私達は、昨日商団の護衛を依頼されました。
護衛とはいっても、既に護衛団を持っているそうなので、そこまでの意味は無いと思っています。どちらかといえば、相手の街へ着いた時の箔付けの可能性もあります。何人もの人が倒せなかったワーウルフを倒した。その宣伝効果は、かなりのものです。
そんなわけで、私達は、宿を引き払い、雇い主であるサウスゲート商会の支部へと向かいます。そこで、数日間は、護衛として旅を共にするのですから、護衛団の方々に挨拶をしようと思います。
「はじめまして、今回護衛として同行することになりました、カノン=フェアリです。よろしくお願いします」
「どうも。師匠のフィーネ=A=グリードですよ」
師匠は相変わらずです。ですが、そのおっとりとした印象を与えるタレ目や、泣き黒子、長い銀髪、そして、何よりも男性の目を引く巨乳、それはとても羨ましいものです。そんな外見のせいか、護衛団の人達は、師匠に対して好意的な印象を抱いているようです。
「そっちの嬢ちゃんは、何か不満でもあるのか?」
「いえ、目付きが悪いのは、生まれつきらしいので、気にしないでください」
「そうか、俺達みたいなのなら、目付きが悪いのは、泊になるからいいんだが、可愛らしい嬢ちゃんだと、損だな」
「ちがいねぇ」
そんな声がちらほらと聞こえます。
こんな人達に多少褒められたからといって、心から嬉しいとは思いません。ですが、一応、お世辞には、反応するとしましょう。
「そうですか。ですが、外見で判断してくる相手は、きっと大したことないはずです。そんなことをしない皆さんは、きっとお強いのでしょう」
「ハハハ、嬢ちゃん、嬉しいことを言ってくれるね。まぁ、ワーウルフを倒す嬢ちゃん達のことは、便りにさせてもらうぜ」
そもそも、ワーウルフとて、そこまで強い魔獣ではないのですが、この人達は、それすらも倒せないのでしょうか?
そうだとしたら、この商団はちょっと不安です。きっと、ちょうどいい話題だから、ネタにしているだけなのだと思うことにします。
護衛団の方々のほとんどは、優しく接してくれているのですが、一部の魔法使いと思われる人達は、周りを巻き込み、こちらをみてヒソヒソと話しています。前にも魔術協会で見た気もしますが、気にしても仕方ありません。何かされたら対処するとしましょう。
「おやおや、お二人も時間通りですな」
「あ、挨拶が遅れました。このたびは、よろしくお願いします」
「これはこれはご丁寧に。まぁよろしく頼むよ。詳しいことは、護衛団長に聞いてくれ」
「では、私から説明をする。二人には、私が乗る荷車の後方左側の荷車に乗ってもらう。何かあったら臨機応変に動いてくれ。場合によっては支持することもあるが、基本的には自由だ。君達が担当する荷車には、護衛団の者もいるから、詳細などを詰めておいてくれ」
要するに、一つの班が、一台の荷車を守るようです。私達は、三人の班に追加されるようです。私達だけに、一台の荷車を任されないのは、しかたのないことです。
私達が、担当の荷車へ行く途中、視界の済で、昨日騒いでいた人がいた気がしました。けれども、私から関わる必要はありません。
荷車に着くと、三人の護衛の方がいました。
「はじめまして」
「ああ、話は聞いてるよ。俺は、この班のリーダーをしている。この班は、俺ともう一人が、前衛をしていて、後の一人が、魔法使いだ。基本的に居てもらうだけで十分だから、安心してくれ」
「僕達の雇い主は、名声が大好きだからね。街で長期間放置されていた魔獣を討伐した人物を雇った。そういうのが、大事なんだとさ」
「実際、ワーウルフは、宣伝できるような魔獣ではありませんが?」
ワーウルフが、というよりも、放置されていた魔獣が、というのが大事だということです。リーダーと魔法使いの会話を聞く限り、この護衛団の実力には、心配する必要がなくなったと考えて良さそうです。
「最近は、ワーウルフにすら手こずるやつが多いそうでな、困ったんだぜ」
「ところで、もう一人の方は何処でしょうか?」
「ああ、あいつは単独行動が好きだからな。そういえば、嬢ちゃんの師匠も何処いった?」
私は、会話に夢中で気が付きませんでした。師匠がいなくなる理由はただひとつ、寝に行ったということです。
「この辺りで、座るか、横になれるところはありますか?」
「荷車の中かな?」
その返事を聞くと、私は荷車の中を除きます。そこには、師匠が居ました。それも、寝ています。ですが、もう一人、知らない人がいました。
「ああ、ここにいたのか」
どうやら、最後の一人のようです。暗い荷車の中に、黒髪と黒装束が溶け込んでいて、認識しづらい人です。失礼とは思いますが、じっと見ていると、軽く会釈されたので、会釈し返しました。
「どうもです」
しかし、師匠、なぜ貴女は、この状況で寝ていられるのでしょうか。
そんなことをしていると、出発の時間になりました。馬が荷車を引き、私達も運ばれていきます。
この班の人達は、周囲を警戒しながらも、雑談をしています。どうやら、この人達は、十分な実力者のようです。
「お嬢ちゃん、さっきから気になってたんだけど、その杖、随分と質素だな」
「師匠と同じものを使っているのですが、手に馴染んでいますので、これでいいと思っています」
魔法使いにとって、杖は核石させあれば、形は何でもいいです。ですが、一部の魔法使いは、自らの実力を誇示するために、過度な装飾をしています。私のは、杖というよりは、棒に近い形をしています。先端が微かに尖っており、中間から少し反対側よりと、反対側の先端には、握りやすいように布を巻き、核石が乗っかっているような形です。ほとんど装飾といえるものはなく、見た目上は、最低限の形でしかありません。
「最近の形から入る魔法使いよりは、好感が持てるよ」
「そちらの杖も、古き良き魔法使いという感じがします」
リーダーと物静かな剣士が前後を警戒しているのを尻目に雑談をしていますが、この魔法使いも、周囲を警戒しているのが見て取れます。たとえ、野盗に襲われたとしても、私達の出る幕はなさそうです。
何事も無く、移動が続き、三日目になりました。多少の魔獣とは遭遇しましたが、私達の出る幕は無く、何事もありませんでした。お昼も過ぎ、今日の夕方には到着すると聞かされています。
「そういえば、魔法協会で最初にあったのは、副団長さんでしたが、街では副団長が護衛をしているんですか?」
「あー、いや、たまたまだ。今の副団長は、何個か前の街で雇われたんだが、かなりの切れ者で、あっという間に出世したんだ。もっとも、副団長ってのは、俺達と求められる能力が違うんだけどな」
このリーダーは、言外に、実力で副団長の地位にいるのではないと言っています。私には、それがプライド故なのかは、わかりませんが、早い出世で、周りからは妬まれているのでしょうか?
「つまり、剣士としての実力よりも、政治力でのし上がったのですね」
「ハハ、言うねー。まぁ、そうだけどな」
そんな会話をしていると、周りの空気が張り詰めました。理由はわかります。
動物の声が途絶えました。恐らくですが、人がいるのでしょう、それも、森のなかに。
他の荷車のようすはわかりませんが、この班の人達は、全員が気づいています。さらに、師匠までもが起きています。これは驚きです。一瞬でスイッチが入りました。
「二人は、身を守ることを再優先にしてくれ。俺が前衛にいく。基本通りに行くぞ」
リーダーが小声で指示を出すと、二人は頷きます。寡黙な剣士が、魔法使いの護衛にはいります。まだ敵が襲ってこないので、こちらも迂闊には動けません。私と師匠は、杖を握りしめ、いつでも動けるよう待機します。
「カノン、教えたよね。襲ってくる相手に、情けは無用だよ」
「はい、わかっています」
わかっていますとも。私は師匠と二人で、何年も旅をしているのですから。野盗と戦ったこともあります。ですから、いまさら、情けをかけることはありえません。
生きることは、非情なのです。
「魔獣だ!」
遠くから声が聞こえました。
後方の荷車が魔獣に襲われたようです。
「野盗もいるはずだ、警戒しろ」
魔獣に気を取られ、警戒の薄い場所が出来ることを防ぐために、リーダーが声を出しました。魔獣を操る野盗、これは侮れません。
周囲の木々が揺れ、音を鳴らします。それとほぼ同時に、荷車へ野盗が飛びかかってきます。私達も反応し、各々取るべき行動を取ります。
リーダーが数人の野盗を引きつけますが、数が多く、敵を漏らしてしまいます。ですが、寡黙な剣士が、二本のダガーを逆手に持ち、目にも留まらぬ早さで、敵を切り裂きます。この人は、かなり強いです。一挙手一投足に無駄がありません。ですが、戦い方を見ていると、周辺の国でよく見る剣士とは、根本から違う感じがします。
「『
魔法使いの詠唱が終わり、魔法の名前を唱えました。
魔法使いの頭上に、魔法使いの肘から先くらいの大きさの火球が出現します。ええ、私のよりも、小さいです。
ですが、人間というのは、火に弱いので、効果てきめんです。
効果はありますが、野盗は、判断力を使い、素早く火球から離脱しました。魔獣とは違い、簡単には焼き尽くされてくれない。判断力の有無が、野盗と魔獣の違いです。
魔法使いは、一撃で終わらないとわかっていたため、次の詠唱を始めています。けれど、護衛が離れ、詠唱している隙を狙い、野盗の増援が現れました。
護衛団三人に対して、この作戦は効果的です。腕の立つ寡黙な剣士でも、間に合いそうにありません。そして、一人の声が響き渡しました。
「『焔』」
私の横にいた師匠です。
増援が現れた瞬間に詠唱をはじめ、魔法使いに襲いかかる前に完了しました。周囲にいる人々は、師匠の魔法に驚いています。
なにせ、師匠の『焔』は、私の『焔』の倍以上の大きさです。人を一人中に入れてもまだ余裕があります。その火球を見た瞬間に、野盗は自身の運命を悟りました。
火球は、野盗を包み込み、大きな火柱をあげます。火柱が消えると、そこで聞こえるのは、私の詠唱だけでした。
「『焔』」
師匠と比べれば、半分くらいの大きさです。ですが、それでも十分な大きさです。どうやら、魔法使いとしての実力は、私達の方が上のようです。
私達は、すぐに詠唱の終わる『焔』を連打します。増援の魔獣もいましたが、私達に近づき次第、消し炭にしてやりました。
一方的な戦闘の中、一番最初に我を取り戻したのは寡黙な剣士でした。
「この場を頼むで御座る」
そういうと、他の荷車への応援へと駆け出しました。
私達がいれば、この場は問題ない。総判断したのでしょう。
その様子を見ると、他の二人も遊撃へと移りました。そして、私達の荷車に近づく野盗は、いなくなりました。
この戦闘を見れば、誰も近づきたくはないでしょう。私達は、魔法が届く範囲の野盗へ攻撃をします。その結果、野盗は撤退したようです。
護衛団の方々が、撤退といったので、全滅ではないと思います。ですが、私はこの静けさに、違和感を覚えます。
「師匠、何か感じませんか?」
「うーん。違和感はあるけど、確証はないかな」
師匠も私と同じようです。ですが、確認する方法もありません。どうしようか悩んでいると、横から声をかけられました。
「お前達も、違和感を覚えているので御座るか」
それは、寡黙な剣士さんでした。ええ、とても優秀な人なので、語尾が気になりますが、さん付けです。格上げしました。
「この感じ、言葉には出来ないのですが」
「俺も同じだ。何かいる。そう感じるのだが、よくわからん」
私達が悩んでいると、商団の移動準備が整ったらしく、荷車が動くという知らせが出ました。移動するのであれば、また襲われる可能性は減るはずです。これが杞憂に終わることを祈って、先へ進みましょう。
街道を進み、もうすぐ森を抜けます。後は開けた場所が続くので、そこで襲ってくる馬鹿はいません。この違和感との付き合いもこれまで。そう思った矢先に、私は、森の出口に何かを感じました。
荷車の前方へと行き、目を凝らしますが、よくわかりません。
「嬢ちゃん、どうした?」
「何か、いるはずです」
「何いってんだ。こんなところで襲ってくるやつはいないよ」
「でも、何かいるんです!」
私は、つい大きな声を出してしまいました。すると、師匠が私の頭に手を載せました。
「落ち着こうね。感覚が鋭いのを知ってるのは、私だけなんだから」
「ハイ……」
「とりあえず、前の荷車に、注意するよう伝えてね。その先入観を利用してくる可能性もあるから」
「まぁ、あんたがいうなら」
そういうと、リーダーは、前の荷車に注意するよう伝えました。
流石に、師匠の実力を見た後で、反論する気はないようです。
私達は、このまま前方を見ていると、森の出口に小さな点が見えました。まだ距離があるため、点にしか見えません。ですが、それが次第に大きくなっていきます。
そして、向こうから近づいてきたようで、突如はっきりと姿が見えるようになりました。
「魔族だ!」
先頭の荷車に乗っている護衛団長の声です。
魔族は、個体差の激しい種族です。ですが、大抵の魔族は、見ただけで判断できます。
魔族と呼ぶに相応しい外見と、気配を持っているからです。
「俺の部下が世話になったな」
どうやら、野盗のリーダーのようです。野盗が、魔獣を操っていたのも、納得がいきます。
私の髪とは少し違う青い肌をした、とても大きく、人を見下ろすことの出来る魔族は、その太い腕を一振るいしました。ただそれだけで衝撃が商団を包み込みます。
腕を振るった瞬間に、その右肩に、大きな火傷のような後が見えました。
護衛団長が、魔族の懐へと飛び込み、切りつけます。けれど、その固い皮膚によって防がれています。細かい傷は出来ているようですが、行動を鈍らせるほどではありません。魔族とは、人間を遥かに超える力を持った種族なのです。
「行ってくるね」
師匠はそういうと。護衛団長への加勢に向かいました。魔族が相手となると、私ではまだ力が足りません。しかし、師匠なら、問題はありません。
先頭の荷車へと行くと、詠唱を始めました。
そのことに気づいた魔族は、護衛団長を無視し、師匠へと向かいます。
このままでは、荷車が破壊される。そう悟った師匠は、素早く移動し、荷車から離れます。
「フィーネとかいったよな、あの人。動きながらあれだけ長い詠唱が出来るのか」
剣士は、その意味がわかっていないようですが、魔法使いは、その凄さを理解していました。
それにしても、詠唱が聞こえないので、何の魔法かはわかりません。ですが、それ相応の威力をもった魔法なのは、間違いありません。
「この!ちょこまかと!」
魔族が、大振りをやめ、当てに来ました。そもそも、魔族の一撃を人間が耐えられるはずがありません。それを理解しているからこその、変化です。
そして、護衛団長は、手を出せずにいました。自身の実力との差を見せつけられたようで、とても悔しそうです。
いくどとなく回避を続けていると、魔族が師匠を追い詰めていきます。それに耐え切れなくなったのか、魔族の連撃が、師匠の隙を突きます。師匠の状態では、絶対にかわせない一撃、それが、師匠を襲います。
師匠は、かわせないとわかったようで、自ら接近し、それを杖で受け止めることにしました。
「無茶だ!」
誰かが叫びました。普通の木の杖では、魔族の力を受け止められません。それは、誰しもがわかっていることです。ですが、師匠はその選択をしました。
そして、魔族の拳が振りぬかれます。しかし、接近したことで、拳に勢いが乗る前に杖にぶつかりました。その結果、力の載りきっていない一撃を受けた師匠の杖にヒビが入りました。そして、師匠は、その勢いに任せ、後ろへと下がります。けれど、杖は折れませんでした。
魔族は、万全ではないとはいえ、その拳で杖が折れなかったことに、驚いています。ですが、それは当たり前です。
杖は、折れたのではなく、杖の外装が砕け散りました。そして、砕け散った杖の中から、剣の刀身が出てきました。
師匠の持つ、仕込み杖としての鞘が破壊されたのです。ですから、中の刀身には、傷ひとつありません。剣を持つ魔法使いは、とても珍しいです。核石を剣に埋め込み、ちょっとした魔法を使える剣士はいます。けれど、その逆は、ほとんどいません。その結果、目の前の出来事を誰も理解出来ませんでした。ですが、私は知っています、師匠が、とても強いことを。
師匠は笑っています。冷たい、凶悪な笑みです。普段の穏やかな表情からは想像出来ないほどの恐怖を周囲に与えます。
そして、誰も気づいていませんでした、師匠の詠唱が終わっていることに。
師匠は、勢いをつけ剣を魔族へ突き立てようと突き進みます。しかし、魔族は剣で自分の皮膚を貫けないことを理解しています。だから、攻撃の瞬間に、反撃をするために、体に力をこめ、剣を受け止めるつもりです。
けれど、師匠の剣が、魔族に突き刺さりました。浅いです、とても浅いですが、突き刺さりました。その事実に驚き、魔族は、動きが鈍りました。そして。
「『
師匠が、魔法の名前を唱えます。古代魔法に含まれる、複合魔法です。轟音と共に、光がほと走ります。それが、師匠の剣を伝い、魔族の体内へと届きます。魔族の肉体は、人間と比べると遥かに強靭です。しかし、護衛団長によって付けられた傷に差し込まれた剣によって体内に流された雷が、その身を駆け巡ります。その余波は、周囲を駆け巡り、辺りを照らします。護衛団の中には、あまりの眩しさに、手をかざす人すらいました。
「ぐああああ」
魔族が悲鳴をあげます。肉体を電流によって焼かれ、苦痛に顔を歪めています。
どれだけの時間が経ったのでしょうか。長かったのか、短かったのか、それもわからなくなるような光景でした。
魔族が静かになり、膝をつきました。師匠は魔法の発動を止め、剣を引き抜きます。魔族は、死にました。どんなに屈強な肉体を持とうとも、死は誰にでも訪れるのです。
師匠は、護衛団長の元へ向かうと、何か言葉を交わし、戻ってきます。恐らく、後始末を頼んだのでしょう。
「お疲れ様です」
「んー、疲れたかな」
私達の何気ない会話を聞いても、護衛団は静まり返っています。それだけショックな光景だったのでしょう。
ですが、その静寂が破れました。
「思い出したぞ。フィーネ=グリード、災厄の魔女だ」
後方から声が聞こえました。それは、批難するような声でした。
その結果、周囲がざわめきに包まれます。災厄の魔女、よりによってその言葉を思い出してしまうとは。
「んー、それは、私だけど、私じゃないんだよね」
「何言ってやがる、わけのからねーことを」
「ミドルネーム何か付けて誤魔化しやがって」
その声は、次第に広がり、全体へと波及しました。この班のリーダーや、魔法使いは少し離れて様子を見ています。寡黙な剣士さんだけは、相変わらずの様子です。そして、師匠はというと。
「カノン、鞘壊れちゃったから、後で作りなおそうか」
「そうですね。とりあえず、布で包みましょう」
意に介さず、抜身となった剣をどうするべきかを考えていました。
「なら、拙者のを貸すで御座る。大きさは合わないと思うが、代用くらいは出来るはずで御座ろう」
「あー、ありがと」
寡黙な剣士さんが、この空気の中、普通に接してくれました。相手が何と呼ばれていようと、自分の見たものを信じる。そんな気配を感じました。
「お前達、彼女は私達の命の恩人だ。無礼は許さんぞ!」
護衛団長です。自身が敵わない相手を倒した。先ほどまでは、プライドをずたぼろにされていたようでしたが、すぐに切り替えたようです。
「団長、あの女は、災厄の魔女なんですよ」
「なら、彼女は、お前達に牙を向けたのか? 違うだろ。なら、黙って仕事をしろ」
団長に一喝され、師匠に対し敵意を露わにしていた連中は、押し黙りました。
師匠に対する無礼、今から懲らしめてもいいのですが、相手が組織の一員である以上、それは、護衛団長の仕事です。
護衛団長は、周囲へと指示をだし、商団を動かそうとしています。
騎士団長のお陰で、表面上は静けさを取り戻しました。そして、森を抜け、平地を移動しており、西の大都市であるウェストゲートも、見えています。ここで襲ってくるような相手がいたら、それはただの馬鹿です。蛮勇です。考えなしです。
ウェストゲートについた後も、ウェストゲート商会まで護衛していました。この都市には、一応王国軍が常駐しているため、襲われる心配もないですが、この都市にあるサウスゲート商会の支部までが、契約内容なので、しかたありません。
けれど、師匠がそわそわしています。ホットケーキや、受付のおばさんに聞いた名物が気になっているのでしょうか。私としては、今日からの宿が気になります。体を鍛えるための場所はなくてもいいです。その代わり、お風呂が欲しいです。
ウェストゲート商会での待ち時間の間、護衛団の方々は、遠巻きにヒソヒソと話しています。ですが、寡黙な剣士さんだけは違いました。
「フィーネ=A=グリード殿、先程は、鞘を作ると言っていたが、この商会で買ってもいいのでは御座らんか?」
「んー、仕込み杖だからね。既成品だと合わないんだよね。あー、でも鞘返さないとだめか」
「いや、私は換えを持っているで不要で御座る。もし、気になるというのなら、魔族を倒してくれたお礼として、受け取って欲しいで御座る」
「わかった。ありがたく受け取っときます」
師匠の返事を聞き、寡黙な剣士さんは、また持ち場に戻ろうとしましたが、何かを思い出したようで、私達の元へまたきました。
「カノン=フェアリ殿、君達は、ここでの宿を取っていないで御座ろう。拙者が知っているとこでよかったら、紹介するで御座るが、いかがか?」
「剣士さん、その宿に、お風呂はありますか?」
宿に食事は期待していません。ただ、安らげるお風呂があれば、私は満足です。
私の問に対して、寡黙な剣士さんは、一瞬だけ表情を崩しました。
「ふっ、どうやら君とは話が合いそうで御座る。1階なら各部屋に個別で風呂がついているので御座る」
「では、紹介してください」
私は、迷うこと無くお願いしました。やはり、寡黙な剣士さんは、とてもいい人です。
「護衛団長には話を通しておくで御座るよ。君は宿の確保に行くといいで御座る」
「いえ、護衛団長には、私が言いに行きます」
「そうか、じゃあ、地図を書いておくで御座る」
「では、行ってきます」
私は、護衛団長の元へ行きました。ちなみに、テクノさんには、副団長がついています。宿の話をすると、快く許可してくれました。
宿を取る終わる頃には、商談が終わっているはずなので、サウスゲート商会の支部へ来るよう言われました。
そして、寡黙な剣士さんに地図を貰い、宿を取りに行きました。
寡黙な剣士さんに紹介して貰った宿は、とても気に入りました。今日はとても楽しみです。
そして、サウスゲート商会の支部へ師匠を迎えに行くと、護衛団長の言ったとおり、護衛団が来ていました。時間としては、ちょうどでした。
「師匠、宿を確保してきました」
「んー、それはいいんだけど、やっぱり、時間的には、ここで一泊するしかないか」
師匠の反応が妙でした。普段であれば、美味しい夕食を食べに行こうというのに、今日に限って言えば、ここにはいたくない。そんな感じです。師匠は一体何を感じ取ったのでしょうか。
「師匠、どうしました?」
「んー、多分大丈夫かな。とりあえず、行こうか」
私達は、前の街で、師匠が聞いてきた美味しいレストランに行きました。師匠が、とても美味しそうに食べているので、今は妙な感覚を感じていないのだとおもいます。
宿に戻ると、そこには寡黙な剣士さんがいました。そもそも、寡黙な剣士さんに教わったのですから、ここで合うのは必然でしょう。
「剣士さんも、ここなんですね」
「エコーで御座る」
突然のことに、理解できませんでした。
「エコーさんですね。なら、私は、フィーネでいいですよ」
「あ、えっと、私もカノンと呼んでいただいて結構です」
寡黙な剣士さんの名前でしたか。それにしても、師匠はよくわかりましたね。
「女性を名前で呼ぶのは抵抗があるで御座るので、フィーネ殿とカノン殿と呼ばせていただくで御座る」
「その方が呼びやすいなら、それでお願いします。それと、エコーさんは、師匠のこと怖くないんですか?」
エコーさんだけは、災厄の魔女という異名を聞いても、普通に接してくれました。ですが、親が子供を叱るときに使われるくらい、有名な話です。それをエコーさんが知らないはずがありません。
「ふむ、それの真偽については、フィーネ殿が既に言われているで御座るし、童話になるくらい昔の話で御座るからのう。本人だとしたら、その若さを保つ方法で大儲け出来るで御座る」
そういえば、帝国を旅したときに、そんな童話を見たことがありました。それに、エコーさんの言うとおり、魔法使いとして依頼を受けるより、高収入になりますね。
「ふふ、まぁ、少しくらい秘密があったほうが、魅力的に見えるものですよ。それと、エコーさん、ここには、木材屋とかそれ系の加工が出来る場所ってあります?」
「ふむ、それなら、地図を書いておくで御座るよ」
「それは助かりますね。4大都市には、滅多に近づかないので、わからないんですよ」
「あれだけの魔法を使えるフィーネ殿でも、わからないで御座るか」
「魔法と地理は、別問題ですよ」
こうして、私達はこの日の夜を、お風呂付きの部屋で過ごしました。エコーさんに紹介してもらった宿は、とてもよかったです。
明日は、仕込み杖の鞘を作らなくてはいけません。さらに、師匠がここにいたがらない理由を確かめる必要がありそうです。
こんばんは
仕込み刀なのか仕込み杖なのか、そこで悩んでいましたが、杖で良さそうだったので一安心です。
最初に言うべきでしたが、今回は、ゆっくり書こうと思っているので、1周間あくことは、ざらだと思います。
それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。