにはいきません。何故なら、メゾの目が、着せ替えたいと語っているからです。

「では、答えなくていいので、絶対に着ません」

「まぁ、嫌なら仕方ありませんわ。そもそも、カノンのその格好以外は、想像出来ませんわ」

 思いの外簡単に引き下がってくれました。こうも簡単に引き下がってくれるのであれば、最初から諦めて欲しかったです。

 それにしても、何故あんなにも多くのドレスを用意したのでしょうか、謎です。

 

 

 

 

 その日の午後、城の前にある広場で、式典が開かれました。

 私とメゾは、遠くから眺めるだけでしたが、かなり盛り上がっているようでした。

 それにしても、あれだけの騎士が揃うと、圧巻です。

 大した問題も起きず、式典が終わり、夜になると、城でパーティーが開かれました。

 私もメゾも、普段の格好です。そう言っても、メゾは、元々ドレスの様な格好なので、問題はないようです。けれど、私の格好は、やはり浮いているようです。メゾと一緒にいるよう言われましたが、メゾはすぐ貴族に囲まれるので、別行動をしようと思い、壁の花というやつになりきることにしました。

 格好のせいもあり、無闇に近づいてくる人もいません。けれど、遠巻きに噂されているような気もします。

 周囲を観察していると、国王や女帝の近くにフォルテがいました。公式な場なので、先ほどの式典同様に、騎士学校の制服を着ています。

 さらに、その近くで、デュオさんと、ディープさんが妙な笑顔を向け合いながら握手をしています。後ろでクワドルーブルさんが頭の痛そうな顔をしながら、その様子を伺っています。

 他にも、この会場のあちらこちらに、魔法学園の生徒と思わしき人がいます。上級学科の生徒は、それなりの貴族もいるので、当たり前のことですね。逆に、私がいることに驚いている様子ですが、噂のこともあり、近付こうとはしないようです。

 私のことを知っていると思われる反応をしている人の中に、どこかで見た茶髪がいました。確か、テルミンさんですね。帝国騎士団の知将の家系というのは、立場としてかなり上ということでしょう。

 見たことある人はすぐにわかりますが、ゆっくり会場を観察すると、所々にいる数人の貴族が、私の方を見ながら、牽制を繰り返しています。

 恐らく、その貴族たちが、グレイス家だけに実績を与えたくない派閥なのでしょう。それにしても、その中でも、権力闘争をするとは、何とも愚かしいです。

 しばらくじっとしていましたが、こういった場所には慣れていないので、疲れてきました。

「やあお嬢さん、隣、いいかな?」

 誰かわかりませんが、答える前に隣に着て、メイドさんから飲物を貰っています。

「そこがいいならどうぞご自由に。私は他へ行きますので」

 一礼して場所を変えることにしました。けれど、場所を変えても着いて来ています。

「僕が聞いたのは、あそこじゃなくて、君の隣だよ」

 にこやかに笑いかけながら追いかけてきました。

 やはり誤魔化せなかったようです。

「それは失礼しました。何処にいるかは自由なので、お好きにどうぞ」

 不機嫌さをよりわかりやすく声に込めました。これで諦めてくれるといいのですが。

「面白いお嬢さんだ。ますます興味が湧いてきた。まずは名前を教えてくれないか?」

「お断りします」

 即答しました。そうしたところ、少し顔が引き攣った気がします。さらに、周囲にいる女性が、何故か敵意を向けてきています。この人は人気があるのでしょうか。

 この人は、諦める気がないのか、貴族としての自尊心が強いのか、次の言葉を考えているようです。私としては、いい加減にして欲しいです。

 多少大きめにため息をつきながら、どうしようか考えていると、横から声がかかりました。

「カノン、お話が済んでいるのなら、着いて来て欲しいのですわ」

 メゾです。何ともいい頃合いです。これで、堂々と立ち去れます。

「へー、カノンちゃんって言うのか、かわいい名前だね」

「どうしたんですか?」

 私は、貴族を無視し、メゾの元へ向かいました。人の名前を勝手に呼ぶことに若干むかつきましたが、折角立ち去れるのですから、今だけは許します。

 けれど、貴族としての自尊心に傷が付いたのか、今にも怒り狂いそうな気配がします。

 それを察知したのか、メゾが口を開きました。

「フォルテ様がお呼びですわ。流石に、国王の元にいるので、離れられないということで、わたくしが呼びにきましたの」

 フォルテの名前が出た上に、言外に国王の元へ行くと言っているのですから、口を挟めなくなったようです。メゾには感謝しなくてはいけません。

 ただ、少し気になることがあります。

「デュオさんと、ディープさんもいますよね。少し怖いんですが……」

 王国一の騎士であるデュオさんと、帝国一の剣士であるディープさん、表面上は穏やかにしているとはいえ、そんな危険地帯に好き好んで近付く人はいないはずです。

「そのお二人でしたら、御前試合が決まったので、大丈夫ですわ。早く行きますわよ」

 大丈夫だとは思えませ。気が重いですが、行くしかないようです。

 せめてもの抵抗に、ゆっくり歩こうとしたら、メゾに引っ張られてしまいました。どうやら、諦めるしかないようです。

 そして、フォルテの元へ着ましたが、メゾから国王へ挨拶するよう言われました。

 まぁ、礼儀として必要なことではあります。

「私は、フィーネ=カノン=グリードです」

 問題は、正式な挨拶の仕方を知らないことです。そもそも、旅しか知らない私が、そんな挨拶を知っているわけがありません。

 他の人がやっていたのようなお辞儀を、見よう見まねで行いました。周りからは何も言われなかったので、問題なかったのでしょう。

「今回の件、ご苦労じゃった。ゆっくりと楽しむがよい」

 何とかこの場を切り抜け、わきに移動しました。

 そして、周りに聞こえないようにフォルテに話しかけました。

「何でこんな空気の重い場所に呼んだんですか」

 フォルテを見上げると、肩に足を乗せ、腹を頭の上に預けるようにして、黒い幼竜が乗っています。そこが定位置と言わんばかりにくつろいでいます。

「いや、俺離れられなくてさ、それに、カノンもずっと壁に寄りかかって何もしてなかったから」

 どうやら見られていたようです。それにしても、幼竜はかわいいです。

「フォルテ、幼竜を抱いてもいいですか?」

 思わず欲求を口にしてしまいました。けれど、それは幼竜が可愛いのがいけないんです。それに、前よりも少し大きくなっています。

 私の頼みを聞いてくれたのか、フォルテが頭の上の幼竜を手に持ちました。

「気をつけろよ。兄貴は触ろうとして引っ掻かれてたから」

 私は、ゆっくりと幼竜に手を伸ばしました。脇に手を入れるようにして持ちましたが、幼竜は大人しくしていてくれました。

 それにしても、少し重いですが、柔らかいです。成長するにしたがって、全体的に硬くなるそうですが、今は触っていて気持ちいいくらいです。

 思わず抱きしめてしまいましたが、このまま持って帰りたいです。

「そういえば、この子には、名前はあるんですか?」

「ああ、ブラッキーって言うんだ。黒いからな」

 何ともそのまんまです。ですが、妙にひねるよりもいい気がします。

「ブラッキーですか、いい名前ですね」

「二人共、わたくしを除け者にしないでくださいまし。可愛い幼竜で……」

 メゾがブラッキーに触ろうとしたところ、手を舐められて固まってしまいました。いっそのことメゾの顔の前に持っていったらどうなるか気になります。

 けれど、私の様子を感じ取ったのか、メゾが少し距離をとりました。

 悔しいです。

 仕方ないので、ブラッキーのつぶらな瞳がメゾから見えるように持ち替えました。ついでに、右手を持って手を振らせています。

 どうやら、あまりの可愛らしさに声が出せないようです。

「ところで、どうしたんですか?」

「ええ、そろそろダンスのお時間ですわ。フォルテ様、カノンと踊ってきたらどうですの?」

「私は踊ったことないですし、立場的にフォルテとメゾで踊るべきでは?」

 少し心が痛みましたが、今はそれを気にしません。

 フォルテは、少し困った顔をしています。

「それではフォルテ様、カノンにお手本を見せてあげるべきですわ」

「ああ、そうだな。それじゃあブラッキーを見ててくれ」

 フォルテがメゾの手を引きながら中央へ向かいます。あの二人は許嫁ですから、何の不思議もありません。

 周囲にいた人達も、二人に道を開けています。

 踊り始めた二人を眺めていると、後ろから声が聞こえました。

「久しぶりだな、嬢ちゃん」

 私が振り返ると、そこにはディープさんがいました。

「デュオさんと牽制しあってなくていいんですか?」

「あいつとは、御前試合で優劣を競うさ。ところで、オメガから伝言は聞いてるよな。まったく、アンプとデノンには、こっぴどく叱られたぜ」

 そういえば、戦いの後、デノンさん達に連れて行かれてましたね。

「サイレントさんも行ったはずですが?」

 私の言葉を聞き、ディープさんは深い溜息をつきました。その顔には、疲れが滲み出ています。相当ひどい目にあったのでしょう。

「サイレントは、俺に説教するんじゃなくて、二人が説教している間、俺を物理的に抑えつけてたんだよ……」

 何を言うべきでしょうか。サイレントさんがディープさんを押さえつけていたことにも驚きですが、あのディープさんがこんな顔をするとは思いませんでした。

「伝言は聞きましたけど、エコーさんといい、サイレントさんといい、常識外れな人達ですね」

「まったくだ。帝国内じゃ4将きっての実力者って言われてるのに、諜報部の二人の方が強いんだからよ。まぁ、伝言を聞いてるんならそれでいい。そういうことだから、髪のことは恨んでもいいが、何もしないぞ」

 ディープさんなりに気にしていたのでしょう。なら、答えておくべきです。

「別に恨んでませんし、気にしてもないので、心配しないでください。それに、ディープさんのそんな顔を見れたので、満足です」

 私は、にこやかに告げました。

「嬢ちゃんって、性格悪いだろ。まったく、女ってのは怖いぜ」

 酷いことを言われました。ですが、ディープさんが話しかけてきたおかげで、さっきの貴族や、私がフォルテと知り合いだと知って近付こうとしている人達が話しかけてこなかったので、無事に過ごせました。

「気を使ってくれたみたいなので、怒らないであげます」

「お礼がないのは、残念だ」

 そんなやりとりをして、軽く笑っていると、フォルテ達が戻ってきました。

「カノンは全然見てなかったろ」

 そう言えばそんな気がします。まぁ、それは仕方ありません。

「ブラッキーが可愛かったのと、ディープさんのせいです」

 そういいながらディープさんの方を見ると、いつの間にかいなくなっていました。

「カノン、フォルテ様と踊ってくるといいですわ。そうすれば、無闇に近付いてくる人もいなくなりますわ」

「さ、カノン、踊ろうぜ」

 フォルテが手を伸ばしてきました。

 メゾにブラッキーを預け、手を取りますが、一つ言っておくべきことがあります。

「足踏みますが、耐えて下さいね」

 ブラッキーに舐められているメゾを尻目に、警告しました。

 見たからといって、すぐに真似できるわけではありません。

「ちゃんとリードするから、大丈夫だよ」

 そのままフォルテに手を引かれ、真ん中へ向かいます。

 格好だけで浮いているのに、その上フォルテと踊るなんて、恥ずかしさのあまりに顔が赤くなっている気がします。

 フォルテのリードに合わせておどりますが、やはり上手くいきません。既に何度か足を踏んだにも関わらず、フォルテは涼しい顔で流してくれています。

「ごめんなさい」

「どうした?」

「いや、その……、何度も足を踏んでしまって」

 そう言いながら、また踏んでしまいました。けれど、フォルテは痛みを表に出しません。

「……気にしなくていいよ」

 フォルテは、にこやかに笑い、私を気遣ってくれました。

 けれど――。

「ごめんなさい」

「いいよ」

 そんなやりとりを何度も繰り返してしまいました。

 そして、何とかこの時間を乗り切りました。

 二人でメゾの元へ戻ると、メゾが笑いをこらえていました。

「まったく、本当に踊ったことないんですわね」

「そう言ったはずです。生憎と、ダンスとは縁のない生活を送っていますから」

「まぁ楽しめればいいんだよ。俺は楽しかったし」

 確かに、ちょっと楽しかったです。でも、それを口にするのは恥ずかしいです。

「ちょっと疲れました。風にでも当たりましょうよ」

 テラスへ出ることが出来るので、そこならゆっくり出来そうです。

「それもいいですが、フォルテ様は、一応、今日の主役ですわ。主役がいなくなるのは問題ですから、その提案は無理ですわ」

 それは残念です。しばらくの間、この衆目にさらされるわけですね。

「まぁ、忙しいのは俺だけだから、二人はゆっくりしていてくれ」

 フォルテがそういうので、大人しくゆっくりすることになりました。

 そのうち、周囲の視線も気にならなくなったので、ブラッキーを愛でたいと思います。

 

 

 

 

 突然、テラスへの入口付近で大きな音がしました。

 その音と共に、人影がテラスへと繋がる窓を突き破り部屋へと入ってきました。

「騒がせてしまったさね。女帝シンセ、皆に警戒の指示を」

「その必要はない。騒がせてすまないが、ドラゴニア王国とドラムス帝国の同盟成立祝賀会の会場はここで間違いないか?」

 その声の主に自然と注目が集まり、テラスへの入口に立つ二人の魔族が目に入りました。

 口を開いたのは男の魔族でした。筋肉の鎧を纏い、たてがみの様な黒の剛毛を持った武闘派の魔族のようです。けれど、その姿からは殺気を感じません。

 デュオさんを始め、名だたる騎士達が、警戒をしています。武器を持ってはいませんが、竜痕の力さえあれば、ある程度はしのげるはずです。

 フォルテも例に漏れず、素手ですが、臨戦態勢です。

 私は、静かに左腕を掴みました。今この場で、実力を発揮出来るのは私くらいでしょう。

「サイレント、小奴らは何だ?」

「侵入者さね。ただ、敵意は感じられないさね。まぁ、帝国側が用意した会場警備要員である以上、見逃せなかったさね」

 侵入した魔族には、多くの細かい傷がありますが、サイレントさんには目立った外傷がありません。そのことが、サイレントさんの言葉に妙な説得力を持たせます。

「彼女の言う通り、私達に敵意はありません。ご覧のとおり丸腰です。どうか、ボイス様のお話を聞いて下さい」

 魔族の女性にボイスと呼ばれた男の魔族が両手を上げてゆっくりと前へ出ます。

 行動で戦いに来たのではないと自らの行動で主張しています。

「私は、現魔王ノイズの息子、ボイスだ。この場には、戦いに来たのではない。交渉に来たのだ。とりあえず紹介しておこう。後ろにいるのは、九近衛(ここのえ)の一人、ノインだ」

 九近衛……、それは、師匠を殺したアインが所属している魔族達のことです。

「カノン、今は動くな」

 左腕を掴む力が強くなっていました。フォルテは、その様子に気付いていたようです。

 武器を持っていないデュオさんが、竜痕の力も纏わずにボイスと対峙するように立っています。

「それで、魔王の息子が何のようかな?」

「交渉だ。魔族を救って欲しい」

 王国と帝国の同盟が完成すれば、人間と魔族の力関係が大きく変わります。その前に何とかしようとしたのでしょう。

「私達の同盟がうまくいきそうだから、慌てているのか?」

「それもある。だが、それ以上に時間がないんだ」

「……ふざけるな」

 気がつけば大声を出していました。完全に頭に血が登っているようです。

「お前達が師匠を」

「カノン落ち着け」

 フォルテが私を抑えています。けれど、詠唱することは可能です。

 左腕の刻印に意識を集中していると、ノインが私に向かって話しかけてきました。

「その不思議な気配、貴女が今代のフィーネですね。アイン大将軍の行動に私達は関与していません。確かに、私達も、大将軍達も魔族のために行動していることは紛れもない事実です。けれど、私達は方法が違うのです。どうか、今はその怒りを収めて下さい」

「ふざ――」

 何かによって首の辺りを後ろから強打されました。わかったのは、それだけです。




こんばんは

そろそろ話が進み始めるはずですが、中々進まないものです。

それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。
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