魔法使いと勇者と竜の国   作:enz

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魔王ノイズ

 私とフォルテは、魔王の城で一晩過ごしました。

 目を覚ますと、ベットの反対側にはフォルテがいます。

 元々魔族用のベットなので、かなり大きいです。そのため、両端で寝ると、それなりに距離があります。

 私は、静かにベットを抜け出し、身支度をすることにしました。

 フォルテが寝ている間に済ませるためです。

 廊下に出る扉以外にも、浴室などの部屋へ通じる扉がいくつかあり、とりあえず浴室へ向かいました。それにしても、ここまで来てお風呂に入れるとは思ってもいませんでした。

 ゆっくりしていると、フォルテが起きてしまうので、せっかくですが手短に済ませます。

 ただ、流石は城と呼ばれるだけのことはあります。中々に入り心地の良いお風呂でした。

 お風呂から出ると、フォルテはまだ寝ています。

 昨日聞いた朝食の時間までまだ余裕がありますが、早めに起こしておくべきだと思い、顔を覗きこんでいます。

「寝顔は、かわいいですね」

 思わず呟いてしまいました。慌てて周囲を見渡しましたが、誰もいないので、一安心です。

 とりあえず、もう少し見ていましょうか。

 ……目が開いてますね。

「せめてかっこいいって言って欲しいな」

 も、もの凄く、顔が、赤くなって、いるのが、わかります。

 それより、何で、起きて、るん、ですか。

「お、起きてる、なら、そう、言って、下さい」

 私は、フォルテの使っている枕を奪うと、何度も叩きつけています。

 フォルテのせいで、恥ずかいい思いをしてしまいました。

「い、痛い、痛い? 痛くないか、枕だし」

 状況のせいで痛がるそぶりをしていましたが、冷静になって痛くないことに気付いたようです。ですが、私は手を止めません。

「そろそろ落ち着いてくれないか?」

 何度も枕を振り下ろしていたので、フォルテに動きを読まれ、手を掴まれてしまいました。

 純粋な力で勝てるはずもなく、段々とフォルテの顔が近付いて来ます。

「な、落ち着いてくれたか?」

「わ、わかり、ました。落ち、着きます。だから、その、離して、くだ、さい」

 私が手から力を抜くと、フォルテも手を離してくれました。この隙に続けようかと思いましたが、これ以上恥ずかいい思いをしたくないので、諦めました。

「カノンはよく眠れたか?」

「ええ、いいベットですから、よく眠れました」

 フォルテを見ていると、赤くなったのが引かない気がしたので、そっぽを向いて答えています。

 ただ、これ以上は話が続かないので、どうしようか考えていると、扉がノックされました。

「ノインです、お二人共起きていますか?」

「はい、起きてます」

 私が返事をすると、ノインさんが入ってきました。

「朝食をお持ちしました。それと、ノイズ様が、いつ始めるか聞いてくるようにと」

「俺は、いつでもいいぞ。昨日の疲れも残ってないから、本調子を出せる」

「私も、フォルテがいいなら、いつでも大丈夫です」

「では、準備が出来次第、お呼びください」

 それだけ言うと、ノインさんは朝食を置いて下がっていきました。

「フォルテ、私の魔法は通用しない可能性があります。あくまでも、一時的に気を引くことしか出来ないと思うので、フォルテだけが頼りです」

「カノンがいてくれれば、俺は勝てるよ。だから、カノンに出来る方法で、協力してくれ」

「もちろんです」

 そう言いながらも、気がかりなことがあります。

 私は、フォルテに魔法を使えるのでしょうか。

 

 

 

 

 食事を終え、魔王ノイズと戦うために、ノイズが指定した場所へと案内されています。

 そこは、魔王の城の目の前にある荒野です。

「待ちくたびれたぞ。ドラゴニア王国とドラムス帝国の争いを終わらせた英雄よ、魔王の座に君臨する我を倒し、勇者となるか、英雄のまま死すか、その武を持って、先を掴み取るがいい」

 ノイズが勢い良く宣言しています。けれど、私達はちょっと引いています。

「お前達は、通過儀礼や演出という物をわかっていないようだな。まぁいい、俺を楽しませろ」

 そう言うと、ノイズが一気に迫ってきました。

 よく見ると、素手です。

「カノン、『戦いの調(たたかいのしらべ)』を頼む」

 フォルテはそう言うと竜痕の力を纏い、ノイズへと向かって行きました。

 それを確認しながら、私も杖を伸ばし、詠唱に入ります。

 フォルテの長剣と、ノイズの拳が打ち合っています。しかも、刃の部分を平然と殴り飛ばしています。それでいて、手を怪我している様子がないのが驚きです。

「アマツの力か、面白い。人間がどれだけ持つか楽しみだ」

 フォルテの力は、天竜王アマツから人間に与えられた力です。本来の使い方をしていれば、何の問題もなかったはずです。けれど、私がそこに魔法をかけたから、本来の使い方から外れてしまった。

 その考えが頭をよぎった瞬間、私は詠唱を止めてしまいました。

 フォルテに起こった異変と、私の魔法、それらが頭の中を駆け巡ります。

「カノン、どうした、カノン!」

 遠くでフォルテの声が聞こえています。

 ただ、私はその言葉を理解出来てないいようです。

「何だ何だ、フィーネってのは、使い物にならねーのか」

「そんなことない、カノンは、どんな魔法使いよりも、頼りになるんだ」

「だが、現に何も出来ていない。お前は信じているようだが、お前は信じられていないようだな」

「そんなこと……」

 何故、私は安全を確認していない魔法を、平然と使っていたのでしょうか。何故、私はフォルテの異変に気付けなかったのでしょうか。

 何故、何故、何故。

「ああ、興ざめだ。若くてもフィーネだから、期待していたが、無駄なようだな。『剛衝拳(ごうしょうけん)』」

 何か、強い力が向かってきます。

 私は、フォルテを危険に晒してしまった。

 私には、フォルテの隣にいる資格があるのでしょうか……。

「カノン!」

 私は――。

 

 

 

 

 遠くで何かがぶつかる音がします。

 私は、立っていたはずなのに、何かに寄りかかっているようです。しかも、全身が痛いです。

 ぼんやりとした視界の中に、フォルテがいます。フォルテが戦っているのは、大柄の魔族です。

 時折、フォルテがこちらへこようとしていますが、相手の魔族によって遮られています。

 ぼんやりとした頭で、状況を把握しようと辺りを見回します。

 全身傷だらけで、所々血が出ています。

 杖は、左手に持っていますが、ひびが入り、壊れかけています。

 気を失っていたせいか、頭の中がぼやけていて、何故ここにいるのか思い出せません。

 けれど、フォルテが戦っている以上、加勢する必要があります。

 まずは、歌のような詠唱を始めました。

 フォルテの耳に届いたのか、動きに変化が見て取れます。

「カノン、頼むぞ」

「やれやれ、今度こそ、楽しませろよ」

 相手は誰でしたっけ?

 とりあえず、戦っているのですから、敵ですね。

 私の詠唱が終わりそうな頃、フォルテが、相手の魔族を突き放し、こちらへ来ました。

「『戦いの調』」

 私は、フォルテの胸に手を当て、魔法を発動させました。

 そして、いつものように、白い縁を持った黒い鱗の鎧をフォルテが纏っているように見えます。

「それじゃあ、行ってくる」

 フォルテはそう言い残し、また魔族へと向かっていきます。

 見ている限り、二人の間に割って入ることは出来ないので、魔法で弾幕を張らず、要所要所で隙を作るように魔法を使いたいと思います。

 そのため、右手に短剣を持ち、そこに仕込んである核石に意識を集中します。とはいえ、すぐに魔法を使うわけにはいきません。しっかりと観察し、頃合いを計ります。

 それにしても、こうして改めてみると、異様な光景です。

 フォルテの長剣を、拳で打ち返したり、両腕で受け止めたりしています。

 普通であれば、斬り落とされてしまうはずが、ここから見る限り、無傷です。

 そして何より、魔法で介入する隙がありません。

 突然、フォルテの見た目に変化が生じました。

 フォルテが纏っている鎧が、フォルテの中に溶けこむように消えると、フォルテの肌に直接竜の鱗が出現しました。

 そして、それを皮切りに、フォルテの動きが数段とよくなっています。

「何だお前、そんなもん隠してたのか」

「隠してたつもりはない。ちょっと使うのが難しいだけだ」

 そんなフォルテの姿を見た瞬間、ぼやけていた頭がはっきりとしました。

 私は、フォルテに『戦いの調』を使うことをためらっていたはずなのに、何の躊躇いもなく使ってしまいました。

「ところで、あの嬢ちゃんは何だ? さっきから落ち込んだり、立ち直ったり、落ち込んだり、一人で忙しいやつだ」

「カノンは優しいんだよ。俺のことを心配しすぎて、一人で考えこじゃうくらいにな」

 優しいのはフォルテです。

 フォルテの体があんなことになっているのに、私に恨み事一つ言わず、私のことを考えてくれているのですから。

 私は、今まであったことをずっと誤魔化してきました。

 フォルテやメゾ、そして、私自身のことをです。

 けれど、誤魔化して、誤魔化されてきたのですから、それがもう少し長引いても、同じことだと思うようにします。

 フォルテが、それを望んでいるのですから。

「――――――――――『戦いの調』」

 しっかりと詠唱した魔法と比べると、かなり荒っぽい状態で発動しますが、細かい操作が出来るほど使っているわけではないので、問題はありません。

 身体能力を無理やり向上させ、二人の隙を無理やり突きます。

 ただ、この魔法は身体強化なので、魔法に影響はありません。なので、一気に駆け出し、フォルテの視界に入るようにしながら、ノイズへ向けて右手に持った短剣を突き出します。

「とんだ嬢ちゃんだ」

「褒め言葉として、受け取っておきます」

 ノイズの体に傷をつけることは出来ませんでしたが、矛先を私に向けさせることで、フォルテにとって大きな隙を作ることが出来ました。

 ただ、その代償として、私は目の前に映るノイズの腕によって振り払われることになるでしょう。

 私が痛い思いをするだけで、ノイズを倒せるのであれば、安いものです。

 私は、迫り来る腕に対して覚悟を決めるため、目をつむり、歯を食いしばって衝撃を待ちました。けれど、それはいつまでもやってきません。

 それどころか、暖かい手に抱かれ、後ろに飛ぶ感覚がありました。

 私は、恐る恐る目を開け、周囲を確認すると、離れた位置にノイズが立っており、側にはフォルテがいました。

「どうして……」

「強化魔法を使ってるからって、あの一撃は耐えられないだろ、ほら」

 そういいながら、フォルテはオリハルコンの長剣を見せてきました。

 よく見ると、少し刃こぼれしています。

「これが、ノイズと戦った結果だ。今の状態の俺なら、何発かは耐えられるけど、カノンじゃ絶対無理だ」

「また、足を引っ張ってしまったんですね」

「そんなことないよ。カノンのお陰で一つ気付いたことがあるから」

 こんな会話をしていても、ノイズは向かってきません。どうやら、私達を倒すよりも、私達と戦うことに意義を感じているようです。

「なぁノイズ、その怪我でよく動けるな」

 怪我ですか。

 ノイズの体を見る限り、傷跡は沢山あります。けれど、今怪我をしているという様子はありません。

「ほう、気付いたのか」

「ときどき妙な動きをするし、命素がボロボロだぞ」

 確かに魔族にも命素はありますが、私はそれを正確には感知出来ていません。ドライと戦った時は、そこにあるということがわかればよかったので、その状態まで確認出来る必要はなかったという理由もあります。

「人間は命素を操るから、感知出来るのも納得がいくな。せっかくだ、教えてやる。この傷のほとんどは、30年前の大戦の時に付いたものだ。見かけは治っているが、体の奥にはまだ傷が残っている。まぁ、治らないけどな」

 確かに、30年前の大戦で、魔王は重症を負ったと聞いています。けれど、それが未だに治らないとは。

 私は、ノイズの体にある魔素と、魔法を使う時の要領で命素にも意識を集中します。

 確かに、体の中心に命素が流れ、その周りを魔素が覆っています。ただ、命素にヒビが入っており、魔素が暴れているようです。

「そんな状態で、あそこまで戦えるんですか」

「こんな状態だからこそ、戦いの中で命を感じるんだよ。俺の体は、魔素に侵されている。魔素への適正があろうとも、あくまでも適正だ、耐性じゃない。そして、今の俺は、明日をも知れぬ状態だ。なら、戦いの中で死にたい。そう思うのは、普通のことだ」

 獣が魔素に侵されると、魔獣になります。けれど、魔族が魔素に侵されると、死ぬ。それが、事実かはわかりません。けれど、ノイズが嘘をついているようには見えません。

 それは、ノイズの体にある魔素と命素が物語っています。

「ノイズ、俺はお前を倒さなきゃいけない。だから、本気でいくぞ」

「さっきのは本気じゃなかったのか?」

「本気だったよ。でも、とっておきを使う勇気がなかった。だけど、出来たばっかりのとっておきを見せてやるよ」

 とっておきですか、フォルテにそんなものがあるなんて初耳です。

 いつの間にそんなものを作ったのでしょうか。

「フォルテ、まさか一人で戦うつもりですか?」

「そんなわけないよ。カノンには、魔法でノイズの隙を広げてくれ」

 魔法でと釘をさされてしまいました。つまり、さっきのような方法は駄目だということですね。

 しかたありません、何とかしてみせましょう。

「お前達、面白いなぁ。これは楽しめそうだ」

 ノイズが、一気に向かって来ると同時に、フォルテに少し突き飛ばされました。

 そして、気付けば、ノイズはもうフォルテの目の前にいます。

 フォルテは、その動きに何とか食らいついているようです。

 それどころか、ノイズと渡り合い始めています。

 鎧を纏った状態よりも、皮膚を表面を鱗状に変化させた方が、動きがいいのは、何の皮肉でしょうか。

 普通では目で追うことが出来ない動きですが、強化魔法を使ったお陰で、何とか認識できています。

 この状態なら、一瞬の隙を広げることが出来るはずです。

 そう思いましたが、強化魔法を使っていなければ、二人の攻撃の余波で吹き飛ばされていた可能性すらあります。というよりも、現状でもちょっとつらいです。

「なぁ、お前のとっておきはまだか!」

「黙ってくらってくれるなら、すぐにでも出せるぞ」

「それじゃあつまらねーだろ」

 二人共笑いながら戦っています。

 それほどまでに楽しいのでしょうか。

 ただ、こうして観察していると、奇妙なことに気付きました。

 フォルテが、ノイズの左下から右肩に向かって長剣を斬り上げようとすると、一瞬ですが、ノイズの反応が遅れています。

 恐らく、全身にある傷の影響か、魔素による影響のどちらかでしょう。

 ただ、それについて正確に知る必要はありません。そうなるという結果さえわかれば動けます。

 私は、右手で短剣を握りしめ、そこにある核石に意識を集中します。

 隙を広げるために、隙をつくわけですが、その際にフォルテの邪魔になってはいけません。ですから、使う魔法は、周囲への被害が少ない魔法です。

 第四属性の水を使った魔法を元に、魔法陣で再現します。

 そう考えていると、フォルテが、ノイズの左下から長剣を振り上げようとしています。私は、それに合わせるように、魔法を発動させようと思いました。

 ただ、土壇場で、一つのことを思い出してしまいました。

 私は、まだノイズに対して魔法を使っていません。それはつまり、ノイズに私の魔法が効くかわからないということです。

 今、核石に練り上げた魔力を込め始めています、それが終われば、魔法陣を描く段階です。このまま行けば、すぐに発動出来ます。けれど、不安が次第に大きくなっていきます。

 魔王へ魔法を使うのであれば、複数人による魔法が必要だと聞いています。

 私は、一人の魔族どころか、混血なので、半人分の力しかないでしょう。女性の魔族には角があるらしいですが、私には角もありません。そんな私の魔法が、効くわけがありません。

 そういえば、何度か魔力の塊が、角のように見えたらしいですね。

 角ですか。

 そういえば、可能性が一つだけありました。

 フィーアと戦った時、角の継承をしたから、魔素が色濃くなっていると言われました。なら、私の魔素は、一人分でなく、一人と半人分です。

 そう思った瞬間、何だか自信が出てきました。

 私は、魔法陣を描き上げると、水の槍へと変化するのを待っている魔力を濃密に、鋭く変化させました。

「『アクアランス』」

 その魔力は、回転する水の槍を生み出しました。

 それをノイズ目掛けて放ちます。

 たった一本の槍ですが、それだけで十分です。

 ノイズは、視界に写る水の槍に反応し、迎撃に移りました。

 どうやら、ノイズはフォルテの攻撃が見えていないようです。今までは、動きから予測して防御していたのでしょう。

 今は、視界に映る私の魔法のせいで、こちらに気を取られているようです。

 水の槍は、ノイズによって打ち砕かれました。けれど、それでいいんです。その魔法は、どんなに工夫をしようと、あくまでも囮です。

 私の魔法によって生じた隙を突き、フォルテの長剣がノイズの体を左下から右肩にかけて斬り上げました。

 フォルテの攻撃により、ノイズが大きく体勢を崩しています。

「見せてやる」

 フォルテが、斬り上げた長剣を肩に担ぐと、黒と白の光りが長剣に巻き付くように登っていきます。

 その姿は、2頭の小さな竜が長剣に巻き付いているようです。

 そして、一歩踏み出すと同時に、二つの力を纏った長剣を振り下ろしました。

「面白い!」

 ノイズは、長剣の軌道上に両腕を犠牲にするかのように置き、防ごうとしています。

 そして、長剣自体は、ノイズの両腕に防がれました。けれど、長剣が纏っていた力が、そのままノイズへと迫り、本来の軌道通りにノイズを体を通り抜けました。

 その瞬間、ノイズの表情に変化が現れました。

 それは、体内で何かが暴れまわっているような表情です。

 そして、力が通った場所に一筋の赤い線が走り、崩れるようにノイズが後ろに倒れました。

「フォルテ」

 私は、一切警戒せずにフォルテへと駆け寄りました。

 すると、力を使い果たしたようで、私の方を向きながらも、力なく笑っています。

「ノイズ、まだ、続けるか?」

 フォルテが、ノイズへと向き直り問いかけています。

 けれど、ノイズからは、魔族の体を構成している魔素と命素が霧散し始めています。

「無理に決まってるだろ。だが、満足だ」

「魔王ノイズ、一つ、聞かせて下さい」

「口が、利けるうちなら、いいぞ」

 そこまでの時間はないようです。なら、手短に聞きましょう。

「何故、マガツヒに抵抗せず、人間を倒そうと考えたんですか? これほどの力があれば、マガツヒと戦うことも出来たはずです」

「聞いてないのか? 俺が魔王であるかぎり、マガツヒのもとへ行くことは出来ない。なら、俺に出来る方法で、息子達に先を見せてやるのは同然だ」

「何で、マガツヒと戦うことを諦めているんですか。ボイスは別の方法を見つけられなかったと聞いていますが、現魔王である貴方なら、何か出来たはずです」

 魔王であり、ボイスの親であるノイズなら、出来る事は多いはずです。

「駄目なんだよ。竜王の間への鍵が継承の間に使われている。だから、継承の間の起動が、マガツヒへの道を開くための、唯一にして絶対の条件だ。だから、魔王は死ぬ必要がある」

 魔王というものは、魔族が作り上げたものだと聞いています。

 つまり、かつての魔族は、魔王という存在を作り出すために、竜王の間への鍵というものを使ったということになります。

 これほどの相手を生み出すための物の材料とは、どれほどのものなのでしょうか。

 ノイズが、力の抜けていく自らの手を見ながら、呟きました。

「答えたんだ、俺にも聞かせろ。フォルテ=グレイス、さっきの技、名前はあるのか?」

「いや、まだない」

「なら、『双竜剣(そうりゅうけん)』そう呼べ」

「ああ、そうするよ」

 私は、それが死ぬ間際に言うべきことなのかと思い、つい睨んでしまいました。

「嬢ちゃん、そう睨むな。俺は、根っからの戦闘狂だ。今更息子達にかける言葉なんざねーよ。それに、もう、想いは十分残した」

 ノイズがそっと目を瞑ると、力の最後の一欠片が消えていくのがわかりました。

 ここまで看取りましたが、これから先に私達の出る幕はありません。

「二人共、良くやってくれた」

 ボイスが、ノインさんに支えられてやって来ました。

 どうやら、この戦いを見ていたようです。

「言葉を交わさなくてよかったのか?」

「父も言っていただろう。私には必要ない」

 その後に、「ヘルツにはすまないことをした」と、小さく聞こえましたが、その言葉は、私が受け取っていいことではありません。

「これから、マガツヒのもとへ向かうんですか?」

「ああ、そのための準備は出来ている。とはいえ、竜王の間への道を創る必要があるから、すぐには無理だがな」

「お二人共、今日はゆっくり休んで下さい。帰りは、部下に送らせましょう」

 私達は、ブラッキーに乗って帰るという方法もあるので、帰りの安全を保証してくれればいいのですが、お言葉には甘えましょう。

「出来れば、ベットは二つがいいな。カノンが恥ずかしがるから」

 この人は何を言うんでしょうか。

 別々のベットがあることに異論はありませんが、今言うべきことでしょうか。

「それを希望されるのなら」

 ノインさんの許可が出ました。

 ちょっと残念な気もしますが、異論はありません。

 

 

 

 

 戦いの後、最初に貸してもらった部屋に再び通されました。ただ、ベットが増えています。

「よかったな」

「ええ、そうですね」

 何故だか少し残念です。

「そういえば、ノイズの攻撃をまともに受けていたけど、大丈夫か?」

「杖が、短くならなくなってしまいましたが、私は大丈夫です。よくある怪我の範囲です」

 自分で言ってて驚いています。無防備な状態で受けたにも関わらず、この程度の傷ですんでいるのですから。もしかしたら、ノイズが本気を出せていなかったという可能性もあります。ただ、今はもうそれを確かめることは出来ません。

 ただ、そう言いながら杖を見せていると、手元が狂ったのか落としてしまいました。ただでさえヒビが入ってボロボロになっているのに、余計な衝撃を加えて壊れないか心配です。

 次の日、ボイスは慌ただしく準備をしているようで、ノインさんにしか会えませんでした。

 私達はブラッキーに乗って帰るので、帰りの安全を保証してもらいました。

 帰り際に、ノインさんにこれからのことを詳しく聞こうとしたのですが、何も教えてもらえませんでした。

 そして、今私達はブラッキーの背中に乗り、魔族の国の上空を、王国へ向けて飛んでいます。

「フォルテ、そろそろ聞いていいですか?」

「どうしたんだ?」

「あの鱗のことです」

「まだ気にしてたのか」

「当たり前です。あの鱗の色は、私の魔法も関わっているはずです。それなのに、気にするなっていう方が、無理です」

 フォルテは、何か考えこんでいるようです。

 そして、おもむろに口を開きました。

「カノン……、カノンは、何て言って欲しんだ? カノンのせいでこうなったって責め立てて欲しいのか? 俺が気にしてないのをわかっていても、そう言ってもらえれば、楽になれるもんな」

 私は、何も言い返せません。

 確かに、心のどこかでは、責められ、恨まれることで、楽になりたいと思っているからです。そして、それをフォルテに気付かれています。

「そ、それは……」

「カノン、信じてくれ。俺は、カノンのことを恨んでないし、これからも恨むつもりはない。だから、ずっと側にいてくれ」

 私は、胸が高鳴るのがわかりました。

「その言葉、本気にしていいんですか?」

「本気にしてくれるなら」

 私は、ただ嬉しくて、フォルテに抱きつく力を強くしてしまいました。

「ええ、もちろんです」

 私はきっと、とてもだらしない顔をしているはずです。

 何故なら、嬉しさで表情が緩みきっているからです。

 

 

 

 

 王国への帰り道、氷の海の上でブラッキーに乗っていると、私は寒さのせいで冷静になってしまい、どうしても気になることが出来てしまいました。

「メゾは、どうなるんですか?」

 私は、その言葉を口に出しながらも、聞こえなければいい。そう思っていました。

「ちゃんと伝えるよ。そもそも、俺が妙な正義感でメゾと婚約をしなければ、今頃はちゃんとした相手がいたはずだから」

 私は、その答えを聞いた時、嫌な感じがしました。

「フォルテ、何でメゾの気持ちに気付かない振りをしているんですか?」

「いや、俺は……」

 やはりそうです。

 今まで気にしないようにしていましたが、フォルテは、メゾの想いを知りながらも、はぐらかしていたようです。

「私に言いましたよね、信じてくれって。なのに、メゾの言葉は信じてあげないんですか?」

 フォルテの表情は見えませんが、図星をつかれて困っているのがわかります。

 それにしても、私は何故、黙っていればいいことを口にしているのでしょうか。

 恐らく、気付かなければ気にしなかったはずです。けれど、気付いてしまいました。だからこそ、メゾとは対等でいたいという思いから、この疑問を口にしたのだと思います。

「私にだってわかるんですから、フォルテにわからないはずありませんよね」

「……わかってるよ。それに、メゾのことも――」

「待って下さい。それは、私が聞いていことじゃありません。メゾに、直接伝えてあげて下さい」

 自分で聞いたことです。けれど、ここから先を聞くのが怖いんです。

 そのせいで、この話を一方的に打ち切ってしまいました。

「ごめんなさい」

 私は、そうつぶやくと、ただうつむくことしか出来ませんでした。

 

 

 

 

 私達は、王国の首都であるシンフォニアへ戻ってきました。

 ブラッキーに乗ってきたので、魔族の国へ行くときよりも、早く移動することが出来ました。

 そして、旅の報告をするために、グレイス邸へ向かっています。

 ただ、ブラッキーはとても目立つので、先に戻っているようです。

「なぁ、カノン、後でメゾと話そうと思うんだ。その時、一緒にいてくれるか?」

「ダメです。まずは、二人で話して下さい」

 二人でどんな話をするのか、とても気になります。けれど、私にはその話を直接聞く勇気がありません。

 そして、グレイス邸の門をくぐり、玄関に到着すると、ブラッキーが先に行っていたということもあり、使用人の方によるお出迎えがあり、そのままデュオさんの書斎に案内されました。

「二人共、無事で何よりだ」

 入って早々、デュオさんから労いの言葉を貰いました。

 ただ、デュオさんの机の上には、書類が山積みです。

「ただいま、兄貴」

「ただいま戻りました」

「さっそくですまないが、報告を頼めるか?」

 やはりそうなりますか。ですが、元々そのつもりでしたから、問題はありません。

「報告って言っても、九近衛の中で、アイン・ドライ・フィーアを倒したってことと、ヘルツと一緒にいたフュンフが敵じゃないってことくらいか?」

「魔王ノイズを倒したので、後は手はず通り、ヘルツを継承の間に入れて、ボイス率いるマガツヒ討伐軍が、向かうってことも付け足した方がいいと思います」

 ほぼ予定通りに終わったはずなので、特筆することもありません。

「そうか、報告通りだな」

 報告通りとは、どういうことでしょうか?

 そんな表情をしていると、私の疑問を察したのか、デュオさんが付け加えました。

「九近衛のフュンフを名乗る魔族が、魔王が倒された後に、連絡に来たんだ。これからマガツヒ討伐に移るため、国の守りが薄くなるが、手を出さないで欲しいと。まったく、今回に関して言えば、先に手を出したのは魔族だというのに」

 少し苛立ちが見えます。けれど、その内容は、魔族に対しての苛立ちではないようで、王国内への言い訳を考えるのに苦心しているからのようです。

「デュオさん、魔王を倒したのですから、やりようはあるはずです。それに、マガツヒの討伐は、私達にとっても、いいことのはずですから」

「それはわかっているが、どうも目先の利益に囚われる者が多くて困る。まぁ、二人共、ご苦労だった。長旅で疲れたろうから、今日はゆっくり休んでくれ」

 私達は、それぞれの部屋で休むことになりました。

 フォルテと別れ、私のという扱いになっている部屋に着くと、そのままベットに倒れこむようにして眠ってしまいました。

 

 

 

 

 しばらくして、誰かが扉を叩く音で目が覚めました。

「ふぁ~い、誰、ですか?」

 寝ぼけ眼をこすりながら扉を開けると、そこには私のよく知る人がいました。

「随分と大変でしたのね。せっかく、わたくしが来たというのに、寝ているだなんて」

「メゾ……」

 私は、反射的にメゾの右手を見てしまいました。

 そこには、長い手袋があり、腕全体を隠しているため、義手の繋ぎ目が見えなくなっています。

「まったく、その辛気臭い顔は見せるなといったはずですわ。叩き出しますわよ」

「いや、ここメゾの家じゃないですよ」

「なら、顔を洗いに行きますわよ。その後で、夕食ですわ」

 どうやら、夕食の時間になったので呼びに来てくれたようです。

 恐らく、一度会いに来てくれたのに、私が寝ていて気付かなかった可能性があります。

「何度も起こしてくれたようで、ありがとうございます」

「わたくしが好きでしていることですわ」

 この後、食堂の扉が見えるまで、他愛のない話を続けました。

 そして。

「そうそう、フォルテ様から聞きましたわ」

 メゾがそれだけ言うと、食堂の扉を開けて、さっさと中に入ってしまいました。

 その一言のせいで、私は心が乱れてしまい、夕食を楽しめませんでした。

 確かに二人で話すよう言いましたが、一体どんな話をしたのか、気が気ではありません。

 さらに、悪いことは続くようで、フォルテは今後の式典の為に連れて行かれ、メゾはすぐに帰ってしまったので、私はモヤモヤした物を抱えたまま過ごすことになりました。




おはようございます。

個人的には世界の半分をやろうの件も好きです。
ですが、あれは世界征服を企む魔王の台詞なので、使えませんでした。
そして、今回でとうとう2章が終わります。
次の回を2章にするか3章にするか迷ったのですが、3章成分の方が多かったので、次は3章です。

それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございました。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。
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