魔法使いと勇者と竜の国   作:enz

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4番目の九近衛

 私が目を覚ますと、部屋には私一人でした。

 けれど、外からはフォルテの掛け声が聞こえます。

 きっと朝の訓練をしているのでしょう。

 私は、身支度を整え、部屋を出ると、モデラートさんが朝食の準備をしていました。

「起きたのか。朝食くらいは食べていけばいい」

「何から何かですみません」

 それにしても、何故モデラートさんはこんなにも親切にしてくれるのでしょうか。

 聞いてみたいですが、きっとはぐらかされると思います。

「カノン、おはよう」

 突然フォルテも戻ってきました。

「おはようございます。今日も早いんですね」

「ああ、モデラートが親切だから、つい甘えちまった」

「気にしないでくれ。それよりも、朝食が出来たぞ」

 簡単な朝食ですが、綺麗に作られています。

 その朝食は、見た目に負けず、とても美味しかったです。

「なぁ、少し行った辺りに、穴があいてたけど、あれは何なんだ?」

 そういえば、私も気になっていました。

 普通では、あんな大穴がいくつも空くわけありません。

「あれは、30年前の三つ巴の大戦の傷跡だ」

 モデラートさんは、それだけ言うと口を噤んでしまいました。

 これ以上は聞き出せそうにありません。

 私達は、この会話を最後に、この家を出発することになりました。

「それじゃあ、いろいろ助かったよ」

「本当に、ありがとうございました」

「もし近くに来ることがあれば、またくればいい」

 それだけ言うと、すぐに家の中に入ってしまいました。

 私達はそれを見届けると、先へと進みます。ボイスに貰った地図に示されている場所の一つが、この場所だったからです。

 そこには、いくつものすり鉢状の大穴があります。

「三つ巴の大戦か。なぁ、カノン、大戦について、どのくらい知ってる?」

「私が知っているのは、あらすじくらいですよ。王国と帝国、そして、魔族が様々な理由でぶつかり合った。ただ、それだけです」

 私が本来持っている知識は、それだけです。

「じゃあ、刻印の知識には、何があるんだ?」

 見透かされているようです。

「30年前の大戦と言っても、終わったのが30年前というだけで、もっと前から続いていました。その頃は、フィーネも何度も死んだらしく、魔族の側と人間の側を行き来していたようです」

「随分と過酷だったんだよな」

「記憶として持っているわけではないので、詳しくはわかりませんが、どこかで最終決戦を行おうとしていたらしいです。そのために、王国、帝国問わず、少数精鋭で、どこかへ向かったそうです」

「それで、どうなったんだ?」

「わかりません。当時のフィーネが、知識としての残さなかったのか、死んだのか、刻印に残っていませんから」

「そっか。騎士学校だと、各地での結果と、魔族の国への侵攻作戦で、魔王とぶつかって重症を与えたってことくらいしか、教わらないんだ。でも、そんな状況でも、帝国と手を取り合えたってのは、いいことだよな」

「そうですね。今の私達に帝国側の人が着いて来ていれば、そっくりな状況になりますね」

「でも、そうなると、カノンが危ない目に会うかもしれないんだろ。だったら、いなくてよかったよ」

 フォルテが、私の方を向いて微笑んできました。

 私のことを心配してくれたようで、嬉しいです。

「それでねー、ここが、その少数精鋭に部隊との激戦が行われた場所なんだよ」

 突如声が聞こえ、私達は武器を手に取り警戒しながら周囲を見渡しました。

「何処だ!」

「ここだよ」

 よく聞いてみれば、随分と幼い声です。

 そして、その声は、近くにあるすり鉢状の穴の中から聞こえました。

「子供か?」

「お兄ちゃん酷いなー。子供だと持って甘く見ると、バッサリと死んじゃうよ」

 子供の魔族が体を回しながら何かを投げてきました。

「伏せろ」

 フォルテが覆いかぶさってきました。

 突然のことでしたが、手にしていたのが杖だけでよかったです。

 そして、私達の首があった辺りを、何かが回転しながら通り過ぎて行きました。それは、黒い大きな鎌でした。

「駄目だよ避けちゃ」

 子供の魔族が投げた鎌は、不自然な軌道を描き、投げたその手へと帰っていきます。

「何なんだお前は」

「僕は、フィーア。九近衛(ここのえ)の一人だよ」

 フィーアと名乗った魔族には、小さいですが角があります。それにしても、こんな小さな子供が、九近衛だとは、思ってもみませんでした。

「お前が、九近衛の一人だと。でも、何でここがわかった」

「簡単だよ。フュンフは、九近衛の中でも、中立だから、入手した敵側の情報は、全員に渡してるんだよ。つまり、ノインさんが持ってる情報は、僕も持ってるだよ。まぁ、ノインさんやボイス様が、意図的に漏らしてた感じはあるけどね」

 そういうことですか。けれど、ボイスは、フィーアとフュンフについては知らないと言っていました。これは、戻ったら追求する必要があります。

「つまり、私達の前に立ちはだかるんですね」

「そうだよ。まぁ、お姉ちゃんの不思議な気配については、聞いてたから、すぐわかったよ。でも、似た気配もあったから、紛らわしかったけどね」

 私に似た気配、それは、どういうことでしょうか。

 少し気になりますが、今はそんなことを考えている余裕はありません。

「カノン、とにかく戦うぞ」

 私は、詠唱を始めることで、返事としました。

 けれど、その詠唱は、短縮詠唱です。

 多少荒っぽくなりますが、すぐに魔法が発動するということです。

「『戦いの調(たたかいのしらべ)』」

 フォルテの胸に手を当て、魔法の名前を唱えると、白い光に包まれました。

 それは、そのまま白い縁を持った黒い鱗の鎧へと変化しました。

 私は、そのまま次の魔法を詠唱します。

「凄いね。戦いがいがあるよ。ここは、かつてのフィーアが、人間に負けた場所だけど、僕は負けないよ」

 フィーアが、身の丈以上ある鎌を振り回しています。けれど、小柄な体である以上、フォルテが圧倒的に有利です。

「『風の調(かぜのしらべ)』」

 ここまではいつも通りです。ここから先は、状況に合わせて、臨機応変に動く必要があります。

「やっぱり凄いね。あの三人を殺しただけのことはあるよ」

「口だけは余裕だな」

「ん? だって僕、まだ本気じゃないから」

 フォルテと打ち合いながらも、軽い身のこなしで遊んでいるようです。

「そうか。でも、子供に負けるわけにはいかないんだ」

「お兄ちゃんもか。あの三人も、僕のことを新入りだとか、子供だってあざ笑ったんだ。僕は、自分の意思で、角の継承をしたのに、継承をしてない三人が、僕を笑うなんて、許せないよね。まぁ、死んじゃったから、もうどうでもいいけど」

 角の継承とは、一体なんでしょうか。恐らく、魔族に伝わるもののはずですが、刻印にも知識が残っていません。

「そんなんじゃ、俺は倒せないぞ」

「『風斬(かざきり)』」

 フォルテに合わせ、風の刃を撃ち込みました。いくつもの刃が、様々な軌道を描き、フィーアへと殺到します。

「お姉ちゃん、邪魔だよ」

 フィーアの手に、もう一本の鎌が出現しました。それは、風の刃を斬り、宿っていた魔力を霧散させました。

「ふふ、驚いてるね。これはね、ここで死んだ先代のフィーアが使っていた鎌だよ。回収できたのは、この二本、命素の鎌と物質の鎌だけなんだけどね。命素を斬る鎌と、物質を斬る鎌、出来れば、空間の鎌が見つかってくれると、もっと強くなれたのに、残念だよ」

 そういいながら、フィーアが命素の鎌を振り回し、そのまま放り投げました。そのせいで、『風の調』で風を支配している魔力をかき消され、多くの詠唱を破壊されてしまいました。

 恐らく、魔法で鎌の軌道を操っているはずですが、そんなことをしながらも、フォルテと打ち合っています。

 やはり、見かけに騙されてはいけないようです。

「驚いてるね。でもね、僕達魔族は、魔素を感じ取れるんだ。だから、体内に大量の魔素を持つ魔族の気配を察知出来るし、体の中の命素が魔素を弾くことで、流入を防ぐから、その影響で人間の気配も、察知出来るんだよ」

 思いがけず魔族が気配を感じ取る理屈を知ることが出来ました。

 魔族はそういうものと思い込んでいたので、気にしていませんでしたが、こんな方法では、知っていたとしても、防げません。

「つまり、他の魔族は、私達の位置を把握し続けられるんですね」

「んー、訓練してないと、そこまでわからないけど、訓練して、一度会ったことのある相手なら、個人差はあるけど、結構広範囲でわかるよ」

 命素の鎌が、命素を斬ることで、魔法を破壊するのであれば、魔素だけで構築される魔法を使うだけです。

 私は、右手に短剣を持ち、準備を開始しました。

「そうですか。『フレアアロー』」

 魔法陣を描き、魔法を発動させました。

 いくつもの炎の矢が精製され、様々な軌道でフィーアへと向かいます。

「ちゃんと対処してくるとは、やっぱり凄いね」

 けれど、軽い身のこなしで全ての矢を避けられてしまいました。

「でも、その動きは、隙だらけだ」

 フォルテが好機と読んだのか、かなりの大振りですが、空中で身動きの取れない相手へと長剣を振るいます。

「『エアマリオネット』」

 フィーアが風を纏い、その動きに変化が生じました。それは、フォルテの長剣をやり過ごし、手にしている鎌を振るいました。

 フォルテは、後ろへと大きく飛びますが、胸元が少し切れています。

「その鎌が普通の鎌で良かったよ」

 どうやら掠っただけのようです。もし、命素の鎌であれば、強化魔法を破壊されますし、人間にどんな影響を与えるかわかりません。

 それにしても、今の魔法が、命素の鎌を操っている魔法でしょう。

「ねぇねぇ、お姉ちゃん、殺しちゃう前に、確認したいんだけど、お姉ちゃんって、混血だよね」

「え?」

 一体何を言っているんでしょうか。混血というのは、人間と魔族の間に生まれる子供のことです。

 数はそんなにいませんが、どこかにはいると言われています。

 けれど、私は人間です。人間である師匠からフィーネを継いだのですから、私が魔族であるはずがありません。

 気付けば、フォルテも動きを止めています。それだけ、衝撃的な発言でした。

「だって、他の九近衛も言ってたでしょ。不思議な気配だって。混血は、体内にある魔素と命素が馴染んでるから、感知し辛いんだ。そのせいで不思議な気配に感じるんだよ。それに、お姉ちゃんは、角の継承もしてるから、魔素が普通の魔族より色濃くなってるよ」

 もう意味がわかりません。

 きっとこれは、私達を混乱させようとしているに違いありません。

「フォルテ、耳を貸す必要はありません。どうせ、戯言です。『インフェルノ』」

 フィーアの足元から、灼熱の炎が吹き出しました。

 成功するとは思いませんでしたが、難しい魔法である分、強力です。

「危ないなー。そんなのまで扱えるなんて、やっぱり継承してると、違うよね」

 フィーアは空中に浮かんでいます。

 この状態では、フォルテも手を出せないようです。

「大体、角の継承って何ですか!」

「そっか、フィーネって記憶が無いんだっけ。つまり、お姉ちゃんは、混血を否定したいけど、その証拠がないんだ。まぁ、外見は父親の種族になっちゃうから、混血の見た目は証拠にならないしね。でも、特別に教えてあげるよ。角の継承ってのはね、生きている母親の角を切り落として、その力を取り込むことだよ。そもそも、角は女の魔族にしか生えないし、生きてる時に切り落とされた角は、凄い力を持ってるからね。そかから力を継承出来るのは、血を引いてる子供だけだけどね」

 そもそも私は、魔族の角に触ったことなど……。

 そう考えた瞬間、ある光景が、頭をよぎり、私は、膝から崩れ落ちました。

「帝国の、北の村で……、角を、拾った……」

 あの時拾った角は、何故かとても懐かしい感じがしました。

 けれど、村長に渡すときには、懐かしい感じも消えていました。

「角の継承に関しては、覚えがあるんだね。角の継承を終えた混血か、珍しいね。つまり、お姉ちゃんを殺せば、僕を子供だって馬鹿にする奴は、いなくなるよね」

 私が、魔族の血を引いている。

 それは、師匠を殺した奴と同じ魔族だということ。

 私が、魔族。

 それは、師匠を殺した奴らと同じということ。

 そんなこと、そんなこと、そんなこと。

「わた、しが、まぞ、く?」

「そうだよ。お姉ちゃんは、半分魔族なんだよ。だから、僕達の魔法も、そんなに上手く使えるんだよ。だって、魔族には、魔素に対する圧倒的な適正があるんだから」

「フォル、テ、嘘、ですよね。私が、魔族、なわけ、ありません、よね」

「当たり前だ、自分の姿を見てみろ。どっからどう見ても、人間だ」

「です、よね。私が――」

「だーかーらー、混血なんだから、そんなの当てにならないって。もういいや。疑問も解決したし、二人共、殺しちゃうよ」

 フィーアが、命素の、鎌を、操り、私へ向けて、飛ばし、てきます

「カノン、避けろ」

 咄嗟に、杖と短剣で、鎌を、弾きま、した。

「お兄ちゃんは、こっちの鎌だよ」

「どうせ普通の鎌だろ」

「そうだよ。でも、アダマンタイトの鎌だから、油断しないでね。殺したいけど、手応えないのは、嫌だから」

 フォルテが、打ち合う、音が、聞こえますが、今の、私には、こちらの、鎌を防ぐ、のが、手一杯です。

 私は、ただ、飛んで、くる鎌に、対応、するだ、け、です。

 ただ、反射的に、ただ、受動的に。

 段々と、意識が遠のいて来ました。

 師匠は、私を育ててくれました。師匠と一緒に旅をし、師匠に魔法を教わっていました。

 私が魔族だということを、師匠は知らなかったはずです。

 知っていれば、私はどうなっていたか。

 魔族の血を引いている私を守るために、師匠は死んだんです。

 私がいなければ、師匠は死なずにすんだのに……。

「カノン!」

 誰かが、私を押し倒すようにぶつかってきました。

 今の私は、ただされるがままになっているようです。

「お兄ちゃん強いね。僕、楽しいよ。しかも、そんな状態のお姉ちゃんを抱えて、僕の攻撃を避けられるなんて、凄いね」

「フォル……テ?」

「カノン、しっかりしろ」

「だって、私がいなければ、師匠は……」

「フィーネさんが、そんなこと望んでたのか! フィーネさんは、カノンを守ったんだ。カノンに託したんだろ」

 師匠は、まだ教えたいことがあったと言っていました。

 それは、まだ一緒にいたかったというとこだと思います。

 師匠が、本当に思っていたかはわかりません。でも、私は、そう思いたいです。

「師匠は、私のことを許してくれますか?」

「そもそも、恨んでもないはずだ」

「そうかな? 一緒にいたかったっていうのは、お姉ちゃんが、人間だと思ってたからでしょ。混血なら、一緒にいたかったって思うのかな?」

「お前は黙ってろ」

 やはり、師匠が私と一緒にいたかったと思うのは、ただの願望なのでしょうか。

「黙れっていうのは、図星だからじゃないの? だって、僕達魔族と、お兄ちゃん達人間は、敵なんだよ。だから今、こうして殺し合ってるんだから」

「だからって、最初の村の村長や、モデラートは俺達に良くしてくれた。敵とか、味方とか関係なくだ」

「村長は知らないけど、モデラートって、あの村にいる混血だよね。よく考えれば、後で感謝しないとな。だって、あの混血を知ってたから、お姉ちゃんが混血だってわかったんだもん。きっと、あの混血も、お姉ちゃんが混血ってわかったから、優しく、いや、下心で親切にしたんじゃないの? だって、未だに混血を忌み嫌う老害が多いから、寂しかったろうし」

「モデラートは、俺達に対して、そんなことは言わなかった。言う必要がなかったから。誰かに優しくするのに、理由なんていらないからだ」

 誰かに、優しくするのに、理由はいらない。

 フォルテの言葉が、耳の奥で鳴り響いています。

 私は、ただ師匠から嫌われる理由を想像していました。ですが、それもただの想像です。

 師匠の心の中は、師匠にしかわかりません。けれども師匠の行動を見れば、理解することは出来たはずです。

「私、一体何やってるんですかね。相手の言葉を真に受けて、勝手に想像して、勝手に落ち込んで。私は、私です。たとえ混血であろうと、私であることには変わりません」

 本当に、馬鹿みたいです。

 私は、師匠の仇を取ると決めたのですから、そのために使えるものであれば、何でも使います。

「あらら、揺さぶりすぎて開き直っちゃった。ここの駆け引きが、ドライさんに及ばないところなんだよね」

「フォルテ、今は、フィーアを何とかしましょう」

「ああ、行くぞ」

 フォルテが、全力でフィーアへと向かっていきます。

 けれど、フィーアも、手にした鎌でフォルテの攻撃を受け流しています。

 そして、私には、命素の鎌が襲ってきます。

 それは、先ほどと同じであり、予想通りの行動です。

 だからこそ、私は、右手に持つ短剣につけた核石に意識を集中します。

「『アブソリュートブレイド』」

 足元に魔法陣を描き、魔法の名前を唱えました。

 黒い影のような刃が、いくつも浮かび上がってきました。

 この魔法は、師匠が見せてくれて、私がよく使うようになった魔法と同じものです。

 但し、今は命素を使わず、魔素だけで構築されています。

「そんなんでどうするのかな?」

「この魔法は、斬るためだけの魔法です。なら、やることは一つです」

 いくつもの刃が、命素の鎌へと向かっていきます。

 本当なら、この技術を持ち帰りたいですが、今はそんなことを言っている場合ではありません。

 回転しながら飛んでくる命素の鎌を、いくつもの黒い刃が、斬り刻みました。

 刃を失い、細切れになった鎌だったものに、脅威を感じることはありません。

「なるほどね、人間の魔法だと、命素を含むから、鎌によって破壊される。でも、その魔法なら、命素の鎌を壊せるのか」

「フィーア、大人しくしてください。投降するのであれば、命までは奪いません」

「何言ってんの。僕達は、敵同士だよ。なら、どちらかが死ぬまで、殺しあうしかないんだよ」

 フィーアは、一体どんな生活を送っていたのでしょうか。

 彼女の年齢が見た目通りだとして、人間の子供がこんなことを言うところを見たことがありません。

「フィーア、投降するんだ」

 フォルテも、フィーアの鎌を防ぎながら説得しようとしています。

 ただ、彼女の心を動かすための材料が私達にはありません。

「だーかーらー、無駄だよ。だって、僕は、戦うことが、存在する理由なんだから」

 フィーアの動きがより一層早くなりました。

 命素の鎌が無くなったとはいえ、その実力は健在のようです。

 それに、フィーアの動きが今まで見た誰とも違うので、動きの予測が出来ず、魔法による援護が出来ません。

「それにさ、お兄ちゃん達は、いい人だと思うよ。でもね、他の人間がいい人だって、何で言い切れるの? お姉ちゃんはお姉ちゃん、お兄ちゃんはお兄ちゃんなんでしょ。なら、他の人は他の人だよ。それに、相手が子供だから情けをかけるなんて、傲慢だし、屈辱だよ」

 何を言ってもフィーアには届かない。

 私は、それを悟りました。

 そもそも、会ったばかりの相手です。

 そんな相手からの言葉で、自分の価値観を変えるはずがありません。

「倒すしか、無いんですね」

「ああ、フィーアは強い。俺達には、生かして捕まえるなんて、出来ない」

 私は、魔族を殺したことがあります。けれど、それはいつも、何か冷たく暗いものに支配されていました。

 今は、何かに任せるのではなく、自分の意思で行わなければいけません。

「フォルテ、少し時間を下さい。覚悟を決めます」

 私は、自らを振り返りました。

 師匠からは、自分達に対して、敵意を持っている相手である以上、一切の手加減をするなと言われてきました。

 それは、自分だけでなく、一緒にいる人も危険にさらすからだそうです。

 師匠との旅で、野盗に襲われることもありました。けれど、その全てを返り討ちにしています。

 確実にとどめを刺したことも、生死の確認が出来ない状態にしたこともあります。

 今更、相手の見た目が幼いからと言って、手心を加えようなどというのは、ただの偽善です。

 ならば、やることは一つです。

 私は、右手の短剣を鞘に収め、両手で杖を持って詠唱を始めました。

 それは、私だけの詠唱。

 とても長いですが、それだけ強力な魔法の詠唱です。

 耳に届く二人の打ち合う音が変化し始めました。

 一方からは焦りを、もう一方からは強い意志を感じました。

 そして、杖を回し、地面へと突き刺し、魔法の名前を唱えました。

「『灼風(しゃくふう)』」

 フィーアを包んでいる風が乾燥し、燃えやすく変化しました。フィーアがそれを感じ取るや否や、小さな火種が生まれ、一気に燃え上がりました。

 その炎によって生まれた熱は、離れた位置にいる私のところまで届きました。

 そして、炎が消えると、そこには、焼けただれた鎌が、残っています。ただ、魔法により熱されているので、本来の黒から、赤く変化しています。

「相変わらず、凄い炎だな」

「これは、そういう魔法ですから」

 フォルテは、私の声を聞いて、魔法が発動する直前にフィーアから離れていました。

 この魔法自体、そんなに使っていないのですが、フォルテは私の呼吸を覚えているようです。

 私は、フィーアがいた場所を見つめ続けました。

 なんと、鎌の他に、黒い人影が見えました。

「ぐふ、ふ、すご……いね、でも、まだ、だよ」

 フィーアがまだ生きていました。あの魔法で倒しきれないとは、どれだけの相手なのでしょうか。

「フィーア、諦めてくれないか?」

「言った、はず、だよ。情け、は、傲慢で、屈辱だよ」

 フィーアが高温になっている鎌を掴みました。その熱のせいで、手が焦げる音と臭いが広がっていきます。

「わかった。カノンは手を出さないでくれ」

 フォルテが一人でフィーアと向かい合いました。

 手を出すな、そう言われたので、私は、少し下がり、その様子を見守ります。

 二人が同時に動きました。けれど、細かい傷があるとはいえ、万全に近いフォルテと、満身創痍で、動けるのも不思議なフィーアでは、結果は歴然です。

 フォルテがフィーアを両断しました。そして、そのままフィーアが崩れ落ち、この勝負に決着が着きました。

「カノン、行こう」

「あ、はい」

 私達がずっとここにいるわけにいかないのは、わかっています。

 ただ、視界の隅に何かが入りました。

「どうした?」

「いえ、これ、持って行きませんか?」

「それって、命素の鎌の破片か?」

 そうです。私が斬り刻んだ鎌です。

 ただ、私が混血だと聞かされた影響か、無意識に感知していた魔素をより感知しやすくなったようです。

 その証拠に、先程は何も感じなかったこの破片ですが、染み込んでいる魔素に既視感を覚えるほどです。

「上手く説明出来ないんですが、この破片の奥底にある魔素が、何か訴えかけている感じがするんです」

「まぁ、カノンが持って行きたいっていうんなら、止めないよ。ただし、怪我はするなよ」

「はい、もちろんです」

 私は、いくつかの命素の鎌の破片を丁寧に包むと、荷物の中にしまいました。

「さ、行こうぜ」

 私達は、並んで歩き始めました。

 ただ、私は歩きながら考え事をしています。

 混血が、人間と魔族の特性をどの程度持っているのかはわかりません。けれど、魔素を知覚することに関しては、無意識の内に出来ていました。

 今までの旅で、魔族の気配を感じ取っていたのは、これが理由のはずです。ただ、身体能力に関しては、魔族としての特性というよりは、鍛えたことによる範囲だと思います。そこまで人としての常識の外にいるとは思えませんから。




こんばんは

きっと何かあると気付かれていたに違いない設定の一つがやっと公言されました。
実は、〇〇は、☓☓だったのだ!
王道だと言っている以上、入れておきたい要素です。

それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからも、お付き合いいただけると、幸いです。
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