魔法使いと勇者と竜の国   作:enz

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魔族の事情

 私とフォルテは、魔族の国の上空をブラッキーに乗って飛んでいます。

 ブラッキーに乗る前にボイスから貰った地図を確認しましたが、立ち寄って欲しい場所というのは、辺境の地がほとんどです。

 数が多いわけではありませんが、道がほぼ固定されてしまいます。

 この地図と先ほどのフィーアの言葉を合わせて考えると、私が混血だという可能性に気付いており、偏見を持った魔族が少ない場所を選んだのかもしれません。

 とはいえ、他にも戦争の跡を見せたかったということも考えられるので、断言は出来ません。

 ただ、地図によれば、次の街は、どちらかと言えば大きな方です。

 そして、会って欲しい魔族がいる。そう書き記してありました。

「カノン、見えてきたぞ」

 フォルテの声が聞こえ、後ろから首を伸ばし正面を見ると、予想よりも大きな街が見えます。

 こんな大きな街に入って大丈夫なのでしょうか。

 ブラッキーが街から離れた場所に降りたので、私達はそこから歩くことになりました。

「会って欲しい魔族って、誰なんですかね」

「アインだとしたら、そう書くだろうしな」

 考えても埒が明かないので、とりあえず街へ入ることにしました。

 ただ、誰と何処で会うのか、それが書かれていないので、入った後の行動の指針がありません。

 私達が街へ入ると、やはり目立ちます。

 ですが、今までの町や村と違い、明らかな敵意を感じます。

「フォルテ=グレイス様と、フィーネ=カノン=グリード様ですね」

 突如、背後から声が聞こえました。

 私達が振り向くと、女性の魔族が立っていました。

 ただ、目の前にいるにもかかわらず、一切の気配を感じません。

「私は、フュンフと申します。ボイス様の指示で、お二人を待っていました」

 まさか、九近衛(ここのえ)の一人が待っているとは思いませんでした。

 それに、ボイスはフュンフにも会ったことがないと言っていたはずですが、会えるようになったのでしょうか。

「私達に、どんな用があるんですか?」

「私は、ただの案内役です。それ以外をすることは出来ません。着いて来て下さいますね」

 一応は確認をしているようですが、拒否させないという意志を感じます。

「俺達を待ってる相手がいるんだもんな。なら、行くしか無いな」

 こうして、私達は、フュンフに着いて行くことになりました。

 ただ、頬下にも気になることがあります。

「ボイスやノインさんは、貴女のことを知らないって言ってました。それなのに、何で貴女が出てくるんですか?」

 今聞かないと、聞く機会が無いと思い、聞いてみました。

「私達九近衛は、魔王であるノイズ様の部下です。ボイス様がノイズ様の息子であっても、私達に対する命令権はありません。そして、ノイズ様が会うなといえば、私は全力で隠れ続けます。ただ、ボイス様も、私に会うために相当の対価を払ったと聞いています。私は、その行動に対して敬意をはらったに過ぎません」

 つまり、九近衛の中において中立であっても、魔王ノイズの部下には変わりないということですか。

 それにしても、ボイスは何をしたのでしょうか。

 そんなことを考えていると、街外れながらも、堅牢な建物に到着しました。

 その中で、弱々しい雰囲気の小柄な魔族が待っていました。

「フュンフ、何処に行ってたの?」

「ヘルツ様、ボイス様の話にあったお客様です」

 この弱々しい雰囲気を持つ魔族が、あのノイズの息子で、ボイスの弟のようです。

「俺は、フォルテだ」

「私はフィーネです」

 私達は簡単に自己紹介をしました。

 それにしても、魔王ノイズは見たことありませんが、筋肉の鎧を身に纏ったボイスと違い、軟弱そうです。

「僕は、ヘルツ。兄様から聞いていると思うけど、魔法であるノイズの息子だ。それで、何のようなの?」

「俺達は、ただ会って欲しいやつがいるって言われて来たんだ」

「そう……、なら、説得に来たんじゃないの?」

「説得?」

 そういえば、ボイスは今回の計画について話していないと言っていました。けれど、この反応から察するに、もう知っていて、協力するか迷っているということでしょうか。

「兄様の計画だよ。父様を殺して、僕を次の魔王にしようっていう。僕達は、しばらく会えなかったけど、最近、会いに来てくれたんだ。そしたら、そんな計画に協力しろって言ってきて……」

 久しぶりに会えたら、父親を殺す計画に協力しろ、そう言われたわけですか。家族というのはわかりませんが、大切な人を失った時の気持ちはわかります。なら、そうやすやすとは協力できませんね。

 ですが、私達は、私達のために説得しなければいけません。

「ヘルツさん、貴女は、今、魔族がどういう状況にいるか、理解していますか?」

「聞いてるよ。冥竜王マガツヒが、今の魔族を見限ったんでしょ。だから、アイン達は、決着をつけようと焦って、ツヴァイが死んだんだ。兄様はマガツヒを殺そうとしてるけど、相手は竜王だよ。勝てるわけがない」

 今、聞き捨てならないことを聞いた気がします。

「ちょっと待って下さい。今、何て言いましたか?」

「え? 竜王に勝てるわけがないって」

「いえ、その前です」

「アイン達が、決着をつけようと焦って、ツヴァイが死んだって」

「それです。一体何があったんですか」

 ツヴァイが死んだことに不都合があるのではなく、何故そんなことになったのかです。

 デュオさん達が、陽動をすると言っていましたが、そこで九近衛と戦ったのでしょうか。

「多分想像通りだと思うけど、ドラグニア王国とドラムス帝国の混成部隊が、魔王軍の隙を突いて攻め込んできたんだ。その迎撃のために、アイン達三将軍が軍を率いて迎え撃ったんだ。でも、デュオ=グレイスとディープ=ベースを相手にして、無事にいられるはずがない」

 簡単に話を聞いただけでも、壮絶な戦いだったと思います。

 それにしても、ツヴァイが死んだ。つまり、残る九近衛は、アイン、ドライ、フュンフ、ノインさんの四人だけです。

 ただ、ノインさんとフュンフに関しては、戦う理由がありません。

 ならば、アインとドライ、この二人が倒すべき相手です。

「そうですか。そんなことが会ったんですね。それで、貴方は、今の状況をどうしたいんですか?」

「どうしたいって言われても、僕には何も出来ない。父様みたいに人間と戦うための力もないし、兄様のように父様と戦うことも出来ない。僕には、どうしょうもないんだ」

 何でしょうか、この甘ったれは。

「つまり、自分では何もせず、どちらかが事を終わらせてくれるのをただじっと待つということですか」

「そんなつもりは……」

「そんなつもりなくても、そういうことです。貴方は選べるんです。今私達を殺せば、魔王を倒す手段は大きく限られます。逆に、ボイスにつけば、今の魔族を存続させる手伝いが出来ます。でも、そのどちらも選ぼうとしない。それは、ただ逃げてるだけです」

 少し熱くなってしまいました。

 ヘルツをよく見てみれば、俯き、小さく何かをつぶやいています。

 ただ、その言葉は、私達には届きません。

「なぁヘルツ、お前はどうしたいんだ?」

 フォルテの言葉にヘルツは顔を上げました。

 責めた私と違い、優しい言葉をかけたのですから、当然のことですね。

「僕は、ただ、静かに暮らせれば、それでよかったんだ。父様は傷が癒えるまで大人しくするって言ってたのに、あんな状態で動き出すし、兄様は、ほとんど顔も見せなかったし、久しぶりに会えたら、あんなこと言うし」

 何だか話が振り出しに戻った気がします。

 それにしもて、魔王は傷が癒えていないのですか……。

「でも、ノイズもボイスも、魔族のために歩き出したんだろ。確かに、方法は違う。でも、最終的な目的は同じだ。どちらかに協力出来ないなら、自分だけの道を見つければいいさ」

 口で言うのは簡単です。

 でも、その道を見つけるのがどれだけ大変なことか、フォルテはわかっているのでしょうか。

「他の道……、僕にも出来るかな?」

「俺は、お前のことを知らない。だから、俺の言葉は気休めにしかならない。だったら、お前と一緒にいた人に、聞いてみろよ」

 フォルテが明言を避けました。

 卑怯な気もしますが、本当のことです。

 私達とヘルツは、今日始めて会ったのですから、何が出来るかなんて、わかるわけがありません。

「フュンフ、僕にも、出来るかな?」

「ヘルツ様が、どんな道を選ぶか、それによります。ただ、どんな道を選ばれても、私は付いて行きます」

 そういえば、ヘルツとフュンフはどういった関係なのでしょうか。

 ボイスとノインさんは、上司と部下という関係に見えました。

 そのそも、ボイスが会えなかったフュンフが、ヘルツと一緒にいるというのも疑問です。

 この辺りは、魔族側の込み入った事情があるかもしれませんし、罠という可能性もあります。

 ただ、このヘルツを見ていると、私達を騙せるとは思えません。

「なら、僕は二人を説得するよ。二人の目的が同じなら、協力出来るはずだから」

 どうやら、決心したようです。

 ですが、ボイスの目的は、私達にヘルツを説得させようというものだと思います。

 結果的にその目的は果たせなかったわけですが、そもそもちゃんとした説明をしなかったのですから、文句を言われる筋合いはありませんね。

 もしかしたら、ヘルツ自身に決めさせたかったのかもしれません。

「ところで、二人はこれからどうするの?」

「ああ、ボイスがよって欲しいって場所が何箇所かあるから、そこへ行かないといけないんだ」

「そうか、なら、僕とは違う道を行くことになると思うけど、幸運を祈ってるよって言いたいけど、今日は泊まっていくといいよ」

 私達は顔を見合わせました。

 もう少し先へ進もうと思っていたので、思いがけない申し出です。

 けれど、せっかくですし、今日はここまでにしました。

「それでは、お世話になります」

「それじゃあ、まだ日があるから、街を案内するよ」

 こうして、私達は街を見て回るために、この堅牢な建物を出ました。

「さて、本当に余計なことをしてくれますね」

 私は、この声に聞き覚えがあります。

 目の前には、薄い緑色の肌をした魔族が立ちふさがっていました。

「ドライ」

「ヘルツ様、進む先を決められたようですね」

 無視されました。まぁ、ドライとは敵同士なので、親しげにされてもこまりますが。

 隣ではフォルテも警戒しています。

「僕は、父様と兄様の中を取り持つよ。彼女達が背中を押してくれたから、決めたんだ。魔族と人間との共存を目指す」

 私は、責め立てただけなのですが、ヘルツの中では背中を押したことになっているようです。

 言葉を相手がどのように取るのかわからない物です。

「そうですか、共存を目指しますが。ならば、ノイズ様とボイス様の間を取り持つことは不可能です。魔王が存命であれば、マガツヒの元へは向かえませんから。お二人が手を取り合う道は、人間を滅ぼすことだけですが、ボイス様がその道を選ぶとは思えません」

 ヘルツは唖然としています。とはいえ、それは私達もです。

 魔王が存命であれば、マガツヒの元へは向かえない。それは、今の魔王を殺す必要があるということです。

 確かに、ドライの言うことが本当であれば、ノイズとボイスの間を取り持つことは不可能でしょう。

「でも、何か方法があるはずだよ」

「ありません。そもそも、ボイス様が、他の方法を探さずに決起すると思いますか?」

「そん……な」

 ヘルツが崩れ落ちました。

 せっかく決意したのに、その決意が無駄になったのです。

「ヘルツ様、そこで大人しくしていて下さい。私は、そこの二人に用事があります」

 そう言うと、ドライが私達の方を見ました。

「二人にノイズ様の元へ行かせるわけにはいきません。ここで死んでもらいます『ウィンドスライサー』」

 瞬間的に魔法が発動しました。

 私達は咄嗟に回避し、体勢を立て直そうとしますが、距離が近すぎるため、上手く行きません。

 しかも、フォルテと離れてしまいました。

 フォルテは、竜痕の力を纏い、オリハルコンの長剣を抜いています。

 私も、杖と短剣を抜き、臨戦態勢です。

 長い詠唱をする余裕がないので、『風の調(かぜのしらべ)』も『戦いの調(たたかいのしらべ)』も詠唱する余裕がありません。

 短縮詠唱の準備はしてありますが、相手は魔法を得意とし、参謀将軍のドライです。詠唱させてくれるとは思えません。

「カノン、俺が牽制する。攻撃は任せたぞ」

 ドライに魔法を使う暇を与えないように連撃を繰り出しているフォルテに任せられてしまいました。

 しかも、強化魔法ではなく、攻撃を頼まれました。

 なら、その期待には答える必要があります。

 念のため、横目でヘルツとフュンフを見ましたが、ヘルツは崩れ落ちたままで、フュンフが支えています。

 こちらに関わろうとしていないので、一先ずは安心です。

 これなら、ドライに集中出来ます。

「『サンダー』」

 魔法陣を描き、雷撃を見舞いました。

 光の速さで短い距離を一気に詰めましたが、フォルテを迂回する軌道で、ドライへ襲いかかります。

 轟音が弾け、ドライから焦げ臭い臭いが漂ってきます。

 ただ、雷撃を受けながらも、ドライの目は死んでいません。

「邪魔ですね。『フレアシュート』」

「させるか!」

 ドライが魔法陣を描ききったその瞬間、フォルテが魔法陣を斬りました。

 思い起こせば、帝国の遺跡でゴーレムと戦った時に、同じことをしていました。

 ドライは、魔法陣を破壊され、驚いています。

「『フレアランス』」

 私は、ドライが驚いている隙に、いくつもの炎の槍を作り出しました。

 それが、ドライへと突き刺さると、ドライが唸り声をあげています。

 フォルテは、好機と見たのか、さらにたたみかけようとしています。けれど、フォルテが長剣を振り上げた瞬間、後ろから何かに吹き飛ばされました。

「フォルテ!」

「まったく、舐められたものですね。私が幻術を使えないとでも思ったのですか?」

 どうやら、姿を隠して杖で殴りつけたようです。

 ただ、私達よりも膂力に優れているとはいえ、魔法を得意とするドライは、そこまでの力を持っていないようです。

「くそ、手応えもあったのに」

 私も、何度かフォルテの長剣がドライを捕える瞬間を見ていました。

 時には血飛沫が舞っていたので、全く疑いの余地がありませんでした。

 一体いつの間に入れ替わったのでしょうか。

「私は、これでも三将軍と呼ばれる魔族です。貴方方が生まれる遥か前から戦っているのですから、貴方方が勝てるはずがありません」

 フォルテは、体勢を整え、ドライ目掛けて長剣を振るいました。けれど、その長剣がドライを捕えた瞬間、まったく同じようにフォルテが吹き飛ばされました。

「くそ、どうすればいいんだ」

 フォルテの位置が幻術によって帰られていた場合、下手に魔法を使ってしまうと、フォルテを撃ってしまう可能性があるため、迂闊に手出し出来ません。

 魔族の国に入ってから、魔族の気配を察知しづらくなっているので、無意識下の感覚では、使い物になりません。

 意識的に気配を探るには、かなりの集中が必要です。

「フォルテ、私が何とかします。時間を稼いで下さい」

 私はフォルテの返事を聞かずに、目を閉じ意識を集中しました。

 どうせ幻術に惑わされるのであれば、目を開いていても変わりません。

 今は、無意識下で行っていた魔素の感知を意識して行うだけです。

 フォルテの声が薄っすらと聞こえます。ただ、同じように何度も吹き飛ばされているようです。

 このままでは、もたないかもしれません。ですが、焦ってしまえば、集中できなくなっていまいます。

 今は、フォルテを信じます。

 近くには、異なる魔素の気配が四つあります。その中でも、色濃い気配の中で、寄り添うように存在する二つの気配が、ヘルツとフュンフだとすると、もう一つの色濃い気配が、ドライです。

 薄っすらとした魔素の気配は、竜痕の力を纏ったフォルテでしょう。

 体の中の命素が、魔素を弾いているので、魔素が体の奥底までは入り込んでいません。

 ただ、魔族の持つ魔素には、妙な違和感を覚えます。

 混血の私とは違い、少し歪な気配です。

 これが何を意味するのか、今の私にはわかりません。

 ですが、ドライの位置はわかりました。

「そこです。『サンダーブレット』」

 電撃の弾丸を見た目上は何もない場所に撃ち込みました。

 けれど、電撃の弾丸が命中し、そこに、ドライが現れました。

「何故だ」

「教えるわけありませんよ」

 私がドライの気を引いていると、その隙にフォルテが長剣を振るいました。

 けれど、直前に気付かれ、掠っただけのようです。

 ドライは私が混血だということを知らないので、私が魔素を感知出来ることも知りません。可能性の一つとして推測しているとは思いますが、普通に考えれば、暴論です。

 特に、私の外見は人間そのものですから。

「カノン、今もドライはあそこにいるのか?」

「はい、幻術は使っていないようです」

 私は、杖をしまい、短剣だけを手にしています。

 詠唱する余裕がありませんし、魔素の感知を継続しながら詠唱する自信がありません。

「幻術を使ったら教えてくれ。俺は、全力で叩く」

 そう言うと、フォルテは駆け出しました。

 ドライは、舌打ちしながらも、フォルテの相手をしています。

 先程は、フォルテがドライの魔法陣を斬ったので、慎重になっているようです。私達は、そもそも幻術がどういった魔法なのか知らないので、私の感知に頼るしかありません。

 けれど、フォルテは、どんな兆候も見逃さないという雰囲気で、ドライを睨みつけています。

 それにしても、意識して気配を探ると、魔族のもつ歪な気配が気になります。

 モデラートさんのような不思議な気配とは違い、魔素が、体の中に収まっているにも関わらず、反発し、追い出されようとしている感じです。

「『ファイアブレット』」

 考え事をしながらも、一瞬の隙を付き、炎の弾丸を撃ち込みました。

 今はまだ幻術を使っている気配がないので、しっかりと効いているようです。

 少しずつ変化を加えながら、何度も攻撃していると、ドライの目に、決意の光が宿りました。

 私の魔法を無視し、フォルテを杖で薙ぎ払いました。

「くそ」

 何とか長剣で防いだようですが、距離を取られてしまいました。

「『アクアウォール』」

 ドライが水の壁を作り出しました。姿が見えなくなるのは厄介です。

「『スパーク』」

 電撃で水の壁を吹き飛ばそうとしたのですが、何故か弾かれてしまいました。

 あの水は、何か特別なのでしょうか。

 同じように魔法を使っていても、ああいった変化を加えられると知れたのは、今後のためになるでしょう。

 水の壁がなくなると、ドライが先程と同じように立っています。けれど、そこからは気配が感じられません。どうやら、幻術を使ったようです。

「フォルテ、気を付けて下さい」

 私は、ドライの気配を探ると、一箇所、色濃い魔素の気配を感じ取りました。

 そして、そこを指差すと、フォルテが一気に距離を詰め、長剣を振るいました。

 その結果、妙な音と共に、フォルテの長剣を杖で防ぐドライが現れました。

 私は、違和感を覚えながらも、魔法を発動させます。

「『ウィンドスライサー』」

 風の刃を生み出し、ドライへと向けます。

 ドライは、フォルテの長剣で杖を抑えられているので、動くに動けないようです。

 けれど、風の刃が、ドライの体をすり抜け、それと同時に、横から物凄い衝撃に襲われました。

「カノン!」

「やはり、魔素の感知が出来るんですね。けれど、それがわかれば、それ相応の対処をするだけです」

 どうやら、気配を誤魔化されたようです。あの一瞬でそんなことが出来るなんて……。

 しかも、頭を殴られたので、体を上手く動かせません。

 起き上がろうとしているのに、腕が震えています。

 ドライが追撃を仕掛けようとしていますが、フォルテが間に入り、抑えています。

 ただ、今幻術を使われると、それを見破ることが出来ません。

 一つわかったことは、幻術を使う場合、姿を隠す必要があるようです。

 これは予想ですが、幻術を使う瞬間を見られると、効き目が薄いのかもしれません。

「フォル、テ、離れ、ないように、して、ください」

 急に左目に激痛が走りました。

 どうやら、垂れてきた血が、少し目に入ったようです。

 右目だけでは、距離感が掴めませんが、しかたありません。

 私は、何とか立ち上がり、次の一手を考えます。

 先程の色濃い魔素の気配は、ドライによって作られた囮です。

 よく考えて見れば、歪な気配ではありませんでした。

 幻術には、姿を隠す魔法と、姿を写し出す魔法、気配を隠す魔法、そして、異なる気配を作り出す魔法があるようです。

 ただ、作り出された気配からは、魔素しか感じ取れませんでした。

 魔族は、魔素を持っているのですから、それでいいのですが、本体と比べると、僅かな違いがあります。

 一つ、気付きました。

 魔族は、魔素の適正を与えられた人間です。なら、その体には、人間の面影があるはずです。

 人間と魔族の間に生まれた私は、魔素と命素が混ざり合っていると言われました。

 それが、不思議な気配の理由だそうです。

 なら、魔族の持つ歪な気配、それは、魔素と命素が反発しているからでしょう。

 マガツヒに与えられた力ですから、今になっても、魔素が馴染んでいない可能性があります。

 人間と魔族の外見が違うのは、魔素の影響によるものだとすれば、説明がつきます。

「フォルテ、これを」

 私は、荷物の中から、布に包んだ物を渡しました。

 フォルテに離れるなと言ったのに、離れる必要が出てしまいましたが、しかたありません。

 フォルテは、私が渡した命素の鎌の破片を見て、首を傾げています。

 私は無言で心臓の位置を叩きました。

 それで理解してくれたのか、フォルテの動きが変わりました。

 私は、フォルテを援護するために魔法を使います。

「『アクアチェーン』」

 水の鎖が、全方向からドライへと襲いかかり、その手足に絡みつきます。

 水で出来ているので、動きを抑える力は弱いですが、破壊されることもありません。

 完全に動きを封じるのではなく、動きを抑えるのが目的です。

 フォルテが、片手で長剣を大きく振りかぶりました。

 それに対し、受け止めようとドライが杖を構えています。

 長剣と杖がぶつかり、激しい音がなりましたが、それも一瞬でした。

 フォルテの長剣が宙を舞っています。

 ドライは、その光景に驚いています。本来であれば、そこから鍔迫り合いになると思っていたのでしょう。私も、そう思っていました。

 けれど、フォルテは自ら長剣を離し、もう片方の手に持った命素の鎌の破片を、硬直しているドライの心臓目掛けて突き刺しました。

「それは」

 どうやら、ドライは、自らの心臓に突き刺さる破片を眺めるのが精一杯のようです。

「おまけだ」

 フォルテは、長剣を持っていた手で、中途半端に突き刺さった破片を殴りつけました。

 表面で止まっていた破片が、奥へと突き進み、心臓に達したようです。

 それと同時に、ドライの体に存在する魔素に変化が生じました。

 魔素が侵入出来なかった体の中心部に対し、ヒビに染みこむように魔素が流れ込んでいます。

 そして、それが全身で同じように起こると、体の表面から、血が吹き出しました。

 断末魔の叫び声が響き渡り、ドライが地に伏しました。

 思ってみれば、少々あっけない気がしました。

「あれが、魔族の命素か……」

 フォルテが何か言っています。けれど、今はそれどころではありません。

「フォルテ、手を見せて下さい」

 私は、命素の鎌の破片を握っていた手を無理やり取り、布を巻こうとしましたが、その途中で驚きました。

 既に血が止まっていました。いや、傷口はあるのですが、血の流れた形跡がありません。

「大丈夫だよ」

 フォルテがそういうと、手を隠されてしまいました。

 そのまま、長剣を回収しに行ってしまいました。

 しかたないので、ヘルツとフュンフに話をするために、二人の元へ歩み寄りました。

「お二人共、私達は魔王ノイズを倒すために、先へ進みます。ドライの言ったことが真実であれば、ノイズとボイスの中を取り持つことは、不可能に近いです。これから、どうしますか?」

 先へ進もうとしているところを後ろから刺されたくはありません。そのために、ヘルツの意見を確認する必要があります。

「僕は、二人の中を何とかしたい。その気持はかわらないよ。だから、現時点で、どちらかに手を貸すことはない。僕は、僕なりに、マガツヒの元へ行く方法を探すよ」

 弱々しい雰囲気を醸し出していたヘルツですが、一本筋が通った気がします。

 目的を定めるだけで、こうもかわるんですね。

「わかりました。私達は、今まで通り、ボイスに協力します。けれど、私達が魔王ノイズを倒す前に、何らかの方法を見つけたら、ヘルツさん、貴方に協力します。そのかわり、貴方が間に合わなかった時は、覚悟を決めて下さい」

「わかったよ」

 後ろでフュンフも頷いています。

 私達がボイスに協力する理由は、人間の側に被害を出さにためです。

 戦力として、魔王がいた方が、マガツヒを倒せる可能性が増えるかもしえません。どちらに転んでも私達は得をするはずです。

 後のことを任せ、二人から離れると、フォルテが話しかけてきました。

「あんまり追い込むなよ」

「追い込んでいるつもりはありませんよ。ただ、覚悟はしておくべきだと言っただけです」

「それもだけど、自分を追い込むなよ。手、震えてるぞ」

 気付きませんでした。でも、私は自分を追い込んでいるつもりはありません。

「さっきも言いましたけど、追い込んでなんかいませんよ」

「それならいいけど、何度でも言うからな。カノンはカノンだ。混血とか、そんなこと、俺は気にしない」

 どうやらフォルテは、私が魔族としての力を使うことで、どうにかなってしまうと思っているようです。

 私は、私の中にある力を認めただけなので、自分を追い込んではいません。

「考え過ぎですよ」

「そっか」

 私達は、ヘルツさんと違う道を行くので、泊めてもらう話は丁重にお断りしました。

 ただ、流石に次の街へ行く気力もなかったので、泊まれる場所を探すことにしました。

 明確な敵である九近衛は、後はアインだけです。

 これで、師匠の仇を取れるはずです。

 




こんにちは

この雰囲気からすると、2章も大詰めです。

それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。
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