私が目を覚ますと、見覚えのある部屋で寝かされていました。そこは、グレイス邸の一室です。
枕元には、一通も手紙がおいてあり、起きたらデュオさんの書斎へ来るよう書いてありました。
しばらく滞在していたので、勝手知ったる何とやらです。昨日のことが頭をよぎり、しっかりと身支度を整えてから、指定された場所へ向かいました。
そして、そこにはデュオさんを始め、昨日の会場で、私とそれなりの関係のある人が全員いました。
「来てくれたか。体に不調はあるか?」
「いえ、上手く落とされたみたいなので、大丈夫です」
私が言うと、フォルテがバツが悪そうな顔をしています。つまり、犯人はフォルテですか。まぁ、あの状況で、私に対して一撃入れられる場所にいたのは、フォルテだけですから。
「それでは、改めて話すが、非公式ながらボイスと
私は、デュオさんの言葉に耳を傾けながら、自然と左腕を掴んでいました。
「私が出席して、何か意味があるんですか?」
私は、冷たく言い放ちました。少しでも気を緩めれば、何をしでかすかわからない。そう感じ取っているからこそ、冷たくなっています。
「君は、君自身が考えている以上に、重要な位置にいる。今すぐにそれを自覚しろとはいわない。だが、気には止めておいてくれ」
具体的な理由はわかりませんが、覚えておくことにします。デュオさんが冗談でこんなことを言うとは思えませんから。
そして、デュオさんの合図で、会談の場所へ向かうことになりました。けれど、その前にフォルテが近付いて来ました。
「カノン、杖を……、その短剣も預からせてくれ」
始めは杖だけを預かろうとしたようですが、フォルテから貰った短剣が目に入ったようで、少し嬉しそうな顔をしながら、言い直しました。恐らくは、私が暴れる可能性を考えているのでしょう。ここは、大人しく預けることにしました。
「なくさないでくださいね」
杖を手渡すと、少し落ち着きませんが、今はしかたありません。
非公式の会談の会場に着くと、中にはボイスとノインがいました。私は、左腕を掴まないように意識したため、何とか平静を装うことに成功しました。
けれど、内心では、今にも暴れそうです。
デュオさんがノイズの迎えの席に座り、そこから、女帝、ディープさん、フォルテ、メゾ、私が座っています。クワドルーブルさんはデュオさんの後ろに、サイレントさんは女帝の後ろに控えています。さらに、副官といっていたスコア=コンデンスさんは、入口のところで一人待機しています。
そして、長い机の反対側にボイスの隣には、ノインが座っています。
フォルテが私の隣でなくてよかったです。今、私はきっとひどい顔をしていますから。
「さて、昨日の取り決め通り、非公式の会談を始めようか」
「私としては、昨日行ってもよかったんだが、私達は招かれざる客であるため、昨日は従ったが、この場では対等と考えていいのか?」
「ああ、そう考えてもらって構わない。あの場で会談を行わなかったのは、関係者面して無責任なことを言う割に、言葉の責任を取れない者が多かったからだ」
なんとも辛辣な発言ですが、貴族という枠組みの中には、そういう人もいるのでしょう。
「そうか。では、昨日はぼかした私達の目的を話そう。私の父、現魔王ノイズを倒して欲しい」
ボイスは簡潔に言い切りました。けれど、それは私達人間からすれば、大半の人が望んでいることのはずです。
「それは、私達も望んていることだ。だが、それを何故魔族が、いや、息子である君が望む?」
デュオさんの口にしたそれは、当然の疑問です。
そして、その疑問に答えたのは、女帝でした。
「理由としては違うと思うが、簡単に説明出来る理由が一つある。魔王の力は、その血に宿る。現魔王が死ねば、その力はお前の物になる。違うか?」
わけがわかりません。女帝の言うことが事実なら、次の魔王になることが目的でも可笑しくありません。ですが、女帝は理由としては違うといいました。
ボイスは、それについて隠す気はないようです。
「確かに、魔王の座を欲していると言えば、辻褄は会うだろう。だが、言ったはずだ、時間がないと。冥竜王マガツヒが、自らの代理を造り直すことを決めた。私達、今の魔族は見限られた。故に、今の魔族において、魔王の座は、意味を成さない」
「つまり、お前は、マガツヒを倒せと言いたいのか?」
「そこまで頼り切るつもりはない。ただ、冥竜王マガツヒと天竜王アマツの戦いに決着が着けば、マガツヒの力が弱まると伝わっている。ならば、魔王討伐後の決着は、私達で着ける」
ボイスと女帝は相手の言葉の意味をわかっているようです。ですが、私と、この場にいる王国側の人間は、その意味がわかっていません。
女帝も、周りが話に加わってこないことに疑問を感じたのか、辺りを見回しています。
「ふむ、やはり叡智を持たぬ国ではわからぬか」
恐らくは、帝国に伝わるという竜の叡智、それによってもたらされた知識なのでしょう。
「その情報は帝国にとって価値があるのなら、無闇に口外は出来まい。ならば、魔族である私が話そう」
ボイスはそこで一度言葉を切り、聞く準備が出来るのを待っています。
「これは伝承からの推測も混じっている。全てが真実だとは思わぬことだ。いつからかはわからぬが、マガツヒとアマツ、この2頭の竜王は争っていた。伝承によれば、空の上にあるという天上の海、または、この世界とは異なる別の世界、そういった未知の場所にいた頃から争っていたという。けれど、その力は拮抗しており、決着は着かなかった。そこで、2頭の竜王は考えた。自らの力が拮抗しているのであれば、お互いが作り上げた代理を戦わせようと。そこで、この地にいる人間に目をつけた。マガツヒは、人間に対し、強靭な肉体と魔素に対する圧倒的な適正を。アマツは、人間の持つ潜在能力を限界以上に引き出すための竜骸の炎と、数多の世界で蓄えた知識を内包する竜の叡智を与えた」
アマツの与えた二つの物はわかります。けれど、マガツヒは魔族の守護竜と言われているはずです。それが、人間に対して力を与えたということは……。
「つまり、魔族も元は人間ということかな?」
デュオさんは、私と同じ結論を出したようです。
「竜の叡智にも、同じ情報があり、人間と魔族の混血も、少なからず確認されている。それらをふまえれば、疑う余地はあるまい」
どうやら女帝は知っていたようです。それにしても、人間と魔族の混血ですか……、噂では聞いたことがあります。けれど、外見上は、どちらかに偏るらしいので、見た目での区別はつかないらしいです。
「あくまでも、伝承によればだ。2竜王の用意した代理戦争の駒、それが、魔族と人間ということは確かだ。そして、魔王というのは、マガツヒの代弁者という役目のために、魔素と相性のよい家系を選りすぐり、その力をより濃密にした一族のことだ。マガツヒが行動を起こす時、奴は失った力を取り戻すために、魔王の力を奪うはずだ。だが、魔王を倒し、次の者が継承すれば、幾ばくかの猶予が生まれる。弱体化し、魔王の力を取り戻せていない状態ならば、倒すことも可能なはずだ」
何ともよくわかりません。事の真偽は後にして、人間と魔族による代理戦争に決着が着けば、負けた方の守護竜は弱体化し、ボイスは、魔王というマガツヒの力の一端があるので、それを使って倒すと言っているのでしょうか。
「一つ聞きたい、魔王を継承するというのは、フィーネの様なものか?」
「そう考えてもらって構わない。もっとも、フィーネの継承よりも時間がかかるし、継承の間に篭もる必要がある。つまり、次の者が継承の儀を執り行っていれば、マガツヒもそう易易とは干渉出来ないということだ」
「私からも、一ついいですか……」
私は、どうしても言いたいことが出来ました。
「今代のフィーネか。構わない」
「私達が協力するにあたって、何か利益があるんですか? マガツヒが魔族を造り直すのであれば、今の魔族は絶滅するんですよね。なら、今の魔族の存続に協力する理由はありません。どうせ、皆死ぬんですから」
何故、師匠を殺した魔族を助ける必要があるのでしょうか。私には、一切ありません。
「今の魔族では人間を倒すことが出来ない。であれば、人間を倒せる魔族を造り出すはずだ。さらに、私達がマガツヒを倒すことが出来れば、この代理戦争も終わる。それが、人間の側の利益だ」
確かに、今あるものが使えないという理由で造り直すのであれば、次はより使えるものを造るはずです。それは理にかなっています。
「だが、魔王の力を継承したとして、その力、役に立つのか?」
「デュオ=グレイス、それは違う。魔王の力を継承する者は、継承の間に隔離される。つまり、魔王の力抜きで戦うことになる。私達は、そのための準備をしている」
「我からも一つ聞こう。マガツヒを倒すための準備をしているということは、戦力を集めているということであろう。ならば、その力を持って魔王を倒せばよいではないか。それをしないのは何故だ?」
もっともな疑問です。竜王を倒すための力を用意しているのであれば、魔王を倒すことは、簡単なはずです。
「私達魔族の力だけで魔王は倒せない。魔王という仕組みは、私達魔族が作り上げたものだ。その中には、当然、反逆を抑えるものも含まれている。その力故に、魔族の力は、魔王に届かない」
つまり、力による王政を維持するための物ということでしょうか。魔族では倒せないから人間に頼む。確かに、理屈ではそうですが、言葉に出来ない不快感があります。
「なるほど、そちらの事情はだいたい理解した。魔王の討伐、それ自体は、こちらにも利のあることだ。その上で聞こう。そちらの持ちかけた魔王討伐、その対価は何だ」
デュオさんはボイスを真っ直ぐに見つめながら言いました。けれど、言葉の端々に、憎悪を感じ取りました。
「魔王討伐を順調に執り行うために、魔王軍の情報を提供する準備がある」
「それは、魔王討伐に付随することだ。それを対価として受け取ることは出来ない」
デュオさんは強い口調で言い切りました。その評定には、今までになかった憎悪が見え隠れしています。
私は、今頃気づきました。デュオさん怒っているんです。その理由は、簡単です。魔族が師匠を殺したんですから、私が魔族を憎んでいるのと同様に、デュオさんも、魔族を憎んでいるようです。
「ボイス……さん、私に、アインを殺させて下さい。それを条件に、私は協力します」
私は国に属しているわけではありません。ですから、私が協力するかどうかは、私の自由意志です。
「……わかった。戦えるように段取りしよう。それと、デュオ=グレイス、貴殿は、王国の代表として、魔族に対し何を望む。そして、女帝シンセ=ドラムス、貴殿も同様に、何を望む」
どうやら、ボイスも気付いたようです。
この言葉で、デュオさんは、感情を切り捨て、立場を考えた上での要求をすることになりました。
そんなデュオさんに対し、助け舟を出した人がしました。
「兄貴、報酬は独断じゃ決められないだろ。とりあえず、今は魔王討伐について話し合うべきだ。それで、カノンが引き受けるんだから、王国からは、俺が同行した方がいいだろ」
フォルテです。
フォルテが一緒に来てくれる。そう考えた私は、嬉しいと思いましたが、それと同じくらい、来てほしくないと思いました。
今は、魔族を目の前にしても、平然としているつもりですが、魔族の国へ行った時、こうしていられるかわかりませんし、ひどい姿を見せたくありません。
「フォルテ、お前に助けられるとはな。さて、ボイス、今は、魔王を討伐するための方法を考えよう。フォルテとカノンに行ってもらうことは確定だが、それだけでは無理だろう。まずは、情報を開示してくれ」
デュオさんが、フォルテを見た後に、ボイスへ向き直りました。その表情に、怒りや憎悪は見えません。表面上は取り繕うことが出来たようです。
「わかった。まず戦力についてだが、一番聞きたいのは九近衛についてだろう。そこから話させてもらう。まず、ノインは、私の側近だ。九近衛は、自由を与えられており、基本的に指揮系統が違うため、自らの意志で行動できる。そのため、ノインを敵として考える必要はない。次に、次世代の九近衛であるゼクス・ジーベン・アハトの三人だ。三人とも、傷跡は残っているが、基本的には完治している。その実力については、実際に戦った彼等が知っているだろう。次に、アイン・ツヴァイ・ドライだが、アインは、斬り落とされた左腕の変わりに、アダマンタイトの義手をしている。剣技に関しては、以前ほどの脅威ではないとはいえ、大量のアダマンタイトを所有することになったので、魔法を組み合わせた技については、脅威となるだろう。ツヴァイ・ドライに関しては、大して変わっていない」
アイン……剣技に魔法を組み合わせて来るとはいえ、元が純粋な剣士である以上、それは弱くなったと言うしかありません。ならば、どんな手を使っても、アインは、私がこの手で殺します。
そして、一息ついたボイスは少し俯きながら続けました。
「最後に、フィーアとフュンフだが、その二人に関する情報は一切入ってきていない。ただ、襲名した者はいると聞いている。ただ、フィーアは、三つ巴の大戦の時に失われた4つの鎌の内、2つが回収されており、それを使用しているらしい。フュンフは、主に諜報を担当しているので、戦力として数える必要は無いと考える。それと、フュンフは、九近衛の中でも中立を維持する立場にいる。フュンフに知られた情報は、全ての九近衛の知るところになると、思っていてくれ」
いくつか疑問がありますが、まずは、一番気になったことを聞くことにします。
「4つの鎌と言いましたが、それは予備か何かですか?」
そもそも、手は2つしかありませんし、鎌は2つ持っても扱いづらいだけです。
「何か力があるらしいが、先代の九近衛については不明な点が多い。私も、ノインも知らない」
「そうか、だが、敵の情報は一つでもあればありがたい。何か聞きたいことが出来次第、聞かせてもらおう」
会談が一段落し、一応の終わりが見えました。けれど、フォルテは何かが引っかかっているようです。
「なぁ、魔王の力を継承している間は隔離されるって言ってたけど、つまり、ボイスさん、あんたは、マガツヒと戦えないのか?」
そう言われてみればそうです。魔王の力が血に宿るのであれば、魔王を継げるのはボイスだけです。
「いい忘れていたな。私にはヘルツという弟がいる。どちらかといえば、魔法の才がある。まだ若いため、今回の件は話していないが、邪魔はさせん」
少し、心配です。想像しか出来ませんが、自分の父親を倒す算段を立てているのに、蚊帳の外に置かれ、魔族の存亡をかけた戦いにも置いて行かれる。そんな役目を押し付けられて、大人しく従うのでしょうか。
「大丈夫なんですか?」
思わず口にしてしまいました。けれど、ボイスは、不快感も示さずに答えました。
「大丈夫といっても、信用出来まい。いざと慣れば、強引な手を使ってでも成し遂げる。弟に恨まれれば、事が終わった後に、その報いを受けよう」
こう言われてしまうと、私は何も言えません。私に魔族が信じられるかわかりませんが、信じるしかありません。
会談が終わった後、私達は簡単な打ち合わせをすることになりました。
そこで、メゾが口を開きました。
「デュオ様、わたくしにも同行許可を頂きたいですわ」
「君の場合は、ワイズマンの許可がいる。ワイズマンが許可すれば、私には拒否することも出来ない」
それを聞き、メゾはフォルテへと向き直りました。
「フォルテ様、必ずワイズマンの許可を貰ってきますわ。その時は、一緒に連れて行ってくださいますね」
「いいぞ。って言いたんだが、今回は、俺に決定権があるのか?」
何とも締まりません。ですが、私に同行を申し出たのですから、決定権は私にありますね。
「フォルテ様がいいといえば、カノンは拒否しませんわ」
そういいながらも、二人して私を見つめています。
この状況で断ったら、私の立つ瀬がありません。
「メゾ、旅に慣れてますか?」
「……」
何かを言おうとしたようですが、黙られてしまいました。
帝国へ行く時に、魔導都市から国境付近の砦まで短い旅をしたのですが、今思い返してみれば、不慣れというより、何も知らないという感じでした。
「メゾ、旅に出る気はありますよね」
「……勿論ですわ」
嫌な間です。ですが、言い切った以上は、言葉に責任を持ってもらいましょう。
「なら、大丈夫だと思いたいです。三人で行きましょう」
大丈夫だと言うはずが、少し言葉を濁してしまいました。
そんなやりとりが終わったところで、デュオさんが口を開きました。
「三人には、王国を代表して出発してもらう。だが、三人だけでは、魔族の大群に攻められた時、どうにもならないだろう。そこで、大群を引き寄せるために、派兵を行う。私達が囮となり、三人を少数精鋭の先行部隊として送り出す。これが、王国側の予定だ。シンセ=ドラムス、貴女はどうする」
少数精鋭の先行部隊ですか……、何ともまぁ、ものは言いようです。確かに、聞こえだけはいいですが、精鋭といえるほどの実力はないと思います。けれど、軍属の人間では、勝手に動かせませんし、ある程度の人数を前提のしているはずなので、私達の方が適任だと思うことにしました。
私が言い出したことですが、不安だらけです。
「数年後に行う予定だった王国制圧に向けて、兵力を調節していたが、今は、同盟後の兵力分布のやり直しをしている。今から対魔族用陽動部隊を編成するとなると、分布を作り直す必要が出てくる。なにせ、遊撃部隊も解体してしまったからな。そちらはどうなんだ?」
「こちらも似たような状態だ。ただ、私の騎士団なら、いつでも動ける」
確か、
「お前の騎士団は、帝国でも有名だ。なら、その部隊に、こちらからも増援を送ろう。帝国と王国の混成部隊、脅威として、これ以上はあるまい」
「だが、王国と帝国では、戦い方が違う。連携訓練だけでも、それ相応の時間をかける必要があるぞ」
何だか難しい話になってきました。けれど、魔族にとって脅威となる部隊が出来上がるのは、理解出来ます。
「どのみち、すぐには動けまい。陽動部隊を動かすにしても、反撃に備え、国の防衛線を構築する必要がある。それに、こちらか装備を提供するのだ、それに慣れる時間もいるだろう」
「それは心強い。では、詳細は後ほど。次に、フォルテ、メゾ、カノン、君達だ。メゾは、ワイズマンからの許可も貰ってくれ。三人には魔族の国を旅してもらうことになるが、私達に出来るのは、最初の装備を整えることくらいだ。だから、その点については、最高の物を用意しよう」
「助かるよ。ところで、俺達が出発するのも、陽動の準備が出来てからか?」
「ああ、完全とは言わなくても、ある程度の準備が出来ていないと、そちらに力を割かれてしまうからな。そうだな、一ヶ月はまってくれ。後、ボイスに聞きたいことがあれば、私を通してくれ」
こうして、私達は旅の準備をすることになりました。軍の再編成ということもあり、時間的猶予はかなりありますが、無駄にする時間はありません。
「一つ、聞きたいことがあります。アダマンタイトを媒体とした、魔族の魔法についてです」
「それはかまわないが、カノンには、刻印に刻まれた知識があるのでは?」
「確かに、知識はあります。でも、本棚に乱雑に詰め込んだようになっていて、確かめるには時間がかかりますし、経験や記憶ではなく、あくまでも知識なので、実感がないんです。だから、その魔法を使える魔族から、話を聞きたいんです」
「わたくしからもお願いしますわ」
メゾも同じことを聞きたかったようです。メゾが書いている本に関係があるのでしょうか。
「なら、直接話を聞けるよう手配してみる」
こうして、この場での話が終わりました。
この後は、私達がそれぞれの準備をするだけです。そのため、すぐに魔法学園に戻ることになりました。しばらくは王都でゆっくりする予定だったので、残念です。
魔法学園に戻ってくると、帝国との同盟の立役者として式典で公表されたのが、フォルテだけだったため、妙な視線を向けられることも少なくなりました。そのかわりに、上級学科の一部の生徒が、よくわからない視線を向けてきます。
そして、ある日の放課後、よくわからない視線を向けてきた生徒達が、群がってきました。
「グリードさん、僕達も、朝練一緒にしてもいいかな?」
記憶を探ってみると、初日にヴィオラの取り巻きをしていた生徒達でした。
ちなみに、誰が言い出したかは知りませんが、私達が朝に運動しているのを、朝に鍛錬するからということで、朝練というようになっていました。
「あれは自由参加なので、好きにしていいですよ」
「そ、そうなんだ。ありがとう」
それだけ言うと、去って行きました。ヴィオラのこともあり、顔を出しづらかったのでしょう。本人ではないので、気にする必要は無い気がしますが、そう簡単にいかない何かがあるのですね。
数日後、私とメゾがワイズマンに呼ばれ、研究室へ向かうと、そこには、ノインがいました。
「ノイン……さん」
「ノインでかまいません。貴女達からすれば、魔族である私は、敵対勢力の一人ですから」
何とも広い心の人です。
「いえ、ノインさんと呼びます。私は、フィーネ=カノン=グリードです」
「まったく、カノン、貴女は意識しすぎですわ。ノイン様、わたくしは、メゾ=アンダンテですわ」
「改めて、ノインです。それで、魔族の魔法について聞きたいことがあると伺っていますが、何を知りたいんですか?」
「魔族の魔法の発動原理が知りたいんです。魔素とアダマンタイトを使うということはわかっているんですが、魔法陣の理論がわからなくて」
あれが詠唱に対応するものだということはわかっています。けれど、それ以外がわかりません。
「そうね。魔法陣は、アダマンタイトを媒体として、純粋な魔素を集めて描くんだけど、まずアダマンタイト自体に、仕掛けがあるの」
私とメゾは、必死に話の内容を書き留めています。ノインさんも、そのことに気付いているようで、一度待ってくれています。
「よさそうね。アダマンタイトに、使う魔法の属性に応じた仕掛けをして、魔素を操り、使う魔法の陣を描くの。後は、魔法の名前を唱えることで、魔法が発動するわ」
聞くだけでは簡単に思えますが、実際にそれを使うには、かなりの苦労をすることになるでしょう。
「私達は、魔族の魔法を第六属性の闇と定義してますけど、実際には、その中にも属性があるんですよね」
「ええ、そもそも、その分け方は、人間側がわからないものを闇として一纏めにした影響よ」
闇の属性の中で、各属性に別れるのではなく、使い方がわからない各属性の魔法を闇としたということですか。
「一つ気になるんですが、アダマンタイトと核石って関係あるんですか?」
「そもそも核石が何かわかっているの?」
疑問に対し、質問で返されました。
確かに、当たり前のように核石を使っていますが、それが何なのかは知りません。刻印の知識にも、具体的なものはありません。
「核石は、ミスリルに少量のアダマンタイトを加えて、特殊な加工をしたものですわ」
答えが横から出てきました。まさかメゾが知っているとは……。
「カノン、悔しそうな顔ですわね。確かに、魔法学園では教わりませんけど、ワイズマンの弟子として、当たり前のことですわ」
そう言って高笑いされました。
悔しいですが、核石の知識において、私が劣っていることに変わりはありません。ここは、大人しく受け入れましょう。
「つまり、その二つを混ぜることで、魔素を操れるようになると」
「そうよ。私達魔族は、魔素に対する適正を持っているから、命素を利用する必要がない。けれど、貴女達人間にはそれがない。だから、ミスリルを利用していると言われているわ。その辺りは、彼女の方が詳しそうだけどね」
メゾが誇ったような顔をしています。詳しい原理は不明でも、その結果がわかればいいです。
「つまり、アダマンタイトに仕掛けをして、ミスリルを加えれば、魔族の魔法が使える可能性があるということですか?」
「その可能性はあるわ。まぁ、それは貴女達が実証するんでしょ。アダマンタイトの加工は私が出来るわ。それにミスリルを加えて核石にするのは、貴女がやればいいわ」
そして、ノインさんには、それぞれの魔法陣とその描き方、そして、わかっている範囲での魔法陣の意味を教えてもらいました。
魔法陣によって発動する魔法の名称は、古代語のままですから、発音には気を付ける必要があります。今、伝わっている発音には、正確でない部分があるからです。
そういえば、私達の使う魔法にも、古代魔法と呼ばれるものがありますから、その辺りの魔法は、魔法陣の魔法と関係があるのかもしれません。
今から魔族の魔法を完璧に習得するには、時間が足りません。けれど、あの発動速度を考えれば、挑戦する意義はあります。
そして、数日かけて専用の核石の試作品が出来上がりました。私の杖に入れることが出来なかったので、後で、フォルテに謝らなければいけません。
何度か試作品の試験も行い、ほぼ完成が見えています。
メゾは、それを使い、本を書いていますが、どうやら、後に残すための物ではなく、魔法を発動させるための物らしいです。詳しいことは教えてくれませんが、完成して実際に使う時まで、楽しみに待つことにしました。
私も、それなりの失敗はありますが、かなりの確率で成功するようになってきました。
そんなある日、魔法学園に重大な知らせが舞い込みました。
それは、魔族の本格的な侵攻が始まったという知らせです。
王国と帝国の部隊の配置は完了してないらしく、配置換えの際に生じた微かな隙を突かれたそうです。
そして、緊急事態ということもあり、魔法学園の生徒にも、出動要請が出ました。
その内容は、王国と帝国からかき集めた戦力の隙間を埋めるために、騎士学校の生徒とともに、防衛線に加わるということです。
旅に出るための準備は出来ていたため、参加することに問題はありません。ですが、この時期の襲撃は、とても気がかりです。
こんばんは
話が動き出すはずといいながら、強化の下積みだったり、長々話したりしています。
こういう話を、スッと気にならない長さに差し込めればいいのですが、それだけで1話使ってしまうのが心苦しいです。
それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。