魔法使いと勇者と竜の国   作:enz

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命素の杖

 私は、フォルテと共に帝国へ向かうための準備をしていると、メゾがやって来ました。

「お二人共、お見送りにきましたわ」

 どうやら、メゾ一人のようです。

「ありがとう、まぁすぐに帰ってくるけどな」

「いいんですわ。そのかわり、今度は一緒に乗せて下さいまし」

「ああ、いいぞ」

 私は、出発の準備をしながら、その様子を見ていました。

 少しは手伝って欲しいですが、今はそっとしておきましょう。

 それにしても、この騎乗用の鞍……騎竜用ですね。かなり大きく、重いです。

 ブラッキーも今なら三人で乗っても、余裕そうですね。

 小さい頃は可愛かったですが、大きくなると、ちょうどいい日陰が出来て、よりかかりやすいです。

「カノン、待たせちゃったか?」

「いえ、大丈夫ですよ」

「随分と気持ちよさそうですわね」

「メゾも座りますか?」

「今はやめておきますわ」

「そうですか。それで、もう出発出来ますよね」

 準備は終わっていますが、一応フォルテに確認します。

「ああ、準備は出来てる。それじゃあ行ってくるな」

 私達は、メゾに簡単な挨拶をしてブラッキーに乗りました。ただ、短くできなくなった杖が、少し邪魔です。

 見送りがメゾだけというのも寂しいですが、他の人達は忙しいようですし、命素の杖という物を作ったら、すぐに戻ってくるので、しかたのないことです。

 しばらく空を飛んでいると、フォルテの声が聞こえてきました。

「なぁカノン、北にある村に寄らなくていいのか?」

「いいんですよ。ゆっくりするなら、安全になってからのほうがいいですし」

 そもそも、故郷だと言われても、実感がないので、行こうという考え自体がありません。

「そうか」

 フォルテが小さく呟いてから、私達は無言で過ごしました。

 気が付けば、国境の山を越えており、帝国に入っていました。

「フォルテ、村か街が見えたら、一度降りませんか? 結構長時間飛んでいるので、疲れてるかもしれませんよ」

「ああ、そうだな。泊まれる場所を探そうか」

 今回は招かれているとはいえ、飛竜がやってくると、驚かせる可能性があるので、フォルテはブラッキーを隠せる場所を探しているようです。

 そして、ちょうどいい大きさの森が見つかり、近くには街がありました。

 私達は、そこへ降りると、街に歩いて向かいます。

「それじゃあブラッキー、隠れてるんだぞ」

 ブラッキーは首を立てに振っています。大きくなって可愛さが薄れてしまいましたが、頼りになる竜という印象が強くなっています。

 近くの街へ向かうと、かなり賑わっていました。

 恐らくは、流通なので必要な街なのでしょう。

 泊まるための宿を探していますが、この街の宿は少し高めのようです。

「二人共、宿は決まったのか?」

 私達は突然聞こえた声に警戒しながら振り返ると、そこには灰色の髪を後ろに流した男性がいました。ただ、どこかで見た記憶があります。

 ですが、誰でしたっけ。

 私の反応を見て、フォルテが口を開きました。

「ディープ=ベースか」

 そうでした。帝都では戦いましたし、王都でも会いました。ですが、何故忘れていたのでしょうか。

「フォルテ=グレイスは覚えていてくれたようだな。フィーネには忘れられているようだが」

「いえ、忘れていたのではなく、思い出せなかっただけです」

 何とか誤魔化すしかありません。

「同じことだと思うぞ」

 駄目でした。

 それにしても、周りが騒がしいです。

 まぁ、ディープさんがいるのですから、しかたないことですね。

「それで、俺達に何かようか?」

「いやなに、エコーの部下から連絡を貰ってな。ちょっと挨拶に来ただけだ」

「そうなのか」

「そうなんだが、フィーネの髪は、かなり伸びてきているな。これならアンプにチクチク言われることもないだろう」

 要するに、私の髪のことでアンプさんに何か言われ続けていて、伸びてきてるから、もう大丈夫という反論をするためにわざわざ来たわけですか。

 帝国の4将とは、暇なのでしょうか。

「そうそう、お前達のために、宿を用意した。着いて来い」

 ディープさんは、それだけ言うと先に歩き始めました。

 この街の土地勘がないのでありがたいことです。

「着いて行きましょうか」

「そうだな」

 この街の中でも少し高めの宿ですが、ディープさんが宿代を持ってくれたので、助かりました。

 私達を案内するといつの間にかいなくなっていたので、今度直接会った時にお礼を言うことにします。

 

 

 

 

 そして、次の日、3日かかると思っていましたが、日が落ちる頃、帝都らしきものが見えてきました。

「あれ、何でしょうか……」

 帝都にある城から、大きな砲門がつきだしています。

 向いている方向は、魔族の国がある方です。

「わからないけど、前に言ってた何とか砲ってやつかな」

 最初に女帝に謁見した時に、そんなものがあると言っていました。

 つまり、それが完成したということですね。

 王国へ向けられる前に同盟を結べてよかったです。

 帝都について、ブラッキーを連れたまま門番の元へ向かうと、かなり警戒されましたが、エコーさんから預かった手紙を渡すと、怪しみながらも、少し待つように言われました。

「カノンさん、フォルテさん、お待たせしました」

 声のする方を向くと、ゆったりとした一本の三つ編みの女性が現れました。

「デノンさん、お久しぶりです」

「久しぶりだな」

「はい、それにしてもブラッキーは大きいですね。一応ブラッキー用に場所は確保してあるので、安心して下さい」

 大きな砲門について聞きたいですが、教えてくれるとも限らないので、後でにしましょう。

 私達はデノンさんに案内され、大きな倉庫に連れて行かれました。

 そこには、布団のような物が大量に敷かれています。

「とりあえず、寒くないようにしておきましたので、ブラッキーはここで休ませて下さい」

「ああ、ありがとう」

 何とも手厚い待遇に、私達は唖然としてしまいました。

 確かに、この倉庫の床は冷たいですが、あの布団の山なら、暖かそうです。

「それでは、お二人は私の家に案内しますね。今日は日も落ちるので、明日、竜の叡智に案内します」

「お願いします。でも、女帝に挨拶をしなくていいんですか?」

「カノンさんならそう言うと思ってました。えっと、女帝シンセからの伝言ですが、そんな余計なことをしている暇があれば、さっさと杖を作れ。だそうです」

 私もフォルテも絶句しました。

 流石女帝シンセと言えば、納得できますが、ここまで社交辞令などを無視して合理的に動くという姿勢には、驚きを感じます。

「それでは、全部終わったら、改めて挨拶に来ますね」

「はい、そう伝えておきます」

 それにしても、竜の叡智、明日そこへ向かうわけですが、いざとなると緊張します。

 

 

 

 

 次の日、私とフォルテは、デノンさんに連れられ、城の地下へと向かっています。

 前もって詳しい話を聞こうと思ったのですが、「後で」と言われ、何も教えてもらえませんでした。

 そして、古代遺跡で見たのと同じような扉をいくつも開けて進むと、行き止まりに大きな部屋がありました。

 そこには、命素の杖に使う材料が、大量に保管されています。

「材料をこんなに集めるのに、どれだけかかったんですか?」

「んー、それは、秘密です」

 横を見ると、フォルテも苦笑しています。

 王国でもこれだけ集めるのは大変だということでしょうか。

「それでは、これから竜の叡智を見せることになります。ただ、お二人には一つの条件を飲んでもらう必要があります。別に、難しいことではありません。竜の叡智に関することの一切を公言しないでください」

 竜の叡智は帝国の機密ですから、当然のことですね。

 王国の竜骸の炎と違い、公開していませんから。

「わかりました」

「わかった」

 私達の返事を聞くと、デノンさんが何か赤い突起物を押し込んでいます。

 その瞬間、扉の反対側にある壁が、大きな音を立てて左右に分かれ始めました。

 どうやら、壁でなく、壁のように見える扉だったようです。

 壁のような扉が完全に開くと、次の部屋は、正面の壁に向かって一本の道があり、その両側に張られている水は、底が見えません。

 そして、正面の壁には、ベップウの古代遺跡で見た黒い硝子が壁に付いています。

「こちらへ来て下さい」

 デノンさんが先に進み、一本道の中、一箇所だけ床が円状に広くなっており、そこにある四角い箱の前で立ち止まりました。

 竜の叡智というくらいですから、竜の形を模した何かがあると思っていたのですが、それらしき物が見当たりません。

「あの、竜の叡智ってどこにあるんですか?」

 デノンさんは、思った通りという顔をしています。

「この水が、竜の叡智です」

 意味がわかりません。

 どう見ても、ただの水です。命素や魔素を含んでいる様子がないので、やはりただの水です。

「この水は、古代の情報を記録するための媒体であり、制御するためのものでもあるらしいんですよ。それで、この操作盤とあの黒い硝子の画面を使って情報を引き出すんです」

 王国にある竜骸の炎と違って、古代技術の産物のような気がします。けれど、これだけの設備ですから、やはりアマツが関わっているのでしょう。

「それで、どうやって作るんだ?」

 そうでした。今は、竜の叡智について考える場合ではありません。

「ちょっと待って下さい。すぐに準備するので」

 デノンさんは、そう言いながら操作盤をいじっています。

 それに反応するように、画面に文字が現れています。ただ、古代遺跡と違い、こちらの文字は読めます。

 古代遺跡で見た文字は、古代の文字だったのでしょう。

 竜の叡智の文字は、今の文字になっているようです。

 そして、命素の杖という文字が出てきました。その下に、材料が表記されています。

 前もって聞いていた材料と同じです。

「ちなみに、前もって調べられたことは、ここまでです。ここからは、カノンさん、貴女の刻印が必要なんです」

「この杖を使うことになる私がいないと、作り方がわからないってことでしたね。それで、どうすればいいんですか?」

「この操作盤に手を乗せて、練り上げた魔力を流し込んで下さい。それで、鍵が外れるそうです」

 私は、デノンさんの指示に従い、操作盤に右手を乗せ、魔力を練り、流し込みます。

 その結果、画面に変化が生じました。ただ、変化が激しく、読み取るのは一苦労です。

 その上、理解出来たことは、ほんの少しだけです。

 

 フィーネ・グリード・システム……認識

 

 その文字が、深く印象に残りました。

 画面の変化が止まると、私達の立っている円形の場所に、魔法陣が現れました。

「ここに材料を置けばいいんですね。カノンさんは、そのままの手を乗せておいて下さい。フォルテさん、お手伝いをお願いします」

「ああ、あれを持ってくればいいんだな」

「ええ、でも、必要量からして、集めすぎたみたいですね」

 それだけを言い残し、デノンさんはフォルテと前の部屋に置いてある材料を取りに行きました。

 今は魔力を流し続ける必要はありませんが、どうやらここを動けないようです。

 この魔方陣の意味はわかりませんが、操作盤のある中央に大きな円が一つ、外側の円周上に、等間隔に三つの小さな円が描かれています。そこには、それぞれの素材の名前が書いてあるので、そこに鉱石を置くのでしょう。

 それにしても、デノンさんはそれを一瞬で読み取ったわけですか。

 流石は、竜の叡智解読……何でしたっけ。まぁ、竜の叡智の担当者だけのことはあります。

 そんなことを考えていると、それぞれの配置が終わったようです。

「さて、次はどうなるんでしょうね」

 デノンさんが楽しそうです。

 しばらくして、画面に変化が現れました。

 次に、操作盤に手を乗せている私から、命素を無理やり吸い上げています。

 立っているのが少しつらいですが、何とか気付かれていないようです。

 三種類の鉱石が私の命素を取り込み、変化し始めました。

 液体のようになった鉱石が魔法陣の線をなぞるように広がり、魔法陣を描きました。

 三種類の鉱石と私の命素、後使っていない材料は、私の血と、フォルテの命素です。

 そして、また画面に変化が生じ、それと同時に円周上の円が一つになりました。

「フォルテさん、そこの円に入って、竜痕の力を纏って下さい」

 フォルテが指示に従い、漆黒の竜痕の力を纏いました。

 私が強化魔法を使っていないので、いつもの鱗の鎧は出ていません。

 内心ではほっとしています。

 フォルテの様子に変化が生じました。

 漆黒の竜痕の力が、魔法陣に吸い込まれています。

 ここまで来て、私は一つのことに気が付きました。

 周囲にある水が、白と黒に変化しながら光り輝いています。

 恐らくですが、竜の叡智であるあの水も、核石を作るのに必要なのでしょう。

 またもや画面が切り替わりました。そこには、使用者限定と書かれています。

「思ったより早く終わるんですね。フォルテさん、魔法陣から出て下さい」

 フォルテが魔法陣から出ると、すぐに変化が始まりました。

 鉱石で出来た魔法陣が浮かび上がり、小さくなって私の目の前に移動しました。

「ここに血を入れればいいんですね。右手を離しても大丈夫ですかね?」

「ダメみたいですね。お手伝いしましょうか?」

「いえ、やってみます」

 私は、腰につけている短剣を左手で少し抜き、刃に親指を押し付けました。

 ちょっと痛いですが、これくらいは我慢です。

 そのまま目の前の魔法陣に垂らすと、魔法陣が球状に変化すると同時に、大量の命素を吸い上げられました。

 少しふらついてしまいましたが、辛うじてその場に踏みとどまります。

「大丈夫ですから。急激に命素を吸われて驚いただけです」

 後ろでフォルテが動こうとする気配がありましたが、今フォルテが来て、この作業が失敗しないとも限らないので、我慢してもらいます。

 最後に、赤く光ると、一瞬で白く変化し、核石が操作盤の上に移動しました。

 画面にも、成功と書かれています。

「これが、命素の杖ですか……」

「杖っていうか、核石だよな」

「核石ですね」

 二人共同じことを思ったようです。

 操作盤から手を離し、核石を手に取りましたが、少し探ってみるだけで、他の核石と違うことがわかりました。

「カノン、とりあえず、止血はしとけ」

 フォルテがそういうと、私の左手を手に取り、簡単な処置をしてくれました。

 そんなに深くは切っていないのですが、心配してくれるのは嬉しい事です。

「ありがとうございます」

「うんうん、いい空気ですね。それで、杖の方はどうします? そのままでは使いづらいでしょうし、壊れかけてる杖を直して埋め込みますか?」

「この杖、直せるんですか?」

 この杖は気に入っているので、直せるのであれば、直して欲しいです。

「市場に出回っている物で、直せないものはありませんよ。任せて下さい」

「あー、えーと、その、杖のことだけど……」

 フォルテが何か言いたそうです。ただ、少し顔を赤くして、中々言い出しません。

「どうしました? あ、こっちの短剣に埋め込んだほうがいいですか?」

 この短剣はフォルテに貰ったものですし、今は魔法陣の魔法を使うための核石を付けているので、少し細工しなおせば、この核石も付けられるはずです。

「いや、そうじゃなくて、魔族の国から戻って来てから、俺の方で用意してるんだ。後は、核石を付けるだけだから、すぐに使えるはずだ」

「フォルテが私にですか?」

「ああ、その杖も壊れてるし。でも、外見は俺の方で選んだから、気に入ってくれるかはわからないけど」

「えっと、その、ありがとうございます」

 嬉しいんですが、何だか照れくさいです。

「フォルテさん、女の子に贈り物をするなら、もっと雰囲気を考えた方がいいですよ。それに、魔族の国から戻って来てから、それなりに経ってますけど、何で話してないんですか」

 デノンさんが少しご立腹です。

 何故でしょうか。

「いや、特注してたから、時間がかかったのと、ゴタゴタしてて、話せなかったし、命素の杖の話になったから、使ってもらえない気がして……」

「フォルテさん、言い訳せずに、ちゃんと謝って気持ちを見せて下さい」

 そういえば、フォルテとは会えませんでしたし、命素の杖と言われれば、核石だけとは思いませんね。

「カノン、ごめん。それで――」

「フォルテさん、ここじゃダメです。雰囲気を考えた方がいいと言ったばかりですよ」

 フォルテが項垂れています。

 このままだと可哀想なので、そろそろ割り込みましょう。というか、私が当事者のはずなのに、口を挟むことが出来ませんでした。

「えっと、デノンさんも落ち着いて下さい。フォルテはしかたありませんから。それに、フォルテが用意してくれたものなら、気に入らないはずありませんよ」

 デノンさんは渋々ならが引いてくれました。

 そして、フォルテは何だか嬉しそうです。

「そっか、じゃあ王国に戻ったらすぐに渡すよ」

「はい、楽しみにしてます」

「それでは、お二人共、ここのことは、くれぐれも内密にお願いしますね。それと、今日も泊まっていって下さいね。今からなら、国境付近まで行けるとおもいますけど、二人共消耗してるはずですから、大事を取るべきです」

「カノン、そうしようか」

「そうですね」

 私達が返事をすると、デノンさんは元きた道を歩き始め、フォルテは私の方へ手を伸ばしています。

 私はフォルテに向かいながら核石を確認し、フォルテの腕を掴むように手を回し、体を預けるようにしています。

 フォルテの顔も、私と同じように少し赤くなっています。

 この様子であれば、私の消耗具合は、気付いていませんね。

 

 

 

 

 私達がデノンさんの家に戻ると、まだ日が出ていたので、フォルテが観光に行こうと言い出しましたが、デノンさんにより禁止されてしまいました。

 フォルテも消耗しているはずなのに元気なのは、鍛え方の違いでしょうか。

 まぁ、せっかくなので、ここでゆっくりするのもいいでしょう。

「デノンさん、一つ気になることがあるんですが」

「どうしました?」

「城の方に見える、大きな砲門は何ですか?」

 デノンさんは、城の方を見ると、納得したような顔をしています。

「圧縮魔素砲、レクイエムです」

「それって、最初に来た時に古代遺跡から回収した資料を元にしたってやつか?」

「ええ、そうですよ。本来であれば、あれで攻めてくる魔族を薙ぎ払った後に、王国に降伏を迫る予定でした。まぁ、お二人のお陰で、無駄になりましたけど」

 私達は、たた顔を引き攣らせることしか出来ませんでした。

「気軽に聞いてしまいましたけど、簡単に話してよかったんですか?」

「お二人なら問題ありませんよ」

「なら聞きますけど、あれってどんな物なんですか?」

 凄い物だとは思いますが、少し興味があります。

 何せ、古代の遺産といってもいいものですから。

「えっと、お二人はホシフリと呼ばれる魔族の魔法をご存知ですか?」

「ホシフリですか?」

 私もフォルテも何のことかわかりません。星が降ってくるのでしょうか。

「正式名称はわかりませんが、燃える巨大な岩を降らせる魔法です。あの魔法に対抗するために作り上げたもので、周囲の魔素を集めて、撃ち出すんです。収束させたり、拡散させたり出来るので、凄いんですよ」

 ホシフリとは、北の村で魔族が使った魔法のことでしょう。

 あの巨大な岩を撃ち抜けるものだとすれば、相当な威力のはずです。

「何か、凄いんだな。本当に、よかったよ」

 フォルテが心の底から呟いたようです。ただ、デノンさんが笑っているのが、何とも怖いです。

「ふふ、それでは、夕食を手配するので、一旦失礼ますね」

 デノンさんはそう言うと部屋を出て行きました。

 私達は、取り残されましたがフォルテに確認したいことがあります。

「そういえば、フォルテは魔法を使えるんですか?」

「どうしたんだ、突然」

「王国の優秀な騎士の方は、詠唱を理解している人が多いので、もしかしたら魔法を使えるのかと思いまして」

 フォルテも私の詠唱を聞いて動くことがありますし、竜痕の力も、命素を利用しているはずです。

「簡単な魔法なら、もの凄く頑張れば使えるぞ。実用性は皆無だけど」

 ならばと思い、私は、左手の手袋を渡してみます。

「これは、メゾと一緒に研究している防御魔法用の魔法陣です。私よりも、フォルテが使える方が、いいと思うんですが、試してみませんか?」

「魔法陣か……」

 フォルテが難しそうな顔をしています。

 詠唱を頑張れば出来るという段階なら、確かに難しいと思います。けれど、使えるというのは、一つの利点のはずです。

「難しいですか?」

「難しいというより、使い方の検討が付かないって言ったほうが適切だな」

 そういえばそうですね。

 私は訓練したので使えましたが、突然渡されても使えるはずありませんね。

「それなら、出来る限り挑戦しましょうよ。上手くいかなくても、フォルテ様に作っておけば、いつでも練習出来ますよ」

「そこまでいうなら、試してみるか」

 こうして、この日はフォルテが魔法を使えるように特訓しました。

 ただ、お互いに消耗していたので、何度も試すことは出来ませんでした。

 結果として、成功しませんでしたが、しかたのないことです。

 

 

 

 

 次の日、私達は王都へ向けて出発しました。

 道中では、命素の杖、もとい、核石を使って何度か魔法の試し打ちをしました。

 詠唱を行ったり、魔法陣を描いたりしましたが、この核石はどちらでも使えるようです。

 細かい調整などもしやすいですし、消耗も少ないです。マガツヒを倒すのにどれだけの力が必要かわかりませんが、十分に戦える杖になると思います。

 そして、やはり早く王都へ到着し、グレイス邸へ向かっています。

 それにしても、飛竜での移動を繰り返すと、旅という気がしません。

 今回は旅ではないのでしかたありませが、何か言いようのない物があります。

「このままデュオさんへ報告ですよね」

「ああ、それで、明日にでもアマツのところに行くことになると思う」

「今回はあっという間ですね」

「ああ、でも、場合によってはマガツヒを討伐しに行く前に、特訓するかもしれないな」

「その場合は、この魔法陣の使えるようになって下さいね」

 やはり困った顔をしています。

 けれど、こんな短時間で魔法陣を使えるようになったら、私の立つ瀬がありません。

 しばらくしてグレイス邸に着き、報告するためにデュオさんの書斎を訪れました。

「兄貴、戻って来たぞ」

「随分と早かったな」

 やはりその反応ですか。そもそも考えていた日程よりも早く着きましたし、帰り道も同様です。

「これが、命素の杖、もとい、その核石です。試し打ちもしましたが、凄い性能です」

 作ったのが、杖ではなく、核石だけだったというのも、早く帰ってこれた理由の一つです。

 これを見て、デュオさんもある程度は納得したようです。

「なるほど、恐らくだが、これが竜滅剣の封印を解く鍵になっているのだろう」

「兄貴、この核石、カノンに使ってもらってもいいよな」

「ああ、勿論だ。そもそも、使用者を限定しているはずだから、カノン以外には使えないはずだ」

「ありがとうございます」

「私に礼を言う必要はない。必要なことをしているだけだ。出発前にも言ったが、調べたいことがあるから、この核石は預けてもらう。次に、明日アマツに会いに行ってもらう。そのための準備をしておいてくれ」

「ああ」

「はい」

 前に竜王の間に言ってから、そんなに日数は経っていませんが、竜王の間に行くとわかっていると緊張します。前回はある意味不意打ちでしたから。

 

 

 

 

 その日の夜、私の部屋に来客がありました。

「誰ですか?」

「あー、フォルテだ」

 こんな時間に来るとは珍しいです。てっきり明日に備えてもう寝てると思っていました。

「今開けますね」

 扉を開けると、緊張した面持ちのフォルテが立っていました。

 それに、後ろ手に何かを隠しているようで、不自然です。

「こんな時間にすまない」

「それは構いませんよ。入りますか?」

「いや、ここで、いい。すぐ終わるから」

 私は、黙ってフォルテの言葉を待ちました。

 けれど、フォルテは何かを言おうとしては、すぐに引っ込めています。

 中々決心がつかないようです。

 助け舟を出そうか迷いましたが、フォルテを信じて待つことにします。

 こうして長いようで短い時間が経ちました。

「カノン、杖のことなんだ」

 私は、ただ黙って続きを待ちます。

「俺から新しい杖を贈るって言ったろ。それで、兄貴が調べ終わった核石を付けてもらったんだ」

 帝国で核石を作った後に言っていたことですね。

 案外、デュオさんも杖のことを知っていて核石を預かったのかとも思いましたが、それは考え過ぎですね。

「この杖、受け取ってくれるか?」

 そう言って差し出された杖に、私は見覚えがありました。

「この杖……」

「外見だけだけど、昔カノンが使ってた杖に似せて貰ったんだ。俺の記憶を頼りにしてるから、違う部分もあるとは思うけど。俺にとって、カノンの持つ杖は、これなんだ」

 そう、これは、私が師匠に貰った杖と同じ形です。

 仕込み杖ではないようですが、一度手放した物が外見だけとはいえ、戻ってくるというのは、言葉では表せない嬉しさがあります。

「ありがとう、ございます」

 感極まって涙が出てきました。

 しかたないから諦めていましたが、嬉しくて涙が出てくるのですから、やはり諦めきれていなかったのでしょう。

「喜んでくれて何よりだ。でも、俺の我儘だとは思うけど、笑ってくれないか?」

 私は、嬉し涙を拭いながら、フォルテに笑いかけました。

 そして、私はその杖を手に取りました。

 使い込まれていない新品の杖ですが、始めて杖を持った時のことを思い出します。

 物想いに耽っていると突然抱きしめられました。

「あ、あの、ちょっと、フォルテ」

「少しだけでいいから、このままでいさせてくれ」

 耳元でフォルテの声がします。

「少しだけ、ですよ」

 もの凄く恥ずかしいですが、誰も見ていませんし、せっかくなので、しばらくこのままでいることにしました。

 そして、どのくらいの時間が経ったのでしょうか。

 フォルテが離れていくのを感じ取りました。

「それじゃあ、俺はそろそろ」

「待って下さい。私から、話さないといけないことがあります。聞いてもらえますか?」

 フォルテのお陰で一つの決心が着きました。

 今なら、言える気がします。

「カノンが聞いて欲しいって言うなら、何でも聞くよ」

 私は、左の袖をまくり上げました。

「フィーネの刻印のことです。いつになるかはわかりません。けれど、私がこの刻印に認められると、次のフィーネになる子が、妖精隠しに会うんです。しかも、その子が私と出会えなければ、次の候補者が選ばれます。だから、私は、そう遠くない未来に、旅に出る必要があるんです」

「一つ、いいか? 酷いことを言うけど、俺がカノンをここ縛り付け続けて、次の候補者と出会えなければ、どうなるんだ?」

「限度はわかりませんが、会えないことが続くと、この刻印が私を殺し、魔族の側に転移します。これは、私が刻印に認められなくても同じことです」

 フォルテが息を呑むのがわかりました。

 私には、旅に出るか、死ぬしか無い。それが私の望みでなくても、その選択肢から選ぶしかないということです。

「なら、一緒に探そうか」

「でも、宛のない旅ですよ」

 私の言葉を聞き、フォルテが首を横に振りました。

「次の候補者じゃない。そんな呪いみたいなものをなくす方法だ。だって、その力は、アマツとマガツヒのによって作られた物なんだろ。だったら、アマツが何か知ってるはずだ。俺達は明日アマツに会うんだから、問題ないよ」

 私は、そういうものだと諦めかけていました。

 ただ、フォルテに真実を告げるのを先延ばしにして、自分一人で抱え込んでいました。

 けれど、フォルテはそうならないための方法をすぐに思いつきました。

 確実ではありませんが、何とか出来る可能性のある方法です。

「フォルテでよかったです」

「俺は、カノンと一緒にいたいからそのためなら何でもするよ。方法がなければ、本当に二人で旅に出ればいいんだから。だって、フィーネさんもカノンに会えたんだから、すぐに見つかるさ」

「ありがとうございます」

 そう言うと私からフォルテに抱きつきました。

 フォルテの顔は見えませんが、驚いてる気がします。どうせなら、驚いている顔も見たかったのですが、しかたありませんね。

「それでは、おやすみなさい」

 やはり恥ずかしいのはどうにもならなかったので、フォルテから離れると、すぐに部屋に引込み、扉を閉めてしまいました。

「それじゃあおやすみ」

 少し後悔しましたが、扉の向こうからフォルテの声と、遠ざかる足音が聞こえました。

 今更ですが、明日顔を見れるか不安です。




こんばんは

短いと思っていた3章ですが、思っていたよりは長いようです。
けれど、今までよりは短いはず。
そして、約一名、何のために出てきたのやら……

それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。
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