魔族による侵攻が始まったという知らせを受け、私達魔法学園の生徒が騎士学校に集められました。
そこで、騎士学校の生徒と班を作り、援軍として向かうことになったと聞かされ、それに関する大まかな説明を受けました。
ただ、実際に配属されるのは、それぞれの学校の上位陣だけのようです。
あくまでも、戦線の穴埋めが目的で、戦力としては期待していないようです。そのため、攻めづらい場所を中心として配置されると聞かされました。
「ところで、何で私とメゾだけで一つの班を作るんですかね」
「仕方ありませんわ。実力的に、組める人がいませんもの。上級生は、上級生通しで連携訓練もしているらしいので、そこには混ざれませんわ」
実力が近い人や、慣れた相手がいないと、何があるかわからないということですね。
「上の学年もいるのに、何で私達が最前線に近い場所なんですかね」
「それも仕方ありませんわ。ワイズマンの弟子と今代のフィーネですもの。それと、カノン、今更何を言っても無駄ですわ。諦めてくださいまし」
今更何を言っても無駄なことはわかっています。けれど、言わずにはいられません。
「それで、騎士学校側の生徒は誰なんでしょうね。フォルテが来る気がするんですが」
「実力が高い者同士を組ませるのなら、フォルテ様とテルミン様が来そうですわ」
「あー、あの軽い人ですか。騎士団の参謀役で有名な家系らしいですが、剣の腕も凄いんですか?」
前に会ってから、一応調べました。テルミン家の人は、30年前の三つ巴の大戦の時に、活躍したそうです。参謀と聞くと、後ろでふんぞり返って指示だけ出している印象がありますが、有能な人はそんなことをしないらしいです。
「フォルテ様に次ぐ実力を持っていると聞いていますわ。それと、他の生徒はもう移動してるのですから、わたくし達も行きますわよ」
他の場所で騎士学校の生徒が説明を受けており、それぞれの班が指定されば場所で落ち合うことになっています。騎士学校の内部については知りませんが、一緒に説明を受けなかったのは、そこまで広い場所がないからだと思います。目的地しか書いていない地図を渡されているので、何とか迷うこと無く着きました。
そして、扉を開けて中に入ると、予想通りでした。
「カノンちゃんにメゾちゃん、よろしくー」
「やっぱり二人だったか」
「フォルテと……テルミンさんですか。よろしくお願いします」
「……お二人共、よろしくお願いしますわ」
やはり、とても軽い人です。そう言えば、フォルテの頭の上にブラッキーがいません。そう思い、辺りを見回すと、黒い大きな塊と、赤い大きな塊がありました。……いえ、いました。
「これって、ブラッキーですか?」
「ああ、幼竜の成長って早いんだ」
それにしても早すぎます。これでは、抱きかかえることも、頭の上に乗せることも出来ません。
「頑張れば、一人位なら乗れそうですね」
「ああ、乗れるとは思うけど、まだ駄目だな。無理に乗ると、骨格の成長に影響が出るらしいんだ」
それは残念です。ですが、枕代わりにして寄りかかると、気持ちよさそうです。
「カノン、無茶をしては駄目ですわよ」
「……何もしませんよ」
答えるときに目線を逸らしてしまいました。これでは、信憑性も何もありません。
「まぁ、カノンはそんなことしないだろ」
「そ、そうですよ。それに、こんなことをしてる場合ではありませんよ」
「誤魔化されてあげますわ。それで、わたくし達の班長は、フォルテ様でいいんですの?」
私達は4人一組で行くことになっています。剣士が二人に魔法使いが二人、そして、成長途中の幼竜が二体、学園生の戦力としては、十分過ぎる気がします。
「一応俺が班長だけど、作戦やら何やらは、ヴォクスに頼むつもりだ。こいつは、頭脳労働が得意だからな」
「まっ、そう言うこと、よろしくねー。それと、参謀役から班長に進言したいことがあります。戦意維持のために、お互い名前で呼び合うべきだと思います」
誰の戦意でしょうか。
「いいんじゃないか?俺は皆名前で呼んでるし」
「さぁ、班長の許可は出た。カノンちゃん、メゾちゃん、ヴォクスと呼んでくれ」
「メゾ、どうしますか?」
「フォルテ様、それは命令ですの?」
フォルテも、少し悩む素振りを見せています。
「二人共、そんなに俺のことが嫌いか」
テルミンさんが、うなだれています。少し可哀想になってきました。
「わかりました。ヴォクスさん」
私が名前を呼んだ途端、ヴォクスさんが起き上がり、にやけながら私の手を掴んできました。
「いやー、カノンちゃんはいい娘だね」
「やめたくなりました」
「カノン、一度呼んだのですから、諦めるべきですわ。それで、ヴォクス様、次はどうするんですの?」
私の手を離し、距離をとってから口を開きました。
「ああ、戦力の確認だ。まぁ、教えたくない隠し球もあるだろうけど、俺には教えてもらうぞ」
戦力の確認ですか。確かに、作戦や陣形などを考えるには必要なことです。
それにしても、奥の手を教えるというのは、少し躊躇してしまいます。
「俺とヴォクスは教えるも何もないよな」
「まぁ、俺のクリムが火を吐けるくらいだ」
赤い竜は火を吐くと聞いたことがありますが、まさか本当だとは思いませんでした。よくある創作の類では無かったんですね。
私は、期待を込めてフォルテを見つめました。
「あー、ブラッキーは黒竜だから、火は無理だ」
「今のところは、だろ」
フォルテの答えを聞き、残念に思いましたが、ヴォクスさんの発言を聞き、意味がわからなくなりました。
「竜って色によっても分類されるんだけど、白竜と黒竜は特別なんだ。ある程度成長するまで持ってる属性がわからないんだ。しかも、高確率で、複数の属性を持ってるんだ」
「何年か前に、火を吐く海竜が話題になりましたわ。第一属性である土を持った海竜が、悲しそうにしていましたけど」
確かに、海の上であろうと火を吐けるのは、かなり有利です。ですが、土ですから、岩とかを吐き出すのでしょうか。勢いや大きさがあればいいのですが、無理がありそうです。
「まぁ、話を戻します。私の使える魔法について、フォルテから聞いていますか?」
「広く知られている魔法はほとんど使えるって聞いてるけど、奥の手に関しては、あるってことしか聞いてないぞ」
どうやら、私の秘密を守ってくれているようです。まぁ、使っている以上、知られることは、仕方ありません。
「私の奥の手は、『
「凍らせる魔法って珍しいな。そんで、その奥の手は、どんな魔法だ?」
「魔法の弾幕を張る魔法と、身体強化、そして、広い範囲を一気に燃やす魔法です。跡形も残らないくらいにも出来ます」
ヴォクスさんが軽く引いています。けれど、すぐに気を取り直しています。
「強化系二種と、高火力の魔法か。聞いてる以上に万能だな。他にはあるか?」
「使えるという意味では、ありません。ですが、メゾと協力して魔族の魔法を研究してます」
まだ成功率は低いです。慣れの問題なのか、何か足りないのか、そこまではわかっていません。
「了解。次はメゾちゃんの番だな」
「メゾ、どこかに行っていましょうか?」
「わたくしのことを気にせず話したのに、わたくしが気にするわけがありませんわ。わたくしは、通常の魔法に関しては、カノンとかわりませんわ。『
『風の調』の理論を知りたかったということは、メゾなにり何かを作ろうとしたということでしょうか。メゾの秘密で心当たりのあることと言えば、あの本くらいです。まぁ、大人しくしていればわかることでしょう。
「まぁ、ワイズマンの弟子だし、優秀なことは、疑う余地がないな」
「今は、媒体に発動前の魔法を待機させる研究をしていますわ」
「んー、即時発動可能で、使い捨ての媒体ってことでいいのかな?」
「そんなところですわ。もっとも、使い捨てに関しては、否定しますわ」
恐らくは、あの本のことでしょう。どこまで上手くいっているかはわかりませんが、味方である限り、頼りになることこの上ないです。
「それで、これからどうするんですか?」
「ああ、これから移動して、向こうで待機だ。足は用意してくれてあるから、配置される場所ごとに移動だ」
フォルテに付いて行く形で移動のための馬車がある場所へ向かい、同じ方面に行く班と合流し、移動を開始します。
周囲を見る限り、上の学年の人達ばかりです。私以外の三人は、かなり知られていますが、私に関しては、無名もいいところです。場違いな空気を感じながらも、この場にいつづけるしかありません。
「カノン、実力で選ばれてるからこそ、ここにいるんだ。自信を持っていいぞ」
「カノンちゃん、弱気になってんの? 俺が励ましてあげるよー」
二人共、それぞれの方法で励ましてくれました。それにしても、ヴォクスさんは軽いです。ですが、その軽さがありがたいです。
「そういえば、ヴォクスさん、名前で呼ぶんなら、今の私に対しては、フィーネと呼ぶべきでは?」
「ちょっとちょっと、カノンちゃん、今更ひどいよー」
「カノン、それなら、わたくし達もフィーネと呼ぶ必要がありますわ」
「おっと、それは盲点でした」
誰と無く軽い笑い声に包まれました。軽く力を抜くことが出来、そのお陰で、魔法学園に通っていたことで少し腑抜けていたことに、気付くことが出来ました。普段であれば、弱気になることもありませんから。
師匠との旅で、いろいろな経験をしたのですから、私の方が劣っているわけではありません。
自分で両頬を叩き、気合を入れ直しました。突然の行動に、フォルテ達が驚いているようですが、気にしません。
「さて、もう大丈夫です」
わけがわからないという顔をされましたが、それでいいんです。私個人の問題ですから。
私達は、馬車で数日かけて目的の場所まで移動をしています。そして、目的地に着く頃には、日が暮れ始めていました。
ここは、王都の北側にある4大都市の一つ、ノースゲートと国境の中間付近です。魔族の国とは、かなり近い位置になります。
魔族との戦場はもっと先にありますが、後方にあるこの陣で、最後の準備を整えます。
フォルテは班長達の顔合わせに出ているので、私達は待機中です。
「ヴォクスさん、参謀役といっても、作戦を立てるようなことがあるんですか?」
「あー、この戦場じゃあ出番はないよ。そもそも、敵の情報も少ないし、俺の指示外の班や部隊もいるからな」
「まぁ、騎士団の皆様は、騎士団の誇りにかけて、学校の生徒である俺達に出番を回すことはないだろ。そう言った意味でも、作戦が必要になる相手を、相手にするこはないよ」
確かに、私達は騎士団からすれば、まだ守るべき対象です。そんな者達に、敵の相手をさせるつもりは無いはずです。ただ、一つ気になることが出来ました。
「それなら、誰が出動要請を出したんですかね?」
騎士というのは、誇り高い人達だと聞いています。それなら、なおさら私達に助けを求めるようなことはしないはずです。
「ああ、多分うちの人間だ。代々参謀役の家系だからな。そんな誇りだなんだって言う暇があれば、使えるやつを連れてくるよ。誇りが無いのが誇りなんて言い出すぐらいだからな」
「テルミン家というのは、冷血非道、目的のためには、手段を問わないということで有名ですわ」
「あー、確かに言われてるなー。だって、騎士団ってのは、民を守るのが目的だぞ。自分達を守るために民を犠牲にしたら、何の意味もないだろ。まぁ、そういう意味じゃ、俺達を戦力として見てることになるけどな」
何とも合理的な考えをする家系のようです。けれど、ヴォクスさんのこの軽さは、どこから来たのでしょうか。
そんな話をしていると、足音が聞こえ、私達の近くで止まりました。
「ただいま。基本的に乱戦にせざるを得ないから、騎士団を超えてきた魔族を相手にしてくれってさ。それと、今は向こうも引っ込んでるけど、連日日が出てくる頃に襲撃してくるらしいから、それまでには、準備を済ませておいてくれって」
「そうですか。では、暗い内に起きたほうがいいですね」
「では、食事を済ませるべきですわ」
こうして、食事を済ませ、私達に与えられた天幕で寝ることになりました。勿論二つ与えられたので、私とメゾで一つです。
出来れば、ブラッキーを枕にしてみたかったです。
そして次の日、目が覚めると、まだ真っ暗でした。松明の明かりも最小限になっています。
食事の準備に関しては、前線に配備出来るほどの実力がない生徒達で行われるようです。但し、料理経験者に限るそうです。
まぁ、騎士学校の生徒ならともかく、魔法学園の貴族の子供に料理が出来るとは思えません。
メゾと共に身支度を整え、フォルテ達の様子を伺うと、既に準備が出来ており、フォルテの手には、旅で使った、オリハルコンの長剣が握られていました。
騎士学校では、こういったところもしっかりしているようです。
そして、前線で見張りをしている部隊と交代する部隊を見送りながら、私達も移動を開始します。
「なぁ、カノンちゃん、『戦いの調』を俺にも使ってくれるか?」
「構いませんが、使い方はフォルテに聞いて下さいね」
「了解」
ヴォクスさんは、短く返事をすると、フォルテと話し込んでいます。恐らくは、『戦いの調』について聞いているのでしょう。
多重発動に関しては成功しているので、問題ありません。
「カノン、わたくしも今のうちに伝えておきますわ。わたくしは、『魔の帳』は使いませんので、弾幕は任せますわ」
「わかりました。私は、その本に期待することにします」
「上手く動けばいいですわ」
メゾの言葉から察するに、まだ未完成なのでしょう。私も、専用の核石を用意しましたが、魔族の魔法の成功率は、そう高くはありません。今回に関しては、今までどおりに戦うのがいいでしょう。
「さて、皆そろそろ着くぞ」
「そうか、なら、始まる前に、言っておかないとな。カノンちゃん」
いきなりヴォクスさんが私の両手を取り、正面から見つめてきました。
「な、何ですか」
少し噛んでしまいました。
「無事に帰ったら、俺とデートしてくれ」
「……」
私は何を言われたのでしょうか。
ちゃんと聞いたはずですが、理解が追いついていません。
確か、デートをしてくれと言われました。デートというのは、あれですよね。付き合ってる人同士が、一緒に遊んで回るあれですよね。
そういえば、ヴォクスさんが私の目の前にいます。そして、なぜだか見つめてきています。
あれ……?
「な、ななな、何を言うんですか。だって、その……、あの……」
「そこは、ちょっと恥ずかしがりながら、俯き気味に頷いてくれればいいんだよ」
「そ、そうでは、なく、無くてですね」
周りから声が聞こえるような気がしますが、頭が理解してくれません。
「頷いてくれないかな? それなら、嘘でもいい。でも、頷いてくれれば、俺は頑張れる」
とうとう頷いてしまいました。それも、羞恥心で顔を赤くし、俯き気味にです。
「ちょっとカノン、どうしたんですの」
「えっと、あの、その、何が、何だか……」
そう言いながらも、フォルテの顔を盗み見ると、少し寂しそうな顔をしています。
「カノンがそれでいいならいいけど、まぁ、出来ることをやるだけだ」
「ふっふー、俺達なら、大丈夫だろ」
何だかメゾに睨まれている気がします。
「フォルテ様、わたくし達も、戻ったらデートをいたしましょう」
「……えっ」
私は思わず声を漏らしてしまいました。
ヴォクスさんが意外そうな顔をしています。
「そ、そうだな。何かあったほうがやる気がでるよな」
「それじゃあ、帰ったら俺とカノンちゃん、フォルテとメゾちゃんで、一緒にデートだ」
私は結局、何も言えず仕舞いでした。少し、寂しさを感じ、心の中に妙な暗さを残すことになりました。
私は、気不味さを覚えたまま、戦場へと赴きました。前を歩くフォルテがときどき振り返り、笑いかけてくれますが、その笑顔に、後ろめたさを感じてしまいます。
「さて、皆、この辺りで待機だ」
「そんじゃ、俺とフォルテが前を警戒するから、いつでも動けるようにして、待っててくれ」
「……はい」
「わかりましたわ」
フォルテとヴォクスさんが少し離れて警戒しています。
「カノン、どういうつもりですの?」
「……何がですか?」
「わかっていても、理解が追いついていないんですの? まったく、貴女がそんなだと、張り合いがありませんわ。まぁ、そうしていると、わたくしは楽ですわ。後になって悔やんでも、知りませんことよ」
私は、何をしているんでしょうか。突然のことで、頭が混乱しているようです。いえ、混乱しているふりをしているようです。
「だって、メゾ、フォルテの横は、メゾの位置ですよ。それなのに、横からしゃしゃり出るなんて……」
「舐められたものですわね。貴女は、絶対に自分が選ばれると思っているんですの? まぁ、そんな状態では無理ですわね」
メゾが胸を強調するように腕を組んでいます。しかも、それを見せつけるようにしています。
「私は……」
「なら、一つ助言しますわ。テルミン家はグレイス家に勝るとも劣らない家系ですわ。ヴォクス様は、あのような方ですから、どこまで本気かわかりませんが、いい暮らしが出来るはずですわ」
メゾは何を言ってるんでしょうか。
「そんなことが……」
「何ですの?」
「そんなことが目的じゃありません」
「そうですわね。貴女はそんなことを気にする様な人間じゃありませんものね。なら、何を気にするんですの?」
それは……。
「気にしません、何も。ただ、一緒にいられれば、それでいいんです」
「なら、しっかりすることですわ。言ったはずですわ。貴女がそんなだと、張り合いがないんですもの」
メゾに塩を送られたようです。張り合いがないからって、自分から損をするとは。
「ありがとうございます」
メゾに顔をそむけられてしまいました。ただ、どことなく嬉しそうな顔をしています。
ただ、一つ気になることがありました。
フォルテ達の方を見ると、どうやらこちらの会話は聞こえていないようです。
私はそっと胸を撫で下ろしました。
しばらくすると、何かの気配を感じ取り、遠くで戦いの音が聞こえ始めました。
さらに、大きな魔法陣が浮かんでいます。
どうやら、魔族の部隊が本格的に動いているようです。
「カノンちゃん、強化魔法の準備を頼む」
私は、返事もせずに詠唱を始めました。ヴォクスさんは、それ関しては気にしていないようです。
そして詠唱を聞いた二人が近付いて来ました。
私はそれぞれの手を胸の位置に置くと、魔法の名前を唱えました。
「『戦いの調』」
二人を白い光が覆いました。けれど、それもすぐに小さくなり、小さな明かりが灯っています。
「結構難しいな」
「ちゃんと制御しないと持たないぞ」
「わかってるよ」
二人共しっかりと制御しているようです。後は、来ないほうがいい私達の出番を待つだけです。
「カノン、始めは私が時間を稼ぐので、『風の調』を頼みますわ」
「わかりました」
私達はこのまま戦場の行き先を眺めることになりました。けれど、ヴォクスさんの声が響きました。
「カノンちゃん、詠唱を始めろ」
私は、わけがわかりませんが、指示に従うことにしました。
詠唱するのは勿論、『風の調』です。
そして、詠唱を始めてしばらくすると、フォルテとヴォクスさんが竜痕の力と『戦いの調』の力を引き出し、白い縁を持った黒い鱗の鎧を纏っています。こうして見比べると、やはり、光り方が違います。
その直後、数人の魔族が騎士団の壁を突破してきました。
「『風の調』」
私は詠唱が終わり、周囲の風を掌握しました。そして、風を使い、すぐに詠唱を始めます。
「試すにはちょうどいいですわ」
メゾは、表紙に専用の核石が付いた赤い本を取り出し、開くと、メゾの命素に反応し、自然とページが捲れていきます。
一人の魔族が突破すると、背後に気を配る必要が出てくるため、前への注意が疎かになります。その結果、抑えこんでいた魔族を抑えることができなくなり、次々に魔族の突破を許しています。
「ヴォクス、行くぞ」
二人が魔族へ向かって行きました。騎士団を突破したとはいえ、その代償は多いようで、全身が傷だらけになっており、動きも鈍いです。
今はまだ、フォルテ達だけで抑えることが出来ています。ですが、後から突破してくる魔族ほど、傷が少なく、動きも機敏です。恐らくは突破に使った労力が少ないのでしょう。私達が動くことになるのも、時間の問題です。
そして、早くも魔族が二人を突破しました。
ですが、迎撃の準備は出来ています。
私は、周囲の詠唱で迎撃しました。そして、隣では――。
「『
メゾが本のページに練り上げた魔力を流しこみながら魔法の名前を唱えると、魔法が発動しました。
大きな炎の塊と、その周囲に、いくつもの小さな炎の塊が出現し、魔族へと向かいました。
けれど、『轟炎』に関して言えば、メゾ本来の実力よりも、小さいです。ですが、あれを何発も撃てるのだとしたら、そんな問題の方が小さいです。
それにしても、『轟炎』の周囲に出現した、炎の軌跡を残しながら魔族へと向かう小さな炎、『焔玉』とは、かなり珍しい魔法です。
相手の逃げ場を遮り、本命の魔法を当てるという戦法を考えれば、理にかなっています。
メゾが研究中と言っているので、魔法使い本来の実力が出ないという問題があるのでしょう。
フォルテ達は、始めのうちは、倒すようにしていましたが、時折、ある程度の傷を与えるだけにとどめています。後ろの回しても、私達がいるので安心しているようでしょう。
ならば、その期待には答えなければいけません。
「メゾ、その本は、同時に何発撃てますか?」
「この本は、第二属性の火だけですが、同じ魔法なら多重発動で何発でも。ページを開かないと、成功率が悪いので、理論上は、全魔法を同時に撃てますが、実際は、2~3種類が限度ですわ」
いろいろと改善点が多いようです。後、属性別に本を用意してるわけですね。
こういった会話をしている間にも、魔族への迎撃の手は緩めません。
私達の前にいる騎士団は、後ろからの挟撃が来ないという安心感を得たのか、前に集中出来ています。その結果、突破してくる魔族も少なくなって来ました。
フォルテ達も一息つく時間を手に入れています。そんな時――。
「何か来ます」
私はそれだけ言うと、詠唱を始めました。この気配は、記憶に残っています。
フォルテは、すぐに警戒し始め、ヴォクスさんとメゾも、それに習って警戒しています。
前方に、青と緑に輝く大きな魔法陣が出現し、声が重なって聞こえました。
「『ウェーブストーム』」
竜巻の中を水の刃が舞っています。
それは、騎士団の陣形を破壊し、完全な乱戦に持ち込まれました。
けれど、騎士団と戦っている魔族は、私達の方へ来ようとはしません。
その理由は、すぐに明らかになりました。
「あいつらは……」
私は、自身の声が、酷く冷たくなっていることに気が付きました。それは、こちらへ向かってくる三人の魔族、その姿に見覚えがあるからです。
「ヴォクス、気を付けろ。
褐色肌を持つ大柄の魔族ゼクス、白い細身の魔族ジーベン、頭の横に角を持つ女性の魔族アハト、前に私達が戦った九近衛の新世代です。ゼクスとジーベンには、ところどころに火傷のような後があり、アハトにいたっては、数多くの傷が見て取れます。
師匠によって付けられた焦げ跡と、デュオさんによって付けられた剣の傷跡でしょう。
「余裕の登場じゃねーか。フォルテ、俺と一緒にゼクスを殺るぞ。カノンちゃんとメゾちゃんは、ジーベンとアハトを頼む」
向こうが三人に対し、私達は四人です。前回は、戦えない実力差ではなかったので、持ちこたえて見せます。
「行きますよ」
「わかってますわ」
私は、杖を少し短くして左手に持ち替え、フォルテに貰った短剣を抜きました。その鍔には、小さな核石が埋め込まれています。それは、メゾと一緒に作り上げたものです。
この状態での特訓や試合はしましたが、実践で使うのは始めてです。
先ほどの魔法で、風が詠唱していた分は、無くなってしまいましたが、風の支配はすぐに復旧させました。
後は、詠唱をさせる時間を稼げば、弾幕を張ることが出来ます。
横目でメゾを見ると、赤い表紙の本と白い表紙の本をそれぞれの手に持っています。
「魔法陣は成功率低いですから、即時対応出来るのは、メゾだけです」
「わたくしの場合、威力は落ちますわよ」
魔法陣を描く場合、一切の間違いが許されません。詠唱と違い、使いやすくするための改変が出来ないのです。
どうも使いやすくするために改変するという癖がついているようで、お手本通りの魔法陣を描けずにいます。とりあえずは、普通に詠唱する必要があります。
フォルテとヴォクスさんは、ゼクスへ向かって行き、剣を打ち合っています。フォルテの長剣に、ヴォクスさんの片手剣、そして、ゼクスの大剣、それぞれの長所短所があり、それが噛み合っているようです。
この様子では、向こうは長引くでしょう。
「ジーベン、黙って出てきたんだ。確実に殺るよ」
「ええ、わかってます。それにしても、ノインさんも余計なことをしてくれた」
二人が段々近付いて来ます。やはり、目的は私ですか。
「『
私は、仕返しとばかりに、風の刃をいくつも飛ばしました。
その軌道は、ある程度の自由が効くので、事前に回避したとしても、その方向へ飛ばすことが出来ます。
それは、あちらも理解しているようで、ギリギリまで引きつけてからかわされました。
そして、私の魔法を皮切りに、メゾも魔法を使い始めました。
「『
それぞれの本から、大きな蛇の様な龍の形をした炎と、いくつもの羽のような光の欠片が出現しました。
炎龍は、その巨大な口を開き、二人を飲み込もうとします。そしての逃げ道を塞ぐように光の欠片が宙を舞い、全方向から襲いかかっています。
「『アクアストーム』」
ジーベンが黒い錫杖を振るい、魔法陣を描くと、二人を水の竜巻が覆いました。その結果、炎を消され、光の欠片はその侵入を拒まれています。
光の欠片は、『アクアストーム』の魔素に反応し、竜巻による壁に穴を開けていますが、突破することが出来ずにいます。
あの錫杖は、いくつもの部品から出来ているようで、それぞれの部品に、加工をしてあるのでしょう。さらにいえば、アハトの扇も、同じように出来ているはずです。
「『フレイムアロー』」
アハトが扇を振るうと、大きな魔法陣が出現し、何本もの炎の矢が出現しました。
あれはまずいです。
メゾが手にしている本は、第二属性である火の本と、第五属性である光の本です。そして、私は詠唱する必要があるため、迎撃する手立てがありません。
やはり、試さな無くてはいけません。
私は、短剣を前へ向け、そこにある第四属性用に加工した専用の核石に練り上げた魔力を流し込みました。そして、そこから、記憶した魔法陣を描きます。そして、魔族の魔法に使う言葉は、知っている言葉ではありますが、あまり使わないので、上手く発音出来るか心配です
「あきゅあ……うぉーる」
私が魔法の名前を唱えると、正面に魔法陣が出ていても、魔法が発動しませんでした。どうやら、失敗したようです。
「陣が描けてないね。それに、発音も出来てない。そんなんじゃ、無理だね」
魔法に失敗したことで同様していると、アハトに追い打ちをかけられました。確かに、魔族は普通に使っていますから、失敗するのを見て、笑っているんですね。
「カノン、避けますわよ」
メゾに言われ、炎の矢が近付いていることを思い出しました。
二人して慌てて避けることになりました。何本かはギリギリだったので、焦りました。
「魔法陣なんて、複雑だし、同じ図形なのに大きさもバラバラで、厄介過ぎます」
けれども、使いこなせれば頼りになるものには、間違いありません。
「カノン、それぞれの図形には、意味があるって聞いたはずですわ」
「わかってますけど、結構難しいんですよ。それに、古代語を頭で理解していても、発音までは正確に伝わってないんですから」
「刻印の知識を活用してくださいまし。少しくらいなら、時間を稼ぎますわ」
メゾは、そう言うと、いくつかの魔法を唱え、時間を稼いでいます。
時間を稼ぐと言われ、実際に稼がれているのですから、私もやるしかありません。
刻印に意識を集中し、知識をあさります。完全に集中してしまうと、無防備な姿を晒してしまうので、ある程度の気は配るようにします。
じばらくすると――。
「カノン」
メゾの声が聞こえました。
どうやら、限界のようです。
それでも、いくつかは理解出来ました。後は、試すだけです。
目の前には、数多くの水の弾丸が迫りつつあります。私は右手にある核石に意識を集中させ、魔法陣を描き、魔法の名前を唱えます。
「『スパーク』」
目の前の魔法陣から電撃が迸りました。それが、いくえにも枝分かれし、水の弾丸を撃ち落としました。
「試して見るものですね」
「感謝して欲しいですわ」
「今回の件が片付いたら、気の済むまで感謝します」
「では、わたくし達で、倒してしまいましょうか」
確かにそうです。そもそも、アインを殺すための準備をしてきたのですから、この三人を倒せないのであれば、意味がありません。
「では、一気に行きます」
私は、魔法の詠唱を始めました。さらに、周囲の風を使い弾幕を張るための準備をします。いくら魔族の魔法の発動が早くても、魔法陣を描く時間さえ与えなければいいんです。
メゾも、威力の高い第二属性である火の魔法と、魔素を切ることが出来る第五属性である光の魔法を主軸にしています。それは、本来の威力でなくとも、十分な脅威になるはずです。
魔法で弾幕を張ることに関しては、何度も行っていることなので、他の難しい魔法を唱えていたとしても、途切れることはありません。先ほどは、別のことに集中してしまったので、仕方ありません。
だからこそ、今度は、私が使える中で、一番の魔法を唱えています。
そんな中、一際大きな声が聞こえました。
「『エンチャントフレイム』」
ゼクスが、大剣に炎を纏いました。それは、かなり離れている私にすら、熱さを感じさせるほどです。
「やばいな」
「フォルテはまだいいだろ。俺の剣なんて支給品だぜ。打ち合ったら溶けちまうよ」
ゼクスがその膂力を生かし、フォルテ達へ突き進んでいきます。私達がジーベンとアハトを担当することになり、ゼクスへの牽制をしていなかったことが悔やまれます。
フォルテの剣は無事かもしれません。ですが、それを持つフォルテが耐えられないようで、その攻撃を余裕を持ってかわしています。
私は、第四属性である水の魔法を中心に、ゼクスへと向けました。大剣が纏う炎を消すことは出来なくとも、その力を少し削ることは出来るはずです。
今は、ジーベンとアハトの相手をしているので、ゼクスへと向けた魔法の効果を確認することは出来ませんが、フォルテなら、何とかしてくれるはずです。
「メゾ、大きいの行きますよ。『
メゾに声をかけると、すぐに魔法の名前を唱えました。
二人の周囲を、乾燥した燃えやすい空気が包み込みます。そして、小さな火の玉が出現した瞬間、それが一気に燃え上がりました。
炎による高熱は、私のいる場所まで届いています。
周囲を見渡すと、メゾが辛うじて効果範囲外に逃げ出していました。
そして、怒りながらこちらへ向かってきます。
「もうちょっと待って欲しいですわ」
「でも、逃げられますよ」
視界の端で炎が消えるのに気が付きました。
そこには、黒焦げになった魔族の影があります。
「もうちょっと頑張る必要がありますね」
「そうですわね。それに、深手を追わせたといっても、油断は禁物ですわ」
私達は身長に魔族の影を観察しました。
このまま崩れ落ちてくれればいいのですが、中々変化がありません。
少し妙な感覚がありますが、それについて上手く言葉に出来ません。
「メゾ、とりあえず、何かしましょう」
私が詠唱を開始すると、メゾも本を開いています。最適な物を探しているようです。
「試しますわ。『轟炎』」
メゾが魔法を放ちました。けれど、魔族の影に、変化がありません。それは、魔法を受けたにも関わらず、何も変化していないということです。
「これはいった――」
メゾが私にぶつかってきました。それも、頭を抑えられ、うつ伏せ気味に倒されました。
そして、何かが私の頭あった位置を通りる気配がし、視界の端に何かが中を舞うのが見えました。
「カノン……、すぐ逃げますわ」
意味がわかりませんが、とりあえず言う通りにしました。
無理やり倒されたので、無茶な起き方をしましたが、何事も無く、その場を離れることが出来ました。
「どうしたんですか?」
私の問に、メゾは視線で答えました。
メゾの視線の先、そこは、私達が先ほどまでいた場所です。そこには、、錫杖を持ったジーベンが立っており、足元には、メゾの縦ロールが一房転がっていました。
私は、一つ思い出しました。
「アハトの幻術……」
どうやら、私達は騙されていたようです。
周囲を見渡すと、アハトが、少し焦げながらも『灼風』の範囲から出ていました。
「やれやれ、君の感覚を誤魔化しても、誰かに直視されると駄目ですね」
「まったく、せっかく集中して幻術を使ったんだ。今ので決めて欲しいね」
「しかたありませんよ。それと、一つ気になることが出来ました」
そう言うと、ジーベンが改めて私に問いかけてきました。
「今代のフィーネ、君がフィーネを継ぐ前、ドライ参謀は、フィーネの弟子という存在の気配を、不思議な気配と称しました。そして、それは私も感じ取っていました。しかし、フィーネとなった今、何故、その不思議な気配を纏っているのですか? 先代のフィーネの気配は、普通の人間の物でしたよ」
私には意味がわかりません。
そもそも、魔族が私の気配をどう感じ取っているのか知りません。ただ、魔族に対し、正直に答えるのも癪です。
「教えるわけありませんよ」
「そうですか。なら、次のフィーネで確認しましょう。『フレアランス』」
ジーベンの目の前に描かれた魔法陣から、大きな炎の槍が出現しました。そして、それが私達目掛けて放たれました。
私は、すぐに回避しようとしましたが、メゾが座り込んでいることに気が付きました。
よく見れば、肩を抑えています。
先ほど私を庇った時に肩を打たれたのでしょう。動けないほどの痛みとは、相当な物です。ここは、回避ではなく、迎撃を選ぶしかありません。
「『アクアウォール』」
私は、魔法陣を描き、魔法を発動させました。
水の壁が私達と炎の槍の間に出現し、大きな音と共に、大量の煙を吹き出しました。
その結果、煙に視界を覆われてしまいました。
魔法の迎撃は出来ましたが、これは思わぬ誤算です。
「メゾ、動けますか?」
「少し、くらいなら、大丈夫、ですわ」
私は、周囲に気を配りながら、メゾに肩を貸し移動します。
「カノン、風を、支配、している、なら、相手の、場所を、探せま、せんの?」
突然のことで意味がわかりませんでした。ですが、少し考えて見れば、その通りです。
『風の調』で支配した風を利用すれば、相手の位置がわかるはずです。支配した風が立ち入れない場所には、何かがあるということですし、その場所が動けば、そこには敵がいる証拠です。
今まで詠唱のためにしか使っていなかったので、そんな副次効果があるとは気付きませんでした。
そして、周囲の気配を探ると、二人も動いていないようです。恐らくは、私達が出てきたところを狙うつもりなのでしょう。
「メゾ、あまり時間がないので、簡単にいいます。魔族が狙っているのは私ですから、私が囮になります。その間に、動けるようになって下さい」
私は、メゾの反応を見ずに駆け出しました。
まずは、『戦いの調』を使うべく詠唱します。私の姿が見えれば、すぐにでも魔法を撃ってくるはずですから、機動力を確保する必要があります。
「――――――――――『戦いの調』」
よく使う魔法に関しては、短縮詠唱の準備をしておいて正解でした。命素の消耗が激しくなりますが、今はそんんことを言っている暇はありません。
煙を出ると、すぐに魔法が飛んできましたが、わかっていれば避けるのは簡単です。
メゾから十分に距離を取り、詠唱を始めました。
「――――――『
この魔法は、私の一番のお気に入りです。
ツヴァイには一度防がれていますが、多重発動で同時に襲いかかれば、あの方法での防御だと、手が足りないはずです。そもそも、ツヴァイはいません。
それは二人もわかっているようで、回避に専念しています。
「やれやれ、厄介だね『ウィンドスライサー』」
アハトがいくつもの風の刃を飛ばしてきました。ですが、それは私には届きません。
『風の調』によって支配した空気を使い、風の刃の方向をねじ曲げました。軌道を微かにずらすだけで、距離があれば、そのずれは大きくなります。
今になってこんな使い方を思いつくとは、メゾには感謝してもしきれません。
「厄介だね。すばっしこいし、風の魔法はもう無理だ」
「厄介ですね」
どうやら、二人もそれを察したようです。
「わたくし達は二人ですわ」
メゾの声が聞こえました。
既に煙が晴れており、しゃがんでいる様子が見えます。
先ほどと変わっていることは、両手に黒と白の本を持ち、残りの本が周囲に置いてあることです。
「カノン、まずは一人ですわ。『
緑の表紙の本が独りでに開き、一枚のページが立っています。そして、そこから魔法が発動しました。
魔法の影響で、ページをめくりながら切り裂いています。
「まったく、魔法書の初陣で、『
切り裂かれた紙が舞い、メゾの周囲に膨大な魔力が渦巻いているのがわかります。
ただ、これから先、何がおこるのかはわかりません。
「行きなさい」
詠唱でも、魔法の名前でもない、ただ練り上げた魔力をこめて命令しただけです。ですが、メゾの指示に従い、渦巻いている魔力が、白い光となり、アハトへと襲いかかります。
極太の光が、地面をえぐり、アハトをその周囲ごと飲み込みました。
光が消えると、そこには何もありませんでした。えぐられた地面が露出しているだけで、草も石もありません。ただ、地中にあったはずの土が表面に見えるだけです。
メゾも、力を使い果たしたのか、息を荒くし、倒れそうになっているのを、辛うじて支えています。
「く……、せめて一人だけでも」
ジーベンが錫杖を横へ向けました。錫杖を向けた先は、白い光が発生した場所。
それはつまり。
「『ブレイドショット』」
「メゾ!」
私が駆け出すのと同時に、ジーベンの魔法が発動しました。
鉄の刃が撃ちだされ、メゾへと向かっています。
かなり重量のある刃なので、風を利用しても軌道を変えることは出来ないはずです。ならば、直接防ぐしかありません。
せめてもの救いは、風の刃と違い、速度が出ていないことだけです。
これなら、『戦いの調』を使っている状態であれば、鉄の刃が届く前に、メゾの元へ行けるはずです。
そして、メゾに飛び掛かり、一気に距離を取りました。
強化に不慣れなため、メゾを捕まえ、そのまま転がってしまいましたが、何とかなりました。
傍から見るとメゾを押し倒しているようです。
とりあえず、すぐに起き上がり、メゾの手を引き、肩を貸すために、強化の度合いを低くしました。
座っているわけには行きませんし、慣れていないので、力を入れすぎる可能性がありますから。
「上だ!」
フォルテの声がしました。
私は、不注意にも、声のする方を見てしまいました。
その瞬間、メゾに右手で軽く押されました。
体勢を崩し、少しよろけながら倒れると同時にメゾの方を見ると、上を見ています。けれど、私の視線に気付き、笑いかけてきました。
上から、赤く燃えている何かが降りてきました。
そして、何かが焦げるような臭いと赤い液体を撒き散らしながら私の横を飛んでいきました。
頭が今の状況を理解しようとする前に、見覚えのある剣が、降りてきた何かから、血を纏い突き出てきました。
それと同時に、苦しそうなうめき声が聞こえます。
「ゼクス!」
そうです。降りてきたのはゼクスでした。
ゼクスのうめき声と同時に、感じていた熱が引いていきます。そして、その先には、座り込んだメゾがいます。
「メゾ?」
私の声が届いたのか、弱々しい笑顔を向けてきました。
「大丈夫ですの?」
「メゾ……」
私は、直感的に理解しながらも、目の前の光景を理解することを拒んでいます。
「ちょっと、疲れ、ましたの……。後、は、任せ、ますわ」
メゾを支えようとしますが、生気のないゼクスが邪魔です。メゾに近付こうとすると、水たまりのような音がします。倒れているメゾを抱き起こすと、そのまま身を委ねてきました。
「メゾ、大丈夫ですよね」
けれど、返事はありません。ただ、息はしているので、ただ気を失っているだけのようです。
私は、そのままメゾを寝かせると、横にあるものを見ました。
ゼクスの巨体が先ほどと同じように横たわっています。
メゾの隣に置いておくことが許せず、私は、強化を出力を上げ、そのまま蹴り飛ばしました。
そして、ジーベンの方を見ると、フォルテとヴォクスさんが剣を構え、戦っています。
ジーベンは、錫杖で防ぐのが精一杯のようです。
「――――――」
私は杖を掴む手に力を込めながら確実に詠唱します。
「――――――」
詠唱が進むに連れ、冷静に、冷酷になっていくのがわかります。
「――――――」
そして、準備が整いました。後は、この魔法を使うだけです。
「カノンちゃん、それは?」
「カノン、それ……」
二人が何を言っているのかわかりません。今は、目的を果たすことしか考える気がありません。
私が、視界に捕えたジーベンに対し、斬るように杖を横に振りました。
そして、練り上げた大量の魔力を使い、魔法の名前を唱えます。
「『
その瞬間、杖を振った通りに、ジーベンに線が出現しました。
それと同時に声にならない言葉が聞こえました。
ただ、何を言っているかはわかりません。
「まだです」
余分に魔力を練ったのですから、もう一度、発動させます。
今度は、縦に杖を振りました。その軌道と同じ線が出現し、ジーベンだった物が、崩れ落ちました。
「フォルテ、殺りましたよ」
私はフォルテに笑顔を向けました。けれど、フォルテは、私の笑顔を見て、引き攣っています。どうやら、かなりひどい顔をしているようです。
ですが、とりあえずは三人、殺しました。これで、次へ進めます。
こんばんは
使う魔法が変わったり、手段がかわったりすると、強くなったような気がします。
詠唱が必要である以上、詠唱を省くには、デメリットがあるべきという個人的価値観によって、基本的には威力減少を引き起こしていますが、魔力をぶち込めばどうとでもなってしまいます。
それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。